金色のガッシュ!! Episode RISING   作:ホシボシ

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デモンは戦闘以外では角と翼は隠していると設定しています。


第3話 魔神

 

 

 

「いやー、しかし驚いた。まさかメグさんが魔界の王を決める戦いに参加していたとは」

 

「フフ、結構強いのよ私たち。ね、ティオ」

 

「ええそうよ! 油断してると倒しちゃうんだから!」

 

 

自己紹介もまあまあに一同は清麿の部屋に集合する事に。

章吾はアイドルである恵に相当驚いていたみたいだが、近くにもっと驚いた相手がいた為、冷静さはすぐに取り戻す事はできた。

そう、章吾の隣でニコニコ笑っているサンディ。二人は幼馴染だったらしい。高校生になってそれぞれ別の道を進んだが、今でもたまに連絡は取り合っていた。

そんな二人がまさか両方とも魔本に選ばれるとは。世界は狭いと言うべきか。それともコレは運命だと宿命付ける物なのか。

サンディのパートナーであるマリーは前回の戦いには参加していない。

つまり、デモンと同じ立場にある物だと言うわけだ。

 

 

「魔界の、神」

 

「神子だけどね、正確には」

 

 

その言葉に反応する章吾、彼は時計を確認すると、そろそろだと告げる。

 

 

「カウントダウンスタートだ。10、9、8」

 

 

なんのカウントダウンなのか、その答えは時間にあると章吾は告げた。

察する清麿、丁度まもなく昨日デモンの魔本を燃やした時間に到達する。

そしてカウントダウンがゼロになった時、一同の前に信じられない光景が広がった。

 

 

「んなっ!」

 

「魔本が!」

 

 

章吾の前に光が迸ると、敗れたページが収束するようにして魔本が再生された。

それを掴む章吾、同時にそこへ消えた筈のデモンが文字通り具現化する。

つまり、消えた筈のデモンが魔本と共に再生されたという訳だ。前回の戦いでは絶対にありえなかった光景故、経験者である清麿たちはしばらく口を開いて固まっていた。

そうしていると小さくため息を漏らすデモン、周りを確認して、何となく事情を察した様だ。

 

 

「おかえりぃ、デモン」

 

「っ! マリー、お前も来てたのか」

 

「ええ、貴方がいなければわたしが説明していたわ」

 

 

軽く自己紹介を行うデモン。一通り終わった所で、ようやく説明を行うと章吾は告げる。

どうやらマリーも事情を知っているようだが、ココは章吾とデモンの二人が説明を行う様だ。

 

 

「あまり無意味に怖がらせたくないが、はっきり言って魔界の王を決める戦い以上に深刻な問題が起ころうとしている」

 

「それこそ、クリア並の問題だ」

 

「っ! クリアだと!?」

 

 

魔界の民を全て滅ぼそうとしたクリアの問題と並ぶ問題、ガッシュ達は喉を鳴らして汗を浮かべる。

そしてその前に、まず清麿たちにはデモン達の存在を知ってもらいたいと。

 

 

「前も少し話したが、デモンは魔物ではなく、神子と呼ばれる存在だ」

 

 

ガッシュ達が魔物の子供ならば、差し詰めデモンは魔神の子供と言えばいいか。

魔界の上層にある天界にて魔界に稀に大規模な干渉を行う存在である。

 

 

「聞いた事ないわよ、そんなの」

 

「16歳から学校でちょっと習うんだけどな。ただ、基本おれ達が本当に存在しているとは魔物の中でも限られた者しか知らない」

 

 

そして他言も禁じられている。しかしその片鱗ならば見られたと。

 

 

「魔界の王を決める戦い、その別名をお前らは知っているか」

 

「――ッ」

 

 

覚えがある。

あれはガッシュから貰った手紙に書いてあった文字。ガッシュと清麿は目を合わせ、その意味を今完全に理解する。

 

 

「神の試練……ッ!」

 

「そうだ、あの戦いを始めたのは、おれたち魔神の上層部だ」

 

「「「「!!」」」」

 

 

それが一つのシステムとして成り立っていた以上、運営者がいるとは思っていた。

しかしまさかそれが神と言う途方も無い存在だったとは。色々文句を言ってやりたい気持ちもあったが、いざそれを目の前にしてみると何も言えなくなる。

 

 

「そして、それを踏まえた上で聞いてほしい」

 

 

デモンは、ゆっくりと、しっかりと口にした。

 

 

「魔神達は、人間界の存在を不要とみなし、破壊する意向を示した」

 

「な、なんだとッ!?」

 

 

前回、クリアは王の特権にて魔界を滅ぼす計画を立てた。

その逆の事態が今起こっているのだ。ガッシュが王になり、魔界の神は一度集って話し合いの場を設けた。

そこで挙げられた議題は、魔界の事ではなく人間界の事についてだったのだ。

 

 

「カイロス、あの力に魔神達は大きな危機感を抱いた」

 

 

かつて『D』と呼ばれた少年が作った設計図を元に、改良を加えた史上最悪の殺戮兵器。

 

 

「人が作った物で人が殺される。浮き彫りになるのは人の業さ」

 

 

環境を汚染し、殺戮を繰り返す醜いサル、それが魔神達が抱いた人間の姿であった。

地球は美しい星だ、しかし人はそれさえも汚す。果たしてそんな生き物がこれから先の未来存在する価値があるのだろうか?

 

 

「無い、そう神々は判断した」

 

 

なにより、未知の力であるカイロスに恐れを抱いた。

人間は無駄に知識だけはつけていく。このままならば人間はやがて魔界へ続く道を発見してしまうのではないだろうか?

その時、人は必ず魔界を破壊する。魔界を侵略する。長き人の歴史がそれを物語っているではないか。

 

 

「今までは魔神達は人間をサルの進化体程度にしか考えていなかった」

 

 

しかしアンサー・トーカーの存在をはじめとした、今の人の歴史を見て考えを改めた。

その結果、危険な存在であると答えを出したのだ。放置しておけば魔界を脅かす脅威となろう。

だから、その前にゼロにしてしまう。

 

 

「なんだと! その者たちは間違っておるぞ! たとえ神でも清麿達が住む世界を滅ぼそう等と、許される筈が無い!!」

 

「そうだ、お前の言う通りだガッシュ。だからこそ、おれ達の母神であるユリアスは他の神を説得した」

 

「ユリアス?」

 

「ああ、母神ユリアス。神の中でもかなりの上位ランクに立つ存在さ。おれとマリーはユリアスの配下、まあ仕える存在って事だな。それを神子って言うんだ」

 

 

ユリアスは人間界と魔界の事を特に気に掛けてくれていたらしい。

そして清麿たちにとっても大きな意味を持つ存在であった。

 

 

「神の試練において、魔物と人間がパートナーになる様に決めたのは彼女なんだ」

 

 

本当はバトルロワイアルと言うやり方その物を否定したかったらしいが、流石にそこまでの力は無く。

だとすればと彼女はパートナー制度と、戦いの終了時に戦いの影響によって傷ついた物を全て修復する制度を設けた。

 

 

「魔神の多くは魔物は尊い存在と思っていても、人間はそうではないと思っている」

 

「だがユリアスは人間も尊く、大切にするべき存在だとずっと説いてきた」

 

 

そもそも神の試練が人間界で行われる事になったのも、元は戦いにおいて魔界が破壊されたくなかったからだ。

人間がいくら壊れようが魔界には関係ない、それが神の意思ではあったが、ユリアスはそれを必死に否定した。

彼女は信じていた。魔物の成長には人との関わりが必要だと、そしてそれが人にもまた良い影響を与えてくれる。

魔界と人間界、互いに尊重しあう関係こそが、なによりもの成長を促してくれるのだろうと。

 

 

「最後のレターセット……お手紙セットを授けたのもユリアスだ」

 

 

人と魔物の絆、ユリアスはそれを重宝して、他の神も特に彼女のやり方に口を出す事は無かった。

内心はどうかは知らないが。

 

 

「だが、今回はそうはいかなかった」

 

「ッ、何故だ?」

 

「神の一人である"ヘラー"と言う奴がいる。ソイツが、ユリアスの意見を異端者のうわ言と切り捨てやがった!」

 

 

ヘラーは言葉巧みに他の魔神を急かし、人間界が不要だという事を説いた。

そして次々に賛同者を増やし、人間を滅ぼす結論を打ち出したのだ。

それだけならばまだしも考えの甘いユリアスに神としての資格があるのかを説いた。その先に、ヘラーはユリアスを不要物と言い放つ。

 

 

「そして、ユリアスはその時決めたんだ」

 

 

彼女もまた力持つ者故に、拘り続けてきた神と言う座、そして変わると信じてきた幾千年。しかしもう、固定概念は間違っているのだと。

思えば、心持つ者に優劣などつけられるのだろうか? 魔神は確かに魔物よりも強い、しかし心の強さは果たしてどうなのか?

 

 

「ユリアスは、人間界を守る為に魔神と戦う決意を固めた」

 

 

頷くデモン、彼は自分を指し示す。

 

 

「おれやマリー、彼女の神子はユリアスに協力し、魔神を倒す仲間を集める事にしたんだ」

 

 

それこそがガッシュ達が人間界に送られた理由である。

 

 

「ユリアスは神の試練のシステムを引っ張り出し、アレンジを行ったんだ」

 

 

そう、再び人間界に魔物を送り、同じパートナーでペアを組ませる。

けれど今回戦うのは同じ参加者ではない。

 

 

「魔神だ」

 

「……ッ!」

 

 

魔界の神を倒す。そんな大それた事ができるのだろうか?

いや、しかし倒さなければならない。でなければ人間界は破壊され、人間だけでなく地球に存在する全ての生きとし生ける生命が根絶されてしまうのだから。

 

 

「でも、勝てるの……? 神様に。って言うか倒しちゃっていいわけ?」

 

 

自信無さげに俯くティオ。

魔物の子相手ならばまだ、と言う思いはあるが神相手となるとやはり感じる物も違ってくる。

しかしデモンは確信していた。それはマリーも同じ。

 

 

「全然いい、ぶっ倒してくれ。あと実力の差に関しては保障はできない――が、おれは少なくとも可能だと思っている」

 

 

ユリアスのほかにも協力してくれる神や、神子はいる。

そして何よりもガッシュ達自身の力で神を超える事も不可能ではないと。

考えてもみてほしい。ガッシュやキャンチョメははじめは落ちこぼれとして馬鹿にされてきたのだ。

しかし神の試練終盤において彼らは間違いなく魔物の中でも上位のランクに入ることができた。

それは彼ら自身の才であり、なにより人との関わりによって芽生えた心が齎したものだ。

 

 

「もしもガッシュが人間界を守りたいと願うなら、魔界の平和を守りたいと願うなら、神をも倒す力を手に入れるだろう」

 

 

その言葉に頷くガッシュとティオ。

 

 

「清麿や母上殿、恵達が住む世界は壊させぬぞ」

 

「ええ、絶対に私たちが守るわ」

 

「その意気だ。そしてもう一つ」

 

 

デモンはガッシュを示す。

 

 

「バオウ・ザケルガ。おれが見た限り、アレはそもそもはじめから神の力だろう」

 

「ウヌ? バオウが?」

 

「ああ。と言うより、バオウ自身が神であるとおれは見ている」

 

 

いったんココで話を戻し、神子の説明をするとデモンは言った。

神子はユリアスの力の加護を受けた神の子供であるが、その元を辿れば魔物の子行き着く。

 

 

「おれ達の……つまり神子の祖先、始祖は魔界で不憫な死を遂げた魔物の子を、ユリアスが自分の力を与え神として転生させたのが始まりだった」

 

 

そしてその後も輪廻転生を繰り返し永遠にその力を残し続ける。

 

 

「前雷神もまた、ガッシュの親父が王になった際に死に、その亡骸からおれが生まれた」

 

 

そしてデモンはベルの家系に、つまりガッシュとゼオンに雷撃の力を与え見守ってきたと。

それはデモンにだけに言えた事ではない、他の神子もさまざまな魔物に力の源を与えて来た。

 

 

「ちなみにわたしは愛の力をティオにあげたわ」

 

「じゃあ、マリーが私の家の守護神って事?」

 

「ま、そうなるってね。もちろん掛け持つ場合もあるけど。コルルとか」

 

 

こうして神子は魔物に力の源を与えていくのだが、その際にデモンは一つの違和感を覚えたという。

それがバオウ・ザケルガの存在だった。

 

 

「正確には『バオウ』だ。アレは、おれがザケルを与える前にガッシュの体内にバオウと言う確立した存在として存在できていた」

 

 

バオウ・ザケルガではなく、バオウがいたのだ。

そしてその際にデモンがガッシュに電撃の力を与えた事で『バオウ』は『バオウ・ザケルガ』となった。

これはガッシュの父が授けた技だ、しかしそうであったならば、なお更はじめが『バオウ』なのはおかしい。

もしもガッシュの父が『バオウ・ザケルガ』をガッシュに授けたならばガッシュははじめから『バオウ・ザケルガ』を覚えていなければならないのだ。

にも関わらずガッシュが覚えていたのは『バオウ』の力のみ。

 

 

「ゲシュタルト崩壊してきそうな話だな……」

 

「分かりやすく言えば、雷の力を持たぬバオウがガッシュの中にあった。無属性の龍がな」

 

 

デモンその時思った。

もしかするとガッシュの父親はバオウ・ザケルガをガッシュに継がせたと思っていたが、実際はバオウと言う存在だけを移したのではないかと。

バオウは確立した存在。デモンがたまたま雷神であった為に電気属性であったが、本来は無属性なのではないかと。

それはバオウが独立した存在である事を示していた。バオウ・ザケルガと言う呪文は存在せず、バオウは与えられた者の属性によって姿を変えるのではないかと。

 

 

「おれがその確信を持ったのは、ファウードでの事だ」

 

 

ガッシュはゼオンから力を借りて本来のバオウを放った。

その力は強大をも通り越し、まさに神の力と言うのがふさわしい代物だったではないか。

ガッシュの父は仮にも千年前には子供だった。パムーンやレイラと同じ土俵で戦った存在でしかない。

確かに石のゴーレンなど、あの時代には相当の猛者も多かった。とはいえ、いくらなんでもあの力は異常だ。

それはバオウが外付けの力である事の証明ではないか。それをはじめデモンから聞いた章吾は、こう思ったという。

 

 

「ゲームで言うなら、バオウはレベルアップで覚える技ではなく、イベントで手に入れる力なんじゃないかってさ」

 

 

つまり一歩間違えていれば、ガッシュの父以外がバオウを手に入れていたかもしれない。

それはデモンも思った事、ガッシュの父は何らかの方法でバオウを授かり、その力を駆使する事で王への道を切り開いたのではないかと。

 

 

「清麿、ガッシュ。バオウの声を聞いたことはないか?」

 

「ウヌ。そう言えば、バオウが破壊を求める声を聞いた事があるのだ」

 

「やはりそうか。術その物の異端さ、そして術が一つの自我を持ち言葉を話す。間違いなく、バオウは神その物だ」

 

 

何らかの形でバオウが術として組み込まれたと。

 

 

「そう言えば、一度前にバオウ・ザケルガが黒く染まったことがある」

 

「黒く?」

 

「ああ、ブラゴの術と合わさって」

 

「……やはりそうか。ならば間違いないな」

 

 

デモンは改めて確信を持つ。

 

 

「おれは、ユリアスがベルの家系にバオウを授けたと思っている」

 

「ユリアスが?」

 

「ああ、正確にはバオウと言う神を術にして――って事だな」

 

 

ガッシュの家系。

つまりベルの家系は歴代でもそれなりの王を生み出している家系であり(一番は竜族ではあるが)、当然その中で魔神の存在も把握していた。

そしてその最もたる信仰をユリアスに注ぎ、ユリアスもまたベルの家系には特別な思いを抱いていたという。

 

 

「事実、ユリアスはしばらくガッシュと交流があったみたいだからな」

 

「ヌ? 私がか?」

 

「ああ、ガッシュがユノと暮らしていた場所は、ユリアス信仰が特に根深く、彼女に関連した場所だったからな」

 

 

所謂パワースポットとでも言えばいいか。デモンも多くは知らないが、ユリアスも

かつては魔物だった時期があり、ガッシュが住んでいた場所に住んでいたとか。

もちろんガッシュの父もそれを知っていて、ガッシュをその地に送ったのだろう。

そしてユリアスは使用人であるユノからの虐待を受けているガッシュを不憫に思い、交流を図ったとか。

 

 

「それも、母として」

 

「母上……?」

 

 

現在ガッシュは母と共に暮らしている。

かつ、ゼオンから奪われたかつての記憶を取り戻しており、そこにユリアスと共に過ごした日々は塗りつぶされた。

 

 

「ユリアスはもともと、ガッシュが記憶を取り戻せば、自らと過ごした記憶が消えると設定していたみたいだからな」

 

「そういえば、オレが魔界に行った時、何となくそんな話をしたような」

 

 

刹那、一瞬ガッシュの記憶が蘇る。

真実の泉にてワイズマンと自分、どちらが王を決める戦いに相応しいのかを確かめる時、ガッシュには確かに王宮から離れた地で母に見送られる記憶があった。

しかしそれは本来ならばありえない話だ。ガッシュは母と離れ離れになっていたのだから、王を決める戦いが終わるまで一緒には暮らせなかった。

では、あの母の記憶は――? ガッシュを見送った母は誰だったのか。つまりそういう話である。

 

 

「そうか……あれが、ユリアス殿だったのか」

 

 

かみ締める様に呟くガッシュの瞳からは一筋の涙がこぼれた。

記憶はユリアス自身の意思により消され、今は限りなく薄れている。しかしガッシュはその温かさをまだ心に記憶していた。

ユリアスが自分を哀れみ、仮初とは言え母として接してくれたことには感謝の念を抱くと言うもの。

 

 

「そう、そしてそれを踏まえた上で、魔神はガッシュのバオウを狙っている」

 

「ガッシュのバオウを!?」

 

「ああ、おそらく殺して奪い取る気だったんだろう。と言うより既に魔神ヘラーはガッシュを殺すつもりで魔界に降り立った」

 

 

バオウの手に入れ、人間界に攻め込む。それが魔神の考えだった。

 

 

「それに今回の計画にガッシュは邪魔だったからな」

 

 

やさしい王様であるガッシュが人間界を消す事を了承する筈が無い。

であるならば、いっその事何か適当な理由をつけてガッシュを殺してしまえば話は早いのではないかと。

そうすればバオウも手に入り、人間界への進撃を邪魔する脅威もいなくなる。

 

 

「ふざけてる。イカれてるとしか言いようが無い」

 

「魔神は結局、己の目的のためならば魔物の命も道具としてしか見ちゃいないんだ」

 

 

今まではユリアスの意志で何とか均衡を保っていたが、時間が経つにつれて他の魔神は力を上げ、ユリアスを恐れぬ様になってきた。

このままならば驕りたかぶる魔神共に、魔界と人間界は滅茶苦茶にされてしまう。

 

 

「だから頼む! おれ達と共に、魔神を倒そう!」

 

「神を、倒す――ッ!」

 

「ああ、奴らは絶対に放置できない!」

 

 

魔神はカイロスを恐れると共に興味を持った。

もしも魔神がカイロスを手に入れるか、何らかの方法で生産する事を覚えれば、そこに魔界の科学が加わりとんでもない事になる。

 

 

「現在、人間界は正体不明の兵器をカイロスと呼称しているが、実際はアンサー・トーカーの力で作られた機械を指していると思ってくれていい」

 

「!」

 

「心当たりがあるだろう?」

 

 

未来の清麿はメカバルカンを作った。

それは彼自身の頭脳ももちろん関係しているが、なによりもアンサー・トーカーの力があったから成し得られた事だ。

そして結局メカバルカンは独自のルートを歩み、清麿達の前に脅威して降り立った。

 

 

「いわば、あれが最初のカイロスだ」

 

 

もしもこのまま魔神がそれを伸ばしていけば、やがてはファウードに匹敵する兵器が世に現れるかもしれない。

それだけは絶対に阻止しなければ。色々と人間界の問題もあるが、とにかくはまず魔神を倒す事を中心に考えなければ魔界と人間界の未来は無い。

 

 

「現在、続々と魔物達が人間界にやってきている」

 

 

最終的にその数は全部で100。

千年前の魔物も含んでいるから以前の王を決める戦いと同じメンバーではないが、同じ数の魔物が再び人間とペアになっているだろうと。

そしてその100人で協力し、魔神を倒す。それがユリアスの意思であるとデモンは訴えた。

 

 

「先ほどの通りだが、これはあくまでも神の試練の形を模しただけ。だから魔本を燃やされても一日経てば元に戻ってパートナーの近くに現れる」

 

 

だから今回はお互いに本を燃やし合っても意味は無い。

これで少しは無意味な裏切りや争いが無くなってくれればいいのだが。

 

 

「ちょっと待ってくれ。だったら現在魔界はどうなっているんだ?」

 

「神の試練が進んだ時と同じだ。全ての民が魂の状態になっている」

 

 

ユリアスが神の力でそうさせたのだと言う。

コレは魔界の民を守るためでもある。いくら神とて魂だけの相手は殺せない。

王の特権で存在そのものを消すしかないのだ。これで魔神が悪戯に魔界に危害を加える事もないだろう。

 

 

「だがコレには問題がある」

 

「問題?」

 

「ああ、ユリアスだけでは魂の管理には限界があった」

 

 

魔界に存在する全ての魂を維持し続けるのは無理だった。

過去にはルールと言う事で多くの神が彼女に協力したが、今はとてもじゃないが微弱な力で魂を支えるのは限度があったのだ。

 

 

「そこでおれ達はコルルに協力を依頼したんだ」

 

「え? コルルに!?」

 

「そう、魔物の力を何倍にも増幅させる魔鏡を彼女に与え、適応保護の力を持つシン・ライフォジオを魔界全体に掛けた」

 

 

命を守るライフォジオの効果によって魂だけになっても魔界の民は死ぬことは無い。

そしてその効果は魔鏡の力によって永続的に発動され続ける。

そう、発動者のコルルが死ぬまでは。

 

 

「おれ達の勝利条件は人間界不要派の魔神を全て倒す事」

 

「そして、敗北条件は100人の魔物の子が殺される事。デモン達神子が全滅する事、そして何よりもコルルが死ぬ事だ」

 

 

もしもコルルが死ねば魔界に存在する魂は自己崩壊を始めて消滅してしまうだろう。

そして魔神に対抗できる力が消え失せた時、自分達の負けは決まり人間界は滅ぼされ、魔界もまた魔神の絶対政権が始まる。

 

 

「ユリアスは今どこに?」

 

「その肉体と精神を分割させ、おれ達神子の中にいる」

 

 

だからこそ神子が全滅すればユリアスもまた死に、天界を保つ者がいなくなる。

 

 

「ガッシュ、ティオ。お前達をまた辛い戦いに巻き込んでしまう事は謝罪する」

 

 

頭を下げるデモン。しかしどうしても人間界をこのまま見捨てる訳にはいかなかった。

神子だけでは魔神や、その力によって生み出されるキラーマシーンである使徒には勝てない。

ならばこの今、現代と言う時間に戦った魔物達を、まだ成長できる可能性を秘めている者達と手を取り合いたかった。

 

 

「ウヌ、構わぬぞデモン」

 

 

マントを翻し、ガッシュは即答を示す。その目には強い意志が感じられた。

話は分かった、人間界を破壊しようとたくらむ魔神を許す訳にはいかない。

たとえその存在が神と言う上位の物であったとしても、やさしい王を目指した自分が歩む道はただ一つ。

 

 

「神を、倒す!」

 

「ええ、私もやるわ。恵は絶対に殺させなんかしないんだから!」

 

 

きっとキャンチョメやウマゴン達も協力してくれると二人は言った。

みんなで戦えばどんな相手だって、どんな壁だって乗り越えられる。

 

 

「そうだろう? 清麿」

 

「そうよね、恵!」

 

 

二人の目は真っ直ぐにパートナーを見ている。だから彼らも真っ直ぐにガッシュ達を見た。

 

 

「ああ、そうだなガッシュ」

 

「そうね、ティオ」

 

 

頷きあう彼らを見てデモンは大きな希望を覚えた。

やはり彼らならば魔界の未来を明るく照らしてくれるのかもしれない。

そして腕を組んでウンウンと頷いているサンディ。彼女もだいたいの事情は理解したと。

これは章吾にも言える事だが、神子のパートナーに選ばれ、加えて協力しなければ世界が終わる状況。

であるならば答えは一つだ。

 

 

「よし、じゃあ明日は皆で遊園地に行こ!」

 

「「「「「………」」」」」

 

 

は?

 

 

「章吾? もしかしてサンディって……」

 

「ああ、俺も今気づいたが馬鹿なのかもしれない」

 

「だー! もう! なんでそうなるの!」

 

 

頬を膨らませて怒りを示すサンディ。

彼女は今までの話を聴いた上で、明日は遊びに行こうと告げたのだ。

楽観的はいけないが、かと言って気を張りすぎるのも体に毒だ。神と言う存在に気を取られすぎていては、いつもの調子も出せまいて。

それにいくら半年近くと言えど毎日一緒にいたガッシュやティオと離れて戦闘の感覚も本調子ではないだろう。

それに交流を図ると言う意味でも、せっかくの休日は楽しむべきだ。

 

 

「恵は土日お休みだしね」

 

 

サンディはウインクを一つ。

マネージャーの娘ゆえ、彼女のスケジュールは完璧に把握している。

 

 

「賛成ーッ! わたし遊園地行った事ないの!」

 

 

ロリポップキャンディを咥えながらマリーが手を挙げた。

その緊張感の無い雰囲気に思わず章吾は笑みを漏らす。

 

 

「なかなか考えてるんだな、サンディ」

 

「あたりまえだっての! ねえ、行こうよ清麿もー!」

 

「い、いやしかしだな!」

 

 

決意を固めてハイ遊園地!

とは中々気分が――

 

 

「ウヌ! いい考えだのサンディ! 私は賛成だぞ!」

 

「だはぁ! って、ガーッシュ!!」

 

「清麿、よいではないか! 気分転換は大事なのだぞ!」

 

 

遊園地、どうやらお子様のセンサーにはそれが大いに引っかかったようで。

 

 

「おお! いいじゃん、いいじゃん! おれも人間界の遊園地気になってたんだよ!」

 

「さ、サンディが行きたいって言うならまあいいんじゃない?」

 

 

ガッシュはもちろんティオも、見た目が中学生くらいのデモンとマリーも身を乗り出してサンディの意見に食いついた。

さらに言ってしまえば発案者のサンディと、彼女の意見に乗り気の章吾、反対派は今のところ清麿だけである。

そこでニヤリと笑うティオ、なにやら思いついたようだ。

 

 

「いいじゃない、清麿。恵とデートできるのよ?」

 

「なっ!」

 

「前に言っていたじゃない、また来ようねって!」

 

「そ、それはそうだが!」

 

 

頬を染める清麿。

普段表情を崩さない彼がうろたえるのは面白い、章吾とサンディもニヤニヤと笑ってチクチク攻撃を。

 

 

「おいサンディさん、聞きましたかね? "また"来ようねだってよ、"また"って!」

 

「イエース! コレ前にデートした事あるって言ってる様なモンだよね」

 

「い、いやお前らアレはガッシュとティオも一緒に!」

 

「おーおー、既に家族ぐるみの付き合いな訳だな」

 

「いやいや章吾、コレは既に一つの家族として完成――」

 

「だああああ! うるせーッ! からかうなー!!」

 

「「ウヒョヒョヒョヒョ!」」

 

 

幼馴染と言う事でコンビネーションが抜群の二人。さらにガッシュが追い討ちを。

 

 

「良いではないか、清麿も最近は恵恵とうるさかったではないか」

 

「お、おおおお!? ざざざけるぅう!」

 

「「アイィイイイイイン!!」」

 

 

ガッシュを黙らせる為にザケルを放つ清麿。

それは目の前にいた章吾とデモンに命中すると、二人を床のほうへノックアウトする。

理不尽じゃないかこれ? 理不尽だよなコレ。章吾たちは目で訴えるが、清麿は顔を赤くして呼吸を荒げているところだった。

 

 

「め、恵さん。今のは気にしないで――」

 

 

チラリと恵を見る清麿。

すると、そこには顔を真っ赤にして俯いている恵が。

 

 

「き、清麿くん。今のは……」

 

「あ……う」

 

 

どうしていいか分からずチラチラと視線を交差しあうだけで黙り込む二人。

そうしている間にも話は進んでいき、結局明日は遊園地に行く事に。清麿も今の状況では強く言う事ができず、流れに流され諦める。

 

 

「よし決まりね! じゃあこっからは真面目な話!」

 

 

サンディはコロコロと変わる表情で一同に今までの戦いの歴史が知りたいと。

いくら詳しく話を聞いたからといって、デモンやマリーも天界から様子を伺っていただけにしか過ぎない。

さらにデモンはガッシュ、マリーはティオの守護神として力を分け与えたが、何もその人のみに、と言うわけではない。

デモンはゼオン、マリーはコルルと、掛け持ちしている場合もあるのだ。ちょいちょいでそちらを観察し、視線を外していた為、ガッシュ達の全ての戦いを知っている訳ではない。

 

 

「俺も興味あるな。聞かせてくれよ、今までの戦いを」

 

「ウヌ、かまわぬのだ。一番初めに出会った魔物はハイドと言う風を使う者であった」

 

 

こうしてガッシュや清麿から今までの戦いを知る事になった。

ゼオンから記憶を奪われたガッシュは、清麿と出会い数々の魔物達と邂逅を重ね成長していった。

ガッシュは魔界でもおちこぼれとして有名で、ガッシュならば倒せるだろうと彼を狙った魔物は多い。

しかしガッシュと清麿のコンビネーションもあってか、いつからはガッシュを狙い日本に行った魔物が戻ってくる事は無いとまで言わしめたほど。

そして次は石版に封印されていた千年前の魔物達との戦い。心を操るゾフィスの脅威にガッシュ達は仲間達と共に立ち向かった。

 

 

「それだけではないぞ!」

 

 

魔鏡を巡りグリザとの死闘。狭間の世界を支配するマエストロとの戦い。『本』を中心に大きな戦いとなった事件、通称魔界のブックマーク。

101番目の魔物との戦い、大量に現れたメカバルカンとの出会いと別れ。

 

 

「改めて聞くと本当に凄いなお前」

 

「ウヌ! がんばったのだ!」

 

それを今となっては笑って話すガッシュの度胸にデモンは感服である。

そして人間界に現れた巨大な兵器ファウードでの戦い。

ガッシュは双子の兄であるゼオンと決着をつけ、バオウザケルガの真の姿を引き出す事ができた。

 

 

「そのときのバオウの声を聞いたんだな?」

 

「ウヌ。全てを壊すと、憎しみの声が聞こえてきたのだ」

 

 

話を続けるガッシュと、いったん距離を置いてマリーの隣に移動するデモン。

二人はガッシュや清麿の声に紛れ込ませるように囁きを交わす。

 

 

「やはり、バオウの正体は破壊神と見て間違いないな」

 

「かもね。それがガッシュの父親の術になった、と」

 

「そういえば現在は破壊神の席は埋まっているんだろう? だとすれば、ソイツが今回の事態の黒幕かもしれない」

 

「考えられるのは破壊神の座にいたバオウを引き摺り下ろし、そして神の地位に納まった後に支配を行使しようとした」

 

「その邪魔になるユリアスを消そうとした訳か。クソ、神が聞いて呆れるぜ。結局力を求めた強欲な野郎って事じゃねーか」

 

 

唸るデモンの前でガッシュは次の話を。

ファウードと言う脅威が去ったかと思えば、ガッシュ達の前には新たなる脅威が降り立った。

それこそがクリア・ノートと言う少年。彼は自らを核兵器と称し、命を滅ぼす役目を担ったと言っていた。

魔界を滅ぼそうとするクリアとガッシュは戦い、最後の最後でかつての仲間達と協力し、クリアを打ち倒したのだった。

 

 

「かなり苦労してきたんだねー」

 

「ウヌ。だが、その中で多くの友達に出会えたことは、掛け替えの無い財産であったぞ」

 

「そっか……! えらいね! うん、えらいえらい! えらいぞ君はーッ!」

 

 

ガッシュを撫でるサンディ。

気づけばもういい時間になっていた。外は暗く、明日の為に一同は分かれる事に。

恵とティオ、サンディとマリーは駅近くのホテルに泊まろうと。しかしココで問題が一つ、いつもならばモチノキ程の町ならば予約せずにホテルが取れるのだが――

 

 

「え? 駄目?」

 

「うん……何でもモチノキ湖でワカサギ祭りがあるからって」

 

「な、なんじゃそりゃ」

 

「………」(この町湖まであるのかよ)

 

 

清麿ですら知らぬ新事実。

丁度明日明後日とモチノキワカサギ祭りが開催されるらしく、各地の猛者達が集結するもんでどこもホテルが埋まっているらしい。

どんな祭りだよ、とは思うのだが想像以上に楽しみにしている人は多いらしく周囲のホテルも全てが埋まっている状態だった。

こんな事ならば事前に予約しておくべきだった、サンディと恵は顔を見合わせて大きくため息を。

 

 

「どうしよっか、恵ぃ」

 

「ウヌ! だったらココに泊まればいいのだ!」

 

「「「――――」」」

 

 

時が止まった。

瞬間、汗を浮かべ視線を交差させながら頷き合う章吾とサンディ。

直感と考察を瞬時に張り巡らせ、二人は再び言葉交わさぬ作戦会議を。

刹那、二人は了解しあったように頷きあうと、まずはサンディが動き出す。

 

 

「あ、あぁあぁ! じゃあアタシは章吾の家に泊まろうかな! 清麿の家に集中しちゃ迷惑かかるし!」

 

「し、仕方ないなサンディ! まあじゃあ今日はそういう事で――」

 

「えー、わたしティオと一緒に寝た――」

 

 

風を切る音と共にサンディの手が消える。

直後、シュパーン! と気持ちの良い音がしてマリーの首に衝撃が。

 

 

「―――」

 

 

ガクッ! とマリーは首を折って無言になった。

 

 

「あ、あーあ! マリーってばもうオネムなんだからぁ! なはは!」

 

 

おねむ、そうは言うがマリーは目が開いている。白目である。

 

 

「え? いや、嘘、それ気絶してるだけじゃ……ってか今サンディがマリーを――」

 

 

シュパーン! と、今度はデモンが章吾にもたれかかる。

 

 

「あ……あーあ! デモンも寝ちゃってぇ! うははは!」

 

「と、とにかく二人はもう眠いみたいだからアタシ達は帰るわ!」

 

「よ、よぅし! 行くかサンディ!」

 

 

ビュンと音が鳴るほどのスピードで清麿の家を出て行く二人と、そんな彼らに抱えられたデモン達。

まあなんとわざとらしい事なのか、それをスピードとテンポで誤魔化したのだろう。

ガッシュとティオは本気でデモンが眠っていると思っている様だが、清麿と恵はそれぞれ章吾とサンディのチョップで沈んだ二人を目にしっかりと焼き付けていた。

と言うか仮にも魔神である二人を手刀で気絶させるって凄くないか? とは思いつつ、この状況の問題に清麿は汗を浮かべる。

 

 

「え、えっと……」

 

 

悪い、とは思いつつ他に泊まる所が無いのだから仕方ない。結局ティオと恵は清麿の家に泊まる事に。いくらお子様二人がいるとは言え、高校生の男女が一つ屋根の下に泊まるのはどうなのかとも思ったが――

 

 

「あら、いいじゃない。使ってない部屋あるし」

 

 

と、華の反応は至って普通の物だった。

むしろ――

 

 

「覚えておいてね恵さん。コレ、清麿の好きな味なのよ」

 

 

だとか。

 

 

「清麿、私もう少しでおばあちゃんになるのかしら」

 

「なるか!」

 

 

等と母親までからかってくる始末。

きっと清麿の昔を知っている分、色々な表情が見たくてこうしているんだろう。

章吾に関しては――、まあ普通に楽しんでいるだけなのかもしれないが。

とにかくと食事が終わり、しばらく四人は部屋の中で談笑をする事に。別れていた間お互いが何をしていたのかを話し合った。

たった半年、されど半年、話せば話すほどお互いが色々な経験をしているのだと伝わってくる。

変わらないが変わっている。そんな思いを抱きながら、四人は色々な事を話し合った。そうしている内に夜も深くなっていく訳で。

既にティオやガッシュは気を抜いたら眠ってしまいそうになっている。明日は章吾たちが時間になれば迎えにくるらしく、そろそろ眠る事にした。

 

しかしちょっとした問題が一つ。

清麿はイギリスにいる父から本を度々取り寄せている。それだけ本を置く場所も必要になっており、今はもうあいている部屋が書斎くらいしかない。

ほこりっぽい部屋に客人を眠らせる訳にもいかず、結局書斎のほうで清麿とガッシュが眠る事に。

 

 

「じゃあ恵さん、ティオ。おやすみ」

 

「ウヌ! おやすみなのだ~!」

 

「ええ、おやすみなさいガッシュ、清麿。また明日ね!」

 

「お、おやすみガッシュくん。清麿くん」

 

 

部屋を出て行く二人を見送る恵たち。

 

 

「私達も寝ましょう恵」

 

 

パジャマに着替えた恵とティオ。歯も磨いたし、談笑中に交代でお風呂にも入った。

 

 

「え、ええ。そうね……」

 

「っ? どうしたの恵? なんだか顔が赤いわよ」

 

「えっ!? あ、いや……! そ、そんな事無いわよ!」

 

「なら、いいけど……」

 

 

ベッドに入るティオ。

しかし恵は躊躇したようにその場に立ち尽くしている。顔はやはり赤く、ジッとベッドを見つめているではないか。

流石におかしい、はてと首をひねるティオ。何か理由が――

 

 

「あ! ははーん!」

 

「ど、どうしたのティオ?」

 

「恵ってば、緊張してるのね!」

 

「え!?」

 

 

それはそうだ、よく考えてみればココは清麿のベッドなのだから。

布団やシーツに鼻を当ててクンクンと鼻を鳴らすティオ、言われてみれば清麿の匂いがするじゃないか。

 

 

「ちょ、ちょっと止めなさいティオ。みっともないわよ……!」

 

「えー、いいじゃない。良い匂いなんだもの! うふふ、恵も嗅いでみれば?」

 

「そ、そんな事できる訳無いでしょ!」

 

「はいはい。もう、照れるのはいいけど早く寝ましょうよ!」

 

「む、むぅ……!」

 

 

確かにこのまま立っていても何にもならない。

観念した恵は部屋の明かりを消すと恐る恐るベッドの中へ。

意識すればするほど彼のベッドで、彼が使っている布団で包まれている感覚が強くなっていく。

 

 

「どう? 感想は?」

 

「ティオぉ……私今日眠れないかも」

 

「うふふ、駄目よ。明日は遊園地なんだからね!」

 

 

しかしこうしてみると何だ、ティオと眠るのも久しぶりだ。

彼女達は手を繋いで今一度再会を喜び合う。

 

 

「やっぱり、ティオが横にいてくれると落ち着く」

 

「私も。あのね、この戦いが終わったらきっとユリアスがいつでも魔界と人間界を行き来できる様にしてくれると思うの」

 

「そうかなぁ?」

 

「うん、お願いしてみるわ」

 

「だと、いいんだけど……」

 

 

そうすればまたいつでも会える。

ずっと友達でいられる。ティオはそう言って笑った。

 

 

「私がいれば、清麿とも会いやすくなるでしょ?」

 

「も、もう! 余計な事まで考えて!」

 

「あら? 余計な事なの?」

 

「そ、それは……」

 

 

モゴモゴと言葉を詰まらせる恵、ティオはやれやれと苦笑する。

 

 

「いい加減素直になればいいのに」

 

「てぃ、ティオにだけは言われたくないわよ!」

 

「わっ! 私はいいでしょ別に! 今は恵の話なの!」

 

 

好きなんでしょう? ティオが放つその言葉が恵の胸をチクリと刺す。

 

 

「………」

 

「恵、私達の間に隠し事は無し!」

 

 

観念した様に頷く恵。

部屋は暗いため、ティオはそれを見ることはないが、なんとなく雰囲気で察したようだ。

恵は小さな声で済むようにティオに体を近づけ、声の音量を落として会話を続ける。

 

 

「うん。すき……」

 

「だったら告白しちゃえばいいのに。清麿も恵の事気になってるみたいじゃない」

 

「で、でもぉ……」

 

「なにが『でもぉ』よ、恵はもっとガツガツした肉食系の筈でしょ! 年下相手に何ビビッてんの! 清麿くらいとっとと食っちゃいなさい!」

 

「誤解よ誤解! 人を野獣みたいに言わないで!」

 

 

――怖い、と、恵は小さな声で言う。もしも告白してこのままの関係でいられなくなったらどうしようと。

確かに清麿のほうも少しは気にかけてくれる様だが、だからと言って告白が絶対成功する保証なんて無い。

もしも告白が失敗すれば、もう元の関係には戻れない。戻れたとしても、自分はそこから先にいける事を望んでいたのだからやっぱり寂しい。

 

 

「それに、ティオがいなくなって、なんだか壁みたいなのができた気がして」

 

 

アイドルと一般人、自分は気にしていないけど彼はやっぱり気にしているみたい。

それに自分も気にしていないとはいえ、果たして世間は受け入れてくれるのかどうか。

 

 

「もう、どうしていいか分からなくて」

 

「やれやれ、これは重症ね。サンディも言ってたわよ? 最近の恵はよくため息をついているって」

 

「もう、あの娘そんな事まで……」

 

 

でもティオだって分かってくれる筈だ、恵はそう思っている。

 

 

「ガッシュ君に明日告白しろって言われても、できないでしょ?」

 

「zzzzzz……むにゃむにゃ」

 

「もう! 寝たふりしないで!」

 

「と、ととととにかくっ! 恵はもっと胸を張ってもいいと思うわよ?」

 

 

ティオは逃げる様に恵に背を向けると、おやすみと一言。

どうやら自分もそっくりそのまま言っている言葉がブーメランしてきそうなので、ばつが悪くなってしまったらしい。

しかし最後に彼女は一言恵にアドバイスを。

 

 

「今は私以外誰もいないんだし、清麿の布団を堪能しておけば?」

 

「へ、変な事言わないでよ!」

 

「にしし、じゃあおやすみなさい恵」

 

「……おやすみ」

 

 

そう言って数分、ティオはすぐにリズム良く寝息をたてはじめる。

どうやら眠かったのは本当らしい。まあ当然か、普段眠っている時間よりも今日は遅い。

こういう所は変わっていないんだと恵は微笑みつつ、ふと先ほどの言葉を思い出してみる。

 

 

「………」

 

 

キョロキョロと辺りを見回す恵。暗闇にも目は少し慣れ、周りに誰もいない事を確認する。

すると恵は布団を顔の半分まで、持ち上げ、大きく息を吸ってみた。

鼻から抜ける空気の中に、彼の温かな匂いが混じっているのを感じた。

 

 

「……ん」

 

 

なんだか凄く変態っぽい。

恵は顔を赤くしながらも速攻で軽い自己嫌悪に陥ると、すぐに布団から顔を離す。

しかしだ、確かに彼の存在を感じたのは確かなもので、彼女の中にもっと求めたいと思う心が湧き上がってしまった。

 

 

(もう、どうにでもなっちゃえ!)

 

 

割り切った恵はもぞもぞと体を丸めてベッドの中に入れる。

するとどうだ? まるで清麿に抱きしめられている感覚に陥ったではないか。

心臓は爆発しそうな程大きな音を立て、彼女の脳に彼の笑顔がよぎる。

 

 

「清麿くん……清麿くん……!」

 

 

小さな声で彼の名前を呼ぶ。

その名を口にするたびに体は熱くなり、同時に心臓の鼓動はより大きく早くなっていく。

抱きしめてほしい、頭を撫でてほしい、そんな欲望が芽生えるのを彼女は彼の名をつぶやきながら感じていた。

 

 

「大好き……ッ!」

 

 

しかし、同時にそれらの感情に匹敵する切なさもこみ上げてくる。

気づけば彼女の目からは一筋の涙が零れていた。

どうかこの言葉が届いていてほしい。少しずつ離れていく距離を、彼女はしっかりと感じていたのだから。

 

 

 

 

そして、某所。

そこに一人の女が立っていた。

しかしそれを人間だと思う者はどれだけいるのだろうか?

カールした金色の髪、それはいいとしてもその顔、その体に見える皮膚の色は紫である。

さらに顔の右上半分が文字通り花束になっており、左にある目は人間の物とは違い、赤い鋭い物が三つ三角形にならんでいた。

そして顔のサイドには蜘蛛の足の様な棘が生えており、服装も独特で奇抜な事から一切の人らしさは感じられなかった。

 

 

「感じる。感じるぞ。忌々しいユリアスの子。そして魔界の民の気配だ」

 

 

茶色いルージュに彩られた唇が三日月の様に裂ける。

彼女の名はヘラー。デモンが言っていた魔神であり、人間界を滅ぼそうと画策する邪悪なる存在である。

 

 

「きなさい、我が使徒マジル」

 

 

ヘラーの手に宿るドス黒い光、それを地面に放ると、光が姿を変えて蜘蛛人間と言うに相応しい使途が現れる。

ギョロリと闇の中で目が赤く光っている。パッと見た容姿は人間の子供と変わりないが、衣装や帽子に蜘蛛を強くイメージした装飾が施されていた。

 

 

「ふむ、そのまま殺しに向かわせるのもいいが、私も狩りを楽しみたい」

 

 

少し変わった趣向を凝らすか。

彼女は使徒マジルの頭を掴むと、そこへ何かを流し込んでいる様だった。

なにやら相当力を使っている様子。さらに彼女は人間界に降り立つ直前、レイラ、ビクトリーム、パムーンの最大呪文をモロに受けてしまっている。

肉体の損傷は激しく、いくら神とは言えどまだ完全体にはなれない。

 

 

「これで良い。お前に質の高い擬似的感情を与えてやった」

 

 

マジルを蹴り飛ばすヘラー、その様子を見るに生み出した使徒には欠片とて愛情を注いではいないらしい。

自分の為に動く道具、それが魔神が使徒に抱く率直な感想なのだ。そして彼女はマジルを転送させると再び顎に手をついてため息を。

この世界は臭い。文字通り醜悪な臭いに満ち満ちている。それを発生させるのが人間だと言うのだから、やはり生きるに値しない生き物だ。

 

 

「全て殺す。だが、せめて私を楽しませてもらわねば」

 

 

ただ消すなんて美学が許さない。

楽しんで滅ぼさなければ。ヘラーは歪な笑みを浮かべると、深い闇を抱えた目を光らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。インターホンと共に姿を見せたのは章吾たちだ。

予定より少し早めに来た四人、清麿達はそれぞれ着替えている途中であった。

男性陣と女性陣、それぞれ別れて用意を手伝う事に。

 

 

「なんだよ、メグさん達とは一緒に寝なかったのか」

 

「ええい、寝る訳ないだろ!」

 

 

着替えながら怒鳴る清麿を椅子に座った章吾はつまらなさそうな目で見ている。

 

 

「チッ、つまんねー……」

 

「つまらなくて結構だ!」

 

 

そんな会話を行う二人のすぐ近くでは、ガッシュがマリーの持ってきたポッキーの箱で誕生した『バルカン300五代目』と、同じくデモンがチョコ菓子の箱で章吾が2分で作った『ガトリング450』をわちゃわちゃさせて楽しんでいた。

デモンも力を与えた分、ガッシュが弟の様に感じられて可愛いらしい。二人はキャッキャキャッキャとお菓子の箱で平和に遊んでいた。

 

 

「いや――ッ、まてよ! メグさんはそこのベッドで寝たんだよな」

 

「まあ、そうだが。それがどうしたって……」

 

 

表情を変える清麿。

章吾もそれを理解したか椅子から飛び上がるとガッシュの方へと。

 

 

「ガッシュ隊員、君と相棒のバルカンに特別任務を命ずる!」

 

「ウヌ! 了解したのだ章吾隊長!」

 

 

ガッシュは話が早くて助かる。章吾は早速ガッシュに指令を。

 

 

「ベッドをクンクンしなさい!」

 

「ウヌ! わかったのだ!」

 

 

すぐにベッドをテイスティングし始めるガッシュ。

 

 

「どうだ! 清麿の匂い以外に感じる物は!?」

 

「ウヌ! とっても良い匂いがするのだ!」

 

「了解だ! 戻れガーッシュ!」

 

 

何をやっているんだ。

その光景にデモンは頭を抱えて俯いていた。

 

 

「すまん清麿。ウチの章吾が変な事を――」

 

「もしもしお袋? 悪いけどしばらくベッドのシーツは洗わないでくれるか?」

 

「清麿ーッ!?!?!?」

 

 

そこには子機を使って母親に重要なメッセージを伝えている清麿が。

 

 

「ハッ! い、いや違うんだ! コレはその……とにかく違うんだ!」

 

「苦しいよぉぉお、もう遅いよぉお、何もかも手遅れだよぉぉお!」

 

 

真っ赤になって否定する清麿。

いまさら何を否定する事があるのか。そして章吾はケラケラと――笑うかと思いきや、意外と真面目な表情を。

 

 

「……清麿、これはもう絶対に気持ちを伝えても大丈夫なんじゃないか?」

 

「いや、それは……」

 

「好きなんだろう? 後悔はしない方がいいぜ」

 

「――ッ、分かってる。分かってるけど、分からん所もあるんだ」

 

「?」

 

「怖くもある。オレの気持ちを知るのが。そしてオレなんかが彼女に釣り合うのかって」

 

 

オレ"なんか"が。その言葉にガッシュは強烈な違和感を感じた。

出会って間もない清麿ならばまだしも、今の彼からそんな言葉が飛び出てくるとは予想もしていなかった。

見えない何かに怯え、自信を無くす彼。どんな魔物にも食い下がってきたあの姿からは想像もできない物だ。

 

 

「どうした清麿。何を弱気になっておる。清麿は凄いのだ、もっと自信を持つのだ!」

 

「ま、まあまあガッシュ。難しい問題なんだぜ? コレって。からかってるおれ達が言うのもアレだけどさ」

 

「ヌ? ヌゥ? そうなのか?」

 

 

ガッシュを制すデモン。

彼も恋だの愛だのの大変さや複雑さは重々承知しているつもりだ。

特に愛と言う感情は中々奥が深いものだと思っている。人によっては希望にも絶望にもなり、それがある日を境に一転する場合だってあるのだ。

愛が原因で人は強くなり、はたまた愛が原因で人は人を殺めたりする。なんと複雑な感情か。そして今、あれだけ強かった清麿の心を大きく揺さ振っているのだから。

 

 

「いいかガッシュ、お前が愛している人は誰だ?」

 

「ブリなのだ」

 

「……ティオとか、さ」

 

「ブリなのだ」

 

「……いや、だから、ティ――」

 

「ブリなのだ」

 

 

ああそうかよ!

人じゃねーんだけどね! あ! でもティオも正確には人じゃねーのか! 

って言うかまずおれも人じゃねーしな! デモンは自分でもよく分からなくなって一度咳払いを。

 

 

「ちなみに、好きな魔物は」

 

「父上と母上とゼオンなのだ!」

 

「くぅー! 強く言い返せないなーコレ!」

 

 

デモンはとりあえず次の言葉を並べる事に。

強引にティオで行こうかと思ったが曇りの無い瞳の中にブリが映っていたから止めておいた。

 

 

「ガッシュ、恋っていうのは毎日おいしいブリが食べられるかもしれないし、逆にもしかしたらブリが二度と食べられなくなるかもしれない感じなんだ」

 

「に、二度とッッ!?」

 

「ああ、辛いだろ? 怖いだろ?」

 

「ヌァァァ! ヌォオオ! 嫌だ! 嫌なのだぁぁぁぁ!」

 

 

涙を流し崩れ落ちるガッシュ。

うんうんとデモンは頷きながら彼の肩をポンポンと叩いていた。

恋の痛みが分かってくれてデモンとしては嬉しい限りだ。これでまたガッシュも大人の階段を一歩上がったのだろう。

 

 

「ガッシュは分かってくれたみたいだぜ」

 

「何がだよ、何をだよ」

 

 

とにかく! 恋と言うのは人を腑抜けさせてしまう物だと章吾はガッシュに説明する。

特に清麿は過去が過去だ。多くの人間に拒絶されてきたトラウマが人を愛すると言う行為を躊躇させるのだろう。

友情ならばまだしも、愛情とあればまた変わってくる。しかも相手が人気アイドル、感じるプレッシャーもあろうて。

ガッシュがいた頃はティオと言う架け橋があったが、彼がいなくなって人と人として接しなければならない事を強く感じてしまった。

胸が締め付けられる感覚、かと言って――

 

 

「メグさんが他の男に抱きしめられたりしてる所を想像してみろよ」

 

「………」

 

「怖い怖い怖いッ! なんか顔の形変わってるよ! 孫悟空とか猪八戒みたいな化け物が顔についてるよ!!」

 

 

怒りのあまり顔が変わる清麿。とにかくそれは絶対に嫌なのだ。

 

 

「まあとにかくと面倒なんだよ、恋ってのは」

 

「ウヌ、よく分からないが分かったのだ! やはり清麿は恵を彼女にしたいのだな!」

 

「だ、だから――」

 

「違うのか?」

 

「い、いや……別に違うって訳じゃ――」

 

「な? 面倒くさいだろ?」

 

「ウヌ! 面倒くさいのだ!」

 

「うぐぐ……!」

 

 

しかし彼だって分かっているだろう。このままではいけない事に。ずるずる引きずっていては解決する物も解決しない。

 

 

「だから今回のデートで、少しは距離を縮めようって話さ」

 

 

唸る清麿。

完全に拒否できない所が辛い所だ。

 

 

「ウヌ! そういう事ならやはり私も手伝うぞ!」

 

「よっしゃ、おれも手伝うぜ!」

 

「よし! ではガッシュ隊員、デモン隊員! 早速作戦会議を始めるぞ!」

 

「「おう!」」

 

 

集まりコソコソと話し合う三人。清麿は頭をかいてため息を。

 

 

「お、お前らなぁー!」

 

 

とは言いつつ、少しはありがたいと思う心もある。

試しに耳を済ませてみると、頼もしい言葉がチラホラと――

 

 

ウヌ、やはりブリを恵にプレゼントすればいいのではないかの?

 

ブリかぁ、まあ有りっちゃ有りだな。魚を豪快にプレゼントする姿にメグさんもメロメロになる可能性が高い

 

あ、じゃあおれにいい考えがあるんだけど!

 

お、言ってみろデモン。そもそもメグさんは既にそこそこ清麿への好感度が高い。ある程度は何をやっても許される状況にあるんだ。

 

そうか、じゃあやっぱりチンチン出すってのが良いとおれは思う!

 

なるほど、あえて、あえてだなデモン。悪くない手だ。天才でクールな清麿がそんな事をする訳が無いと言うギャップ萌えを突いた高度なテクニック!

 

おぉ、チンチンを出せばいいのか! 私もたまにしておるぞ!

 

流石はガッシュ、常識や理性に染まりきっていないアクティブでワイルドな男だぜお前は。まあとにかく決定だな! それでいこう!

 

ああ! ウヌ!

 

 

「清麿、喜べ朗報だ! 会議の結果一つ良い案がだな――」

 

「テオザケル!」

 

「「のほぉおおおおおおおおおおおおお!!」」

 

 

コイツ等に任せたのが間違いだった。

黒焦げになって倒れる章吾とデモンを見ながら清麿は己の過ちを深く心に誓うのだった。

そうしていると部屋がノックしてサンディたちが入ってくる。

 

 

「おまたせー、って何してんの?」

 

「ああ、ワクワクしすぎて焦げたみたいだ」

 

「へー、凄いね。さあ行こう行こうー!」

 

 

ってな訳で一同は遊園地に向かう事にしたのだった。

 

 

「へぇ! これが遊園地!」

 

 

モチノキ遊園地へやって来た一同。

マリーはずっと気になっていたらしく、目をキラキラさせて数々のアトラクションを見ている。

ちなみにマリーとデモンはそれなりに身長はある。以前のガッシュ達の様にアトラクションの制限を受ける事はないだろう。

それに以前は建設中だったが、今はもう子供向けのジェットコースターも作られている。

 

 

「ねえ、それもいいけど、わたしずっと行きたかった場所があるの!」

 

「?」

 

 

遊園地の中に入ったマリーは一つの場所を指差してニッコリと笑った。

 

 

「あそこは……」

 

 

………。

 

 

「バアアアアアアアアアア!!」

 

「だぁああああああああああ!」

 

「いぎゃあああああああああ!」

 

 

幽霊の登場でサンディと章吾は文字通り飛び跳ねて驚きを表現してみせる。

そしてそのままの勢いで章吾に抱きつくと、章吾はサンディを抱き上げたまま猛スピードで出口を目指して駆け出して行った。

 

 

「うひひひひ! 意外と楽しいじゃんココ。病み付きになりそー」

 

「確かに。人間が作ったにしてはやけにリアルだなぁ!」

 

 

章吾たち無き今、トップを歩いているのはデモンとマリーである。

彼女が興味満々だったのは彼らが今いるお化け屋敷である。

昔ながらの日本を舞台にしたもので、人魂だの妖怪だのが驚かしに掛かってくる。

人が人を驚かすアトラクションとしか認識していなかったマリー。そんな物が楽しいのかとずっと気になっていたらしい。どうやら彼女はこの世界観が気に入った様だ。

 

 

「やっぱり人間の文化は見習う所があるのよねー」

 

 

彼女が着ているゴスロリの衣装も人間界を参考にしたものである。

お互いはお互いの文化を取り入れ、よりよく成長していくべきだと彼女は考えている。

にも関わらず、どちらか一方を滅ぼすなんて間違っている。

だからこそ、マリーもユリアスの意思に賛同した訳だが。

 

 

「が、ガッシュぅ、何か変なのが来たら言ってね……! 絶対、約束だからね!」

 

「ぬぅ、ティオ。あまり急かされても困るのだ」

 

 

デモン達からそれなりに離れた後ろにはガッシュと、彼の背中を押しているティオが。

 

 

「が、ガッシュは怖くないの?」

 

 

入る前は余裕だのガッシュが怖がるから嫌だの言っていたティオだが、いざ入ると腰が引けている状況である。

一方でガッシュは余裕の立ち振る舞い。コレが王の貫禄と言うべきなのだろうか?

 

 

「ヌ、特には大丈夫なのだ」

 

「ほ、本当に?」

 

「ウヌ。お化けよりもティオの方が怖いからのう」

 

 

ブチ。

 

 

「ぬあああああ! なんですってガッシューッッ!」

 

「ぐ、ぐあぁぁぁぁああぁああ!!」

 

 

王の怯えが招いた首絞め。

だが、すぐにおどろおどろしい音楽が流れてティオは真顔に。

 

 

『うーらーめーしーやー』

 

「な、なんなのよぅ……!」

 

 

涙を浮かべ震えるティオ。

そんな彼女をガッシュは咳き込みながら確認した。

そして、手を差し出す。

 

 

「え?」

 

「一緒に行くのだ。こうすれば怖くはなかろう?」

 

 

ポンとティオの顔が赤くなる。

 

 

「い、いいの?」

 

「ウヌ。何が来ても、ティオは私が守るのだ」

 

「が、ガッシュ……」

 

 

キュッと二人の手が繋がれる。

 

 

「ガッシュ……あの、さっきはゴメンね。つい、その……怖かったから」

 

「ウヌ。気にしていないのだ」

 

 

寄り添う二人。

ガッシュはティオが怖いと言う事なのでマントを巨大化させて彼女を包み、抱き寄せる形を取った。

当然それだけお互いの距離が近くなる訳で。

 

 

「が、ガッシュ」

 

「どうしたティオ、顔が赤いのだ」

 

「ッ! もぅ、人の気も知らないで……! ばか」

 

「ヌ? 何か言ったか?」

 

 

小声で言ったために聞こえていなかった様だ。

尤も聞かれていたらいたで困るのだから、ティオも深くはその事については掘り下げなかった。

 

 

「う、ううん! 何でもない! ありがとうガッシュ!」

 

「気にするでない。ティオが怯えているとなんだか放っておけないのだ」

 

「えッ! そ、そそそそれって……!」

 

「ウヌ? 何か変な事を言ったかの?」

 

「変って言うか……! と、とにかく行きましょうガッシュ」

 

 

嬉しそうに微笑むティオとガッシュ。二人は手を繋いで先に進む事に。

まあずいぶんと微笑ましい光景である。しかしそれがある意味問題で。

 

 

(出にきぃぃいいいいいいいいいッッ!!)

 

 

待機していたお化けさんはキラキラと輝く二人を見て出て行くかどうかの判断を迫られる事に。

いや、これが仕事なんだから別にどうって事は無いのだろうが、二つ前のギャーギャー叫んでいたペアとはずいぶんモチベーションが保てないというか。

その前のペアはこっちが驚かしてもケラケラ笑ってるだけだし、今回のペアは邪魔しちゃ悪いしでもう散々である。

特にティオが嬉しそうな表情を浮かべるものだから特に出にくい。あの純粋な笑顔を恐怖に染めるなんてできるのか? いいやできない!

結局お化けさんは出番を無視してガッシュ達をスルーする事に。無理だ、出られない、あんな嬉しそうな女の子の邪魔をする様な事を。そうだ、その分次の奴を驚かしてやろう。そう思ってお化けは再びスタンバイを。そしてその次の客とは、清麿と恵である

 

 

「ガッシュの奴、大丈夫かな?」

 

「ふふ、清麿くんはこう言うの平気なの?」

 

「人並みには怖がるよ」

 

 

嘘である。滅茶苦茶怖い。

いや、正確にはお化けの類は清麿は平気だった。

天才の前では数々の心霊現象も何らかの正体があると見抜かれている訳で。

しかしお化け屋敷はまた別の話だ。なぜならばコレは意図的にコチラを怖がらせようとするからだ。言ってしまえば出来レース、やらせみたいな物だ。

お化けは正体不明の物に恐怖を抱くタイプであるが、これは正体が分かりきっている上でコチラを怖がらせようとしてくるのだからタチが悪い。

なので、ちょっとズルいとは思いつつ、彼はアンサー・トーカーの力を使ってお化け役の人間がどこに潜んでいるのか、その答えを導き出していた。

 

こうしてあらかじめ出てくる場所を知っておくことで、いざ驚かされても最小限のリアクションで済む訳だ。

できれば恵の前では平然としていたい、そんな欲望が原因だったのだろう。

だがしかしだ、彼が問うた質問はお化け役がどこに潜んでいるのか?

つまり、人間がどこにいるのかを問いかけている訳で。

 

 

「「!!」」

 

 

驚かす為に用意されたスチームが噴射され、完全に予想外だった二人は魂が口から飛び出るのではないかとの勢いで言葉にならない悲鳴をあげる。

特に予想していなかったのは清麿、人ではない仕掛けにはアンサー・トーカーの力が引っかからなかった様だ。

完全に予想外のところから来たものだから、彼は大きく前のめりになってしまい、思い切りつまずく事に。

 

 

「うぉおぉ!?」

 

「きゃ!」

 

 

彼を支えようとした恵も巻き込み、二人は思わず地面に手をついてしゃがみ込む形に。

何をやっているんだ、気恥ずかしさから清麿は勢い良く立ち上がり、恵に謝罪の言葉と共に手を差し伸べた。

 

 

「ご、ごめん恵さん」

 

「ううん、いいの。凄くびっくりしたわね、私も思わず飛び跳ねちゃった」

 

 

清麿の手を握り立ち上がる恵、しかしそこで二人はいったん停止する事に。

ちょっと待て、今はどうなっている?

 

 

「うあ! ご、ごめん恵さん!」

 

 

思い切り彼女の手を握っているじゃないか。清麿はすぐにその手を離そうとするが、その時だった。

本来なら照れて反射的に手を離しそうなものだが、恵はむしろギュッと手を強く握り締めた。

 

 

「えっ!? め、恵さん?」

 

「………」

 

 

キュッと、少し握る力は弱まったが、それでも恵が手を離す気配は無かった。

お化け屋敷の中は暗いから彼女の表情はよく分からなかったが、その時に彼は自身の能力を反射的に使用してしまう。

すると返ってきた答えは、照れから顔を逸らしている恵の姿であった。照れ、と言うのはつまり若干ながらもやはり好意はある筈で。

それはつまり、えっと――

 

 

「――ッ」

 

 

手を絡ませる清麿。

どうしていいか分からず故の行動だったが、考えてみれば逆にこの行動はもっとマズイのではないかと思ってしまった。

握り締めた手は所謂恋人繋ぎと言う形、恋人繋ぎ、恋人、恋人……。

 

 

「行こうか……! ガッシュ達を待たせたら悪い」

 

「うん」

 

 

言葉交わさずとも、拒否をしないと言うのがお互いにとっては救いであった。

二人は手を繋いだまま先を目指す事に。

 

 

(だから出にくいってのぉおおおおおおおおおおおおおおぅいッッ!!)

 

 

なんでちょっと勇気出してんだよ!

なんでココで勇気出してんだよ! 邪魔できねぇ、コレ邪魔できないパターン入っちゃった。

お化け役の従業員は涙を流しながら自身の職務を全うするべきなのか選択を迫られる事に。

 

邪魔していいのだろうか?

なんだか女の子の方が凄く泣きそうになっている程嬉しそうなんだが。

男の子の方も照れながらも拒む様子はないし、ココで自分が出て行ったら、絶対うやむやになる訳で――!

 

 

(眩しい! なんだか後光が見える!)

 

 

ああ、懐かしきかな青春の日々。

お化けの従業員は清麿と恵の姿に浄化されていき、そのまま立ち位置から動くことはなかった。

そうだ、お化けは成仏された、そんな設定を自身で定めて。

 

 

 

 





原作者さんのブログでちょいちょいガッシュの質問コーナーみたいな物があったんですが――

・ガッシュの世界は言語が統一されている。
・人間離れした容姿でも術を使わなければ基本変に怪しまれる事は無い

この二つが何か凄い面白いなって思いました。
お話を作る中でこういう裏設定みたいなものを作るのも面白いですね。

次回はまあ一週間後くらいにでも更新できればと思ってます。
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