パパのいうことを聞きなさい!――双子の弟は頑張ります――   作:四宮 (陽光)

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第二話 ぷろろ~ぐ2

 

 

 

 

 

 

「トイレはダメー!」

 

 

 

 

早朝。5人が住むにはいささか狭過ぎる部屋に小学生の悲鳴が響き渡る。僕は朝食を準備する手を止め、悲鳴の主の方へ耳を傾けてみる。断片的に聞こえてくる会話から察するに、どうやらうちの兄さんが、トイレ、お風呂、洗面台が1つになったユニットバスに入ろうとしたところを、金髪ツインテールの美少女小学生―――美羽ちゃんに止められたらしい。何でも、女子が入った後は1時間空けないとトイレに入ってはいけないらしい。我が瀬川家の次女の談です。つまるところ、この部屋はユニットバスなので、トイレどころか顔も洗えない。……やはり、男には分かりにくい年頃の女の子なんだろう。止まっていた手を再度動かして朝食の準備を終えると、ちょうど兄さんが、ボサボサの頭で食卓についたところだった………説得の甲斐も虚しく、顔を洗えなかったらしい。僕のように早起きすれば、というのは昨日夜のバイトだった兄さんには酷ってものだ。今日の帰りにでもフローラルな香りの消臭剤でも買ってこよう。数分前兄さんもそんな事を考えていたと知るのはもう少し後の話。

 

「おはよう、兄さん」

 

「おう、おはよう。頭に関しての質問は受け付けん」

 

「了解。というか空ちゃんたちの行った後に後にすればいいじゃん」

 

「あ~。そうだな」

 

兄さんと軽く会話。兄さんの頭がこんなままの原因の小学生は今荷物の再チェック中らしいです。すると、行儀良く食卓についていた我が家の天使こと、3歳児のひなちゃんが兄さんの頭を見て

 

「おいたんのかみぼーんってなってるねー、ぼーんって」

 

盛大に笑い出す。この年頃の子は笑いの沸点が低い。でも、素直でとっても可愛いんだよね。

 

「ひな、あんまり笑わないでくれ。ことによると、俺はこの頭のままで大学に行かないといけないんだから」

 

「そうだよ、ひなちゃん。おいたんだって好きでこんな頭でいる訳じゃないんだから」

 

ちょっと、ひなちゃんをたしなめる。それにしても不憫だ。あの頭のままで大学に行けというのはつらい。

 

「おくれちゃいましたー、ごめんなさい。ちょっとプリントの確認に時間かかっちゃいました」

 

「もー、美羽ったら。そういうのは前日にやっときなさい」

 

そんなことをカケラも気にしていなさそうな美羽ちゃんが、セミロングの髪をした中学生の姉―――空ちゃんと一緒に食卓についた。この家では空ちゃんは兄さんよりも上の立場を確立している恐るべき中学生です。ちなみに今朝の献立はトーストにコーンスープ、オムレツにサラダといういたってシンプルなものだ。

 

「んじゃ、食べようか」

 

「そうだな。いただきます」

 

「「「「いただきます」」」」

 

兄さんの号令で皆一斉に朝食を食べ始める。一応この中では一番年上なのです。立場的には下だし、威厳もあるとは言いがたいんだけど。

 

「もー、祐お兄ちゃん、朝食前に顔くらい洗ってよ」

 

空ちゃんが兄さんの若干脂ギッシュな顔を見て言う。出来ればその文句は平然とご飯を食べているあなたの妹に言って欲しいなぁ。兄さんもそう思ったのか反論しようとしたが口にする間も無く我が家の姫の要求が来た。

 

「ひな、いちごのじゃむー!」

 

「はいはい。今とってあげるからあんま付け過ぎちゃダメよ」

 

「翔叔父さん、あたしサラダだけでいいって言ったじゃないですか」

 

「それはダメです。女の子でも朝はしっかり食べなきゃ体に悪いよ」

 

「ああっ、もう!ひなっ、ジャム付け過ぎちゃダメって言ったじゃない」

 

「やー、べとべとするー」

 

「あ、こら、あんまり動いたら………」

 

バシャ!

 

「あー、ひなが牛乳こぼしたー」

 

「ああっ、大変!制服にかかっちゃったっ」

 

「お姉ちゃん、はい、布巾パス!」

 

「ありがとっ。美羽はそっち拭いて!」

 

朝から随分とにぎやかだ。ついこの間までは男二人がテレビ見ながら飯食うだけの虚しい空間だったのに。朝食も作ってはいたけどこうしっかりしたものを作るのは珍しかった。

 

「ちょっと、お兄ちゃん達!ボーっと見てないで、拭くの手伝って!」

 

我が家のしっかり者の長女、空ちゃんに怒られる。空ちゃんはホント中学生とは思えないほどしっかりしていて一緒に暮らし始めてから兄さんはよく怒られてばかりいる。……僕?僕はあまり怒られない。怒られるようなことはしていないからね。でも、この前同期の女の子と歩いてたら猛烈に不機嫌になって、しばらく口きいてくれなかったなぁ。なんでかは今でも謎です。ま、そんなことは置いといて。僕もひな救出作戦に参戦しなくては。

 

「はいはい」

 

「ゴメンね。つい考え事してて………ていうか、兄さんの服にも牛乳かかってる」

 

「え、マジで!?」

 

「あー、待って。あたしが拭いてあげますから。ジッとしててくださいね」

 

次女の美羽ちゃんはとにかく大人っぽい。ときどき小学生ということを忘れてドキッとしてしまうがそれは内緒だ。もちろんその印象は僕だけのものじゃなくて、今なすがままに服を拭いてもらっている兄さんも複雑な表情をしている。

 

「おいたん、おいたん!」

 

「んー、なんだひな」

 

そして、三女のひなちゃん。三歳だ。僕達双子の姉さんの娘で、三人の中では唯一血のつながりがある。

 

「おいたん、あたまぼーんってなってる!」

 

「それはさっき聞いたって……」

 

やめたげて!兄さんのライフはもうゼロだ!………ゴホンッ。こうしてにぎやかな朝を迎えるのも今日で二週間ほどだ。完全にとは言い難いがこの光景もすでに日常と化してきている。

 

「叔父さんたち、今日はバイトですか?」

 

「俺は大学行って、一度帰ってから行くよ」

 

「僕は兄さんと違ってシフトが少ないから、今日は無いよ」

 

「じゃあ、今日はみんなでお夕飯食べられるんだ」

 

空ちゃんが少し嬉しそうに言う。

 

「ひな、はんばぐ!」

 

「もう、ひなってば、そればっかり」

 

「んじゃ、僕も張り切っちゃおうかな!」

 

「ちょっと待って翔お兄ちゃん!今日は私が作る!」

 

空ちゃんが発した一言によって食卓の空気が凍った。唯一ひなだけは、美味しそうにいちごジャムたっぷりのパンを頬張っていたが。

 

「お、お姉ちゃんが作るの?」

 

「で、できれば、翔一人に任せたほうが……」

 

「そ、空ちゃんは次の機会に、ね?」

 

「ひな、にいにのはんばぐたべたい!」

 

「こ、今度は失敗しないわよ!ほんとに!絶対!間違いなく!」

 

僕達の頭の中では炭素の塊となったハンバーグが列を成して踊っていた。怖い。

 

「よし!じゃあ、翔!今日は任せた」

 

「美味しいの頼みますね」

 

「ひな、あいすもたべたい」

 

「任せてよ。アイスは大学の帰りにでも買っとくからね、ひなちゃん」

 

「あ、アンタたち……」

 

空ちゃんが顔を真っ赤に染めて両手を震わせる。

 

「ぜーったい、私が美味しいの作ってやるんだから、覚悟しなさいよ!」

 

グシャ

 

宣言と同時に、その手の中にあった牛乳パックが握力に耐え切れず無残に潰れた。飛び散る白い液体。

 

「あーっ、お姉ちゃん!まだちょっと残ってる!」

 

「きゃあーっ!」

 

「あははは!おいたん、あたまぼーんぼーん!ねーたんもぼーん!」

 

「兄さん、ティッシュ取って!」

 

「了解!」

 

返事と同時にティッシュを取りに行った兄さんだが、フト、動きが止まった。どうしたのだろうと、兄さんの視線の先を見てみると理由がわかった。てか非常にまずい。

 

「ヤバイ!ひなの保育園に遅刻する!」

 

「えーっ!」

 

「急いで食べろ!朝食抜きなんて保護者として許さないぞー!」

 

「空ちゃんたち、あとは僕が拭いとくから早くご飯食べちゃって」

 

空ちゃんからティッシュを受け取り飛び散った牛乳を拭いていく。

 

「はーい!」

 

ひなは可愛く返事をしてトーストにかぶりつく。

 

「了解です。翔叔父さんすいません」

 

そう返事をすると、アイドルのような小さい口にこれでもか!ってほどのトーストやサラダを詰め込み始める美羽ちゃん。その口はブラックホールですか?

 

「ありがと、翔お兄ちゃん。………保護者ってよりもお義兄さん?」

 

なにやらブツブツ言いながらもテーブルに座ってもぐもぐと朝食を頬張る空ちゃん。頬がちょっと赤いのは何でだろうか?そんな空ちゃんを横目に見ながら兄さんも負けじとトーストを口に押し込んでいく。そんなみんなの様子を微笑みながらみる僕。すでに食べ終わっている。何時の間にとは聞かないで。この後は兄さんがひなを保育園に送って、大学行って、バイトして、僕は5人分の夕食作って。こんなのが日常になるなんて2週間前はとてもじゃないが思いつかなかっただろう。ましてはこの子達のパパになるなんて。まだ、大学生で成人もしてない僕らに。

 

この狭い部屋での5人の共同生活は――――――――――――こんな感じでスタートしました。

 

 

 

 

 

 

 

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