俺の妹が榛名になった件   作:薬丸

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遅くなってしまって申し訳ありません。
一日で書き上げたのでちょっとちぐはぐしてます。
夜にまた推敲します。


6.この光景を見て安心したらもう寝ろ

「お兄様」

 兄と呼ばれるのは慣れている、これでも22年間兄をしっかりと務めてきた自負がある。

 けれど呼び方が変わるだけでこうも違和感のあるものだとは初めて知った。

「お兄様?」

「あ、いや、すまん、えっと、ああくそ、ごめん、混乱してる」

 色々と考えていた筈の段取りをお兄様という言葉ですっぽりと消失させてしまったらしい。

「秋良さん、大丈夫ですか?」

 後ろに控えていた大淀さんが慌てた様子でこちらに寄ってきた。

「ええ、大丈夫です、ちょっと動揺してしまっただけです。

 すまない、改めて自己紹介をさせてもらう。俺は安達秋良、君の提督になる者だ」

「はい、存じております。私は金剛型三番艦、榛名と申します。不束者ですが、何卒宜しくお願い致します」

 その堅苦しい挨拶にまた戸惑うが、俺は戸惑いを押し込めて笑顔で言う。

「おう、よろしく」

「挨拶は済まれたようですね、では改めて彼女にも説明をしたいと思うので、場所を移動しましょう。榛名さん、動けますか?」

「はい、大丈夫です」

「そうですか、では秋良さんの執務室に向かいましょう。そろそろ準備も整っているでしょうし」

「分かりました」

「私はここの後始末をしておきますね」

「任せました、明石さん」

「あっ、有難うございました」

「あはは、お礼なんて要らないですよ、これが私のお仕事ですから」

 

 そうして俺達は明石さんと別れ、大淀さんの先導で執務室に向かう。

 道順を覚えるべきなのだろうが、俺の後ろを三歩退いて付いてくる榛名という少女の事で頭が一杯になってしまっていた。

 

 俺は初め、彼女を妹とは別人として接しようと思っていた。

 当然である、俺は水夏の兄ではあるが、呼びだされた英霊の兄ではない。

 英霊の方も水夏の記憶を持っていたとして、急に現れた男に妹扱いされたくはないだろうと考えていた。

 

 けれどもあのお兄様という言葉を聞いて、俺はどうしたら良いか分からなくなった。

 

 なんというか、イメージとしては別人の顔に整形した肉親が近いだろうか。

 中身が一緒かどうか本当の所分からない、変わった事に対してなんて言えばいいのか分からない、そもそも何故そうなってしまったのかが分からない。この例えも厳密には違うけど、困惑ぶりで言ったらそんな感じ。

 

 いっそお兄ちゃんといつも通りに呼んでくれれば、妹扱いしただろう。

 けどお兄様だぜ?距離を図りかねてしまうのもしょうが無いだろ。

 

 

 そんなぐちゃぐちゃな気持ちのまま、執務室に着いてしまった。

「今日からここがお二人の仕事場になります」

「あっ、はい」

 扉をくぐるとそこには宮守さんの執務室と似たような感じの部屋が広がっていた。

 大きめの執務机、ようこそ横須賀鎮守府へと書かれた掛け軸、コート掛け、収納棚。極々シンプルな、悪く言ってしまえば殺風景な光景だ。

「これから榛名さんの状態を聞いていくのですが、秋良さんも同席なさいますか?なさらないのでしたら机の上に当分こうされるのが良いだろうというマニュアルがありますので、そちらを読みならが時間を潰して下さい」

「えっと」

 俺は執務机の上に置かれた分厚いマニュアルをちらりと見るが、今の状態では頭に入ってこないのは確実だ。大淀さんと榛名さんの様子が気になりすぎる。

 これは今読むのは無理だと判断し、同席を願い出るのだった。

 

 

「それでは幾つか確認事項を聞いていきます。まず自己紹介をお願いします」

「金剛型三番艦、榛名です。四一式36センチ砲を積み、江田島での対航空戦力として戦いました。

 高速戦艦四姉妹の中で最も長く戦い抜きました」

「はい、大丈夫のようですね。では現在の人格について話して下さい」

「現在水夏さんとの精神とは非常に良い関係です。精神の思考性も似ており、彼女の記憶にも強い共感を得ています」

「もう記憶情報の共有もしているのですか、すごいですね。ちなみにどれだけ記憶の共有はされていますか?」

「はい、えっと……」

 そして榛名さんはこちらをちらりと見て、

「過去の事は大体、そしてお兄様の事も大体……」

「おい水夏!お前何を何処まで話した!榛名さんの反応からして微妙に気まずい事まで話してるだろ!」

「あのっ、私が色々と聞きたいとお願いしただけなので、水夏さんを怒らないでください。すみません、お兄様への配慮が足りませんでした」

「いや、榛名さんが謝る事じゃ……」

「えっと、とりあえず落ち着きましょう。では記憶の共有はかなり深い所まで済んでいるのですね、では感情の共有は如何でしょう?」

「半ば以上は、ですけど、えっと、あの、最後の一線までは互いに遠慮している形です」

「そうですか、それもまたすごい話です。ここまで相性の良い関係は見たことがありません」

「あの、話の途中にすみません、俺からも色々と聞きたいことがあるんですが、良いですか?」

「ええ勿論です。ここは相互理解の場でもありますから、気になった事は何でも話し合いましょう」

「えっと、まず記憶の共有とか、感情の共有っていうのはどういう事でしょう?」

「宮守提督から英霊と依代の関係については聞かれていますか?」

「はい」

「でしたら大分楽ですね。英霊と依代は強い結び付きがあればあるほど英霊の力を行使できます。その結び付きの強化として内部で色々な事を話し合うのですよ。

 ですが記憶も感情もそうそう簡単に吐露できるものではないでしょう。本来なら訓練や生活を通して信頼を深め合い、徐々に記憶と感情を擦り合わせていくのです。

 ですが水夏さんと榛名さんは最初期段階でもうかなり深い所まで結び付いているので、先程は驚いてしまったわけです」

「そういうものなんですね。では次なんですが、内部、と言う事は今水夏の意識ははっきりとあるって事ですか?」

「はい、徐々に榛名さんの意識と一緒になっていくと思いますが、今はまだ分離した状態だと思います」

「そうですか、あの榛名さん、妹はなんて言ってますか?」

「あっ、えっと、ちょっと恥ずかしいですが、水夏さんの言葉を伝えます」

「お願いします」

「コホン、『この人は大丈夫だから、後お兄ちゃんはもっとしゃんとして!悩んでるの丸わかりだよ!』と伝えてくださいとの事です」

「そっか、うん、その口調と鋭さは水夏だわ。それじゃあ榛名さんと水夏に聞きたい。

 正直俺は迷ってる、榛名さんと水夏は別人として扱おうと思っていた。けどお兄様と聞いて決意が揺らいだ。俺は榛名さんを妹として見ればいいのか、他人として見ればいいのか、どうすればいい?」

「……はい、水夏さんがおっしゃるには、『妹の友達として付き合えばいいんじゃないかな?色々やっても良いけど、情報は妹に筒抜け、みたいな。だから』……えっ、それお伝えするんですか?ほ、本当に?あっ、そういう事ですか、水夏さん……分かりました。『榛名さんに私を重ねちゃ駄目、彼女は彼女だから!だから付き合っちゃっても良いよ!身体はもう別物らしいし!』……との事です」

 顔を真赤にした榛名さん、めちゃくちゃ可愛い。

 じゃない、割と真面目な内容なのだ。水夏がはっちゃけて物をいう時は本気でそう思っている事が多い。

 だからその随分物言いは、無茶苦茶なことを言う事で背中を押してくれてるのだと思う。

 そのまま受け入れようとは思わないが、気遣いには応えるのが兄ってもんだろう。

「分かった。付き合うとかはわからんが、榛名さんとお前は重ねない。榛名さんは榛名さんとして大事に扱うと約束する」

「……分かりました、伝えます。『そっか、お兄ちゃんが約束してくれるなら心配ないね。これで私が榛名さんと一緒になっても大丈夫だ』……はい、分かりました水夏さん、お兄様の事は全て私に任せてください。はい、貴女が私のパートナーで良かった。はい、私からもありがとう、です」

 傍から見たら奇妙な一人芝居だが、彼女は胸を抑えながら涙を滲ませていた。多分、水夏と深く話し合っているのだろう。

 優しいあいつは自分の心を開くのがすごく上手くて、人の心を読むのも開くのも上手かった。榛名さんも、あいつの心に籠絡されちゃったんだろうな。

 そしてそれは榛名さんは特級の良い人だという事でもある。

 誰にも優しかった水夏だが、真の意味で心を開くのは極々一部だ。そんな水夏が太鼓判を押すのだから、間違いない。

「これはもしかして」

「どうしたんですか、大淀さん」

「彼女達は最高のパートナーである、これは間違いないです。そしてそれはイコール、彼女達は最強の艦娘になれる可能性も高いという事です。秋良さん、キャンペーンに乗って来てくださって有難うございます!」

 大淀さんはキラキラした目で俺と榛名さんを見、俺の手を握ってブンブン振り出した。

「って、すみません。司令艦の性とはいえ、今戦力について話すなど無粋の極み。大変失礼致しました」

 冷静になった大淀さんは俺の手を離し、恥ずかしそうに俯いてしまった。

 まあけど、榛名さんが強くなる可能性が高いと聞けて、俺は単純に嬉しい。

「すみません、水夏さんと話し込んでしまって……あの、どうされました?」

「ああ、いや、何でもないんだ。なんというか、榛名さん、改めてよろしくお願いします」

「はい!一緒に頑張りましょう、お兄様!」

「あの、そのお兄様っていうの、やめない?違和感で背筋がゾクゾクする」

「駄目でしたか?ならお名前で……秋良さん?あっ、ちょっとこれは……水夏さんの感情が……」

「まあ水夏からしたらそっちの方が恥ずかしいだろうな」

 名前で呼ばれて別の意味でゾワゾワと来たのは内緒である。

「そんじゃあ水夏が落ち着くまではお兄様で」

「助かります。ではお兄様、水夏さん共々改めてよろしくお願いします」

 こうして俺は心のわだかまりが解けるとともに、榛名さんと上手くやっていける予感に安堵するのだった。

「あの、お二人がとても良い雰囲気なのは喜ばしいのですが、まだ質問はありますからね?」

 申し訳無さそうな大淀さんに俺達ははっとするのだった。

 

 

 詳しい記憶の確認、戦闘形態の確認、秘書官としての適正などを試し、榛名さんは何事も無く艦娘としてやっていけると判断された。

「それでは報告を上げてきます、お二人はこのまま机にあるマニュアルを熟読しておいて下さい。三時間程しましたら案内役が来ますので、それまではここから移動しないようお願いします。

 執務室にはトイレもシャワー室もありますので、活用下さい。では」

 そう言って大淀さんは去っていった。

 有難うございましたと二人で送り出し、俺達はそれぞれのマニュアルを読み出すのだった。

 榛名さんは水夏よりも大分真面目な質らしく、分厚いマニュアルに果敢に取り組んでいる。

 俺も負けていられないと、マニュアルを読み込み、理解を深めていくのだった。

 あまり沈黙が気にならないのは、もう彼女に対して気兼ねをしていないからだろう。

 かつての仕事場はもっと喧騒に満ちていたし、仕事をやめてからは水夏がずっと騒がしかった。

 久しぶりの落ち着いた時間に心が休まるのを感じた。

 これからもこんな雰囲気の中仕事が出来ると考えると、キャンペーンに応募してくれた水夏に心のなかで改めて感謝するのだった。

 

 

 

 気になった事などを話し合った以外は特別会話は無かったが、穏やかな空気は居心地が良かった。

 彼女もそう思っていたらしく、気が合いますね、と互いに笑いあった。

 百ページはあるマニュアルの3分の1を読み終えた頃、ノックの音が執務室に響いた。

 そこで三時間が経った事を遅れて気付かされた。

 

 案内という事だったから、二人並んで扉を開ける。するとそこには宮守さんと不知火さんが立っていた。

「やあ、四時間ぶりだね。と、なんだ、もう仲良さそうじゃないか」

「妹が色々と間に立ってくれたおかげです。案内は宮守さんが?」

「そうか、出来た妹さんなんだね。ああ、今回はある程度深い所まで案内するよ」

 

 見知った人が来てくれた事で安心する。

 俺と榛名さんはそのまま宮守さんの後ろに付き、色々と案内してもらう。

 食堂、演習場、工房、浴場、会議室、武器庫、これからの仕事で行く場所を余すこと無く回っていく。

 鎮守府は広く、回り終えた時には窓の外はすっかり暗くなり、アクビが出そうになる時間になっていた。

 一週回って執務室の前に戻ってきた、今日はここまでだそうだ。

 執務室には浴室、寝室が備え付けられているので、後はこのまま寝るだけだ。

「明日の朝会議に出席してもらう事になる、私が迎えに来るので待っていてくれ。そして榛名君」

「はい」

「艦娘は本来部隊ごとに用意された場所で過ごし、同部隊の者と寝食を共にして関係を強化していく。勿論君達の場所も用意されているが、初めての夜を一人で過ごすのは不安だろう。

 なので今日は私の部隊にいる高速戦艦達と共に過ごさないか?秘書官として心得や戦場での戦い方を口頭で学ぶ良い機会だと思うのだが」

「そういう事でしたら、是非とも」

「そうか、金剛達も新しい妹が出来たと喜ぶだろう。それじゃあ不知火、彼女の案内を頼むよ」

「はい、任されました。では榛名さん、行きましょう」

 そうして榛名さんと不知火さんは連れ立って行ってしまった。

「私も執務室に戻ろう。それじゃあ今日は色々あったから疲れたろう?ゆっくり休んでくれ。明日は七時頃に迎えに来るから、用意を済ませていてくれ」

 宮守さんはそう言って、執務室に戻っていった。

 俺は扉を閉め、鍵をかける。

 そのままシャワーを浴びて、寝室に戻る。

 寝室には家から持ってきた荷物がすでに展開されて置かれていた。

 荷物を確認し、時計のアラームをセットする。

 そして真新しいベッドに潜り込み、天井を眺める。

「宮守さんの言う通り、今日は本当に色々あった」

 宮守さんと不知火さんを始めとした様々な人と出会い、親方妖精さんと出会ってファンタジーな場面に直面し、榛名さんと出会って和解して、マニュアルを読み込んで周囲を案内されて頭を使いまくった。

「受け入れるのが大変だったけど、でもなんか上手くやっていけそうな気がする」

 目を瞑り、宮守さんと不知火さんの優しい笑顔、親方妖精さんのドヤ顔、大淀さんの言葉、榛名さんから聞いた水夏の言葉と榛名さんの態度、色々と心休まる光景を思い出していくと、ゆっくりと穏やかな気持ちになり、睡魔が優しく近寄ってくるのを感じた。

 

 今日はゆっくり休んで、明日も頑張ろう。

 そう決意した所で俺の意識は眠りに落ちた。




話が進まないまま終ってしまった……。
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