パパのいうことを聞きなさい!――双子の弟は頑張ります―― 作:四宮 (陽光)
翌朝―――――
ジュウウウウ
フライパンの上でベーコンが跳ねる。跳ね飛ぶ油に注意しないといけないな。火傷しちゃうし。
そんな僕は朝食の準備中。メニューはトーストに目玉焼きにカリカリベーコン。それにスープにサラダ。一般的な洋風ブレックファースト。
兄さんと仁村君はまだ就寝中。二人共幸せそうな顔をして寝ています。少し羨ましい。
そうこうしているうちにベーコンが良い具合に焼けたのでお皿に移す。スープやサラダは既にお皿に移してあるので大丈夫。あとはトースターからパンを三枚出して、と。コレで完成。
一限目まではあと一時間くらいなのでちょうどいいくらいかな?といっても此処から大学までは歩いて五分程度だからもう少し遅くても大丈夫なんだけど。でも、お弁当も作らなきゃいけなかったし、早いことは良い事だから大丈夫。
さて、兄さん達を起こそうか。
猫の額ほど広さのキッチンから出て、スヤスヤ眠る兄さん達の元へ。フライパンとお玉は持ってないよ。そんなことしたらご近所迷惑だし。寮生活は互いに気を使わないと。
「兄さん~、仁村君~。朝食も出来たし起きて~」
「ううん……おはよう、翔」
「…ぐぅ…」
「おはよう、兄さん」
兄さんは一回で起きたけど、仁村君はまだ寝てる。今度は兄さんと二人掛かりで起こす。
「仁村君起きて~。パンが冷めちゃうよ~」
「ほら、仁村。起きろ」
「う~ん。今日はオレ自主休講~」
布団に突っ伏したままひらひらと手を上げて、そんな事を言う仁村君。
「仁村君、出席数ギリギリじゃなかった?」
「祐太ちゃん~代返よろしく~」
「まったく…」
結局そのまま起きる気配が無いのでそのまま寝かしておくことにした。トーストは兄さんに二枚食べてもらえばいいかな。そのまま二人食卓について、いただきます、と挨拶し食べ始める。テレビはあるけど仁村君が寝ているのでつけない。
「てか翔は良く起きられたな」
「早起きはもう慣れたからね」
感心したようにいう兄さんにそう返す。なぜ『よく』などというのかは、昨日の夜の出来事に関係している。昨日の夜は三人で朝までゲームをしていたんだ。タイトルは…なんだっけ?ああ、そう『スラッシュブラザーズ』だったっけ。高い台の上で戦って相手を落っことしあう内容だった。結果は六十試合やって、仁村君が三十五勝、僕が二十勝、兄さんが五勝。友達とやったことあるゲームだから多少は善戦できたほうかな。でもやっぱり持ち主の仁村君には勝てなかった。兄さんの成績は酷いように思えるかも知れないけど最初に比べれば頑張っているほうだと思う。最初は自分から台の上から落ちていってたからね。
そんな理由で僕の睡眠時間は2時間ちょっとだっけ。我ながら頑張ってるなぁ。
早起きに慣れているのは姉さんと一緒に暮らしている頃にも朝食の準備の手伝いをしていたからだね。
そこからは特に会話は無く黙々とパンやサラダを咀嚼する音が響く。朝の低いテンションでは特に会話も生まれない。そして食べ終わり、兄さんには寝癖を直しに行かせる。僕は洗い物だ。それが終わると仁村君の分の朝食にラップを掛け、書き置きを残しておく。トーストは自分で焼いてください、と。
それから、冷ましていたお弁当の蓋を閉じて鞄にしまって準備完了。
玄関に移動し中に声を掛ける。
「じゃあ、行って来ますね~」
「行って来るぞ」
「………ゃ……ぃ」
いってらっしゃい、と仁村君が言った気がした。
アパート脇の歩くとカンカンと鳴る階段を下りて、ポストのすぐ傍の植木鉢の下に部屋の鍵を隠しておく。仁村君が帰るときにはここから鍵を出して閉めていってもらうようになってる。ちょっと用心に欠けるのは仕方ない。わざわざ合鍵を作るわけにもいかないしね。
そこから未だ舗装されておらず少しデコボコな道を歩き出す。程なく一番小さい西門からキャンパスに向かって桜並木の坂を登って行く。四月には激しい自己主張をしていた桜も五月となった今ではすっかり散ってしまって少し寂しさを覚えてしまう。そうして一限目の講習がある三号館が見えてくる。仁村君を起こすのに多少時間を取ってしまったので、少し心配だったけど十分前には着けたみたいだ。
そうして教室に入ると珍しく教室が生徒でいっぱいだった。仁村君曰く、今日――水曜の一限目、一般教養はあまり人気のない授業らしい。ただし、この授業は出ているだけで単位が貰えるという生徒に優しい講義だそうだ。いわゆる、ボーナスステージ。だから出席率は高いらしい。でも、履修を勧めてきた仁村くんが出席しない挙句、代返は少しオカシイ気はするけど。
ともあれ、兄さんと一緒に歩いている席を探す。二人して周りをキョロキョロと見渡すがなかなか良い席が見つからず、しかも講師の先生が早くも教室に入ってきてしまう。
仕方ないので兄さんを引っ張って近くの適当な席に腰を下ろす。
あれ?兄さんの隣の女の人って…
「ん…キミたち…」
「……!」
と、兄さんの隣の女の人が完全にこちらを向いた。そして、気付く。この前見たモデルみたいな美貌に完璧なスタイルは…
「久し振り。元気だった?」
「うん。久し振りだね、莱香ちゃん」
「へ……?」
兄さんは覚えてないみたい。というかさっき莱香ちゃんがコッチを向いたときに呆けてたし。大方、美人過ぎて言葉を失っちゃったんだと思う。でも、いま必死に思い出そうとしているみたい。
「あ、あのっ、えっと…!」
「あれ?こっちは覚えてない?」
「すいません。あまりよく顔を見ていなかったみたいで」
いまだ莱香ちゃんを凝視し続ける兄さん。もう講習が始まるし後は放って置いて講習に集中しようかな。出席しているだけで単位が貰えるといってもしっかり授業は聞いておかないとね。
と、隣でうんうん言っていた兄さんが急に動きを止めた。どうやらお―――――
「あ、あ……ああっ!よよよの人だ!」
―――思いだしたのはいいけど立ち上がって叫ぶことは無いと思うんだ。
この後兄さんが教室を追い出されたことは言うまでもないよね。まったく。そして一緒に追い出された莱香ちゃん、ごめんなさい。後で謝っておかなきゃ。