ある司令官の日常~勝利の栄光は何処~   作:三刀

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戦いは数だよ、兄貴ィ!

 ギシュン、と推進剤が切れる音がした。

 ザクウォーリアのパイロットAIが本来のパイロットならば荒い呼吸をしているのだろう。

 壁に隠れ、攻撃を加え、また隠れる。

 ――その理由は一つ、囮、である。

 本来ならば下せぬような非道な命令だが

 AIである彼はその命令に従い、ザクウォーリア一体で敵基地防壁に突貫。

 若干の攻撃を加え、敵の迎撃を受けている。

 

(――?)

 

 だが、迎撃が一瞬止んでいる。

 先ほどまでは執拗なほどヘビィバルカンによる十字砲火が壁を削っていたのだが

 今現在はその衝撃もなく、嫌な沈黙が漂っていた。

 ザクウォーリアはすこしばかり怪訝に思い、壁から少しばかり顔を出す。

 これが人間の兵士であるなら手鏡か何かを使うのだろうが

 巨大な機体ではそれも敵わず、頭部のメインカメラのみを露出させる事にしたのだが

 そこで彼が見たのは、自分へ向けて光るメガ粒子砲の輝きであった――

 

 

 

 

 

 

「MOVEMOVE!

 敵アプサラスがおびき寄せられたぞ、シャッコー隊とヘビーガン隊は前へ出ろ!

 ありったけあのお嬢様にぶち込んでやれ!」

 

 ザクウォーリア一体がメガ粒子の輝きに消え失せた瞬間

 上空からバラバラと機体が投下され、ジオラマフロントに現れていく。

 空中を飛ぶシャッコーと地上から射撃を放つヘビーガンの混成部隊である。

 およそ基地を襲撃するにあたって気をつけるべきものはいくつかある。

 例えばシャッコーのような空中を飛ぶ機体であれば

 まず一番気をつけるのは対空ミサイルである。

 ヘタを打てば一撃、でなくとも二発喰らえば落ちるほどの威力を持つそれは

 空中を飛ぶ相手以外には無力であるといえるが、しかしそれであるからこそ危ない。

 地上を行く部隊に対してはやはり迫撃砲であろう。

 着弾の衝撃は範囲が広く、また爆風と衝撃は機体の制御を揺らし、著しく行動を制限する。

 動きが止まれば、後はヘビィバルカンによる砲火と

 射撃タワーによるレーザーシステムなどによる攻撃で処理していくという寸法だ。

 ――しかし、防衛施設よりも気をつけるものがある。

 それが基地に存在する防衛用モビルアーマーであった。

 

「いいぞ、いいぞ!

 見ろ、お嬢様の服が脱げてきやが――ああ!」

 

 司令官である『彼』が悲鳴を上げる。

 アプサラスは十体以上に及ぶ集中砲火を受けていながらも機体を制御し

 その胴体にある巨大なメガ粒子砲を放ち、七割以上を消し飛ばしたのである。

 これこそがモビルアーマーの恐ろしいところである。

 まずもって強力な範囲攻撃を持ち、更に自分の判断で移動を行う要塞のようなものだ。

 敵基地攻略においては、何よりもまずモビルアーマーの排除を考えるべきであると

 『彼』は信じている。

 

「クソ、ジェガン隊も投入だ、なんとしても落とせ!」

 

 シャッコー隊を消し飛ばし、ヘビーガン隊にも多大な損害を与えたアプサラスであったが

 数えて三発目のメガ粒子砲を放つことは出来なかった。

 追加投入されたジェガン隊と生き残ったヘビーガン隊による集中砲火が功を奏し

 アプサラスの胴体部分を破壊。

 アプサラスの巨体が空中で爆発を起こしたのである。

 

「よし、アプサラスは無力化した。

 ザクウォーリア隊、防壁を破壊しろ!」

 

 続いて投入されたのは、一体を囮に使われたザクウォーリア隊である。

 十体以上が続々と現れ、アプサラスが破壊された隙に防壁を破壊にかかる。

 無論、その間にも防壁奥に存在するヘビィボウガンらがザクウォーリアを狙うが

 一回や二回の銃撃で破壊されるほどザクウォーリアはヤワではない。

 更にヘビーガン隊の援護射撃もあり、防壁自体はすぐさま破壊され、ぞろぞろと基地内部への侵入を果たしていく。

 

「よし……頃合いだな、Ez-8を投入する!」

 

 満を持してのエースパイロットの投入であった。

 狙撃用のライフルを装備されたEz-8は、その攻撃力と耐久力を持って、防衛設備を狙うにはうってつけの機体であった。

 機体の膝を地面につけ、ライフルの反動を抑えながらEz-8が敵施設――ヘビィバルカンに向けて弾丸を撃ちこんでいく。

 既に侵入していたザクウォーリアの排除に夢中だったヘビィバルカンは

 程なくして弾丸を致命的な箇所に叩きこまれ、致命的な爆発を見せた。

 

『敵施設を破壊、次へ向かう!』

 

 司令官たる『彼』のヘッドホンにパイロットAIであるシロー・アマダの声が響く。

 少しかすれた無線に近い声に、『彼』のテンションが急上昇を見せた。

 

「いいぞ、いいぞ。このまま、このまま……」

 

 ――直後、Ez-8が大きく揺らいだ。

 

「何ッ」

 

 見えるのは上空に浮かぶ機影。

 

『ジャンジャジャーン!』

「ガンダムXか、見落としていた!」

 

 事前に偵察機を送り込み、敵基地の俯瞰映像を手に入れてはいるが、俯瞰映像である以上漏れは出てくる。

 恐らく巨大なアプサラスの影に隠れていたのだろう、敵基地を防衛するエースパイロット。

 ガロード・ランが空中からライフルを連射して来るではないか。

 

「クソ、放置すると厄介だ。

 Ez-8、いってくれ!」

『こいつとは他人のような気がしない……何故だ?』

 

 地上からの射撃と、空中からの射撃。

 本来ならば地上が圧倒的不利であろう。

 しかし、ジオラマフロントという仮想空間上でならば、その有利不利は然程関係がない。

 足を止めての撃ち合いは、まずガンダムXのライフルがEz-8の頭部を吹き飛ばし、撃破という形で終わった。

 

『俺は、俺は……俺は!

 生きたい!』

 

 ――しかし、それだけでは終わらなかった。

 機体が撃破判定を受け、破壊されて消え失せる一瞬。

 その一瞬の間に、Ez-8はライフルを発射していたのだ。

 発射された弾丸は機体が破壊されていようが関係ない。

 Ez-8を破壊したことで動きが止まったガンダムXの胸部に直撃する180mmキャノンの砲弾。

 

『ティファ……ごめん』

 

 ガンダムXが推力を失い、爆発と同時に墜落していく。

 ――まずもって厄介と断言される、空中型のエースパイロットが除去できた。

 代わりにこちらも虎の子のエースパイロットを失ったが、しかし仕方のない事だと言えよう。

 

「残るエースパイロットはガナーザクウォーリア、そしてプロトタイプガンダムか……それなら、主砲発射用意!」

 

 ――ガランシェールに搭載された主砲の発射ラインが、『彼』の目の前に基地の俯瞰視点と同時に浮かび上がる。

 目標はエースパイロット二体。

 以前敵は集中攻撃を受けて攻めこまれた記憶でもあるのか、防衛ラインを固める傾向にあったようだ。

 無論、それは悪い手ではない。

 耐久力の高いエースパイロットならば、たとえガランシェールの砲撃を受けても耐え切れたであろうし

 アプサラスやガンダムXを配備しているところからして、他のエースパイロットも

 本来はもっと強力な機体を揃えていたのだろうから。

 

「けど今は、何の因果か低耐久力の機体だ!

 てェー!」

 

『彼』が判断を下すと、すぐさまガランシェールからの砲撃が敵基地に向かって叩きつけられる。

 破壊の嵐が撒き散らされ、ガナーザクウォーリアとプロトタイプガンダムが為す術もなく嵐に巻き込まれていく。

 更にエースパイロットが配備されるスタンド――つまりは機体実体化のための装置も破壊され、防衛設備の幾つかも破壊されていった。

 

「よし、これで突破するぞ!」

 

 ――ならば後は数の暴力が戦場を支配するだけであった。

 ザクウォーリアがヘビィボウガンに取り付いてビームトマホークを叩きつけ

 ヘビーガンやシャッコー隊による一斉射撃が射撃タワーやヘビィバルカンを破壊していく。

 戦いは数だよ、とはドズル・ザビの言葉であったが

 まさしくこの戦場はその言葉を体現する様相を迎えた――

 

 

 

 

 

 

「……一息つけたか」

 

 作戦成功を見届け、『彼』が一息つく。

 正直な話を言えば、たった一つの基地を襲撃して得られる資金資源など知れたものであるため

 同様の作戦を複数回行わなければならないのだが

 今は作戦成功を祝うべきだろう。

 

「…………うん、今こそこの言葉を言うべきだろうな」

 

 『彼』は軍帽を脱いで机に置き、コーヒーカップを持ち上げながら、戦果報告を見せてくる画面に向けてつぶやく。

 

「勝利の栄光を、皆に」


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