その女、ヘクス   作:マーボー戦吼

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№1 幽霊の屋敷に侵入しました━━

 

 

 

「お、俺のターン。ドロー!

俺は“白い泥棒”を通常召喚。続いて直接攻撃だ‼」

 

 

無限に続くかのような廊下。その一画で、男は横一文字に切るようにしてデュ

エルディスクから引いたカードを横目で確認すると、そのままディスクへセット。男の目の前に、彼を庇うようにして白装束の男が姿を現した。

 

 

白装束の男、“白い泥棒”と呼ばれるモンスターは、彼の主の命令に実に動く。拳を振りかぶり、前方の空中に浮かぶ淡く光る青い人影━━女性のものだと思われるそれに向かって一足跳びで接近。風の切る音を置き去りに、拳を振り抜いた。今度は拳が止まらなかった事を男が確認する。

 

 

「ち、くそったれ。またか!

だが、今度はどうだあ?!」

 

 

舌打ちをする男。彼の脳裏に先程から起きる奇妙な現象が想起される。男の前のターンのことだ。彼の召喚したモンスターが攻撃を仕掛けた際に、何らかの事象でそれを阻まれ、挙げ句特殊召喚を許してしまい、次の相手ターンで男のモンスターが破壊されてしまった。

 

 

男は、その時の光景を思い出したのだ。

 

 

その時は相討ちで勝負が終わったので、相手の場は、特殊召喚されたモンスターが表側攻撃表示の一体のみだ。攻撃力は、表示されたものを見る限り、少々虚弱な“白い泥棒”でも攻撃を通し、相手プレイヤーにライフダメージを与えることができるだろうと見積もった。しかし━━、

 

 

「フェーフェフェフェフェ━━━━━━‼!」

 

 

仄かな灯りが点ったと思えば、それが“白い泥棒”の拳を弾き返した。攻撃を無効にされた“白い泥棒”が、男の下へと帰ってくる。灯りは先程のものと合わせて二つとなり、それらは小馬鹿にするように飛び交う。男はまたしてもと地団駄を踏んだ。

 

 

これで青い人影のモンスターはレベル1が二体となる。それらのステータスは脆弱だが、男にとって危惧することは同じレベルが二体場に揃うことそのものにあった。

 

 

「うぅ……ターンエンド」

 

 

青い人影のターン。二体のモンスターはそのままに、床が盛り上がったと思えば、包帯に包まれた手が現れた。人の同じそれとは思えないほどに巨大だ。巨手は自身が突き破るように現れた際に盛り上がった手前の床をがっしりとわし掴むようにすると、その巨手の筋肉を倍ほどに膨らせ、次の瞬間に巨手の本体が床を弾き飛ばしながら姿を現し、咆哮した。

 

 

「■■■■■■━━━━━!!!」

 

 

その雄叫びを受け、更に床を突き破って包帯の巨躯と同等の丈のある棺桶がやって来た。蓋を、包帯の巨躯とは対極に慎重ながらも不器用に開きながら、またしても巨躯が登場する。人間の男に見えなくもないが、両耳の上に存在する大きなボルトが、その顔に走った継ぎ接ぎの痕跡が、作り物めいた印象を与えている。

 

 

突然の同時召喚に男は呆然となり確認を怠っているが、今しがた出現したモンスターは、両者共にレベルは3である。

 

 

二体の巨躯が、天上の銀河を彷彿とさせる渦へと光を纏って昇って行く━━エクシーズ召喚だ。

 

 

銀河の渦は次第に質感を変えてゆく、男にはそれが布製のものであるとぼんやりと理解した。渦は深淵を纏い、そのままゆっくりと降下して二つの灯りが飛び交う中心へ降りると、渦を逆に回転させ始めた。

 

 

不明だったモノが姿を象どる。今度もヒトガタだ。しかし、やはり人成らざる印象を与える白貌を持っていた。彼が徐に腕を振るえば、対面する男の場に存在する“白い泥棒”が、足元に影から生えた黒い腕に全身隈無く覆い尽くされ、そのまま影に引きずり込まれ、帰ってこなくなった。

 

 

“白い泥棒”が最期を悟り発した断末魔の悲鳴が、尾を引いて主の男の耳に届く。それが彼の恐怖心を誘い、知らずに腰を抜かした。

 

 

そんな男に、白貌の側に控えていた灯りが二連の攻撃を加える。一撃目で男の足を潰し、あえて間隔をずらして二撃目を行う灯りがこれから向かうことを示唆するように揺れ動くと、男は面白いように張って遠ざかろうともがいた。まだ腕が動くので、まだまだ助かる可能性があると踏んでいるのだろう。そこで灯りは、男の腕を二撃目で潰した。

 

 

「が━━━━━ッ‼

~~~!‼ や、やめろぉ……止めろォ‼ こんなのデュエルじゃない‼」

 

 

男は悲鳴の後に振り返り、実際に潰れた腕と足をそれぞれ庇いながら喚き散らす。彼の目前には既に残る白貌の青白い腕が迫っていた。男の口が戦慄きに震え、彼自身の首に何かうすら寒いほどに冷たい感覚を得たとき、彼の意識は消失した。

 

 

「デュエルですよ━━━━」

 

 

糸の切れた人形となった男に、静かに女性の声が掛けられる。デュエルの最中に一言も発しなかった青い人影からだった。

 

 

「私のデュエルは、家族を幸せにするための手段なのですから……」

 

 

 

 

 

 

私の名前はヘクス、女だ。

 

 

複雑な経緯で体が脆弱となり、いつも寝たきりの生活を送ることを余儀なくされている。これに関しては私自身が望んで手に入れた能力の代償であるので、私を案じてくれている家族たちほど悲観してはいない。むしろ彼等も同じく代償を負う身ながら、そのくせ私よりも無理を強いているのだから、どうか自分達の身を案じてほしいと思っている。

 

 

当然、学舎にて学業などこなせる状態ではないので、専ら通信教育だ。時間だけは有るので、知識を蓄えることにはなんら労力を割いたとは感じない。それに、蓄えたそれらを披露する機会そのものがない。だから、真実宝の持ち腐れだった。無意味なそれらを中断して、別のことに意識が傾くことは自然の流れだろう。

 

 

家族に相談してみれば、末っ子がデュエルモンスターズをやろうと持ち掛けてきた。彼は次男と共に長男に教わり、三人で切磋琢磨して過ごしているらしい。長男は渋ったが、次男が末っ子に同調して聞かないので、長男が父親に相談することになった。

 

 

父は、その旨を由とした。彼曰く「そろそろ頃合いかもしれない」とのことだった。何のことだろうと首をかしげたものだ。

 

 

父から適当に広げられたカタログから選んで指を指したシリーズのカード群を一式3枚ずつ渡され、兄弟たちと相談しながら他のカードを組み込むなどをしてデッキを組んだ。これで晴れてデュエリストの一員とのことだ。そして、それまで使っていた本来の名前を封じ、新たにⅥと名乗ることを命じられた。

 

 

Ⅵという慣れない名前と共に、父・長男・次男・末っ子が順にトロン・V・Ⅳ・Ⅲと名乗っている事を告げられた。こちらも追々呼び慣れなくてはならない。

 

 

そうして辿々しく呼んでいくなか、段々と響きが気に入ってきて、そう呼ぶのが自然となったある日の事だ。兄弟たちは度々家を空けることが多くなった。続いてトロンも外出が多くなり、私は一人で居ることが増えていった。

 

 

淋しかった。

 

 

だから、ずうっとトロンに与えられたカードたちを見つめていた。それらを見ていると、なんだか心が安らぐのだ。「だいじょうぶ」彼等は黙して語ってくれているような気がしたからだった。

 

 

いつしか、カードに描かれたモンスターたちが私の周囲を囲んで、私を励ますようになっていた。

 

 

まるで意味がわからなかったが、幻覚の類いである可能性を確認するあらゆる行為を終えてやっと、現実であると受け入れた。

 

 

嬉しかった。

 

 

彼等のお陰で私の心は晴れてくれたが、家族に報せることをうっかり失念してしまっていたことには申し訳ない気持ちを抱いた。第一発見者のVがこけた。運んできてくれた食器を頭から被って尚も目を丸くして何やら呟いていた様子は可笑しかったが。

 

 

次いで、騒ぎを聞き付けて飛んできた後に兄と同じく衝撃を受けた様子のⅣ・Ⅲを交えてトロンに詰めよって、どういうことか説明を要求すれば、トロン曰く、私はサイコデュエリストと呼ばれる存在であると知った。同時に、トロンから私に与えられた能力は『サイコデュエリスト能力の大幅な強化』であることが告げられた。私の役割が、最後の砦であるということも。

 

 

試せばアークライトの屋敷その物を覆い尽くすほどに強力なものだった。我ながら大変驚いたものだ。これで侵入者を撃滅する。成る程、砦というのにも頷ける。私にはうってつけの役割だ。

 

 

それからの日々は、アークライト家に何らかの理由で土足で踏みいる人間を撃滅する、若しくはそれに備えて素振りドローをし、兄弟たちと訓練に励む毎日だ。

 

 

ふと、耳元で鈴の音が鳴る。

━━━━侵入の報せだ。

 

 

 




男(泥棒しに来た青年ロキール君):死んだよ(無慈悲)。目的はあることと、ついでに金目のもの。
青い人影&Ⅵ:同一人物。家族愛V-MAXの人。Ⅳより年上でVより年下の長女。
アークライト兄弟:シスコンと化している。
トロン:親バカと化している。
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