パパのいうことを聞きなさい!――双子の弟は頑張ります――   作:四宮 (陽光)

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第四話 よよよ?その2

 

 

夜空に浮かぶ月と、薄暗い街灯が僕らを照らす。

 

東京とは名ばかりの緑溢れる風景は夜になると若干怖い。

 

何故そんな道を歩いているのかというと理由は単純なこと。

 

僕らが通うことになっている多摩文学院大学はなんと山の緩やかな斜面の上に建っている。

 

まぁ入学説明会の時は正直こんなところにくるとは思ってなかったよ。

 

そしてそんなところにある大学の寮は、大学を挟んで居酒屋の反対側に位置するので自然と大学の前を通らなくちゃいけない。

 

だから今僕は兄さんを背負った仁村君と一緒にこの自然の多い田舎道を歩いているわけだ。

 

「ホントありがとう。助かったよ」

 

「いーや、気にすんなって。目の前に困ってる奴がいたら助けるのが当然じゃん」

 

…おぉ。顔だけじゃなくて、言動もイケメンだ。いい人っぽい「ただ、もうちょっと女の子と喋ってたかったな」…まぁ、ちょっと遊び人みたいな雰囲気はあるけど。

 

「そういや、自己紹介途中で遮られたけど瀬川、だっけ?」

 

「うん。そっちは仁村君っていうんだよね。女の人たちとの会話で聞いたけど」

 

「そう。んで、これが双子の兄貴だっけか?」

 

これ、の部分で背負った兄さんを指す仁村君。

 

「そうだよ。まったくノンアルコールなのに気分だけで酔えるとか、我が兄ながら呆れちゃうけどね」

 

まったく。起きたら説教してやらなきゃ。

 

「ハハッ、面白い奴だな。ていうか、ホントに双子か?全然見えないけど」

 

「よく言われるけど、れっきとした二卵性双生児だよ」

 

そう。僕と兄さんは双子というには大分疑問に思うほど似てない。

 

兄さんは普通の一般的な顔立ちなんだけど、弟の僕は何故かそんな兄じゃなくて祐理姉さんにそっくりな顔立ちをしている。

 

つまるところ、女顔。無論精神はちゃんと男だし、あるべきものはちゃんとついてる。ただ、ちょっと非力かな。といっても男にしてはってくらいだけど。

 

そんな自分の容姿について考えてると聞き逃せない言葉が耳に飛び込んできた。

 

 

「…可愛い顔してんなぁ(ボソッ」

 

ザザァッ!

 

「ゴメン!僕そんな趣味ないから!」

 

「あー、ゴメンゴメン!ウソウソ!冗談だから戻ってきてッ!」

 

アヤシイ。一瞬見えた横顔がとても冗談を言う顔には見えなかったよ。

 

そうは思いながらも仁村君の背中には兄さんがいるので仕方なくとった距離を縮める。

 

こんなに過剰に反応をとらなくても良いんじゃないかと思うかもしれない。

 

でも僕はこの女顔のおかげで男から告白されることもあったんだ。

 

それも思い出したくないけど十人以上。アレはホント黒歴史だよ。中にはコッチが男だと知ってて尚も食い下がってくる人もいたし。

 

そんなことがあったから冗談といわれてもイマイチ信用できない。

 

でも、こんなこといってると相当自分に自信がある人みたいに聞こえるよね?ちょっと複雑…。

 

そんな理由が一割。まぁそんなわけで微妙に距離をとりながら歩いているともう大分大学の近くに来ていた。

 

「も、もうすぐ大学だな~?」

 

「…そうですね」

 

仁村君はあからさまにコッチの様子を窺うような声を掛けてくる。残念ながら僕はまださっきの発言を忘れているわけでは無いのですげなく返答。そうして次の角を曲がったときにソレは起きた。

 

「だ、大丈夫ですかッ!?」

 

後ろから聞こえた若干棒読みの声に僕も仁村君も思わず振り返ってしまう。そこには小太りで眼鏡を掛け、シャツをジーパンの中にインした典型的なオタクのような人。それにモデルのようなスタイルをした美人が居た。…なんだろう?見覚えがあるような?

 

「あれ、さっきのコンパに居た先輩じゃないか?」

 

いつの間にか距離を詰めて隣に立っていた仁村君の言葉で思い出した。

 

確かに居たような気がする。そのことには感謝するけどさりげなく距離をとる。

 

まだ疑惑は消えない。…根に持ってる訳じゃないよ、決して。用心深いと言って欲しいな。

 

距離をとられたことにショックを受けている仁村君を無視して再び先輩方に視線を戻す。

 

さっきはスルーしたけど女の先輩は道路の真ん中に倒れており、男の先輩はそれの隣でなにやら騒いでいる。

 

普通なら慌てて駆け寄って安否などを確認するところなのだろうが、今そんなことをする気は起きない。

 

別にいま不機嫌な訳でもなければ、人助けなんてしても得なんてない、みたいな薄情な考えを持っている訳でもない。では、何故か。

 

「……あうぅ。」

 

女の先輩が明らかに棒読みだから。明らかに演技と分かる。というかアレで本当に演技をしているつもりなのだろうか。顔もありえないほど無表情。現に男の先輩も慌てている。

 

「織田くんッ!もっと苦しそうにッ!」

 

すいません。声を抑えてるつもりでしょうがバッチリ聞こえちゃってます。

 

それに居酒屋を出てからなにやら後ろでコソコソしている人が居ると途中で気がついたんだけど、この様子だと先輩達が機会を窺っていたみたいだ。

 

でもなんでこんなことをする理由が分からない。意見を求めるように仁村君のほうを見てみるけど困ったような苦笑を浮かべるばかり。どうしよ…

 

「……うわあああ」

 

「なんて苦しそうなんだ!誰か手を貸してくれる人はいないのかッ!」

 

こちらが何のリアクションも起こさない所為か演技が激しくなった。ていうか近所迷惑なんでやめてください。もう十二時ですよ。それにコッチをチラチラ見るのもやめてください。助けませんよ。演技でしょうけど。

 

「おぉ!あっちに助けてくれそうな大学生二人組みが居るぞ!」

 

あ、ついに指名してきた。流石に業を煮やしたのだろう。でも、先輩。兄さんも居るので三人です。しかしこうしていても仕方ないので仁村君ともう一度顔を見合わせ、先輩の方へ近づく。

 

「どうされたんですか?」

 

一応形式的に聞いてみる。心なし冷たい口調になったのはしょうがないことだと思う。

 

「この人がいきなり倒れたんだ!近くの大学のサークル棟まで運んでくれないか?」

 

何で病院じゃないんだろうか。そしてなんとなく目的が分かった気がする。まぁ、もう深くはツッコムまい。いちいち水を差していても時間の無駄になっちゃう。言われた通り女の人を背負おうとすると仁村君から声がかかる。

 

「大丈夫か?俺がやってもいいぞ?」

 

「大丈夫。女性一人運べないほどひ弱じゃないよ。…僕は男だし」

 

「だぁから誤解だってッ!」

 

「それに仁村君に運ばせるのはなんか危険そうだし」

 

「まさかの信用ゼロッ!」

 

別段驚くことでもないと思うんだけど。それにしても女性の方はすでに苦しそうな演技を止めていて、ただ目を閉じているだけ。…なんか運ぶ気失せるなぁ。しかも結構身体を密着させなきゃいけないからグラビアモデルが見たら泣き崩れそうなほど豊満な胸が背中に当たってちょっと辛い。いや、僕だって男だし決して嫌なわけじゃないけど。

 

そんなこんなでサークル棟までのクネクネとした坂を、先輩を背負いながらえっちらおっちらと登って行く。小太り先輩は僕らの一歩先を歩き先導する。そして着いた先はサークル棟のたくさんある部室の一つ。どうやらこの人達のサークルのものらしい。ただ入り口のネームプレートに『路上研究会』と書いてあったのは出来れば見なかったことにしたい。活動内容が不明過ぎるよ!?

 

とりあえず目的地に着いたので先輩を下ろさせてもらう。

 

「……なかなかの乗り心地だった」

 

相変わらずの無表情でコッチを向いてお礼?を言ってくる先輩。正直どう返したら良いのか分からない。とりあえず、いえいえ、と返しておく。そんな先輩は小太り先輩の元に歩いていくと、なにやら話しだした。その間に兄さんを壁際に下ろしている仁村君に話しかける。

 

「これ、どういうことかな?」

 

「わかんないけど、なんか始まるっぽいぞ」

 

そう言われて振り返ると先輩達がコッチを向いて並んでいる。そしておもむろにポージングをとる。

 

「……ようこそ」

 

「路上観察研究会へ!」

 

デデーン!

 

そんな音が今にも聞こえそうなポーズで高らかに宣言する先輩。もっとも高らかにというのは小太り先輩にしか当てはまらないけど。反応を窺うようにこちらを見るのでとりあえず一言言っておこう。

 

 

「これは一体なんですか?」

 

 

 

 

 

 

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