恭弥たちは戦闘のあった中庭のすぐ横に椅子を置き、話を続けていた。
「本当にすまなかったね。どうやら話を聞く限り、僕らが勘違いをしてしまったようだ。」
恭弥は、何とか説得に成功したようでこの双剣の美少女から謝罪を受けていた。だがそのうつむき加減の謝罪の様子は言葉とは裏腹に少し、しおらしさを感じさせるものであった。
「…ま、まあ俺もちょっと調子に乗ってたっていうか、その…なんだ。そんなに気にしないでくれると助かる。」
恭弥はそんな彼女の様子に自身も、ここの兵たちを完封してしまったことを思い出し、頬を掻きながらそういった。
「本当かい‼そういってもらえるとボクも気が楽になるよ。そういえばキミの名前を聞いてなかったね、教えてもらえるかい?」
「…ッ俺は、橘恭弥っていうんだ。よろしく。というか近い、顔が。」
突然近づけられた笑顔に言葉を詰まらせながら、恭弥は何とか名前を噛まずに言い切ることができた。彼は、先程まで激戦を繰り広げていた者と同一人物には思えないほど顔を真っ赤にしていた。
「す、すまないキョウヤ。そういえば、ボクも名乗ってはいなかったね。ボクの名前はアレクサンドラ=アルシャーヴィンさ。よろしくね。一応ここの公宮の主だよ。」
彼女も自分の行動を思い返し、羞恥を覚えたのか、頬を薄らと染めながら答えた。
「さっき、戦姫様とか兵士たちに呼ばれていたもんな。」
「…………その言い方からするとキョウヤは戦姫という言葉すら、知らなかったみたいだね。」
「まあ、寡聞にして俺は聞いたことがないな。」
恭弥は肩をすくめ、そう答えた。
「ボクも今、キミが来ているような不思議な装束は見たことがない。少なくともここ、ジスタートや近くの港町にやってくる服飾品にも見当たらないな……」
そんな恭弥の様子と言葉に、彼女は自らの記憶を辿っているのだろうか、手を口のあたりへ持っていき、考え込む。
「ちょっと待ってくれ、えっとアレクサンドラさん。」
「何だい?」
「聞いてなかったけど、ここはどこなんだ?」
「ふむ、ここはジスタート王国。そしてここはその中の都市のひとつ、レグニーツァ公国。この国に公国は七つあって、それぞれをボクと同じ戦姫が治めてるのさ。」
「やっぱり、そんな話聞いたことがない……じゃあ、いやでもまさか。」
「それじゃあ、今度はキョウヤの話を聞かせてくれるかい。賊っていう疑いはもうないけど、未だキミは、不審者であることに変わりはないからね。正直に話してほしい。」
真剣な顔をして、彼女はキョウヤに訴えた。
「…多分、荒唐無稽な話になるかもしれないけど…」
そういい、恭弥は話し始めたのだった。
恭弥は話を終えた後、公宮の一室を与えられ休むため、そこへ案内されていった。
恭弥の話を聞き終えたアルシャーヴィンは、自らの執務室に戻ってきていた。
「ロイド、君は彼のことをどう思うかい?」
「…そうですね。整った顔立ちをなされており、頭の回転もまあ悪くないでしょう、先程の説明も理路整然としていましたし。性格は今のところ問題になるようなことは見受けられません。何より、彼は相当な力量をお持ちのようですね。流石に戦姫様が見初めるだけはありますね。」
しれっと彼はそう言い切った。
「見初めた…ってそういうことじゃないよ‼‼」
飲もうとしていた紅茶のカップをたたきつけるように置き、彼女はそういった。
「わかっております。まだ戦姫様にはお早い話でしたか。」
彼女のそばに控える彼は表情を崩すこともなく、そういった。
「…もう半人前のじゃないし、ボクもいい年なんだよ?」
彼女は男のそんな様子に不満げな顔を浮かべた。
「私から見ればまだまだ戦姫様は子供みたいなものにございます。……まあ、それはさておき、なにか本当に害そうという目的があったのだとすれば、もっとマシな嘘をつくでしょうし。荒唐無稽ではありますが、兵たちの『突然、現れた。』という証言にも合致しますし。」
「それにしても、異世界、ね。どんなところなんだろうね。彼にも家族が………いるんだろうな。」
そういい、窓の外の星を見る彼女の横顔をこの執事然とした初老の男は悲しげに見ていた。
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