四時間目終了のチャイムが聞こえる。
本日、秋の学校は保護者会のため授業は午前中で終了した。
チャイムが鳴り終わるのと同時に聞きなれたバカでかい声が聞こえてきた。
「お兄ちゃぁん!!」
香里の声だった。
「うるさいよ香里…」
秋は少し呆れた顔で香里を見た。
「ねえねえお兄ちゃんお兄ちゃん!」
「お兄ちゃんお兄ちゃんうるさいよ…」
「へい兄貴!」
「その呼び方もやめろ」
「うへへ」
香里はなんだか変な笑い方をした。
「ねえ、利里奈のとこいくんでしょ?」
秋はギクッとした。
今日は利里奈が気になっている男の子が転校してしまう日である。そした利里奈がその子に想いを伝える日であった。
「な、なんのことだよ」
「ふふふー、お兄ちゃんのことでしらないことなんてないんだから! 隠したって無駄なんだからね!」
やけにうれしそうな顔をしている香里の前で、秋はため息をついた。
「早くいくぞ」
「はあい!」
秋と香里は利里奈のいる小学校に向かった。
「…お兄ちゃん?」
「な、なんだよ」
背後から香里が睨んでいるのを感じる。
「どこなのよここー!!」
秋と香里は、利里奈のいる小学校に行く途中で思いっきり迷子になっていた。
「しょ、しょうがないじゃんか!あの学校行ったことないんだから!」
「へえ!まあいいわ、許してあげる。あそこに売ってるソフトクリームとクレープ買ってくれたらね!」
香里は近くにあったクレープの屋台を指さした。
「なに言ってんだよ」
「だってえ!四時間目終わってすぐ学校でたのー!お昼ごはん食べてないのー!それに!制服でいるんだしクレープ持って歩いた方が放課後デートっぽく見えるでしょう!?」
「何がデートだよ!」
「ほんっとわかんないわね!お兄ちゃんが童貞なのも無理ないわ」
「はあ!?関係ないだろ!?」
「うるさいわDO U TE I!」
「うぐ…」
秋の心に見えない何かが突き刺さった。
「も、もう俺が保たない…早く学校さがそうぜ…」
そう言って二人は再び小学校を探しはじめた。
二人が利里奈の小学校に到着したのはそれから三十分後のことであった。
最終的に交番にかけこみ道を聞いた。なんだかかっこうわるい気はするが、道が分かったのだからまあよしとすることにした。
そして、何はともあれちょうど良い時間に到着することができた。
高校は保護者会のため四時間で終わったが、小学校は通常授業のはずだ。
丁度授業が終わった頃らしく少しずつ生徒が下校していく。
秋と香里は校門の前でスタンばっていたが利里奈は出てこない。
「お兄ちゃん、ちょっと中まで行ってみない?」
香里がいたずらな笑顔でそう言った。
「いや、さすがにまずくないか?」
「大丈夫だよ多分!」
香里は強引に秋の腕をひっぱり学校の中へと進んでいく。
校内には人の姿はほとんどなかった。
「見て見てお兄ちゃん!」
「おま、声でかいよ!」
秋が視線をむけた先には小学生用の小さい椅子に座る香里の姿があった。
「あはは!ちっさくない!?」
「遊ぶなよ…」
秋は利里奈をほったらかして再び歩き始めた。
「待ってよー」
香里がそう言ったのとほぼ同時だったと思う。
「しっ!」
秋は香里の腕を引っ張り近くの教室に隠れた。
誰かの声が聞こえてきたのである。その声の主はすぐに分かった。
「佐々木さん!待って!」
そう言ったのは利里奈であった。
「佐々木って、たしか利里奈が好きなやつの苗字だよな」
秋は小さな声で香里に言った。
二人が隠れている場所から利里奈たちの様子を見ることはできなかったが声だけは聞くことができた。
「あ、あのね、 佐々木さん」
利里奈のなんだかもじもじした声が聞こえた。
二人は歩きながら話し合っているようで、だんだん足音が近づいてくるのを感じた。
「利里奈、ちゃんと言えるかな、」
香里の質問に、秋は何も答えなかった。
「あ、あの、佐々木さん、利里奈…」
二人はもう、秋と香里の隠れる教室のすぐそこまで来ていた。
「利里奈、佐々木さんのこと大好きだったよ!今までありがとう!」
利里奈がそう言えたのは秋の隠れる教室の扉の目の前であった。そして、秋たちからもその様子はみることができた。
ただし、見えたものは予想外のものだった。
利里奈と話していた相手は、長いまつげを持ち、真っ黒な髪を高い位置で結び、女子生徒用のスカートをはいていたのであった。
「え…」
秋と香里は目を点にした。
「ええええええ!!?」
二人は声を合わせて叫び、その瞬間利里奈にも見つかった。
「あ、秋? 香里ちゃん?」
「利里奈ちゃん、だあれ?この人たち」
❝佐々木 ゆうき❞ は声までしっかり女の子であった。
「利里奈の家族…」
「そうなんだ! はじめまして 佐々木ゆうきといいます!」
❝ゆうきちゃん❞は丁寧にあいさつをした。
「ど、どうも…兄です」
「姉です…」
秋と香里も軽く自己紹介をした。
「利里奈ちゃぁん… お家に帰ったら色々聞きたいことがあるからねぇ… じゃ、お兄ちゃん…先帰ろう…」
香里が異常に疲れたような声で言った。
ふらふら歩きだす香里の後に続いて秋も歩き始めた。
「ねえねえ利里奈ちゃん」
「なに?佐々木さん」
「さっきの話しだけど、ありがとう!私も大好きだよ!これからも友達でいてね」
その仲のいい 友達どうし の声は秋のところまで聞こえてきた。
「うん!」
もちろん、今まで聞いたこともないようなそんな利里奈の声も聞くことができた。