手帳を拾ってから、しばらく。
「ふぅ・・・」
誰も居なかった教室の扉を閉め息をつく。
僕は学校中を歩き回ってもその手帳の持ち主を今だに見つけられずにいた。
時間にして、約四十分。僕はこの広い、音乃木坂を一人寂しくさ迷いあるいていたというわけだ。
南 ことり。
この手帳の持ち主。
一様、僕のクラスメイトだ。彼女は僕が見る限り、クラスでいつもいる三人組の中では比較的に大人しい印象がある、他の二人が口論している場合はいつも仲裁役に回っていたり、話し方も常にほんわかした感触があると言うべきだろう。見ているだけでこちらも笑顔になり、仕草や言動も、可愛らしく、繊細な。
そう、まるで小鳥のような・・・
って、なんで僕はこんな風に人の評価をしているんだ?
たかが、クラスメイトの1人をここまで細かに説明する必要性がないよな?
いや、寧ろ、話したことも無いクラスメイトの子をここまで説明できる自分も恐いけどさ。
僕は今これから会うであろう子の情報を頭の隅っこから頑張って引っ張りだそうとしているらしい。多分、ここ数年間自分から女子の下にいくという事がなかったため、内心かなり焦っているのかも知れない。
今思ったのだが、手帳を拾った時にクラスに戻り、南さんが何処にいるかをクラスの誰かに聞けば良かったのでは無いだろうか、流石に誰か一人位は行き先ぐらい知っているはずだろう。そうすれば僕はこの四十分という一時間にも満たないが長く感じられる放課後を過ごさなくてもよなかったはずだ。
僕は少し自分が行った行動を悔やみつつ、次の教室のドアを開ける。
家庭科室。
その教室はみんなが知っている通りの場所のはずだ。
服を作る為のミシンや料理を作る為のコンロや流しがセットになっている大きな机が並べて置かれているそんな場所だ。
しかし、ここにも人は居ない。僕は扉を閉め次の教室へ行こうとしたが、視界にふと気になる物が移った。
「ん、布?」
僕がいる扉から左斜め上、つまり一番遠い場所にある机の上にピンク色の布が置かれているのだ。それも服のような形の。
僕は閉めようとした扉を開け、誰も居ない家庭科室を歩く。
確か、音乃木坂にはハンドメイド部という部活が家庭科室を使っていたが、その部活は確か去年辺りに人が居なくなってしまい廃部になったはず。そしてまだ、学校も始まったばかりの為、家庭科の授業は無いはず、だからピンク色の綺麗な布が机においてあるのは不自然なのだ。
それに僕自身、服にちょっと興味がある。
僕はそのピンク色の布の前までたどり着き、手に取り目の前で広げてみる。
やはり服だ、それも女の子用の、まだ未完成なのかもしれないがまだシンプル過ぎる気がする。
「でも、良くできてるな」
ガタ!
ん?、なんか目の前で音がしたような?
僕は服を下ろし前を見るが誰もいない、椅子の音だという事に気づき、僕は周りこんで机の反対側を見る。
そこには・・・
「うぁあ!?、ご、ごめん!」
自分が見た物をしっかりと忘れて、心を落ち着かせて`、言葉を選ぶ。
「ええと、み・・・南 ことり さん?」
そこには何故か下着姿で真っ赤な顔をしていた僕の探している人物がいた。
☆
対面。家庭科室の机に僕と南さんは向かい合うように座っている。お互い終始無言だ。後、南さんは今学生服にしっかりと着替えて貰っている。
「あ、あの、先っきのはあれなんです!、自分を採寸していただけなんです!」
「あ、いいや、こちらこそ、確認も無しに勝手に家庭科室に入ってすいませんでした!」
お互いに謝る、そしてまた無言・・・、どうすりゃいいんだ?
というか・・・
「なんで、自分で採寸なかんかしてたんだ?他人にやって貰った方が速いだろうに」
南さん、少し顔を赤くして俯いて言う。
「それは・・・今、穂乃果ちゃんと海未ちゃんは外にいるし時間も無いからパパっと一人でやっちゃおうって考えたんだけど計り終わっと同時にアナタが来て・・・」
それで、隠れたと、だけど服だけ机の上にあって僕がたまたま見つけてしまったのか・・・なんと言うか。
「ごめん・・・」
そして無言タイム。
耐えきれなくなった僕は椅子から立ち上がって言う。
「取り敢えず、今日見た事は忘れるから、絶対に。誰にも言わない、じゃ!、僕はこれで」
逃げさせて貰うよ!。
僕はそのまま、全速力(普通の歩き方をしながら)で家庭科室を出ようとするが。
「あ、あの!、待ってください!」
南さんから待った‼がかかる。
僕はいったい何を言われるのだろうとビクビクしながら振り替える。もしかしたら、この事を先生に言います宣言をされるのかもしれない、もしかしたら、女子生徒にこの事を流し残り二年間、冷たい目で見られるかもしれない!
どっちにしろ、僕の高校生活はこれで終しまいだ!絶望しかない!、いや、元から絶望的だったけど!。
「あの!、私が作っ衣装は本当に良く出来てましたか?」
あれ?、僕が考えていた、殺伐とした答えではなく、予想の斜め上を行った。僕は少し呆気にとられていたが直ぐに真面目に答えた。
「うん、良く出来てるよ、南さんがかなりの腕前があるのは良くわかる。だけど、衣装ってことはそれなりに動いたりするのだから、背広とか肩の部分は最も改良すべきだよ」
何故僕がここまで断言するかと言うと。僕は少し、いやかなり裁縫が得意だ。先程服に興味があると言ったのもその為、運動とかが苦手になってから僕はこういう家庭的な事で遊ぶようになっていった。小学生の頃は母に教えてもらいながら自分でナプキンや雑巾を作ったりしたし、中学生の頃は編み物なんかもやった、最近は刺繍なんかもやっているが、自分で服なんかもデザインした事はある。
「そう・・・ですか」
南さんは溜め息をつく、今周りを少し見ると放課後はずっと家庭科室で作業をしていたのかもしれない。布の切れ端や糸なんかが机の上にちらほら見える。
かなり苦戦しているのだろう。僕はそんな困った顔をした南さんを見てつい口走ってしまった。
「僕で良かったら、手伝おうか?」
「本当ですか!?」
「あ・・・」
言った後にはもう遅い、困っている人がいたらつい手をさしのばしてしまう、人の役に立ちたい。そうは思っているけど、自分の得意な事は裁縫だけ、だから、つい言ってしまったのだろう。苦手な女の子に対しても。
南さんは、少し嬉しそうな顔をして衣装を手に取って眺める、今後の事に思い更けっているような。そんな感じだ。
「これから、よろしくお願いしますね!」
「う、うん・・・」
僕は今後、二年間。音乃木坂と言う女子だらけの学校で女子に関わらないように生きて行こうとしたのにどうして自分から首を突っ込みに行ったのだろう・・・。
もしかしたら、この頃から既に僕自身、心の何処かで変化を求めていたのかもしれない。
この小鳥のような女の子は僕をどこまで連れていってくれるのだろう。