ロカの診療施設の戦いから数日後、リルド達を襲ったドレッドパックのスマッシュ達は改心し、新たに商売を始めた。
「ハチミツ~、美味しいハチミツはいらんかね~」
「味気ない食事が華やかになるよ~」
「買って損はないぞ~」
彼等は換金アイテムの黒いハチミツが食べられる事を知り、それを売る商売をしていた。
最初は疑いの眼差しを向けられたが、徐々に売り上げを伸ばしていった。
「スマッシュの兄ちゃん」
「おっ、リルドじゃねぇか、今日はどうした」
「少し遠出するから、その為の準備をしているんだ」
「遠出?」
「一体何処まで行くんだ?」
「ススキノ」
「「「「・・・・・・何だってー!?」」」」
リルドの話を聞いて、スマッシュ達は大きな声を上げた。
「ススキノって、何でまたそんな遠い場所まで行くんだよ?」
「まあ色々あってね」
「確か、現実で言うと北海道のところだよね」
「距離で言うと、約850キロメートル。このセルデシアだと、その半分の450キロメートルになる。馬と徒歩で行くのなら、ススキノに到着は大体20日前後、往復で一ヶ月半は掛かる旅になると思うよ」
ストロガノブの解説で、スマッシュ達は改めて旅の過酷さを改めて認識した。
「何でそんな所に行くんだ?」
「マリ姐に頼まれたからだ」
「マリ姐って、あの三日月同盟のギルドマスターか?」
「ああ。実はススキノに取り残された三日月同盟のメンバーがいるんだ」
リルドはスマッシュ達に、その時の事を話した。
五大都市の一つであるススキノ、そこに三日月同盟のメンバーのセララという冒険者が、一人取り残されていた。更に悪いことに、ブリガンディアという悪質なギルドに狙われてしまっていた。幸いにも、とある冒険者に匿ってもらっている為、大事になっていない。
「だから迎えに行くって話になって、シロ兄がそれを引き受けたんだ」
「あの眼鏡が?」
「ああ、珍しく啖呵を切って、“僕らが行くのがベストだ”ってな。あんなかっこいいシロ兄は初めて見たぜ」
当のシロエはそれを恥ずかしいと思っているのだが、リルドはそれを知らずに、嬉しそうに、その様子をスマッシュ達に話していた。
「へぇ、ただ者じゃないと思っていたが、結構大胆な事をやるじゃねぇか」
「まあね。そんな訳だから、旅の準備をしているんだ」
「そうか、それなら餞別としてこれを持っていきな」
そう言ってスマッシュが渡したのは、売り物の黒いハチミツとチーズやソーセージ、バター、そして黒い水であった。
「これは?」
「ハチミツ水だよ。と言っても、黒いハチミツと水を混ぜただけなんだけどね」
「そろそろハチミツだけじゃあ厳しくなると思うから、そろそろ新商品を出そうと思ってな。今回は特別にリルドに譲ってやるよ」
「ありがとうスマッシュの兄ちゃん! それじゃそれじゃお代は――――」
「良いってそんなの、この前迷惑掛けた詫びだ。それよりも気をつけて行けよ」
「ああ! 土産話を期待しておいてくれよな!」
リルドはスマッシュ達に手を振って別れ、旅の準備を続けた。
―――――――――――
翌日の明朝、リルドはシロエ達と共に馬を駈けていた。
この世界の設定は、現代の世界―――ゲームで言うと神代の文明の名残があちらこちらに残っている。
リルド達は古びた高速道路を、馬で駆け抜けていた。
「よし、ここいらで休憩しよう」
シロエの提案で、道路付近で休憩がてら昼食を取る事にした。
「しかし、毎日ハチミツ味のパンだと飽きるな」
「なら直継は塩味のパンで充分だな」
「そうは言って無いだろ! もっとこう、レパートリーが増えないかって」
現在の食事事情は、パンにハチミツを塗るか、塩、あるいは砂糖を振り掛けて食べるしか無い。これでは誰だって飽きてしまう。そこでリルドは、スマッシュ達に渡された物を思い出す。
「あっ、そう言えば、スマッシュの兄ちゃん達に、ハチミツ以外の餞別を貰っていたんだ」
そう言って出したのは、チーズ、ソーセージ、バター、そしてハチミツ水であった。
「なに、その黒い水は・・・・・・?」
「ハチミツ水って言ってたぜ」
「見た目はどうにかならなかったのかよ・・・・・・」
「それとチーズにソーセージ、バターか」
「これで味があれば、文句は無いんだが・・・・・・」
そう言って、チーズを一切れ食べる直継ぐ。すると――――。
「う、うめぇぇぇ!」
「な、直継?」
「とうとう頭と舌が駄目になったか・・・・・・」
「なってねぇよ! それよりもお前ら! これを食べて見ろよ!」
直継に言われ、三人はチーズを食べてみる。すると―――――。
「「「うめぇぇぇ!」」」
直継と同じリアクションをした。
「な、何で? どうしてチーズに味が?」
「主君! チーズだけではない! バターもだ!」
「ソーセージにも味がついてるぜ!」
リルドが持って来た餞別品は、どれも味がした。その事で、三人はリルドを追求した。
「リルド、これは何処で手に入れたんだ?」
「さっきも言ったけど、スマッシュの兄ちゃん達に餞別で貰ったんだ」
「もしかして彼等は、味を失わず食材を加工出来る術を持っているのか?」
「そんなの、本人達に聞けば分かるだろ? 早速聞いてみるようぜ」
そう言って直継は、念話でスマッシュ達に餞別品について尋ねた。すると――――。
「なんか、向こうも結構驚いているようだぜ」
その言葉に、三人は肩をガクッと落とした。
「それにしても、何故加工品に味が? 他はどれも同じ味だった筈なのに、これだけ味がついているなど・・・・・・」
「・・・・・・待てよ」
シロエは何かを思いつき、メニュー画面を開いてあることを確認する。
「やっぱりそうだ」
「どうした主君?」
「これらの加工品に、何故味がついているかわかったんだ」
「本当かシロ!?」
「ああ、これらのアイテムは確かに加工されているが、“素材アイテム”に分類されているんだ!」
「「「な、何だってー!?」」」
シロエの説明に、またしても驚愕する三人。
この世界では、調理または加工すると、本来の素材の味は失われるが、逆にそれらをしなければ、素材本来の味はするのである。故に、殆どの冒険者は果物や野菜を中心とした食生活となっている。
「でもよぉ、何か変だよな? 料理をすると味が無くなるのに、こういう加工品で素材アイテムに認定されている物に味がついているなんて」
「・・・・・・そうだね、換金アイテムである黒いハチミツにも味があるし。もしかしたら、僕達が知らない世界の法則があるかもね」
「世界の法則か・・・・・・」
「ともかく、その話は後だ。今は旅に集中しよう」
「そうだな、困っている三日月同盟の人を早く助け出さないといけないよな。よし! 頑張るぜ!」
そう決意を固めるリルドであった。
昼食を済ませた後、リルドとアカツキは馬を予防と笛を吹こうとした。
「ちょっと待った」
「「?」」
「午後からは、これで行くつもりだ」
そう言って、シロエと直継は木の笛を取り出し、それを吹いた。すると、二匹のグリファンがやって来た。
「なっ!?」
「グリファンだと!?」
「安心して、このグリファンは襲ったりはしないよ」
「・・・・・・もしやその笛は、ハデスズブレスのレイドをクリアした冒険者に与えられるという・・・・・・」
「昔ちょっとね」
「すげぇ・・・・・・これならススキノまで一っ飛びじゃねぇか!」
「使用制限はあるけどね」
「それでも、徒歩と馬で行くより何倍も早く行けるぜ」
「それじゃ、二匹いるから二人ずつ乗ろう」
「じゃあ俺は直兄と」
リルドはそう言って、直継の後ろに乗る。
「先に行くぜシロ! リルド! しっかり捕まっていろよ!」
そう言って直継はグリファンを操り、大空に飛んだ。
そしてリルドの目に広大な大地と空が広がっていた。それは飛行機の中では絶対に見れない光景であった。
「おお!! これはいい眺めだな!」
「ああ! すげぇよ!」
直継とリルドは、その光景に、ただ感動していた。
後から来たシロエとアカツキ、彼らもリルド達と同じ気持ちだった。
「良い景色だよアカツキ」
「これは・・・すごい。青空に浮かんでいるみたいだ」
「どうだすげぇだろ!!」
「ああ、凄い。空の碧さが透き通るみたいだ」
アカツキは珍しく、笑顔でそう呟いた。
―――――――――――
アキバから出発して3日が経過した。
リルド達はグリファンと馬と徒歩を使い、ティアストーン山地まで来ていた。
しかし、山地周辺にはワイヴァーンが飛んでいた。
「やはりワイヴァーンがいるみたいだ」
「どうするシロ?」
「このまま進むのは危険だ。一度下に降りよう」
「了解!」
グリファンに乗って進むのは危険だと判断したシロエは、一度地上に降りる事にした。
地上に降りた一同は、シロエが書いた地図を見て、これからの進路を決めていた。
「ルートは4つ、洋上を大きく迂回するか、山地の深い森の中を歩いて山岳踏破するか、山中の道路を登山するか、地下のトンネルのパルムの深き場所を進むか・・・・・・」
「やっぱ、地下が良いんじゃないか?」
「そうだね。他だとリスクがあったり、時間が掛かりそうだ」
「そんじゃ、パルムの深き場所に行こうぜ」
話し合いの結果、四人は地下ダンジョンのパルムの深き場所に向かうことにした。
―――――――――――
パルムの深き場所に入った一同。老朽化した道を歩きながら、出口へと向かって歩いていたのだが―――――。
「おっかしいな・・・ここは確か通れた筈なんだが・・・・・・」
四人の目の前には、瓦礫で塞がれた道があった。
「ただの記憶違いじゃないのか?」
「いや、リルドの言う通り、ここは確かに道があった。だけどそれが塞がれている」
「もしや、拡張パックか?」
アカツキの言葉に、シロエは小さく頷いた。
大災害の騒ぎで失念していたが、拡張パックであるノウアスフィアの開墾の事である。シロエはこの拡張パックが、あの大災害の日に導入されたと考えていた。
「やっぱり一筋縄では行かないな」
「うん、ここは僕達が知っているダンジョンとは思わない方が良いかも知れない」
「だな。取り合えず、他に道が無いか探してみようぜ」
こうして四人は、手探りをしながらダンジョンを進むのであった。
ダンジョンの進行は思った以上に著しかった。通れた筈の道が塞がれたり、以前通れなかった場所が、道として使えたりと、まるで未踏のダンジョンを歩いているようであった。
リルド達は安全な場所で、休憩を挟んでいた。
「やっぱり、ダンジョンの道が変更されているのって、拡張パックのせいかな?」
「だろうね」
「もしかしたら、出口手前でボスが居たりしてな」
「その可能性は十分にあるよ」
「変更されたダンジョンに、未知のボスか・・・かなり厄介だな」
「まっ、このメンバーなら大丈夫しょ」
「まあな」
そんな話をしていると、偵察に行っていたアカツキが戻って来た。
「主君、戻ったぞ」
「おかえりアカツキ。早速だけど、偵察の報告良いかな? 地形照合したいから」
「心得た」
アカツキの報告を聞き、シロエは手製の地図に、塞がれている道や新たに出来た道、モンスターが巣くっている場所を書き記した。
「こんな感じかな?」
「うん、正確だと思う。それにしても主君は、絵を書くのが上手いのだな」
「サブが筆写師だし、CADもやっているからね」
「CAD?」
「パソコンでやる製図の事だよ。大学でやっているんだ」
「主君は大学生なのか、ならば私と同い年なのだな」
同い年という言葉に、シロエは驚いたが、事前に彼女が大人である事を知っていた為、さほど驚く事はなかった。
「なんだよ、アカツキは俺の年下なのか。それなら俺を少しは敬っても良いんじゃないか?」
「私は、お前のようなバカまるだしの男を敬う心を持っておらん」
「何だとこのちみっこ!」
「ちみっこ言うなバカ直継!」
またいつものやり取りが繰り返される中、シロエはリルドに何気なく尋ねた。
「そう言えば、リルドは年幾つなんだい?」
「俺? 10歳だけど」
「そっか、10歳か・・・・・・え?」
リルドの言葉に、シロエどころか口論していた直継とアカツキも目が点になった。
「え、えっと・・・・・・き、聞き違いかな? 10歳って聞こえたような・・・・・・」
「ああ言ったよ。俺、10歳。今年で11になる」
「「「・・・・・・ええ~!!??」」」
三人は驚きのあまり、ダンジョン内にも関わらず、大声を出してしまった。
「そんなに驚く事か?」
「いやだって、身長はリアルに近いんだよね?」
「ああ、165だ」
「小学生にしてはデカ過ぎるだろ・・・・・・」
「良く言われる。でもまあ、あんまり気にしないようにしている。後数年もすれば、違和感も無くなるだろうし」
「そうだなぁ、アカツキのようにちみっこじゃないだけ救いが――――」
「ふん!」
アカツキの必殺の蹴りが、直継の顎にグリーンヒットした。
「主君、バカ直継を蹴ってしまって良いだろうか?」
「だから! 蹴ってから言うな!」
再び始まった二人の口論バトル。二人を止めようとしたシロエだが、マリエールの定期報告の念話が入ってしまった。
「あっ、マリ姐」
シロエはそのままマリエールと定期報告に入った。
リルドは、直継とアカツキの喧嘩を眺めながら、一人先に食事を食べ始めるのであった。
―――――――――――
休憩を終え、四人は再び歩き出した。
アカツキの先行偵察のおかげで、前半より迷わず進む事が出来た。
そして出口付近で、それが現れた。
「何だよこれ!?」
「こんなのゲームにはいなかったよな!?」
現れたのは、このダンジョンに生息しているモンスターであるラットマンを、巨大化した物である。
「恐らく、拡張パックの新種モンスターだろう」
「どうする主君?」
アカツキの言葉に、シロエは眼鏡を光らせて答える。
「もちろん排除するよ。出口は目の前だし、ここは多少のリスクを背負うべきだと思う」
「よっしゃ! 一丁やってやるぜ!」
リルド、直継、アカツキの三人は、前に出て武器を構える。シロエはその後方で、いつでも支援出きるように待機する。
「それじゃ先ずは行くぜ! タウティングシャウト!」
直継は先ず、自分に注意が来るようにヘイト操作のスキルを使用した。巨大ラットマンは、それに誘われ、直継を攻撃する。
「おっと! それにしてもすげぇ迫力だな! 画面越しじゃあ、味わえないぜ!」
そう叫びながら、盾で巨大ラットマンの腕を弾く。その間、リルドが懐に飛び込む。
「ブラッティピアッシング!」
素早い動きと斬撃で、巨大ラットマンの脚を切り裂き、動きを封じる。それに続いてアカツキが、ラットマンの背を攻撃する。
「ステルスブレイド!」
アカツキの一撃が決まり、よろめく巨大ラットマン。すかさず、直継の追撃が入る。
「クロススラッシュ!」
直継の剣技が、巨大ラットマンを十字に切り裂く。しかし、まだ倒れる気配はなかった。
「固いなこいつ。参謀どうする?」
「あまり手間を取りたくない。最大火力で一気に片付ける!
直継! 二人に攻撃が行かないようにヘイトを集めてくれ」
「了解!」
「リルドはアーリースラストで、ダメージマーカーを相手に最大数まで設置してくれ!」
「オーケー!」
「アカツキはこちらの合図に従ってアサシネイトを!」
「承知した」
シロエの指示に従い、三人は動き出した。
直継が相手の注意を惹き付け、その隙にリルドは巨大ラットマンに次々とダメージマーカーを設置し続けた。
「設置終わったぜシロ兄!」
リルドの言葉を待っていたと言わんばかりに、シロエは拘束魔法を放つ。
「ソーンバインドホステージ!」
魔法の棘が、巨大ラットマンを拘束。リルドと直継ぐはそれらを4つ破壊し、追加ダメージを与える。
「おっ、効いている!」
「アカツキ!」
「心得た」
合図が出たのを見計らって、アカツキが飛び出した。
「キーンエッジ!」
シロエはアカツキに武器の攻撃力を上げる魔法を使い、更にリルドに指示を出す。
「リルド! マーカーを全て発動させろ!」
「オーケー、どでかい花火を打ち上げてやるよ。ブレイクトリガー!」
ブレイクトリガーを発動させた瞬間、巨大ラットマンに設置されたマーカーが連鎖的に発動し、まるで爆発したかのように相手に大ダメージを与えた。
「これなら後一撃で―――アサシネイト!」
キーンエッジの攻撃力上昇、アサシネイトの攻撃力、そしてソーンバインドホステージの追加ダメージ。この3つが合わさり、巨大ラットマンのHPはゼロになった。
「流石はアカ姉だ!」
「やったなちみっこ!」
「ちみっこ言うな!」
「皆、お疲れ様」
こうして出口を塞いだ巨大ラットを倒す事が出来た一同は、ダンジョンの外に向かった。
ダンジョンの外に出た一同が見たのは、夜明けの光で照らされた地平線の彼方であった。
「綺麗だな・・・・・・」
「すっげぇーなぁこれ」
「こんな夜明け、初めて見るぜ。なあシロ兄?」
「シロ兄?」
シロエは何かを思い出しているようであった。そして一歩、二歩と前に出て言った。
「ああ、僕達が初めてだ。僕達がこの世界でこの景色を見る、最初の冒険者だ」
そう言ったシロエの表情は、とても嬉しそうに笑っていた。