「で?その子と話したことあんの?」
秋の質問に利里奈は首を横に振った。
二人は家族と花見に行った帰りだった。
日が沈み、真っ暗になった道を月明りだけを頼りに進んでいく。川原をたどっていると、月に照らされている夜桜も美しく見える。
その途中、秋は利里奈の悩みを聞いているところだった。
それは、学校に気になる子がいるが、まったく声をかけることができないらしく、しかもその子は来週転校してしまうため、どうしてもそれまでに声をかけたい、というものだった。
「どんな子なの?」
「どんな…? んー… かっこいいの…?」
利里奈は首をかしげ、何故か疑問形で言った。
「好きなの?」
秋の突然の質問に利里奈は数秒固まった。
「す、き?どうゆうこと?」
どうやら利里奈は無自覚だったようだ。
「その子のことがとくべつ、って思うとこだよ」
「…そ、そうかも…」
秋がニヤニヤしながら言うと、利里奈は少し気持ち悪がるようにそうこたえた。
そんなやりとりをしている間に二人は家に到着していた。
「おかえりなさぁいっ」
家の玄関の戸を開くと、香里と沙里姉と一緒に、先に家に帰っていた里美さんが明るくバカでかい声で家に迎え入れてくれた。
「利里ちゃぁん!心配したんだからね!」
「ん…ごめんなさい」
里美さんが泣きながら利里奈に抱きついて頭をこすりつけている。
秋は、俺のことは無視か…と思いながら苦笑いを浮かべた。
玄関には親父の靴がない。まあ、いつもどうりまだ仕事から帰ってきていないのだろう。
里美さんにたずねるとやはり思った通りのこたえがかえったきた。
「ええ、ダメ男さんならまだかえってきていないわよ」
「…」
同情スルヨ親父… ダメ男と呼ばれる父に秋は少し同情した。
「えぇ!?利里奈、好きな人ができたの!?」
香里のでかい声が家に響いた。
「か、香里、うるさいよ」
夕食に里美さんの報告どうり季節外れではあるが冷やし中華を食べた後、香里の部屋で秋、利里奈、香里と沙里姉との四人で利里奈のことについて会議中であった。
「好きってよくわかんないけど、とくべつ?っておもうの」
「それは… 恋だなっ!」
沙里姉が右手に持ったビールをグイッと飲み干してから、にまっとした笑顔でそう言う。
「名前はなんていうの?」
「あうっ 何するんでい秋!」
秋が沙里姉からビールの缶を取り上げながらたずねた。
「佐々木ゆうき…」
「へぇ!ゆうき君か!あのね利里奈、 好きな人とは何としてでも一緒にいていいんだよ、たとえ相手が傷ついたとしてm…」
「わああ!利里奈!香里の話は聞いちゃだめだ!」
嫌な予感がした秋は、香里がしゃべるのをとめるようにそう言った。
「むう、なによお兄ちゃん 私変なこと言ってないもん!」
お前は変っていうより怖いんだよ!!香里をにらみつけながら秋はそう思った。
「あのね、すごいんだよ、あの子…」
利里奈が勝手に騒いでいた秋たちを、もうなんだか無視するように話しはじめた。
「りりな、学校ではひとりでいるのが好きなの…みんなのはなしはよくわかんないし、このぬいぐるみ、変って言われるし…でも、」
利里奈が、あのキノコのぬいぐるみを抱きしめる腕に少し力をいれた。
そんな会議は思ったよりも長く続いて、やっと終わったのは沙里姉が睡魔に負けた時だった。
利里奈の話しによると、ゆうき君という人物は、学校で友達のいない利里奈に唯一話しかけてくれた人物だったらしい。
そして、ゆうき君が学校にいることができる最後の日に、利里奈はゆうき君に想いを伝える、ということになったのだ。
「あのね、秋、りりな、すきっていえなくてもいいの」
利里奈がそれを言ってきたのはゆうき君が転校する前日のことであった。
秋が高校から帰宅している途中、小学校から帰る途中であった利里奈と出くわしたのである。
今日は香里が委員会でいないため、秋はいつもとは違う、静かで安全な下校をしていた。
「思ってることは言っておいたほうがいいよ、後悔しないように」
「うん。だから、いいの ありがとうって言えればいいの」
「そっか、利里奈がそうしたいならそれでもいいともうよ」
「お兄ちゃぁん!!待ってよぉ!」
やけに速い足音とともに聞こえてきたのは香里の声だった。
その声を聞いたとたん、秋は利里奈の手をひいて走り出した。
「がんばれよ、明日」
「…うん…」
「待ってってばー!!」
利里奈の小さな声をかき消すように利里奈の声がうるさすぎるくらいに響いた。