パパのいうことを聞きなさい!――双子の弟は頑張ります――   作:四宮 (陽光)

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四日連続更新です。ついでにテスト一週間前。
なのに更新する自分は馬鹿でした。
なんか結構スラスラと書ける様になったかなと、自意識過剰な今日この頃。

それでは、どうぞ。


第十二話 某蛇の人

兄さんの初恋騒動から三ヶ月が経ち、僕たちの住む八王子は夏真っ盛り。

そして、学生の天敵であるテスト期間も今が最高潮。

終業チャイムがなると同時に教室のあちこちから様々な感情を乗せた溜息が零れる。

因みに僕の右隣が乗せる感情は失望、だろうか。

 

「ダメだぁ……」

 

「お疲れ様ぁ。はい、兄さん」

 

「ほいよ」

 

そんな右隣の仁村君を労いながら左隣の兄さんに僕と仁村君の答案を重ねて回す。

……まぁ、仁村君の答案は溜息も頷けるほどに埋まっていなかったのだけれど。

 

「つーか国文科に英語のテストなんていらないだろ?この国の言語は日本語じゃん」

 

「まあまあ。言いたいことはわかるけど」

 

「世界的な公用語は英語なんだし覚えていて損はないだろ?」

 

「俺は一生日本から出ない!」

 

「無駄に気合の入った決意だね」

 

「てか、お前この間から良く遊んでる女の子って留学生じゃなかったか?」

 

「あの子の故郷は中国。俺、中国語なら少しはしゃべれる」

 

机の上でうだりながら応える仁村君。

仁村君は女の子のためならなんでもできる気がする。そのうち今日の決意なんか忘れて女の子目当てに海外に行きそうだよ。

まぁ、こんな地獄のテスト期間も今日で終了な訳で。明日からは学生たちの希望、夏休みだ。

お祭りに海水浴、プール、花火etc…。挙げればキリのない程の娯楽、そしてそれをするための時間もあるけれど生憎僕にはあまり縁がないことなんだよね。彼女がいるわけでも無いし。友達はそれなりにいるけどみんなサークルとかで忙しいらしいし。

そんな訳で夏休みはちょっとバイトでもしてみようかなぁ、なんて考えてます。そういうのは普段兄さんに結構頼っているから少しでも楽にしてあげないと。

それに兄さんは夏休みもやることがあるだろうし、ね。

 

「それじゃ、試験も終わったし部室に行くか」

 

「オレも久々に顔出しとこうか」

 

「來香ちゃんや佐古先輩、いるかな?」

 

そんな事を言いながら、兄さんと仁村君の後に続いて教室を出て行く。そしてもう完全に覚えた道のりを歩きサークル棟へ向かう。

そう。僕たち三人は結局、路上観察研究会―――ロ研に無事入会したんだ。これがさっき言ったことと重なる。夏休みも勿論サークル活動はある……はずなので、兄さんには頑張って來香ちゃんと二人きりになってなんとか距離を縮めてもらおうというわけ。バイトの理由はロ研に行くことのできないという口実作りでもあるんだ。仁村君はすでに了承中。というか、僕の前を歩くイケメン君は他のいろんなサークルにも顔を出しているらしいし、女の子との約束もあるらしいから元からそんなに来れないっぽいし。

問題はあまり空気の読めそうに無い佐古先輩かなぁ。

そうこう考えながら蛇行する坂道をゆるゆる歩き、傾斜角の大きい階段を登るとあるのが目的地のサークル棟。文化系や体育系のサークルの部室が所狭しと詰め込まれた此処の二階の一室が僕達ロ研の部室である。

コンクリートがむき出しの階段を登って二階に上がるとなんか不自然なモノがあった。

具体的に廊下の真ん中にR18な雑誌が三冊、強烈な違和感を発しながら鎮座していた。

うん。噛み砕いて言えばエッチな本。そしてその奥にはもっと強烈な違和感を発するダンボール箱があった。横のポーチといい、覗き穴と思わしきスリットから窺う目といい完全に―――

 

「―――莱香ちゃn「気付いてない振りをしろ」……」

 

「いや、あれはどうかんがえても織田先p「気付いていない振りをしろ」……はい」

 

兄さんに黙らされる僕と仁村君。いや、どう考えても莱香ちゃんだった。よく見たらダンボールにも『らいか』と書いてあった。あれでも本気で隠れているつもりなのが莱香ちゃんなんだ。というか何のためにそんな某蛇の人の真似をしているんだろう?それにこの床のエッチな本。この三ヶ月間結構な頻度で会っているけど相変わらず行動原理がナゾな人である。

 

「わ、わあ。こんなところにえっちな本がー」

 

エッチな本を拾い上げながらの兄さんの見事なまでの棒読みな台詞。いや、いくらなんでもそれはないよ兄さん。てか、何にも気付いていない振りをして演技をするの!?

 

「ほら、なんと破廉恥だとは思わないかー―――我が弟よー」

 

「え゛……」

 

しかもここで僕に振ってくるの!?僕、こんな茶番劇するの嫌なんだけど!

いや、でも、兄さんの必死な目を見ちゃうと……あぁ、もう!なるようになれ!

 

「ほ、ほんとだー。ほら仁村君もそう思うよねー?」

 

「!?」

 

残り二冊の本を拾い上げ、一冊を仁村君に手渡す。ふふっ、こうなったら仁村君も道連れだよ。

なんかすごい顔してるけど、さっき僕が巻き込まれたときに安心した顔したのちゃんと見てたんだから。

兄さんにも小突かれ仁村君も渋々演技し始める。

 

「な、中身もみてしまおうかー……うわ、なんだこれはー」

 

「どれどれー、みんなで交換しようではないかー」

 

「う、うん。そうだねー」

 

微動だにしない莱香ちゃんを傍目に演技を続ける僕達。互いに持っているエッチな本を交換して中身を見る。見開きで大胆なポーズをとる水着の美人さんがいた。僕は正直あんまりこういうのに興味が無いんだよね。仁村君は経験豊富な所為かあまりこういう本をみてもあまり何も感じないらしい様子。

そして兄さん。ロリ系?ていう感じのかなり過激そうな漫画をみて「うお…」とか思わず素の反応らしきものをみせていた。いや、兄さん、ソレも演技なんだよね?さすがに二次元《そっち》はダメだって。莱香ちゃんも見てるの忘れてないよね?え、ちょ、なんで懐に隠そうとしてるの!?まさかお持ち帰りするんですか!?いや、ちょっと弟としてソレは流石に見過ごせないっていうか……ッ

 

異様な空気が漂う廊下に突如、まるで不釣合いな明るい音が鳴り響いた。そしてその音の発信源であるダンボール箱の上部が開き、中から莱香ちゃんが携帯を耳に当てながら出てくる。

 

「うん……うん、わかった……」

 

何度か相槌をうった後に電話を切るとこちらを振り向いた。

 

「会長、今日は来れないって」

 

「は、はあ。そうですか……」

 

「部室行く」

 

何事も無かったかのようにダンボールを丁寧に畳んで脇に抱え部室に入っていく。そのダンボール、気に入ってるんだね……。

こう、なんていうか、いたたまれない空気を引き連れて僕達は莱香ちゃんの後に続いて部室には入る。

 

室内は一週間近く出入りしてなかった所為か少しホコリ臭い。この暑い部室にはクーラーはないため、兄さんと莱香ちゃんと一緒に窓を開け放ち、唯一の空調設備である扇風機の配置を工夫したりしてなんとか涼を取ってみた。ホントは綺麗好きの仁村君と一緒にこの部屋の掃除をしたいんだけど、残念ながら今日はこの後用事があるんだよね。因みに仁村君は僕がこの後用事があるって言ったら、兄さんと莱香ちゃんを二人きりにするため気を利かしてすでに帰宅しました。僕と一緒のタイミングで出て行ったら少し変だしね。

 

「それじゃ、僕は用事があるから行くね」

 

「そう。じゃあ、また」

 

「いってらっしゃい」

 

二人に挨拶して部室を出る。約束した時間には少し早いけど、早めに待っといた方がいいし二人きりの時間は多いほうがいいだろうしね。

 

 

扉の向こうから聞こえてくる兄さんのなにやら慌てた声にくすりと笑いながら僕は待ち合わせ場所へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

……兄さん、エッチな本持って帰ってこないよね?

 

 

 

 

 

 

 





気を使うっていうのは大事ですよね。


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