「はぁ!?
砲撃一発でエースが沈むゥ!?」
基地内部、司令室で司令官である『彼』が吠えていた。
吠えている内容は秘書官から提出された
ログアウトしている間に起こっている防衛戦の内容である。
このゲーム、VRであるからなのか、司令官がログインしている間は
襲撃が行われない仕様となっている。
流石に司令官がいて、そこにモビルスーツが襲いかかってくるまでリアルにする訳にはいかないのだろう。
「……ガランシェールの砲撃で、防衛用エースパイロットとして配備している
ガンダムヘビーアームズ、ザクウォーリア等が破壊。
また当時配備されていたメビウスも半壊に至る被害を負い……か」
ふぅー、と深い溜息をついて、『彼』が椅子に体を沈めさせる。
先日行った進軍は、敵基地が予想以上に難解な作りをしており
エースパイロットとして配備したゲルググは全壊。
量産機もジェガン三体を残し、敵基地本部(フロントコア)を破壊したものの
物資の奪取には至らず、戦術的勝利は得たが戦略的敗北を喫することになった。
資金資源も底を尽きかけており、早急に出撃と防衛構築を行わなければならないだろう。
「うーむ、ガランシェールは確か貨物偽装艦だったよな……
ということは、今後本格的な戦艦が実装されたらやばいな」
そうなればもはや今の基地は単なる餌場と化す。
防衛設備の早急な強化、増築が必要となってくるだろう。
だが通常割り振られている基地建築のためのロボットは二体であり
それ以上を投入しようとすると、リアルマネーが必要となってくる。
お布施のつもりで『彼』は幾らか投入しており
実際に『彼』の基地で動いているロボットは四体だが
強力な防衛設備の増築には膨大な時間がかかるため
その間設備が使えないことを考えると、無闇矢鱈な増築もしたくはない。
「うーむ……砲撃は仕方ない、そこは割りきって強い機体を配置しよう」
唸りながら仮想モニターの防衛配備図を睨みつける『彼』だが
思案は扉のノックの音で中断されることになる。
「入ってよい」
「失礼致します、司令。
先ほどお送りいたしました防衛レポートですが
不備がありましたのでお伺いいたしました」
現れたのは秘書官である。
司令官である『彼』の趣味として、ジオン軍人よりの
ロマンスグレーというべき、壮年の男性AIであった。
彼は小脇に書類入れを抱えており、一枚を手にとりながら
『彼』の机に広げる
「ん、不備?」
「はい、というよりもシステム上の問題で記載出来ないのですが……
先日行われました防衛戦の結果、エースパイロットの機体をドック入りさせることとなりました」
機体が損傷すれば修理が必要となる。
それは当然の事であるから、『彼』もそういえばレポートにはその部分が記載されていなかったなと頷いた。
まず一枚目に記載されていたのは、古参ともいうべく配備されていた
ザクウォーリア、パイロットはルナマリア・ホークであった。
「砲撃により完全に損傷、ドック入りの為、約二時間の修理を必要と致します」
「む……砲撃で一撃だったからな」
文字レポートとは別に付属していた
防衛時の録画映像を見れば、それはもうひどい有様であった。
仕事熱心なメカニックや、原作でザクウォーリアを開発した技術者が見れば号泣するのではないかと言うほどのものだ。
『彼』は余分な想像と動画を頭から振り払うためにこめかみをとんとんと指で叩くと
確認したというサインを書類へと記す。
――二時間、という時間は、あくまでリアルな時間を示している。
フロント内部の世界ではそれこそ数日かけての修理が行われているのだが
司令官たる『彼』がそれを感じ取ることはないのだ。
「続きまして同じく砲撃によって完全損傷しましたガンダムヘビーアームズです。
こちらは内部の砲弾に引火、誘爆したため、ザクウォーリアよりも損傷が激しく
約三時間の修理となりました」
「……元々火薬庫だからなぁ」
それでも実際に使用すれば協力極まりない武器になるのだが
流石に広範囲である戦艦の砲撃を直撃してはダメージコントロールも何もあったものではない。
映像で再現されたそれは、景気良く弾丸とミサイルがはじけ飛ぶ様子が映し出されていたのだから。
さながら花火大会のようだ、とも思ったが、これほど物騒な花火大会があってたまるか、とも思う。
玉屋鍵屋という掛け声が弾や鈎や、になっているのだから。
「モビルアーマー、メビウスは砲撃にて半壊。
その後敵ヘビーガン部隊による攻撃を受け破壊されました。
修理には約四時間を要します」
「了解した。
メビウスも古参機体だしな……」
原作、ガンダムSEEDにおいて、メビウスはいわゆるやられ役の一つでもあった。
原作において対モビルスーツでは、一体四の――もちろん四体のメビウスで一体の――キルレシオという成績であったりする。
もっとも、搭乗しているのがムウ・ラ・フラガであり
そこは流石にパイロットの腕前というところで、ジオラマフロントにおいてはそこまで無様な有り様ではない。
それでも数体のヘビーガンなどに囲まれるとたやすく落ちてしまうのは悲しい所だが。
「では最後、配備しておりましたEz-8ですが――」
「ああ、敵MSをバッタバッタと打ち倒していたな、大活躍だった。
最後は取り囲まれて手傷を追っていたが――」
「はい、小破いたしまして、結果十時間のドック入りとなっております」
ゴン、と。
『彼』が机に拳を打ち付ける音が聞こえた。
「……十時間、だと」
――Ez-8は進軍にも防衛にも使いやすい、良い機体であった。
未だ階級が尉官になれず、高性能機体の開発を許可されていない『彼』が持ちうる中では
トップクラスの機体といっていいだろう。
格闘戦(ウォーリア)のシャイニングガンダム、速度戦(ブースター)のガンダムエクシア。
空中戦(フライヤー)のガンダムデュナメスと並び、『彼』の中での評価も高い。
「小破で何故そのようになるのだ!」
「は、整備班からは、何でも元が戦地改造の機体であり
戦闘用に改装しているため、部品調達や修理に手間がかかると……」
「ううぬ……」
このゲーム、上位の機体になればなるほど強力になっていくが
それに比例して修理時間も長くなる傾向にあった。
しかしそれにしても、一応は量産型に位置する陸戦型ガンダムを現地改修したEz8が
コロニー連合の切り札であったヘビーアームズより修理に時間がかかるというのは
原作を知っている身からすると、若干理不尽に感じざるを得なくもないだろう。
「資源も資金も底を尽きかけているからな……新たな機体を作るにも
出撃するにも資金が必要だし、設備強化には資源が必要だ。
致し方ない、リカバリーチャージャーの使用を許可する。
早急に仕上げるように整備班に伝えろ」
防衛に成功したり、功績をあげると総司令部(運営)から褒美にと渡されるアイテムの一つである。
数こそ少ないが、こういう時に使わなければなるまいと『彼』は書類にサインをしていく。
実際『彼』は他にゲームなどをしていても、回復アイテムを大盤振る舞いする傾向にあった。
先日も別のゲームをしていて、ボス前で回復を行った結果、ボス戦で回復アイテムが足らなくなるはめに陥ったりもするのだが。
尚、機体の修理には資金を求められない。
そこは流石にゲームというところだろう、と『彼』は安堵している。
一体作るのに資金を五十万要求され、修理ごとに数十万取られては戦争とは割高だと学ぶだけのゲームになってしまう。
「了解いたしました。
現在確保しておりますリカバリーチャージャーはちょうど十個ですので、残り時間は二十一分四十秒となります。
それでは後ほど次期防衛設備建造の書類をお持ちいたします」
「ああ、頼む……」
今後の資金繰りや、防衛設備見直しなどを考え、頭痛を覚える『彼』だったが
そんな司令官を気遣う様子は見せない秘書官。
AIの限界故か、そもそも気遣う性格ではないのかは『彼』にもわからない。
そして秘書官がふと思い出したように手を叩くと、もう一枚書類を取り出した。
「失礼致しました司令官、もう一点報告を忘れておりました」
「……何だね」
ハ、と秘書官が書類を机に広げる。
「参謀本部より通達がありまして、二十分後より基地の緊急メンテナンスを行うとのことです」
――ついては早急なログアウトをお願い致します。
予定時間は今より五時間と――
「……リカバリーチャージャー、無駄になりますな」
――回復アイテムの使いドコロを間違える男。
それが『彼』であった。