人生とは不思議なもので、本当に何が起きるか分かったもんじゃない。
だから少し前の俺はこんなことになるなんて、夢にも思っていなかったんだ。
まさかこの、17歳高校生、彼女いない歴=年齢。もちろん童〇の俺に、可愛すぎる妹たちができるなんてっ…。
きっかけは一週間前。ちょうど四月に入った頃だ。
春は出会いの季節というが、俺のダメ親父がきっかけになるとは思っていなかった。
仕事に対しては真面目な父親だが、家にいるときはだらけっぱなしでどこか少し抜けている。そんな親父は妻、母さんからも見捨てられ、俺とダメ男の二人暮らしが始まったのだった。
だが、見捨てられ、早一年半、どういうわけかダメ男は再婚することになったのである。
その再婚相手の三人の娘たちが俺の女兄弟となったわけだ。といっても、そのうちの一人は20歳大学生。要するに、俺には可愛すぎる 妹+姉(義理) が計三人もできてしまったのである。
これはそんなモテない高校二年生の俺───
春、学校の下校時刻を告げるチャイムがなっている。
今日、四月七日はこの高校の入学式である。
雲一つない青空を桜が舞っている。入学式には絶好の日だったと言って良いだろう。
式が終わったのはちょうど一時間前だ。ほとんどの生徒はすでに式の片づけを済ませて下校していた。
だが、秋は現在、妹と校内で追いかけっこの真っ最中であった。
本日新一年生として入学してきた妹、
そんな可愛い妹に追いかけられている。なんて幸せなんだ俺!
初めのうちはそんなことを考えながら、この状況を楽しんでいた。しかし、走っているうち分かってきたことがある。こういう人間のことをいわゆるヤンデレというのではないだろうか。
かれこれ三十分は走り続けている。ほとんどの生徒がすでに下校しているから良いものの、まだ何人か残っているときは大変だった。
走り続けている秋と香里の間に誰かが立ちふさがるたび背後から
「私とお兄ちゃんの邪魔をしようしている君!どかないと、斬るわよ!」
という香里の声がきこえてくるのである。
可愛い妹に秋はいつからか恐怖まで感じていた。
「なんでついてくるんだよ!」
「お兄ちゃんと一緒にかえりたいのー!」
俺の質問に対し香里はそんな可愛い返答をした。可愛いはずなんだ。…なのに俺には少し恐ろしく感じられた。
そんな追いかけっこは二時間も続いた。最後には秋が派手に転けたのである。
走り疲れ、会話ができないほど秋も香里も息を切らしていた。荒い息だけがひと気のない廊下に響く。
二人とも呼吸が落ち着いてきた。秋は香里に声をかけるより先に、しゃがみこんでいた規則正しく並んだ冷たいタイルの床に手をつき、立ちあがろうとした。その時、香里の手が秋の袖をつかんだ。
「!?」
思わずビクッとしてしまった。
「お、お兄ちゃん… 立てない…」
「はあ!!?」
「大声出さないでよ…」
香里がしゃがみこんだまま涙目で俺を見上げている。
どうやら香里は疲れ果て歩く体力までなくしてしまったようだ。
「お、おう、ごめん」
とりあえず秋は香里を家に連れて帰る方法を考えていた。
その時、秋のケータイの着信音が鳴った。
【おそい】
その短く不愛想なメールは、姉の
式が終わっても帰ってこない俺たちを心配しているのだろうか。とういう秋の考えは次に送られてきたメールによって打ち砕かれた。
【心配してない 早く帰ってこい】
エスパーかよ!
秋は心の中でツッコミをいれ、ケータイをズボンのポケットにしまい、香里に目をむけた。
香里も黙ってこっちを見ていた。
秋はその場で少し考え、ため息をついた。
「ほら、肩貸してやるから…」
秋が手をのばすと香里はすごくうれしそうな顔をして、秋の手をつかんだ。
「お姫様抱っこがいいなあ」
「調子に乗るなよ」
その呟きに香里の顔を見ずに返答する。
「照れないでよ」
香里がクスッと笑いながら言った。
「……」
秋は何も返すことができず、それからは家に着くまで沈黙が続いた。
家に到着したときにはすでに入学式が終わってから、三時間近く経っていた。
家族が増え、広さを求めて引っ越した家の玄関はなんだか見慣れなくて違和感があった。
ドアノブ掴み、引くと、ドアは開かずガチンと音をたてた。
「? あれ、鍵かかってる」
秋がそう言った瞬間、ドアが勢いよく開き、前方から足のようなものがとんできた。足のようなものでない。完全に足だ。
それをよけるように秋に支えられていた香里が後ろへ飛び退く。
秋には何が起こったのかよくわからなかった。
ドガッ と鈍い音を立てた後、秋はその場に倒れこんだ。
「おそい!!」
家の中からそう言ったのは沙里だった。更にその奥には今年小学二年生になった末っ子の
どうやら俺は沙里姉から飛び蹴りくらったようだ。
秋は今起こったことを頭の中で整理しながら立ち上がった。
「もうずいぶん前に式は終わったはずだろう!?まあいい、早く家に入れ」
沙里は相変わらず不愛想にそう言った。当たり前だ、怒っているのだから。
「ご、ごめん…」
そう謝り、家に入ろうとする秋を追い越して香里が言った。
「お兄ちゃん、おつかれっ」
「!? そ、そういえばお前、立てなかったんじゃ…?」
そうたずねる秋にニコっと笑いかけ香里は家の中に入っていった。
「……やられた……」
秋はその場に立ち尽くし香里にハメられたことを理解した。
それから家に入り、リビングへと向かった。
リビングの戸を開けると予想外の展開に秋は再び混乱した。
何故か大根が飛んできたのだ。三人の母親、通称
彼女はなんというか…。綺麗な人だが天然なところがある。
大根は秋の顔面に直撃した。
「ふぇえ…ひどいじゃないぃ…なんでこんなにおそいのよ、アッキー君のバカあっ」
子どものように泣きながら里美さんが言った。
「きょ、今日何かありましたっけ…?」
秋が鼻血を出しながらたずねた。
すると里美さんは泣くのをやめ、急に笑顔になって言った。
「いきなりだけど、お花見にいこうと思うの!」