ブリガンディアを退けたリルド達は、グリフォンに乗ってススキノを離れた。そして、ライポート海峡を渡ったところで、野営をする事にした。
リルド、シロエ、直継、アカツキはテントの準備をしていた。
「ん? 何か良い匂いがするな・・・・・・」
「ああ、これは・・・肉が焼ける匂いだ!」
匂いに釣られた四人は、匂いがする方に走った。するとそこには、香ばしい香りを漂わせる肉と、それを焼くにゃん太の姿があった。
その晩の食事は、一言で言うなら極上であった。決して高級な肉を使っているわけでは無いのだが、4人は1ヶ月ぶりの本物の肉の味を味わっていた。
「やべぇ! やべぇよこれ!」
「ああ! 1ヶ月ぶりの肉祭りだ!」
「至福だ! 至福だぞ主君!」
「美味しい! 美味しいけど・・・一体どうやって?」
シロエのその疑問に、にゃん太はわかりやすく答えた。
「料理をするときに、大抵はメニューで作れるが、それだと見た目はそれらしい物でも、味がとても質素になるにゃ」
「ええ、何度も経験しました」
「そこで、メニューに頼らず、自らの手で食材を調理する。それによって、現実世界と同じ味が再現出来るにゃ」
「それは僕達もやりました。けど・・・・・・」
シロエは焼かれていない肉を火で炙る。すると、形状しがたい物体になってしました。
「こんな風になってしまうんです」
「それはスキル不足による現象にゃ。適正のスキルを持った者でないと、料理は失敗するんだにゃ」
「あっ、そう言えば班長のサブって――――」
「料理人ですにゃん」
にゃん太は自慢気に、自分のサブ職業を言った。
それから食事を終えたリルド達は、改めて自己紹介をした。
「初めまして、セララです。レベル19の森呪遣いで、サブは家政婦です。今回は助けていただいて、ありがとうございます!」
そう言って、セララは丁寧に御辞儀をする。
(礼儀正しい子だなぁ・・・・・・)
そう思いながらも、リルドも自己紹介をする。
「俺はリルド。職業は盗剣士のレベル75、サブは復讐者だ。よろしくな」
「私はアカツキ。職業は暗殺者、レベル90で、サブは追跡者だ。今は主君であるシロエ殿の忍をしている」
「俺は直継。職業は守護騎士でレベル90、サブは辺境巡視だ」
「それでは我輩も。我輩はにゃん太。職業は盗剣士、レベルは90でサブは料理人。年寄りだが、よろしくにゃん」
「最後は僕だね。僕はシロエ。職業は付与術師でレベル90、サブは筆者師だ」
一通りの自己紹介を終えた後、一同はそれぞれの身の上の話で盛り上がっていた。
「なるほど、主君とにゃん太老師はあの放蕩者の御茶会の――――」
「そうだにゃ、シロエちは当時は参謀として、我輩は御隠居として参加していたにゃ」
「あと俺もな!」
「えっと・・・皆さんは同じギルドだったんですか?」
「違うぜセララ、放蕩者の御茶会―――通称お茶会ってのは、ただの冒険者の集まりなんだ。まあ、ギルドになってもおかしく無いんだが、そういう体系は一切取らなかったらしいぜ。なあシロ兄?」
リルドの言葉に、シロエは頷いた。
「ところでよぉ、リルドは何でシロとつるんでいるんだ?」
「え?」
「シロはこう見えても人見知りするからな。俺ら以外に仲良さそうな冒険者はあんま見たことが無いんだ」
「おい直継! その言い方だと、僕がボッチ見たいじゃないか!」
「事実だろ? フレンドリスト、御茶会のメンバーしか登録されていないだろ」
「失敬な! ちゃんと登録されてるよ!」
「三日月同盟のメンバーを除いてもか?」
「・・・・・・2、3人位は」
「やっぱりボッチじゃ――――」
「ふん!」
その瞬間、アカツキの跳び蹴りが直継に直撃した。
「主君、主君を侮辱した愚か者に蹴りを入れておいた」
「ありがとうアカツキ」
「お、お前らなぁ・・・・・・」
「まあ、シロエちがボッチかどうかはともかく、二人の馴れ初めは興味あるにゃ。良ければ、聞かせて欲しいにゃん」
「別に良いけど、大しておもしろい事じゃないぜ」
「我輩はそういう話が好きにゃのよ」
「ま、隠すような事でも無いし、いいかシロ兄?」
リルドの言葉に、シロエは頷いた。
「それじゃよーく聞いてくれよ。あれは俺が、エルダーテイルを初めてプレイした日―――――」
リルドは、シロエとの出会いを皆に話をし始めた。
―――――――――――
翌朝。朝食の材料を取りに、リルドとにゃん太は森の動物を狩っていた。
「こんなもんでしょうかにゃ。リルドち、戻りますにゃん」
「納得いかないなぁ、どう見てもニキロ以上あるのに・・・・・・」
「それは仕方ないですにゃ。サブ職業、狩人でなければ、捕獲や解体等は出来ないにゃん」
「それはそうだけど・・・・・・」
「そんなにしょげる事はないにゃん。代わりと言ってにゃんだが、手伝ってリルドちのリクエストにお応えするにゃん」
「本当!? それじゃ――――」
何をリクエストするか考えるリルド。ふと、ススキノでの戦いで疑問に思った事を思い出した。
「そう言えばにゃん太のジイさん。一つ聞いていいか?」
「にゃんですか?」
「ジイさんはどうやって、デミクァスのHPを一瞬で削ったんだ? 武闘家のHPを一瞬で削るなんて、普通は無理だと思うけど・・・・・・」
「ふむ、確かに盗剣士の攻撃力では、武闘家であるデミクァスのHPを一瞬で削るのは難しいにゃん。しかし、シロエちの支援があれば可能だにゃん」
「それって、ソーンバインドホステージ?」
「そうだにゃ。あの茨を破壊する度に、追加ダメージが発生するのは知っているかにゃ?」
「ああ、いつも世話になっているから。でもさ、それを使ったとしても、良くて半分ちょいが限界じゃ・・・・・・」
「普通にやれば、それだけのダメージしかにゃいが、少し工夫と鍛練をすれば、盗剣士であっても、戦士職を一撃で沈める事は可能だにゃ」
「それってどんな方法?」
リルドがそう尋ねると、にゃん太はまるで質問を受けた先生のように答えた。
「先ず最初に、シロエちがソーンバインドホステージで相手を拘束させる。そこまでは通常の戦法だにゃ」
「ふむふむ」
「しかしここで攻撃せず、14秒待つにゃ」
「何で?」
「ゾーンバインドホステージのリキャスト時間は15秒。14秒待って攻撃すれば、ちょうど15秒になるにゃ。それからまたソーンバインドホステージをかければ、全ての攻撃に追加ダメージが発生するにゃ」
「まあ、理屈なら確かに武闘家のHPを大半削れるけど・・・・・・」
「無論、これは一朝一夕で出来る物ではないにゃん。それなりの修練が必要なんだにゃ」
「それって、頑張れば俺でも出来るか?」
「リルドち次第だにゃ。もし良ければ、手ほどきをしてあげるにゃ」
「本当か! ありがとうにゃん太のジイさん! いや、にゃん太先生!」
リルドは嬉しそうにそう言った。
こうしてリルドは、にゃん太の手解きをして貰える事になった。
―――――――――――
旅は順調に進んでいたある日、グリフォンに乗って飛んでいると、前方から雨雲が見えた。
にゃん太の提案により、一同は早めに雨宿りの場所を探す事にした。幸いに、近くに農村を見つけ、今日一晩倉庫を借りる事が出来た。
シロエ、にゃん太、セララは、倉庫を貸してくれた大地人の男性と話をしており、リルド、アカツキ、直継は彼の子供達の相手をしていた。
「なーなー、手裏剣を投げてみせてよー」
「みたいみたい」
「うっ・・・・・・」
子供達にねだられ、たじろくアカツキ。それをニヤニヤと眺める直継。そんな中、リルドが助け船を出す。
「こらこら、アカ姉を困らすなよ。手裏剣投げなら俺にだって出来るぜ」
「本当!?」
「お兄ちゃんも忍者なの!?」
「いや、違うけど、似たような事は出来るぜ。直兄」
「ん?」
「ちょっと手を貸してくんない?」
「おういいぜ。一体何をすればいいんだ?」
「これを頭に乗っけて、柱の近くに立ってくれればいいだけだぜ」
そう言って出したのは林檎であった。それを見た瞬間、直継の脳裏に嫌な予感が過る。
「もしかして、頭に乗せた林檎に手裏剣を当たるっていう・・・・・・」
「御名答♪」
「そんな危ねぇ事やらねぇよ!」
「えー、やらないのー?」
「やらないのー?」
二人の子供は、いかにもやって欲しい表情をしていた。直継は最初は頑なに拒んでいたが、子供の眼差しには勝てず、結局やる羽目になった。
「いいかリルド! 俺に当てたらただじゃ済まさねぇぞ!」
「わかってるって、そんじゃ行くぜ!」
リルドが放った手裏剣は、見事林檎に命中した。
「すっげぇー!」
「すごいすごい!」
「ふふん、どんなもんだい」
リルドは得意気にしている一方、直継は生きた心地がしなかった。
「た、助かった・・・・・・も、もういいだろ? 今回はこれで―――――」
「まだまだだなリルド。ここは本職である私が、手本を見せてやろう」
先程まで乗り気でなかったアカツキが、何故か手裏剣投げを披露しようとしていた。
「ちょっと待てー! お前さっきまで乗り気しなかった筈じゃねえかー!」
「気が変わった。こんな見事な的をみて、やらないのは忍の恥だ」
「明らかに私怨満々ですよねー!? リルド! 見てないで助けろ!」
「大丈夫だって、アカ姉は忍者なんだから、下手な手裏剣投げはしないって」
「そういう問題じゃない!」
「さあ、覚悟しろ直継ー!」
「ギャアー!!!」
アカツキは手裏剣を華麗に直継に目掛けて投げ放った。直継の悲鳴が、倉庫に響き渡った。
―――――――――――
その夜。雨が上がり、空は満天の星空が広がっていた。
リルドは外でそれを眺めていると、シロエがやって来た。
「やあ」
「シロ兄」
「眠られないのかい?」
「いや、そうじゃないけど、目がさえちゃって」
「僕もだよ」
そう言って、シロエはリルドの隣に座る。二人で星空を見上げる。
「それにしても、凄い星空だなぁ」
「現実世界だと、中々見れないからね」
「現実世界か・・・・・・もう随分昔の事のように思えるな」
「・・・・・・リルドは寂しくないのかい?」
「寂しく無い。って言うと、嘘だけど。あんまりそういうのは感じないな」
「え?」
「俺の親って、共働きだからいつも家に居ないんだ。友達もいなかったし。だから、シロ兄達が一緒にいてくれるから寂しく無い」
「リルド・・・・・・」
「あっ、そう言えば思い出しただけど、トウヤとミノリはどうしているかな? 今まで見落としていたけど、あいつらもこの事態に巻き込まれているらしいし」
トウヤとミノリ、最近シロエとリルドが面倒見始めた初心者である。大災害時、リルドは思った以上に動揺していたらしく、フレンドリストを確認する時、二人の項目を見逃していた。後日改めて確認すると、二人共大災害に巻き込まれいるのを知った。
「二人とも大丈夫かな・・・・・・」
「ギルドに所属しているみたいだから大丈夫だと思うよ。この一件が片づいたら、二人に声を掛けよう」
「そうだな、積もる話は一杯あるだろうし、先ずはアキバに帰る事が先決だな」
そう言って、夜空を見上げるリルド。しかしこの時彼は、二人がどんな境遇に陥っているのか、全く知るよしもなかった。