「あれ? 見ねぇ顔だな」
山本はすぐにツナや獄寺と一緒に居る百代に気付く。
「ああ、山本。この人は今日知り合った川神 百代さん。百代さん、こいつはオレの友達の山本 武」
「どうも川神 百代だ」
百代が山本に向けて挨拶をする。すると獄寺がぶっきらぼうに──
「因みに10代目に喧嘩売って、返り討ちにされた戦闘バカだ」
「むう…」
「ご、獄寺くん!」
獄寺の発言に百代が不満げに口を尖らせ、ツナが冷や汗をかく。
「あ~、よく分からねぇけど。つまりはツナの
山本は気楽に笑い、百代に握手を求める。
「ああ、こちらこそよろしく」
百代が握手に応じ、山本の手を握った瞬間。
「…お前、剣士か」
「ん?」
(
ツナは百代が山本と握手した瞬間、雰囲気が変わった事に気付き内心慌て始める。
◇◇◇
(こいつの手は…)
百代は山本の手を握った瞬間、山本の手には固いマメが有ることに気付いた。それだけではない。上手く隠しているが山本の全身からツナや獄寺からは感じなかったあるものが感じられた。
それは
「…お前、剣士か」
何故か百代は確信していた。この男は剣士であると。それも…
(かなり出来るな…)
握手した瞬間に身体の力を、全身から放たれる武の残り香からこの男の技量を。それぞれ感じとる。
(出来ればすぐにでも戦いたいが…)
ツナとの戦いで気を大分消耗しており、まだ全快していない。よくで四割と言ったところだろう。何より──
百代はチラリとツナを見ると、ツナの顔は、ダメだよと言っているようにこちらを睨んでいる。
百代は手を離すと改めて山本に向き直る。
「それでお前、剣士だろう?」
「え? あ、ああ、確かに剣をやってるぜ。よく気付いたな?」
山本は困惑しながら肯定する。そして百代は自慢気に言った。
「これでも武術をやっている者だからな。それなりに分かるさ。因みに私の流派は川神流なんだが知ってるか?」
「ワリィ、俺武術の流派とか詳しくねぇんだ」
「そ、そうか…(あれ? おかしいな川神流はそれなりに有名だと思ってたんだが)」
山本はバツが悪そうに答える。川神流。百代の祖父・川神 鉄心が師範を勤めており、武を嗜んでる者なら誰しもが耳にする名門中の名門だ。山本は剣こそやっているがそこまで武に広い訳ではなかった。
「それで山本はどんな流派なんだ?」
「ん? 俺? 俺のは時雨蒼燕流ってんだ」
「時雨…蒼燕流? (何処かで聞いたことがあるような…)」
百代は首を傾げ、考えるが思い出せない。
無理もないだろう。川神流は一応は表の世界の武術、つまりは活人拳とも言える武術である。そして、時雨蒼燕流は裏の世界の武術、即ち殺人剣である。同じ武術でも住んでいる世界が違うのだ。表と裏。それぞれで最強を謳う二つの武術、その後継者が出会ったのであった。
◇◇◇
「今日は、本当にいい日だったな」
百代は思わず笑みを浮かべてしまう。百代はツナ達に別れを告げ、川神市に戻っていた。
「ツナに獄寺、山本か…」
まさか今日一日でツナ程の実力者に出会え、ツナに次ぐ実力者かもしれない獄寺や山本に出会えた。もしかしたらあの町には他にも居るかもしれない。そんな時、ふと思った。今の私でツナに勝てるのだろうか、と。
「誇りと覚悟か…」
百代はツナに殴られた箇所に手を添える。瞬間回復のお陰で傷も治り、痛みもない。あの時受けたツナの拳。今まで受けた攻撃のどれよりも
「私じゃ、
私ではまだ勝てない。手も足も出なかった。同年代に自分より強いやつが居る。その事を知れた時、喜んだ。ツナと戦えた時、楽しかった。喜んだ、楽しんだ、嬉しかった。それに嘘はない。でも──
「……ちくしょう…」
悔しい。再確認して込み上げてきた悔しさが心臓を締め付ける。ここまで悔しいと思ったのは生まれて始めてだった。
「待ってろよ、ツナ」
百代は暗くなり始めた大空を見上げ。
「私は必ず、お前に勝つからな!」
決意する。
◇◇◇
「ッ!?」
ツナはぶるりと寒気を感じた。
(な、なんだろう、すごく面倒な事になりそうな…)
ツナの超直感が何かを感じとる。その直感が現実になる事をツナは知るよしもない。
「気のせい……だよね?」
ツナは感じた寒気の事は忘れることにした。するとプルルプルル、と電話が鳴りだした。こんな時間に誰だろうと思いつつツナは電話に手を伸ばした。
「はい、沢田です」
〈やあ、久しぶりだね〉
(ッ!? この声は!?)
電話の人物は予想だにしなかった相手だった。