金色のガッシュ!! Episode RISING   作:ホシボシ

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第5話 理想と未練

 

 

「ガッシュー! 無事だったか! 心配したんだぞー!」

 

「メルメルメー!」

 

「おぉ! キャンチョメ! ウマゴン! 無事で何よりだ!」

 

 

抱き合うガッシュ達。

心に引っかかる物を一同に残した勝利となったが、とにかく今はヘラーに攫われたティオと恵を助けなければ。

合流したサンビーム達に素早く事情を説明する清麿、章吾達も挨拶を交わし、サンビーム達は大まかな事情を把握した。

一方で清麿達も彼らがココに来た流れを説明される。事前に清麿はサンビームとフォルゴレに魔神の事情をそれとなく説明しておいたが、そんな二人の前にてっとり早く事情を説明してくれる者が。

 

 

「パムーン達が事情を説明しに来てくれてね」

 

 

事前の状況からして魔神がガッシュを狙うだろうと踏んだ彼らはすぐに日本に向かってくれとサンビームにコンタクトを取った。

と言う事で早速飛行機と、ウマゴンのシン・シュドルクを使って日本にやって来たという事だ。

事前に遊園地に行くとは連絡を貰っていたので、何とか間に合ったと。

 

 

「それにしても魔神か。厄介な事になったな」

 

「か、かか神様を怒らせてもいいのかなぁ?」

 

「そ、そうだな。バチが当たってしまいそうだ!」

 

 

ブルブルと震えるキャンチョメとフォルゴレ。

無理も無い、今回は流石の清麿もクリアと対峙した時に近い物を感じている。

なんとか実戦の経験があった為、章吾たち程心が不安定にはならなかったが、心に大きなショックは今も取り巻いている。

 

今までの魔物の戦いは死人が出る事はほとんど無かった。

しかし今回は別だ、ヘラーは何の躊躇いも無く人を殺した。彼女を殺せば生き返る為、完全な死ではないだろうが、それでも被害者が受けた苦痛は本物だったろう。

勝てば命は帰ってくるが、負ければ最悪人類が滅ぶ。なんと言うレベルの話か、命をベットしているゲームの様、それはまさに神のみが立てるステージの話しではないか。

ヘラーは魔神と人間は価値観その物が違うと言っていた。その言葉が胸に沁みる。できる事ならば話し合いで解決したかったが、どうやらもうそう言う訳にはいかない所まで自分達はやってきた様だ。クリアがバオウの力で邪悪な心を食われワイトになった様に、ヘラーもバオウを使わずとも、倒せさえすれば邪悪なる心を浄化され魔物に転生されるらしいが……。

だが今はもっと清麿の心をザワつかせる事態がある。清麿はすぐにその事もサンビーム達に説明を。ティオの力に興味を持ったヘラーが二人を連れ去ってしまったと。

 

 

「えぇ!? だ、大丈夫なのかい?」

 

「ヘラーはティオの力を分析すると言っていた。だから少しだけ時間に余裕はある」

 

 

だがそれもすぐに終わるだろう。

何としてもその前に彼女の居場所を突き止めて恵とティオを救出しなければ。

しかし考えれば考えるほど目の前で連れて行かれる二人の為に何もできなかった事が悔やまれる。

思わず拳を握り締めて歯を食いしばる清麿、それは『悔しい』という感情なのだと隣に居たマジルは理解できた。

 

 

「ごめんなさい、僕のせいで……」

 

「え? あ、いや、マジルのせいじゃないさ」

 

 

彼の頭を軽く撫でる清麿。

人の表情を見て謝罪を述べるまでにマジルの擬似的な感情は進化しているのか、彼はその事に少し驚きつつも気にするなと。

 

 

「そうであるぞマジル。おぬしは何も悪くないのだ」

 

「ガッシュ……ありがとう」

 

 

マジルは利用されていただけだ。

彼は何も知らない、全てはそれを利用したヘラーに問題がある。

 

 

「とにかくすぐに恵さんとティオを助けに行こう!」

 

 

ウマゴンのスピードがあればすぐに追いつける筈だ。

清麿がそう言うとウマゴンは自慢げに鼻を鳴らして鍛えた肉体を強調するようなポーズを取ってみる。

どうやら魔界に帰った後も訓練を積んで、シン・シュドルクを安定化させる様に鍛錬していたとか。

しかしココで一つ問題が。

 

 

「ヘラーがいる場所は分かるのか?」

 

「ああ。アンサートーカーを使えば――」

 

「ッ、ちょっと待ってくれ清麿」

 

 

それを制したのはデモンだ。

いくら清麿がクリア戦の為に自身の能力を強化したからと言って、アンサートーカーはかなり脳に負担が掛かると聞いている。

既にデモンたちと戦った時、ヘラー戦と、それなりの期間で能力を使用しているじゃないか。ブランクもあった訳だし、考えてみればそれだけ清麿の脳は酷使されていると言う事。

今、恵達を助けに行くと言う事はつまりヘラーと戦うと言う事だ。そうすれば当然アンサートーカーの力は絶対に使用しなければならない。

その為にも決戦の時までなるべく使用は控えた方が良いのではないかと思ってしまう。

 

 

「それは、確かに……」

 

 

だがそうなるとヘラーの居場所が、だ。

清麿としても使わないに越した事は無いが、流石にコレばかりは何ともできぬ話ではないか。

 

 

「マジルは知らないのか?」

 

「ご、ごめん。僕も分からない」

 

 

こうなるともうどうしようも無い話ではないか。やはり使用するしかないのかもと誰もが思ってしまう。

 

 

「同じ力を持つデュフォーはどうなんだい?」

 

「そうか、それなら――!」

 

 

彼とは以前連絡先を交換しておいた。

すぐに携帯を出して連絡をしてみるが、結果は繋がらないに終わってしまった。

しかしそこでハッと表情を変えた清麿。そうだ、デュフォーは駄目だったが、自分にはまだ頼れる知り合いがいるのかもと。

 

 

「頼れる当てがあるのか?」

 

「ああ、前に戦った奴で最近連絡先を交換しておいたんだ」

 

 

向こうも魔物の子と再会できていれば或いは。

清麿は早速その者に連絡を入れてみる。数回のコール音、そしてその後通話に切り替わる音が聞こえ、彼の声が聞こえてきた。

 

 

『珍しいな、何か用か?』

 

「ああ、いきなりで悪いが、少し頼みたい事があるんだ」

 

『頼みたい事――?』

 

 

すると声の向こう側でもう一つの声が聞こえてきた。

どうやら清麿に反応したらしい。

 

 

『久しぶりだな高嶺ピヨ麿ッ! また会えて嬉しいぞ! ペッ! ピヨ麿ペッペッ!』

 

「お、お前も変わって無さそうだな……」

 

 

清麿が助けを求めたのは以前戦った魔物の子、コーラルQとそのパートナーのグラブであった。

グラブは清麿の周りでも数少ない同等のIQを持った天才少年だ。それもあってか他の人には相談できない問題をお互い相談していた。

尤も本当にたまにではあったが、ふと彼もコーラルQと再会できているのではないかと言う想いが過ぎった。

どうやらその予想は的中していた様、清麿はすぐに簡単な事情を説明して助けを求めた。

 

 

『成る程、魔神か。コーラルQのレーダーにも魔物とは違う何かをまた探知していた所だ。それがまさか神とはな』

 

「そう、そのコーラルQの魔物を場所を特定する能力でティオの居場所を特定してくれないか?」

 

『いきなりだな。日本となるとココから距離もある』

 

「ぐッ、やはり無理か?」

 

 

するとグラブを押しのけたのか、コーラルQの声が。

 

 

『ええい馬鹿にするなよピヨ麿! 私は魔界に帰った後も訓練に訓練を重ね、新たなる技を次々と習得していったんだぞーッ!』

 

「本当か! 凄いなコーラルQ!」

 

『えへへ、照れちゃうなもう! じゃあ一緒に変形体操を――』

 

「早くしてくれ」

 

『……ちぇ、ノリ悪いぞピヨ麿! グラブ!』

 

『ああ、ラジェルド・レマ・ロボルク!』

 

 

ガチャガチャと電話の向こうでうるさい音が。

またインチキな変形が行われているのだろうと思いつつ、早速清麿は効果を問いかける。

するとどうやらこの変形はコーラルQの元々持つ特殊能力である『魔物の居場所を探知する能力』を極限にまで高める効果らしい。

清麿達からは見えないが、レーダータワーの様に変わったコーラルQ、彼は意識を集中させてティオの気配を探す。

すると物の十秒もしない内に特定は完了、明確な位置を地図に表示させ、清麿の携帯へ地図のデータが送られてきた。

 

 

『マークは二時間後に消滅する。必要ならまた連絡してくれ』

 

「分かった、助かる」

 

「ウヌ、コーラルQもありがとうなのだ」

 

『ピポパッ! 当然だ、グラブの住む地球が壊されてたまるものか! ピピピ!』

 

 

どうやら自分達が知らないところでまた人間と魔物の子の絆と言うのは深まっている様だ。デモンとマリーはその事を本当に嬉しく思う。

さて、ティオの位置が分かったという事で早速皆はそこへ向かおうという事に。そこはモチノキから少しだけ離れた所にある教会。

ウマゴンのシン・シュドルクがあればすぐにたどり着けるという所。

早速皆はそこへ向かおうと声を合わせる。

 

 

「その前に、サンディ!」

 

「うん、まかせて!」

 

 

魔本を開き意識を集中させるサンディ。

大分心も落ち着いたと言う事で彼女も本調子を取り戻したようだ。

 

 

「ゴウ・フォジオ!」

 

「!」

 

 

マリーから放たれた天使の姿をしたエネルギーが清麿に直撃する。

サンディの心の力を他者に渡す呪文で、バオウを使っていた清麿や、移動に大きなエネルギーを使ったサンビームの心の力を彼女は回復させた。

 

 

「ありがとうサンディ! 助かったよ」

 

「すまない、かなり余裕ができた」

 

「オッケーオッケー! 気にしないで。私心のパワーは人一倍だからさ!」

 

 

ガッツポーズをしてニッコリと笑みを浮かべるサンディ。

隣に居るマリーも頷いていた。だからこそ、彼女達はこうしてパートナー契約を結んだ部分もあるのだから。

 

 

「ッ? そうなのか?」

 

「ええ。わたし達神子はユリアスの命で他の魔物と同じくパートナーを選出する事を命じられたわ」

 

 

ただそのパートナーは自分で決めていいと言う話。

だからこそデモン達は人間界を吟味し、一つの可能性を見出した。

それは日本のとある地で生まれた者達は、魔物の強さを左右する心の力が他の人間に比べて強い事。

 

 

「シンセイ町、章吾とサンディが生まれた町さ」

 

 

そこで生まれた今現在三十代までの人間が極端に心の力の容量が膨大だと言う事が分かった。

だからこそデモン達はその人間をスカウトし、魔本を与えたという訳だ。

早い話が才能と言う事だ。訓練を積んで強くなった清麿達と何もしていない章吾が同等の戦いを繰り広げたのは、ひとえに彼の才能である。

清麿が天才ならば、章吾やサンディもまた天才だったと言う話だ。もちろんそれは普通に生活していれば絶対に目覚める才能では無かったろうが。

頭脳や運動センスとは別のベクトルにある才能なのだから。

 

 

「でも情けない話さ。心の力は優れていても、それを維持する精神力が俺達には無かった」

 

 

恐怖に縛られて実力を出せないのでは意味が無い。二人は顔を見合わせ表情を曇らせる。

 

 

「でも、リベンジはさせてほしい」

 

「イエス! 私も私も。このままじゃ終われないって話!」

 

 

二人の強い目を感じて清麿は頷く。

彼としても共に戦ってくれる仲間は多い方が良い。

 

 

「あの、僕も……行きたい」

 

 

少したじろぎながらも手を上げるマジル。

 

 

「マジル? いや、しかし――」

 

「お願いだよ、僕もティオさんを助けたいんだ……!」

 

 

目にはまだ怯えの感情が映っていたが、それでも彼はヘラーに立ち向かいと言った。

 

 

「僕には人間や魔物の様に考えるって事ができない。でもそれでも、やっぱりヘラー様は間違っていると――、信じる」

 

 

ガッシュや清麿の強い感情が、彼なりの答えを示したのだ。

だからこそ彼はヘラーに逆らう事になってもティオ達を助けたいのだと言う。

たとえ足手まといになろうが、抵抗すると言う意思を自分の意思として持ちたいのだと。

 

 

「ウヌ。良いぞ」

 

「ガッシュ! あ、ありがとう!」

 

「清麿達も良いな?」

 

「まあ、仕方ないな」

 

 

頷く清麿。とにかくもう時間は無い。

サンビームはシン・シュドルクを発動し、サンディは空気抵抗をゼロにしてウマゴン自身もシン・シュドルクのダメージを軽減させる『ライフォジオ』を発動させ、一同は早速ヘラーがいるだろう教会を目指して飛び立った。

高速で空を駆けるウマゴン。その背の上、デモンはガッシュに一つの提案を。

 

 

「なあ、ガッシュ」

 

「どうしたのだ?」

 

「お前、神になる気は無いか?」

 

「ヌ!? 私が神様にか!?」

 

「ああ……」

 

 

ヘラーを見ていて思った。彼女らは邪悪なる心に支配された邪神。

神の世界もまた、徐々に綻びが見え、今と言う時の中に均衡と調和は崩れ去った。

再建が必要となる時、その中でもしもヘラーを倒せば神の席がそれだけ空く事になる。

デモン自身よく分かっていないが、ユリアスの話しによれば空席は許されぬらしい。均衡は力の調和によって保たれる物。

バランスが崩れれば世界を構成する力もそれだけ弱くなると。

ではもしも今ヘラーを倒し、他の邪神を倒したとして、その席には誰がつけばいいのか?

デモンはその一席にガッシュを推薦したいと。デモン達も元をたどれば魔物の子、だからユリアスの加護の下、ガッシュを神子にしてもらえばと。

 

 

「今の世に必要なのは、お前の様な考え方だと思うんだ。だから――」

 

「申し訳ないが、私は辞退させてもらうぞ」

 

「ッ、ガッシュ……!」

 

「私は魔界の王となった。その責任は、せめて全うしたいのだ」

 

 

ガッシュは言う。彼もただ考えもなしに王の座にいる訳じゃない。

王の冠、王の席、なによりも王と言う称号。それは数多の魔物の子が喉から手が出るほどに欲した物だ。

多くの夢や希望、強い志を抱いて魔物達は神の試練に挑んだであろう。

 

今、自分はその上に立っている。

多くの魔物達が目指した魂を乗り越えて、踏み越えてそれを手にした。

神になったとしても王の責務は果たせるのかもしれない。しかしガッシュはそう割り切れなかった。

神は神、王は王、それはヘラーとて言っていたことだ。だからガッシュはこの問題をあくまでも魔界の王として挑みたいと。

 

 

「だから、そう、その席にはデモンが座ればいいではないか」

 

「おれが……?」

 

「ウヌ。神の座も王の座も、もしかするとそれほど違いはないのかもしれぬ」

 

 

ガッシュはデモンの目を見て問う。

 

 

「もしもデモンは私達が行った神の試練に魔物の子として参加していたら、どんな王を目指しておったのだ?」

 

「どんな、王?」

 

「ウヌ。もしも何か明確な形を持った王になりたかったのなら、その王の部分を神にすればよいのだ」

 

 

そうすれば、デモンにも何かが見えるかもしれない。ガッシュはそう言ってニッコリと笑う。

ガッシュは優しい王様になりたかった、ではデモンは? 彼はどんな王を目指していたのだろうか?

 

 

「それは……」

 

 

ガッシュは色々な魔物と出会い、様々な王の形を見た。

優しい王様、自由な王様、守る王、強き王。彼らはそれを目指すだけの想いがあったのだ。

だからこそ、デモンも目指したい神の形を明確にイメージすれば、彼が神子から神になればいいだけの話しだ。

 

 

「すごいな、ガッシュ……」

 

 

デモンとしては全く驚かされるばかりだ。彼はどうやら明確な芯を神の試練で獲得できた様だ。

ふと考えるデモン。もしも自分が王になるのなら、神になるのならば、どんな志を持っていたいのか。

そして、まさにその時だった。

 

 

「ディオ・バーガスホロウ!」

 

「「「「「!」」」」」

 

 

一同の耳には呪文を唱える声。

そしてウマゴンの眼下に無数のエネルギーがコチラに飛来してくる所だった。

 

 

「め、メルッ!」

 

 

縦横無尽に攻撃を回避するウマゴンだが、細いレーザーの様な物もまた同じく縦横無尽にウマゴンを狙ってくる。

魔本を開くサンディ、恐怖は込み上げるが、今はそんな事を言っている場合ではない、彼女は軽く頬を叩くと気合を入れて呪文を故障する。

 

 

「ディシルド・ラブル!」

 

 

巨大なハート型のシールドがウマゴンを包み込む。

次々に命中していく敵の攻撃、サンディとマリーは衝撃に歯を食いしばる。彼女の

一方で素早く状況を確認する清麿たち。見るとそこには翼を広げてコチラを睨みつける使徒ザムザの姿が。

執事の格好をしたコウモリとでも言えばいいか、モノクルの奥にある赤い瞳が殺意を放っていた。

どうやらウマゴンたちの力を感じ、彼らがティオたちを助けに来た事を察した様だ。

 

 

「醜きハエ共め! お前たちにヘラー様の下へ向かう資格は無い!」

 

「くッ!」

 

「ホロウ・ソルド!!」

 

 

ザムザが持つレイピアに邪気のオーラが纏わりついた。

彼はそのまま翼を広げウマゴンの下へ向かっていく。ウマゴンも次々と迫るディオガ級の呪文にスピードを少し緩めてしまう。

ザムザもザムザで強力な肉体強化を使っているのか、減速したウマゴンのスピードに追いつかん勢いで迫ってくる。

向こうが攻撃を仕掛けてくる以上コチラも対抗しなければならない。

 

 

「アイツはおれが止める」

 

「ッ! デモン!」

 

「どの道倒さなければならない相手だ」

 

 

ヘラーの所まで付いて来られては逆に厄介な相手になる。

目的地までまだ距離がある今、この場でヤツを確実に倒した方がいいのではないかとデモンは思うのだ。

 

 

「章吾、いけるな?」

 

「………」

 

 

複雑な表情で目を閉じていた章吾だが、グッと両手の拳を握り合わせると何度も頷いていた。

どうやら彼なりの覚悟を固めたらしい。章吾は魔本を持って立ち上がると、清麿を見てニヤリと笑う。

 

 

「アイツは任せろ」

 

「………」

 

 

止めるべきか、清麿は一瞬迷うが――

 

 

「頼む、行かせてくれ」

 

「……ああ、頼む」

 

「よし。ウルボル・ザ・ブルク!」

 

 

迸る雷光。刹那、マリーのシールドが破壊されザムザの剣がデモンに迫る。

 

 

「ソルド・ザケルガ!」

 

 

右手に現れた雷の西洋剣でデモンはザムザの剣を受け止める。

走る火花、二人の視線がぶつかり合い、そこにも火花を散らせる。

 

 

「神子風情が! 使徒の私に歯向かうか!」

 

「ああ。天界の責任を下界に任せっぱなしは――」

 

 

ビリッと走る衝撃、ザムザの動きが一瞬止まり、競り合っていた筈のデモンが背後に現れる。

質量のある残像、デモンは気を取られていたザムザの背を思い切り切り裂き、怯ませることに成功する。

 

 

「できねぇよな!!」

 

「おのれッ!」

 

「章吾!」

 

 

デモンは渾身の力でザムザの背に掌底を。

 

 

「ああ、ザケルガ!」

 

「ぐっ! グォオォオオ!」

 

 

押し当てられた拳から一直線に放たれる雷のレーザー。

ザムザはすさまじいスピードで地面に激突していく。顔を見合わせるデモンと章吾、ココでケリを付けるという事だ。

章吾はデモンの足に掴まるとウマゴンから離脱、ザムザの方へ向かっていく。

 

 

「私も行く!」

 

「ッ、しかし――」

 

 

サンディが身を乗り出すが、彼女も怯えていた側、大丈夫かと言う想いが一瞬浮かんだが、サンディの強い目を見て清麿は無言で頷いた。

それを理解したか、サンディは魔本を開いて自らも下に降りる為の呪文を。

 

 

「バウロ・ラブルク!」

 

 

ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンと風を切る音を立てながら回転していくマリーのツインテール。

そうしていると文字通り彼女の髪がプロペラとなって飛行能力が。

マリーの足に掴まるサンディ、二人はデモンたちを助ける為に彼らの方へと降りていく。

 

 

「チィイ!」

 

「ザムザ! お前はおれ達が倒す!」

 

「おのれッ! 調子に乗りおってからにッ!」

 

 

山の中、渓流のほとりで睨み合うデモン達とザムザ。

一見すれば四対一とも取れるが、向こうは強力な使徒。決して油断はできない。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫かい清麿」

 

「ああ、彼らの力は本物だ。ココは四人に任せよう」

 

「分かった、じゃあウマゴン、私達は教会に向かおう!」

 

「メルメルメー!」

 

 

一方で再び発進するウマゴン。

しかしザムザがコチラの存在に気づいていたと言う事は、だ。

その可能性を考えるのは簡単だったし、事実それが的中した時には特に驚くことは無かった。

章吾達と離れてものの数分でウマゴンは目的の教会が見える所にやって来る。

 

だがその門前にてどっしりと構えていたのは最後の使徒ガジュル。

二本足で立つ大きなサイに鎧を被せた姿、その威圧感に思わずウマゴンは汗を一筋。

しかし彼は止まらないし、自分の役割を理解している。全てはこの背に乗せる友の為に。

 

 

「清麿、アイツは任せてほしい」

 

「メルメルメーッ!」

 

「ッ、だが使徒は――」

 

 

一人では危険だ、そう言おうとした清麿の肩をフォルゴレが軽く叩く。

 

 

「任せろ清麿。時間が惜しいんだろ、キャンチョメと私もウマゴン達に協力するよ」

 

「僕が居れば無敵なんだ、安心しろよ」

 

 

しかしそうなるとヘラーと戦うのが清麿とガッシュ、マジルだけとなってしまう。

それでも仕方ないのだとフォルゴレは少し含みのある笑みを浮かべた。

女性が囚われているとあればこのフォルゴレが動かぬ訳にはいかないが――

 

 

「恵に至っては私じゃなく、君の方が適任の様だからね」

 

「ど、どういう意味だよ」

 

「文字通りの意味さ。ティオだってキャンチョメじゃなくて、ガッシュに助けに来てほしいだろう?」

 

「ウヌ? そうなのか?」

 

「ああそうとも。だから、さあ、早く行きたまえ!」

 

「あ、ああ」

 

 

少し気恥ずかしそうにしながら清麿は頭をかいた。

だがココはご好意に甘えるとしよう。清麿はガッシュにまず上を向く様に指示を。

 

 

「ザグルゼム!」

 

 

ガッシュの真上、天に向けて放たれたザグルゼムは当然空に向かって飛んで行くだけ。

しかし当然清麿がこの場で意味の無い事をする訳も無く、彼には当然一つの狙いがあった。

これもまた清麿が見出したガッシュの可能性。赤い魔本が光を放ち、彼は第六の呪文を口にする。

 

 

「ラウザルク!」

 

 

ラウザルク、ガッシュの身体能力を爆発的に上昇させる技である。

そしてその発動は、ガッシュを直撃する様に落雷が落ちる事。そう、落雷は天から一直線に落ちてくる物。

つまりガッシュの真上から落ちてくる落雷は、その途中にあったザグルゼムを介しガッシュに直撃する。

するとザグルゼムのパワーを受けたラウザルクとしてガッシュは強化されるのだ。

 

 

「凄い……!」

 

 

思わずマジルは口にする。

ガッシュの体に電撃が纏わりついたかと思うと、それが形を整えて大きな翼になった。

雷の翼、それは見た目どおりガッシュに飛行能力を付与する力を持っている。

 

 

「いけるか? マジル」

 

「うん……!」

 

 

清麿はマジルを抱え、ガッシュが巨大化させたマントに乗ると、ウマゴンから離脱して飛び去った。

当然ガジュルもガッシュを止めようと目を光らせる。しかしそんな彼に角を突き出し飛翔するウマゴン。

 

 

「メルメルメーッ!」

 

「ウォオオオオオ! ディオガ・ガドルク!!」

 

 

強力な肉体強化を施し真正面からウマゴンの突進を受け止めたガジュル。

強力な力と力の競り合い、サンビームとフォルゴレ達は少し後方で地面に着地、競り合いを確認している。

ディオガ対シン、一見すればコチラもウマゴンが有利に思えるが――?

 

 

「使徒をナメるなよ、雑魚がァアア!」

 

「メルァア!!」

 

 

呪文を発動していない状態のパワーの差が出たか、ガジュルはウマゴンを弾き飛ばしシンの鎧を粉々に粉砕して見せた。

倒れ、転がるウマゴン、サンビームはすぐに駆け寄り彼を抱き起こす。

 

 

「大丈夫かウマゴン!」

 

「め、メル……!」

 

 

ウマゴンの目は死んでいない。どうやらダメージも少ないようだ。

しかしココで笑い声。見れば重厚な鎧に包まれたガジュルがサンビームたちを見下している。

とんだ期待外れ。ウマゴンの実力にガジュルは嘲笑を。

 

 

「フハハハハ! 終盤まで勝ち残っているとは聞いていたが、所詮はただの魔物の子、俺様の敵では無いわ!」

 

「ッ」

 

「種の違いは絶対の違い、お前らが俺様に勝てる可能性など万に一つも――」

 

 

バキン、と、その時音が。

 

 

「は?」

 

 

ガジュルの間抜けな声。

瞬間、彼の鎧が粉々に砕け散った。

 

 

「何だと――ッ!?」

 

「コチラこそ言わせて貰おう」

 

 

驚くガジュルが見たのはこちらを真っ直ぐに睨みつけるサンビーム達の姿だった。

そこに怯えの感情は無い。それはウマゴンにも、フォルゴレにも、キャンチョメにも言える事だ。

負ける事など欠片とて考えていない様な目。

 

 

「ウマゴンをナメるな」

 

「!!」

 

「私達はあの戦いで多くの事を学び、成長していった。かけがえの無い物を見つけた」

 

 

それを胸に抱える限り、自分達に負けは無いとサンビームは説く。

育んできた物は、ココに。サンビームは自身の心臓を掴む様にしてガジュルを睨みつけた。

 

 

「確かに、お前は強いのだろう」

 

 

神の力で生み出された力の結晶。

認めよう。ああ、認めよう。普通に考えてウマゴンの力では勝てない、キャンチョメが味方してくれても敵わないのかもしれない。

だが――、同じくして自分達もまた彼らには無い力を持っている。

 

 

「私達の武器は昔も今も変わらず(ハート)だ」

 

「貴様――ッ!」

 

「超えられるか? 貴様に、私達の強さが!」

 

「うるさいヤツだ! 黙れ黙れぇえッ!」

 

 

共に肉体強化を発動して走りだすウマゴンとガジュル。

フォルゴレとキャンチョメも彼らをサポートする為に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ!」

 

「フンッ!」

 

 

ぶつかり合う剣。

デモンとザムザの武器は火花を散らし、互いに競り合っていく。

パワーはデモンがやや上を行くが所詮は付け焼刃か、テクニックはやはり剣をメインに扱うザムザが勝り、隙を突かれてデモンの剣が弾かれ宙を舞う事に。

 

 

「もらいましたよ!」

 

「しま――ッ!」

 

 

やばい、とデモンは思うがそこで桃色の光が。

 

 

「シルド・ラブル!」

 

「何ッ!?」

 

 

ハートのオーラがデモンを包み剣を遮断する。

弾かれ、がら空きになったザムザの胴体にデモンは両手で掌底を打ち込んだ。

細身の胴にめり込まんとの勢いで突き刺さる手、呻き声を上げたザムザとザケルガを発動する章吾、両手の胴から放たれたザケルガがザムザをさらに押し出していく。

 

 

「マリー!」

 

「分かってるって! サンディ、打ち上げるやつ!」

 

「オッケー! ガンジャス・ラブル!」

 

 

地面を猛連打するマリー。

地面から飛び出ていくハートのエネルギーがザムザの体を宙に舞い上げる。

ザムザは翼があるが、今はダメージを受けて怯んでいる状態だ。つまり怯んで動けない。

 

 

「パターン入った! 章吾、ギガノだ!」

 

「サンディ、わたしも!」

 

 

頷く章吾達。

大きな雷球を投げるギガノ・ザケルと大きなハートを投げるギガノ・ラブルが同時に放たれ、デモン達はそれを思い切り空中に打ち上げられたザムザに投げつける。

 

 

「ぐああああああああッッ!!」

 

 

二人の攻撃を受けたザムザは川辺を転がっていく。

チャンスだ、デモンとマリーは頷き合い勝負を決めようと彼の下へ走り出す。

一方で素早く立ち上がるザムザ、彼は怒りに拳を震わせながら呻き声を上げていた。

いくら使徒とは言えど、神子が二人掛かりで挑めば何とかなるのかもと。

しかしいざザムザに近づいた時、彼はニヤリと含みのある笑みを。

 

 

「だから貴様らは愚かなのだ!」

 

「「ッ!」」

 

「がら空きなのだよ! ホロウ・ガルゴ!」

 

 

剣を地面に突き刺すザムザ、すると章吾とサンディが立っていた地面に淡い光が宿り――

 

 

「ぐあぁああッッ!」

 

「きゃぁああッッ!」

 

「ッ! 章吾!!」

 

「サンディ!」

 

 

二人が立っていた場所から闇のエネルギーで構成された棘がいくつも突き出てきた。

打ち上げられ空中を舞った後に地面へ叩きつけられる。衝撃、痛み、体中から血が飛び散り二人の脳に恐怖を分かりやすい形で叩き込む。

パートナーを狙ってきた。デモン達はやられたと思わず視線が章吾たちの方へ向いてしまう。それは大きな隙だ、ザムザがそこを狙わぬ理由は無い。

 

 

「ジェルド・マ・ソルド!!」

 

「「―――」」

 

 

一瞬、まさに一瞬で刻まれる一閃。

居合い切りの呪文を発動したザムザ、レイピアでありながらも闇のオーラが剣には纏わり付き、斬る事に対しての力が上がっていた。

切り抜けられたデモン達はダメージに声を失い、膝を付く。

そして、笑うザムザ。

 

 

「所詮はお前達も神子。立場で言えば我ら側なのです」

 

 

パートナーを持つ事に対しての実感が薄い。

だからこそパートナーに対しての関心が薄い。一定の距離も保てず、ただ目先の勝利に固執する。

愚か、ああ愚か。だからこそいらぬ隙を作る。いらぬ痛みを受けるのだ。

 

 

「結果、事態は劣勢になる! ガンズ・ホロウ!」

 

 

翼を広げたザムザは空中から闇のエネルギーを無数に発射。

狙う先は目の前にいたデモン達ではなく倒れていた章吾達。

 

 

「ッ! あの野郎……!」

 

 

泣きそうな表情で乾いた笑みを浮かべた章吾。

彼はとっさにサンディに覆いかぶさる形になってグッと歯を食いしばった。

 

 

「があぁあああぁあッッ!」

 

 

激しい痛みが章吾の体中を打つ。

闇と言う不確かなエネルギーを受けるのは初めてだ。

熱く、苦しく、痛く、言葉にできない苦痛が脳に伝わってくる。

ヤバイ、痛い、無理だ、苦しい。なんなんだ、清麿達はずっとこんな苦しい戦いをしていたのか。章吾の心は再び砕けそうになってしまう。

当然、落ちていく心のパワー。あきらめたい、正直命乞いをしてでも助かりたいと思った。今すぐ家に帰ってゲームがしたいと、漫画を読みたいと思ってしまった。

やっぱり自分なんて役に立たないんだ。清麿みたいに頭脳も才能も何も無い自分ができる事なんてたかが知れているのだから。

 

 

「ああ。なんと弱く、脆い。やはりコレが人間の限界か」

 

「お前ぇええッ!」

 

 

なんとか立ち上がったデモンは地面を蹴ってザムザの眼前へ迫る。

空中を飛行しながらデモンは拳、ザムザは剣を使って激しい攻防を繰り広げた。しかし今の二人には決定的な違いがある。

それは、ザムザは自由に呪文の力を使えると言う事だ。

 

 

「ゴウ・ソルド!」

 

「ぐぉおおッッ!」

 

 

強化した剣のパワーには当然デモンは勝てず、地面に叩き落される。

 

 

「――ッッ! 章吾、すまない! 何か呪文を!」

 

「ぐッ! がッ! ざ、ザケルガ!」

 

 

章吾は何とか魔本に心の力を溜めて呪文を。

デモンが放つのはザケルガ、しかしザムザはそれを避けはせず、かと言って防御呪文を使用しない。

なんと片手でザケルガを弾いたのだ。

 

 

「ホッホッホ、やはり人間と組むのは理解ができないものですな」

 

 

心が篭っていなければ、呪文の力はそれだけ弱体化する。

いくらデモンが優れた力を持っていようが、いくら章吾が膨大で優れた心の力を持っていようが、それを発揮できない環境に居るのだから何も意味は無い。

何よりと、ザムザは思うのだ。彼もまたヘラーから前回の戦いの事は聞いていたし、事実間近で高嶺清麿や大海恵等、前回の戦いで終盤まで勝ち残ったペアと対峙した。

その上で一つの答えが見えた。

 

 

「デモンのパートナー。ああ、章吾と言いましたか」

 

「ッ?」

 

「お前は臆病者だ」

 

「!!」

 

 

少し痛みを受けただけで心の在り方が変わってくる。

仕方ないと言えばそうなのかもしれないが、同じサンディを見てみれば彼女の心の形はまだ安定しているように見える。

しかしどうだ? 荒川章吾と言う男の心は酷く不安定だ。

脆く、儚く、簡単に壊れてしまいそうな物。だから役に立たない、だから使えない、だから今こうして負けている。

 

 

「デモン、お前が選んだのは欠陥品だ」

 

「なんだと……ッ!」

 

「使えない屑。何の役にも立たないゴミであると言っている」

 

「ぐぁあッ!」

 

「弱いお前にはピッタリだ」

 

 

デモンの肩をレイピアが貫く。そして腹部に蹴りがめり込んだ。

怯んだところに攻撃呪文。闇のエネルギーを纏いながらデモンもまた地面を転がり、痛みに表情を歪ませる。

章吾はそれを倒れたまま、顔だけを上に上げて確認する。

ああ、やはり無理なのかもしれない。今までロクに喧嘩すらしてこなかった自分があんな力を持った敵に勝つなんて初めから不可能だったのかもしれない。

ハードルが高すぎた。何かあってもヘラヘラ笑って何とかやり過ごしてきた。その裏にあったのは全て衝突を避ける事だ。

 

そう、そうだ、臆病だ。

悔しいがザムザの言っている事は間違いない。

自分は今、また心が折れそうになっている。もう魔本を投げ捨てて、ザムザに背を向けて逃げ出したいとまで今心の隅では思っている事だろう。

でもそれをしたくないと思っている。何故? どうして?

分からない。

 

 

「永遠に私の前から消えろ!」

 

 

剣を構えデモンを狙うザムザ。

だがその時、眩い光が視界に入る。

 

 

「ロンド・ラブル!」

 

「!」

 

 

ザムザは手に違和感を覚える。

見ればそこには鞭が巻きついており、それを辿るとマリーが呪文で生み出された鞭を構えザムザを睨みつけていた。

そして対する場所では魔本を構え立ち上がっているサンディが。魔本の輝きを見るに彼女にはスイッチが入ったようだ。それは章吾が抱いた恐怖とは逆のスイッチが。

 

 

「章吾を――」

 

「ッ」

 

「私の友達を馬鹿にすんなよッ!」

 

 

カッと光を放つ魔本。怒りが彼女の力に変わる。

心が折れかけ恐怖に震える章吾と、友を馬鹿にされた事を怒りとして力に変えるサンディ。

対比は大きい。そしてその対比はまた、その横に居る章吾に何を与えるのか。

 

 

「ディオガ・テオラブル!」

 

 

マリーが放つ巨大なハート型のエネルギーがザムザに迫る。

彼は舌打ちを零し、自身もディオガ級の力であるディオガ・テオホロウを放ち迎え撃つ事に。

桃色のエネルギーとどす黒いエネルギーの衝突。激しい衝撃が辺りを包み、草木や水を振動させる。

結果、二つは相殺。はじけ跳ぶ二つのエネルギーの中、先に動いたのはザムザだった。今の状態のサンディを放置するのは危険と判断したか、彼は再び離れた彼女を狙うホロウ・ガルゴを発動しようと剣を地面に突き刺そうと。

だが同時に倒れるマリー、彼女は指で銃の形を作る。

 

 

「ラブルガ!」

 

 

銃声と共に直線状のエネルギーが放たれる。

弾かれる剣、マリーの行動をいち早く察して呪文を放ったサンディの判断力と反射神経を称えるべきであろう。

 

 

「ラヴ・シザルク!」

 

 

サンディはすぐにマリーに武器を与える。

二対の刃を構え走り出したマリー、彼女は軽やかに、まさに舞う様にザムザに切りかかっていく。

その姿を倒れ、見上げる章吾。ああ、何て格好悪いんだ自分は。そう思っていると足音が。

章吾が体を回転させ、仰向けになると、そこにはコチラを見ているデモンがいた。

 

 

「……ごめん、デモン。アイツの言う通りだ、俺は情け無い男だよ」

 

「いや――ッ、謝るのはおれの方だ」

 

 

やはり、パートナーで戦う事の重要さを分かっていなかった。

いつでも望む呪文が来る訳じゃない、いつでも望むタイミングで攻撃できる訳じゃない。

ワンマンプレイでは、パートナーに攻撃が飛んできた時に対処できない。どうやらそれを分かっていなかった様だ、やはりそう言った点では忌み嫌うヘラーと同じだったろうと。

 

 

「神子なのに、駄目駄目なヤツだよおれは」

 

「………」

 

 

目を閉じる章吾。

彼はゆっくりと息を吐いて、ゆっくりと目を開けた。

青い空が見える。雲ひとつ無い、穢れの無い晴天。

そして彼は表情を歪ませ、ポツリと呟いた。

 

 

「猫を、見捨てた事がある」

 

「え? 猫……?」

 

 

吐露する想いは彼の人生。

 

 

「昔は、何でもできるって思ってた。何でも馬鹿みたいに信じてたんだ」

 

 

サンタはいるのだと、テレビの中にいるヒーローはいるのだと、信じて疑わなかった。

自分もいつかカッコいい存在になれるのだと未来を夢見ていた。

そう、そうだ。未来は明るいのだと、自分の人生は自分が主役、だからこそ自分が満足できる生き方を常に選べると、常にできるのだと妄信していた。

事実それなりに人生そこそこ上手く言っていた筈なんだ。小学校じゃ友達も多かったし、初めての恋だって――、まあ悪くは無かったと思う。

隣の家にいたサンディとは物心ついた時から一緒で、それで仲良くなれて、それでどうなったんだっけ?

 

 

『あたし、将来章吾と結婚するねーッ!』

 

 

なんてのは、まあ今にして思えば青い口約束だ。

だが間抜けな話かもしれないがあの時は信じていた。約束されたのは望んだ未来、輝きに溢れた人生だ。

しかし、でも、だが、いつからだろうか? 成長する度に章吾は大人になっていく。

サンタはいない、ヒーローと言うのはそういうエンターテイメントだ。永遠に一緒に居ると思っていた友人達は皆町を離れ、その中にはサンディだって。

 

中学校に上がる頃には何となく理解していた。

人生と言うのは望まぬ事の方が多く起きる物だと。

と言うよりもアニメやドラマ、漫画で見るよりも人生と言うのは平坦だ。

その中に『主役』はあるのか? 分からない。分からないが、もしも自分の立ち位置を表す言葉があるのならば、それはモブキャラと言うのが一番合っていたのではないかと思う。

何かで一番になった事は中学生になってからは無かった。勉強は中の下、スポーツは何だって他にできる人がいた。

輝き、歓声を受ける人間は初めから決まっているのだと思った。特別な才能を持った人間は生まれた時からそれを与えられるのだと思った。

自分は違う、自分はそうじゃない。何にもなれず、何もなし得る事はできない。

 

でも、どこかで思っていた。

俺はこんなものじゃない、きっとまだ何かチャンスがある筈だ。

燻る毎日を終わらせる程の存在になれる筈だ。過去に憧れた『カッコいい』存在になれるのだと、期待と希望はあった。

それが砕けたのは、ある日、学校から帰る途中の事だった。あの日は午後から雨が降っていて、川の流れもそれなりに急だったのを覚えている。

その中でふと章吾は見つけた、見つけてしまった。川に流されている猫の姿を。なにやら箱の様な物に入っており、増水の影響で流されたのか、川辺にある箱の中に入って遊んでいたら流されてしまったのか、それとも誰かの悪戯だったのか、それは分からない。

それはどうでもいい、問題は今だ、章吾は大変な事を目にしてしまったと焦る事になる。

 

助けなければ。彼は思った。

しかしその時は携帯も無く、周りに人はいない。

大人を呼びにいくという事も考えたが、その間に子猫を見逃してしまってはいけないと思った彼は、ひたすらに流される猫を追いかけた。

どうしよう? どうすればいい、彼は必死に考えた。しかし答えは出ない。柔軟な考え方ができなかった。

そうしている内に猫は見えなくなった。川の流れは速く、あの先は急流があったりと章吾はあの猫がどうなるのか、その結末は簡単に想像がついた。

仕方なかったと言えばそうなのかもしれない。彼は無力だ、世の中にはどうしようもならない事は多々ある。彼にとってはそれがこの一つだったと言う事。

 

しかし章吾が抱いたショックは他者が想像するよりもはるかに大きなものだったろう。

彼だって分かっていた。自分は無力だと。しかしそれを認めたくは無かったんだ。

自分は他者より何か優れている、幼い頃に憧れたカッコいい姿にいつか近づけるのではないかと。

事実流される猫を見た時、自分ならば助けられると思っていたのは本当だったのだ。

しかし無理だった。その瞬間、彼は自分が何もできない男だと突きつけられたような気がした。

結局なんの力も無い無力なガキであると言う事を他でもない世界に、現実に、神に教えられた気がした。

 

欲しかったのは理想と、『甲斐』だ。

何か生きている意味がほしかった。生きている価値を見出したかった。

心のどこかではまだヒーローに、格好良く生きられると思っていた。その結果がコレなのか、それを思えば涙が出てきた。

理想と現実がそこにはあった。一番知りたくなかった現実を見てしまった。

そして彼は今までを生きてきた。その中で何か、どこかに『やる気』と言う物をなくした気がする。

適当に生きて、何か問題があってもヘラヘラしていれば実際何とかなった。妥協に妥協、大きな問題があっても見てみぬふりだ。

それで良いと割り切るしかない。自分に力など無いから。

 

 

『よっし、合格だぜ荒川章吾』

 

 

そんな時、そんなある日、彼はデモンに出会った。

同じ河原を歩いていたらば見つけた少年、倒れている彼を見て初めはスルーを決め込もうと思ったが、瞬間思い出したのはあの時の猫だ。

結局まだ未練はあったのだろう。章吾は複雑な思いを抱いてデモンに話しかける。すると彼はすぐに立ち上がり自分に笑みを向けてきた。

どうやら人間性を確かめるテストだったらしい。倒れている者を見過ごさない章吾、それはたまたまであったが、彼はデモンに認められた。そして神の試練、魔界の王を決める戦いの話を聞いたのだ。

 

初めはただの厨二病の妄想話しかと思ったが、調べてみると確かにモチノキにファウードが現れたというネットニュースが。

彼がモチノキに来たのは高校が始まる時だった為、見逃していた様だ。

何より、魔本。試し撃ちにとザケルを出した時の感動を章吾は生涯、忘れる事は無いだろう。

人を超越した力は求めていた物、それこそ手が出るほどに。加えて、デモンは言った。

 

 

『章吾、お前には才能がある!』

 

 

心の力の質。その量。それは他を凌駕する圧倒的なスペック。

 

 

『お前は天才なんだ!』

 

 

希望だった。どれだけその言葉が欲しかったか。

秀でている物が欲しかった、ただ切実にそれを望んでいた。

それが手に入ったとき、自分の人生は無色じゃないと胸を張れるのではないかと期待した。

事実、ガッシュと戦った時、この上無い充実感が手に入った。

かつて魔界の王を決める戦いで最後の一組となったガッシュ達と互角に渡り合える実感、事実、それは章吾にとってこの上に無い喜びであった。

 

だが、誤解していた。

勘違いしていた。結果はコレだ、結果は今だ。

結局力だけを手に入れた所で何かが変わる訳ではなかったと言う事なのか。弱いままだ、自分は、今も、昔も。

そして、これからも?

 

 

「じゃあ、駄目駄目コンビだなおれ達は」

 

 

――全ての話を聞いた後、デモンは呆れた様に笑った。

 

 

「それでいいのか? 章吾」

 

「……ッ」

 

 

デモンが呟いた言葉に、章吾は目の色を変える。

 

 

「おれは、ゴメンだけどな。馬鹿にされたまま終わるのは、自分を馬鹿だと思ったまま終わるのは胸糞悪いぜ。おれにも神子としてのプライドってモンがあるんだ」

 

「……でも、分からないんだ」

 

 

格好良く生きたいと思う。

それは今だって。希望は未練だ、ダラダラと縋りたいと思ってしまう。

罪じゃない筈だ、あきらめきれない想いが一つや二つ、誰にだってあるだろう?

たとえ諦めていると思っていても、口にしたとしても。

 

 

「本当は分かっているんじゃないのか、章吾」

 

「………」

 

「あとは、振り切るだけだ」

 

 

恐怖を超えるかどうか。そのスイッチは、いつだって心の中に。

 

 

「おれは思ったよ。ガッシュに言われて考えた」

 

 

もしも王を決める戦いに参加していたら、自分はどんな王を目指していたのだろう。

今のデモンは全てユリアスの為に戦っている存在だ。それを悔いる事は無いし、それでも良いと思っている。

しかし、もしも自分自身の意思で戦う事があったなら、それはどんな志の下に?

そうしたら、答えは一つだった。

 

 

「おれは正しくありたい。目指すのは、"正しい王様"だ」

 

 

正義は不確かだ、しかしだからこそ自分が信じる思いを貫きたい。

人が笑い、平和な世界を目指す。それは紛れも無いデモン自身の意思、だからこそ自分は正しき神を目指したいと。

それは紛れも無い彼だけの、彼自身の欲望と言うものだ。

 

 

「章吾だってあるだろ、欲望」

 

「ああ、前も言ったけど、俺は目指す形は――」

 

 

格好いい姿だ。

それは他人が決める物じゃあない、自分が決める物だ。

スイッチを押すのは自分自身、だとすれば――、デモンは章吾に手を差し伸べる。

 

 

「終われないよな、このままじゃ」

 

「ああ……、ああ!」

 

 

章吾は強く頷き、その手を取った。

そして、光が巻き起こる。

 

 

「ザケルガァアッッ!!」

 

 

声が張り裂けんとばかりに叫んだ言葉。

放たれたレーザーはマリーとザムザの間を通り抜け、二人の距離を離す。

何だ!? ザムザが力の波動を感じて視線を移す。するとそこには魔本を構え、呼吸を荒げながらザムザを睨む章吾が見えた。

その眼光、血を体から落としながらも彼は恐怖を押さえ込み、視線でザムザを貫いていた。

そしてそれは隣に居るデモンも同じだ、腕を組んでザムザを睨みつけていた。

 

 

「お前――ッ!」

 

「終われねぇわ」

 

「何……!?」

 

「終われねぇ、このままじゃ間抜けすぎる」

 

 

憧れ続けてきた物のメッキは次々に剥がれ、信じた未来は離れていった。

それでも尚未練がましく思い続けていたのは何故か?

それは現実を知っても、まだ憧れているからじゃないのか? 格好良く生きると言うのは難しい。

だが少なくともこのまま怯え震えているよりは、今こうして立ち上がり、そして清麿やガッシュの為に恵達を助ける力になれれば、それが彼が望む道だと言うのが分かった。

なんの為に生まれてきた? なんの為に生きながらえてきた? 全ては今、この時の為に。

 

 

「ザムザ、俺はお前を倒す。人類はお前達には壊させない!」

 

「ッ!」

 

「世界は、俺が守る!」

 

「ええい黙れ黙れッ! 下等種族が何を偉そうに!」

 

 

剣を構えデモン達の方向へ走り出すザムザ。

一方で章吾とデモンは素早く会話を。どうやらデモンの意思と章吾の意思が呼応したか、新呪文が二つ魔本に浮かんだようだ。

新しい呪文。デモンは思わず目を見開いた。神子である自分にもまだ、新たな力が宿るとは。

章吾は当然新しい呪文の効果は分からない、しかしある程度ならば予想立てる事は可能だ。

 

 

「ラウザルド!」

 

 

ラウザルクはガッシュの身体能力を爆発的に上げる呪文だ。

『ルク』は主に身体能力を変質する呪文形態である。一方『ルド』は、主に自身以外に変化を与える呪文形態。

対象を磁石に変質させるジケルド、剣を強化させるソルド等。

つまり、ラウザルドは――

 

 

「―――」

 

 

落雷が直撃する。

誰に? それは他でもない荒川章吾にだ。

ラウザルドはラウザルクと効果は同じである。しかしその対象はデモンではなく、デモンが選んだ他の人間だ。

落雷を受けた章吾は予想している効果と違っても良いという心情で拳を突き出した。

 

 

「ガァアア!!」

 

 

顔面にめり込む章吾の拳。

きりもみ状に吹き飛ぶザムザと大地を踏みしめる章吾。彼はデモンに視線を送ると、ニヤリと笑みを送る。

 

 

「いこうぜ、デモン!」

 

「ああ、相棒!」

 

 

二人そろって走り出す。一直線に、ザムザに向かってだ。

 

 

「「ォオオオオオオオオオ!!」」

 

「グッ! ガハッ! お、おのれぇええ!!」

 

 

地面から立ち上がったザムザはすぐに剣を強化させ章吾たちと交戦を始める。

ぶつかり合う拳と剣、章吾に恐怖が直接流し込まれるが、今は肉体強化でダメージは少ない。

痛みが恐怖に直結するが故、それが軽減すればペースは乱されない。

 

 

「オラァア!」

 

 

戦い方は漫画やアニメの見よう見まねだ。

そんな章吾の繰り出したヘッドバッドがザムザの頭部を強く打つ。

よろけるザムザ、人間にしてやられていると言う事実が何よりも気に入らない。彼は事態を早々に解決するべく、今この時を崩せるだろう呪文を。

 

 

「ジェルド・マ・ソルド!」

 

 

刹那の居合い切り。だが彼はアッと声を出す。それもその筈、反射的に振った剣に手ごたえは無い。

それもそうだ、章吾は先程の呪文をしっかりと見ていた。だから相手が追い詰められればコレを出すだろうと判断したのだ。

故に彼はデモンに自分を上空に投げ飛ばしてもらい剣の起動から逸れた。一方章吾を投げ飛ばしたデモンは地面に倒れる様にして剣を回避した。

 

 

「馬鹿な!」

 

「悪いな、ゲームは得意なんだ!」

 

 

そう、特に格闘ゲームで大切なのは読み。

相手の行動を予想して対策を取り、生まれた隙をチャンスに変える事。

その時、章吾を包む光が消えた。同時に輝く魔本。地面に倒れていたデモンはすくい上げる様なアッパーをザムザに打ち込む!

 

 

「テオザケル!」

 

「ぐあああああああああ!!」

 

 

電流に揉まれ手足をバタつかせながら後方へ吹き飛ばされるザムザ。

大きな水しぶきをあげて川へ着水する。一方で落下して来た章吾を受け止めるデモン、良い調子じゃないか、二人は再びニヤリと笑みを浮かべて頷き合った。

 

 

「ふざけるなァアアア!!」

 

「「!」」

 

 

 

人間、神子、自分に勝てる可能性等欠片も無いのに忌々しい。

飛び上がったザムザは一気に己の中にあるヘラーの力を解放する。

一刻も早くこの状況、この悪夢、この下らぬ時間を終わらせなければ。

 

 

「ディオガ・テオホロウ!」

 

「ッ!」

 

 

強大な邪悪なエネルギーの集合体。しかし章吾は笑みを崩さない、流れは完全にコチラが掴んだ。

誰かが言っていた。戦いってヤツはノリが一番大切なのだと。

 

 

「ディガルセン・エマリオン・ザケルガ!!」

 

 

デモンの手に直撃する落雷。

するとそこから赤紫に発光する重厚な弓が出現する。

鎧とも言える壮大な物。弓、直感するデモン、彼は一本の弦を思い切り引っ張る。すると雷光の弓矢が出現、駆ける電流が一本の巨大な弓矢を構成する。

これは彼らの心の具現化。迷わぬ道を見つけた二人が得た力なのだ。

 

 

「意思を貫けッッ!」

 

 

手を離すデモン。

放たれるのは高速回転する雷の矢、それはディオガに突き刺さると一瞬でそれを貫き四散させる。

この様な事が! ザムザは体を思い切り捻り、何とか矢を回避して見せる。

 

 

「ゲッ! 外した!」

 

「あぁ、こう言う所が俺達らしいな……」

 

一方で怒り、そして焦りが頂点に達したザムザ。

コレは全く予想していない展開だ。下等な生物だとばかり思っていたが、最悪負けもある。彼は怒りに震え、そして完全なる決着をつける為の呪文を放った。

 

 

「勝つのは、我々使徒なのだ!」

 

「「ッ!」」

 

「シン・ホロウ・ディガルソルドン!!」

 

 

レイピアを突き出すと、そこに禍々しいエネルギーが纏わり付き巨大化する。

ザムザの最大呪文、章吾も汗を浮かべながら魔本を開くが、その時彼の肩を持つ者が。

振り返る章吾、するとそこには笑顔のサンディが。

 

 

「私達を忘れないでよ」

 

「え?」

 

「とう!」

 

「あでっ!」

 

「芽生えしは久遠の愛。それは真実を紡ぐ穢れなき光!」

 

 

デモンの肩を蹴って飛んだマリー。彼女は詠唱を紡ぎつつサンディに向けてウインクを。

そしてサンディはその想いに呼応し流し込む心の力、マリーの最大呪文を口にした。

 

 

「輝き、煌けッ!」

 

「ヴィナマリア・ジン・ラブルガ!」

 

 

マリーが両手を天に掲げると、光と共に大きな翼を持った天使が姿を現す。

美しい女性の姿だ、その表情は慈愛に満ち満ちており、全ての罪を赦す微笑を浮かべていた。

それは悪を裁く光、マリーが叫ぶと天使は全身から光を放ち、ザムザのエネルギーを受け止める。

 

 

「「ハァアアアアアアアアアアアアアッッ!!」」

 

「グッ! ォォオオオォォォ!!」

 

 

眩い光が邪悪なる闇を浸食していく。

スペックは神子と使徒を比べれば使徒の方が強いのかもしれないが、呪文形態で言えば『シン』を超える『ジン』を神子は持っている。

それに加えて今のサンディのモチベーションは抜群だ。章吾の前に進もうとする姿に感化され、持ち前のプラス思考が爆発している。

私は強い、私はできる、私は凄い。彼女の心の中に膨れ上がる希望、それはマリーの呪文を何倍にも強化させる。

 

 

「ナメるなぁああああああああ!」

 

 

一方で自らも負の感情を爆発させるザムザ。

彼の剣がより強大な禍々しさを放つ。伊達に使徒として長い時間ヘラーの側にいた訳では無いという事か。

だがマリーは怯まない。生を背負う者と死を背負う者、負けるわけにはいかないからだ。

 

 

「おんどりゃぁああああああああああ!!」

 

「!」

 

 

弾ける光。

同じくしてザムザの剣も吹き飛ばされる。

衝撃が辺りを包み、川辺の水が大きな飛沫を上げて辺りに飛び散った。草木が揺れる、石が空に舞う。

だが静寂。僅かな時間の中、理解が加速する。

 

 

(相殺――ッ!)

 

 

なんとか体勢を立て直して、ザムザは剣の柄を握り直――

 

 

「デルガ・ジン・ザケルガ!!」

 

「は?」

 

「「「「「「デルガァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」」」」」

 

 

見えたのは口。

六匹の、龍。

 

 

「終わりだよ、お前」

 

 

デモンの言葉が真実だった。

 

 

「グォオッ! ガハッ! ぐぅうああぁ!!」

 

 

一匹の龍がザムザを吹き飛ばし回転させる。

そして通り抜けるもう一匹、ザムザは衝撃で逆回転。そして次々に龍が突進でザムザを打っていき、彼は最終的に地面へ倒れる事に。

これで終わりか? 耐えられた? ザムザはすぐに立ち上がるが――

 

 

「―――」

 

 

察する。そこにあったのは三百六十度どこを見てもコチラを睨んでいる雷の龍だった。

 

 

「おのれッ! おのれおのれおのれェエエエエ!!」

 

「「「「「「デルガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」」」」」

 

「ァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

収束する様にザムザへ突っ込んでいくデルガ達。

そして爆発、激しい雷光が巻き上がりザムザは蒸発する様に消滅していった。

勝った、章吾は安心した様にため息を。そして安堵からか膝が折れて地面へうつ伏せに倒れこんだ。

 

 

「疲れた……!」

 

 

緊張感が解け、汗が吹き出てくる。

そんな彼の前に手が。見れば、笑みを浮かべているデモンが。

 

 

「初勝利だな、相棒」

 

「そう言えば、そうか……」

 

「感想は?」

 

「いや――、もう、本当に疲れたって言うか……」

 

「でも、良い顔をしてるぜ」

 

「はっ、そうか?」

 

 

章吾は照れた様に笑うとデモンの手を取って立ち上がる。

すると衝撃、ウッと声を上げる章吾と、彼に抱きついて笑うサンディ。共に勝利を喜び合い、二人はケラケラはしゃぎあう。

 

 

「おうおう、かっこよかったぞ章吾ー!」

 

「あはは、重い重い。降りろって!」

 

「………」

 

 

楽しそうに笑いあう二人を見ながらデモンはマリーの方へ。

 

 

「お疲れデモン」

 

「ああ。マリー、おれ気づいたんだ」

 

「え?」

 

「どうしてユリアスがおれ達にもパートナー制度を設けたのか」

 

 

一見すれば、使徒の様なシステムの方が戦いやすいのではないかと思う。

事実デモンやマリーだってそのシステムが身に染み付いていた。

けれど今こうしてパートナーを経験してみて、見える景色もある。

 

 

「おれ達もまた、パートナーと関わり、成長する為だろう。ガッシュ達の様に」

 

「かもねぇ」

 

 

そもそも何故ユリアスが自分達を心ある神子にしたのか。

それは何より、『心』があったからだろう。

他者と触れ合う事によって育まれ、成長するその存在。ユリアスは唯一無二の価値に気づいていた様だ。

 

 

「人は一人じゃ生きられないって、何か誰か言ってたし」

 

 

マリーはロリポップを取り出すと達観した表情で呟いた。

人は孤独には耐えられない。人は心を求める、つながりを求める。

それが人間の特徴ならば、自分達もまた同じではないかと思った。

まさにそれは使徒との対比、ユリアスはきっとそれが分かっていたのだから自分達にパートナーを設けたに違いない。

 

 

「わたし、サンディを大切にするわ」

 

「ああ、おれも章吾と共に――」

 

 

デモンはサムズアップを。そして、迷いの無い目で答えた。

皆が平和に暮らせる世界が欲しい。誰もが笑い合い、悲しみの無い時が永遠に続く様に。そして何よりも人間界との調和の為に。

 

 

「正しい神様を目指すぜ」

 

 

 

 





ちょっといつもより誤字チェックが甘いんで、何かミスがあったら申し訳ないです。
次もできれば一週間後くらいに。
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