恭弥がアレクサンドラに食客として迎えられ、レグニーツァの公宮で暮らし始めてかれこれ、一月が経とうとしていた。
ここジスタート王国も夏真っ盛りを迎えたばかりであった。しかし、隣国のブリューヌと比べ北方に位置し、また標高も高いため日本でのうだるような暑さというほどではなかったが。
「あれから、一月ほど経ったけれど、彼の様子はどうだい?」
アレクサンドラとロイドは、異世界から来た少年、橘恭弥について執務室で話をしていた。
「そうでございますね……概ね良好だと思われます。」
少し考えるような素振りを見せ、ロイドはそう答えた。
「具体的には?」
そのアレクサンドラの様子は淡々としているように見えるが、周りから見れば、恭弥のことを気にしているのがまるわかりであった。
「ある程度、社交性には富んでいたようで、最初わだかまりのあった兵士たちとも調練を重ねるうちに親交を深めたようで談笑をしているのもよく城内で見かけるとか。」
それに、アレクサンドラは相槌をうち、ロイドに先を促す。
「それに、書物をよく読んでいるそうで、文官にもよく質問に行っているそうですね。中には鋭い質問で、答えに窮するものもあるとか。」
「へぇ。彼は、異世界出身と聞いていたけど、生まれは貴族か商家の出だったのかな?」
「その可能性は高いでしょうな。頭の回転は私の見立てよりもずっと早いようですから。少なくとも、ただの戦闘力のみのバカではありませんな。」
彼らがそう思うのも無理はなかった。この世界は日本ほど識字率は高くなく、それに伴い、学を有している人材は自ずと限られてくるのである。
それは、日本の義務教育がどれだけ優れているかの証であった。恭弥の知識量が、普通のそれと同じであるかどうかは別ではあるのだが。
「キミは、相変わらずだね。それで他には何かあるかい?」
アレクサンドラの言葉にロイドは少し唇をつり上げ、
「……そういえば、侍女たちの注目の的らしいですね、彼。」
そう口にした。
「……」
「なんでも、『いつも私たちを気遣って声をかけてくれる。』とか『分け隔てなく接してくれる。』だそうですよ。」
「へ、へぇ~そうなのかい?」
アレクサンドラは若干動きを固くしつつも、なんとか答えた。
「はい、それはもう大人気だとか。アプローチするものもいるらしいですね。」
ロイドは、まあアプローチに彼はほとんど反応していないんですがね、と付け加えるが彼女は気づくことができなかった。
その時だった。
「アレクサンドラさん、昼餉を持っていってくれって料理長が……‼」
執務室に食事を持って現れたのは、話の中心、橘恭弥その人であった。
訪れたタイミングは、残念としか言いようがなかったが。
「…………ーシャ。」
「へ?」
「ボクのことは、この間サーシャって呼んでって言ったよね?」
「で、でもそれは……」
助けを求めようと恭弥はロイドを探すが、かの老人はすでに執務室にはいなかった。
「ん?」
そんな恭弥にアレクサンドラは、剣呑な視線を送る。
「わ、わかったよ、サーシャ。」
「よろしい‼」
その答えに満足したのか、アレクサンドラは恭弥に笑顔を見せるのだった。
「あ、ちょっとだけ待ってくれるかいキョウヤ。」
サーシャは一緒に昼食を取り終え、一旦、自分の部屋に戻ろうとした恭弥を呼び止めた。
「なに、サーシャ?」
サーシャは自分の愛称でさっそく呼んでくれたことに頬を緩めながら、
「2日後に王都へ向かうのだけれど、キミも同行してほしい。」
そう、恭弥に切り出すのだった。
「へぇ~ここが王都か。思ってたよりは大きいな。」
「そうだろうね。規模はジスタートで一番だから。あ、キョウヤあそこのお店の料理はおいしいって評判なんだよ。」
恭弥は今、サーシャと共に王都へ来ていた。というのも、そろそろ王都に行ってみてもいいだろうという、サーシャの提案であった。
サーシャに王都への旅路や王都で恭弥と過ごせるからという意図が全くない、とは言い切れなかったが。
そうして、風景を眺めている間に恭弥たちは、王城へと到着するのだった。
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次の話から原作キャラが多少登場します。