それは突然訪れた。
エルダー・テイル12番目の拡張パック“ノウアスフィア開墾”それが実施されたその瞬間、異変は起きた。
「なっ!?」
リルドは動揺した。部屋にいた筈なのに、いつの間にか外にいた。そして、普段着では無く、ファンタジーに出るような衣服を着ていた。更には尻尾と犬耳のオマケつきである。
「何がどうなって・・・って、シロ兄!?」
目の前にシロエが立っていた。それはあり得ない事である、シロエはあくまでプレイヤーキャラで、実際には存在しない人物である。
「シロ兄なのか・・・・・・?」
「君はリルド・・・だよね?」
御互い確認し合う。どうやら二人とも、自分のプレイヤーキャラになってしまったようである。
「シロ兄! これは一体―どうなっているんだ!? ここは何処なんだ!?」
思わず叫んでしまうリルドに対して、シロエは落ち着くように宥めた。
「落ち着いてリルド。そう叫んだって、状況は変わらない」
「あ、ああ・・・そうだな、悪いシロ兄」
リルドはシロエの言葉で、ようやく落ち着きを取り戻した。
そして二人は辺りを見回し、ある事に気がつく。
「なあシロ兄、ここってもしかして・・・・・・?」
「うん、アキバに似ている・・・いや、アキバだ」
そう言ってシロエの視線の先には、アキバのシンボルである銀葉の大樹がそびえ立っていた。
「マジかよ・・・・・・」
そこでようやく二人は、ここがエルダー・テイルの世界だと理解した。
―――――――――――
アキバの至るところで、プレイヤー達が混乱していた。どうやら彼等もまた、自分達と同じ境遇のようである。
「どうなっているんだよこれ!」
「責任者を出せ!」
怒鳴り声や泣き叫ぶ声、更にはNPCである大地人に当たる者までいた。
リルドはそれらの姿を、他人事には思えなかった。
(シロ兄が居てくれなかったら、俺もああなっていたかも知れない)
この事態に、誰もが恐怖を抱いているのであろう。この混乱はしばらく収まらないと、リルドは思った。
「なあシロ兄、これからどう――――」
「うわぁ!?」
これからの方針を、シロエに尋ねようとしたその時、シロエは思いっきり転んでいた。
「だ、大丈夫かシロ兄?」
「あ、ああ、何とか・・・・・・」
リルドはシロエを助け起こそうとする。
「石でも躓いたのか?」
「違うよ。この体に慣れなくて・・・・・・」
「慣れない?」
「現実の体より、大きめに設定したから。手足の感覚に違和感があるんだよ。リルドはそういうのは無いの?」
「俺は現実と同じ設定にしたから、特に違和感は無いな」
リルドの身長設定は165である。端から見れば、高校生か中学生くらいに見える姿であった。
「そっか、僕は数センチ大きめに設定したから、違和感ありまくりだ」
「数センチでそれなら、十センチ以上の人は大変だな・・・・・・」
そう言ってリルドは、辺りを見回す。よく見ると、おぼつかない動きをする冒険者がちらほら見えた。
(ネカマやネナベの人は災難だよなぁ・・・・・・外見を設定し直せれば――――)
そこでリルドは、シロエが外観再設定ポーションを持っている事を思い出す。
「そうだシロ兄! 外観再設定ポーションを持っていたよな? それを使って再設定すれば、違和感無くなるんじゃないのか?」
リルドの提案に、シロエはしばらく思案し、首を横に振った。
「いや、僕は身長だけだから、慣れればどうって事は無い。それよりも、もっと深刻な人の用にとっておこう」
「そう・・・だな、性別が違うだけで、そうとう苦労しそうだしな。俺だったら、全財産叩いても買うな」
「それは大袈裟過ぎ」
「そんな事は無いと思うぜ。シロ兄だって、キャラの性別が女だったら、真っ先にポーション使っているんじゃないか?」
「それは―――あり得る・・・・・・」
「まあともかく、慣れるまでの辛抱だ。なんなら俺を杖代わりにしてもいいぜ」
「杖なら持っているから、心配無用だよ」
リルドの言葉に、シロエは微笑みながら答えた。
その後もシロエは、何度か転びそうになり、その度にリルドに支えられるのであった。
―――――――――――
それから暫く、少しながら分かった事があった。
まず、この世界はエルダー・テイルのルールが適応されている。メニュー画面を呼び出す事や、各種のアイテムやステータスが確認出来た。ログアウト機能もついていたのだが、反応はなかった。
(やっぱり、そんな簡単に脱出出来ないか・・・・・・)
次にフレンドリストを確認する。シロエに比べて、リルドのフレンドリストは少なく、その殆どがログインしていない状態であった。
(喜んで良いのか微妙だが、こんな事態に巻き込まれていない方が良いよな・・・・・・)
そんな事を思いながらもフレンドリストを再度確認すると、一つだけログインしている名前を見つけた。“アカツキ”という名前である。
「アカ兄!?」
アカツキというのは、凄腕の暗殺者の冒険者である。
基本的にソロなのだが、何度かパーティーを組んだ事があり、とても頼りになる人であると、リルドは覚えていた。
(こんな事態だから、一緒だと心強いんだけど・・・来てくれるか?)
そんな事を考えていると、向こうから念話が来た。
リルドは予想外の事に戸惑うものの、それを受けた。
「も、もしもし、リルドです」
『・・・・・・』
思わず丁寧口調で応えるリルドだが、肝心のアカツキから返答はなかった。
「アカ兄? 聞こえてる?」
『・・・・・・き、聞こえている』
「え!?」
リルドはアカツキの声を初めて聞いて驚いた。彼は基本ボイスチャットを使わず、更には寡黙であった。それ故、彼の声が少女みたいな声に、リルドは驚きを隠せなかった。
『リルド、近くにシロエ殿はいないか?』
呆けていると、アカツキからそんな言葉が出た。リルドはその問いに、頷きながら答えた。
「あ、ああ、一緒にいる」
『是非会いたいのだが、いいだろうか?』
「ちょっと待っててくれ、相談してみる」
『承知した』
一旦念話を切り、シロエの方を見る。どうやら向こうも念話をしているようだった。
「―――――うん、そこで会おう。それじゃあ」
「知り合いと連絡取れた?」
「ああ、これから会う約束をした。そっちは?」
「アカ兄から連絡があった」
「アカツキさんから? って、お前いつの間にアカツキさんとフレンド登録したんだ?」
「努力」
リルドは初めてパーティーを組んだ時から、アカツキに憧憬の念を抱いていた。
それからも、何度かパーティーを組んではフレンド登録を頼み、断られたりしたが、最近ようやくフレンド登録して貰ったのだ。
「頑張った甲斐があったぜ」
「いや、それってストーカーじゃあ・・・・・・」
「男だからセーフだって。それよりも、アカ兄はシロ兄に会いたがっていたぜ」
「僕に?」
「まあこんな事態だし、少しでも情報が欲しいんじゃないか?」
「まだ全然分からない事ばかりなんだけどね・・・・・・」
「それでも情報交換は大事だろ?」
「そうだね。それじゃあ、集合場所を伝えてくれるかいリルド」
「了解!」
リルドは元気よく返事をし、アカツキに集合場所を伝えた。
―――――――――――
集合場所に向かって歩いている最中に、リルドはこれから合う約束をしたシロエの友人について聞いていた。
「シロ兄、これから会う人ってどんな人なんだ?」
「茶会の元メンバーだよ。職業は守護騎士で、直継って言うんだ」
シロエがいう茶会とは、放蕩者の茶会と呼ばれるプレイヤー集団である。
ギルドと勘違いされたりするが、実際はただのプレイヤーの集まりである。しかし、メンバーはいずれも劣らぬ凄腕ばかりで、数多くの超難関大規模戦闘―――レイドを攻略した強者達である。
かく言うシロエも、その元メンバーであって、更に参謀であったのだ。
「腕も良いし、頼りになる奴だ」
「シロ兄がそう言うなら、凄い頼りになるんだろうな」
そんな話をしていると、向こうの方からシロエを呼ぶ声が聞こえて来た。
「おーいシロー!」
「おっ、噂をすればだね」
そう言ってシロエは、騎士風の男に手を振り返す。
「久しぶりだなシロ」
「ああ・・・久しぶり直継」
直継の顔を見たシロエは安堵していた。やはり彼でも、この状況はとても不安だったらしい。
「――――それで、そちらさんは?」
「彼はリルド、半年前からよくパーティーを組んでいるんだ」
「初めましてリルドッス! 職業は盗剣士、レベルは75。シロ兄には良く世話になってるぜ!」
「おっ、元気が良いな! 俺は直継、守護騎士だ。よろしくな!」
「ああ、よろしく直兄!」
リルドと直継は性格的に相性が良く、直ぐ様打ち解けた。
「ところでお前は、どっちのタイプの男だ?」
「・・・・・・へ?」
「いいか、この世には二種類の男がいる。俺のようなオープンスケベか、シロのようにムッツリスケベかだ! そして俺はオパンツが好きだー!」
そう力説する直継であっだが、リルドはドン引きしていた。
「・・・・・・シロ兄、この人大丈夫か?」
「気にしないで、直継はいつもこうだから」
「なるほど、つまり変態か」
「まあ、否定出来ないかな?」
「否定しろよー!」
そんな馬鹿な話が続いたが、気を取り直して現状の話をした。
「―――つまり、お前らも同じ様に、気がついたらアキバにいたって訳か。まるでファンタジー小説だな」
「でも現実だよ。どういう訳か分からないけど、僕達はエルダー・テイルの世界に閉じ込められたんだ」
容赦ないシロエの言葉に、リルドは改めてこの非常識な事態を認識した。
「なあ、これからどうするんだシロ兄?」
「先ずは情報収集だ。何も分からないと、行動の方針が決めれないからね」
「流石は作戦参謀だな。それじゃ早速――――」
「待ってくれ直継、後一人来る予定なんだ」
「だれ?」
「アカツキっていう凄腕の暗殺者だ。何でもシロ兄に用があるって言ってたから、ここで会う予定になってるんだぜ」
「シロに用がある暗殺者か・・・・・・シロ、お前もとうとう年貢の納め時か」
「はあ?」
「色々と恨みを買ってしまって、とうとう凄腕の暗殺者に狙われるとは・・・・・・同情するな」
「何でそうなるんだよ!?」
「何でって、シロ兄は腹黒だから、知らない間に恨みを買いまくったんじゃない?」
「そして遂に、刺客を向けられてしまった・・・・・・憐れなシロの運命は如何に!」
「あのなぁ・・・・・・ふざけるのもいい加減にしろよ!」
「おっ、噂をすれば来たぜシロ兄」
リルドが指した方向に、黒装束の男性が、よろよろと歩いて来た。
「よ、ようやく見つけた・・・・・・」
弱々しい声を発する黒装束の男こそが、件のアカツキであった。
「さ、探したぞシロエ殿」
「な、何かな・・・・・・?」
アカツキの威圧と、先程のリルドと直継の言葉で、シロエは思わず後退りするが、アカツキの次の言葉に驚愕する。
「が、外観再設定ポーションを・・・・・・売って欲しい!」
「え?」
外観再設定ポーションという言葉で、シロエはようやくある事に気づいた。
「もしかしてアカツキさん、女の子・・・・・・?」
控えめに訪ねるシロエの言葉に、アカツキは恥ずかしそうに頷いた。
―――――――――――
それから外観再設定ポーションをアカツキに譲り、彼―――もとい彼女はリアルに近い容姿に再設定したのだ。
「うわぁ・・・・・・結構美少女だったんだなアカ兄―――じゃなくて、アカ姉」
「でも何で男性に?」
「リアルじゃ出来ない事をやるのがゲームだろ? 最も、こんな状況では苦境でしかないがな」
(まあ確かに、男に“アレ”がついているからな)
「ああそっか、“アレ”が―――」
「ふん!」
直継がリルドの心を代弁するような発言をした瞬間、アカツキは容赦なく膝蹴りを食らわせた。
「シロエ殿、このおかしな人を蹴ってしまっていいのだろうか?」
「蹴ってから言うな!」
(・・・・・・この人の前では、絶対にセクハラ発言しないようにしよ)
そう心から誓うリルドであった。
「それにしても助かった。リルドとフレンド登録したお陰で、早くもシロエ殿と出会えた。感謝する」
「あっ、良いよそんな。俺はアカ姉のファンだから、それぐらいどうって事ないって」
「ファンって・・・こら! 大人をからかうものじゃない!」
「別にからかっているつもりは無いんだけど・・・・・・って、どうしたシロ兄? 直兄?」
「え、えっと・・・・・・」
「聞き違いかもしんないけど、今“大人“って言わなかった?」
「ああ言った」
「な、何だってー!?」
直継は声を上げて驚いた。シロエも声を出さなかったが、そうとう驚いている様子であった。
「そんなに驚く事か?」
「いや驚くって、どう見たって小が―――」
「ふん!」
再び直継に蹴りを入れるアカツキ。懲りないなぁと、リルドは内心思うのであった。
「シロエ殿、この失礼な奴に膝蹴りを入れても良いだろうか?」
「だから! 蹴りを入れた後に言うな!」
「ははは・・・・・・」
シロエは乾いた笑いをして、誤魔化すしかなかった。
「おーいてぇ・・・まったく酷い目にあったぜ」
「自業自得だ直兄、見た目で判断するからそうなるんだぜ」
「だってよ、こんなちみっ―――」
「ふん!」
再びアカツキに蹴りを入れられ、倒れる直継。
「シロエ殿、この学習しないバカを蹴っても良いだろうか?」
「だから! 事後報告するな!」
「直兄、もしかしてマゾ?」
「違う! そもそも何でお前は驚かないんだよ!?」
直継の言葉も最もであった。シロエですら驚いたアカツキの年齢に、リルドは一切驚かず、すんなりと受け入れていた。その理由は―――。
「うちの母ちゃんも、アカ姉ぐらいの身長だから」
「あっ、そうですか・・・・・・」
あまりにもシンプルな答えに、直継はそれ以上何も言わなかった。
「さて、バカを相手にしてたら時間が無駄に過ぎてしまったな」
「半分はお前のせいでもあるが」
「むっ」
その言葉を聞いて、直継を睨むアカツキ。流石にこのままだと話が進まないと思ったシロエは、話題を変える事にした。
「ア、アカツキさん、もし良かったら、一緒に行動しない?」
「シロエ殿達と?」
「うん。こんな事態だし、一人よりも一緒にいた方が良いと思って」
「ふむ・・・・・・」
アカツキは少し考え、シロエの提案に答えた。
「シロエ殿には絶体絶命の男性化の危機から救ってくれた恩がある。ここは忍びとして、その恩を返さなければ」
「そんな大袈裟な―――」
「よし決めた。私はシロエ殿の忍びとなろう。それがシロエ殿の―――いや、主君の恩に報いる事だ」
「え? え?」
「良かったなシロ兄、こんな美少女の忍びに仕えてもらえるなんて、男冥利につきるぜ」
「まあ、ちみっこだけどな」
「ちみっこ言うなバカ直継!」
こうしてなんやかんやあったが、シロエ、直継、アカツキ、リルドの四人パーティーが結束したのであった。
―――――――――――
異変から二日目。初日より騒ぎは収まっていたが、殆どの冒険者は絶望にうちひしがれていた。
そして二日でわかった事があった。それはこの体でも腹が減るという事である。
空腹に堪えかねた四人は、NPCである大地人の店で食料アイテムを買い、それを食べる事にした。
「なんだこれ・・・・・・」
「どれもこれも味が同じだ・・・・・・」
「飲み物なんか、全部ただの水じゃないか・・・・・・」
「何なんだこの食いもんはよぉー!?」
直継はあまりにも質素な味に、大声を上げた。リルドは彼の気持ちが痛い程理解できた。見た目は豪華なのに、味はどれも“塩っ気が無い、湿気た煎餅”のような物なんだから、詐欺もいいところである。
「ううっ・・・・・・一体何の罰ゲームだよこれ・・・・・・」
泣き言を言いながら、食べ物擬きを食べるリルド。そんな時、シロエに念話が入る。
「誰からだシロ兄?」
「マリ姐からだ」
その言葉を聞いて、リルドは固まってしまう。何を隠そう彼は、マリ姐もといマリエールが大の苦手だったのである。
―――――――――――
ギルド会館。ここはギルドの設立や解散や入会、脱退、ギルドホールの貸出し、更には銀行として機能を持つ、冒険者にとって欠かせない場所である。
ここからマリエールのギルドである《三日月同盟》のギルドホールに行けるのだが、リルドはここで待つと言った。
「本当にここで待つの?」
「ああ、シロ兄に悪いけどに悪いんだけど、俺あの人とヘンリエッタさん苦手なんだよ」
「そんなに怖い人なのか?」
「ヘンリエッタさんはともかく、マリ姐は怖くない。むしろかなりフレンドリーで親しみやすい。ただ―――」
「ただ?」
「スキンシップ過度なんだ。流石にあれは行き過ぎだと思う。それにヘンリエッタさんは可愛いものに目が無いんだ。何度女物を着させられそうになったか」
リルドの話によると、マリエールは誰かに構わず抱きついて来るのと、ヘンリエッタは可愛いものに目が無く、見た瞬間暴走するという。
見た目が童顔で中性的なリルドは、ヘンリエッタの標的にされ、何度か女装させられた事があった。
「だから今回はパスさせて貰う。悪いなシロ兄」
「まあ仕方ないさ、二人にはそれとなく注意をしておくよ」
「そうして貰えると助かるぜ」
そう言った経緯で、リルドはギルド会館内で待つことにした。
しばらくすると、暇を持て余してリルドに、四人の冒険者がやって来た。
「ねえ、君一人かい?」
「まあ・・・・・・」
素っ気ない返事をするリルドに、その冒険者達が続けて言う。
「なら、うちのギルドに来ないか? こんな事態だ、仲間は多い方が良いだろ?」
(こんな事態に勧誘するなんて、熱心なもんだなぁ)
そう思うリルドであったが、こういう事態だからこそ、一人でも多くの仲間を作るべく、ギルド間で無所属の冒険者の勧誘競争が行われている事を、彼は知らなかった。
「悪いが他当たってくれない? 俺は知り合いを待ってるだけなんで」
「そう言わずに来てくれないか? その知り合いも一緒で良いからさ」
「俺の知り合いは、窮屈なギルドに入らない主義なんだ。だから無理」
「おいお前、こっちが下手に出ていれば、付け上がりやがって」
すると四人の表情が豹変する。あらかさまに敵意を向けて来た。気の弱い者だったら、直ぐ様相手の言いなりになるだろうが、リルドは違った。
「あんたらがしつこいのが悪いんだろ。何度も言うが、ギルドには入らない。わかったら、さっさと他当たりな」
「てめぇ・・・・・・」
四人はリルドを取り囲む。街の中だから、戦闘行為は出来ない筈だが、こう囲まれていたら居心地が悪い。
どうするか考えていると、ちょうどよくシロエ達が戻って来た。
「僕の連れに何か?」
眼鏡をクイッと上げ、睨みを効かせる。
目つきの悪い三白眼に加え、キラリと光る眼鏡。その姿はどこぞのラスボスを思い浮かべた。
「ちっ、おい行こうぜ!」
シロエの睨みが効いたのか、四人の冒険者達はその場を去って行った。
「ふぅ~、助かったぜ。ありがとうシロ兄」
「今のは?」
「ギルドの勧誘。こんな事態でも勧誘するなんて、熱心な物だぜ」
「いや、こんな時こそ仲間を増やそうとしているのだろう」
「どういう事だアカ姉?」
「とりあえずここを出ないか? さっきの騒ぎで注目されてるぜ」
直継の言葉でリルドは、大地人と冒険者達がこっちを見ている事に気づいた。
一同は、ギルド会館を出る事にした。
―――――――――――
リルドはシロエ達から、三日月同盟から得た情報を教えて貰っていた。
一つ目の情報は、今自分達に起こっている現象は、ここアキバだけでは無く、ススキノ、シブヤ、ミナミ、ナカスという日本サーバー五大都市全てに起こっているという事である。
「つまり、日本全土で起きているって事か?」
「下手をしたら、世界全土で起きているかも知れない」
「世界全土・・・・・・」
「そして更に、悪い事がある」
シロエが次に教えたのは、《トランスポート・ゲート》についてである。
トランスポート・ゲートとは、アキバ、ススキノ、シブヤ、ミナミ、ナカスという五大都市を瞬時に行き来が出来る転送装置の事である。シロエの話によると、現在機能していないようである。
「それじゃ、他の都市には行けないのか?」
「行けるには行けるけど、徒歩かフェアリーリングを使うしかないね」
「でもよぉ、公式サイトのタイムテーブルが確認出来なきゃ、何処に跳ばされるか分からないじゃないのか?」
《フェアリーリング》とは、フィールド各地に設置されている転送装置である。
時間によって転送場所が変わるので、公式サイトのタイムテーブルを確認して使うのが普通であるが、今はそれが出来ないのである。
「どっちにしても現実的では無いな」
「それでどうするんだシロ兄?」
「・・・・・・そろそろ、行ってみようと思う」
「行くって何処に?」
「外のフィールドだよ」
その言葉に、リルドは固まった。
「ちょっと待ってくれよシロ兄、外にはモンスターがいるんだぜ?」
「だからこそ行くんだよ。いつまでもアキバにとどまっていては、何もわからないままだ」
「だからって、もし死んだらどうするんだよ!? 大神殿で復活する保証は無いんだぜ!」
ゲームだった時のエルダー・テイルでは、死んだら蘇生魔法を使うか、もしくは大神殿で復活するのだが、この状況でそれが適応するか分からない上に、今のメンバーには回復職がいなかった。リルドはこれらを踏まえて、リスクが高いと思った。しかし――――。
「もちろん強制させるつもりは無い。例え僕一人でも行くつもりだ」
「主君を一人で行かせるつもりは無い。私も同行しよう」
「もちろん、俺も行くぜ」
アカツキ、直継もシロエに賛同する。残ったリルドは少し考えてから口を開く。
「・・・・・・わかった。俺も行く」
「・・・・・・良いのかい?」
「皆が行って、俺だけ行かないのはカッコ悪いだろ? それに、アカ姉、直兄、シロ兄がいるんだ。どんな敵でも大丈夫さ!」
「そうだな。どんな敵でも、私の刀の錆にしてやろう」
「俺はどんな敵でも、お前らを守ってやるよ!」
「まあ安全を期して、低レベルのエリアにするつもりだけどね」
「よーし! そうと決まればやるぜー!」
こうしてリルド達は、モンスターがひしめく街の外へと向かうのであった。
―――――――――――
現在リルド達は、《書庫塔の森》でモンスターと戦っていた。
相手のレベルは30未満。リルドのレベル75で、シロエ、直継、アカツキの三人に至ってはレベル90である。普通なら一瞬で終わる戦闘だったが、リルド達は苦戦を強いられていた。
「敵を見ながらコマンド操作がむずい!」
「こちらもだ、防ぐだけで低一杯だ」
「うわっ!? くそ~、FPSは苦手なのに!」
戦闘をしながらのコマンド操作の難しさ、一人称視点の狭さ等もあって、ゲームだった頃とは違う部分に、四人は苦戦を強いられていた。
「直継! アカツキさん! リルド! 一旦下がって!」
高台から指示を出すシロエ。三人は彼の指示に従い、一先ず下がる事にした。
「まさかこの低レベルのモンスターに苦戦するなんて・・・・・・」
「だな、ゲームとは全然違う」
「主君が言っていた“使えると、使いこなすの隔たり”とは、この事か」
「三人とも。今ナイトメアスフィアで敵を―――うわぁ!?」
突然上がるシロエ悲鳴。彼がいる高台を見てみると、そこには植物系のモンスターがシロエに襲い掛かっていた。
「主君!」
「いつの間に!?」
「早く助け―――」
シロエの方に気を取られている間に、リルド達の近くにいたモンスター達が襲って来た。
「くそっ! これじゃ助けにいく余裕が無いぜ!」
「スキルさえ使えれば――――って、アカツキは?」
「え?」
戦闘に夢中になっていて気づかなかったが、一緒にいた筈のアカツキの姿はなかった。すると高台から、再びシロエの声が響く。
「直継! リルド!」
「シロ兄! 無事だったんだな!」
「ん? アカツキの奴、いつの間にあそこに?」
どうやらアカツキがシロエを助けていたようである。流石は忍を言うだけの事はあると感心するなか、シロエ出した指示は予想外のものだった。
「二人とも! コマンドに頼らず、体の感覚でスキルを出すんだ!」
「へ? 体の感覚?」
「なんだよそれ?」
「いいから!」
「・・・・・・わかった!」
「了解!」
シロエの指示はいまいち理解出来なかったが、取り合えず彼の言う通りにする二人であった。
「シールドバニッシュ!」
「エンドオブアクト!」
シロエの言う通りに、体の感覚に従ってスキルを出す二人。スキルは見事に発動し、モンスターを一掃する。
「すげぇ!」
「これなら行ける!」
その後、コマンド操作をせずともスキルを出せる方法を見つけた四人は、先程の苦戦が嘘のように圧勝した。
こうしてこの世界での初めての戦闘は、無事幕を下ろした。