アキバに帰還したリルド達。彼らを迎えたのは三日月同盟であった。
「みんなお帰り! セララも本当、無事でよかったわ」
「マリエールさん・・・・・・」
マリエールの顔を見て安心したのか、セララは急に泣き出した。にゃん太が居たとはいえ、あんな環境にいたのだから無理の無い話であると、リルドは思った。
「立ち話もなんだし、うちのギルドに来ひん? 宴の用意をしとるんや」
「おお! 帰還パーティーか! それは楽しみだぜ!」
「バカ直継、はしゃぎ過ぎだ」
「いいじゃないかそれぐらい。ちみっこだって、本当は内心ワクワクしているんだろ?」
「ちみっこ言うな!」
直継とアカツキのいつものやり取りが、周囲に笑いを呼んだ。そんな時リルドは、ある少年と目が合う。
(ん? あれってもしかして―――――)
それは、エルダーテイルがゲームだった頃、面倒を見ていた初心者のトウヤであった。リルドはトウヤに声を掛けようする。
「おーい! トウ――――」
するとトウヤは何故か、その場を走り去って行ってしまった。
「どうしたん?」
「あ、いや、知り合いが居たんだけど、走って行っちゃったんだ」
「きっと急ぎの用があったのよ。落ち着いたら、話せばええんや」
「うん・・・そうだな」
「さあみんな行くで、今日は思いっきり楽しんでくれや」
そう言って、マリエールは皆を先導して行った。リルドはもう一度、トウヤが走り去った場所を見てから、後について行った。
―――――――――――
宴は大いに盛り上がった。事前に聞かされた、料理の秘訣によって、出される数々の料理は美味しく仕上がっていた。
「うめぇ! これうめぇよ!」
リルドは夢中になって食べていると、ある一人の女性が寄って来る。
「楽しんでいる? リルドくん」
その女性は三日月同盟のナンバー2のヘンリエッタである。リルドは直ぐ様間合いを取る。
「そ、そんなに距離を取らなくても・・・・・・」
「人を女装させようとしたんだから、警戒されても仕方ないだろ」
「だってぇ、素材が良すぎるですもの。可愛らしい服を着たら、もっと可愛くなるのに・・・・・・」
「俺は男だ! そういうのはアカ姉に頼めよ!」
「似合うと思うのに・・・・・・仕方ない。アカツキちゃんで我慢しましょう」
諦めたヘンリエッタは、標的をアカツキに移行する。彼女の身を案じながら、リルドは食事を再開した。
「おーい、リルドー」
しばらく食べていると、直継に呼ばれた。来てみると、三日月同盟のメンバーである小竜という少年もいた。
「どうした直兄?」
「いやな、こいつに色々とレクチャーしてる最中なんだ。せっかくだから、お前も何か教えてやれよ」
「俺に教えられる事なんてあるのか?」
「あるさ。お前は既に、レベルの先にある物を見据えているからな」
「レベルの先にある物?」
リルドがそう言うと、直継は体をガクッと落とした。
「お前もしかして、無自覚でやっていたのか!?」
「え? 一体何を?」
「いいか。レベルに頼った戦いじゃ、いつか勝てなくなる。レベルには上限があるからな。だからレベル以外に工夫を施さなければならない。どのスキルを使うか、どんな立ち回りをするか、それだけでも差が出るんだよ。
うちのシロなんかは、その事に関しては凄いぜ」
そう直継は自慢気に演説をしたが、リルドはきょとんとした表情で言った。
「戦いで創意工夫するなんて、当たり前だろ」
「当たり前って・・・・・・」
「自分より高いレベルの奴等と対等に戦うとしたら、工夫しないと先ず勝てないだろ? だから俺はスピード特化にして、相手の攻撃を当たりにくくしているんだ。これなら、どんなに攻撃力を持った相手でも、それなりに戦えるだろ?」
「まあ確かに・・・でも、攻撃はどうするんだ? そんなスピード特化にしているなら、攻撃力不足になるんじゃ―――――」
小竜がそう訪ねると、リルドはニヤリと笑う。
「ふっふっふっ、実は秘訣があるんだ。俺のサブである“復讐者”には、一定条件で発動する特殊スキルが存在するんだぜ」
そう言ってリルドは、サブ職業である復讐者について説明をし始めた。
復讐者とは、相手に対する怨みの力を持って報復する能力を持つ。それはHPを半分以下になった時、“リベンジャー”というスキルが発動。全てのステータスが大幅に上昇するのである。
「そんなサブがあるなんて・・・・・何であまり知られてないんだ?」
「ソロならともかく、パーティーを組んでいる時はあまり活用出来ないスキルなんだ。しかもデメリットもあるし」
「デメリット?」
「復讐者から別のサブ職業に変える時、ペナルティが発生するんだ。確か、レベルが幾つか下がるんだっけ?」
「うわあ・・・・・・そりゃ誰も取らないな」
「確かに、普通の人ならまずやらない職業だな」
「そういう事。まっ、それだけリベンジャーっていうスキルは強力なんだ。いつか機会があったら、見せてやるよ」
リルドは自慢気にそう言うのであった。
―――――――――――
深夜。リルドは不意に目を覚ました。
「・・・・・・ん、あれ? 俺寝てた?」
どうやら、自分はいつの間にか寝てしまっていたらしい。
辺りを見回すと、騒ぎ疲れた三日月同盟のメンバー達と直継が寝ている姿が見えた。
「・・・・・・ちょっと、トイレに行こ」
リルドは周囲を起こさないように、ホールを抜け出した。
トイレを済ませ、ホールに戻ろうとしたその時、ある一室からシロエとマリエールの声が聞こえた。
(一体何の話をしているんだ?)
興味を持ったリルドは、立ち聞きをしてしまう。二人が話していた内容は、おもしろいものではなかった。
リルド達がアキバを離れてから、PKは鳴りを潜めたが、その代わりギルド間の強い縄張り意識が発生し、強いギルドが狩り場を独占している内容であった。
(何だか、段々と歪んでいってしまっているな・・・・・・)
ゲームだった頃は、誰もが楽しめるようにと、守られていた筈のルールがあった。しかしそれらは、大災害が起きた瞬間に崩れてしまい、今では、自分の事しか考えない冒険者ばかりになっていた。
(みんな必死なのは分かる。だけど、それを蔑ろにし続けてしまったら、いつか取り返しのつかない事態になるんじゃ――――)
そう思った瞬間、マリエールからとんでもない言葉が出た。
「初心者救済を謳ってたハーメルンがな、EXPポットを売り捌いとるんよ」
その言葉を聞いた瞬間、リルドは部屋に入り込んだ。突然の訪問者に、マリエールもシロエも驚愕した。
「リルド・・・・・・!」
「い、今の話し、聞いてたんか?」
「ああ、聞いていた! 今の話本当か!?」
声を荒げながら、リルドはマリエールに訪ねると、彼女は小さく頷いた。
「くそっ!」
「待てリルド!」
飛び出そうとしたリルドの腕を、シロエが掴んで彼を止めようとした。
「離してくれシロ兄!」
「何処に行くつもりなんだ!?」
「決まってる! 初心者を食い物にしているくそったれギルドの所だ!」
「行ってどうするつもりなんだ?」
「それは――――」
「確かに、EXPポットを売り捌いている関しては、僕だって嫌な気持ちだ。だけど無闇に行動したって、何の解決にもならない」
「じゃあどうするんだよ!? このまま黙って見ていろってか!? あそこにはミノリとトウヤがいるんだぞ!」
その言葉に、シロエはギョっとした。恐らくシロエも、薄々感じていたのだろう。二人が今、どんな境遇に陥っているのか。
「今もこうして辛い目にあっているかも知れない。なら助けにいかないと!」
「・・・・・・どうやって助けるつもりなんだい?」
「それは・・・・・・」
「話を聞く限り、EXPポットは大手のギルドにも売っているらしい。下手すればそれらを敵に回す可能性だってある。もうこの事態は、一個人じゃあどうにもならないんだよ」
「だからって・・・・・・だからって見捨てるなんて俺には出来ない! シロ兄がやらないのなら、俺一人でやる!」
「リルド!」
「リルドくん!」
シロエとマリエールの呼ぶ声を無視し。リルドは一人、夜のアキバ街を駆け抜けて行った。
―――――――――――
三日月同盟のギルドホールを出ていったリルドであったが、肝心なミノリとトウヤを救出する手立てが思いつかなかった。
(一体どうすれば・・・・・・何か、何か方法は――――)
考えて歩いていると、一人の少年と出会い頭にぶつかってしまう。
「あっ、すみません」
つい素が出てしまったリルド。少年は、こちらがぶつかってしまったにも関わらず、気を使ってくれた。
「いえ、大丈夫です。それよりもどうしたんですか?」
「え?」
何の事がわからないリルドに、少年はハンカチを差し出す。
「これで涙を拭いてください」
そこでリルドはようやく気づいた。自分が泣いている事に。それは歪み行くこの世界に対する嘆きか、何も出来ない不甲斐ない自分に対する物か、リルドはどちらかは分からなかったが、まだ10年しか生きていない彼にとって、今の状況は耐えられなかった。
「あれ? 何で、俺・・・・・・泣いて・・・・・・ううっ・・・・・・」
リルドは堪えきれず、その場で泣き崩れてしまった。
それからしばらくして、リルドはようやく落ち着きを取り戻した。
「何だか、みっとも無い所を見せてしまいましたね・・・・・・」
「気にしないでいいですよ。それよりも、もう大丈夫?」
「はい、おかげさまで・・・・・・俺、リルドっていいます」
「僕はソウジロウ・セタ。よろしくねリルド」
そう言ってソウジロウはリルドと握手を交わす。
「ところでリルド、さっき君は泣いていたみたいだけど、何かあったの?」
「・・・・・・実は―――」
リルドはソウジロウに、友人が悪質なギルドに所属している事を話した。
「その話は知ってるよ。そっか、君の友人が・・・・・・」
「もっと早く合流していれば、こんな事にならなかった筈なんだ」
「過ぎた事を考えても仕方ないよ。それよりも、友達を助ける方法を考えなくちゃ」
「それはわかってはいるんですけど、その方法がわからないんです。ずっと考えているけど・・・・・・」
「なら、僕達“西風の旅団”も力を貸そう。僕も、今の現状を放置するのは良くないと思うから」
ソウジロウその言葉に、リルドの表情は明るくなったが、また直ぐに沈んでしまった。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、やっぱり迷惑を掛けられない」
「どうして?」
「EXPポットは、レベル30以下の冒険者に支給される。つまりあいつらにとって初心者はEXPポット製造機みたいな物だ。そんな金づるを簡単に手放すとは思わない。それに、話を聞くところ、大手のギルドもEXPポットの取り引きをしている。下手すれば、奴等も敵に回すかも知れないんです」
マリエールの話を聞く限り、シルバーソードと黒剣騎士団の大手ギルドは、EXPポットの取り引きをしている。もしこの二つが敵に回ってしまえば、如何なるギルドも太刀打ち出来ないであろうと、リルドは思っていた。しかし――――。
「そうやって、自分一人背負い込むのは良くないと思う」
「え?」
「人間、一人でやれる事はたかが知れている。だからこそ、仲間の力を借りるんだ。そうすれば、どんな困難だって乗り越えられる」
「仲間・・・・・・」
「君だっているだろ? 共に歩む仲間が」
ソウジロウの言葉で、リルドの脳裏にシロエ達の姿が過った。
「そうだよな・・・なに一人で考えていたんだろう・・・・・・」
そう呟いた瞬間、シロエから念話が来た。リルドは驚きながらも、直ぐに繋いだ。
『リルド?』
「シロ兄・・・・・・」
『その・・・・・・さっきはごめん』
「え?」
『僕は諦めかけていた、でも考えてみれば、まだ何もしてないのに、諦めるなんてかっこ悪いよね』
「それじゃあ――――」
『うん。諦めるのは、やれる事をやってからにしようと思う』
その言葉を聞いて、リルドはとても安堵した。シロエがいるなら、きっとなんとかなる。リルドはそう思えた。
『でも、僕一人じゃ無理だと思う。力を貸してくれないか?』
「ああ! もちろん!」
リルドは普段通りの元気良い返事をした。
念話を終えると、リルドは改めて、ソウジロウに礼を言った。
「ありがとなソウジロウ。おかげで何とかなりそうだ」
「そうみたいだね。あとこれ」
そう言ってソウジロウは、リルドとフレンド登録をする。
「力になれる事があったら、いつでも呼んで」
「ああ! ありがとうソウジロウ!」
リルドはそう言うと、勢いよく走り出した。そして彼の背には、夜明けの光が射した。
―――――――――――
ギルド開館に到着する頃には、夜が明けていた。そしてそこには、アカツキ、直継、にゃん太、そしてシロエが待っていた。
「何処に行っていたんだよリルド」
「勝手いなくなるから、心配したんだぞ」
「ともかく、無事で良かったにゃん」
「えっとその・・・・・・みんなごめん」
リルドが素直に謝ると、四人は優しく微笑んだ。そしてシロエは、リルドにある事を言う。
「いきなりなんだけどリルド。僕のギルドに入らないか?」
「え!? シロ兄・・・・・・」
「僕一人じゃ無理かも知れないけど、みんなが一緒なら、このアキバを元の心地好い場所に戻せるかも知れない。その為のギルドを作ったんだ。リルドも来てくれると助かる」
シロエのその言葉に、リルドは迷わず答えた。
「もっちろんだよシロ兄! 寧ろ、誘ってくれて嬉しいぜ!」
リルドはとても嬉しそうに笑い、それを見たシロエもまた、嬉しそうに微笑んだ。
「ところで、何て名前にしたんだ?」
そう尋ねると、シロエは少し得意気に言った。
「パルムの深き場所で見たあの地平線を見て思いついたんだ。《記録の地平線―――ログ・ホライズン》」
その名前を聞いた瞬間、リルドは予感した。これまでがプロローグで、これからが本当の物語が始まるのだと。