金色のガッシュ!! Episode RISING 作:ホシボシ
「おー、お前ら無事に生還したか」
「ああ、なかなか興味深かったぜ。人間の発想力は勉強になる」
出口付近の休憩所では、ゲッソリとした章吾とサンディがジュースのストローを咥えていた。
何度叫ばされた事か、二人は疲労しきった様子で出口から出てきたデモン達を歓迎する。
「しかしいまひとつよく分からねぇな。人間は怖がるのが楽しいのか?」
「案外ドMな生き物なのね。色んな意味でゾクゾクするわ!」
「間違っているし、合ってもいるよ」
世の中いろんな趣味趣向の者がいるんだ。
そう言って章吾は大きくため息をついた。確かに考えてみればお化け屋敷なんざ何が楽しくて入るのやら、疲れるだけじゃないか。
――と、入るまではそこそこテンションが高かった彼が渋っていた。
「ウヌ、出口だのティオ。何も無かったであろう?」
「本当ねガッシュ、意外と怖くなかったわ!」
笑顔を浮かべて出てくるお子様二人。
「ようガッシュ、無事だったか」
「ウヌ、なんだか暗いだけだったのだ」
「え? 最後に落ち武者フィーバーとか無かった?」
「お、おちむ……? 何なのだソレは?」
「「???」」
首を傾げる章吾とサンディ。
真相はと言うと先程のお化けの従業員同じくガッシュ達を前にして職場放棄をしてきた者達がほとんどだったのである。なにやら凄く良い雰囲気を壊す訳にはいかない、結局そんなこんなでどいつもコイツも出て行くタイミングを見失ってスルーである。
プロにあるまじき行為かもしれないが、おかげでティオはしばらくガッシュとの二人の時間を大切に出来たようだ。
そうしていると清麿と恵も出口から姿を見せる。
「恵ぃ! 私ぜんぜん怖くなかったわよー!」
「本当? 凄いのねティオは」
「ガッシュ、ビビッてティオにしがみ付いたりしなかったかぁ?」
「ふふん、何を言うか清麿。お化け屋敷など全然なんとも無かったのだ!」
はしゃぎあう四人と、別の所で湧いている二人。
「み、見たかサンディ!」
「う、うん! 見た見た、メグと清麿ってば、おてて繋いでたよ!」
「これはもしかするともしかするんじゃねーか! なあデモン!」
ニヤニヤとしながらデモンのほうを見る章吾。
しかし、すぐに彼は真顔に。真剣な表情に変わる事となった。
正確に言えば、デモンの表情を見て、真面目な表情にさせられたと言うのが正しいか。
「マリー」
「ん。間違いなしね」
二人の目が鋭く光っている。
それは先程まで笑っていたとは思えない程の威圧感であった。目を細め、遠くの方を激しく睨みつけている。
「こんな時に、無粋な奴……」
ガリッとマリーは咥えていたロリポップキャンディを噛み砕く。
その表情にはありったけの不快感が感じ取れた。
「だがココで会えたのはある意味幸いかもしれないぜ」
今は仲間がいる。
デモンはそう言いながら過去を思い出していた。
人間界を滅ぼすにあたって、ユリアスが邪魔と判断したヘラーは、ユリアスを神の世界の反映の為にと言う名目で処刑する方針を固めた。
そして直接自らの使徒を放ってきたのだ。ユリアスは神子達の体内に自らの存在を隠し、デモンは魔界と人間界の脅威を伝える為に天界から魔界へと降りていった。その最中に彼は攻撃を受け、パムーン達がいたあの湖に落ちたのである。
そして今、その時に襲われた使徒、あのコウモリと同じ力の波長を彼は感じている。
それはつまり、今ココにヘラーの使徒がやって来たと言う事を意味していた。
「みんな、申し訳ないが戦いの準備を」
楽しいデートの時間を確保する為にも。
「速攻で終わらせよう」
アトラクションが固まっている所から少し離れた場所にあるプールコーナー。
過去にはガッシュとティオがパピプリオとゾボロンと戦った場所である。そこは現在まもなくオープンと言う事で点検中。
数々のプールには水が張っており、その中で使徒マジルは人間界に降り立った。
人間の子供に蜘蛛をイメージさせる衣装をかぶせた様な容姿のマジル。
彼は辺りを見回して人間界を軽く観察してみる。見るもの聞くもの全てが初めてだ。
しかしゆっくりとしている時間は彼には無い。与えられた使命を果たす、それが使徒の全てだ。
「まずはユリアスを倒さなきゃ……!」
そして彼が一歩足を踏み出した、まさにその時だった。
「「ザケルガ!」」
二本の雷閃がマジルの胴体に直撃、彼を大きく吹き飛ばして近くにプールに着水させる。
「うあぁぁッ!」
「使徒ッ!」
「ッ、神子かっ!」
にらみ合うデモンとマジル、隣にいた清麿はアンサー・トーカーを使用して使徒とは何なのか、その答えを求めた。
見た目で言えば今まで出会ってきた他の魔物と相違ない様に思えるが、やはり問題はその中身である。
そしてすぐに導き出される答え。
使徒とは即ち魔神の力と言う粘土で作られた人形。
中身は何も無く、ただ目的を遂行する為に行動する傀儡。心はなく、骨や臓器と言った器官も存在しない。
魔物の形をしているが中身は魔神の力だけ、人形の様なものだ。破壊するには人間で言う脳部分にある小さなコアを破壊するか、存在そのものを消滅させる事である。
一応ゲームの様に
つまり、早い話しが手加減や情けは無用。
「デモン、チャンスだ!」
「ああ!」
ザケルを発動する章吾。
デモンは帯電した拳を水につけ、そのまま放電を開始する。
水は電気を通し、離れていたマジルにも電撃のダメージを与えていった。
「ぐぅぅう! アドネル!」
使徒や魔神は人間のパートナーを必要としない、自身で呪文を口にすることで力を発動する事ができる。
手から黒い糸を発射して水から脱出するマジル。しかしその単調なルート、読まれぬ訳がない。
最高点に到達したマジルに直撃するガッシュのザケルガ、彼はまたも苦痛の悲鳴を上げて地面に直撃する。
「ネルセン!」
ヨロヨロと立ち上がったマジルは手から糸を固めた弾丸を発射する。
しかしそこへ遅れて到着したマリー達が。サンディは魔本を開いて心の力を解放。
一方で指を銃の様な形にして構えるマリー、彼女の指先が光り輝き――
「ラブル!」
バキューンとアニメや漫画でよく使われる様な大きな音がして、ハートマークの光が勢い良く指の先から発射された。
ハートはスピードが速く、マジルの弾丸を弾き飛ばし彼に命中する。
衝撃で再び地面に倒れるマジルと、指から上がる煙をガンマンの様に吹き消すマリー。
「抵抗とかしないで、さっさとヘラーの居場所教えてよ。そしてら楽に逝かせてあげるからさ」
「ふざけるな! ヘラー様は僕が守る!」
小さな体を必死に叱咤させ立ち上がったマジル。
彼にとって自分を生み出してくれたヘラーは母親の様な存在、守りたいと思うのが普通であろう。
そして彼の体が光り輝き、そのままデモン達を激しく睨みつける。だがデモン達には大きな心の余裕があった。
向こうは一人、コチラは大勢、見たところ使徒としてのレベルも低いようだし、負ける要素は見つからなかった。
「ギガノ・ネルセン!」
マジルが手を前に翳すと、そこに大きな蜘蛛の巣を模した紋章が。
そこから放たれるのは糸を固めた巨大な弾丸。発光し、ギガノ級と言う事で今までの技よりもワンランク上だと言う事が分かった。
しかし無駄だ。なぜならば、コチラには最強の盾がいるのだから。
「恵ーッ!」
「マ・セシルド!!」
前に出たティオが生み出す盾が、マジルの弾丸を何の事は無く受け止め消滅させる。
そして怯んだ彼に向けられるのはガッシュのテオザケル。マジルは大きな電撃に揉まれ、地面を転がっていった。
「う、うぁ……!」
立ち上がろうとするマジルだが、既に体に染み付いたダメージや痛みが彼の心を折る。
一方で鼻を鳴らすデモン、ヘラーの居場所を教える気が無いのなら、もう彼を残しておく必要も無いだろう。
「ぶっ殺す! 章吾!」
「ああ。ソルド・ザケルガ!」
デモンの手に握られる雷の剣。
彼はそれを構えマジルを睨みながら足を進めていく。
その気迫、その殺意、マジルにまもなく死がやって来ると言う事を教え込ませる様だった。
だからだろう、恐怖ゆえ、彼が涙を流したのは。
「ッ!!」
なんだ? 清麿達の中に駆け巡る大きな違和感。
涙? 何故? 感情なんて無い筈なのに。
そう、心が折れた様な表情や素振り、それは使徒にとっては最大の矛盾ではないか。
「ハッ! いまさら泣き真似かよ! 心なんて無いくせに!」
「うぅぅうッ!」
ガタガタと震え始めるマジル。
清麿達が抱く違和感はより大きくなっていく。
一応アンサー・トーカーで調べてみるが、やはり使徒には心や感情は無く、魔神の力の塊だと言う事が答えとして提示された。
しかし、それにしてはあまりにも。
「デモン、本当にソイツは使徒なのか? 妙に表情豊かと言うか……」
一応清麿は念の為にデモンに問いかける。
しかし返ってくる答えはやはりと言うか当然と言うべきか、使徒で間違いないと。いやそれは清麿も分かっていた事なのだが。
そもそも魔物ならばパートナーがいる筈だ。にも関わらずマジルは自身で呪文を発動していた。コレが使徒である何よりの証拠だと言う。
「ええ、間違いないわ。さっさと殺っちゃってよデモン!」
マリーも淡々と言い放つ。
ならいいのか? なら間違いないのか?
清麿達はデモンに怯え震えるマジルを見ながら言い様の無い気持ちの悪さを感じていた。
少なくとも、今の彼らにはマジルが人間界を滅ぼす悪意には感じられなかったのだ。
「た、たすけて……」
「は?」
その時、マジルは小さな声で呟いた。
「ぼく、し、死にたくない……!」
沈黙が流れる。
それはまるで時間が止まったかの様に。そして、それを切り裂いたのはデモンの舌打ちだった。
「チッ! ムカつくぜお前! どうせおれが攻撃を止めたら、背後から襲うつもりなんだろ!」
ユリアスを逃がす途中でもそうだった。
ヘラーとその使徒は背中を向けたデモン達に容赦なく攻撃を仕掛けてきたとか。
やめろと彼らが叫んでもヘラー達は笑っているだけ、思い出しただけでも腹が立ってくる。
それはマリーも同じだ、奴らは話し合いを提案する自分達を鼻で笑い、次々と攻撃してきたではないかと。
「そんな事しないよぉう!」
「うるせぇ! 使徒め、さっさと消えろッ!」
剣を振り上げるデモン。マジルは両手で頭を覆い隠し、悲鳴に近い声を上げた。
それでもデモンの勢いは止まらない。真っ二つにしてやる、彼の殺意がマジルに向かって振り下ろされ――
「ッ!」
され、ない。
デモンの刃が今まさにマジルに届くと言う所でデモンはその手を止めた。
攻撃を止めたのか? いや違う。正確には攻撃を邪魔された。
デモンの腕には紺色の布、それはガッシュが伸ばしたマントであった。それがデモンの腕に巻きつき、動きを拘束しているのだ。
「ガッシュ……?」
「止めるのだデモン。その者は怯えておるぞ」
「待て! コイツは使徒で!」
「怯える者を無理やり攻撃しては、ヘラーと言う者と同じではないか!」
「そ、それは!」
言葉を詰まらせるデモン。
試しにチラリとマジルの方を見ると、彼は体を縮こませてブルブルと震えていた。
そしてその目には間違いなく、デモンを見て恐怖に染まりきっている物だった。
「馬鹿な! 使徒に心だと――ッ!?」
「あ……! もしかしてヘラーは擬似的な感情を使徒に与えたんじゃないかしら?」
恵の言葉にハッとして清麿は能力を発動させる。
するとビンゴ、章吾の言ったとおりマジルには本物ではないが、かなり精密な擬似的な感情がある事が答えとして返ってきた。
「擬似的な、感情?」
「ああ、不安定ではあるが、どうやらそういう事らしい」
清麿が軽く説明を。言わばロボットのAIの様なものだ。
こういう反応が返ってきたならば、こんな想いが湧き上がるだろうと言う予想プロセスがマジルには組み込まれている。
圧倒的不利な状況と、これから死ぬだろうと言うシチュエーションが彼に涙を流させ、体の震えを起こさせ、そして生への渇望を言葉にしてみせた。
「擬似は所詮擬似よ! 使徒はココで殺すべきなの!」
「お、おれもそう思う! ユリアスが言っていた。使徒は放置してはいけないと!」
デモンとマリーは強く言うが、ガッシュは首を振る。
「その者は泣いておる。もう戦う意思は無いではないか。そうだろう?」
ガッシュの強い瞳を見て思わず黙ってしまうデモンとマリー。
そしてその目で見られたマジルはしばし沈黙した後、ゆっくりと首を縦に振った。
彼は見た目だけならばガッシュとそう変わらない年齢に見える。それに蜘蛛をイメージさせる服や帽子はしているが、それを取り払えばただの子供だ。
そんな彼を囲んで攻撃している。そのイメージがデモンとマリーに気持ちの悪さを残す。特にデモンは彼を殺そうと今まさに剣を向けている訳で。
「チッ!」
どう見てもコチラが悪者だ。
デモンはソルド・ザケルガを消滅させると、腕を組んで後ろに下がっていった。
ガッシュはそれを確認するとへたり込んでいるマジルに手を差し出した。
「お主達は何故人間界を滅ぼす? そんな事、許されぬに決まっておろう!」
「ぼ、僕は……ヘラー様の為に」
「ヘラーは何もしていないデモンやマリー、ユリアスを攻撃したと聞く。それに今にも人間界を滅ぼそうとしているとも聞くぞ!」
「だ、だって人間はいらない生き物だってヘラー様が……!」
「それが間違っておるのだ。おぬし名前は?」
「マジル……」
ガッシュの手を取って立ち上がるマジル。
「ではマジル殿にお願いがあるのだ」
「お願い?」
「ウヌ。ヘラーは誤解しておる。人間は素晴らしい生き物だ。だから滅ぼさぬ様にマジル殿から頼んでほしいのだ」
「えぇ!?」
清麿や恵の様な人間がいると言う事を分かってもらえば、きっとヘラーも考えを改めるとガッシュは信じていた。
しかし大きく首を振るマジル。ヘラーは自分の親の様な物ではあるが、かと言って彼女が自分の話を聞いてくれるのかと言うと、それは話が変わってくると。
「もしかしたら、僕、君達を倒せない罰で消されちゃうかも」
「ヌ!? そ、そんな酷い奴なのか? ならば何故従うのだ!」
「だって、僕、ヘラー様しかいないし……」
そこしか居場所が無いのだから仕方ない。
ヘラーにそれを望まれて生み出されたのだから仕方ない。それを聞くと、ガッシュは一度頷いて彼の肩に触れた。
「ウヌ! ではマジル殿、私と友達になろうぞ!」
「え? と、友達?」
「ッ!」
マジか。デモンとマリーは呆気に取られた表情でガッシュを見つめる。
使徒と友達に? そんな考えは思いもつかなかっった。と言うより友達になれるのだろうか? 擬似的な感情があるとはいえ、元はヘラーの力から生まれた人形。
それはマジルが一番分かっている筈、現に彼は不安そうな表情でガッシュを見ていた。
「と、友達って、何?」
「そんなの決まっておろう。一緒に遊んだりする者の事を言うのだぞ」
ココは遊園地、ちょうど良いとガッシュは彼の手を取る。
「今からマジルも一緒に遊ぶのだ!」
「え? え!? えぇッ!?」
「清麿達も良いであろう? さあ、早く行くのだ!」
そう言ってさっさとガッシュはマジルを連れてアトラクションがある方へダッシュである。
みるみる小さくなっていくガッシュ、それを相変わらず間抜けな表情でデモン達は見送っていった。
「どうするのデモン? ガッシュ行っちゃったけど……」
困った様にティオはデモンに助けを求めたが、そのデモンが混乱しているのだから仕方ない。
ユリアスからは絶対に使徒は倒せと教えられたが、アレを見る限りなんだか丸く収まりそうな気もする様な。
「ど、どうするって言ってもな……! どうするマリー?」
「わたしに振る!? ま、まあいいんじゃないかしら」
もう行っちゃったし。そのマリーの言葉が全てを表していた。
最悪変な動きをした時に止めればいいか。デモンは頭をかいてガッシュの後を追いかけるのだった。
「ぬわあああああああああああ!」
「うわあああああああああああ!」
子供でも乗れるミニジェットコースターにてガッシュとマジルは絶叫を上げていた。
グワングワンと上下するコースターの上で二人の悲鳴は次第に笑みに変わっていく。
それを見ながらデモンとマリーは顔を見合わせて汗を。なんだ? どうして馴染んでいるのか。
その後もコーヒーカップ、ミニフリーフォールとアトラクションを梯子したが、どれもガッシュの隣でマジルは良いリアクションを取っていた。
そしてゴーカート、そこで始めて彼は笑みを浮かべる。
「どうだマジル、人間の世界は楽しいであろう?」
「楽しい? そ、そっか! コレが楽しいって事なんだね!」
その正体、その詳細、彼には分かる物ではない。
しかし娯楽を他者と共有した際に生まれた際に浮かべるだろう笑みと言う物、そしてこの共有する時間その物、それはしっかりとマジルは感じていた。
擬似的な感情の為、感じる全ては喜びであろうが悲しみであろうが皆例外なく等しい物。無い心には響かない。しかしそれでも彼はガッシュとアトラクションを乗っている内、コチラの方がいいのでは無いかと思った。戦い、殺し合う、そしてヘラーに褒められるよりもこうしてガッシュ達と一緒に遊ぶこの今の方が良いのではないかと思った。
「ガッシュー! 競争しましょ!」
「ウヌ! 構わぬぞティオ!」
ガッシュとマジルのカートの隣にティオと恵が乗ったカートが並ぶ。
「負けないからねー」
「私も負けぬのだ!」
その様子にアワアワと落ち着きなさそうなマジル。二人の雰囲気はまさに先程の自分達と同じではないか。
「た、戦うの? ガッシュ……」
「心配するでないぞマジル、傷つけ合う訳ではないのだ」
ガッシュの言った通り、その戦いはマジルが想像していた物とは大きく違っていた。
彼は呪文を使った殺し合いだと想像していたが、実際はどちらが先にゴールできるかで、安全にも十分気を使った戦いであった。
結果はティオの勝ち、しかし負けたガッシュも随分と楽しそうだった。
「強いのうティオは」
「えへへ、当然よ!」
そして、ふとガッシュは問いかける。
「のう、マジル。コチラの方が良いとは思わぬか?」
「え……?」
「周りを見てほしいのだ。皆笑っておるぞ」
確かに、ガッシュの言った通り、人は皆笑顔を浮かべていた。
「本当に、人は滅ぶべきなのだろうか? 私はそうは思えぬのだ」
「ぼ、僕は……」
「さあ、次はメリーゴーランドに乗ろうぞ!」
「め、めりぃ……?」
マジルの手を引いてメリーゴーランドに向かうガッシュ。
その後ろを清麿達は温かい目で見守っていた。以前も言ったが、やはり彼は変わっていないようだ。
王になって色々大変だとは思うが、それでも清麿はガッシュにはずっと自分の知っているガッシュでいてほしかった。
そして章吾とデモンも複雑な表情でガッシュの背中を見ている。
「ガッシュがどうして王になれたのか、何となく分かった気がする」
「え?」
「ああ、おれも分かった」
彼の決断は大きすぎる代償が潜んでいた。
しかし、今、マジルはガッシュと共に遊んでいるではないか。
殺す事だけが正しいと思っていた。デモン視点、それはユリアスの意思、ならば自分の意思でもあるからと妄信していたが、まさか別の道があったとは。
邪魔だから殺すと言う考えは、成る程自分が嫌悪するヘラーの抱く考えそのものではないか。
「ガッシュは甘い」
デモンは言う。子供だから甘い理想を語る事ができる。偽善にも聞こえるソレ。
「だが、その判断が一番正しいってのはおれも分かる」
正しい事を選べるかどうかはまた別の話だ。
ベストとベターは似ている様で大きく違う。彼はその甘い妄想を現実にしようとしている。
その意思、その判断、その行動力、デモンにとっては王の器をそこに感じた。
綺麗事だと言い捨てるのではなく、綺麗事を現実にしようとしている意思が彼にはあった。
もちろんそれは彼だけでは形には出来ない。それをサポートする者が必要だ。ガッシュにはそんな人物が溢れているのだろう。
だからこそ、彼はまた一番良い選択肢に進む事ができる。それだけ良い仲間に出会う事ができたのは、類は友を呼ぶと言う奴なのか。
「うらやましいぜ、ガッシュが」
「デモン……」
あの時、あの瞬間、マジルを殺そうと剣を振り上げていた自分は。
「格好悪かったな、おれ」
「………」
デモンの背中を軽く叩く章吾。一つ、安心しろと彼は言う。
「安心しろよデモン、俺も格好悪かったからな。俺も殺した方がいいって思ってた」
「ハッ! サンキュー章吾」
結果論だが、ガッシュはマジルと友達になった。
どんな理由があるにせよ、殺すよりはマシだ。
デモンと章吾はガッシュの背中に掴まりメリーゴーランドを楽しんでいるマジルを見て深くそう思った。
「マリー」
「うん、分かってるって」
デモン達は少しため息をついて、ガッシュ達の下へ歩いていった。
そして迷わず『彼』に声をかける。
「これ、食べる? おいしいよ」
「え……?」
メリーゴーランドから降りてきたマジルに、マリーは自分がよく食べている種類のロリポップを差し出した。
食事をする必要が無い使徒、彼は当然首を傾げる。飴など知らない、食べたことが無いし、食べないのだから。
「さっきはゴメンね」
「え? あ――ッ」
ごめん、それは他ならぬ謝罪の言葉だ。そしてデモンも彼に頭を下げた。
「すまんッ! 許してくれマジル!」
「あ、あの……えと」
マジルは助けを求める様にガッシュを見る。
するとガッシュはにこやかな笑みを彼に返した。
それはマジルの中にあった不安を消す様な、そんな笑顔。それがマジルに答えを導き出させる。
「う、うん。僕もごめん」
頷き、飴を受け取るマジル。
「僕も、人間を誤解してた」
と言うより、何も理解していなかった。
だが今、少しだけでも人間の中で時間を過ごしてきて、激しい生命を感じた。
自分が生を求めたのならば、本当の心を持つ彼らは必ず同じ事をする。恐怖し、命を求める。それは少し悲しすぎる。
だとすれば、誰も悲しまない方が良い。皆この世界で生きたいと思っているだろうから。
「たぶん、きっと、間違ってるのはヘラー様だと……思った」
「そっか……」
もしかしたら、分かり合えるのかもしれない。デモンはそう思った。
するとそこで軽い衝撃が。見れば自分達にサンディが飛びついている。オレンジ色の綺麗な髪が視界いっぱいに広がった。
「ようし! じゃあ皆で次のアトラクションへゴーだね!」
「マジル、遊園地にはまだまだ色んなアトラクションがあるんだぜ!」
「本当!? 僕、ガッシュと一緒に乗りたいな!」
「ウヌ! じゃあ行くのだ!」
結局その後もガッシュ達はマジルと色々なアトラクションを一緒に回った。
いつからか自然と浮かべるようになった笑顔、それを一歩引いたところでパートナー達は確認し、笑みを浮かべている。
一時は使徒と聞いて臆した面もあったが、結局は魔物の子と同じではないか。ちゃんと話し合えば分かり合える。
それをマジルの姿を見て、清麿達は強く思った。
「よし、じゃあ次は観覧車だ!」
「うん! 乗りたい!」
だが。
「―――」
その時。
「「「「!!」」」」
ゾッと、背筋を走る冷たい感覚。デモンとマリーも思わず足を止める。
「ヌ! ど、どうしたのだ?」
そして、再びその表情に恐怖を映し震えるマジル。
この感覚、この気配、ガッシュ達にもやや遅れてそれが伝わってきた。
分かる、力が。分かる、その気配。分かる、その――
殺意――ッ!
「ッッ!?」
直後、轟音、爆発音。衝撃。
耳をつんざく音がしたと思えば爆発。なんと爆発したのは今まさに乗ろうと足を進めていた観覧車だった。
そうだ、遊具の観覧車が爆発し、崩れ落ち、悲鳴が辺りを包み込む。
「うそ……だろ?」
呟く清麿。今の爆発、もちろんフィクションなどではない。
だとすれば、中にいた人達は――
「はじめまして、魔界の子らよ。人間よ」
コツコツと、足音が。
パニックになり逃げ惑う人達の中から清麿達の前に姿を見せた者。
多くの華が顔を覆っており、顔を横からは蜘蛛の足が突き出ている。
そして手に持っている杖の先についている宝石、そこには魔本の表紙にもある魔界のシンボルが刻まれていた。
息が止まる程の緊張感が清麿たちの身を包む。その中で、女は改めて自己紹介を。
「私は、魔神ヘラー」
ギョロリと、三つ並んでいる赤い目が清麿達を捉えた。
崩れ落ちる観覧車をバックに、ニヤリと彼女の唇が釣りあがる。目を見開いている一同を前にして、彼女は杖を突き出した。
その先にある宝石が光り輝き、彼女を禍々しくライトアップする。
「死に消えよ」
「―――」
光が満ち、彼女は殺意の呪文を。
「テオホロウ」
杖から放たれる赤交じりの黒いエネルギー。それは容赦なく清麿達を呑み込むと新たなる爆発を巻き起こす。
笑みを崩さぬヘラー、爆煙が晴れた時、そこには円形状のシールドによって守られている清麿達の姿があった。
「なるほど素晴らしい、守りの子よ。褒めてつかわすぞ」
「ハァ、ハァ……!」
まさか『テオ』をセウシル如きで防ぐ事ができるとは。
ヘラーは防御呪文で清麿達を守ったティオと恵に拍手を行う。
「実に、喜ばしい事だ」
ヘラーは口にした。神の力を受け止められる程ティオは力をつけている。
これならば、やはり人間界を滅ぼすのは間違っていなかったと。
魔物は優れた力を持っている。喜ばしい守りの力だ。それは魔物を守る為だけに使えば良い話。
神の力を防げたのであれば、人間界に存在するいかなる兵器とて防ぐ事ができるだろう。それこそ、人知が生み出した最悪の兵器、『核』ですらも脅威にはならない。
「魔物の力は人間界において、まさに神と呼ばれるに相応しい力だ」
雷神、風神、共に人間界に存在している神として伝承等には記載されている。
雷を操り、風を操り、そのほかにも世界各地には神話として様々な神の力が記されている物だ。
だが考えて欲しい、雷の力ならばガッシュが使えるではないか。もしも雷神が魔物であったら? オロチやオーディン、シヴァ等世界各地で語り継がれる神々がかつてこの地で戦った魔物だったとしたら?
「その力を人に委ねる等、大きな間違いだとは思わぬか?」
「……ッ」
クリアに感じた物とは全く違った恐怖と緊張感が一同を包む。
さらにガッシュは一度彼女に会っている。あの時、王宮にて自らに用があると呼び出し、人に生きる価値はあるのかと彼女は聞いてきた。
そして自分と共に人間を滅ぼさぬか、とも聞いてきた。
それを拒むと、彼女は自分を殺そうとした。
「おぬしが、ヘラー!」
「その通りだ。ガッシュ・ベル。お前達魔物の世界を守る、神なるぞ」
「おぬしは……! おぬしは自分が何をしたのか分かっておるのか!?」
今も尚悲鳴は聞こえているし、遠くを見れば逃げ惑う人々も確認できる。
ヘラーはその中でガッシュの問いかけに一番分かりやすい形で答える事に。
杖を向けるのは、その逃げていた人達の所。
「オルガ・ダライアス・ホロウ!」
「――ッ! 止めろ! ヘラーッ!」
アンサー・トーカーの力が呪文の詳細を清麿に教える。
しかし答えが分かった所で止める時間が無いのだから仕方ない。
刹那、天から黒い球体が遠くに降ってきて逃げ惑う人々の中に直撃した。
さらに悲鳴、だが先程よりもその音量は小さい。それは距離が離れているから、そしてもう一つ。
その意味、ガッシュにも分かった。
「クハハハハ! さあ、では一つ問題だ」
アンサー・トーカーを持つ清麿ならば、簡単に分かるのではないかとヘラーは挑発的な笑みを向ける。
そしてその口から出た言葉、それはもはや通常の良心と言う物があれば絶対に欠片とて放てぬ言葉であったろう。
「今ので、何人死んだかな?」
ブチ、と何かが切れる音がした。
「ヘラァァァアアァアアアアッッ!!」
一瞬でガッシュはヘラーの眼前に迫り、その固い頭で頭突きを繰り出した。
まさにロケットの様な勢いではあったが、ヘラーはしっかりと片手でガッシュの頭を掴むと勢いを完全に殺してみせる。
「お主は! お主はッ! お主はァァアアッッ!」
「ほう、良い怒りだ……ッ! しかし解せんな、何故怒る?」
「何故だとッッ!」
「ああ、神は敬われるべき存在。怒りを向けられるのは不思議なのだ」
「黙れぇええッ! お主の様な外道が神を語るなッ!」
そしてガッシュの口が光ったかと思うと――
「ザケルガァアアア!!」
そこから強力な雷閃が放たれる。
押し出されていくヘラー、だがある程度後退した所でヘラーは纏わりついた雷撃とザケルガ本体を払いのける様に消滅させた。
本当にヘラーの体をザケルガで押しただけ、それが今の印象である。そしてその中で睨み合うヘラーとガッシュ、清麿。
「何故だ! 何故殺しやがったッッ!」
「答えを知っているくせに、よく言う。人は面倒な生き物だな」
簡単な話だ。それはあまりにも簡単な話。どんなバカでも理解できる。人間ならば理解できると。
「お前は今まで殺した虫の数を覚えているか?」
そして、自らの進行上にアリが居たのなら、踏んで進むのが人間だろう?
「私にとってお前らは虫けらにしか過ぎない。殺す事に何故躊躇する必要がある」
「ッ! なんだと……ッッ!」
「訂正しよう、お前らは害虫だ。放置は害を生む」
美しい地球を汚し、勝手に人間同士に争い合っている愚かな生き物。
彼らにこの美しい星はもったいない。全ての技術、全ての場所を、魔物に引渡し、消えさるべきだ。
「広き世界を生きるのは、魔物だけで良い」
周りを見回すヘラー。
今も、この瞬間、この時にどこかで誰かが産まれている。想像するだけで頭が痛くなると彼女は歯軋りを。
「人間は世界の癌。勝手に無駄な知恵をつけ、混沌に種族の道を進めている」
導く者が必要ではないか。だのに、人の世の神は基本的に見守るだけだ。
しかし魔界は違う。人よりも力ある者達が均衡を保つ為に神は手を差し伸べる。
神の試練もまた同じだ。魔神達が魔界の平和を願うが故に与えた試練。
そしてそれはヘラーに一つの希望を与える。それはあの王を決める戦いにおいて多くの魔物が成長してくれたことだ。
あの力があれば人間界など一ヶ月もあれば滅ぼせるのではないか?
「良いか? 価値観が違うのだ。お前ら人間とはな」
コレは善悪の話ではない、清麿達がいくら怒ろうがヘラーの心には届かないのだ。
人間もそうだろう? 牛とは話し合えない。それは言葉の問題が一番かもしれないが、ヘラーにとっては同じような事なのだ。
いくら人と魔神の間に言葉が通じようとも、コミュニケーションは取れない。
滅ぼす者と滅ぼされる者、対等な立場にはなれない。
「さあ! 魔物の子らよ。我が存在を、我が名を称えよ!」
両手を広げ、彼女は自らの存在を最大にアピールする。
「我が名はヘラー。人の世を終わらせる為に舞い降りた魔界の神なるぞ」
その言葉を合図に一同は一勢に本を構え戦闘態勢に。
コイツはヤバイ、本能がそれを継げている。だが勝たなければならない。人間界の為であり、もっと根本的な問題でもある。
それは崩壊した観覧車から巻き上がっていく光の群れを見れば明らかだった。
「フム、やはりユリアスが邪魔をするか!」
「ッ! ユリアスはその存在を使用し、お前らに制限をかけた!」
デモンが語るユリアスの力。
それはかつて神の試練終了時に、戦いが齎した被害を全て無くすと言うシステム。
究極の再生、究極の復元、それはたとえ無くした命ですらも戻ってくる絶対のルールであった。
ユリアスは事前にその力を使い、一つのシステムを魔神達に押し付ける事に成功していた。
それは王を決める戦いと全く同じルールだ。『ある事をスイッチ』にして、破壊された物や命が全て元通りになる。
ヘラーもそれが分かっているのが、自分で答えを言って見せた。
「それは殺害を行った者の消滅。つまりお前達が今死んでいった人間を助けたいのならば、私を殺す事だ」
そうする事でユリアスの加護が発動され、死んだ人々が、壊された街が復元していく。
それは完璧な拒絶。一切の話し合いを無視する究極の線引き。人を殺す魔神と、人を守る人間の交差。そこに交わるポイントはない。
「さあ、滅びの時間だ」
杖先をガッシュに向けるヘラー。
「まずはお前のバオウを頂き、我々は更なる高みへたどり着く」
「バオウを……!」
「そうだ、喜ぶが良いぞガッシュ・ベル。お前は神の礎となるのだ」
つまり、ガッシュには魔神繁栄の為に死ねと言っているのだ。
しかしヘラーはガッシュが抵抗するとは思っていなかった。
なぜならば魔神とは魔界の頂点の立つ存在、その力になれるのだから喜んで命を差し出すと思っていた。
だが、ガッシュは拒む。
「許さぬ、絶対に許さぬぞヘラーッ!」
怒りの光を目に宿すガッシュ。
人間の尊さ、大切さ、それを彼はこの人間界でたくさん学んだ。
家族、恋人、今何の事はなく命を奪われた者には尊い存在がいた事だろう。力を示すために殺される人生などあって良い訳がない。
一同は瞬間、ヘラーを倒す事を決意する。そしてデモンは皆の負担が軽くなる様に説明を。
「ガッシュ、魔神はクリアの時と同じだ! ヘラーを倒せばすぐ転生される」
つまり手加減をする必要はない。神の力に己を支配され、ヒエラルキーに拘る悪しき神を放置してはいけないのだ。
「行くぞ皆!」
清麿達の本が光り輝き、彼らは一勢に呪文を。
「「ザケルガ!」」
「ラブルガ!」
ガッシュとデモン、マリーから直線状の攻撃が放たれるが――
「シルド・アドネル」
黒い蜘蛛の巣がヘラーの前方に出現して攻撃を無効化していく。
一瞬で消滅するデモンとマリーの呪文。ガッシュのザケルガのみやや競り合いを見せたが、少しヘラーが力を込めて杖を振るうと、ザケルガは弾かれて斜め上の方向に飛んでいった。
「ッ!?」
おかしいとデモンとマリー、何故自分達の攻撃がすぐに消えた? デモンの呪文はガッシュとほぼ同じ威力の筈なのに。
「散開だガッシュ! デモン達もサポートを頼む!」
「あ、ああ!」
三人は散らばる様にダッシュ。
ガッシュは清麿を連れて正面から、デモンは右、マリーは左から回り込むようにしてヘラーに接近していった。
ココで術を撃てば、との狙いだろう。しかしヘラーに焦りはない、正面からの防御だけが彼女の力ではないのだ。
「ガンシルド・アドネル」
杖を振るうとヘラーの周り全体に蜘蛛の巣が。
これでどこから攻撃が来ても問題はない。しかしそれでも三人のパートナーは呪文を。
「テオザケル!」
「テオラブル!」
デモンから広範囲の雷撃が、マリーから広範囲のハート型エネルギーが放たれヘラーを包み込んだ。
しかし蜘蛛の巣はビクともしない。まただ、デモンとマリーは強い違和感を。
力を込めてみるがシールドは不動、デモンは強く歯を食いしばり、悔しさを表情に浮かべた。
「ガッシュ」
その時、清麿がある一点を指し示した。
「ザケルガ」
「馬鹿が、無駄だと何故――」
しかし、ガッシュのザケルガは蜘蛛の巣を破壊すると、さも当然の様にヘラーに直撃を。
「は?」
全身が震える感覚、これは急所に入った。
ヘラーはダメージの高さから防御呪文が解除されてしまう。
そうすると彼女に降りかかるデモンとマリーの攻撃、ヘラーは呻き声を上げながらザケルガに押し出され地面に倒れた。
「……成る程、そうであったな」
アンサー・トーカー。どこに攻撃すれば効率的にダメージを与えられるのか。
それが分かる力だ。きっと清麿はデモンとマリーの攻撃が重なり、力が増幅しているポイントを幾つか見つけ、その中から一番ヘラーにダメージを与えられる部分を選出してみせたのだろう。
見事。これはもはや人間の域を超えた力だ。だからこそカイロスと言う兵器を作る事もできた。やはり危険か、ヘラーは浮かべていた笑みを消してゆっくりと立ち上がる。
「高嶺清麿。取引をしないか?」
「何ッ?」
「お前の家族、お前の恋人、お前の友人、それを残してやる代わりに答えを出す者の力を私達に貸せ」
人間界が滅びた後、魔界での快適な生活も約束すると。
しかし、清麿は即答だった。
「断る。オレは、人の世で生きていく」
「………」
ヘラーは舌打ちを。
「残念だ。そして哀れに思うよ、人が神に逆らった馬鹿な判断を」
彼女の杖が光り輝き、どす黒いオーラを周囲に散布させる。そして呟くのは魔神ヘラーの持つ最強の攻撃呪文。
空気が振動し、絶大な緊張感が辺りを駆ける。叫ぶ清麿、一同はすぐに走ってティオの周りに集まった。
「ユダ・ヴァジリス・アドネードホロウ!」
一同が見上げた先、そこへ現れるのは巨大な化け物だった。
蛇の様な長い体だが、目が八個あると言う事や、蜘蛛の足が生えている事から蜘蛛の蛇の
「でかいッ!」
序盤の序盤からこれほどの大技。防ぐには当然それ相応の呪文でなければならない。
「皆! ティオの後ろに! チャージル・セシルドン!」
「ハァアア!!」
ティオの盾の中でも最強の防御力を誇る物が展開される。
しかしまさにその時だった。
「シン・ホロウ・ディガルソルドン!」
「パイクレイジ・シン・ディオアムルガ!」
「アボロオウ・シン・ホロウ」
突如出現した三つの巨大な力。
一つは禍々しい巨大なレイピア、刃の部分が高速回転しており、貫通力が上がっている。
さらに巨大な腕の形をしたサイの化け物。巨大な角で猛スピードで突進してきた。
そして最後は二つと同じく禍々しい鳥の化け物。三つの存在は真っ先にティオの盾にぶつかり、競り合いを開始する。
「ぅあぁぁあああッッ!」
「ティオ!」
いくらティオの盾が凄いとは言え、シン級の呪文を三つも止められるとは限らない。
さらに彼女も言うてブランクがある。当時の感覚にはまだ近づけていなかったか、ティオの盾は粉々に砕かれ一同は衝撃に吹き飛ばされる事に。
「驚きましたな。しかし、まさかアレでほとんど相殺とは!」
「シンをも防ぐ盾か。伊達に終盤まで生き残ってはいない」
「だが俺様もまだ本気ではないぞ! 次は俺様だけで砕いてやろう!」
ヘラーの背後から現れるのは三人の使徒。
一人は黒い剣を持っており、一人は大柄の体で鎧を纏っており、一人は黒い翼を持った使徒。
つまり、いずれもヘラーの味方と言う訳だった。
「おぉ、おぉ、現れたか我が愛しき使徒達よ。待っておったぞザムザ!」
ザムザ、その言葉に剣を持っていた使徒が頭を下げる。
燕尾がついた執事風の男、ただし顔は蝙蝠のソレであり、人間らしさは欠片とて感じられなかった。
モノクルの奥で光る赤い瞳はたっぷりと殺意を孕んでいる。
「ガジュル」
鎧の使徒が頭を下げた。
サイをモチーフにしており、大柄の体には鎧、明らかなるパワーファイターだと言う事が見て取れる。
「バムロア」
翼を持った使徒が頭を下げる。
カラス人間とでも言えばいいか。
インディアンの様な民族衣装が特徴的だった。黒い羽の飾り物はそれら全てがナイフとなって凶器に変わる。
彼らはヘラーが自らの力を大量に注ぎ込み作り上げ、長い時間を掛けて育て上げた自慢の側近、それがこの三体の使徒であった。
注いだ力が多い分、デモンを仕留めに向かわせたコウモリ形の使徒や即席で作ったマジルよりも比べ物にならない程の強さである。
人間の言葉も理解しており、より深く擬似的な感情が与えられている。しかしそれは負に特化した感情、三人が全員ヘラーのような考え方なのだ。
「ヘラー様が標的を見つけたと聞き、すぐに駆けつけた次第でございます」
「うむ。マジルの近くに強い魔物の子の波長を感じたものでな、駆けつけてみればこの有様よ」
その言葉にビクっと肩を震わせるマジル。
つまりなんだ? 自分がいたからヘラーにガッシュ達の居場所がバレてしまったと?
だが今はそんな事を考えている時間など無い、清麿はすぐに体勢を立て直して呪文を発動させた。
「ザグルゼム!」
狙うは現在空中に浮遊しているヘラーの最強呪文。しかし――
「シルド・ホロウ」
黒い六角形の盾が間に割り入りガッシュのザグルゼムを遮ってみせる。
それだけならば連鎖のラインとして利用できた。しかし盾を発動させたザムザはすぐに呪文を解除して電撃のパワーが溜まった盾を消滅させた。
「クッ!」
まずい、まずいまずいまずい。
清麿は汗を浮かべて息を呑む。どんな問いかけをしてもあの呪文を発動前に潰す答えが見つからない。
何を検索しても『Not Found』、要求した答えが見つからない。
けれども諦めるわけには。恵は魔本に力を込めて呪文を。
「ギガ・ラ・セウシル!」
攻撃を反射する円形のシールドに閉じ込められるヘラー達。
しかしすぐに側近の使徒が肉体強化の呪文で盾を簡単に破壊してみせる。
「清麿くん!」
「クッ! 何か、何か――ッ!」
答えが無い。答えが出ない。
焦る清麿だが、デモンはそれを知らずに章吾へ声を。
自らの最大呪文であるデルガ・ジン・ザケルガならばアレを止められるかもしれない。
力が足りずともマリーも力を合わせればと。二人は視線を合わせると頷き合い、それぞれパートナーに声をかける。
「章吾! 頼む!」
「サンディ! 最大呪文!」
しかし二人の返事は無い。
疑問に思いパートナーのほうを見る二人、すると彼らは先程浮かんだ違和感の答えを知る事になる。
「悪い、無理だ」
「ッ! 章吾……!」
そこにいた章吾は先程まで明るく笑っていた彼ではない。
青ざめ、汗を浮かべ、脚が震えている姿だった。他人から見ればなんと情けない姿か。
そしてそれはサンディも同じ、眉を八の字にして震えているではないか。
何故か? 決まっている。怯えているからだ、恐怖を抱いているからだ。呪文の力は魔物の力でもあるが、その威力を決める一番の要因はパートナーの心の力。
何を思い、何を込めて呪文を放つのか、それで威力や心の力の残存量は決まってくる。
早い話が章吾とサンディは心が折れている。
無理も無いと言えばそうか? ガッシュと戦った時はあくまでも力を見ると言うフィルターがあった。
しかし今は違う、現にヘラーは人を目の前で殺して見せた。そして当然自分達をも殺そうとしている。
そんなヤツと戦うと言う事は、文字通り殺し合いだ。章吾もサンディも戦いと言う事を分かっているつもりでも、どこか心の隅ではゲーム感覚にしか捉えていなかった。
それが今になって崩れさる。死ぬかもしれない、その恐怖が彼らの心の力を極端に弱めていた。
「章吾! デルガを!」
「すまんッ! 分かっているつもりでも、出ないんだ!」
最大呪文を放てる程の心の力が込められない。デモンの中に芽生える大きな焦り。
そうか、これが人間と組むと言う事なのか。彼はまだどこかで章吾が自分の思い通りに動いてくれると思っていたが、そういう事ではないらしい。
「清麿くん! このままじゃ!」
「ああ! 仕方ない!」
一方の清麿と恵。このままではマズイと清麿は問題提示の角度を変えてみる。
すると発動前に潰す方法はないが、打ち破る方法ならば一つだけあった。魔神の力に対抗できるのは同じく神の力のみ。
そうなんだろう? それだけの力があるんだろう? 清麿は魔本にありったけの力を込めてヘラーの呪文を睨む。
「出ろ! バオウ・ザケルガッ!!」
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
ガッシュから現れる巨大な雷の龍。
それを見てヘラー達は歓喜の声を上げた。
「おお! コレが破壊神バオウか!」
「バオウ! かつて天界で名を馳せた破壊神ですか!」
「そう! ッ、しかしどうだ? 今の姿は」
一魔物の子の術に成り下がっているとは嘆かわしい。
かつての破壊を求める心は無く、今は完全にガッシュの力として生を受けている。
なんと愚かな、なんと哀れな。栄光を捨てた姿には怒りさえ覚えると言うもの。
「受けて立つぞバオウ!」
ヘラーの召喚した大蛇から巨大なエネルギー弾が放たれる。
それは脳天から花が生えた髑髏を無数に密集させた不気味な異形。歪なブーケがバオウ・ザケルガに向かって放たれた。
しかし問題はある。先程と同じ様にヘラーの側には使徒達が控えているのだ。ヘラーの呪文に加勢されたらバオウに勝利は無い。
バオウがヘラーの呪文と戦う間、奴らを止めておかなければ。
「章吾! 肉体強化を頼む! それなら心の力はそれほど関係ない!」
「す、すまん! クロウ・ザケルガ!」
「サンディ! わたしも!」
「うん……! ラヴ・シザルク!」
デモンの爪に電撃で構成されたオーラが付与される。
さらにマリーが取り出したハサミが巨大化、分離して二つの双剣となった。
二人が向かうのはヘラーの下、当然呪文を発動している彼女を守る為に側近達もデモンとマリーを止めに走り出す。
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
デモン達が側近達と戦っている真上でバオウが髑髏のブーケに牙を突き立てた。
激しい衝撃派が発生し、両者は競り合いを始める。
デモン達神子に与えられた『ジン』は呪文レベルで言うのならばシンを僅かにではあるが凌駕する威力を持っている。
故に、それを打ち破ったバオウ。ココで負ける理由は無い。
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「よし! 打ち破った!」
「………」
バオウは術を使えば使うほどに威力が上がる技。
正直それほど呪文を使っていない今の状態で打ち破れるかは不安だったが、なんとかなった様だ。
バオウはブーケを噛み砕き咆哮を上げる。しかし、ヘラーは全く怯まない。むしろ嘆きの表情を浮かべ、ため息をついた。
まず一つ、バオウの力はブーケを砕いた事で減少している。
「なんだ? まさかこの程度か? 失望したぞ」
「何ッ! まさか!」
動き出す大蛇。まだヘラーの呪文は死んでいない。
エネルギー弾と本体の二段構え、ヘラーの合図にて大蛇はその牙と鋭利な蜘蛛の足でバオウを受け止める。バオウの顔に噛みつき、長い体を絡ませて互いを締め付けあう。
その時、清麿の中にある答えが書き換わる。術を打ち破れる、それは一段目限定の話だったのだ。二段階を含めて彼女の最強呪文は一つの形になっている。
それを踏まえ、再び答えを求めると、返ってきた答えは――
「――堕ちたな、バオウ」
「ば、バオウが!」
アンサー・トーカーの力で導かれた答えは『バオウ・ザケルガの敗北』。
自身の能力を微妙に外してくるのは、まだ清麿の中の能力が安定していないのか、アンサートーカーは非常に脳を酷使する。
それとも、向こうの力がそれだけ上を入っているのか。
「所詮神の座を離した者など、この程度と言う事か」
失望だ、ヘラーはうんざりした様に杖を振るう。
「興味が削がれた。消えよ、バオウ・ザケルガ」
「オォォオォオッォオォオォォォォォ!!」
大蛇の咆哮と共にバオウの肉体が引きちぎられ、噛み砕かれる。
「ぐ……ッ!」
「過去の遺産だな。もはや、新時代には不要の産物だ」
一段目の攻撃で威力が落ちていた為、バオウ・ザケルガはヘラーの呪文に打ち砕かれる。
そのまま清麿達の方へと向かう大蛇、ちょうどその時マリーとデモンの使徒達の攻撃に吹き飛ばされて清麿達の所へ送られた。
「デモン!」
「ぐぐッ、すまねぇ章吾。神子じゃあ使徒と互角、それ以下が限界かもしれない!」
とにかくとこのままならばまとめて大蛇を食らって終わりだ。清麿はすぐにアレを防ぐ方法を能力ではじき出す。
するとただ防ぐと言うだけならばいくつかすぐに答えが見つかった。しかしただ防ぐのでは次の攻防に勝てはしない。
ココは心の力の残量を考えても、ティオに任せるのが懸命だと清麿は判断した。
「頼む、恵さん!」
「分かったわ! チャージル・セシルドン!」
再び現れる最強の盾、それは大蛇をしっかりと受け止めると、僅かな競り合いの後に消滅させてみせる。
再び湧き上がる歓声、どうやらヘラー達はバオウよりもティオの盾に興味が湧いたらしい。
手を抜いていたとはいえ仮にも『シン』を受け止めただけではなく、まさか神の術ですら防御して見せるとは。
そちらもバオウとの競り合いで威力が下がっていたとは言え、盾の調子を見るに相当の防護力を持っていると感じられた。
「ふむ、私はあちらの方に興味が湧いたぞ」
「っ!」
ティオを見てニヤリと笑うヘラー。
「いかがなさいますか?」
「そうだな、予定は変更だ。バオウよりもアチラを持ち帰る」
「ッ、させぬのだ!」
再び動き出そうとするガッシュ。
しかしヘラーにはそもそもはじめから彼らと真面目に戦う気など更々無かった。
いくら神とは言えど、ガッシュの実力はよく知っている。さらにバオウの存在があったと把握していた為、事前にある程度の対処はとっておいた。
それを今、彼女は『使う』。
「ホロウ・ウルク」
黒いオーラを纏って瞬間的に音速のスピードを出すヘラー。
清麿も答えを出した時には既に空中に舞っているところだった。アンサー・トーカーは非常に強力な能力ではあるが弱点もそれなりに多い。
その一つが、人間の判断力で行われる処理速度である。答えが分かろうとも対処の行動を待たぬ速度を突きつけられると厳しい物がある。
ヘラーは高速で清麿達の下へ移動すると杖を振るって周囲の者達を弾き飛ばしていく。そして彼女が掴むのは自らの使徒であるマジルの存在だった。
「うぁああッ!」
「マジル!」
「フッ! さあガッシュ、皆の者よ、取引の時間だ」
杖先をマジルの顔に向けるヘラー。
話はなんとも単純な物だった。もしもガッシュ達が抵抗を示せば、マジルの頭を吹き飛ばすと。
「お前――ッ! 自分の使徒を!」
「分からんな、何を怒る必要が? 私は私の道具を効率的に使っているだけだ」
舌打ちを放つデモン。そうだろう、所詮は自分の力で生み出した傀儡にしか過ぎない。
愛情など湧く筈もないのだ。ヘラーにとってマジルはどれだけ自分に利益をもたらしてくれるかどうかで大切さが決まる。
そもそもはじめからそれが目的だったに違いない。ヘラーはマジルを人質にする為に生み出したのだと。
「道具だとッ!」
怒りの表情を浮かべ前のめりになるガッシュ。
しかし対してマジルを掴む力を強めるヘラー、マジルの苦痛の声がガッシュの表情を大きく歪ませる。
「そうとも、こうしておけばお前達は私を攻撃できないと思ってな」
幹部でもないマジルに擬似的な感情を与え、さらに恐怖心を強く感じさせる様に設定させた。
臆病な性格のマジルはガッシュときっと良い友達になってくれるだろうとヘラーは考えていた。
ガッシュは優しい王、言い方を変えれば甘い奴だ、恐怖に震えるマジルを殺せる訳が無い。
だとすれば彼はきっとマジルを許し、友好関係を築くのではないか? だとすればその後のマジルはヘラーにとって最強の盾になる。
はじめからマジルはガッシュと友人になる様に差し向けたと言う訳だ。優しい王はお優しいからその名がついたと言う物、つまり一度マジルと言う存在に尊さを感じてしまえば、それが最大の弱点になる。
そう、もう一度言おう。今、ガッシュの
「―――」
青ざめる清麿。
アンサー・トーカーは未来予知では無ければどうすれば状況を打破できるのかを教えてくれるシステムでもない。
ただ知りたい事の答えを教えてくれると言うだけの話だ。
だからこそ、どうしようもない場合には答えが返ってこない。
いや、正確には答えはある。今、この状況を切り抜ける方法は一つ。
『盾にしているマジルを殺す』
そこに抜け道は無い。マジルを生かしてと設定してしまえば答えは返ってこない。
だがしかしそれはあまりにもな答えではないか。章吾やデモンもそれが分かっているのか、歯を食いしばって少しずつヘラーから後退していくだけ。
彼女はマジルを人質に取った、それだけの事が今の状況では何よりも厄介だった。
「さあ、呪文を唱えるなよ人間共」
「……ッ!」
無理な話だ。しかし唱えればマジルが殺される。
誰もが分かっている。コレは冗談などではない。
奴はなんの事は無く人を殺した。そんな奴が今更部下一人殺す事なんて簡単なのだろう。
「ガンズ・ホロウ!」
「ぐぁぁああ!」
呪文を受け吹き飛ぶガッシュ、デモン、マリー、ティオ。
清麿達はすぐに叫ぶが、今度は彼らに呪文が降りかかり、次は清麿達パートナー側が地面を転がる事に。
「がハッ! ぐぅあぁあ!」
「あぁぁ……!」
震えるマジル。こんな事になってしまったのは自分のせいだ。
彼は自分を強く攻めるが、対してヘラーは声をあげて笑っていた。
愉快、そして不可解、やはりユリアスの考えは全くもって理解できない。
何故強大な力を持つ魔物の力を非力な人間に委託する必要があるのか。人を介して呪文を発動させる等無駄の極みでしかない。
現に今も見ていれば、デモンやマリーはそのおかげで本調子を出せず、ただの足手まといになっているではないか。
「使えぬ人間をパートナーにされてはたまったものでは無いなデモン」
「――ッ」
「高嶺清麿程ならまだしも、恐怖に怯え震える置物では使い物にならん」
章吾は悔しげに拳を握り締める。
しかし受けたダメージは痛みとして彼にさらなる恐怖を煽らせる。
痛みは単純に恐怖を加速させるファクター、それが増えれば増えるほどに力の心は弱くなっていくのだ。
「そうだとも。脆い人間など、不要の存在ではないか。アドネル!」
呪文を発動させ黒い糸を射出させるヘラー、それは倒れていた恵とティオを縛り上げるとヘラーの下へ引き寄せる事に。
「「きゃああああああああ!!」」
重なるティオと恵の悲鳴。
どうやらヘラーはティオの防御力に注目したようだ。
あれはまさに神の力にも匹敵するほどの力、ガッシュのバオウザケルガよりも魅力的に映った様だ。
「ティオ!」
「恵さん!」
ガッシュと清麿は、空中を舞う二人を止めようと魔本を開く。
しかしすぐに躊躇、ココで動けばマジルはどうなる?
見ればそれをヘラー自身分かっているのか、下卑た笑みを浮かべながらマジルの存在を強調させる様に前に突き出している。
そうしているとヘラーはティオと恵を掴み、その赤い瞳に二人を映した。
「この力を解析し、我が物とする。そしてそれが終わればお前ら二人は殺処分だ」
「何を――ッ!」
「抵抗をするな、マジルを殺すぞ」
「「ッ!」」
「ああ、何とも便利なものだな。フフフ」
踵を返すヘラー。どうやら今はティオと恵を連れ帰るだけに留めておくらしい。
「ヘラー様、奴等の処分はいかに?」
「フム、そうだな」
ヘラーはチャージルセシルドンを思い出す。
魔力の流れ、そして『チャー』と言う呪文形態、アレは何やらティオの想いに応じて膨れ上がっている様に見えた。
となれば、彼女が関わった者に対して抱く想いに応じて術の防御力が上がるのかもしれない。
それにバオウも明らかに弱くなっていると見たヘラー、ここはまだ早計するのは安易か?
アンサートーカーも捨てがたい能力ではあるし、仮に章吾達を殺しても清麿に大きなショックが掛かり能力が消えると言う事もある。
ましてや、まだ少しパムーン達から受けた傷も残る。
「ではバムロア」
「ハッ!」
「お前は残れ、そして私に歯向かった愚かな人間や魔物に痛みを教えてやるのだ。ただし殺すな。殺すのはもっと後だ、コイツらはもしかしたら使えるかもしれぬ」
「かしこまりました」
「うむ。では私は戻るぞ」
マジルを突き飛ばしバムロアに差し出したヘラーは、ティオと恵を引き連れて歩き出す。
不安げな視線を清麿に送る恵。ティオも小さくガッシュの名を呼んで助けを求めた。
「ティオ!」
「くっ! 恵さんを放せ!」
動こうとする二人だが、立ちはだかる様にして前に立ったバムロアがナイフをマジルの頬に当てているのを見て動きを止めるしかなかった。
「一歩でも動けば、コイツを殺す」
「くッ! 卑怯だぞお前! 正々堂々戦うと言う心は無いのか!」
「黙れガッシュベル。使徒は王の上に立つ存在、勘違いをするなよ」
ガッシュの言葉を一蹴するバムロア。
カラスの羽をナイフは少し力を込めればマジル程度など一瞬で殺す事ができるだろう。
かと言って二人は密着している状態、何か大きな呪文を打ち込めば助けるどころかマジルを巻き込んでしまう。
スピードのあるザケルガならば? いやだめだ、パワーアップした事が逆にザケルガの範囲を広くしてしまい、今のままではマジルに当たってしまう。
清麿は必死にアンサートーカーの力でマジルを助ける方法を探すが何も見つからない。
まだ敵が動きが鈍ければ色々とチャンスはあったのだろうが、バムロアはヘラーの使徒の中で一番スピードが速い。コチラが何かを仕掛ける前にマジルを殺す事など容易なのだ。
(清麿君――ッ!)
(恵さん!)
恵やティオ、清麿やガッシュはただ視線を交わすだけで何もできなかった。
それが歯がゆく、清麿はグッと拳を握り締めて激しくバムロアを睨みつけている。
こうしている内にヘラーは闇の中に消えていき、とうとうみすみす逃がしてしまう結果となった。
「ククク。伝わってくるぞ人間、ガッシュベル、お前達の負が体外にまで溢れている様だ」
しかし何もできない。当然だ、彼らはマジルを攻撃できない。
ココでマジルを攻撃すると言う事は、マジルを殺す意思を自らの意思で固めたという事になる。
それはできない、当然だ、彼は優しい王様、切り捨てる覚悟を固められる筈が無いと。
「愚かだな。何を優先させるか、切り捨てる判断を下せぬ王とはまさに愚か」
「何だと――ッ!」
「マジル等、お前達にとっては今日一日で知り合った薄い関係でしかない。こんな価値の無い者に縛られ、挙句仲間を奪われるとは滑稽の極みではないか」
黒い翼を広げるバムロア、すると彼は呪文を発言、そこから羽の弾丸を飛ばしてガッシュ達を攻撃する。
肌に突き刺さっていく無数の羽、一同は苦痛の声を漏らし、そしてバムロアは小さく笑い声を。
「ガッシュ……!」
その中でマジルはジワリと目に涙を浮かべる。
そうだ、自分のせいで彼らはいらぬ苦痛を負う事になってしまったんだ。
それに自分は彼らの良心を利用する為に生み出されたただの盾、その役割を知ってしまえば、マジルは涙を浮かばずにはいられなかった。
もちろんこれも言ってしまえば偽物の涙だ。しかしそれを思えばまた悲しくなる。自分は一体何の為に生まれ、何の為に生きるというのか。
「友人に優劣など、ある訳が無かろう……!」
「ッ!」
その時、地面に倒れていたガッシュがゆっくりと立ち上がる。
その目、その眼光、気に入らない、バムロアにとっては大きく気に入らない『目』であった。
自分は欠片とて間違っていないと言う自信、そして愚かなことをいっているのはお前のほうだと目が語る程の哀れみ。気に入らない、ああ気に入らない!
「ロンド・ホロウ!」
バムロアは闇の鞭を出現させるとガッシュの頬を強く打つ。
清麿はすぐにガッシュに駆け寄ろうとするが、その時バムロアの言った一言で動きが止まる。
簡単だ、動けばマジルを殺すと言うもの。結果ガッシュに手を差し伸べる者はいない、惨めに一人倒れているガッシュを、バムロアは鼻で笑う。
「ガッシュ、やはりお前は愚かなのだ。こんな中身の無い虚構だけで作られたマジルを友人と言い、その結果お前はこうして何もできずに俺の攻撃を喰らい続ける」
「黙れ……!」
立ち上がるガッシュ。
やはりその目は真っ直ぐにバムロアを貫いており、曇り無き王の眼に思わずバムロアは一歩後ろに下がった。
なんだ、なんだコレは、いくら王とは言え何故ただの魔物に自分は怯えているのか。
「バムロアとやら。私は何度でも言うぞ、マジルは私の友人だ」
「ぐッ!」
「もしも次、またマジルを馬鹿にしてみろ。私の大切な友人を馬鹿にしてみろ――」
ガッシュのマントが靡く。ガッシュの美しい黄色に近い金髪が揺れる。その目に、雷光の光が迸る。
「私は、お主を許さぬぞ」
「黙れ――ッ! 黙れ黙れ!」
何もできないくせに。何も変えられないくせに。
バムロアは黒い翼を広げるとエネルギーを集中させる。強力な呪文が来る、一同はそれを察するが、どうすればいいと言うのか。
ココで抵抗しよう物ならば肝心のマジルが殺されてしまう。バムロアは羽でエネルギーをチャージしている為に手は自由に動かす事ができる。
隙を突く事もできない。ガッシュもそれが分かっているのか、汗を浮かべ、ただ敵を睨む事しかできなかった。
「所詮お前は、口だけの王! 神に歯向かう資格は無い! アボロオウ・シン――」
バムロアが最大呪文を口にしようとした、まさにその時だった。
「いや――ッ! まだだ!」
清麿がニヤリと笑みを。
「ジオ・ラ・シュドルク!」
「ッォオオオオ!!」
バムロアの背後から巨大な棘が一本、地面を突き破って伸び出した。
奇襲、背後から一瞬で伸び出る棘にバムロアは対処できず背中で棘を受ける事に。その衝撃で空中に打ち上げられ、マジルから距離が大きく離れた。
「ガポルク!」
声、直後轟音が。見ればバムロアの腹部に爆発が起こり彼はさらに後方へ吹き飛んでいった。
完全にマジルと距離が離れたバムロア、そこを狙わない手は無い、章吾はなんとか恐怖を振り払い心の力を魔本に込める。
「ウルボル・ザ・ブルク!」
デモンは地面を蹴って一気にマジルに距離を詰めると、彼を掴んでガッシュ達の所に移動する。
「大丈夫かマジル」
「う、うん……!」
そしてデモンは見る。このアシストを行ってくれた者の姿をだ。
口を開けているサンディとマリー、そして目を輝かせているガッシュと清麿。現れたのは馬の様な魔物と、アヒルの嘴を持った子供。
そして二人のパートナーの人間の姿だった。
「遅くなってすまない清麿、ガッシュ」
「メルメルメー!」
「大丈夫かい? 私が来たからにはもう安心だ!」
「そうだぞぅ! 鉄のフォルゴレと無敵のキャンチョメ様があんなヤツすぐにコテンパンにしてやるからな!」
「おお! サンビーム殿! ウマゴン! キャンチョメにフォルゴレも来てくれたのか!」
現れたのはガッシュ達と関わりの深い、黄色とオレンジの魔本を持ったペアだった。
幾度と無くガッシュの危機を救ってくれた大切な存在だ。
「ぐぐッ! 仲間がいたか!」
立ち上がり一度後ろに飛ぶバムロア。
しかしそこでキャンチョメとフォルゴレが前に出る。魔本が光り輝き、彼はもう一度先程の呪文を。
「ガポルク!」
キャンチョメの体がボワンと言う音と共に巨大な大砲へ変わる。
一番初めにガッシュ達と戦ったときにハッタリとして変身したその姿。
しかし『ポルク』は姿が変われど結局能力はキャンチョメのままだったので何もする事ができなかったが、このガポルクは違う。
「えーいッ!」
キャンチョメの声と共に砲台からは本当に弾丸が発射される。
ガポルクはポルクとは違い変身した者の能力を実際に使用する事ができる。
ドラゴンになれば火を噴けるし、ジェット機になれば素早く空を飛ぶ事だってできるのだ。
とは言え、変身した物が高性能であればある程心の力の消費も大きくなるので多様はできないが。
「チッ!」
羽を盾にして弾丸を受け止めるバムロア。爆発が起こり、大量の爆煙が彼の視界を隠す。
彼は理解した、この弾丸は
「メルメルメー!」
「やはり奇襲か!」
爆煙を突き抜けてしてウマゴンが角を突き出す。
既にゴウ・シュドルクを発動していたウマゴンは一瞬で距離を詰めて攻撃を開始する。
爆煙の中から突如現れた彼にバムロアは対処が遅れ、激しい角の乱舞を身に受けてしまう。しかしすぐに対応、彼はウマゴンの角を掴むと、ニヤリと笑みを。
「メ、メルッ!」
「捉えたぞ!」
角を掴まれたウマゴンはバムロアを振り払おうと力を込めるが、ゴウ・シュドルクのパワーではそれは難しいのか、逆にウマゴンの動きが止まる事に。
この状態で技を放たれれば避ける事はできない。
しかしそこで光る魔本。
「シュドルセン!」
「何ッ! グォオオ!!」
ウマゴンの角が体が分離、弾丸となりて角を持ったバムロアを大きく吹き飛ばしていく。
すぐに角を放すバムロアだがウマゴンはすぐにバックステップで距離を離し、サンビームの隣に着地。次の指示を待った。
「おのれぇええ! バウロ・ソルド!」
羽を刃に変えて突っ込んでくるバムロア。
ウマゴンは次の強化形態、ディオエムル・シュドルクを発動させて炎を纏いながらバムロアに突っ込んでいった。
角と刃がぶつかり合い、両者は激しく相手を睨みつける。熱い炎の様な情熱を瞳に宿すウマゴン、バムロアは大きく舌打ちを。
「お前も気に入らない目をしている!」
「メルメルメーッ!」
ガキンガキンと刃と角がぶつかり合う音が響き渡る。
「ようし! フォルゴレ! シン・ポルクで一気に決めちゃおう!」
「ああ! まかせろキャンチョメ!」
光る黄色の魔本。しかしそれを清麿が制す。
「駄目だキャンチョメ! 奴らにシン・ポルクは通用しない!」
「えぇ! ど、どうしてだい?」
「奴らには脳が無い! 脳を介して命令を伝える力は効果を発揮しないんだ!」
使徒は魔神の力の集合体。思考はあるものの、それは脳と言う器官を必要とはしていない。
言わば機械と同じ、キャンチョメの力は相性が悪いとアンサー・トーカーでの答えが導き出された。
「えええ! どうしようフォルゴレぇ!」
「まいったなー! ガポルクは燃費がいまいち悪いしなー!」
涙を流しながら抱き合う二人、しかしそこでデモンが表情を変える。
「いや! シン・ポルクを使ってくれ!」
「ッ? デモン?」
良い考えがあるとデモンは章吾を見てそう言った。
そして一方武器をぶつけ合うウマゴンとバムロア。素早さが武器のバムロアだが、同じくしてウマゴンもその最もたる武器はスピード。
速さと速さがぶつかり合い、激しい火花を散らしていく。
「ウマゴン!」
だがそこでサンビームの声。
ただ名前を呼んだだけだがウマゴンはそこで地面を蹴って大きく上に跳んだ。
「ッ! 何! ぐあぁあ!」
ウマゴンに視線を奪われるバムロアだが、直後自らに直線の電撃が命中する。
(バオウを使って尚コレほどの威力持つ技を――ッ! いや、これは!)
帯電し地面を転がるバムロア。
彼を吹き飛ばしたのはデモンのザケルガ、その威力は本調子時のソレ、強力な雷撃がバムロアの体に響き渡る。
そしてまだ終わらぬ攻撃、サンディの魔本が巨大な光を放つ。
「ガンジャス・ラブル!」
地面を何度も拳で殴りつけるマリー。
すると離れていたバムロアが倒れる地面からハート型のエネルギーが地面を突き破って連続して出てくる。
エネルギーに揉まれ空中に打ち上げられるバムロア、なんだ? 先程まで恐怖に震えていた筈なのに!
「デル・クロス・ザケル!」
上級呪文デル・クロス・ザケル。
デモンが腕を振って十字を描くと、その動きにシンクロする様に電撃が直線に迸る。
文字通りそれは十字架、電撃が交わる中央点に閉じ込められるバムロア。彼は苦痛の声を上げながらも、この術を放った章吾の魔本を見る。
するとやはりその輝きは確かな物。見れば彼の表情は軽く、自身の笑みを浮かべているではないか。
(なぜだ? 恐怖に震えていたあの時とは全く別人ではないか!)
それはサンディにも言える事。
確かに仲間は増えた、しかしだからと言ってあそこまで変われるのか?
「!」
その時、バムロアはフォルゴレの魔本もまた光っているのを確認する。
キャンチョメを見ればなにやら必死に手を振っている模様。何をしている訳でもないが、それは指揮者の真似をしている様にも見える。
まさかアレに何か秘密があるのか? そうは思えど、その時動きを止めている自分の前にマリーが。
「ゴウ・アムラブル!!」
「うっりゃあああああああああ!!」
「ぐがああああああああ!!」
手にピンクの光が宿り、マリーは思い切りバムロアを殴りつける。
するとファンシーな音と共にハートマークが出現。
しかしそのファンタジックな様子とは裏腹に威力は確かな物、バムロアは悲鳴をあげながら地面へ直撃する。
「どうだい章吾、サンディ」
「ああ! いい調子だ、助かるぜキャンチョメ!」
「オッケー最高! すっごい元気出る!」
そのカラクリはキャンチョメの最強呪文シン・ポルクにあった。
確かに脳に命令を送る力は脳はおろか神経すら無い使徒には無意味だろう。
しかし当然人間である章吾とサンディには効果がある。キャンチョメは今現在章吾とサンディ視点、まるでモーツァルトだのベートーベンだのの様な巻き髪でスーツを着ている状態である。
そして指揮棒を振るい、背後には立派なオーケストラが勇ましい音楽を奏でている。
さらに不釣合いかもしれないが、チアリーディングの女の子達もポンポンを持って激しいダンスを。
『『『『『フレー! フレー! サ・ン・デ・ィ! 章吾ぉッ!』』』』』
応援、それがキャンチョメがシン・ポルクで行った事である。音楽や応援の力で二人の恐怖心を取り払う。
単純な作戦ではあったが、見事に章吾とサンディにはハマり、二人は湧き上がる元気を感じて心の力が膨れ上がるのだ。
「可愛いバンビーナに応援されて元気が出ない男はいないからね!」
『『『『『がんばれー! 章吾くーん!』』』』』
フォルゴレの言葉どおりチアガール達は章吾に黄色い声で声援を。
「うん! がんばりゅー!」
「けっ!」
「………」
デレデレになってチアガールに手を振り返す章吾(まあ幻影なのだが)と、鼻を鳴らすサンディ。
パートナーの姿に汗を浮かべるデモンとまあそれぞれに分かれていた。
とは言えど結果は結果、ノリが戻った章吾はそれだけ強い魔力を込められると言う訳だ。
「メルァッ!」
「グオオォオッッ!!」
さらに落下したバムロアを蹴り飛ばすウマゴン。
炎を纏った蹴りはそれだけダメージと勢いをバムロアに与え、次に彼が立ち上がった時、周りは魔物の子に包囲されている所だった。
「お、おのれッッ!」
「お前の負けだ! さあ、ヘラーはどこに行った! それを教えてもらおうか!」
「……ッッ!」
その時、バムロアは素早く羽を毟り取り、それを己の頭に突き刺した。
あまりに一瞬だった為何が起こったのか一同は理解が遅れる。
すると頭から吹き出る黒い霧、どうやら状況が不利と察したバムロアは何も語らずに消える様だ。
「お前……ッ! なんで!」
ヘラーの為に自害するとは。デモンには全く理解できぬ所だ。
確かに彼もユリアスの為ならば命を賭けても良いとは思っているが、だからと言ってこんな風になんて。
いや、確かに自分達は使徒を倒そうとしていた。だからこれはむしろ助かる事なのだが、強烈な違和感も残る。
「フン、コレが使徒の宿命と言うものだ」
力なく崩れ落ちるバムロア。
彼はゆっくりと視線を、この光景を見て震えているマジルに移す。
「延命に……意味など――、無い」
そこまでだ。
それを言った直後彼は完全に黒い霧となって姿を消す。
消滅。違和感は強いものの、ガッシュ達の勝利となった。
どうでもいいけど筆者は結構終盤までゾフィスは女の子だと思ってました。
いやもう滅茶苦茶オレとか言ってたけど俺っ娘だと思ってました。
こらもうアホのビンタですわ
次回は一週間後くらいにでも。