運命の日
自分はある程度、普通な高校生になったはずだった。自分の一族がちょっと他とは違っていたというところは認めるが、俺はその家を飛び出した。
そう、『なっていたはず』なのだ。
逃げたいとは思っていたが、別に、どこぞの某高校生のように池袋で日常にいながら非日常を求めてみたり、自らの興味の赴くままに超能力者や宇宙人、未来人を求めていたわけじゃなかった。
ちょっと普通の人とは違う力を持っているが、それでも漫画やアニメ、ラノベみたくなるはずもなく、ただ日々が過ぎていくものだと思っていた。
まあ、この生活に少しばかり嫌気がしたこともあるのは事実だったが……まさかこんなことになってしまうなんて。
キーンコーンカーンコーン
「ん…チャイムのようだな。よし今期の授業はこれでおわりだ。明日から貴重な高校二年の夏休みだからってお前ら羽目を外しすぎるなよ。特に立花、お前は特別、気を付けろよ。」
先生は教卓の教科書などをまとめつつ、夏休みについて言及する。
「なんで俺、名指しなんすかセンセー。ひどくないすっか!」
「そりゃおまえ、普段の行動からしてアウトだからだ。いつもいつも問題の渦中には、お前がいるじゃないか。少しは同じタチバナでも、落ち着いている方の橘を見習ったらどうなんだ。」
不満げな表情をする立花に向けられた、そんな先生の言葉でクラスは笑いに包まれていた。
「ちぇーいつもいいよなーキョウちゃんは。いつも問題の渦中にいるのはキョウちゃんだって一緒なのに。」
鞄の中に大量の私物を詰め込みながら立花はブツブツと文句を言っていた。
「バカ言え。レオがすぐに問題をどっからか引っ張ってくるんじゃないか。それに巻き込まれてるだけだろ、俺は。」
立花のぼやきにすました顔をしつつ、ちょっぴり荷物をあきれた顔で見つめ、そういった。
「ウソつけ。この間だって、一緒になって襲ってきた相手をボコボコにしてたじゃないか。しかも、ほとんど倒したのキョウちゃんだし。どこが『落ち着いてる』だよ‼何だい何だい、猫かぶっちゃってさ。」
「…まあまあ。」
多少なりとも、そのことに心あたりがあるのか立花の言葉に決まりの悪そうな顔をして頬をかいた。
その様子では『多少』のレベルで済んでいたのかは、甚だ疑問ではあるが。
「それで、休みなんだからいい加減帰りなって本家。もう五年も帰ってないんでしょ。いつまで意地になってるのさ。いくらうちが分家筋だって言っても、抑えておくにも流石に限度があるよ。」
「…いやだ。それだけは、出来ない。」
その言葉をおおよそ、わがままの類では出てこない表情をして口にする。
「キョウちゃん……俺だってそうしてる理由は知ってるから止めはしないけど。そろそろご当主だって痺れを切らすよ。」
「悪い…それでも俺は。」
そういい、橘は教室を後にしたのだった。
「しかし、どうしようか。」
橘は考えを巡らせながら、商店街を歩きつづけていた。街の喧騒すら今の彼の耳には届いていなかった。
「…こうなってくるともうレオのところには頼れない。かといって他の分家筋に頼めないわけじゃないが、本家が、あいつが精鋭を引っ張ってきたら厳しいどころじゃないな。いっそ、どこかに…」
おおよそ、この話を誰かに聞かれていればゲームの話か、はたまた昨今、巷の中学生が患っている病を想像するであろうが本人は真面目に考えているし、事実彼にとってこれは重要案件であった。
「…いっそ海外にでも………ん?」
橘が気づいた時には、商店街のかなり外れまで歩いてきてしまっていた。しかしそれに気づいたのは人の喧騒が聞こえなくなったからではなく。
「公衆電話…か?最近はあまり見ないのに。ってか鳴ってるけど、これ出た方がいいのか?」
そういい、橘はおもむろに受話器に手をかける。
「はい…もしもしッ………」
そこはもう、受話器から音が漏れ出る以外には元の静寂を取り戻していた。
次回:煌炎の朧姫