パパのいうことを聞きなさい!――双子の弟は頑張ります――   作:四宮 (陽光)

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第三話 よよよ?その1

 

 

 

 

 

「よよよ……」

 

「うぷッ、気持ちわる……え?なにこれ?どういう状況!?」

 

「織田くん!もっと感情込めて!」

 

「こんなのする必要あるんですか?」

 

「さぁ?オレに訊かれても?」

 

真っ暗な部屋。僕はそこで、さっきのコンパで知り合った仁村君と一緒に双子の兄にスタンドライトを当てていた。ライトに照らされている兄さんは困惑しており、その視線の先には無表情でモデルのようなスタイルの美人女先輩―――織田來香さんと、小太りで肩幅の広い眼鏡の男先輩―――佐古俊太郎さんが思わず呆れた視線を送りたくなるようなやッッッすい三文芝居を繰り広げている。いわゆるカオスな状況ってところ。僕はそんな兄さん達に呆れた目(ついでにライト)を向けながら数時間前の出来事を思い出していた―――――――

 

 

 

 

 

□ □ □ □ □ □

 

 

 

 

 

「それではッ!新しい仲間の誕生を祝して、乾杯ッ!」

 

『『『かんぱ~い!!』』』

 

乾杯の音頭がそう広くない居酒屋に響き渡る。そこでは数十人の若者が三三五五にテーブルに散らばっていて、ある人はこれから先の生活への期待や不安を語り、ある人はそんな事を話す者を温かい眼で見ながら時には必要事項を教えたり自分の経験を語ったりしている。他にもサークルの勧誘であったり、講義の内容であったり、会話は様々ではあるけど共通していることといえば皆和気藹々としていることかな。前述で察する事のできた人は多いと思うけど今は新歓コンパ―――多摩文学院大学文学部新入生歓迎コンパの真っ最中。隣の席には兄さんとナゾのイケメンさんが居る。そしてそのイケメンさん目当てか女の人が三人程、対面の席に座っていた。正直居心地が悪い。だって―――

 

『ねえねえ、そこのキミ。名前はなんていうの』

 

「仁村浩一って言います。先輩みたいな美人に名前を聞かれるなんて光栄ですね」

 

『あら、お上手ね』

 

『あ~!ズルイですせんぱ~い。抜け駆けは駄目ですよ~』

 

『そうですよー。仁村クンは特技とかあるの?』

 

「特技ってほどじゃないけど料理はするよ。今度オレん家でご馳走しようか?」

 

『え~!ホント~?いいの?』

 

「全然構わないよ。あ!先輩やキミ達もどう?」

 

『じゃあ、頂こうかしら』

 

『やったー!すっごく楽しみだなー、仁村君の手料理』

 

 

 

こんな会話がずっと繰り広げられているんだもん。明らかに僕が居るべき場所じゃないっていうのが分かる。それにしても、イケメンさん―――仁村くんって言ったっけ?仁村君はこういう状況に慣れてるみたいだ。やっぱりイケメンさんは違うね。でも巻き込まれないだけマシかな。そう思ってグラスのビール(もちろんノンアルコール)を煽ろうとする。でも、そこで何故か前の席の女の人の一人が急にこちらを向いた。あれ?さっきのはフラグ?

 

『あれ~、こっちの子よく見たらすごく可愛くないですかぁ』

 

『あら、ホントねぇ』

 

『キミ名前は?』

 

巻き込まれたー!ていうか、フラグでした。僕はいいからどうぞ向こうのイケメンさんに戻って下さい、お願いします。こういうのあんまり得意じゃないんだよねぇ。積極的な女の人は苦手だし、そういうことに興味があまり無いし、顔にも自信が無い。でも名前聞かれたんだし一応名乗らなくちゃ。そこから兄さんにでも関心を移らせることにしよう。兄さんゴメンね。

 

「あ、瀬川翔太って言います。で、隣に座っているのが僕の兄s―――――ってどうしたの兄さんッ!?」

 

紹介する(生け贄に捧げる)為に横を向いたら兄さんが倒れていた。慌てて顔を覗き込んでみる。顔が赤いが熱でもあるんじゃ!「……グゥ」

 

「…ッ!」

 

握り締めた拳をなんとか収める。寝てるだけとか。まったく、心配して損したよ。ていうかノンアルコールビールって知らなかったのかな。気分だけで酔ってしまえる兄さんは逆に尊敬すべきなのかもしれない。

でもこれはある意味好都合。新歓コンパも仁村君と女の人たちの会話を時々聞きながらご飯を食べてたおかげでもう終盤。兄さんのことを理由に一足早く退散しても空気を乱すことは無いだろう。二次会とかにも行かなくて済むし。そう結論付け、口を開く。

 

「すいません。兄が潰れてしまったようなのでお先に失礼します」

 

『ええー、残念』

 

『ていうか、ノンアルコールで潰れるって…』

 

『じゃあね~』

 

よし成功!お金をテーブルの上に置いて席を立つ。そして隣の兄さんを担ごうとするんだけど……重い!僕は非力な方だから自分よりちょっと重いくらいの兄さんはキツイ。いろんな持ち方を試してみるがどれも上手くいかない。入り口の方まで移動するのがやっとだ。はぁ、しょうがないから今日はタクシーでも拾って帰ろうか。…出費がかさんじゃうなぁ。そう試行錯誤していると、予期せぬ言葉が後ろから聞こえてきた。

 

「おい、大丈夫か?」

 

振り向くとさっきのイケメンさん、もとい仁村君がこっちに歩いてくる。

 

「僕、力無いんで担げなくて。でもタクシー拾いますから大丈夫です」

 

「金とか大丈夫か?」

 

「まぁ出費は痛いですけどそうしなくちゃ家に帰れませんから」

 

「オレが担いでいってやろうか?」

 

「へ?」

 

「だから、オレが担いでいってやるよ。家は何処だ?」

 

「男子寮ですけど…」

 

「んじゃ、問題無いな。行くぞ」

 

「あ、ちょっと!」

 

仁村君は兄さんを担ぎ上げるとさっさと店を出て行く。でも、さっきの女の人たちはいいのだろうか?…すごく落ち込んでるよ。まぁ仁村君目当てで席まで来たのに終了前に帰られちゃったらねぇ。僕と兄さんも帰るからあの席には女の人三人だけだし。

 

「お~い!早く来いよー!」

 

「あ、今行きまーす!」

 

仁村君が呼んでくる。

 

ヤバイ、ヤバイ。さっさと行かなきゃ。折角兄さんを背負ってくれているんだから待たせちゃ駄目だ。慌てて店を出て仁村君のところへ向かう。

 

だからだろうか。僕はまだ後ろの二つの影に気がつかなかった―――

 

 

 

 

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