俺の妹が榛名になった件   作:薬丸

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第一目標である設定説明ができました。
ダイジェストと言っている癖に大分冗長です、機を見て必要ない部分は削ろうと思います。

本文を今北産業
1、全世界規模の誘拐事件発生、そして敵出現
2、どうしようもなかったけど偶然で艦娘出現
3、人類の反撃開始


2.今北産業

 メインキャスターとコメンテーターが真面目な顔をして声高に叫んでいた。

「地獄の扉が開いたんだ」

「終末がやってきたのだ」

 とかなんとか。

 コメンテーターの思想垂れ流しとは開始早々飛ばしてるなぁ。

 

 十年も前であったなら、こんな誇大妄想を堂々と、しかも全国放送で発言していたなら大問題だったろう。当然の如く番組を降ろされ、以降一切テレビに出る事は出来なくなっていただろう。

 それどころか、怪しい宗教に嵌っているとか、気が触れたのだとか、実生活においても後ろ指を差されて排斥されたに違いない。

 

 だが今現在、一緒にニュース番組を見ていた妹の反応は、

 

「開いたのは地獄の扉っていうより、私はパンドラの箱だと思うんだよね」

 

 その光景を当然と受け入れ、更にファンタジーな言葉を被せてきた。

 妹の発した、一昔前で言う中二的な表現に対して俺は、

 

「そうだな、確かにその表現の方がしっくりくるわ」

 

 と好ましく肯定した。

 

 これは俺や妹、ニュースキャスターや知識人だけがトチ狂っている訳ではない。

 狂っているのは、狂ってしまったのは世界の方で、俺達はまっこと正常なのである。

 

 コメンテーターのやり取りは際限がないのでは?と思われるほど白熱していたが、進行をしていたもう一人の女子アナウンサーがさっさと次に進めてしまった。

 次はこの五年間の出来事がダイジェストでまとめられたVTRらしい。

 

 

 ----------------

 

 ここからはVTRと俺の記憶を絡めて話そうと思う。

 

 

 事の始まりは5年前。 

 世界中の海上、海辺の町にて行方不明者が続出するという大事件が起こった時からだと言われている。

 この世界規模で起きた神隠し事件は勿論、世界中の注目を集めた。

 結果、各国の軍、情報機関、マスメディア、被害者家族等、世界中の人間が協力して調査に乗り出した。

 そうして分かった事は、

 

 被害者の共通点。

1、海から5km圏内に被害が集中している。

2、行方不明者の多くが女性である。

3、夜に最も多くの犯行がなされている。

4、海の中に消えて行く奇妙な人影が多数目撃されている。

 

 全世界の人間が総力を挙げて行った調査の結果は、この四つの項目を見出しただけで終わってしまった。

 行方不明者はたった一人も見つけ出せず、彼ら彼女らが海に消えてしまったという事実だけしか分からなかったのだ。

 

 

 世界は恐慌した。

 誰が、何のために、どうやって、浚われた人がどうなったのか、何一つ分からなかったという事実は、世界中に負の感情をばら撒いた。

 

 特に酷かったのは、誰が、の部分が一切分からない事だ。疑心暗鬼は不安を狂気に変える。

 人は安寧を求める為に犯人探しを始めた。

 被害は世界中の海。ならば被害のない内陸の国が疑われたが、被害者が消えていったのは海であるという矛盾から、すぐに疑いは晴れた。

 ならば宇宙人や地中人や海底人が!と声が上がったが、黙殺された。その可能性は誰にも否定できなかったが、人々の固定概念を、理性を打ち破るには至らなかった。もはやそういった超常の存在しか成せない事態だったとしても、不確定の存在を認める訳にはいかない。

 

 

 世界は混沌としたまま、宙ぶらりんな1年を過ごした。

 そんな不安定な状況だから、様々な問題が起こった。

 

 海近郊には住めぬと人は内陸に移動しようとして揉め事が頻発したし、船舶による流通は滞り、物資不足は深刻。頑固な漁師など、命知らずが港町に少数残り、それもまた揉め事となった。

 不都合は表に裏に溢れ出てきていたが、数が多すぎるので割愛。

 

 だが日本は島国と言う危機があまりに近い環境にありながら、大規模な混乱は起きなかった。

 日本特有の危機感の薄さと楽観視のおかげか、慣れない強い危機感に感覚が麻痺したのかはわからないが、理性と不安は奇妙な均衡を保っており、混乱は最小の被害で収束していた。

 

 勿論局所的な不満の爆発はあったのだが、どうにもならない実情がそれを勝手に鎮圧させていたのだ。

 暴走する人間が出ると、その周囲の人間がこれ幸いと、ストレスをぶつけてやや過剰な鎮圧を行うという物騒な解決がなされた。

 

 とはいえ一年ももったのは本当に、ただの奇跡である。

 もう一ヶ月も状況が続けば、日本と言う国は決壊していただろう。というコメンテーターの憶測は、あの閉塞感を体感している身としては正しいと言わざるを得ない。

 

 

 不可思議な一年の沈黙後、事件は再び、唐突に起こった。

 船や飛行機と言った乗り物から、資源採掘所等の海上プラントまで、海に存在するほぼ全ての稼働物が奇妙な人型の存在に徹底的に破壊されたのだ。

 

 

 こういった特集で必ずと言っていいほど用いられる映像がある。

 とある若い漁師が、家族や友人に近況を伝える為に某サイトの生放送を利用しながら出航の準備を進めていた際の映像である。

 

 俺は頑張ってるよ、仲間も皆無事だよといった報告をしている最中、周囲が急に慌しくなりはじめた。

 撮影者は、なんだなんだと慌てた後、周囲の人間が指さしている沖の方向にカメラを向けた。

 するとそこには、妙な被り物をした女性が海の上に立っていた。

 なんだあれ?と至極当然の疑問を撮影者がもらした時、その奇妙な女性が手を横に払う仕草をした。

 そして放たれる黒い何か。

 その何かは凄まじい速さで港に飛来する。

 は?という撮影者の言葉の後、爆音が響き渡り、撮影はそこで途切れた。

 

 

 生放送ゆえに情報の規制が入る間もなく、世界中にその動画は拡散された。

 世界中に衝撃が走り、再び混乱の坩堝と化し……はしなかった。

 

 逆である、世界はまとまったのだ。

 

 正体不明とはいえ世界共通の明確な敵が現れたのだ、疑心暗鬼が限界まで膨らみながらも、誰に向けるか分からない矛の準備を延々とやらされていた人類にとっては、むしろ救いと言えた。

 

 

 

 世界各地で現れ、無差別に攻撃を仕掛けてくる正体不明の敵に対して、人類の反撃が始まった。

 それまでの鬱憤を晴らすように、環境に著しい被害を与えるABC兵器以外のありとあらゆる兵器が使用された。

 

 だが現実は非情だった。

 現代兵器群は正体不明の敵に対して芳しい成果を上げられなかったのである。

 

 船の形を模した敵はどうにかなる。

 だが人型の強力な個体となるとお手上げ状態だった。

 人の等身に、海上移動自由自在、潜水可能、海上40ノットオーバー海中10ノットオーバーの速力、異常なまでの防御力、戦車砲以上の高火力武装、質量無視の弾薬量、高い索敵能力、高ステルス性、ECM所持。

 戦って敵の情報が揃ってくると、敵の異常な性能が見えてくる。そうして彼我のあまりの戦力差に絶望すら感じ始める始末。

 唯一の救いは、敵が陸上での活動には様々な制限が掛かるらしく、水際での対処が比較的容易である事ぐらいか。

 

 本格的な戦争が始まって半年。

 防衛方法を確立しようと必死だった人類に奇跡が舞い降りた。

 

 これが先ほど水夏が言ったパンドラの箱に通じる部分だ。

 

 絶望の中に燦然と輝く希望、艦娘の登場である。

 日本で艦娘が初めて確認されたのは、戦闘が日常化していた横須賀海軍基地の近海だった。

 

 

 

 

 とある女性の証言から再現したVTRが流れる始めた。

 

 

 水際での対処は出来ているが、このままではいずれ物量に潰されるか、資源が尽きるかして打つ手が無くなる。

 そんな状況に追い込まれていた日本軍はある一手を極秘裏に打つ事にした。

 

 敵を知ろうとしたのだ。

 戦術での初歩であり最重要手である。が、それこそが最難関だった。

 兵装をほぼ全てを取り外し、衝撃吸収性の高い船殻、船体消磁機構付、速力を犠牲に静音性を高めた推進機関。

 そんなステルス性を極限まで高めた潜水艦を半年の突貫工事で作り上げた。

 

 最低限の乗組員と、生物、化学、地球科学等の権威を数人だけ連れて、その潜水艦は人知れず夜の海に消えていった。

 人心を惑わさぬよう、失敗すれば誰にも知られず情報が消される事が決定されていた極秘裏の作戦だった。

 

 人員は自らの仕事を全うする覚悟を決めていたが、その覚悟もほぼ果たされる事はないだろうと心の奥底では思っていたそうだ。

 

 だが彼らはやり遂げた。

 生存者はたった一人だけだったが、目的を果たしたのだ。

 

 調査から持ち帰った情報は、

・消音、消磁ステルスは有効だったが、夜の海中ですら視界が良好らしく、深海に潜もうが見つかる時は見つかる。

・敵は偵察タイプ、船型護衛タイプ、人型爆撃タイプ、人型砲撃タイプ。最後に潜水タイプの五種類がいる。

・敵には外観が同じであっても、性能が違う機体がいる。

・特定の領域には敵が必ず出現するポイントがある。

・その近くには特殊な資源が存在している。

・その特殊な資源が女性に特異な影響を与える。

 という重大な情報だ。

 

 調査が大きく進んだのは二日目だ。

 敵が特定の行動を起こす海域を発見し、その周辺の調査を決行。

 するとどうやらそこには特殊な資源があり、敵はそれを回収している事がわかった。

 

 潜水艦の人員はまずはこの物質を調べようと、資源が存在するポイントを数箇所発見し、回収を開始をした。

 巡回している敵の行動パターンを読み、どうにか敵をやり過ごして、資源の回収に成功。

 資源の回収時はこれが地球上に存在する鉄鋼、重油、火薬、アルミに非常に似ているという程度しか分からなかった。

 だが、微妙に似て非なるこれが何か重要な役割を担っている事は理解していた。

 敵がこれらを元に活動をしているらしいという事が観察からわかったからだ。

 

 そうこうして人類にとって重要な発見を数々した調査隊であったが、四日目に悲劇は起きた。

 サンプルの回収直後、不運にも敵と遭遇したのだ。

 それまで発見されていなかった、潜水タイプの敵との遭遇である。

 注意を海上近くに割いていた為、発見が遅れ、敵に追われる事となった。

 必死に敵を撒こうと逃げ回りはしたが、ステルス性を重視して速力を犠牲にした潜水艦では限度があった。

 

 得た情報だけは何としても届けねばと、万が一に備え付けられた特殊な魚雷に資源サンプルと映像情報と科学者達の手記を積めるだけ積んで、陸に向けて発射した。

 その直後に潜水艦は敵の魚雷を受け、航行不可能となった。

 

 緊急浮上装置も壊れてしまい、皆は潜水用保護スーツを着て海中へと脱出した。

 しかしこの場で命が助かっても、海上には奴らが待っている。

 奴らに連れ去られるのか、このままくびり殺されるのかはわからないが、自分達の未来には絶望しか残されていないのは理解できた。

 だけど今は浮上を待つだけしか出来ない。

 

 目を閉じ、不安に潰されぬよう己を強く抱くしか出来なかった乗組員に異変が起きた。

 

 

 奇跡は偶然の積み重ねだと言う。

 女性が敵を呼ぶのか?という実証実験に自ら進んで名乗りを上げた若き女性乗組員がいた事、脱出ポイントから海流に乗って資源ポイントのど真ん中に彼女が浮上した事、敵の隊がそのポイントでの資源回収を済ます前であった事。

 様々な偶然が重なり、奇跡は成った。

 

 浮上と同時に、女性乗組員は光に包まれ、姿形が変化していた。

 そして変化は姿形だけでなく、内面にも起きた。

 女性乗組員と変化した姿の意識と記憶が解け合ったのだ。

 

 女性は周囲を見渡し、唇を噛んだ。

 他の乗組員が誰もいなかったからだ。

 女性は脱出に手間取り、他乗組員とは大分違った所まで流されてしまった。

 探しに行こうと思ったが、時間は無かった。

 光に気付いた敵がかなり近づいてきている。しかも人型爆撃タイプを複数確認。

 自分にはどうしようもないと判断した女性は、出航した最寄の基地がある横須賀港へ全速力で進路をとった。

 

 自身が海を走れる事、また全速力なら引き離せる事を女性は理解していた。

 追っ手を撒こうともひたすらに海上を走り、途中情報を積んだ魚雷を拾い、女性は横須賀海軍基地へと帰還した。

 

 

 帰港の際、勿論一悶着あった。

 女性が海の上を移動してこちらにやってくるのだ。監視についていた人間は奴らがやってきたと警報を鳴らした。

 瞬時に基地は厳戒態勢に移行し、攻撃に移ろうとして、異変に気付いた。

 

 敵は一人で、しかも何やら白いセーラー服を着ている。

 そしてこちらに向けて何やら叫んでいる様子。

 

 敵対行動は見られず、叫んでいる言語が日本語らしいとくれば、これはもしかして初めてのコンタクト成功か!と今度は別の意味で基地内は騒然となった。

 

 会議は迅速に行われ、答えは早急に出た。

 とにもかくにも会話だと。

 

 遠隔操作で動く小型ボートが彼女の前に止まる。

 そのボートにはノートパソコンが積まれており、画面には横須賀海軍のトップが勢揃いしていた。

 相手に誠意を見せるならば、誰かイケニ、誠実な人物を選出して対応に当たらせるべきなのだろうが、選ぶには時間が掛かる。

 これが手っ取り早く、人命も守られるという一挙両得の手段だった。

 

 すると彼女はとても綺麗な海軍式の敬礼を披露し、潜水艦での潜入作戦の成果と最後を述べ始めた。

 海軍上層部しか知らない作戦の詳細に、画面の向こうにいる人物達は驚愕した。何故目の前の人物が知っているのか、その内容の重大さ、その二つに。

 

 次いで彼女は自分が何者なのかを話し始めた。

 秘密作戦に同行した海軍の所属であった女性の名を挙げ、自分はその乗組員に降りてきた、駆逐艦の吹雪であると。

 女性隊員の記憶と意識が混じっている事。女性科学者に身体と意識を返そうと思えばいつでも出来る事。自分が奴らと戦う存在である事。戦う術、戦う為の準備以外は何も知らない事。

 理路整然と彼女は色々な情報をもたらしてくれた。

 本当ならば、一つ一つが世界中の情勢が引っくり返す程に重大な情報だ。

 

 更に彼女から情報を聞き出そうとしたが、サイレンの音がそれを遮った。

 彼女の出迎えと共に出していた偵察機が敵影を確認したのだ。

 到着は30分程になるらしい。

 準備が出来ると一瞬だけ喜んだが、確認された敵影に絶望する。

 人型砲撃タイプが4、船型護衛タイプが8という編成だった。

 人型砲撃タイプ。1体だけで基地を半壊させ、自爆に近い爆撃を敢行して中破撤退させる事しか出来なかった化け物、それが4体である。

 

 画面に映った人物達も慌しく動き出そうとして、吹雪と名乗った女性に呼び止められた。

 私は彼女達に対抗できます。そして更なる戦力を呼び出す方法を知っています。

 瞳に強い光を宿して毅然と言い切った彼女の言葉に、画面に映った人物達は乗るしかなかった。

 

 無線機を与えられた吹雪は様々な要請を行った。

 まず吹雪は基地の中にいる女性に協力を呼び掛けた。

 私と同様の、戦う存在になってくださいと。

 未知の実験の被験者になれという無茶な要請ではあったが、名乗りを挙げた人物は予想よりも多くいた。

 

 大事な人を奴らに奪われた人間は多く、何が何でも一矢報いたいという憎しみから海軍に入った人間は少なくなかったのだ。

 そうして選出されたのは2名。二人とも家族を奪われ、奴らに強い憎しみを持っている人間だった。

 

 軍港の一部を借り受け、チョークで特殊な陣を描き、持ち帰った魚雷に詰められた資材を周囲に並べて準備は整う。

 吹雪は女性達に陣の中で目を瞑り、強い姿をイメージするように指示をした。

 すると周囲に置かれた資材が忽然と消え、女性達の身体が光りだした。

 様子を監視、もとい見守っていた関係者に、このまま様子を見守って欲しい旨を伝え、彼女は近くに別の陣を描き始めた。

 

 程なくして完成した陣の上に残った資材を置き、祈る。

 そうすると一部資材が消え、重厚感溢れる武器が鎮座していた。

 吹雪はその様子に一つ頷き、武装の点検を始めた。

 召喚された武装も大丈夫そう、と呟いた吹雪は、周囲にいた人間に、武装と資材には絶対に触らないように、そして光が収まった後の彼女達をここまで誘導するようにとの指示を出して、海に飛び出していった。

 地平線の向こうに影が見えたからだ。

 

 

 吹雪が軍港を飛び出すなり、敵に突貫をしかけた。

 海軍基地からの砲撃が届かないギリギリの距離で交戦は始まった。

 勝手に何を?!と慌てた声が無線機から飛んでくる。

 彼女は冷静に、まずは私の力を見てもらいます。と言ってのけた。

 

 確かに彼女の力が未知数では作戦が立てられない。

 だが未知の存在と言える少女は見た目年若い少女である。敵の超戦力に突っ込ませるのは目と心に悪い。

 

 敵の眼前に躍り出た吹雪に、人型全てが照準を合わせ、砲撃を放った。その様に海軍基地の全ての人間が息を飲んだ。

 すると吹雪はするりとその砲撃を避け、護衛タイプの銃撃を物ともせず、敵の懐に潜り込んで行った。敵が慌てる様子が傍から見ても手に取るように分かった。

 

 そして次の瞬間、護衛タイプ2体が爆散した。

 

 今度は基地内の人間が慌てる番だった。

 人型よりも大分防御が脆いと言われている護衛タイプであっても、基地に備え付けられたカノン砲や機銃の火線を集中してやっと倒せる敵である。

 それを手に持った砲塔的な何かと、膝あたりにつけた魚雷発射管的な何かを使って一瞬で撃沈させたのだ。

 

 それは紛う事なき希望の光だった。

 

 少女は敵の爆発と共に基地の砲撃射程圏内に戻ってきて、本部へ通信を飛ばした。

 本部で指揮を取っていた人間は彼女からの通信を基地内全てに流すよう機器を操作するよう指示を飛ばした。

 彼女の言葉が全て金言であると知っていた彼は、その言葉を全ての仲間に聞かせなくてはと判断したのだ。

 

 敵の隙をついてどうにか二機落とせました。次からは敵も警戒をしてきますので苦戦は必至です。ですが、一緒に力を振るえば必ず勝てます。頑張りましょう。

 

 軍人らしからぬ言葉遣いだった。威厳も何もない少女の声だった。

 だが基地にいる全ての人間が極限まで奮い立った。

 

 敵が射程圏内に入った瞬間、あらゆる兵器が火を噴いた。

 奴らと戦う時のいつもの光景。

 圧倒的な物量によって陸に近付けさせない為の防衛戦。

 

 だがいつもとは兵士の顔つき、心構えが違った。

 彼らの内にあったのは攻めの姿勢だ。

 世界中の人間が浚われたあの事件から延々と煮え湯を飲まされてきた相手に、一矢報いる瞬間がやってきたのだ。これで心の高ぶりを抑えれる人間など地球上に存在しないだろう。

 

 だがその勢いも一時間も経ってしまうと陰りが見えてくる。

 動かない状況、何も出来ない時間に基地内の人間は息詰まっていた。

 

 周囲の護衛タイプを全て倒しはしたが、未だ人型は一体を沈めるのみ。

 勿論それは凄まじい戦果である。

 この短時間で9体の敵を倒し、その内一体は人型である。

 だが護衛タイプを倒し、人型を沈めた最初の20分からは状況が悪化してばかりだった。

 人型を沈めた瞬間、敵に劇的な変化が訪れた。

 護衛タイプを沈めた時には警戒するだけだったにも関わらず、人型を沈めた途端、憎悪を滲ませた表情を浮かべ、攻勢を強めたのだ。

 そして基地に対してではなく、吹雪と名乗った少女に集中砲火が始まった。

 吹雪は攻勢から一転、回避重視の守勢に回った。

 銃弾は自身や基地に敵の攻撃が行きそうな時に、直接撃ち落とし、水面に撃って水柱を作る為に使う。

 そうして40分、彼女はひたすらに耐えていた。

 

 この間基地内の人間はどうしていたのか。

 何も出来なかった。訳ではないが、何の有効打も打てなかったのだ。

 銃弾は当たっても豆鉄砲、砲撃は余裕で回避、爆撃しようにも少女を巻き込みかねない。 

 なら少女を下げて高高度から爆撃、とはいかない。彼女が下がった瞬間に砲撃タイプの圧倒的火力によって基地は灰燼に帰す。

 八方塞りである。ただひたすらに少女が楽を出来るよう、目眩ましの弾幕と回避されると分かっている砲撃を続けるしかなかった。

 

 しかしそんな厳しい状況下、基地内の人間が臍を噛んでいるにも関わらず、少女は笑みを浮かべていた。

 体力も集中力も弾薬も限界が近いはずなのに、時間が経つ毎に彼女の笑みは深くなる。

 

 そして時は来た。

 基地の方角から一発の砲弾が孤軍奮闘する少女をすり抜けて、敵人型に着弾。敵はその一撃で撃沈した。

 基地内は再び驚愕と困惑に染まった。

 そこに無線から連絡が飛んできた。

 少女が書いた魔法陣から彼女達が出てきました!と。

 焦燥に駆られた足りない言葉に、なんのことやら?と首を傾げていた将校達だが、答えは戦場に出てきていた。

 海上を疾駆する新たな影が二つ。

 それは新たな希望だった。

 

 ものの十数分で決着はついた。

 結果、人型四体を撃沈させ、こちらの被害は吹雪と名乗った少女の服が多少ボロボロになった以外に目立ったものはない。

 

 奴らが現れて初の完勝に、基地は大きなざわめきに包まれていた。

 そして彼女達が無線を通して周囲に敵がいないと伝えると、巨大な歓声が上がった。

 

 基地内総出で彼女達を迎えた。

 正体不明の彼女達に対する不安もあるにはあったが、勝利の喜びが彼女達を温かく迎える余裕を生んでいた。

 三人の内一人は女性を背負った状態で帰ってきた。

 その事に首を傾げながらも、ともかくと万雷の歓声と拍手が彼女達を包む。

 彼女達はその声に応える様に大きく手を振り、笑顔を振りまく。その自然な様子に彼女達に対する不安が取り除かれ、更に歓声は大きくなる。

 

 吹雪が一歩前に出て出迎えた人間に礼をして、話し出した。

 まずは皆さんの私達に対する不安や懸念について話させてください。そんな出だしの語り口は基地のトップの心胆を冷えさせた。

 

 少女達の持つ情報は世を揺るがす重大な情報である。それはつまり個人の判断で周囲に漏らして良い物ではなく、情報統制されてしかるべき機密事項であった。

 それをこんな大勢の前で話されては!当然将校達は慌てるが、時既に遅し。彼らにその話を遮る手段も時間も存在していなかった。

 

 彼女達は将校達に話していた自分達の存在についてを改めて話し、更には奴らの情報についても話し出した。

 奴らが何と呼ばれ、個々においてどれほどの力を有するのか、敵の中でも強力な個体を倒すと依り代となっている人間を解放できる可能性があるという事を。

 またも極めて重要な情報だった。

 前の二つも未知の塊であった敵の正体が少しでも見えた事は非常に大きい。

 だがなによりも三つ目、人類が最も知りたかった情報がついにやってきたのだ。

 この情報は人類全体に精神的な安堵をもたらし、どん底にあった戦意を大きく高揚させる事だろう。

 

 全てをしゃべり終えた彼女達は、少し疲れた表情をして、ごめんなさい、少し休ませてくださいと言った。

 吹雪は長い戦闘の疲れから、二人の女性は身体が変化した直後の違和感から、長期間の休息を必要としていた。

 

 基地の人間にそれを否という人間などいる筈も無く、彼女達は基地内の最上の部屋に通され、倒れるように眠ってしまった。

 

 さて、ここで困ったのは基地の上層の人間達だった。

 彼女達、彼女達が持ってきた情報、極秘任務の資料、基地近郊で行われた戦闘記録、全てがとてもデリケートな問題だった。

 

 本来ならば、一基地のトップが悩む規模の問題ではない。さっさと国に全部を丸投げして、判断を委ねればいい事案だ。情報を渡してしまえば、政治にどう使われようと知った事ではないと言い切れる。

 

 だが、彼女達が多くの人間の前でそれを話してしまった事が問題だった。

 彼女達からしてみれば、100%の善意である。

 先の戦闘で相当な無理を押し通した彼女達は、自分達が短くない間意識不明に陥ると、自分の体について理解していた。

 だからこそ先に情報を出す事にしたのだ。

 

 今はかん口令を出して情報の規制を行っている。

 彼女達にもう一度確かな事を聞き、情報に齟齬が出ないようにする為という建前だ。

 お上に渡して指示が返ってくるまで待ってくれと正直に言うと心象が悪くなり、反発される可能性があるので、彼女達の意識が戻るまで待ってくれと言い換え、これは人類全体をぬか喜びさせる訳にはいかないから、必要な処置であると話を大きくして誤魔化した。

 

 しかし一応の真実は含まれていても、所詮は子供騙し。基地内全ての人間の口を長時間塞ぐのは不可能である。

 すぐにでも情報が漏れるのは必然だ。

 基地にいる人間は情報規制に理解のある兵士ばかりではない。一般人も多く、兵だって反撃の狼煙を上げたこの一、二年に集められた新兵ばかり。

 人類を救う知識が自分の手に握られているというプレッシャーに耐えられる人間が、その中にどれだけいるというのか。

 

 情報が本意ではない形で拡散し、あらゆる国から情報を何故即刻公開しなかったのかと非難を浴び、国は自分達を切り捨てる。

 そんな未来が見えた彼らは、情報公開の準備を秘密裏に進める。

 

 敵撃退から一日が経った。

 基地内の空気は昨日の晴れやかな物から一転、どこかそわそわしたような落ち着かない雰囲気へと変わっていた。

 彼女達が起きない事への不安や、手にした情報への複雑な感情が一日で臨海を迎えようとしていた。

 

 上層部の予想通りだった。数年の絶望を経た人間に、希望の光を分かち合いたいという気持ちを抑えろというのはやはり難しかったのだ。

 そしてそれは上層部の人間とて同じだった。

 

 昼過ぎ、横須賀基地司令部は職務を全うする為、本部へ連絡をした。

 海軍本部及び政府に連絡を取り、彼らは全ての情報を渡す。

 これらが全て真実だと伝えるが、常識から考えて、それは荒唐無稽な情報群だった。

 上はこれらを悪趣味な創作物と断じ、首を挿げ替えるという宣言を行った。

 

 そうなると分かっていた横須賀基地の司令部は、その命令を粛々と受理した。一週間後には病気療養の為、強制退役となる。

 一週間の時間を稼いだとも言う。

 

 一日をかけ、基地内全ての人間を説得して巻き込み、情報をまとめた。

 彼女達の会話、戦闘の様子を編集して映画のような動画を作る。

 

 三日目、彼女達が目を覚ましたので協力を申し込み、了承をもらえば、改めて説明をしてもらった。

 

 四日目、回復した彼女達に例の素材を取ってきてもらう事に成功した。その様子も動画にする。

 

 五日目、後任の人間が来る前日に全てを公開した。

 日本各地の基地、各国あらゆるメディアに映像を送りつけ、有名な動画投稿サイトには彼女達の召喚方法、武装の召喚方法のやり方を生放送で様々な言語の字幕をつけて放送した。

 

 

 反響は凄まじいものだった。

 軍の総力を挙げて敵が重用している特殊な資源を回収していたが、その使い道について全く分かっていなかった米国と欧州はその使い道をようやく知った。

 ならばと試してみれば、本当に出来てしまった。

 奴らに対抗する術を多くの国が手にした瞬間である。

 世界中の人間が日本という国に感謝を示した。

 人類の敵が現れたことで結束したとはいえ、国境が取り払われたわけではなかった。

 その中で見返りも求めず、全てを情報公開した英断に賞賛の声が上がった。

 

 その英断は、独断だったわけだが。

 しかしそうなると国は横須賀基地の人間を処断する事ができなくなった。

 むしろ謝罪しなければいけないのだが、彼らは謝罪を受け取らず、代わりに艦娘と自分達を呼ぶ彼女達の人権を認めさせた。

 

 英断から数日後、吹雪は全世界中継のカメラの前に立っていた。

 慣れていない事が丸分かりのガチガチ具合だったのだが、その様子にカメラの前にいる人間はほっとする人間は多かった。

 人類の悪夢である敵と同等以上に渡り合う艦娘、そのイメージが先行している人間は多くいた、だがどう見ても普通の人間である彼女を見ればそのイメージも薄れる。

 

 改めて敵や艦娘に対する説明を行い、そして最後に彼女は言った。

 私達は兵器です、ですが人間でもあります。私達に正しく二つを求めてください。そうすれば私達は皆さんの矛であり、盾となり続けます。

 そう訴える目は強く、美しかった。

 

 この人類と艦娘の融和宣言の後、艦娘という存在は公に世間に認められる事となった。

 それから半年も経たず、彼女達は人類の希望、海を疾駆するヒロインとして親しまれるまでになった。

 

 一部人間は、彼女達が正体不明なのは変わらず、奴らの仲間である可能性は否定できないと訴えているが、声は小さい。

 彼女達がいるから輸出入が再び可能になったし、漁業も限定的ではあるが再開された。

 戦闘だけでは一般人からは少し遠くに感じてしまうが、生活の助けとなるならその恩恵は分かり易く、好意的に受け入れられる。必然、彼女達を否定する言葉は小さくなる。

 

 ともかく人類は、奴らに対抗する手段を仲間に出来た訳である。

 これを機に、失われるばかりだった人類は、失われた者達を取り戻す為の戦いを開始するのだった。

 




あと二話ぐらい説明回。
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