エルダー・テイルとよく似た異世界に飛ばされて一週間。その一週間で、幾つか分かった事がある。
従来なら使える筈のミニマップが使用できない事、そのおかげで道に迷いやすくなり、不意討ちの危険性が高まったのである。
次に、この世界で死ぬことは無い、という事である。死ねば従来通り、大神殿で復活する事がわかった。それはつまり、死の解放も無い事を指していた。
更にこれによって、PKが横行するようになってしまった。これは恐らく、“例え殺しても大神殿で復活するから大丈夫“という思考の元から出た行動なのだろう。この一週間で、PKの数は大幅に増え、そしてそれは治安の悪化を指していた。
徐々に悪化の一途を辿っているこの世界で、リルド達は今日もモンスターと戦闘を行っていた。
「アンカーハウル!」
直継のアンカーハウルで、周囲のモンスターのヘイトを集める。その隙をリルドとアカツキが突く。
「クイックアサルト!」
「アクセルファング!」
二人の高速の斬撃が、周囲の雑魚モンスターをなぎはらう。
モンスターを全滅させると、このエリアのボスが現れる。
「出やがったな!」
エリアボスは巨大な猪タイプであった。ボスモンスターは、直継目掛けて突進を仕掛ける。
「フォートレススタンス!」
直継はスキルを発動させ、相手の攻撃を受け止める。スキル効果のおかげで、直継は自分より倍以上のモンスターの突進を吹き飛ばされずに押し止めた。
「シロ!」
「アストラルバインド!」
シロエの拘束魔法がエリアボスの動きを拘束する。
そこに、リルドとアカツキの連携攻撃が炸裂する。
「ダンスマカブル!」
「アサシネイト!」
二人の斬撃と共に、色違いのエフェクトが発生し、エリアボスは倒れた。
「よし! やったぜアカ姉!」
「ああ、今のは良かったぞリルド」
リルドとアカツキは、同じ武器攻撃職の為か、連携がしやすく、先程のような連携攻撃が上手くのであった。
「二人ともお疲れ様、見事な連携だったよ」
「アカ姉が上手く合わせてくれたからな」
「リルドがこちらの動きを理解してくれているから、合わせやすい。もちろん、主君の魔法のおかげでもある」
「おいおい、俺の活躍を忘れるなよ」
「・・・・・・活躍してたか?」
「してたよ! 頑張ってヘイト集めて、お前らが狙われないようにやってたんだよ!」
「・・・・・・ああ、囮としては役に立っていたな」
「もうちょっと言い方は無いのかよ!」
「なら壁役だ」
「せめて盾役と言ってくれ!」
直継とアカツキのいつもの漫才みたいなやり取りを見て、自然と頬を緩めるリルドとシロエだった。
それから四人は、休憩がてら昼食にする事にした。
普段なら心踊る昼食である筈だが、味気ない食事では、テンションは逆に下がるだけであった。
「あーあ、せめてこの塩気の無い煎餅味が何とかなればなぁ・・・・・・」
「直継と同意見は癪だが、確かにこの食事は何度食べても辛い・・・・・・」
「仕方無いよ。どんなに頑張っても、こういった物しか作れないんだから」
この一週間。食事改善の為に様々な試みを行った。
ショップの料理が駄目なら、自分達で作ろうと、食材を集めてコマンドで合成して作ったが、見事に失敗。次に、コマンドに頼らず自分達の手で調理しようとしたが、食材は得たいの知れない物体に変貌した。最後の望みに賭け、サブが料理人の冒険者に料理を作って貰うが、逆に絶望に叩き落とされたのである。
「大好きだったカレーがあんな味になったのは、ショックだったなぁ・・・・・・」
「ショックでしばらく立ち直れなかった・・・・・・」
「右に同じ・・・・・・」
「もしかしたら、この世界の食材は、調理をしたら味が無くなるかも知れない」
「それが本当なら、カレーはもう食えないって事か?」
「・・・・・・そうなるね」
「「「「はあ~・・・・・・」」」」
四人は堪らず、深いため息をついた。
「このままじゃ、精神が持たないぜ・・・・・・何とかならないのか?」
「うーん・・・・・・あっ、そうだ」
「どうしたリルド?」
「さっきの戦闘で、アサシンビーから黒いハチミツをドロップしたんだ。これ使えないか?」
そう言ってリルドが出したのは、真っ黒いハチミツであった。端から見ればコールタールのようなハチミツであった。
「それって換金アイテムだろ? それにこの見た目・・・・・・」
「やってみなきゃわからないだろ直兄。それじゃ――――いただきます!」
リルドはパンに黒いハチミツを塗り、それを口にした。
「・・・・・・」
「ど、どうだリルド?」
「不味かったら吐いた方が良いよ」
「状態異常になったら、この万能薬をすぐ飲むんだぞ」
三人はそんな心配をしながら、リルドの方を見ていた。すると彼は――――。
「う、」
「「「う?」」」
「うま~~~い!」
リルドはとても幸せそうに叫んだ。
「みんな! これはハチミツだ! 見た目はあれだけど、ハチミツなんだ! 」
「マ、マジか!?」
半信半疑で、直継もハチミツを舐める。すると―――。
「マジだよシロ! 本当にハチミツだ!」
「何だって!?」
「そんな馬鹿な・・・・・・」
シロエとアカツキも、黒いハチミツを舐めてみる。
「本当だ・・・・・・」
「確かにハチミツの味だ。しかしこれは換金アイテムでは・・・・・・」
「細かい話は後だ! それよりも、久々の味だ! 食おうぜ皆!」
「直継に賛同するのは癪だが、これは喜ばしい事だ!」
「そうだね、これで少しは改善出来るかも」
「よーし! 今日はハチミツ祭りだ!」
こうして四人は、この世界に来て初めてまともな食べ物にありつけたのだった。
―――――――――――
昼食が終わった後、四人は黒いハチミツを集める為に、アサシンビーを狩り続けた。狩りが一段落した頃には、日はすっかりと沈んでしまった。
「今日はこのくらいで、街に帰ろう」
「だな。ハチミツも大量に手に入ったし、しばらくは困らないだろう」
「主君」
「あのアカツキさん、その主君ってのはやめない?」
「なら、私の事をアカツキって呼んで」
そう言って、アカツキはシロエを見つめる。美少女のアカツキに見つめられ、シロエはタジタジになっていた。
「青春真っ盛り祭りだな♪」
「はぁ!? 何だよそれ!」
「二人ともその辺で、アカ姉が何か言いたげそうだぜ」
「別に大した事では無いのだが、練習がてら先行偵察をしようと思う」
「練習?」
「私はサブ職業は《追跡者》を取ってある。暗殺者のスキルを併用すれば、誰にも見つからない。それにこの森なら、練習にうってつけだ」
「なるほど・・・それじゃあ合流は南の付近のゲートで」
「了解した」
そう言って、アカツキは闇に溶けて行った。
「へぇ、アカツキって追跡者持ちなのか」
「草木が揺れる音も立てなかったね」
「それじゃ、こっちもボチボチ行こうぜ」
三人は、シロエが出したマジックライトの明かりを頼りに、森の中を進み始めた。
「そういや、リルドのサブって何だ?」
「俺の? ああそう言えば、まだ直兄には言っていなかったな。俺のサブは《復讐者》だよ」
復讐者とは、他のサブ職業に比べて、異色を放つ職業の一つである。
基本的にサブ職業は、戦闘に絡まないものなのだが、中には戦闘に関するスキルを持つ職業も存在する。追跡者もそれに近しい職業である。
「どんな職業なんだ?」
「うーん・・・簡潔に言うと、ピンチになるとメチャクチャ強くなる職業」
「HPが低くなると、ステータスが大幅に上がるんだ。かなりリスキーだけど、強い職業だよ」
リルドの説明に、補足をいれるシロエ。そのおかげで直継は、復讐者の大体の特性を理解した。
「つまり逆境に強い職業なんだな。何でそれを取ったんだ?」
「カッコイイから」
「・・・・・・へ? それだけ?」
「うん、それだけ。まあでも、取るのに苦労したなぁ・・・・・・」
昔の事を染々と思い出すリルド。そんな事をしている内に、アカツキと合流を果たす。
「コブ、襲って来なかったな」
「私は骨を被っている奴が好きだ。滑稽で可愛い」
「マジか・・・・・・」
直継とアカツキがそんな他愛の無い話をしているなか、リルドだけが険しい表情をしていた。
「どうしたのリルド?」
「トイレか?」
「・・・・・・待ち伏せている奴等がいる」
リルドのその言葉で、三人の目付きが変わる。
「・・・・・・間違いない?」
「狼牙族の特性か、鼻が妙に効くんだよ。これは、こっちを襲う気満々の匂いだ」
「例のPKをしている奴等か、どうする参謀?」
直継の言葉に、シロエは眼鏡を上げる。
「敵の数はわかるかい?」
「多分5、6人」
「アカツキさん――――」
「アカツキだ」
「ア、アカツキは、スニークを使って、敵―――またはの伏兵を排除して欲しい」
「了解した」
「直継とリルドは僕と一緒に来てくれ、敵を正面から迎え撃つ」
「おう!」
「了解!」
「それじゃ、フォーメーションは―――――」
シロエはこれから起こるであろう戦闘に備え、三人に作戦を伝えた。
書庫搭の林を抜け、ロカの診療院に入った三人。しばらくすると、リルドと直継は拘束魔法を掛けられる。
「しまっ――――」
「ディスペルマジック!」
直ぐ様シロエがそれを解除、リルドと直継は武器を構える。
「相変わらずの反応支援だな。さぁ参謀、どうする?」
「打ち合わせ通りで行くよ二人とも」
「おう!」
「了解!」
「先ずは位置を確定する。マインドボルト!」
シロエが放った魔法によって、相手の姿が見えた。容姿と装備からして、狼牙族の盗剣士が一人、エルフの盗剣士が一人、ヒューマンの武士が一人、最後にローブを被っていて種族までは分からないが、恐らく施療神官が一人。計四人が現れた。
(四人・・・後二人は伏兵か。まっ、アカ姉に任せておけば大丈夫か)
そう思ったリルドは、目の前の敵に集中した。
「荷物を置いていけば、命まで取らねぇぜ」
リーダー核の盗剣士が、何ともお約束の台詞を言い放つ。
「漫画の読みすぎじゃないかなその台詞・・・・・・」
「襲って来るって事は、返り討ちにされても文句はねぇな!」
「やってやるぜ!」
こうしてこの世界に来て、初めて対人戦が始まった。
直継が武士の男の相手をし、リルドの相手はリーダーの盗剣士―――名前はスマッシュである。レベルはリルドより10も上の冒険者であった。
殆どのステータスはスマッシュの方が上だが、一つだけリルドが勝っているステータスがあった。
「シャア!」
「この!」
リルドの素早い動きと斬撃が、スマッシュを翻弄していた。リルドのステータスはスピードに特化しており、そのステータスはレベル80代のスマッシュを上回っていた。
「スマッシュ!」
「俺の事はいい! 魔術師をやれ!」
「わかった!」
スマッシュの指示を受け、女性の盗剣士はシロエの方に向かった。
「アストラルバインド」
向かって来る女性の盗剣士に、シロエは移動制限魔法を掛ける。一定範囲しか動けない彼女は、どう頑張ってもシロエの元に辿り着けなかった。
「くそっ! リコピン! お前はこのガキをやれ! 俺が魔術師をやる!」
「わかった!」
「おっと! 行かせるかよ!」
シロエの方に行こうとするスマッシュに、リルドは素早い攻撃で足どめをする。そして背後から、リコピンと呼ばれた女盗剣士が襲い掛かる。
「お前の相手は私だよ!」
持っていた武器で、リルドに攻撃を仕掛けようとしたその瞬間――――。
「アンカーハウル!」
直継のでアンカーハウルが発動。これで三人は、直継を無視する事が出来なくなった。
「ちぃ、ならお前から先に始末してやるよ!」
スマッシュら三人は、直継に対して集中攻撃を行う。その無防備な背中を、リルドが襲う。
「ブラッディピアッシング!」
リルドの二つの武器が、スマッシュ達の脚を切り裂き、動きを鈍らせる。
「このぉ―――」
「待て! そのガキは後だ! 先に守護騎士をやらねぇと!」
「だけど――――」
「確かに厄介だが、そいつから受けるダメージは少ない。無視しても大丈夫だ!」
(あっちゃ~、バレちまったか)
スピードに特化したが故の欠点。リルドの攻撃力は、他の盗剣士に比べて低かった。それ故無視しても大丈夫だと、スマッシュは判断した。
「一気に畳むぞ!」
「エレクトリカルファズ!」
するとシロエからの援護攻撃が放たれる。しかし付与術師の攻撃は弱く、相手に大したダメージを与えられなかった。
「へっ、この程度の攻撃、痛くも痒くも無いぜ」
「エレクトリカルファズ!」
余裕ぶっているスマッシュの言葉を無視して、シロエはエレクトリカル・ファズを放ち続け、スマッシュ達の回りに雷球を漂わせる。そして、直継のHPが半分に達した所で、行動に移った。
「ソーンバインドホステージ!」
シロエが放った魔法の茨が、武士の一人を拘束する。
「な、なんだこれは!?」
「リルド!」
「オーケー!」
シロエの言葉に従い、リルドは武士に攻撃を仕掛ける。
「デュアルベット!」
「ぬああああ!!」
目にも止まらぬ連撃と、それによって破壊される棘、この二つのダメージが武士を襲った。
「カツオ丸! おいストロガノブ! カツオ丸を回復させろ!」
後方の暗がりにいる施療神官に、指示を出すスマッシュ。
集団戦において、施療神官の有無は大きく関わり、下手をすればこの戦況を覆される可能性があった。しかし――――。
「エンドオブアクト!」
「がああああ!!!」
カツオ丸と呼ばれた武士は回復される事も無く、リルドに止めを刺された。
「なっ!? 何をやっているんだストロガノブ!」
そう叫ぶスマッシュだったが、暗がりの向こうにいる彼から返事はなかった。それに対してシロエは、ニヤリと笑った。
「いくら呼んでも無駄だよ。そちらの施療神官には、僕の魔法で眠っているからね」
「なぁ!? いつの間に!?」
「戦闘開始からずっとだよ。もう少し、仲間の状況を把握していた方が良かったんじゃないかな? もっとも、目の前がこうも照らされていたら、暗がりなんて見えないけどね」
その言葉でスマッシュ理解した。先程の攻撃は、自分達の回りを明るくし、ストロガノブが眠っている事を悟らせない為である事に。
「このやろう!」
「待てリコピン! まだ―――」
「まだアンカー・ハウルの効果は残っているぜ!」
「しまっ――――ああああ!!」
無謀にも、シロエに攻撃を仕掛けようとしたリコピンは、直継のアンカーハウルの餌食となった。劣勢に陥ったスマッシュは、最後の切り札を出した。
「くそっ、こうなったら総力戦だ! お前ら出てこい!」
伏兵を呼ぶスマッシュだったが、代わりに出てきたのはアカツキだった。
「なあ!?」
「残念だが、ここに潜んでいたお前の仲間は始末した。後はお前だけだ」
アカツキの言葉に、スマッシュは自らの敗北を悟った。
―――――――――――
「さあ! 煮るなり焼くなり好きにしろ!」
敗北を悟ったスマッシュは武器を棄てて座り込んだ。潔いと言えば聞こえは良いが、むしろ自棄になっているようにも見えた。
「・・・・・・どうするシロ?」
「う、うーん・・・・・・」
こうも潔いと、返ってやりづらいシロエ達であったが、無罪放免で逃がす程甘くはなかった。シロエはアカツキに、スマッシュに止めを刺すように指示を出そうとしたその時――――。
「ちょっと待ったシロ兄」
「リルド?」
「少し話をさせてくんない?」
リルドの予想外の言葉に戸惑うシロエだったが、相手から戦意が無いので、それを許可する事にした。
「まあ、少しくらいなら」
「あんがとシロ兄」
シロエに礼を言ってから、リルドはスマッシュの前に座った。
「な、なんだよ? やるなら早くやれよ」
「兄ちゃん名前は?」
「・・・・・・スマッシュだ」
「俺はリルド、よろしくなスマッシュの兄ちゃん」
「あ、ああ・・・・・・」
先程襲って来た相手に対して、普通に接するリルドに戸惑うスマッシュ。そんな彼に、リルドは尋ねた。
「なあスマッシュの兄ちゃん、何でPKをやろうと思ったんだ?」
「何でって、それは――――」
そこでスマッシュは言葉が出なかった。何故なら、PKを行った理由が思い出せなかったからである。
「え~と・・・ほら! 自分で稼ぐより楽で儲かるからだ!」
「儲かってるのか?」
「・・・・・・あんまり儲かって無い」
「おいおい、それじゃあ何でPKなんかやっているんだよ?」
直継の言葉に、スマッシュ答えられなかった。
フィールドでミニマップが使えない今、確かにPKの成功率は上がった。しかしだからと言って、儲かるかどうかは別の話である。殆どの冒険者は行くとしてもアキバ周辺のみであり、レアアイテムをドロップしていると思えない。金目当てだとしても、スマッシュ程のプレイヤーなら、お金に困っているとは思えなかった。
「・・・・・・他にやる事が無いからじゃない?」
シロエの言葉に、スマッシュは核心を突かれたような感じがした。
「他にやる事が無いからと言って、PKをやるなどと・・・・・・」
「・・・・・・仕方ねぇじゃねぇか」
アカツキの責めの言葉に、スマッシュは今まで貯まっていたものが一気に吹き出した。
「仕方ねぇじゃねぇか! こんな訳のわからない事になって! 普段通りなんか出来ねぇだろう!」
「だからPKをやったのか?」
「ああそうだ! それの何が悪い!? どうせこれはゲームなんだろ? なら別にやっても構わないだろ――――」
スマッシュの言葉を遮るように、リルドが彼を殴った。
「いっつ・・・・・・てめぇ何を――――」
「現実より痛くは無いけど、多少は痛いだろ? これでも現実じゃない、ゲームと言い張るのかあんたは?」
「・・・・・・」
「この世界が現実かゲームなのかは俺にはまだ分からない。でも、ゲームであってもやって良い事と悪い事があった筈じゃないのか? あんただってこの事態に巻き込まれる前は、普通に冒険を楽しんでいたんじゃないのか?」
リルドのその言葉を聞いて、スマッシュは思い出す。あの頃は四人で商売をやったり、釣りをしたり、レアアイテムを求めてダンジョンに挑んだり、そして全滅をして落ち込んだりしたりしたが、心からエルダー・テイルを楽しんでいた。PKをやろうとなんて、微塵も思っていなかったのである。
「俺は・・・・・・」
「ほら」
そう言ってスマッシュに差し出したのは、黒いハチミツが塗られたパンであった。
「腹が減って、むしゃくしゃしてやってしまったんだろ? だったらこれを食べて、機嫌直しな」
「・・・・・・これ、食えるのか?」
「見た目はあれだが、食べれるぜ」
そう言って、屈託の無い笑顔を見せるリルド。スマッシュはそれを受け取り、恐る恐る口にした。
「どうだ? 美味いだろ?」
「あ、ああ! うめぇ、うめぇよ! こんなうめぇパンを食べたのは生まれて初めてだ!」
スマッシュは泣きながら、パン食べ続けた。
―――――――――――
その後リルド達は、和解したスマッシュ達と共にアキバに戻って来た。
「スマッシュの兄ちゃんはこれからどうするんだ?」
「大神殿に向かう。あいつらを迎えに行かないとな」
「そんでもって、またPKしに行くんじゃないだろうな?」
冗談混じりで訪ねる直継の言葉に、スマッシュとストロガノブは首を横に振った。
「いや、もうPKはこりごりだ。この世界で俺達に出来る事は無いか、模索していくつもりだ」
「そっか、それなら応援してるぜ。あとこれ」
そう言うと、直継はスマッシュとフレンド登録をした。
「お前・・・・・・」
「今日の敵は明日の友って言うだろ? 何かあったら、遠慮なく呼んでくれ。俺達が力を貸すぜ」
「おい待て、何を勝手に決め――――」
「そう言う事なら、俺のも登録をしよ。スマッシュの兄ちゃん」
「リルドまで! 主君からも言ってやってくれ!」
「・・・・・・いや、フレンド登録は良いと思う。少しでもコネが増えれば、それだけでも情報が入りやすくなるからね」
「それはそうだが・・・・・・」
「アカツキさんの言いたい事は分かるけど、彼らはもう大丈夫だと思うよ」
「・・・・・・主君がそう言うなら」
アカツキは少しむくれている様子であった。一方シロエは、スマッシュが言った言葉に思うところがあった。
「“この世界で出来る事”か・・・・・・」
果たして自分は、この世界で一体何が出来るのだろう。シロエこの日から、その事で真剣に考え始めるのであった。