リアルタイムで進行もしません。
潤いなんてありません。
原作キャラは、ちょっとだけ出ますよ、はい。
「ようやくアプサラスの完成か」
「は、メカチャージャーの投入を行いまして、予定時刻より十時間早く完成することが出来ました」
宇宙に人類が進出して幾年月。
あまりに広大な宇宙と、青き母星たる地球に比べればちっぽけなコロニー。
その中で人は退屈を紛らわせるべく、新たなる娯楽を作り上げた。
『ガンダムジオラマフロント』
娯楽作品であるとも、はたまた有史以前に存在していた戦いの歴史だとも噂される
『ガンダム』という物語。
それらをデータとして再現し、軍の宇宙戦術用シミュレーターとして開発されたそれは
やがて民間へと回され、人々の娯楽へと変貌を遂げた。
VR(バーチャルリアリティ)として存在する世界へ飛び込み、己が基地司令官として最高の基地を作り上げる。
それが『ガンダムジオラマフロント』である。
「で、次の開発は……」
「は、現在開発部より上がっておりますプランでは
『サイコガンダム』なる機体を建造可能となっております。
『アプサラス』『サイコガンダム』両大型機のデータ取得に成功すれば
更なる防衛用大型モビルアーマーの建造が可能になるとか」
(……要するにその次の開発ツリーってことね)
基地司令官たる『彼』がそう独りごちる。
この基地で本来の人間としての思考を持っているのは彼一人である。
今現在司令室で彼に報告を行っている壮年の男性も、シミュレーターに存在する汎用AIの一人であった。
「また現在軍本部より通達されております階級戦としまして
当方は既に進軍で三勝一敗となっており、降格ラインは乗り切ったものと思われます。
また防衛もまた三勝一敗と、基地の防衛力は上々となっております」
「了解した、司令本部(コアフロント)の増築強化を引き続き行いつつ
各防衛施設の強化に努めよ」
「ハッ」
報告を行っていた男性が海軍式の敬礼を行い、司令室から出て行く。
それを見届けると彼はふぅ、とため息をついた。
「……ぁー、クソ。
民間に下ろされて、興味本位で始めたが、機密事項多すぎだろ」
軍用から民間用に転用が行われ、『ガンダムジオラマフロント』の運営が始まって早一ヶ月。
VRシステムのお陰で、ゲーム内での体感時間は数倍から数十倍にもなっているが
それにしても実装内容が薄いと言えた。
「大体アプサラスとサイコガンダム開発できてから次の防衛大型MAってなんだよ。
その前がメビウスとザムザザーだろ、明らかに技術レベル落ちてんじゃねぇか」
やはり好きな物語であるから、『彼』にも言いたいことは出てくる。
例えば『彼』は非常に航空機や戦車を好んでいるため
ファーストガンダムで言えばフライ・マンタや
61式戦車、マゼラ・アタックなどがないと愚痴ったりもする。
だがそれでも物語でしか見たことのない機体が動き、実際の戦場さながらに感じ取れるというのは
やはり否定しがたいロマンがあった。
だからこそ軍から民間に一向に開示、転用されない――ジオラマフロントに実装されない項目に苛立っている訳だが。
これは嫌よ嫌よも好きのうち、と理解すべきなのだろう。
「けどま、エースパイロットも随分揃ってきた。
ドモン・カッシュとかすげぇね、再現AIだとはいえ、生身で模擬戦のジェガンぶっ壊してたよ。
いっそ宇宙服着て生身で基地襲撃してくんねぇかな」
現状それほど機体差とパイロットの腕前は再現されていないのだが
基地内部での動きというのであれば話は別である。
彼らはまるで生きているかのように過ごし、戯れ、また悩んでいる。
「んでもアムロとシャアが出会うと随分グチグチなってるのは頂けんな」
逆襲のシャアの時代であれば彼らも大人であるから、互いの付き合いというのがわかるのだが
ファーストガンダムの時代を再現されているアムロとシャアでは
流石に大人の付き合いというのは無理がある。
二人が若干険悪――というよりも陰鬱な雰囲気になりはじめると
気を使ってムウ・ラ・フラガやガロード・ランといったムードメーカーや
コウ・ウラキやバーナード・ワイズマンといった下っ端苦労性の連中が宥めにはいる。
(不思議とコウはアムロの事を知ってるし、白い悪魔だって知ってるんだよな。
どういう時代設定で刷り込まれてんだろう)
そんな益体もないことを考えつつ、机のコーヒーを啜っていると、不意に内線の呼び出しがかかった。
出てみると綺麗な女性の声である。
「本日もお仕事ご苦労さまです」
「ああ……もうそんな時間か」
現実時間の午前五時を境として
各基地でログイン中、またはログインした司令官に労いの言葉がかけられる。
そして運営から何がしらの物資が届けられるのである。
とはいえほんの雀の涙であって、然程基地運営に寄与するものでもないのだが
中にはこの言葉が聞きたくて通っている司令官もいるという。
「司令本部からは後十日ほどを目処にそちらへ増援を送るとのことですわ。
頑張ってくださいましね」
「それは、感謝しなくてはいけませんな」
(黒い三連星の実装か)
それではお体をお大事に、と言って女性は電話を切った。
何とも事務的で、会話すらできない有り様だが、AIとして存在している訳ではないのだから当然だろう。
その割に基地に存在しているエースパイロットのキラ・ヤマトは時折この女性――ラクス・クラインと連絡を取っているようなのだが
本当はAIとして実装されているのだろうかと彼は頭をかしげた。
「それでもこのゲーム、VR設備っていうのはありがたいね。
眠い頭をこすりながら防衛を考え、コーヒーを啜る。
まるで本物の基地司令官のようじゃないか」
少しばかり満足気に彼は頷く。
書類整理――要するにwikiやコミュニティの掲示板確認――を行っていると
仮想モニター上に秘書官の顔が浮かぶ。
『お疲れの所失礼致します。
司令、増築を行っておりましたヘビィバルカンの工事が完了致しました。
スペックをご確認ください』
「了解した、データを送ってくれ」
秘書官から送られてきたデータを画面に写し、詳細を確認する。
ヘビィバルカンは主に地上専用の防衛設備で、空中からの攻撃には全く無力であるが
それでも密度の高い素早い攻撃で、地上迎撃の基本となる、決して疎かには出来ない設備である。
「うーん……相変わらず範囲が増えないな、レベル8にもなったから、最初期の二倍以上には強いんだが」
――それでも数の暴力にはまだまだ勝てない。
実はこの所、彼の担当する基地では防衛戦で負けが込んでいた。
ジオラマフロントでは、データ取得の名目でプレイヤー同士の対戦をメインと設定されている。
曰くデータ取得のためであるとか、対人戦こそゲームの華であるとか、様々だが、実際のところはどうかわからない。
一つわかっているのは、エースパイロットが基地で見せる様々な顔とは違って
戦場だと単なる一兵卒と同じ動きしかしないことから
AIがまだ組みきれていないのだろう、という推測が成り立つことだった。
「ん……次の建設をするには資源がないか」
そしてもう一つ、対人戦を要求される理由があった。
このジオラマフロント、基地を設置した場所から算出できる惑星資源が非常に乏しいのだ。
平和主義を貫き、基地算出だけで何とかするのは
限りなく不可能に近いだろう。
となればあるところから奪うのが道理であって――
「秘書官、出撃命令だ。
エースパイロットはシャア・アズナブル、専用ゲルググ、戦艦はガランシェール。
その他搭載機はリストの通りだ、準備を整え給え!」
さぁ――本日も戦場に赴くとしよう。
「我らの基地を最高にするために、行くぞ」
『勝利の栄光を――皆に!』