あれから1週間がたった。
「遅い―――あいつらは何をやっているのだ」
「お、織斑先生少し落ち着いて下さい」
「落ち着いてられるかっ!! もう試合開始まで5分を切っているのだぞ」
今、IS学園では一大イベント『エキジビジョンゲーム』が開催されようとしていた。千冬的には、クラス内で穏便に済ませるつもりだったが、超人類がどうやら『ISの新しい可能性を知らしめる為に織斑一夏の初試合は盛大にしないとな』と十蔵に連絡をしてお祭り騒ぎにしたのだった。もし試合時間が遅れれば生徒からのバッシングは容赦なく教師に来るだろう。
千冬は頭を抱えながら、間違えて塩を入れたコーヒーを飲むがこんなものを呑んで落ち着けるはずもない。さらに怒りのボルテージが上がっていく。この怒りを何処にぶつけようか千冬は思案していたところ山田先生が千冬に通信機を持ってきた。
「織斑先生、今ジェイソンさんから通信が入りました!!」
「本当か!? 貸せっ!!」
山田先生から素早く通信機を分捕ると怒りを込めて通信に出た。
「超人類!! 貴様、何をやっている!! 一夏はどうした!?」
『相当切れているようだな千冬よ。少し落ち着いたらどうだ?』
「落ち着いていられるか!! 一夏はどうしたんだ!!」
『織斑一夏は決戦前のアップをしている。アイツの試合が始まるまでにはIS学園に着くだろう』
「なにぃ!? アップだと!? それに試合が始まるまでにはIS学園に着くぅ?
どう言う事だ!!」
『すまん、一先ず通信切るぞ』
「待て!! 超人類、話は終わっていない!!」
無情にも一夏の安否を聞けなかった千冬は項垂れる。そして、1つ決心する。一夏が……いや、超人類が帰ってきたらアイツを生徒としてこってり絞ってやろうと。
「織斑先生、なんかエンジン音が聞こえません?」
「エンジン音だと? 確かに聞こえるが、機械の調子が悪いのか」
確かに先ほどから聞こえるが千冬と山田先生が居るのはアリーナ内を監視する為の部屋だ。超人類が色々と機械を持ち込んだおかげでかなり豪華な部屋になったが今までエンジン音など聞こえた事はなかった。
「織斑先生、だんだんと音が大きくなっています!!」
「一体何が……」
千冬と山田先生は音がする方を見てみるとそこはガラス越しに見えるアリーナだった。異変を探そうとするがその時、黒い影がエンジン音を響かせ空からアリーナ内に進入したのだ。
「待たせたなっ!! KY・モルモットよ」
そう、その影はピッチピチの黒いライダースーツに身を包んだ超人類である。漆黒の大型バイクに跨り、空から颯爽と登場したのだ。しかし、超人類が無駄に垂れ流す威圧感が強力すぎてどこかの世紀末の覇者にしか見えない。
「やっと現れましたね……。筋肉ゴリラ男!! 怖気ず出てきた事を褒めてあげますわ!! それと私の名前は『セシリア・オルコット』です!! いい加減に覚えなさい」
「前も言ったが名前を覚えて欲しければ、俺を認めさせろ。KY」
セシリアは超人類に啖呵を切るが、超人類には全く効果がない。少し睨み合いが続くが超人類の端末に通信が入った事で超人類は視線を外した。
「はい、超人類だ」
『千冬だ。超人類、お前に言いたい事が沢山あるがそれは後回しだ。お前ならISなしでも戦える事は知っているがそれを知られるのは……色々とまずいだろう。訓練機の打鉄を用意してあるからこっちにこい』
「俺の身を案じてくれているのか? しかし、心配はいらん。俺が乗っているバイクこそ、俺のISだ」
『……なにぃぃぃぃいいいい!? 超人類そんな話は聞いていないぞ』
「うむ、今日始めて乗ったからな。じゃあ、切るぞ」
『ちょっと待――――』
超人類は通信を切ってから端末の電源を落とした。
「待たしたな。それでは前座を始めようではないか」
「私はいつでもよろしくてよ。それより背中の笊箱は下ろさなくて?」
そう超人類は背中に大きな笊箱を背負っている。どうみても不自然だった。
「全くもって問題ない。この笊箱の中にはお前を倒すにピッタリな兵器が入っている。だが安心しろ手加減はしてやる」
「手加減ですって…………ふふふ、いいでしょう。今すぐ! ここで! 犬死させてあげますわ!!」
『両者それぐらいにしろ、そろそろ始めるぞ』
アリーナにあるスピーカーから指示が出され、両者が定位置についた。KYもといセシリアは既に展開されている67口径特殊レーザーライフル《スターライトmkⅢ》を強く握った。
(いくら搭乗型ISに跨っていようとも、生身の人間がISに勝る事は不可能。開始の瞬間に沈めてやりますわ)
一方、超人類は跨っているバイクに表示されている時間を確認していた。
(織斑一夏が帰ってくるまで時間を稼がなくてはならんな。しかし、手加減はせん。その為に用意した武器なのだからな!!)
『両者定位置についたな。それではセシリア・オルコットVS超人類の試合を開始するッ!!』
千冬の宣言の後、アリーナ内にブザーの音が響き渡る。それと同時にセシリアは銃口を超人類に向け、引き金を引いた。レーザーは寸分狂いなく、超人類の元に向かう。
「その程度の攻撃が『超人類』に通用すると思うなよ!」
しかし、レーザーは超人類の手前まで来ると向きを変え、別方向に飛んで行ったのだ。
「え!? レーザーを捻じ曲げられた……。ありえませんわ!!」
「ボーとしている暇はないぞ。KYよ!!」
「きゃっ!!」
セシリアに衝撃が走る。何事かとブルーティアーズのダメージチェックを行う。
「両肩のアーマーに斬撃痕!? 何ですのこれは……?」
ブルーティアーズの装甲には四角い形をしたピンク色のモノと同じ形をした青いモノが突き刺さっている。超人類はセシリアの問いかけに答えるのだった。
「ん? それか? それはだな、ダイソーで買ったハエ叩き(100円)だ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「知らないのかハエ叩きを。コイツは
「私の名前はぁ……『 オ ル コ ッ ト 』です!!」
自身の名前を害虫と同格にされたセシリアは混乱と怒りの余り、ブルーティアーズを全て投入し乱射。さらに《スターライトmkⅢ》も乱射する。しかし、超人類に攻撃は届く事はなかった。
「ふははは!! 全て打ち返してやるぞ!!」
そう全てハエ叩きで弾かれているのだ。所詮はハエ叩き、されどハエ叩き。超人類が持てば、最強の兵器の仲間入りである。だが素材はただのプラスチック、レーザーを何発も打ち返せる訳ではない。超人類の足元には二つに折れたハエ叩きが山となっていた。
「通用しないと言えど、ハエ叩きの数は限度はある。この浮遊物は邪魔だな。
スマァァァァァァァァッシュ!!」
超人類はレーザーを
(くっ、完全に嵌められていますわ……もっと冷静になりませんとこのままでは――――一度、空に離脱を)
「させると思っているのか? ハエ叩き散布!!」
突如、上空にハエ叩きが現れ、空に離脱を計ったセシリアを襲う。
「空中に舞ってるだけのハエ叩きに恐れる事はありませんわ!!」
「それはどうかな?」
「!? きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
ハエ叩きがブルーティアーズのボディーに当たった瞬間、電流がセシリアを襲った。
「ふふふ、今空に舞っているのはただのハエ叩きではない。高圧電流が流れるハエ叩きだ!!」
セシリアに高圧電流が流れる。逃げ場を失ったセシリアをぶっ飛ばす為、超人類はバイクを最高速度までスピードを一気に上げた。
「ハエコット!! これで終わりだ!!」
超人類の持っているハエ叩きが光を放ち始め、アリーナ内を閃光で包み込んだ。そして超人類は高らかにハエ叩きを振り上げる。
「最終奥義!! ひき逃げアタァァァァァァァァァァァァァァァック!!」
「!? うぎゃぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」
乙女にあるまじき悲鳴を上げながらセシリアは引かれた。顔には綺麗に縦線のタイヤ痕が残り、地面に仰向けで倒れている。
「ふっ……勝負ありだ」
『セシリア戦闘不能! 勝者、超人類』
アナウンスの後、アリーナ内は熱気に包まれるのであった。