金色のガッシュ!! Episode RISING   作:ホシボシ

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※はじめに

『1』

この作品は金色のガッシュの本編終了後の二次創作となっています。
なので、原作コミック33巻までのネタバレや、一部アニメオリジナルの話や劇場版のネタバレもあります。
まだ原作を見ていない人や、読んでいる途中の人は注意してください。


『2』


それなりに恋愛描写があります。
メインはタグにもあるとおり清麿×恵(清恵、キヨメグ)ですが、他にも色々と書いています。
組み合わせはかなりマイナーな物もあると思うので、カップリングに拘りのある方は注意してください。


『3』

オリジナルキャラクターや設定、呪文などが出てきます。
あくまでも勝手に考えたものなので、本編と全く関係ありません。


以上となっております。合わないなと思った方はバックをお願いします。
長々と申し訳ありませんが、気持ちよく読んでもらう為ですので、どうかご了承ください。
それではどうぞ。



第1話 LEVEL.325

 

魔界の王を決める戦い。

千年に一度、魔界の支配者である王を決める為に、魔界とは別次元に存在する人間界で行われる戦いである。

選ばれた100人の魔物の子供達が、魔物の本と共に人間界に送り込まれる。

そこで魔物の子らはパートナーの人間と出会い、呪文を使用して最後の一人になるまで潰しあうのだ。本を燃やされた者は魔界へ強制的に返され、王になる権利を失う。

主催者や魔物の本の製作者は解明されておらず、一説には「神の試練」とも呼ばれているとか。

そして現在、ココにまた新たなる王が誕生した。

 

 

「魔界の王! ガッシュ・ベル!!」

 

 

凄まじい歓声に包まれる子の名はガッシュ・ベル。

かつては落ちこぼれと言われ、100人の中に選ばれたのも不正を働いたのではとまで言われた子供だった。

しかし彼はパートナーである高嶺(たかみね)清麿(きよまろ)と共に多くの強敵と戦い、成長、そして勝利してきた。

王を決める戦いは多くの悲しみを生んだ。しかし同時に、魔物と人間、種が違う二つの存在を強く結びつける希望(きずな)も多く生み出していった。

 

 

『財産はもう……オレの心に』

 

 

これは高嶺清麿の言葉である。

芽生えた物は、得た物は、これからの時代に必要となるべき強き心だと彼らは説いた。

そして彼らはいつ訪れるかは分からずとも、必ずの再会を誓い合い、戦いの終わりを迎えたのだった。

が、しかしだ。魔界の王を決める戦いの裏で、別の思惑が働いていたとすれば――?

 

 

「異論は無し」

 

 

声が。

 

 

「異論は無し」

 

 

声が。

 

 

「異論は無し」

 

 

声が重なり合う。

 

 

「待ってください! 本当に決定を下すつもりですか!?」

 

 

焦り、慌てる女性の声。

とある場所、とある時、歴史を大きく動かす決定が下された。

しかしそれに反論を示す一人の女性、彼女の配下達も彼女を守るように立ちはだかり反論を示していった。

 

 

「あの者達の、ガッシュの姿を見て! なぜそんな事が決められるのですかっ!?」

 

「黙れユリアス、コレは既に決定した事だ」

 

 

反論はさせない、反論はできない。

この場にて決められた事は世界の理へと昇華するべき物。

絶対にして唯一無二の存在へとなるのだ。それを待てだとおかしいだのと、許される訳がない。

 

 

「新たなるルールを拒むのならば、お前ももはや必要は無くなる」

 

「ッ!」

 

「ユリアス様!!」

 

 

刹那、激しい閃光が場を包む。

そして、世界は、意識は、ノイズに包まれた。

 

 

 

 

 

「よっと」

 

 

魔界の姿は人間界と大きく違っているものの、共通点は中々に多い。

例えば人の世界と同じように時間の経過によってその景色を大きく変えるものだ。

昼から夜へ世界が色を変えれば、見える景色もまた大きく違ってくる。

外灯の明かりをぼんやりと反射する水面、湖畔の近くにあったベンチに腰掛けたのはパムーンと言う名前の魔物の子であった。

 

彼は晴れた日の夜、こうしてこの場所で空を見るのが日課だった。

真上に広がるのは満天の星空だ。彼のモチーフもまた星を強くイメージさせる、だから何か親近感のような物が湧いて落ち着くのだろう。

ただ言ってしまえば星なんて物はどこでだって見られる訳だ。もちろん場所によって良い場所悪い場所はあるだろうが、彼がほぼ毎日とこの場所に来るのは色々大きな理由があった。

 

 

「あら、来てたのねパムーン」

 

「ああ、今日はオレの方が早かったみたいだな」

 

 

紫色の髪が風にサラリと揺れた。パムーンの隣にちょこんと腰掛けたのはレイラと言う少女。

彼女は毎日ココに月を見にやって来る。月と星、もともとちょっとした知り合いだったが、こうして話してみると自然と馬が合ったと言うかなんと言うか。

それにパムーンも男だ。彼女のクールでミステリアスな雰囲気に惹かれていき、こうして会える機会を大切にしていると言う事だ。

しかし、問題があると言えば一つだけ。それはある程度二人きりで話しているとやって来た。

 

 

「来ちゃった」

 

「………」

 

 

なんか、毎回毎回変なV頭のヤツがやって来ると言う事だ。

 

 

「よ、よお。ビクトリーム」

 

「こんばんはビクトリーム」

 

 

魔界の民を皆殺しにしようとしたクリアとの決戦で協力し合ったからか、毎回毎回彼もココにやって来るのだ。

まあ別に星を見に来るのは自由だし、コンビネーションを発揮した手前パムーンも別に彼を拒むつもりは無いのだが――

 

 

(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!)

 

「なんで毎回ちょいギレなんだよ!」

 

 

まあ何といってもビクトリームはアクが強いと言うか。

今日も今日とて威圧感を満載にしてオーラを放っている。

 

 

「お前らまた俺様に隠れてスイカの話をしていただろ……ッ!」

 

「してねーよ! 星と月を見てただけだ!」

 

 

やれやれと苦笑するレイラ。

ふと彼女はビクトリームがエプロンをしている事に気づく。と言うか何かおぼんに乗せているではないか。

 

 

「ビクトリーム、それは?」

 

「よくぞ聞いてくれたなレイラ。コレは私の畑で取れたメロンをジュースにした物だ!」

 

 

美しい緑色の液体が二つコップの中に。

どうやらコレの感想を聞きたくて今日はやって来たらしい。

確かにビクトリームは変なヤツだが、彼の作るメロンはおいしいと評判だ、それを100%使ったジュース、まずい訳がない。

 

 

「飲みたまえ。華麗なるビクトリーム様が作ったジュースを、あ、ほら、飲みたまえよ!」

 

「い、いいのか? 悪いな、いただくよ」

 

「私ももらうわ」

 

 

受け取ったジュースに早速口をつけるパムーン。

すると彼の目がキラキラと輝く事に。

 

 

「うまい! 流石だなビクトリーム!」

 

「ベリーシット! 馬鹿たれが! メロンはそのままかじる方が美味いわ!」(ゴゴゴゴゴ!)

 

「おい嘘だろ!? 理不尽だろコレ! ってかじゃあ何でコレ作ったんだよ!」

 

 

ギャーギャー言い合う二人を横目にしながらレイラは温かく微笑んでいた。

こう言う夜も悪くない。彼女は騒がしさをBGMにして星空を見上げる。

美しく輝く星と月、良い夜だ、彼女はもう一度メロンジュースを口に含んで自然のプラネタリウムを楽しんだ。

 

 

「!」

 

 

しかし異変。彼女は思わず声を上げてパムーンとビクトリームを制した。

と言うのも一つの星が文字通り動いたのだ。それは閃光の軌跡を残しながら尚も下の方へと移動していく。

流れ星? いや、そんな物よりももっと――!

 

 

「「「!」」」

 

 

轟音と衝撃。

三人の目の前で凄まじい程の水しぶきが上がる。

混乱から思考が追いつかない、パムーンは素早く現状を理解するために状況のおさらいを行った。

まず見えたのは光の線、それは空からスッと落ちてきてそのまま水面に直撃した。そして大きな水しぶきを上げて今に至ると言う訳だ。

 

 

「メロンが落ちてきたか!?」

 

「違うわ! アレは隕石――ッ? いや!」

 

 

パムーンは見逃さなかった。

光の中にも明確なシルエットが浮かんでいたのを。

 

 

「私も見たわ。アレは人の形をしていた」

 

「ッ、やっぱりか。とにかく様子を見てみよう」

 

 

考えられるのはもう人型の魔物しかない。

ならば何かの事情があって空から落ちてきた訳だ。

見たところ着水したと言うよりは水面に叩きつけられた様に感じる、とすれば体に大きなダメージも追っている筈。

あのままにしておくのは危険だ、そう判断した三人は現場に向かい、その人物の救助に向かう事に。

 

 

「フェイ・ファルグ!」

 

 

パムーンの力で三人の体が宙に浮き上がった。

そのまま現場へと向かう、するとやはりと言うべきなのかそこには浮き上がってきた人型のシルエットが。

 

 

「おい! 大丈夫か?」

 

 

パムーンは水面から魔物の子を引き上げると、彼にも浮遊効果を与える。

そう、姿を見せたのは自分たちと同じように人の形をした魔物であった。

ヤギの様に湾曲した角を持った少年。彼は苦しそうに目を開け、状況を確認する。どうやら意識は失っていないようだ。

 

 

「お前ら……魔物か?」

 

「あ、ああ。そうだが……アンタは?」

 

「おれは、デモン……! ぐっ!」

 

「喋らないほうがいいわ。酷い怪我」

 

 

レイラの言う通りデモンと名乗った魔物の子は体中から出血が見られた。

所々に大きな傷が見え、それは明らかに事故の類では付けられない傷に見える。

つまり、誰かが彼に攻撃をしたと言う事。では一体誰が? ガッシュが王になってから一度王のワンドを巡るちょっとした問題があったが、それもあってより一層に魔物が魔物を傷つける事は問題視されてきた筈なのに。

 

 

「ギィイイイイイイイイイイイ!」

 

「!」

 

 

その答えを表すかの様に、空から巨大な翼を持った蝙蝠が飛来してきた。

何だアレは? パムーンたちはその異様な雰囲気に思わず恐怖を感じてしまった。

魔物としては明らかに理性が無い様な、まさに獣、殺意と狂気だけを目に宿した殺戮機構ではないか。

そして蝙蝠はその牙、その爪を光らせパムーン達の方へと飛来する。注目するべき点は既にその凶器に血が滴っている事。

三人は瞬時理解した、あの蝙蝠がデモンを攻撃したのだと。

 

 

「くッ! ファシルド!」

 

 

パムーンは瞬時、星型の攻撃支援ビットを展開。

それを点として面のシールドを作り上げた。四人を囲む四角錐の形をした星の結界。そこへ蝙蝠は何の躊躇いも無く攻撃を仕掛けてきた。

爪を振るい通り抜けざまに切りつける。シールドに傷が走り、パムーンは汗を浮かべて歯を食いしばる。

 

 

「おいお前! こんな事は止めろ!」

 

「ギィイイイイイイ!」

 

 

一応は説得を試みてみるが、やはり向こうは聞く耳を持っていないようだ。

さらに気づく。蝙蝠の赤い瞳に魔界の文字が浮かび上がった。

それは一文字ずつ切り替わり、一つの言葉を紡いでいく。

 

 

『ギ』『ガ』『ノ』『ウ』『ィ』『ガ』『ル』『ガ』

 

「グッ! ゥオオオ……ッ!」

 

 

蝙蝠が大きく羽ばたくと凄まじい風の塊が飛んでくる。

受け止めるファシルドだが、その衝撃に発動者であるパムーンの表情が大きく歪んだ。

試しにもう一度説得してみるが、やはり彼の言葉は蝙蝠には届いていないようだ。

いや、届いていたとしても彼は攻撃を止めなかった。尚もパムーンを、正確には彼が守っているデモンを殺そうと。

 

 

「なんなんだアイツ!」

 

「大丈夫? パムーン」

 

「ああ、今はなんとか。でもギガノにしては威力が高い……ッ!」

 

 

術にはランクがあり、今のパムーンならば防御呪文でギガノ級であれば容易にとめられる筈だった。

しかしこの衝撃、この重さ、何だ? 何かがおかしい様な気がする。

すると呻き声を上げながらデモンが目を開ける。消え入りそうな声だったが、彼はその違和感の正体を端的に答えて言った。

 

 

「アレは、魔物じゃない……!」

 

「ッ? どういう事だ?」

 

「アイツは、使徒(しと)。術で生み出されたキラーマシーンだ……!」

 

「つまり、生命体じゃないって事か!」

 

「あ……ああ。心が無く、擬似的な感情で命令通りに動く傀儡――ッ!」

 

 

それを聞けば十分だ、そう口にしたのはビクトリームだった。

彼は『V』の体勢を取ると自らの呪文を、つまり戦う意思を示す。

 

 

「怒りのパワーを右腕に、チャーグル!」

 

「お、おいおい! いいのか?」

 

「ああ、ヤツは私の大切なメロンを馬鹿にした。絶対に許すわけにはいかない」

 

「そんなシーンあったかな!? お前適当に言ってない!?」

 

 

とは言えこのままでは確かにやられるのを待つだけだ、デモンの言葉が絶対に正しいとは限らないが、少なくともヤツは無抵抗の相手を攻撃している。

このままでは間違いなくヤツはデモンを殺すだろう。それは絶対に許されない事だ、それに確かに言われたとおりあの蝙蝠からは魔物の気配がしなかった。

なにか、もっとこう、異質な物をどうにも感じてしまうのだ。

 

 

「我が強さを右肩に。チャーグル!」

 

「やりましょう、パムーン」

 

 

レイラもまた月のオブジェが付いたステッキを取り出した。

 

 

「ああ、そうだな。ヤツを倒そう」

 

 

頷きあう三人。

ビクトリームのチャージも三段目へ到達する。

体についている球体から溢れんばかりの光が。

 

 

「我が美しさを股間の紳士に、チャーグル!」

 

「………」

 

 

相変わらず卑猥な技だなぁ。

満天に輝くビクトリームの股間を感じながらパムーンは汗を流す。

 

 

「ベリーシットパムーン! 私の紳士を触りたそうな目で見ないでもらいたい!」

 

「止めろ! 誤解しかない! あ、レイラが引いた目で見てる!」

 

 

いかんいかん、ただでさえ彼女のパートナーはカッコ良かったと噂に聞いている。

性格の良いイケメンと股間を触りたがっている変態、どちらが優れているかなんてサルでも分かるわ!

 

 

「あ、アルは確かに最高のパートナーだったわ」

 

「うっ!」(まずい、声に出てたか!)

 

「でも……あ、あくまでも兄の様な物で」

 

「え?」

 

「わ、わたっ、私は……貴方の事が……」

 

 

少し頬を染めている様なレイラ。

気のせいだろうか? 思わずパムーンも赤くなってドギマギと。

 

 

「れ、レイラ。それってどういう「フハハハハ! 誇り高き心を左肩に! チャーグル!」うるさいな君は!」

 

 

会話は邪魔されてしまったが、ビクトリームの笑い声は良くも悪くも冷静さを取り戻させてくれた。

とにかくとまずはこの状況を何とかしなければ。とは言えど、コチラのシールドを向こうが破れるとは思えな――

 

 

「ギィイイイ!」『リ』『グ』『ロ』『セ』『ン』

 

 

蝙蝠の爪や牙が射出され、チェーンで繋がれたソレは一直線にパムーンのシールドに突き刺さる。

驚くべきはその貫通力、一瞬シールドにヒビが入ったかと思えば、次の瞬間には破裂音と共にファシルドが砕かれているところだった。

 

 

「なっ!」

 

 

すばやく顔を逸らし牙を避けるパムーン。

先ほどのギガノ級と言い、明らかに敵のレベルが上をいっている。

この実力、間違いなくクリア戦参加者のソレだ。とは言え一度参加者は全員ガッシュに力を貸しているためにお互いの顔を何となく把握している。

にも関わらず自分はあの蝙蝠に全く見覚えが無かった。なればやはり彼は魔物ではない、それに加えてあの力とはなんて恐ろしい。

 

 

「無事か? レイラ、ビクトリーム!」

 

 

パムーンはデモンを守る事が精一杯で他のメンバーを気に掛ける事はできなかった。

レイラは近くにいたから抱き寄せる形で牙のルートから外したが、それでも体のどこかに攻撃を受けている可能性は否定できなかった。

 

 

「ええ、私は大丈夫」

 

「良かった! ビクトリームも無事か?」

 

「私も大丈夫だ。しかし危なかった、もう少しで刺さっていた所だぞ」

 

 

ふぅと息を吐くビクトリーム。彼は爪が突き刺さった手で汗をぬぐって息をはく。

 

 

「えええええ! めっちゃ刺さってるッッ!!」

 

「ブルァアアアアアアア! 今痛みキターッ!」

 

 

血を吐きすぐに爪を引き抜くビクトリーム。

そこからはビュービュー勢い良く血が吹き出してくる。

まあ何とか無事だったのは良いが、敵は牙を戻し再び攻撃の体勢を取っている。

もはや遠慮は死に繋がると彼らは瞬時、判断を行った。

 

 

『ウ』『ル』『ク』

 

 

高速移動の呪文を発動させ空中を激しく駆け回る蝙蝠。

 

 

「ファシルド!」

 

 

対して再びシールドを展開するパムーン。

しかしそれは宙に浮いたデモンを守るためだけのもの。自分達は真っ向から蝙蝠を迎え撃つと意思を固める。

 

 

「作戦はある?」

 

「ビクトリームが決める形で、オレ達はヤツの動きを止めよう!」

 

「了解よ! ミベルナ・マ・ミグロン!」

 

 

上空に出現していく26個の月。

パムーンの星同様、これらは彼女の意思にて動く攻撃支援ビットなのだ。

 

 

全部(オール)! 回転(ロール)!」

 

 

レイラの命により月達は回転し空中を駆け巡る。

縦横無尽に飛び回るカッターを避ける為、蝙蝠の飛行ルートは自ずとパターン化されていく。

そこに星を飛ばすパムーン、彼の星のスピードは高速移動する蝙蝠にもついていける程の力を持っていた。

 

 

「ファルガ!」

 

「ギガッ!」

 

 

星からレーザーが放たれ蝙蝠の顔面に直撃する。

バランスを崩し後退していく先に、さらに星が待っていた。

 

 

「ファルガ! ファルガ! ファルガ!」

 

 

追撃の先に追撃。

パムーンの星達からは次々とレーザーが放たれ、それだけ蝙蝠の動きを鈍らせていく。

さらにそこへ飛来するレイラの月、高速回転する三日月状のビットが刃物となり、蝙蝠の肉体を切り裂いた。

 

 

「「!」」

 

 

魔物には色々な種類の者がいる。

たとえばそれはパムーンやレイラの様に人の形をしていたり、ビクトリームの様に変わった形をしていたり、中には機械の様な者だって。

しかしそれらはあくまでも皆生きている者達、傷を受ければ血を流す。先ほどのビクトリームがそうだ、いくら見た目は人間でなくても人間と同じように血は流すのだ。

だがどうだ? 今目の前にいる蝙蝠が傷口から流したのは黒い霧の様な物だった。どす黒い粒子、それはどうみても血液ではない。

 

 

「やはり、傀儡。作られた生き物なのか」

 

「でも、どうしてあんな物が……」

 

 

目の前の敵よりも、その存在がある事自体に対して大きな恐怖を覚えるレイラ。

しかしその時、ビクトリームの最終チャージが終わったようだ。

 

 

「Vの華麗な力を頂点に! チャーグル!」

 

「よし! デームファルガ!」

 

 

空中に固定した星から一勢にレーザーを放ち、蝙蝠の退路を完全に断たせた。

しかしそこで素早く目に文字の羅列が。

 

 

「ギギギギギ!!」『ホ』『ロ』『ウ』『ア』『ム』『ル』『ク』

 

「ッ! きゃあ!」

 

 

蝙蝠の体から無数の黒い手が伸びていく。

見た事のない呪文系統、それなりに場数を踏んで来たパムーンですら見覚えの無い力を使えるとは。

そして手は浮遊していたレイラを掴むと一気に蝙蝠の方へと引き寄せる。どうやら彼女を盾にする事で攻撃を凌ごうというのだ。

つまりそこそこ知恵もあると言う証明だった。

 

 

「させるかぁあッ! オルゴ・ファルゼルクッ!!」

 

 

全ての星がパムーンの体に張り付き、身体能力を爆発的に増加させる。

一気に加速するパムーン、一瞬でレイラの下へたどり着くと、彼女を掴んでいた手を引きちぎり救出を。

おまけに蹴りを蝙蝠の胴に当て、その体を大きく吹き飛ばした。

 

 

「大丈夫かレイラ!」

 

「え、ええ。ありがとう……」

 

 

強く抱きしめる形になっている現在。

レイラは唇をかんで頬をうっすらと桃色に染めている。

 

 

「あの……そんなに強く抱きしめられると苦しいわ」

 

「あ、えっと! いや! コレは! ご、ごめん!」

 

 

対して真っ赤になってアワアワとパムーン。

 

 

「おメェらよぉ! いぃつまでラブコメやってんだっちゅうに!」

 

 

怒りのV様。

パムーンはそうだったとすぐに表情を真面目な物に変えてレイラに合図を。

意味を理解したレイラは月のビットを蝙蝠の後退地点に先回りさせておく。

そしてその月達を爆発させ、ダメージを与えると共に動きを停止させた。

 

 

「ファシルド!」

 

 

そこへ飛来した星がシールドを発生させる。ファシルドは自身の防御だけでなく、相手を閉じ込める使い方もあるのだ。

ビットが点と点をつなぎ、そこに面を発生させる。完全に閉じ込められた蝙蝠は必死にもがき、シールドを破壊しようとするが既にもう周りにはレイラの月に囲まれているところだった。

 

 

連結(コネクト)! アンド、収穫(ハーベスト)!」

 

 

レイラのビットもまた互いに光の糸で連結し合い、さらにそれを束ねる事で網となって対象の動きを完全に封じる。

蝙蝠は何とかファシルドは破壊できたようだが、既に月に絡め取られていた。

 

 

「今だ! 決めろビクトリーム」

 

「よかろう! 私の極光たるVの一撃にてロストしやがれぇえ!」

 

 

ビクトリームの体が輝き、完全にて寸分の狂いも無い美しいVの文字が。

そして告げるのはその輝きを解き放つ攻撃呪文。

 

 

「チャーグル・イミスドン!!」

 

「ッッ!」

 

 

巨大なVのエネルギーが放たれ、縛られていた蝙蝠に直撃する。

 

 

「ギガアアアアア!」

 

「ッ!」

 

 

攻撃を受けた蝙蝠の体が文字通り蒸発する様に消えていく。

確固たる肉体を持っている物にはあり得ない光景だ。

体の断面が見えたが、そこには自分たちにある様な臓器は一切無く、文字通り闇そのものしか存在していなかった。

生き物ではない、何かによって動く人形、それが彼らが感じたイメージだった。そして蝙蝠はVの輝きに飲み込まれ、完全に消滅したのだった。

 

それからパムーンたちは湖畔の方へデモンを運び、すぐに応急手当を行った。

簡単な物であったが、やらないよりはマシだろう。

すると気絶していたデモンが勢い良く目をあけ、凄まじい気迫で声を上げる。

 

 

「――お前ら、その強さ、王を決める戦いの参加者だったんだろう!?」

 

「あ、ああ。と言ってもオレ達は千年前のだが」

 

「それでもいい。とにかく聞いてくれ! このままじゃ魔界が――」

 

 

言葉を一旦詰まらせ、大きく首を振るデモン。

 

 

「一番は人間界がとんでもない事になる!」

 

「なんだって!?」

 

 

そして三人は知る事になる。

何が起こり、そしてこれから何が起ころうとしているのかを。

 

 

 

 

二日後。場所は魔界の王宮へ移り変わる。

王の城と言えば聞こえは荘厳だが、ガッシュのお家と書けばそれがどんな存在なのかは何となく予想がつきそうなものだ。

今日は休日、ガッシュの自室からは楽しそうにはしゃぐ声が溢れていた。

王とは言えど彼もまだまだ子供、友人の前では歳相応の姿を見せるのだ。

しかし、王宮のとある一室ではガッシュの部屋とは全く違う雰囲気が漏れていた。

感じるのはピリついた緊張感、近づいただけで息が詰まりそうになる重さがそこにはあった。

 

 

「その話は本当なのか?」

 

「ああ、間違いない。あれからデモンと同じタイプのヤツに数名会った」

 

 

ガッシュの双子の兄であるゼオンは、パムーンとレイラからの報告に険しい表情を見せた(ちなみにビクトリームも先ほどまでこの部屋にいたのだが、もてなしの為にと出されたメロンを三回おかわりした所でゼオンから邪魔と言われ、ラジンと言う人物に連れて行かれた)。

 

 

「父上には?」

 

「アースを通じて話は聞いているわ。と言うより、舞台を整える準備をしてくれたわ」

 

 

鼻を鳴らすゼオン。

自分とガッシュの知らない所で話はかなり進んでいたらしい。

まあ無理もないと言えばそうだ、なるべくなら王の耳には入れたくない話。

ゼオンはガッシュと一緒に住んでいるため、何かしらの状況で話が漏れる可能性もあった。

 

 

「ましてや、今回の作戦には彼女の協力が必要になる筈」

 

 

それを聞いたゼオンは汗を浮かべる。

彼でさえ、この問題には一抹の不安や恐怖を覚えてしまうもの。

今回の問題がもしも本当に起きるのならば、それはもはや魔界の王を決める戦いと言う次元の話ではなくなる。

 

 

「ええ、その通りよ」

 

 

重く、冷たいレイラのトーン。それが事態の深刻さを物語っていた。

 

 

「今回の件、下手をすれば人間界も魔界も滅びる事になる」

 

「……ッ」

 

 

腕を組んで虚空を睨みつける。

なるほど、間違ってはいない話だ。

 

 

「人間界との橋は?」

 

「デモン達の力でなんとかなった。システム全般に関してはガッシュの親父さんや校長、後は魔鏡で魔力を増幅させたワイズマンが何とかしてくれたよ」

 

「天才と言われたアイツか。なるほど、それに父上の力もあるのだから問題はないか」

 

 

顎に手を当てて一度目を閉じるゼオン。

次に彼がその紫電の瞳を見せた時、どうやら覚悟は決まったようだ。

 

 

「分かった。"コア"に関してはオレが話をつける」

 

「本当か? 悪いな」

 

「いずれにせよ、再びオレ達は面倒な事に巻き込まれる訳だな」

 

「そうなるわね。時間ももう無いわよ」

 

「チッ、魔界も案外ふざけた場所かもしれんな」

 

 

立ち上がったゼオンは白銀のマントを翻しながら部屋を出て行くのだった。

顔を見合せ頷きあうパムーンとレイラ、自分たちもコレで役目が終わった訳ではない。

むしろ、一番重要な役回りがまだ待っているのだから。

 

 

「ゼオン、話ってなぁに?」

 

「ああ、急に呼び出してすまんな」

 

「いいのよ別に。気にしないで」

 

 

庭園、そこへ移動したゼオンは一人の少女を呼び出した。

彼女の名はコルル、ガッシュが優しい王を目指したきっかけになった少女である。

ガッシュを強く変えた人物であり、ゼオンもその点に興味を持って気に掛ける機会や、会話する機会は多かった。

今日もまたそういった類の事なのかと彼女は思っていただろうが、やけにゼオンの表情が険しい事に少し疑問を。

 

 

「どうしたの? 辛いの?」

 

「いや……」

 

 

突拍子も無い事だとは分かっている。

しかし言わねば仕方ない事だ。ゼオンは彼女に手を差し出し、そして願いを告げた。

 

 

「コルル、お前の命、オレに預けてくれないか」

 

「……え?」

 

 

ノイズ。そして、舞台はその時へと飛躍する。

 

 

「貴様が魔界の王、ガッシュベルか」

 

 

それは、その女は何の前触れもなく現れた。

それは災悪か、もしくは正当なる裁きなのか。

ただどちらにせよ分かっている事があるのなら、それは先に待つのは破壊と混沌なのだと言う事だ。

 

 

「聞くが良い。コレは神託なり」

 

 

それは奇跡でなければ偶然でもない、完全なる必然。

訪れる事は時代がその運命を望んでいたからだ。

故に女は語る。ガッシュは確かに王に選ばれた男だ、民がガッシュを導き、その冠と称号を彼に与えた。

しかし。もし、もしも彼が『世界』にはまだ認められていなかったとしたら?

 

 

「王は所詮、王」

 

 

ヒエラルキーの、ピラミッドの頂点に立つものには非ず。

 

 

「結論は簡単にして、そう! 容易なのだよ」

 

 

女は手をかざす。

 

 

「―――」

 

 

投げかける言葉は狂気そのもの。

優しい王がイエスと答える訳の無い言葉だった。当然、王はそれを拒む。

しかしそれは女の計算の内。こうなる事は分かっていた。むしろこうなってくれた方が助かる。

王を超越せし者の言葉に王が歯向かった、ならばそこには正当な理由が生まれる。

間違った『王』を、排除する理由がだ。

 

 

「ならば死ぬが良い、脆弱なる王よ」

 

 

伸ばした手の先にどす黒い赤を交えた光が収束していく。

 

 

「ユダ・ヴァジリス――」

 

 

だが、その時。

 

 

「ミベルナ・シン・ミグロン!!」

 

 

王座の間に広がる無数の月。

それは光の糸を射出し、王を縛り上げると猛スピードで女から距離を離していった。

コレは一体? 女の思考が加速する。ありえるのか? ありえていいのか? 魔物が自分に逆らうなどと。

 

 

全部(オール)! 回転(ロール)!」

 

 

現れたレイラの命令にて、無数の月は一勢に移動を開始して女の周囲に張り付くように位置を取った。

そして――

 

 

攻撃(ファイア)!」

 

 

王座の間が衝撃にて激しく振動する。次々と巻き起こる連鎖爆発、女の体はあっと言う間に爆炎の中に消えていった。

さらに別の位置で構え立つビクトリーム。彼もまた躊躇い無く最強の攻撃呪文を爆煙の中に見えた女の影に向かって射出する。

 

 

「シン・チャーグル・イミスドン!」

 

 

巨大なV状のエネルギーが女を押しつぶそうと進撃を開始する。

衝撃が爆煙を蹴散らした時、姿を見せたのはなんと両手ではあるが確かに攻撃呪文を受け止めている女の姿であった。

術のランクにおいて最上位に立つ『シン』を生身で受け止めるその女のスペック、考えるだけで冷や汗が出てくると言う物だ。

しかしココは引けぬ戦い、最後に現れたパムーンが構えを取って女を睨みつける。

 

 

「収束展開、ファルセーゼ・バーロン!」

 

 

王座の間に無数の星が出現していく。

それらはパムーンの操作で巨大な五芒星の並びを作り出す。輝きを放つ五芒星、魔を退ける星の光であった。

 

 

「ファルセリオン・シン・ファリスドン!!」

 

 

五芒星から巨大な星の形をしたレーザー光線が放たれる。

それは完全に女を飲み込むと、王宮の壁に巨大な穴をあけるに至った。

王の住む場所にこんな事をしよう物なら後に大きな処罰を受けそう物だが、今はもうそんな事はどうでも良かった。

とにかく時間を稼ぎ、そしてその時が来るのを待つ。すると三人の体が透明になり始めた。間違いなく、コレは魔本を燃やされた後に起きる光景であるが――?

 

 

「よし、成功だ!」

 

 

パムーンはそこで目を丸くしていた王に向かって微笑みかける。

どうなっているのか? 何が起こっているのか? 王は全く分からなかった。

理解できない、なんなんだこれは? 誰か説明してくれ。

 

 

「悪い、もう話している時間は無いんだ」

 

「でも、コレは覚えておいて」

 

 

既にうっすらとしか確認できないレイラが微笑んだ。

 

 

「また、私たちは人間と共に――」

 

 

そこで、王の意識は完全にブラックアウトしたのだった。

 

 

 

 

 

「や、清麿」

 

「ああ、章吾。おはよう」

 

 

魔界の王を決める戦いから約半年が立ち、高嶺清麿は自宅近くの高校に通っていた。

かつての友人たちとは皆離れ離れになってしまったが、今はこうして新しい友人もできて一緒に登校する仲にまでなっている。

よく一緒に行動するのは、今彼の隣にいる荒川(あらかわ)章吾(しょうご)くらいだが、クラスメイト達との仲も良好で、周りからの評判も高い。

 

昔の彼ならば今の状況は信じられないはずだ。

その才能や知能故に周りから孤立していた過去、しかしそれを大きく変えてくれたのがパートナーだったガッシュなのである。

閉ざしていた心を無理やりこじ開け、そしてその中にガッシュは情熱を放った。それが原因で今の清麿が出来上がったと言っても過言ではない。

そしてそれは何も彼だけに言えた話ではない。人間と魔物、双方がなぜペアとなって戦うのか。互いに足りない物を補い合い、そして何よりもお互いを理解し、助け合えたとき、魔本には強力な呪文が浮かぶ事が多かった。

戦いは苦痛を悲しみを多く生み出した、だが戦いがなければ得られなかった希望もあろう。清麿もまた、魔界の王を決める戦いが無ければ今胸にある物を得る事はできなかったのだから。

 

 

「………」

 

 

ただ、それだけに別れは大きな穴を彼の胸にあけた。

それもまた、彼だけではないだろう。多くのペアが家族になった、それほどの絆があったのだから、反動もまた大きくなる。

分かっている筈なんだ、きっぱりと別れた筈だった。だがそれでもふとした瞬間に、もしも今ココにガッシュがいればどうなっていたんだろうと思う時がやってくる。

 

 

「なあ、章吾。お前進路とか決めてるのか?」

 

「いーや全然。その話事務所NGだから」

 

「事務所ってなんだよ……」

 

 

まだ一年生、とりあえず今は適当に生きたい年頃なんだと章吾は流していた。

どうせ大人になれば忙しさに追われるんだ。きっと、たぶん、だから今は今で楽しんでおきたい。何も考えないで今だけを、子供である事を謳歌したいと。

 

 

「清麿、お前はあるのかよ」

 

「……ああ、何となくな」

 

「かぁー、マジか。勘弁してくんねーかな。顔良し、頭良し、中身良し。で、更に"夢を追う青年"属性まで付いたら誰が勝てるんだよ」

 

「か、からかうなよ……」

 

「アドバイスだよアドバイス。人間完璧すぎると逆に近寄りがたいって言うじゃないの」

 

 

そうだ欠点、一個欠点作ろうと章吾は清麿に提案を。

 

 

「常にチンコ出してるってのはどうだ? モロ出し系男子とか!」

 

「………」

 

「ごめん、うん、冗談。やめて怒らないで! 清麿くん怒ると何かすっごい怖いよ! って言うか顔変わってない? 悪魔みたいになってるけど!? あれ? ちょっと待って! 牙とか角生えてない!? 脇から触手も出てるよ!」

 

 

ガクガクと震える章吾と共に清麿はモチノキ中央高校にやって来る。

教室に入ると何やら女子や男子が一つの話題で盛り上がっているようだった。

清麿達の年齢にはベストな話題、それは章吾も例外ではない。

 

 

「あぁ、そういえば今日だったな。大海恵のニューシングル」

 

 

大海恵、中高生には特に人気のアイドルである。

 

 

「しかし人気だよなー、俺もガッツリファンって訳じゃないけど携帯に数曲入れてるんだ」

 

 

汗を浮かべる清麿。章吾は彼の変化に気づいていないようだ。

 

 

「お前はファンだったよな? やっぱ買うんだろ?」

 

「ま、まあな」

 

 

言えない、本人に貰ったなんて。

言えない、本人に目の前で歌ってもらったなんて。

 

 

「買ったら後で貸してくれないか? 俺、来週発売されるフォルゴレのCD貸すからさ」

 

「いらん」

 

「……え?」

 

 

それも聞いた、本人から! しかも五十回リピート!

 

 

「酷いぞ清麿! フォルゴレの奏でるメロディは男のハートに響くんだぞー!」

 

「モゲモゲソウルだろ! 歌詞全部言えるわ!」

 

「え? あ、なんだお前もファンだったのか! そうだよな、やっぱ欲しいCDは自分で買いたいよな!」

 

 

違う! 清麿は過去に戻れるならあの時の自分を殴りたいと切に願っている。

新曲が出来たから聞いて欲しいと言われ、結局朝から晩まで同じ曲を聴かされる事になった。

そう、高校になって携帯を買ってからと言うもの、色々と仲間と連絡する機会が増えた。

すると本当に今まで自分達は凄い人間と知り合ってきたのだと再認識させられる。

人気アイドル、世界的大スター、大財閥のトップ、マフィアの娘、富豪の息子、謎の博士、まだまだ凄い人物はいる。

 

 

(サンビームさんだって、工場の建設は順調だって言っていたし……)

 

 

そう考えると、まだ結果を出せていないのは自分だけなのかもと思ってしまう。

清麿は胸を押さえ、少し表情を険しい物に変える。これが恐らく胸に開いた穴だと言う事が彼には理解できた。

彼は今、かつてその身に宿った超絶的な能力であるアンサー・トーカーを封印している。『答えを出す者』と呼ばれるその力、疑問が頭に浮かぶとその答えが脳に浮かぶ力である。

知らない楽器が目の前にあっても弾き方が頭に浮かぶ、知らない問題があっても答えが頭に浮かぶ。王を決める戦いでは大きな武器になってくれた力だが、高校生活において使用するのはフェアじゃないような気がした、それに頼りがちになるのを避ける為にも取り合えず高校を卒業するまではと力を心の奥に押し込めたのだ。

だがそうなると、色々とぶつかる壁も増える訳で。

 

 

「………」

 

 

たとえばそれは将来の事。

ガッシュから送られた手紙を読んだとき、次に会うときは地球を救う程大きくなってと心に思ったはいいが、中々その明確な方法は思い浮かばなかった。

それはアンサー・トーカーを以ってしてもだ。簡単に言えば、やりたい事が多すぎる。

例えばそれはいつか魔界と人間界を繋ぐ橋を見つけたいだとか、たとえばそれは世に蔓延る問題を解決するとか。

 

 

「また"カイロス"が出たらしいな」

 

「んあ。やべーよなアレ」

 

 

昼休み、食堂のカウンター席で清麿と章吾は並んで昼食を取っていた。

頼んだのは清麿がうどんで章吾がそば、後者は七味を鬼のように振り掛けて咳き込みながら啜っている。

一方で清麿は携帯で海外のニュースを見ていた。そこに書いてあったのは海外の紛争地域で正体不明の兵器が発見されたと言う事だ。

多くの命を奪った未知なる兵器をメディアは『カイロス』と名づけて問題視している。

 

清麿にはその正体が分かっていた。

自分と同じ、アンサー・トーカーの力によって作られた兵器だ。

以前、同じ力を持つデュフォーが利用されたと言う話を聞いたことがある。

彼が残した設計図が現代によって形を成したのか、それとも他のアンサー・トーカーが利用されているのか。

 

魔物がいなくなった今、当然ながら地球に存在するのは人間のみ。

そうなると、より一層に人間の罪と言うものが浮き彫りになってくる。

その問題に立ち向かいたい、その思いはあるのだが果たして自分に何ができるのか?

そして、恐れが無いと言えば嘘になる。そんな想いをそれとなく章吾に話すと、彼もまた大きなため息をついた。

 

 

「将来の事か。難しいよなマジで」

 

 

彼も一応漠然とした夢はある。

エンターテイメント関係、例えばそれは小説家とかシナリオライターだとか漫画家だとか。

 

 

「でも、周りからは色々言われる訳よ。常に説教さ」

 

 

夢や理想を語るのは良い事だが、現実も見ろと。

 

 

「見てるつもりなんだけどな」

 

「ああ、そうだな……」

 

 

彼と同じかもしれない、清麿はそう思った。

 

 

「馬鹿言えよ、お前と俺じゃスケールが違うって」

 

 

清麿の考えている事が何となく分かったのか、自嘲的な笑みを章吾は浮かべていた。

ただ寝ていても起きていても何かに縛られている様な感覚は二人に共通する所だったろう。

しかし、しいて言うならば清麿にはこの燻っている感情の正体が何となく分かっている。

それは学校が何の事は無く終わり、章吾と共に帰り道にCDショップに寄った時だ。

 

 

「知ってるか? メグって彼氏がいるって疑惑があるんだぜ? おまけにココ、モチノキにいるんじゃねーかとか何とか」

 

「……ッ」

 

「しかも年下だぜ? 前に子連れで遊園地にいたとか何とか。まあ子連れってのはありえねーとは思うけど、彼氏さんの方はマジかもな! どんな顔なのか見てみたいよなぁ!」

 

 

ケラケラ笑う章吾とは対照的に、少し引きつったような表情に清麿は変わった。

すぐにそれに気づいてギョッと表情を変える章吾、地雷を踏んでしまったかもしれない。

まさか清麿もそこまでファンレベルが高かったとは。彼は慌ててフォローを。

 

 

「いや、ま! 噂は噂だし! いないだろ多分! ハハハ!」

 

「ああ、だよな」

 

 

取り合えず清麿はそう返すが、CDを持つ手には少し力が入っていたように感じる。

結局彼はそのままCDを買って、章吾と話しながら帰路についた。彼と別れて家に到着した清麿は、自室に入ると倒れる様にベッドへ伏せる。

 

 

「はぁ、オレらしくないよな……」

 

 

ココ最近はずっと心がザワザワと燻っている。

いろいろ将来の事や思い通りに動けないジレンマがある訳だが、もっと大きく身近な問題があると彼は既に理解している。

理解しているのだが、イコール解決できるとは限らなかった。彼は仰向けに体勢を整えると、携帯の画面の中にある原因を見て小さくため息を漏らす。

 

 

『CD買ったよ』

 

 

打ち込む文字。

しかし彼は眉間にしわを寄せて首を振る。

 

 

(少し砕けすぎか?)

 

 

文字を消して新しく言葉を紡ぐ。

 

 

『新曲買いました』

 

 

取り合えず文を変えてみたが相変わらず表情は微妙である。

 

 

(ちょっとよそよそしいか……?)

 

 

頭をかく清麿。

結局彼は書いては消し、書いては消しを繰り返し、しっくり来る答えを出すのに十分以上は時間を掛けただろう。

天才といわれ、どんな問題でもスラスラと解いてしまう彼にとってココまで悩む問題もまた珍しい。

 

 

『CD買ったよ』

 

 

しかも送信したのは一番初めに書いて消した文である。

そのままジッと文を見つめる清麿、すると一分もしない内に返信が届いた。

 

 

『本当? 嬉しいな、ありがとう清麿くん!』

 

『でもごめんね、気を遣わせちゃったかな?』

 

 

ただの文なのに、言葉が並んでいるだけなのに清麿の心にあった燻りが一瞬散った気がする。

軽くなる心。彼女の声が強く思い浮かび、文を脳内再生していく。

頬がほころび、先ほどは険しい表情を浮かべていた彼も、気づけば今は笑みを浮かべている。

結局彼はその返信にまた五分以上時間を掛けてしまう訳で。

 

 

『オレの方こそゴメン。せっかくプレゼントしてくれたのに』

 

『でも、やっぱり自分でも買いたくてさ』

 

 

十回は書き換えた文を送る。するとすぐにまた返事が。

 

 

『ありがとう。清麿くんさえよければ、今度もまた、聴いてくれるかな?』

 

『もちろん、オレでよければ』

 

『約束だよ! 破ったら針千本だからね!』

 

『あはは、これは破れないな』

 

 

ドクンドクンと気が付けば心臓は大きな音を鳴らしていた。激しいリズムも、今の清麿にとっては心地良い。

今彼が文字を使って会話をしているのは、超人気アイドルの大海恵だ。魔界の王を決める戦いで知り合いになってからは、戦いが終わった後もこうして交流を続けている。

たまに彼女と会える時は、練習したいとカラオケで生歌を聞かせてもらえるのだ。思い返してみるととんでもない事だと思う。

 

 

『今回の曲は私が作曲したの』

 

『ティオを、イメージして』

 

「!」

 

 

ふと、清麿は歌詞カードを取り出して歌のタイトルを確認する。

ベストパートナー、恵のパートナーだったティオの事が確かにそれとなくメッセージに込められていた。

それが、清麿に現実を突きつける。

 

 

『良い歌詞だと思う。ごめん恵さん、ちょっと今、友人が来て』

 

『うんありがとう。そっか、じゃあまたね』

 

『うん。ごめん、また』

 

 

嘘だ、清麿は携帯をベッドの上に放り投げると大きく息を吸って、ゆっくりと吐いていく。

そして腕で目を覆い隠した時、彼の心には再び大きな燻りが宿った。

そう、彼の中で今一番大きく立ちはだかる壁が見えた。彼女は超人気アイドル、そして自分はただの高校生だ、間にある壁は自分が考えているより大きいはず。

今までは王を決める戦いと、互いのパートナーであるガッシュとティオの仲が良かったからこそ自分達は繋がれていた。しかし今、王が決まり、ガッシュ達はもういない。

その事実から目を背けてはいけなかった。あの時と同じ関係でいられない事は分かっていた筈だ、自分も彼女も。

 

 

(だが、それでもオレは……)

 

 

目を閉じて彼は拳を握り締める。

一体どうすれば良いのか、その答えが分かっている筈なのに分かれない。

ティオが消えた後、彼女は本当に寂しそうだった。少しでも目を離せば消えてしまいそうな程に儚く。

そしてそれは今も時折その表情を見せる。それは自分と会っているからなのか、それを思えば心が引き裂かれる程に痛かった。

彼は戦いの中で多くの傷を受けた。それこそ命を失い掛けた事もある。なのに今感じる痛みは、過去に受けた傷の記憶(カサブタ)をはがしても答えの出ない迷いであった。

 

 

「!?」

 

 

そのときだ、ガラスが割れる音が響き、突風が前髪を揺らしたのは。

 

 

「メグ、どうしたのニヤニヤして」

 

「ううん、なんでもなーい」

 

 

一方恵の家、一人暮らしの彼女のアパートには友人の"サンディ"が遊びに来ていた。

目が映えるようなオレンジ色の髪に、青い瞳のサンディ。元気な性格で、恵が落ち込んでいる時はよく励ましたものだ。

ちなみにハーフで、母親は現在恵のマネージャーをしている為、それが原因で恵と知り合った。

 

 

「あやしー! サンディ警部に携帯を見せろー!」

 

「なんでも無いって! ふふふ!」

 

 

ワキワキと手を動かしながらサンディは恵に飛びついていく。

一方でサラリとそれをかわしながら携帯の画面を見つめる恵。

目に移すのは先ほどまで行っていた彼との会話、文字を見るだで声が脳内再生される。

 

 

「ふふふ!」

 

 

堪えようとしてもニヤけてしまう。彼が自分のCDを買ってくれた、それを想像するだけで心がポカポカしてくる。

ふと彼の顔を頭に思い浮かべれば、頬は桜色に染まり、気恥ずかしさから恵は枕に顔を埋めて足をバタバタと。

 

 

「青春ですなぁ」

 

 

バリボリと煎餅をかじりながらサンディはニヤニヤしながら恵を見ていた。

彼女もまた恵の立場が難しい位置にあると言う事は分かっている。

ただ一度きりの人生、その人の思い通りに生きてみたほうが良いとも思うから、彼女は恵を応援する立場にいる事を決めた。

それに恵の努力を知っているからこそ、味方でいたいと思うのだ。

 

 

「………」

 

 

だが、ふと、恵はとても寂しそうな表情を見せる。

 

 

「ねえ、サンディ」

 

「ん?」

 

「このままで、いいのかな――?」

 

「それは……」

 

 

言葉を詰まらせるサンディ。

中途半端に答えて良い問題ではない、しかしきっと彼女はどこかで答えを知っているのではないだろうか?

ただそれでも、死なせたくない想いがあるから。

 

 

「「!」」

 

 

その時だった、室内にインターホンが鳴り響いたのは。

誰だろう? 二人は顔を見合わせて首を傾げる。特に友人が来るといった予定はないし、郵便物が届く予定も無い。

 

 

「セールスかな? アタシ見てくる!」

 

「あ、ごめんね」

 

 

ドタドタとサンディはドアについている覗き穴の所へ。

すると、意外な答えが彼女の口からは返ってきた。

見えたのは友人でもなければ、知らないセールスマンでもない。

 

 

「本?」

 

 

 

 

 

「―――」

 

 

高嶺清麿は今目の前に広がっている光景の処理に時間を要していた。

こんな時にアンサー・トーカーの力があれば便利だったのだろうが、少なくとも今は封印している状態、自力で何とかするしかない。

デジャブと言う言葉を知っているだろうか? 既視感とも呼ばれるそれは、体験した事の無い事が以前にも体験したのではないかと思う減少である。

見た事のない景色を、以前一度見たことがあるとかそう言うものだ。彼もまたその強烈な既視感を現在は覚えている。

ただそれはデジャブではない、なぜなら彼は一度前にもこの光景を目にしているからだ。

 

 

「が……」

 

 

窓が割れ、ガラスの欠片が部屋に散乱する。

机の上にあったペンケースや本も吹き飛び、A4のコピー用紙が風に撒かれて紙吹雪のように部屋の中を漂っていた。

そしてその中で自分を見つめる二つの視線。一つは日本では中々見た事の無い大きな"ワシ"だ。そしてそのワシの両足に掴まっているのは金の髪を持つ――

ブリを背負った全裸の子供だった。

 

 

「ガッシュ!?」

 

 

錯覚か!?

あまりにもな光景に、清麿は一度目を擦ってからもう一度目の前の光景を確かめる。

しかし見えたものは先ほどと同じ、大鷲に掴まって自室に強引に飛び込んで来たかつてのパートナー、ガッシュ・ベルの姿だった。

そしてこの状況は彼と初めて出会ったあの時と同じではないか。

 

 

「清麿ぉおおッッ!」

 

「おぶっ!?」

 

 

衝撃、ガッシュの目が潤んだかと思うと彼は跳躍で一気に清麿の胸へとダイブする。

もちろん清麿も感極まって泣きそうになるが、それよりもハイテンションなガッシュを前に心は反対に冷静さを取り戻していく。

 

 

「清麿! 会いたかったぞ清麿ぉぉぉ!」

 

「あぶっ! へぐっ! ま、待てガッシュ!」

 

 

チョコチョコと清麿に抱きついたまま動き回るガッシュ。

言っておくが彼は現在全裸だ、何と言うか彼の"王子"が思い切り清麿の顔に当たっている。

必死に振り払おうにも魔物の力は強く、清麿では引き剥がせない。

 

 

「元気にしておったか? 私は元気だぞ清麿ぉぉぉお!」

 

 

体を震わせるガッシュ。彼の王子(ティンティン)が清麿の顔を往復する事に。

 

 

「ぎゃあああああああああ!」

 

「そうかそうか、叫ぶほど嬉しいか清麿! 私も同じ気持ちだぞぉぉお!」

 

「やかましーッ! さっさと離れやがれーッッ!」

 

「ヌアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

感動の再会の筈なのだが、部屋には怒号が響くのだった。

五分後、そこにはブリをモリモリ食べるガッシュと、それを見つめる清麿が。

落ち着きを取り戻した両者は再会を素直に喜び合ったが、逆にある意味拍子抜けと言うかなんと言うか。

しばらくの間会えない物とばかり思っていただけに、色々と格好つけてしまった手前気恥ずかしさが残る。

 

 

「でもまた会えて本当に嬉しいよ!」

 

「ウヌ! 私もなのだ! こーこー生活とやらは楽しいか?」

 

「ああ、友達もできたんだ。お前のおかげだガッシュ」

 

「何を言っておる。私がした事は些細な事、あとは清麿が自分の力で行ってきた結果ではないか」

 

 

見つめ、笑みを浮かべる二人。

もはや多くの言葉はなくとも意思は通じ合っていた。

しかし時間が流れれば流れる程、懐かしさや色々な感情がこみ上げてくる。

清麿は思わずまた目に浮かんだ涙を拭うと、ガッシュに笑顔を向けた。

 

 

「どうして人間界へ? 二つを繋ぐ橋がもう出来ちまったとか?」

 

 

それとも手紙の様にパートナーに会いに行ける様にしてくれたのだろうか?

清麿は色々な仮説を頭に浮かべてみたが、対してガッシュの反応は微妙なものだった。

汗を浮かべ、首をかしげ、困ったように清麿を見る。

 

 

「実は、私にもよく分からないのだ……」

 

「え?」

 

 

一瞬また記憶が無くなったのかとヒヤリとしたが、どうやらそう言う事ではなく、本当になぜ自分が人間界に来れたのかが分からないらしい。

事の始まりを聞く清麿。魔界の王として色々と勉強していく中、ある日ガッシュに話がしたいと謁見を求む者が現れた。

ガッシュとしても拒む理由は無く、その者の話を聞く事になったのだが――

 

 

「現れた者は、何かとてつもない力を秘めておる様に感じたのだ」

 

「とてつもない力?」

 

「ウヌ。私にも分かる。アレは魔物の力とは何か違う。もっと大きな力を感じたのだ」

 

 

その正体が分からぬままに話し合いとなったガッシュ。

そしてその話し合いの場にパムーン達が侵入してきて、気が付けば自分の体が消えて人間界にいたと言う。

何が起こったのか、訳も分からぬガッシュだが、たまたまそこにかつて清麿の家に送ってもらった大鷲がいたから助けを求めたと。

清麿ならば何が起こっているのかを突き止めてくれるかもしれない。ガッシュはそう期待している訳だ。

 

 

「成る程、もしかしたらその謁見者が何かを知っているのかもしれないな」

 

「………」

 

「ん? どうしたんだ?」

 

 

ガッシュの表情が硬い。

そこにあるのは緊張と恐怖、それを見て清麿も思った以上に今回の問題は厄介なのかもしれないと直感した。

ガッシュは確かに泣き虫で弱虫だといわれてきた、しかし数々の戦いを経験していくなかで確実な実力を付けてきたではないか。

その彼が怯えの表情を見せる。それほど厄介な相手だとでも?

 

 

「その者は、恐ろしい事を言っていたのだ」

 

「恐ろしい事?」

 

「う、ウヌ。人間は――」

 

 

ピリリリリリリリ! ガッシュの言葉を遮る様に携帯が鳴り響く。

ビクッと肩を震わせるガッシュと清麿、一瞬無視をしようかとも思ったが、鳴っている物を放置して会話の続きとはいくまい。

清麿はガッシュに一言軽く断りを入れ、携帯の画面を確認した。

 

相手は友人の荒川章吾。

彼とはそこそこ一緒にいるが、緊急以外では大体メールを使用する為、電話をかけてくるときはそれなりの用件がある場合が多かった。

故に清麿は悩みこそしたが、電話に出る事に。

 

 

「あぁ、もしもし章吾か? 悪いけど今忙し――」

 

『今、お前の家の前にいるんだ』

 

「え?」

 

 

ダンボールで補強してある窓を開く清麿。

すると確かに電話の通り、家の前に章吾が立っていた。

目を見開く清麿。頭をハンマーで殴られた様な衝撃が彼を襲う。

ただ家の前に章吾がいるだけならば疑問を浮かべる事はあれど、今の清麿ならばそれほど驚かなかっただろう。

しかし目に留まる大きな異変は二つ。一つは章吾の隣に見た事の無い少年が立っている事、大きな角が生えており目の下には線が入っている事、なによりその気迫から人間では無いと言う事がすぐに分かった。

そしてもう一つは、なんと言っても章吾が手にしているあるアイテムだ。忘れるわけが無い、嫌と言う程目にしてきたソレを。

 

 

「魔本……ッ!?」

 

 

赤紫色の本を章吾は、まるで見せびらかす様に前へかざしていた。

 

 

「清麿」

 

「!」

 

 

ガッシュの声がして反射的に振り返る清麿。

するとそこには、彼が持っている赤い魔本が目に飛び込んで来た。

ガッシュもまた、人間界に送られたときに魔本が近くにあったらしい。

 

 

(馬鹿な! 人間界に送られた魔物と魔本、これじゃあまるで……!)

 

 

王を決める戦いそのままではないか。

呆気に取られる清麿に、再び章吾は声をかける。

 

 

「ガッシュと会えたんだろう?」

 

「!」

 

 

どうして彼がガッシュの事を知っているんだ?

浮かぶ疑問、しかし章吾は尚も言葉を続けていく。

 

 

「魔本を持つ者同士がココに立っている。だったら、やる事は一つだよな?」

 

「お前、まさか――」

 

「行こうか、清麿。何が起こっているのかお前も知りたいだろ?」

 

 

章吾の目は据わっていた。そしてその言葉から、彼が何らかの事情を知っている事は想像できた。

ハッタリ? いや、それにしては落ち着きすぎている。魔本の意味も、王を決める戦いの事も知っている様だった。

何よりも、今、この状況の謎を切り開ける鍵がそこにある。清麿もまた覚悟を決めるとガッシュの頭をポンと叩く。

 

 

「行くぞガッシュ」

 

「ま、まさか……」

 

「ああ、魔物と戦うんだ」

 

 

ガッシュも少なからずショックを受けている様だった。

まさか自分が王になった後、すぐにまたあの戦いが行われるとは。

しかしどういう事なのか、何が起こっているのか、ガッシュも知りたいと思う気持ちは強い。結果として彼もすぐに覚悟を固めると、清麿の後についていくのだった。

 

数分後、彼らは人気の無い採掘場にやってきていた。

ここにやって来るまで清麿は何度か章吾に話しかけたが、結果は全て適当に返されるだけで一つも会話にはならなかった。

一方魔本の中身を確かめてみると、覚えている呪文は以前と全く同じ。最悪第一の術しか覚えていないのではないかと思った分、そこはまだ救われたか。

 

 

「さて、じゃあ始めるか」

 

 

二つのペアはにらみ合い、激しい火花を散らす。

 

 

「はじめましてだなガッシュ。俺は荒川章吾、清麿の友達だ」

 

「私はガッシュ・ベル。おぬし、清麿の友人ならば何故戦うのだ!?」

 

「戦う事でしか確かめられない事もあるのさ、なあ? デモン」

 

 

章吾の隣にいる魔物はデモンと言うらしい。

一見すれば普通の少年だが、白い髪に毛先だけ赤紫に染まっている。

そして頭からは大きな角、そして今彼が力を込めると背中からは悪魔をイメージさせる翼が生えた。

 

 

「ああ。勘違いはしないでくれ清麿、ガッシュ。おれ達は何も殺し合いに来た訳じゃない」

 

 

ただテストをしたいとデモンは言った。

それは本気の戦いでなければ見えないテストだ。故に傷つける事になってしまうが、それはどうか分かってくれと彼は言う。

 

 

「本気のテスト?」

 

「ああ、王の力を試したい」

 

 

その言葉を合図に章吾は魔本を広げ構える。

さらに赤紫の光が放たれ、戦う準備は完了した。

 

 

「来いよ清麿。一度お前を超えてみたかったんだ」

 

「………」

 

 

同じように魔本を広げる清麿。

戦うことは気が引けるが、何より彼らはその答えを知っている。

 

 

「章吾、ひとつ約束してくれ」

 

「ん?」

 

「お前に勝ったら、何が起こっているのかを教えてくれると」

 

「ああいいぜ。"勝てたら"、だけどな」

 

 

まずは一発ご挨拶だ、章吾はニヤリと笑うと手を清麿たちの方へとかざす。

一方で清麿もまた魔本に力を注ぎ込み、赤く発光させた。

 

 

「いくぞガッシュ!」

 

「ウヌ!」

 

 

強く頷くガッシュ、以前一度魔界にいるガッシュに力を貸した事がある。

その時の感覚、感情が今再び清麿の心を駆け巡った。

 

 

「セット!」

 

 

ひと指し指と中指を伸ばして示す照準、ガッシュもあの時の感覚を忘れて等はいない。

多くの猛者達と戦った記憶が、鮮明にあふれ出す。

そして刹那、清麿と章吾の口が同時に開いた。

 

 

「「ザケル!」」

 

 

ガッシュの口から放たれる黄色い電撃、一方でデモンの角から放たれる赤紫の電撃。

二つはぶつかり合うと激しい閃光を放ちお互いを打ち消しあった。

余韻を残し、なお迸る電気の中で再び両者の視線がぶつかり合う。

 

 

「ガッシュと同じ電撃の術か!」

 

 

その時、デモンの口がニヤリとつり上がる。

 

 

「当然さ、ベルの家系に――」

 

 

いや。

 

 

「ガッシュに、(ザケル)を与えたのはおれなんだからな」

 

「何!?」

 

 

デモンの言葉が気になったが、それを含めて彼を倒さなければ詳細は聞けないらしい。

 

 

「さあいくぜ章吾、初陣だ」

 

「ああ、雷神様に恥はかかせられねぇよな!」

 

 

先ほどとは比べ物にならない光が章吾の持つ魔本から放たれる。

そしてデモンは跳躍、大きく右へとステップを踏んで距離を詰める。

大してガッシュと清麿も動かなければなと。しかしその一瞬、ガッシュが言葉を漏らした。

 

 

「懐かしいのう、清麿」

 

「………」

 

 

蘇る。初めて魔物と戦った日の事を。

蘇る。必死に走ったあの時の事。

蘇る。守れなかった悔しさを。

蘇る。勝ったときの喜びを。

蘇る。何より、ガッシュと育んできた心を。

 

 

「ああ、お前がオレのパートナーで、本当によかったと思ってる」

 

「ウヌ、清麿は私の誇りだ」

 

 

清麿の表情が変わる。彼もまた、笑みを浮かべてデモン達を睨んだ。

良い表情だ。章吾とデモンは同じ考えを抱いた。章吾からしてみれば特に言える事だ。

最近の清麿は何かと元気がなかったように感じる。しかし今、目の前にいる彼は少なくとも全てのしがらみから解き放たれた様に思えた。

 

 

「勝つぞ、ガッシュ!」

 

「おう! 勝つぞ清麿!」

 

 

いつだってそうしてきた事だ。ガッシュもまた地面を蹴って左へ跳んだ。

そして次にデモンは左へ、ガッシュは右へ。ジグザグに跳んだ二人だが、距離は確実に縮まっていく。

そして両者が交差する一瞬、パートナー達もすでに言葉を口にしている所であった。

 

 

「「第9の術!」」

 

 

瞬間、ガッシュとデモンの瞳が重なり合う。

 

 

「「テオザケル!!」」

 

 

その視界に、黄色と赤紫の奔流が駆け巡った。

 

 

 





お疲れ様でした。と言う訳での一話でした。

金色のガッシュは完結してそこそこ時間も経ってますが、僕は今まで見てきた作品の中でガッシュが一番好きでございます。
と言う訳で、ちょっと最近気分を変えたかったので、ストックを削って更新する事にしました。


更新はストックの都合上一週間に一回を考えています。
まあ元々息抜きに書いていた物ですので、全12話以内、長さで言うとだいたい中編程度の形になるのかなと思います。
行間に関してはメモ帳で編集しているので、個人的に一番目が疲れない様に空白を開けているんですが、もしも見辛いと思ったら一度感想にでも書いてもらえれば改善しようかなとは思ってます。

次は来週の28日か29日を予定しています。
まあ中々遅めの更新になるかもしれませんが、これからもお付き合い頂ければなと思っています。

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