リルドの冒険譚   作:1103

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ようやく三巻目の話しに入ります。
いろいろと無茶なストーリーだと思いますが、楽しんで貰えると嬉しいです。


第10話、夏季合宿開始

円卓会議が結成されてから、2ヶ月が経過した。

その間アキバの街は、様々な改革がなされ、大災害以降ようやく秩序を取り戻した。

そんな中行われた、新人冒険者の為の夏季合宿の引率として、リルドはザントリーフ地方に来ていた。

 

「海や♪ バカンスや~♪」

 

海岸ではしゃぐ、マリエール。実は彼女がこの合宿をやる切っ掛けを作ったのである。

日々追われる大量の事務作業に嫌気がさしたマリエールは、海に行きたいと駄々をこねた。しかし、円卓会議の重役の一人である彼女が、そんな簡単にバカンスに行ける訳ではなかった。

そこで一計を案じたのが、シロエであった。彼は以前上がっていた、初心者冒険者のサポートをどうするかという会議中、夏季合宿の案を出し、それを通したのである。こうしてマリエールは、引率という名目で堂々とバカンスに行けるようになった。

 

「マリ姐、凄いはしゃいでいるなぁ・・・・・・」

 

少し遠くから、リルドははしゃいでいるマリエールみて呟いた。その隣にいる、同じく引率に来ているにゃん太も頷きながら言う。

 

「彼女にとって、久々の休暇てすからにゃ。はしゃいぐのも無理はないにゃ」

 

「休暇か・・・シロ兄もアカ姉もこっちに来られたら良かったのに」

 

「仕方ないですにゃ、シロエち達には、大事な役割があるからにゃ」

 

この合宿に、シロエとアカツキは来ていない。合宿1ヶ月前、アキバの街に自由都市同盟イースタルの使者来て、円卓会議のメンバーをエターナルアイスの古宮廷に招待する書状を持って来たのである。シロエはこれに参加し、アカツキも付き添いでエターナルアイスの古宮廷に行っているのである。

 

「シロ兄達、大丈夫かな・・・・・・?」

 

「シロエち達なら、きっと大丈夫ですにゃ。そんな心配はせずに、今は思いっきり遊べばいいと思うにゃ」

 

そう言って指をさした方向には、一緒に引率に来ている直継と、この合宿の参加者であるミノリとトウヤが一緒に遊んでいる姿があった。

直継達がリルドの方に気がつくと、手を振りながら呼んだ。

 

「おーいリルドー!」

 

「リルドくーん!」

 

「こっちに来て遊ぼうぜー!」

 

その言葉に、リルドは一瞬にゃん太の方を見る。するとにゃん太は頷く。それを見たリルドは、再度直継達の方を見て、大きな声で返事をした。

 

「ああ! 今行く!」

 

そう言って、リルドは直継達の元に駆け寄った。その姿を見て、にゃん太は満足そうに笑った。

 

―――――――――――

 

一通り遊んだ後、本格的に合宿が始まった。グループをレベル別に訳、それぞれレベル40を目指すのが、今回の合宿の内容である。

ミノリとトウヤは、ラクダンの杜というダンジョンをパーティを組んで挑む内容であった。

ミノリとトウヤもパーティを組み、ダンジョンに挑むのだが、ミノリは何処か緊張していた。

 

「大丈夫かミノリ?」

 

「え? あ、う、うん。大丈夫・・・・・・」

 

そう言うミノリだったが、明らかに大丈夫ではなかった。そんな彼女に、リルドはエールを送った。

 

「そんな緊張すんなって、肩の力を入れすぎると、いざという時が大変だぞ」

 

「う、うん・・・・・・」

 

「ミノリならやれる。もっと自分を信じてやれよ」

 

「自分を・・・うん、そうだよね。ありがとうリルドくん」

 

リルドのその言葉で、ミノリの表情が少し和らいだ。

そうこうしている内に、ミノリのパーティがダンジョンに入る番となった。

 

 

「頑張れよ皆ー!」

 

リルドは激励をしながら、ミノリとトウヤのパーティを見送った。

全てのパーティがダンジョンに入り、残ったのは引率者であるリルド、直継、にゃん太、そして黒剣騎士団からの引率者であるレザリックの4人だけになった。

 

「さて、これで全員出発しましたね。我々はキャンプの準備をしましょうか」

 

初心者達がダンジョンに行っている間、リルド達はここで寝泊まりするキャンプの準備をし始めた。

 

 

ススキノ遠征の経験が生きたのか、難なくテントを張り、瞬く間にキャンプの準備は整った。

 

「よし、こんなもん――――ん?」

 

ふと、リルドはダンジョンの方を見る。するとそこには、一時間前にダンジョンに入った筈のミノリとトウヤのパーティの姿があった。しかも彼等の姿は、ボロボロになっていた。

 

「お、おい、お前ら大丈夫か?」

 

リルドは思わず駆け寄り、大丈夫かと尋ねると、一人の少年がボロボロの姿で、気障な態度を取る。

 

「も、問題ない。今回は不覚を取ったが、次こそは僕の華麗なる魔法で攻略して見せる!」

 

そう高らかに言うのであったが、他の4人はバテバテであった。これは一筋縄ではいかないなと、リルドはそう思うのであった。

 

―――――――――――

 

合宿開始から、数日が経過した。

他のパーティーが順調に進む中、ミノリとトウヤのパーティーは未だにダンジョンの序盤でつまづいていた。

そんな時、二人のパーティーメンバーである妖術師の青年が、直継達に抗議していた。

 

「何だって? メンバーを補充して欲しい?」

 

「そう! 僕達が序盤でつまづいているのは、メンバーが明らかに不足している為だ! 他のキャンプ場からメンバーを呼び寄せて欲しい!」

 

「気持ちは分かるが、こっちの我が儘でメンバーを呼び寄せたりなんか出来ないって。それに初日の時に、“パーティーが少なくとも、僕の華麗なる呪文があれば大丈夫さ”って言ってたのはお前だろ?」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

「それに、人数少なくとも、強いパーティーはいる。人数少ないのを言い訳にしていたら、いつまで経っても強くなれないぞ」

 

「ぐっ・・・・・・」

 

直継に痛い所を突かれ、妖術師の青年は押し黙ってしまう。そんな時、助け船を出したのはにゃん太であった。

 

「別に良いではないですかにゃ、メンバーを補充しても」

 

「おお!」

 

「班長?」

 

にゃん太の予想外の言葉に、青年は歓喜の声を、直継は困惑の声をだした。

 

「確かに、人数少なく無いのは、多少なりとも不利ですにゃ。彼の言うことも一理ありますにゃ」

 

「だけどよぉ、他の所から引っ張るのもどうかと思うぜ」

 

「心配は御無用。他の所から呼ばなくとも、ここに適任者が一人いますにゃ」

 

「え? そんな奴いたか?」

 

「いますにゃ、まだプレイ歴が一年未満の冒険者がね」

 

そう言ってにゃん太。一人の盗剣士を青年に紹介するのであった。

 

―――――――――――

 

「――――そんな訳で、要望として俺がこのパーティーに加わる事になったリルドだ。よろしくな」

 

にゃん太の推薦を受けたリルドは、そう自己紹介をした。自己紹介と言っても、ミノリ、トウヤ、セララなど、顔見知りが多かったので、初顔合わせの妖術師の青年と吟遊詩人の少女との自己紹介となっていた。

 

「私は五十鈴。職業は吟遊詩人だよ」

 

「僕はルンデルハウス=コード。職業は妖術師だ」

 

「五十鈴に、えっと・・・・・・ルンバルハウス?」

 

「ルンデルハウスだ! 名前を間違えないでくれたまえ!」

 

「悪い悪い。どうも長い名前は覚えづらくて・・・・・・」

 

「ふん、仕方ない。僕の事はルディで構わないよ」

 

「ルディか、それなら呼びやすくて覚えやすい。よろしくなルディ」

 

「ああ、よろしく。それじゃあ早速ダンジョンに向かおう」

 

「もう行くのか?」

 

「当たり前だ! 時間は有限なのだから、悠長にしてはいられない!」

 

そう言って、ルディは一人先にダンジョンに向かって歩き出した。その様子を見てリルドは、少し不安を抱きながら、他のメンバーと共にダンジョンに入って行った。

 

 

リルド達がダンジョンに入ったのを見送った後、直継はにゃん太に尋ねた。

 

「なあ班長、どうしてリルドをあのパーティーに入れたんだ? 別に必要は無いと思うんだけどな」

 

そんな直継の疑問に、にゃん太は髭を触りながら答える。

 

「確かに、リルドちの腕はかなりのものですにゃ。そこらの冒険者と比べても、一線を画しているにゃ。しかし、それと同時に不足している部分もまたあるのにゃ」

 

「不足している部分?」

 

「それは連携ですにゃ」

 

にゃん太がそう言い放つと、直継は首を傾げる。

 

「連携に問題がある? 俺達と組んでいた時は問題は無かったと思うんだが?」

 

「それはシロエちが居たからですにゃ。シロエちとリルドちは、半年ほどパーティーを組んでいた聞いていますにゃ。それ故、リルドちはシロエちの考えをある程度予測、或いは指示に従っていた為、これまで連携に問題はなかったにゃ。しかし、これからはそうはいかなくなるにゃ」

 

「そうだよな・・・シロは円卓会議で忙しいだろうし、これまで通りって訳にはいかなくなるよな」

 

「そうですにゃ。だからこそ、彼は学ばなくてはならない。本当のパーティーという物をにゃ」

 

そう言って、リルド達が入って行ったダンジョンの入口を眺めるにゃん太であった。

 

―――――――――――

 

ダンジョンに入ったリルド達。しかし、リルドが加入したにも関わらず、パーティーは苦戦を強いられた。

そしてダンジョンに入って三十分が経過した頃に、リルドはある提案を出した。

 

「一旦ダンジョンを出よう。これ以上やっても、悪戯に消耗するだけだ」

 

それを聞いて、真っ先に反対したのはルディであった。

 

「まだ入ったばかりじゃないか! そんな弱腰じゃあ、いつまで経っても強くはなれない!」

 

「いいや、このまま闇雲に戦っても、近いうちにパーティーが全滅する。回りの仲間の状態をを見てみろよ」

 

そう言って、リルドは他のパーティーメンバーのステータスをルディに見せる。後衛組はHPは半分以上残っているが、MPが殆どなかった。前衛組であるリルドとトウヤは逆に、HPが半分以下となっていた。

 

「この状態で次戦えば、どうなるかはルディだって分かっているだろ?」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

ルディは反論出来なかった。万全の体勢でこうも苦戦を強いられるのだから、こんな消耗した状態では、どうなるかなんて彼でも分かっているからである。

 

「こんなのおかしいだろ・・・僕はレベルが24になって、敵はたかだか17から21、補充メンバーも入れたのに、なんでこんなに苦戦する? なんで僕らはこんなに弱いんだ・・・・・・?」

 

ルディは悔しそうに呟く、それはメンバーの心労を代弁する言葉であった。口にはしないだろうが、ミノリ、トウヤ、五十鈴、セララも同じ気持ちであっただろう。

 

(それはたぶん、私達に原因があるんだろう・・・・・・)

 

ミノリは苦戦する原因を、密かに理解していた。

シロエに師事を受けた彼女は、自分達の力が上手く引き出せていないと、苦戦の原因を直ぐに理解出来た。しかし、原因を理解出来たといっても、どうすれば良いのかはまでは分からず、しかもこのパーティーで一番レベルが低い彼女は、それを言い出せずにいた。

 

(足を引っ張っているのに、そんな事言えない・・・・・・)

 

内気な考えをするミノリだったが、彼女の考えを代弁する言葉がダンジョンに響いた。

 

「そんなの決まっているだろ? 俺達が互いに足を引っ張ってるからだ」

 

そうはっきり言ったのはリルドであった。

 

「それはどういうことかな?」

 

ルディはリルドを睨むように尋ねるが、リルドは臆する事なく言葉を続ける。

 

「言葉通り、互いが互いに足を引っ張り合っているから、本来の実力が出せないんだよ。例えばトウヤ」

 

「お、俺!?」

 

「お前は前に出過ぎ、あまりにも前に出るから、パーティーが分断されやすくなるし、敵を逆に呼び出す要因になっている。直兄の教えを忘れたか?」

 

「忘れてねぇよ! “敵の攻撃を全て惹き付けて、仲間を信じる”だろ?」

 

「ああ、逆に言えば、俺達は敵を倒す必要は無いんだ。ただ、敵を惹き付けていれば、火力の高いルディが倒してくれる。それとルディ!」

 

「ぼ、僕かい!?」

 

「後衛職なのに、前に出過ぎ! 後衛と固まってくれないと、こっちが守りづらいんだ」

 

「だ、だが、勝負は出会い頭! 魔法着弾のロスは無くした方が良いだろ?」

 

「奇襲ならまだしも、いざ戦闘になったらマイナスしかならないし、遠距離から攻撃出来る利点が無くなる。自分で長所を無くしてどうする?」

 

「うぐっ!」

 

「それと、MPをもう少し節約してくれ。あんたがこのパーティー主力なんだから」

 

「ぼ、僕が主力?」

 

「ああ、妖術師の火力はこのパーティーでは重宝なんだ。それがすぐ無くなるから、苦戦を強いられるんじゃないのか?」

 

「た、確かに、言われてみれば・・・・・・」

 

リルドの指摘は的に得ていた。ルディの魔法は確かに強く、パーティーの主戦力になっており、逆に劣勢なるときはいつも、彼が狙われてしまうか、呪文が使えなくなる時である。

 

(凄い・・・言いたいことをあんな遠慮なくはっきり言うなんて・・・・・・)

 

自分の考えをはっきり言うリルドに対して、レベルの低さをを言い訳に、言いたいことを言わない自分は小さいなと、ミノリは感じた。

 

(このままじゃ駄目、困った時は前に出ろ。脚じゃなくて心で!)

 

いつか直継に言われた事を思い出し、ミノリは口を開いた。

 

「あの! ここは一度戻って、もう一度自己紹介しませんか!」

 

ミノリは精一杯の声を上げた。彼女のその言葉に、一同きょとんとした。

 

「ミノリ?」

 

「何を言っているんだミス・ミノリ。自己紹介など既に―――――」

 

「不十分なんです! 皆さんが何が得意で、何が不得意なのか、前に出たいのか、下がりたいのか、皆さんの職業のことだって何一つ分かっていないんです!

私達は、もっと互いの事を知るべきだと思います!」

 

そう強くミノリはそう言った。

彼女がここまで強く発言した事がなかった為、皆は驚きを隠せなかった。

 

「例えばルンデルハウスさんがいつも使うあの呪文の事だって、どういった性能なのか私はよく知りません。まずそういった事を知るべきです。

何が出来て、何が出来ないのかを互いにちゃんと知らないと」

 

「・・・・・・確かに、ミス・ミノリの言う通り、僕らは互いの能力を把握していないようだ」

 

「それじゃあ――――」

 

「君の意見に賛同しよう。僕達はお互いの事をもっと知るべきだ」

 

ルディのその言葉に、ミノリは安堵の笑みを浮かべた。

 

「よしそれじゃあ、一旦休憩してから、出口に戻るって事で良いな?」

 

リルドの言葉に、一同は頷いた。

こうして彼らは、一旦休憩してから、出口に向かった。しかし、その表情は何処か明るく、暗い闇に一筋の光を見いだしたかのようであった。


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