金色のガッシュ!! Episode RISING 作:ホシボシ
一方、デモン達から離れた所。ウマゴン達もまた使徒との戦いを繰り広げている所だった。
ガジュルはガッシュを取り逃した事には特に触れず、目の前にいる獲物を狩る為に目を光らせる。
そこまで考えるだけの知恵が無いのか、余裕が無いのか、それとも全てを把握している上で自身の欲望を優先させたのか?
それは分からないが、木々に囲まれたフィールドで殺意と覇気がぶつかり合った。
「ディオエムル・シュドルク!」
「ギガノ・ガドルク!」
ウマゴンは炎の鎧を纏い、ガジュルは刺々しい装飾が目立つ銀の鎧が装備される。
肉体強化の呪文を発動して走り出す両者、距離が詰まっていく中で細かな競り合いが始まった。
「ドルセン!」
ガジュルの鎧の一部が
ウマゴンは炎を放ちその勢いを殺そうとするが、鋭利に光る棘達は炎を貫きながらウマゴンを串刺しにしようとスピードを緩めない。
だがドルセンが肉体強化を発動している事が発動条件である様に、ウマゴンもまた同じくして強化中だからこそ発動できる技がある。
彼はそれを魔界に帰った後、特訓を積んで編み出したのだ。
「シュドルド!」
ウマゴンの鎧の一部が巨大化し、さらに硬質化を果たす。
それは彼を守る盾、棘は次々に硬くなった鎧に命中して粉々に破壊されていく。
「ハッ! 良い気になるなよ!!」
それはある意味の餌。
ガジュルはドルセンの勢いに乗ってウマゴンに距離を詰めていた。
肉体強化故の恩恵なのか、そこそこスピードも兼ね揃えている。このまま彼はウマゴンを殴り伏せようと大地を踏み込んだ。
しかしその時、目の前には壁。文字通りレンガの壁が一瞬でガジュルの目の前に出現した。
なんだコレは? どういう事だ? 一瞬の内に湧き上がる疑問の渦、ガジュルは動きが鈍りながらも、今更振り上げた拳を引く事等できない。
結果、行き先を前に決めるしかなかった。
「――ッ、小賢しい!」
構わず壁を殴りつけるガジュル。しかしその先にウマゴンの姿は無かった。
そして気づく、周りを見ればいつの間にか自分が立っている景色が違っているではないか。
教会前にいた筈なのに今はレンガの壁に囲まれた迷路のような場所。完全に室内、洋館の様な場所になっている。
なんだコレは? 戸惑うガジュル。そして彼の右にあったレンガの壁が崩れ、そこからウマゴンが飛び出してきた。
「メルメルメー!」
「グォオオオ!!」
壁から飛び出してきたウマゴンは、炎を纏った一撃をガジュの脇腹に叩き込む。
そしてすぐにまた迷路の中に消えていく。そのリアクション、その反応、どうやらウマゴンは何が起こっているのかを理解しているらしい。
ガジュルはダメージを追った部分を押さえながらも、一撃を貰ってしまったと言う事実に怒りを覚え、震え、すぐに彼を追いかける。
「むッ! ムゥウ!」
しかし迷路の先にはまた迷路。
ウマゴンが開けた穴の向こうには再びレンガの壁が視界をジャックする。
あたり一面壁だらけ、ウマゴンの気配が完全に消えている。
イライラする。手当たり次第に壁を破壊するガジュルだが、どうしても見落としはある訳で、再び死角からウマゴンが壁を破って飛び出してきた。
「グォオ!」
衝撃、熱波、火花、装甲にウマゴンの角の一撃が入る。
そしてまた再び迷路の奥へと消えていく。コレはどういう事なのか、ガジュルはダメージを追った部分を押さえながら一つ冷静に考えてみる事に。
ウマゴンはこの迷路を知っている様な印象、であれば彼がこの状況を作った? いや、サンビームはそれらしい呪文は発動していなかった。
それにこの空間を肉体強化を主とするウマゴンが生成できるとは思えない。
であるのなら、考えられるのはもう一人、フォルゴレだ。
「あのアヒル口のガキか!」
そう、この状況を作ったのはキャンチョメのシン・ポルクだ。
相手に脳に直接命令を行う呪文は、脳が存在しないガジュルには効果は無い。
しかしシン・ポルクにはもう一つ、周囲の景色を実際に変えると言う力がある。コレは催眠術ではないので、ガジュルにも等しく効果が現れたと言う事だ。
今のフィールドは無数のレンガの壁で覆われた迷路。
壁の強度を上げるにはそれだけ心の力を使わなければならず、フォルゴレは燃費の悪さから断念。
故に壁は本当に目くらまし程度、ガジュルの攻撃を防ぐ盾の役割を果たすことは無い。しかしご覧の通り、ウマゴンの姿を隠す事は可能だった。
そもそも、ガジュルとウマゴンではパワーの差がどうしても出てきてしまう。使徒と魔物の子と言う事に加え、基本スペックの差、コレを埋めるにはどうすればいいのか。
だからこそ、ウマゴンのスピードを生かす為に、彼の姿を隠すフィールドを作ったと言う事だ。
キャンチョメはウマゴンの脳に迷路のマップを直接叩き込む事でウマゴンはスムーズにガジュルから姿を隠しつつ、そのスピードで迷路を駆け回りながら、次々とその角をガジュルに叩き込んでいった。
いくら使徒とは言えどガジュルはパワーファイター、知能の面ではやや劣ってしまう。彼はキャンチョメ達の策にハマり、しばらくは次々にウマゴンの攻撃を受ける事に。
「ッッ! ふざけやがってぇえ! 消え失せろ! ラージア・ホロウバオ!」
煮えを切らしたガジュルが吼えると、彼の周囲広範囲が爆発。
次々にレンガの壁が粉砕されていく。ウマゴンは咄嗟に炎の壁で皆を守ったが、すぐにフィールドは更地に戻されてしまった。
唸るフォルゴレ、シン・ポルクを維持するには相応の心の力が必要となる。彼は既に一度シン・ポルクを使い、大きく心の力を使うガポルクも使っている。
この先の事を考えても、もうこのフィールドを維持する力は無かった。フォルゴレは呪文を解除、全ての幻想が取り払われ、再び山中の景色に変わる。
「ナメた真似をしてくれるぜ! 俺様の最大呪文で消し飛ぶが良い!」
光り輝くガジュルの体。大技が来る。それを直感したフォルゴレは魔本を開き心の力を込める。
「キャンチョメ!」
「うん!」
「パイクレイジ――」
「ディカ・ポルク!」
巨大化するキャンチョメ。
ガジュルも当然それに気づいたか、狙いを巨大化するキャンチョメへ移した。
「――シン・ディオアムルガ!」
巨大なサイのエネルギーがガジュルの腕から射出。巨大化したキャンチョメを粉砕しようと一直線に向かっていく。
だがしかし、巨大化したキャンチョメはあくまでも幻。ガジュルの攻撃は虚しく空を切って飛んでいく。
「よし! 心の力を消費させる事ができたぞ!」
「ッ! 幻か!?」
乱れるキャンチョメの像。
それでガジュルも今の呪文がどう言った効果を持つ物なのかを理解したようだ。
見れば大きなキャンチョメの足元で元のサイズのキャンチョメが立っているではないか。つまり大きい方は幻、ハッタリと言う訳。
「フハッ! フハハハハハハ!」
「「「「ッ!」」」」
「確かに俺様は今、力を無駄に消費してしまったが――」
それは心の力ではない。
使徒は呪文の使用に心の力を消費する訳ではないのだ。何故か? 決まっている、心が無いからだ。
では何を使って彼らは呪文を繰り出しているのか。それはヘラーの力であり、何よりも吸収した心の闇だ。
「お前達が日々発生させる負のエネルギー! それが俺様の力の源となるのだ」
「ッ!」
憎悪、嫉妬、殺意、ヘラーはその負をエネルギーとして彼らを生み出した。
人の負が人の世を終わらせる。これほど愚かで愉快な話があるだろうか。結局人間は人間の力によって滅びる、それがヘラーが描いたビジョンだ。
「見せてやる。コレが本当の巨大化だ! ディオ・ディカ・ガドルク!」
メキメキと音を立てるガジュルの体。
驚くべきはその変化、先程の言葉どおり彼の体が巨大化していき、周りに生えている木々と同じ高さまでに巨大化していく。
さらに体には鎧が付与、装甲を纏ったガジュルは咆哮を上げて構えを取った。
発生する衝撃、草木が舞い散り、フォルゴレやキャンチョメはガクガクと震えながら涙を流していた。
「うわぁあああ! なんて大きいんだ! 食べられちゃうよーッ!」
「どどどどどうしようサンビーム、ウマゴン。私達だけで勝てるのかい!?」
「め、メルゥ……!」
「――ッ」
確かに。
サンビームは必死に考えを巡らせるが圧倒的にコチラが不利なのは明白。
彼の話を聞くに巨大化は本当に巨大化している様だし――。
「フハハハハ! 消えろーッ!」
そうしているとガジュルの拳が一同に迫る。
すぐにフォルゴレ達を乗せて回避を行おうとするウマゴンだが、やはりその巨大な拳ゆえに地面に抉りこむと衝撃波を発生させて周囲の景色ごとウマゴンたちを吹き飛ばしていった。
「ぐあぁああ!」
「うわぁああ!」
岩や地の欠片が体と打つ。
衝撃に揉まれ地面を転がる一同を見て、ガジュルは声を上げて笑っていた。
「いいぞ! 破壊こそが全て! 破壊こそが我が真価!」
「ッ」
「壊れよ人よ。それがお前達に与えられた使命なのだ! ふははは!!」
人を壊すと言う事、命を殺すと言う事にガジュルは擬似的感情はこの上の無い喜び、快感を覚えるのだと語る。
それは彼の体に埋め込まれた大量の負のエネルギーが呼応しているのだろう。
ヘラーは知っていた、人の世に蔓延る最も強力な感情の存在を。それが誰かを憎む気持ち、恨む気持ち、蔑む気持ち。つまりマイナスのエネルギーと言う訳だ。
今も尚、体の中にある負のエネルギーが大きくなるのを感じている。
「悲しい生き物だな人間は!」
脆く、何よりも弱い。今日も誰かが誰かを恨み、そして誰かを見下している。
下を作らなければ人は自我を保つ事すらできない。だから劣等感が生まれる。だから殺人が、犯罪が起き生まれるのだ。
傷つけるという事はヒエラルキーの証明、自己の存在が他者よりも上であると言うプライドの保持。
それを他者が他者を傷つけるという脆い土台の上になりたっている。それがガジュルの力となる事、もはやそれはガジュル本人ですら哀れに思うと。
人は害悪だ。それを人は分かっている筈なのに、世はそれでも動いていく。
「今日もどこかで無駄に命が生まれ、無駄に死んでいく」
不要なサイクルだとは思わないか?
人間等ある意味で家畜以下の存在だ。この世には何も為せずに死んでいく命も多いと聞いた。
無駄、全くもって理解できない無駄さ。それならばまだ食われる役割を持った家畜の方が理由もあろうて。
何もできず死んでいく命、何の意味も無く過ぎていく人生、結果の出ない人の存在。
「俺様は寛大だ。滅びは、破壊にはそれだけの意味がある!」
ガジュルは思うのだ。
ならば自分が意味を与えるまで。何の価値も無い人間に、『壊される』と言う役割を与えてあげるのが使徒の役割、神に仕える
「何の意味も無い命ばかりがこの世界には蔓延っている。だから壊す、だから作るのだ。我ら使徒達が貴様らの未来を導いてやろう!」
「今――、何と言った?」
「あん?」
一瞬。それは時間にしてみれば一秒も無かったのかもしれない。しかしガジュルはその時確かに背筋に冷たい物を感じた。
何だコレは、擬似的な心が指し示す恐怖の意味は? ああ知っている。それは紛れも無い。獅子の覇気だ。百獣の王が放つ気高き威圧感。
その気迫を放つ男の名はパルコ・フォルゴレ。
「――貴様は勘違いをしている」
「ッ、勘違いだと?」
「ああ。この世に、無駄な命など存在しない」
フォルゴレは知っている。
彼は忙しい合間をぬって度々病気の子供達に対するチャリティーコンサートを行っていた。
だからこそ命の尊さは他の人間よりは幾分か知っているつもりだ。彼らは、彼女達は必死に生きていた。
いつ終わるとも分からない毎日に怯える事は無く、日々の時間を精一杯生き抜いていたんだ。そして周りの人間も、その人と共に少しでも長く側にいようと希望を抱いた。
その姿は、何よりも美しく、何よりも尊い。彼らは望んでいた筈だ。最後の最期まで『生』と言う物を夢見ていた。生きる為に生きた毎日は、決して無駄な物などでは無い。
「お前に『人』の何が分かる」
フォルゴレは知っている。
過去に訪れた病院で出会った子供達、その中で少なくは無い数の命が亡くなってしまった。
家族に話を聞いた事もある。すると、その子は自分のコンサートを大切な思い出としてくれていた事も分かった。
短い人生だったのかもしれない、しかし彼らはしっかりと自分との思い出を大切にしていてくれた。
何の為に人は生きているのか、それはフォルゴレには分からない。彼は神では無い、人の生き死に口は出せないのだ。
しかしそれでも一つだけ胸を張って、声を大にして口にする事がある。
「この世に意味無く生まれ、意味無く死んだ者はいない」
「……ッ!」
「無駄な命等、一つも無いんだ!」
誰もが皆、悲しむ為に生まれた訳じゃない。
命は不確かだ。人生もまた同じ。それでも誰もが信じている。
自分の人生が傷つく為に、傷つける為にある訳では無いと。失うだけの生は悲しすぎる。
だからこそフォルゴレは希望を与える側になった。何故人は死んでしまう、何故人は自分の命を無駄にしてしまう。
そこにあるのは悲しみじゃないのか? だからフォルゴレはその悲しみを消したかった。
覚えているぞ、今でもあのカバの牙に小鳥が止まる画を。何の為に生きる? 誰の為に生きる? そこに意味はあるのか?
『ありがとう! フォルゴレ!』
『嬉しい! 楽しいねフォルゴレ!』
『ありがとう! ぼく今日のことを忘れないよ!』
子供達の笑顔がフラッシュバックする。
そうだ、彼らの悲しみを消す為にスターを続けていた。
たとえ明日消えてしまうかもしれない命を抱えていても、今を精一杯生きて欲しいからチャリティーコンサートを続けていた。
フォルゴレは医者では無い、命を救える訳じゃないし、その為に医学を勉強しようとは思わなかった。
しかし今の自分にできる事はある筈だと彼は思っていた。それが生き方、生きる理由と言うものだ。
病気から子供達を守れるわけじゃない。けれどもせめて命に希望を持ってほしかったから、スターのフォルゴレであった。
「訂正しろ! 命は、お前が考えている程軽い物じゃないんだ!」
「だ、だまりやがれーッ! 人間の命に価値などある物かよ!!」
その上でガジュルが人の命を無駄だというのなら、彼自身が人の命を無駄に消していくのなら――
迫るガジュルの拳。フォルゴレとキャンチョメは頷き合い、その迫る悪意に真っ向から立ち向かう。
「私はお前を許さない! 今ココで鉄の男、パルコ・フォルゴレと無敵のキャンチョメが倒してやる!」
「ッ!」
「ディマ・ブクル!!」
「ぐぉお!?」
生み出されるのはキャンチョメの分身達。
彼らが一勢に巨大化しているガジュルの拳を受け止めた。
競り合う両者、フォルゴレは自身の思いを魔本に注ぎ込み分身の力を上げていく。もう心の力は少ない、後はガポルクを一発撃てればいいくらいか――?
「サンビーム!」
「ああ! 一つ手がある」
サンビームが注目したのは今のガジュルの強化形態だ。
巨大化し鎧を纏うことで無敵に近い強化を得ているのかもしれない。
しかし唯一、他の強化体とは違ってむき出しになっている部分があった。
それが『頭部』だ。強力な呪文ゆえに一番大事な部分が守られていない。
「そこを突く! キャンチョメ、コンビネーションだ!」
「うん! 分かったよ!」
ウマゴンはひとまず背中に味方全員を乗せてバックステップ。
一方でキャンチョメは分身達に指示を送り一勢に分散させた。
無数のキャンチョメ達は纏わり付くようにしてガジュルへ攻撃を仕掛けていく。
「鬱陶しい雑魚共がァアッ!」
チョロチョロと身の回りを動き回りながら攻撃を仕掛けるキャンチョメの分身たち。
ガジュルはそれを引き剥がそうとついムキになり冷静さを失う。
全て力で解決ができると思っている彼にはすばしっこいキャンチョメは非常に不快な存在であったろう。
だがしかしだ、この分身の役割は攻撃だけではない。むしろ攻撃は囮である。
分身は集合する事で力を高めていく、分散させるのは得策ではないのだ。では何故分散させたのか、それは――
「メルメルメーッ!」
ウマゴンは炎を撒き散らしながらキャンチョメの分身を蹴って跳躍、ガジュルの体の上を目指す。
ライトニングアロー、ウマゴンの体に大きな負担が掛かるが、彼はそれだけスピードを上げて空に上っていく。
そう、分身達はウマゴンを運ぶ『足場』なのだ。
「えーい!」
分身の一体が思い切りウマゴンをトス。上空高くへ送っていく。
「クソがァ! イライラさせやがって!」
面倒になったのか、ガジュルは分身を放置してある一点を狙う。
それは今現在フリーになっている本の持ち主達だ。
フォルゴレ達を殺してしまえば呪文の効果は切れるのではないか、それを思ったガジュルは大きな拳を構えて笑みを。。
「俺様の一撃でぺちゃんこになりやがれー!」
「ガポルク!」
「何ッ!?」
分身が消滅したかと思うと、フォルゴレの手にはキャンチョメが変身してできた巨大な『うちわ』が抱えられていた。
迫る拳、しかしフォルゴレは思い切りうちわを振り上げ、咆哮と共に振り下ろす!
「ォオオオオオオオオオオ!!」
「グォオオォォォオオオオ!?」
地面に叩き付ける様にして振るわれたうちわから発生するのは強力な竜巻。
嵐の壁はガジュルの拳を確かに受け止めると、そのまま巨大化、彼の体を囲むように風の形を変える。
それはまさに台風、轟々と鳴り荒ぶ風の檻はガジュルを包み隠す。
「チィイイイッッ!!」
大地を踏みしめ耐えるガジュル。
確かに風圧は凄まじい――、が、しかし風圧が凄いというだけでダメージはほとんど無かった。
確かに風に身を切り裂かれる感覚は最初こそあったが、風が広がったことでダメージは無い。
ただ抵抗が凄く動けないだけ、この攻撃もじきに終わる。そうすれば再びフォルゴレを狙えばいいだけだ。彼からはもう心の力が感じられない、つまりこの攻撃がラストと言う事だ。
「我々の勝ちだ」
「何!?」
サンビームが魔本を開く。この風もまた、あくまでも囮でしかない。
竜巻は台風へと形を変えた。台風とはつまり、その中央は風の流れが極端に緩やかだ。
ガジュルは体が大きい為に周りの風を受けてしまい、いまいちその実感は無いだろう。
だがしかし、影響を受けない者が一人。
「ウマゴン!」
「メルメルメー!」
「ま、まさか!」
ガジュルが何とか顔を上に向けると、そこには炎を纏い高速回転でコチラに『降ってくる』ウマゴンの姿が見えた。
ジャベリン、角にエネルギーを集中させてウマゴンはガジュルを狙う。
そうか、それが狙いか。ガジュルは一瞬呪文を解除する事を選択肢の中に入れる。しかし首を振るい咆哮を上げてその場に立ち尽くした。
何故自分が魔物の子風情に逃げなければならないのか。彼は自身の角を突き出す様にしてウマゴンを受け止める事を決める。
負ける気はしなかった。使徒は絶対、そのヒエラルキーのピラミッドが崩れる事は無い、と。
「俺様は使徒ッ! 絶対の存在だァアア!」
「ギガノ・シュドルク!」
「メルメルメェエエッッ!!」
ウマゴンの角が伸びてエネルギーがさらに集中していく。
そして衝撃、ガジュルの角とウマゴンの角がぶつかり合った。ガジュルは使徒としてのパワーを全て角に集中させる。
神の力の一端、それは呪文を使わずとも己の体を強化させるだけの力があった。ウマゴンの体程サイズのある角。
果たして、どちちが勝つのか――?
「ガジュル。覚えておけ」
「!」
呟くようにサンビームは言う。その言葉がハッキリとガジュルの耳には届いた。
「戦いにおいて大切なのは体の大きさじゃない。
「ッ!」
「超えられるか、ウマゴンのハートを!」
「ぐッ!」
その時――、バキンと、ガジュルの角にヒビが走る。
増幅していくウマゴンの炎、ガジュルは信じられない光景に体を震わせる。
「メルメルメェエエエエエエエエッッ!!」
「オォォオオオ……ッ! まさか、まさか俺様がこんな魔物と人間に――ッッ」
崩壊は一瞬だった。
ゴッと音がするとウマゴンの角がガジュルの角を粉砕していき、そのまま脳を捉えた。
「ちッッくしょォオオオッがァアアア!!」
そして爆発。コアを破壊されたガジュルは黒い霧となって四散。
その存在をゼロに還した。着地するウマゴン、サンビームはニヤリと笑って彼を迎え入れる。
「グルービーだ、ウマゴン」
「メルメル!」
「やったなーキャンチョメ! 私達の勝ちだぞー!」
「うん! 僕やったよー!」
あとは――、サンビームはチラリと教会の方を見る。
向こうが何とかなっていると良いのだが、丁度その時聖堂から雷光が漏れた。
サンビーム達は素早くアイコンタクトを取ると、ガッシュ達を助ける為に自身らも聖堂を目指す事にしたのだった。
「大丈夫か、ガッシュ、マジル」
「ウヌ、大丈夫だぞ」
「うん……!」
少し時間は巻き戻り、教会の二階の窓から中に入ったガッシュ達。
流石にココまでくればマジルも雰囲気で分かるのか、ヘラーの気配を感じ取る事ができた様だ。
マジルが指し示す場所、清麿の記憶が正しければ大聖堂だった筈。普段は結婚式か教会としての役割を果たしている場所が戦場になるとは、何か皮肉な物を感じるというものだ。
だが急がなくては。清麿はガッシュとマジルにアイコンタクトを取ると、すぐに聖堂を目指す事に。
「ねえ、二人とも」
「ん? どうしたマジル」
聖堂を目指す中、マジルはポツリと呟くようにガッシュ達に疑問を一つ。
「二人のお母さんって、どんな人?」
いや、違う。
マジルは首を振って質問の角度を少し変える。
「家族って、何?」
遊園地にいた者達がそう、家族だ。
彼らは共に居た時にとても楽しそうだった。そして失えば大粒の涙を流していた。
マジルには分からない者だ、理解できないものだ。だからこそ彼はそれが気になっていた。
「ウヌ、家族とはとてもとても大切な者達の事を言うのだぞ」
「ふぅん。清麿も、そう?」「ああ、間違っていないな」
だからこそ、人は愛する人と家族になるのだ。
ガッシュの言葉にマジルは少し複雑な表情に変わる。納得したのかしていないのか、それは分からないが彼はもう続きを問いかける事は無かった。
そのまま荘厳な雰囲気の廊下を歩く事数分、大きな扉が一同の前にやってくる。分かる、居る、ビリビリとした緊張感が清麿達の肌を刺す。
しかし進まぬ事にはどうしようもない。清麿たちは頷き合うと大聖堂へと繋がる扉を開いた。
すると、目に飛び込んできたのは聖母マリアのステンドグラスに磔にされているティオと恵の姿だった。
キリストの様に両手を広げ、そして二人を縛るのは紅い蜘蛛の糸で作られた『蜘蛛の巣』と言う檻。
「恵さん!」
「ティオ!」
淡い光を背にした二人は何とも美しい。
一瞬、そんな彼女の姿に見惚れながらも清麿とガッシュは声を荒げて彼女らの名を叫んだ。
すると薄っすらと目を開ける二人、どうやら無事そうだ。恵達は清麿の姿を確認すると少し嬉しそうに頬を染めて彼らの名を呼び返す。
「清麿くん……!」
「ガッシュ! 来てくれたのね!」
「フフフ……!」
だが、そんな二人の声に混じって一つの濁った音が混じる。
ステンドグラスの下、大きな椅子に座っているのは魔神ヘラー。彼女は訪れた侵入者を赤い瞳に移して、口が裂ける程の笑みを浮かべる。
鋭利な牙がむき出しになり、彼女は唸り声を上げて侵入者を睨む。
「心拍数の上昇、不自然な取り乱し方。なるほど、貴様は相当この女が大切と見える」
「……ッ」
「心配するな。まだ何もしてはいない」
信じられるかと言った調子で清麿はアンサートーカーを発動する。
すると確かにヘラーの言った通り恵達はステンドグラスに磔にされただけで怪我等は一つも負っていなかった。
そもそもティオを解析する前に清麿たちがココに来たのだから。
ヘラーは大きくため息を漏らす。もはや清麿たちがココまで食い下がってくるとは予想もしていなかった。
人間は神に対して畏怖の感情を抱き、恐れ、敬い、ひれ伏すと言う印象があった。
神格化と言う言葉がある様に、人間はすぐに神を作り、そしてその言葉に特別な意味を抱く。だからこそ、今、こうして簡単に神に逆らう彼らの神経が理解できない。ガッシュの後ろには怯えた様な目でコチラを見ながらも、確かに反抗を示しているマジルもいる訳だし。
それにバムロアの気配が消え、ザムザやガジュルもまた力が乱れている。コレは他の魔物と戦っている証拠、つまり清麿の仲間が同じくして使徒に――、神の力に逆らっていると言う事だ。
ヘラーにはそれは信じられない事だ。しかし事実、これが現実なのだから仕方ない。仕方ないからこそ、今こうしてヘラーは清麿と対話を行っているのだ。
「一つ聞きたい。高嶺清麿、ガッシュ・ベル」
「……なんだ?」
「お前達にとって、神とは何だ?」
「神、だと?」
「そう。私がそうだ。私は信じていた、神とは絶対の存在、逆らう者など誰もいないと」
にも関わらず、下等な人間の清麿たちが。
それだけじゃなく同じ魔物ですら神に牙を剥くとは今にも信じられぬと。
それは何故? それはどうして? ヘラーにも分からぬ事だ。
チラリと目を合わせるガッシュと清麿、二人の答えは一つだった。
それは、『分からない』と言う事だ。正直、神の形とはそれぞれが各々の持つイメージの中に作り上げている物だろう。
それに神と一口に言っても多くの存在が頭に浮かんでくる。漠然としたイメージだ、それは全て。
ガッシュは神の存在を知っていたが、空の向こうで自分達を見守ってくれている一線を超した存在だと認識している。
一方清麿もまた同じ、まあ彼の場合は世界の色々な神話を本で読んでいた為、多くの知識は入っているが、それでも『漠然としたイメージ』と言う存在である事は変わりなかった。
だからこそ、今、二人は思うのだ。
「たとえ相手が神であろうが何だろうが関係は無い」
「ウヌ。お主がこの大切な人間界を滅ぼすという事が問題なのだ」
それを全力で止める。
それが二人の意思、揺るぎの無い答えと言う物だ。その相手が魔界の神だったと言うだけ。
人間界の平和を脅かす物が何であれ、二人はそれを守る為に戦うのだと。
「……なるほど、では質問を変えよう」
それは以前にも同じ質問をされたもの。
「人間に生きる価値はあると思うか?」
「「当たり前だ」」
口をそろえて答える二人にヘラーは思わず吹き出した。
素晴らしい答えだ。迷いの欠片も感じられない。しかしそれは逆を言えば少し安直――、ではないだろうか?
ヘラーはどうもそう思えてしまって仕方ないのだと言う。
カイロス。魔神達が人間を不要と判断した存在が一つだ。優れた才能であるアンサー・トーカーもまた人が『使えば』兵器開発の類に使われてしまう。
清麿は運が良い。才能は悪意に染まる。彼はそれを避けられた。何故? それはたまたまだ、優れた才をもつ彼は、本来は人に利用される側の存在。
「高嶺清麿。お前は生きている限り、遅かれ早かれ人類に絶望する運命だ」
「……ッ」
滅びは、死は永遠だ。今ココで人類を永遠にしてしまえば清麿が悲しむ事は無くなる。
「人は、綺麗なままで死ねば良い。美しいままで永遠になればいいのだ」
これは悪意ではない、善意だ。拒む事は自己が愚かだと宣言するも同じ、だからこそヘラーは信じている。
清麿は理解できる。彼は頭が良い、それ故に、だからこそ。
人は、生きている価値の無い存在だと。
「――確かに、世界はオレが思っているよりも価値の無い物なのかもしれない」
「ッ! 清麿!?」
ガッシュは驚いた様に清麿を見る。しかし彼は笑みを浮かべてガッシュの頭を軽く撫でた。
「事実、昔のオレは世界なんていつ滅んでも良いって思っていたからな」
「ならば決断は簡単だろう? お前の力があれば、人の世は簡単に終わる」
「いや、断る」
「なんだと……!」
「確かに以前のオレなら、もしかしたらお前に協力していたかもしれない」
しかしガッシュと出会い、様々な人と出会う事で清麿は他者との交流と言う大切な経験を経てきた。
その結果、彼は人の素晴らしさを知ったと自負している。
自分以外は屑だと思っていた、しかし多くの素晴らしい人たちに出会った。かけがえの無い存在を知った。
だからこそ、清麿はヘラーの問いかけに胸を張って答える事ができる。確かに世の中には本当の屑が溢れかえっているのかもしれない。
それこそヘラーが下らないと言うのも仕方無い人間が溢れているのかもしれない。
しかし少なくとも清麿は下らなくない人間を知っている。輝きに溢れた大切な人たちがいる。
若い自分がそれだけ知っているのだから、きっと広い世の中にはもっとそう言う人たちがいる筈だ。だからこそ、清麿は答える。それはガッシュも同じだろう。
「お前に人間界は壊させない! 人の未来を決めるのは神じゃない、オレ達人間自身だ!」
「ウヌ! よく言ったぞ清麿! 私も同じ気持ちだ!」
「………」
首を振るヘラー。
ことごとく腹の立つ連中だ。理解ができぬと言う事がこれほどまでに怒りを覚える事だとは知らなかった。
だがそこで思い出す。そうだ、価値観が違うとは彼女自身が言った言葉ではないか。所詮は分かり合えぬ対岸の存在、話し合い程無意味な事は無い。
ほら、そこで一つ消える使徒の気配。それはデモン達がザムザを倒した証拠。食い下がる、超えようとしている。ああ、なんて腹立たしい。
ヘラーは紅い視線を二人に送る。そして、ポツリと呟いた。
「潰す」
「!」
杖を構え飛び出す様に移動するヘラー。それに反応してガッシュもまた走り出した。
「不要だ、人間も王もな。神の名の下に、今この場で貴様らを処刑する!」
「清麿ーッ!」
「ああ! ザケル!」
「ホロウ!」
ガッシュの電撃とヘラーの邪気の塊が衝突し合い、互いに弾け飛ぶ。
その先にあったのはさらに距離を詰める二人、ガッシュの拳とヘラーの杖がぶつかり合い、二人は激しい火花を散らす。
「ウォオオオ!」
「チィイッ!」
裏拳が杖を弾き、ガッシュは思い切り地面を蹴って跳躍。
ガッシュのロケットの様な頭突きを何とか杖を盾にして受け止めるヘラー。
彼女はすぐにガッシュの頭を鷲づかみにすると、鋭利な爪を構えてガッシュの喉元を突き刺そうとアクションを起こした。
「ザグルゼム!」
「くっ!」
しかし前にしたガッシュの口からは電撃のエネルギーを蓄積する光の球体が。
ヘラーは何とか首を傾けて回避を試みるが、ガッシュが狙ったのは首ではなく胴体。
動きの少ないその部分は首を捻った所でどうにかなる訳でもなく、ヘラーの体にザグルゼムのエネルギーが蓄積される。
「チッ!」
ガッシュを蹴り飛ばし距離を離すヘラー、一方でガッシュはマントを巨大化させて清麿を隣に乗せる。
彼の目の置くには無数の輪、既にアンサー・トーカーをフル稼働させてヘラーを倒す答えを探す。
「ガンズ・ホロウ!」
「ガンレイズ・ザケル!」
平行に聖堂の中を駆け、両者の無数のエネルギーが次々に衝突していく。
しかしその競り合いの中、清麿はヘラーへたどり着くルートを見出した。
ガッシュの体を動かし、ガンレイズの銃弾のルートを確保する清麿。すると雷の弾丸が次々にヘラーの体に向かう。
「シルド・アドネル!」
しかし向こうとて神、迫る雷撃を次々と無効化して次なる手に転じていく。
清麿とて答えを更新していくのに精一杯の状況。油断は即、死に繋がると言っても過言ではないだろう。
「アリアドオウ・ホロウガ!」
「ジオウ・レンズ・ザケルガ!」
巨大な蜘蛛と巨大な電気ウナギの様な龍が睨み合い咆哮をぶつけ合う。
蜘蛛からは無数の糸が、龍からは分離した装甲が武器となって無数に発射。互いの弾丸を次々に無効化し合っていく。
殺す。その殺意を受けた蜘蛛と、守るという意思を受けたジオウ。激しい連撃の末に、ジオウのパーツが漆黒の糸を切り裂き、その禍々しい蜘蛛の肉体を串刺しにしていく。
断末魔を上げて消滅していく蜘蛛。しかしその爆散する体に紛れ、ガッシュ達の眼前には杖を振り上げているヘラーの姿が。
「ゴウ・ロルド!」
「ラウザルク!」
杖を強化する呪文と肉体強化の呪文。
ガッシュとヘラーは呪文から肉弾戦に攻撃の舞台を移動させる。
ガッシュの隣で臆する事無く指示を出す清麿、間近に杖が迫ろうともガッシュを信じ、そして彼が的確に杖を弾ける様に答えを導いていく。
やはり、厄介。ヘラーは思わず舌打ちを零す程にそう思う。答えを出せる者、それはもう――
(そう。例えば日本に伝わる神。アレは過去にこの地で戦った魔物だとばかり思っていたが、或いはか)
少ないとは言え、清麿はデュフォー、それだけではなく他の者(例えばサンビーム)も答えに出す者に近い存在であると思われる。
もちろんサンビームと清麿とでは大きな壁があるが、この時代にそれだけの逸材が揃っているのは偶然では無い筈。
つまり過去にも例外なく同じ様な力を持った者がいたのではないだろうか。預言者、或いはそれこそ神として称えられたのではないか。
別の言い方をするのであれば、清麿もまた神だと言えるのかもしれない。であるならば神殺しの領域に足を踏み入れる事もまた厭わぬと言うのか。
「ふざけおって……!」
「前方! 魔力を集中させてマントの壁を!」
指示通りマントで盾を張るガッシュ、重い衝撃がビリビリと体に伝わってくる。
瞬間清麿の声、『背後を振り向け』、その言葉どおりに後ろに視線を移動させるガッシュ、するとそこには眼前にヘラーの顔が。
どうやら高速移動を使用していた様だ。杖の一撃で油断させて本人背後からの奇襲を仕掛ける。
そして、それもまたフェイク!
「右だ!」
「ッ!」(やはり答えを――ッ!)
「ジケルド!」
盾にした杖に命中する光球。
磁石になった杖にはガチャガチャと教会内にあった金属の装飾品が次々に付与していく。
最後にはパイプオルガンのパイプに向かって杖が飛んでいった。
「チッ! 素材が純金属だったか!」
面倒な事を。ヘラーは後ろに下がり牽制の為に大技を一つ。
「ディオガ・アリアドン!」
ヘラーの突き出した両手から邪悪なる糸状のエネルギーを収縮させた物が放たれた。
何で防ぐ? 彼女は目を細めて清麿とガッシュを見た。
「マーズ・ジケルドン!」
紅いエネルギー弾が押し出す様にして糸を避けつつヘラーに向かう。
その影に隠れ、迫るガッシュ達。ヘラーはすぐに軌道を修正するが、ガッシュはマントを伸ばしてすぐに引き寄せる事で大きな距離を一瞬で移動してみせる。
さらにマーズ・ジケルドンが放つ引力が次々に糸を吸い込んでいくではないか。
こうしてヘラーのサイドに回りこんだガッシュ、ヘラーは未だに呪文を発動しており、すぐにエネルギーをガッシュ達の方へは向けられない。
「テオザケル!」
「チィィイ!」
呪文を解除して大きく上に跳ぶヘラー。
しかし範囲の広いテオザケル、さらにザグルゼムの電撃連鎖が反応し、迸る雷光がヘラーの肉体に触れて爆発する様に稲妻が走る。
「グォオオオオオオオ!!」
「バオウ・クロウ・ディスグルグ!」
動きを止めたヘラーに打ち込まれるバオウの手が繰り出した裏拳。
きりもみ状に回転しながらヘラーは吹き飛んでいった。
パイプオルガンに直撃し、崩れ去る破片に飲み込まれていくヘラーを見ながら清麿は魔本を光らせる。
「ザケルガ!!」
追撃の一撃。
ダメージを頭に刻むヘラー。彼女は帯電しつつ、じっとりとした眼で虚空を見つめる。
そう言えばマジルはどこに行った? ふと思い浮かべた疑問と、ガッシュ達の戦い方が妙に時間を稼いでいた様に感じる。
まさか、とヘラーは自身に圧し掛かる破片を払い、体を起こした。すると見えたのは虚空を示すステンドグラス。そう、その脇には恵とティオを助けているマジルの姿があった。
そう、そうか、逆らうか。理解せず逆らうのか、生み出した恩を忘れ逆らうのか、ヘラーの中に急激に『萎え』と言う感情がわきあがる。
清麿も、ガッシュも、マジルも、ティオも、恵も、他の奴らだって必死に戦おうとしている。自分に、神に勝とうと思っている。
最悪、勝てる力を持っている。ああ、なんだか、コレはとっても気分が悪いぞ。
だから、そう――、だから。
「飽きた」
「ッ!」
「本気で行く」
瞬間、ヘラーの周りにあったオルガンの破片が全て消し飛ぶ。
そして姿を見せたヘラーは先程とは少し姿が変わっている物だった。
顔を覆っていた花々は消し飛び、彼女の素顔が晒される。三つの眼のほかに姿を見せたのは縦に並ぶ四つの眼、そして額には大きな眼が一つ。
計八個の眼がヘラーの顔には付与していた。さらにドレスを突き背中から生えるのは鋭利な六本の蜘蛛の足。
「ホロウ」
一言、その一つの呪文で六本の足から同時に弾丸が発射される。
黒い六つの弾丸は一勢にガッシュ達を狙っていく。
「くッ! ラシルド!」
出現する電撃の盾が弾丸を受け止め、弾き返す。
しかし既にヘラーはサイドに回っている所、彼女は地面に細長い脚を突き刺していく。
するとガッシュが立っていた場所、その周りから巨大化した蜘蛛の足が出現、その先端が光り輝いていく。
「まずい! ガッシュ、マントで体を覆い隠すんだ!」
この攻撃を避ける『答え』は無かった。
「ディオ・バーガスアリアード!」
「ぐぉおおおおお!」「ぬああああああ!!」
細長い糸状のエネルギーが無数に発射されガッシュの体を切り裂いていく。
密集したその威力はすさまじく、マントの防御を貫いてガッシュや清麿を傷つけていく。
動きが鈍ったところに向けられる殺意、ガッシュは清麿を投げ飛ばして両手を広げた。
「ギガノ・ホロウ!」
「ヌォオオオオ!」
「ガッシュ! エクセレス・ザケルガ!」
六つのエネルギーがガッシュを包み爆発する。
何とか巨大な雷光がガッシュの前方のエネルギーをかき消して威力を弱めるが、サイドから迫る弾丸には対処できない。
血を撒き散らし倒れるガッシュ、一分前まで無傷だった彼は既にボロボロだった。息を呑む清麿、ココにきてヘラーのギアが上がって来たというのか。
「マジル」
「!」
ヘラーが自分を呼んでいる。マジルは大きく肩を震わせて視線を移動させた。
「私に逆らうという事がどういう事か、知らぬ訳ではあるまいて」
「………」
自身の頭を軽く叩くヘラー。人で言う脳の部分を強調している様だ。
一方その時、倒れているガッシュがヨロヨロと立ち上がった。
丁度良いと人差し指を立てるヘラー、一つ大事な事を教えてやると彼女は声のトーンを変える。
「力は集合する事で一つの独立した形を作る。しかし、あくまでもそれは供給し続け形あると言う事を忘れるな」
「ッ?」
「無限じゃない、有限だ。時も、命も」
ヘラーは一言。
「マジルは私の使徒。私が死ねば、その時、マジルの存在は消えうせる」
「なッ!!」
「何――ッ!?」
「「!」」
時間が止まる。皆の視線がヘラーとマジルを交互した。
ハッタリかと一瞬思ったが、アンサートーカーを発動した清麿の表情が青ざめたのを見て、誰もが同じ表情に変わる。
ただ一人、ヘラーを除いては。
「以前、貴様らはマジルを盾にされた時、何もできなかったな」
「お前ッッ!」
「同じだ。今も、過去も、何も変わりはしない」
杖をガッシュに向けるヘラー。
清麿は反射的に魔本を光らせるが、それをガッシュが慌てて止める。
駄目だ、ヘラーは殺せない、ガッシュの瞳に大きな迷いが宿った。それを見てニヤリと唇を吊り上げるヘラー。やはり王として、器が足りぬか。
「ホロウガ!」
「ぐぉおおお!!」
蜘蛛の脚から一勢に直線状のエネルギーが放出、その全てがガッシュの体を直撃した。
「ガッシュ!」
彼を心配する声が辺りから聞こえてくるのを感じ、ヘラーはより一層深い笑みを。
「それが優しい王の姿か。実に、下らん」
結局に目の前にある脅威に立ち向かう事はできない。その様な王の形、必要ではない。
「ホロウ・キロロ」
呪文を放つヘラー、無数の闇の刃がガッシュに迫る。
清麿はラシルドを唱えようとするが、それを止めたのはやはりガッシュだった。
「ガッシュ!」
「止めてくれ清麿! 私が抵抗してしまえばマジルが……!」
「だからってお前――ッ!」
答えを探す清麿。
しかし導き出される答えの中に、マジルが助かる道は一つも無かった。
ヘラーを倒す道はある。しかしどんなルートを辿ってもマジルが助かる答えが存在しない。
無力、清麿を包む強い、それは強い無力感。アンサートーカーは神の力に匹敵する能力、しかし答えが出ないとココまで何もできないのか。
「セウシル!」
「ッ」
ガッシュの周りに生まれる円形の盾。舌打ちを零し、ヘラーが視線を移動させるとティオと恵が魔本を輝かせていた。
彼女達の魔本は恵に持たせたままだった、だからこそ自由になった彼女達は戦いに参加する事ができると言うわけだ。
だがそれがどうした? ティオたちが加わったところで何ができると言うのか。
自分を殺せばマジルは死ぬ、ガッシュがそれを知ってしまえば絶対に彼は自分を殺せない、ヘラーには絶対の自信があった。
そしてそれはヘラー以外も分かる事、だからこそガッシュを含めこの場にいるヘラー以外の者が全員が険しい顔をしている。
「もう止めてくださいヘラー様!」
「ッ」
そしてそれを一番知っているのは他ならないマジル本人だ。
だから彼は懇願を、ヘラーは間違っている、ヘラーは誤解している。
人は確かに魔神からしてみればちっぽけな存在なのかもしれない。
しかし言葉を話し、心がある、それは心無き自分よりも勝っている種族ではないかと彼は必死に説いた。
「お願いですヘラー様! どうか人を滅ぼすのではなく、和解の道を!」
「黙れ。我が力で生まれた分際で主に逆らうのかマジル。お前は私の盾として、その生まれた役割を全うすれば良いのだ」
「……ッ」
わなわなと、マジルの唇が震えた。
そして彼の擬似的な感情が何を汲み取ったかは知らぬが、一つの結果を彼に与える。
それは、『涙』だ。今の言葉を聞いたマジルの目からは涙が溢れてきた。
言うて、これは偽物の涙だ。マジル自身どうして自分が泣いているのは分からなかった。
しかし彼は確かに涙を流したのだ。たとえ偽物の涙、たとえ偽物の心、しかし彼には本物だったのだ。
「さて、このまま続けても良いが――」
一方でヘラーは彼に目もくれず、状況を確認してみる。
ティオが参戦したと言う事は半端な呪文では戦いは進まない。もちろん攻撃を続けても良い、その力は魅力的だ、しかし気分が変わった。
今はとにかく彼らを叩きのめしたい、故に、ティオの力はもういい。もういらない、そう彼女は思う。
だから、唱える。
「ユダ・ヴァジリス・アドネードホロウ!」
「ッ、まずい!」
「ォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
怨念をたっぷりと蓄えた咆哮が聖堂を揺らす。
マリアのガラスを突き破る様にして姿を見せたのはヘラーの最強呪文が生み出した歪なキメラ。
彼女が本気を出したからなのか、前回とは姿が変わっており、より禍々しく変わっていた。
ベースの肉体はコブラ、そして長いからだから生えるのは細長い脚、そして目が八つある頭部は蜘蛛のソレ。
さらにコウモリの翼が生えており、体中にはバラの弦が巻きついており、華も至る所に見られた。
「吹き飛ばす。全て、命も、存在も、何もかもな」
「ぐッ!」
マズイ、まずいまずいまずい!
答えを出さなければならない。清麿は喉を鳴らして打ち破るかどうかを迫られる。
だが、まさにその時だった。
「お願いだよ! もう止めてよお母さん!!」
「ッ! マジル……!」
彼にとってヘラーは母のような物だ。
悲痛な声でマジルは叫んだ。どうして分かってくれないのか、人間と魔物は分かり合える筈なのに。
そして期待と願望、家族とは大切な者だとガッシュは言ったぞ、清麿は言ったぞ?
だから、だから――。
「馬鹿かお前は。使えぬゴミが私を母と言うのか」
「―――」
だから……。
「マジル。私がお前を作ったのは、お前を盾にするからだ。それ以外の理由は一切無い。むろん、そこに愛は無い」
何故道具を愛する必要があるのか。
道具にとって大切な事はただ一つ、使えるか使えないかだ。
ザムザ達は今までの間使い物になったからこそ相応の扱いをしていた。だが今となっては彼らもゴミだとヘラーは切り捨てる。
使えない道具にもはや存在価値は無い。しかしマジルは生きているだけでガッシュを抑制する良いアイテムとなる。
「お前が生きているのはそれだけの理由だ。甘さを刺激する良い盾、私が勝つために使うツールの一つでしかない」
それ以外の価値は無い。ヘラーは淡々とそう言い切った。
それを聞いてマジルは俯く。考えていた、何の為に生まれたのか、何をしていたのか。
その理由はあまりにも彼の望まぬ事。このまま生きていれば自分はガッシュの足を引っ張るだけでしかない。
そしてヘラーが死ねば自分も死ぬ。にもかかわらず、ヘラーは自分の存在を愛してはくれない。
「ガッシュ」
しかし彼は違う。
自分を友といってくれた。『友達』、それをマジルは深く知っている訳では無い。
だが、唯一、彼の友人だと胸を張れる意味が、自分にはできたのかもしれない。生きていた意味が、そこにはあったのかもしれない。
「ありがとう」
「え?」
だから、マジルは走った。
「ゴウ・アドネル!!」
「!」
そして糸を、確かにヘラーに向けて伸ばす。
「は?」
巻きつく糸。
ヘラーはもちろん、清麿たちですら状況が理解できずにただその光景を見ている事しかできなかった。
ヘラーが生み出したキメラに力を供給している僅かな隙を見つけ、彼は一気にヘラーの下へ体を移動させる。
「マジル! お主――ッ!」
叫ぶガッシュ。しかし彼はすぐに息を飲んで言葉を止めた。
それはマジルの表情、彼は今、何か覚悟の様な物を固めている様な気がしてならない。
そしてマジルはガッシュの言葉を聞いた上で、彼を見ずに清麿の名を叫んだ。
「清麿、ぼくにザグルゼムを!」
「!?」
一瞬、刹那、それは僅か一秒間の沈黙。
清麿は全てを理解し、ただただ震えるだけしかできなかった。
それは恐怖ではなく、もっと大きな何か、大きな喪失感とでも言えばいいのか。
そうか、そうなのか、それしか無いのか。彼は理解し、悟り、察した上で彼はそれを選ぶのか。
とても悔しくて、とても虚しくて、なんだかとても、どうしようもなく悲しくなった。清麿は一筋の涙を流し、そして決断を。
それは彼の意思だ、彼は理解したのだ、自分の運命を。
だから、その選択を無駄にはできない。
「ザグルゼム!」
「ッ! 清麿!」
「清麿くん!」
呪文を発動するのはガッシュの意思ではない、清麿の意思だ。
ティオと恵が驚く中で、清麿はマジルの意思に従う事にした。
ガッシュから放たれる雷球がマジルに直撃、彼は呻き声を上げながらも最大の力で糸の強度を上げ、ヘラーと自身をがんじがらめに巻きつける。
「マジル、貴様ァアア!!」
「清麿!! もっとだ! もっと! もっとザグルゼムを!」
「――ッ」
一瞬躊躇。
ガッシュもザグルゼムの声の後にマジルの体が光っている事を見て、清麿がマジルにザグルゼムを当てたのだと理解する。
止めてくれ、彼は叫んだ。しかしガッシュの声をかき消す様にマジルの声が。
「清麿ーッ!」
「ッ、ザグルゼム!」
二発目がマジルの体に直撃する。
彼は叫ぶ、彼は吼える。自分に当ててくれと壊れた機械の様に叫び続けた。
「ザグル――」
「清麿! 止めろ、何をするのだ! マジルに何故ザグルゼムを――!」
ガッシュは首を振る。
しかし清麿はガッシュの目を見て言った。その目からはやはり涙がこぼれていた。
「ガッシュ! 逃げるな、マジルは決めたんだ、戦う事を!」
「ッ」
清麿は気づいた。
マジルは自らの存在がガッシュを苦しめる事を知ってしまったんだ。
そしてヘラーを倒せば自らが消え去ることを踏まえ、ガッシュにヘラーを倒してほしいと言う選択を取ったのだ。
「マジル! オレはッ!」
「いいよ、清麿! いいんだ! だから――ッッ!」
「離せ! 離せぇえぇえッッ!」
「ザグルゼム! ザグルゼム!!」
「グッ! がはっ!」
ヘラーの体に一発、生み出したキメラに一発。
さらにマジルは糸を増加させ、さらにヘラーの動きを封じる。
己の持つ力の全てを解放しているのだろう。鬼気迫る表情でマジルはヘラーと清麿を交互に睨む様にして視線で貫いていた。
「清麿!」
「ぐッ! ザグルゼム!」
答えはそれしかない。そしてそれがマジルが望んだ答えだ。
清麿は理解している、だからその選択を取れるのだ。清麿は己の心の力が持つ限りザグルゼムを撃ち続ける。
ガッシュは抵抗しようにも清麿の意思と、何よりマジルの意思を感じてしまい、声を強くする事ができなかった。
気づけばガッシュも、ティオ達も涙を流している。
分かっている。もう、誰もが知っている。マジルは自らの運命を理解し、だからこそ『自ら命を捨てる方法』を選んだのだ。
「ザグル……ッ!」
言葉が詰まる。
確かに、マジルと知り合ってまだ一日も経っていない。交わした言葉は少なく、思いでもほとんど存在していない。
しかし、しかしだ、それでも彼はガッシュの友達だった。心が無くても、感情が無かったとしても、たとえその涙が偽りだったとしても。
彼は、ガッシュと友達になれたのだ。
「ガッシュは、ぼくが守る!」
マジルはヘラーを捨てた。
ガッシュの為に、人間の為に
「――調子に乗るなよゴミがァッ!」
「うぐ――ッ! ぐぁあ!!」
ヘラーの鋭利な脚がマジルの体を串刺しにする。しかしマジルは怯まなかった。
彼は恐怖や痛みを敏感に感じるように設定されている。それでも彼は逃げなかった、それでも彼は糸の力を緩めなかった。
それはただ一つ。生まれて初めてできた最後の友の為にだ。
「清麿、お願いだ! お願いだから!!」
「ッ、ザグルゼムッッ!」
マジルの体にさらに蓄積されるエネルギー。
なんの為に生まれたのだろう。彼はふと、それを考える。利用する為に生みだされ、傷つける道具として生を受けた。
そして唯一の意味さえも期待されず、使えないと切り捨てられる。
そんな彼の中に、唯一理由ができた。『甲斐』ができた。もしもガッシュを、友達を守る為に戦い、そして生きるという事を終わらせられるなら――
これほど、嬉しい事は無い。
「ザグルゼム!!」
「がぁああああ! 苛立たせるなよ! 屑がぁあ!」
ヘラーの口調が荒々しく変わる。
どうやら相当頭に来た様だ。彼女の怒りが力を膨れ上げ、縛っていた糸を吹き飛ばす。
「この役立たずがァアアッ!」
「うあぁあああ!!」
ジケルドの効果が切れたか、ヘラーが手をかざすとそこに杖が。
彼女は杖から剣状のエネルギーを放出するソルド・ホロウを発動。
刹那、怒りに吼えながらマジルの体を切り裂いた。宙に飛ぶマジルの右腕、それが地に落ちた時、マジルの表情は意外にも希望に満ちていた。
「ぼくは、ぼくはぁああ!」
「ッ、貴様!」
「ディゴウ・アドネル!!」
最大呪文。強力な糸が放出されてマジルは再びヘラーと自らを縛りつける。
吼えるヘラー、彼女は僅かに動く手を動かして、その鋭利な爪でマジルの首を掻っ切る。
「うぐッ! グゥウゥウゥゥゥ!!」
血の様に放出されていくマジルの力。
それが尽きれば彼は消えうせる。だがだからこそだ、だからこそもう引く事はできない。
マジルは必死に力を放出して糸の強度を強める。ただひたすらに、ただがむしゃらに。
「死ね、死ね死ね死ね死ね死ねぇええッッ!!」
「ぐあぁッ! ズゥァアアッッ!」
次は左腕が飛ぶ。しかしそれでもマジルの『気』が死ぬ事は無かった。
両手を失いながらも彼は必死にヘラーを睨みつけ、糸の強度を上げる。
そのあまりの気迫に、ヘラーは焦り、ティオ達はただひたすらに涙を流す。
止められない、止められないからヘラーはこの道を選んだんだ。自分が生きている限り、ガッシュはヘラーを攻撃できない。だからガッシュに戦う理由を作る。
それがせめて、自らができる事だとマジルは生きる意味を見出した。
「ガッシュ、清麿! ごめん――ッ! あと、ありがとう」
心の無い自分に優しくしてくれて、友だと言ってくれて。
マジルは大きな感謝を彼らに示す。たしかに、自分は道具だった。
それは否定できないし、マジルは否定しない。けれどただ人を殺す役割を持った道具で終わったとは思っていない。
自分は最後の最期に、ガッシュの友達として一生を終えることができるんだ。
「もし、次に生まれ変わる時があったら、本物の心が欲しいな……!」
しかし、所詮は使徒の出来損ない。
ヘラーは糸を三度吹き飛ばすとマジルの体に杖を抉りこませる。
マジルは己の未来を察し、ガッシュ達の方へ振り返り、笑みを浮かべた。
偽物だった。全て、人生も、目的も、心も、命さえも。だがそれでも――、それでもガッシュとの絆だけは、たとえちっぽけな物であったとしても本物だったんだ。
言葉はそれほど交わしていない、記憶も薄い、しかし友といってくれた事だけは、紛れも無い真実だった。
「――そしたら、また、友達になってくれる?」
「マジル……! 当然だ、当たり前だ!」
声を震わせ、大粒の涙を流しながらガッシュは頷いた。
一方で迫る時、清麿もまたマジルの意志を無駄にしない為、全ての力を魔本に注ぎ込んだ。
「恵さん!」
「ッ、はい! シン・サイフォジオ!」
清麿とガッシュの体力がティオの力によって回復する。
清麿に関しては心の力が大幅に回復、彼はその増加した分の心の力を全て魔本に注ぎ込み、指を指し示し、ガッシュに狙うべきターゲットを知らせる。
「ガッシュッッ!!」
逃げるな、逃げないでくれ、清麿の想いは言葉にせずともガッシュに伝わった事だろう。
「ヘラー様、ぼく達は間違っているんです!」
「黙れ! 使えぬゴミが! お前は殺処分だ!」
直後、マジルは全てを語ったように笑みを浮かべ、清麿の名を叫んだ。
ザグルゼムが電撃力を増加させる事を知った彼は、自らをその燃料にささげる事を選んだ。
そして奇しくも、彼が攻撃を受けた事で体から離れた両腕がキーアイテムとなる。
「ヘラァアアア!」
叫ぶ清麿。マジルの人生を考え、彼は涙を流さずにはいられなかった。
何の為に生まれたのか、誰もために生まれたのか、マジルは今その全てに答えを出したのだ。
生きる甲斐は、ガッシュを助ける事と見出した。だからこそ、絶対に彼の思いを無駄にしてはならない。
清麿は決着をつける為に、その引き金を引く。
「マジルの想いを、具現しろッ!」
魔本の光が最大となる。赤い光に満たされる聖堂。
「出やがれ第四の術ーッ!!」
「おのれッッ!!」
「バオウ・ザケルガァアアアアアアアアアッッ!!」
ガッシュの目の前に巨大な門が出現し、そこを両手で広げる様にしてバオウが姿を現す。
全てを破壊する雷龍、彼は状況を理解しているのか、すさまじい咆哮を上げてヘラーをにらみつけた。
「バオオオオオオオオオオオオオ!!」
「バオウ! 堕ちた神の分際で――ッッ!!」
ヘラーはマジルを蹴り飛ばすと跳躍、後ろに下がるとキメラに合図を出して、髑髏を集合させた歪なブーケを発射させる。
前回はコレは打ち破れたものの、本体との競り合いで敗北したバオウ。
そしてヘラーは歪な笑みを。
「今回の呪文は前回とはパワーの質が違う。バオウが勝てる可能性は、なし!」
本当にそうだろうか? 確かに神の一撃は強大だろう。しかしそれを覆す要素は既に整っている。
バオウは落ちたマジルの右腕を同じく右腕で拾い上げる様に回収した。すると彼の右腕が巨大化、そして左腕を拾い上げると同じく左腕が巨大化する。
それは連鎖、マジルに打ち込んだ大量のザグルゼムのエネルギーが、マジルの分離した肉体にも適応していたのだ。
電撃の連鎖、その先にある物、ガッシュは気絶していながらも、しっかりと涙を流した。
「さようなら、ガッシュ」
マジルは笑みを浮かべ、背後に迫るバオウを見つめる。
お願いだ、お願いだからガッシュ達を助けてくれ。マジルはしっかりと、自分の心でそう思った。
バオウザケルガはその意思を汲み取ったのか、その牙でマジルの体をしっかりと捉えた。それが電撃の連鎖を起こし、バオウザケルガの肉体がより巨大な物へと進化する。
「な、なんだと!」
ヘラーは思わず声を上げて一歩後ろに後ずさる。
バオウの姿自体は変わっていないが、その大きさは電撃のエネルギーを受けてより巨大になっていた。
聖堂を破壊しながら突き進むバオウ、彼はブーケを簡単にその手で受け止めると何の事は無く握りつぶした。
「馬鹿な!! 馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁあ!!」
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「――ッ、嘘だ! この様な事があってはならない!! 魔神の力が、こんな、こんな!!」
上ずった声で叫び、ヘラーはキメラ本体をバオウへと向かわせる。
「嘘じゃない!」
「!!」
清麿は叫ぶ。マジルはその存在を賭けてガッシュに力を託した。
その身を犠牲にしてヘラーを倒す道を示した。その想いは、その選択は偽りなんかじゃない。本物だ。
そうだ、その心は本当だったんだ。
「オレはマジルのために、心の力を示さなきゃならない!」
「う、うぉおお……!」
「だから勝つ! 絶対に、お前を倒す!!」
「ぉおぉおぉぉ!」
バオウザケルガがキメラに噛み付いた。
ザグルゼムを一発受けているキメラ、二つの力は一瞬の競り合いがあったものの、バオウの咆哮が決着の答えを告げる。
「バオオオオオオオオオオ!!」
「ギャアアアアアアアアア!!」
巨大な顎がキメラを噛み砕き、破壊する。
ありえない! ヘラーは汗を浮かべて叫ぶが、バオウはより一層巨大化し、ヘラーに向かって飛んでいくのだ。
それはバオウの力であり、何よりもマジルの覚悟を見た清麿の心の力が齎す結果だった。
「ヘラァアアアアアアアア!!」
「ヒッ! ヒィイイイイイイイイイイ!!」
刹那、ヘラーの視界を電撃の龍が埋め尽くした。
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「ヒィアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
バオウの目に怯んだか、防御呪文さえも唱えられずヘラーは雷光の中に消えていった。
激しい衝撃がフィールドを包む。破壊されていく聖堂、ティオ達はセウシルで自身やガッシュ達を守りながら衝撃を耐える。
「ギルアドネ・バルスルク!!」
「「「「!?」」」」
しかし衝撃、崩壊する聖堂の中で姿を見せたのは巨大な蜘蛛だった。
禍々しい姿は、ありったけの闇に覆われており、ヘドロの様に肉体は崩壊している。一切の美しさを持たぬ歪な姿、それはヘラーの禁呪が齎した姿であった。
『コロス! 殺すコロスころすコロス殺す!!』
「ッ! ヘラー!!」
『我が肉体はマモナク崩壊を迎えるだろう。クツジョクだ、まったくモッテ屈辱だッ!』
バオウのダメージは高く、ヘラーの肉体は既に限界だった。
しかしヘラーもまた最大威力の呪文をバオウにぶつけていた為、まだ活動できる余裕が生まれたのだ。
彼女は自らの肉体が崩壊する呪文を発動、代わりにより強大な力を手に入れた。
醜い姿だ、ヘラー自身嫌悪する姿、しかしこのままガッシュ達を生きて帰す事に比べれば耐える事もできた。
ヘラーは死ぬ、それは決まった事だ、しかしその前に確実にこの場にいる人間を、魔物の子を殺そうと彼女は決めたのだ。
『死ねェエエエエエエエエエエ!!』
「グッ!」
清麿は今の一撃に全てを賭けていた為、もう全く心の力が残っていなかった。
「皆、ティオの周りに――」
「いや、いやっ! 駄目だ恵さん!」
「え? どうしてなの清麿!」
ティオが汗を浮かべて清麿へ問いかけた。
答えは簡単。ヘラーが今放とうとしている攻撃はティオの防御呪文があれば一応は防ぐ事はできるかもしれない。
しかしアンサートーカーの力はヘラーの攻撃から瘴気と呼ばれるある種の毒ガスが発生すると説明を清麿の脳に。
ティオが持つ盾で攻撃自体を防ぐのならば、それはチャージルセシルドンでしか不可能。
盾を二つ出現させる『リマ』だとしても、隙間から瘴気が侵入して自分達は耐える事ができない。
だとすればセウシルが適切かもしれないが、そうするとヘラー自体の攻撃を防げない。
詰んでいる。清麿は頭をフル回転させて活路を見出そうともがく。しかしどれだけ疑問を並べても返ってくる答えは『答えが無い』の一つだった。
『滅べ、下等種族共ッッ!!』
ヘラーの口が光る。
駄目なのか、ここまで来て負けるのか? 誰もが一瞬そう考えただろう。
だが清麿は思い出す。今さっきマジルがガッシュのために活路を示してくれたんだ。
ヘラーを倒せと、その命を賭けて導いてくれたんだ。絶対にあきらめる訳にはいかない。
そうだ! 絶対に負ける訳にはいかないんだ、絶対に死ぬわけにはいかないんだ。
「ガッシュ! 死んでも勝つぞッ!!」
「――ッ! ああ、もちろんだ!!」
『黙れェエッッ! 今更何ができるって言うんだよォオッ!』
「くッ! ぉおお……!!」
『そうだ! 答えなど無い。お前達の未来は死、あるのみ!』
清麿は脳を酷使しながらも必死に答えを探す。
しかし答えは無し、清麿はそれでも答えを探し続ける。時間は無い、それは十秒にも満たない程。
めまいがする、しかし清麿はそれでもアンサー・トーカーの力をフルに使用し続けた。
(答えを、教えやがれぇえええッッ!!)
血走った目がカッと見開かれる。
負けられない、命を賭けてくれたマジルの為に。
負けられない、ここまで頑張ってくれたティオ達の為にも。
負けられない、まだ恵に何も言ってはいないから。
負けられない、何よりそれはガッシュの為に。大切な親友の為にもだ。
「―――」
まさに、その時だった。
「!!」
極限の状態が奇跡を生み出したのは。
酷使された清麿の脳が、彼の精神とリンクし、さらなる進化を促したのだ!
(これは――ッ!)
世界が、文字通り止まって見える。
静寂、あれほどの衝撃も今は無く、文字通り無の世界が広がっている。
走馬灯と言う言葉がある。人間は死ぬ瞬間、世界がスローモーションになり今までの記憶がフラッシュバックしていくと言う。
まさに今、世界がほぼ止まって見えるではないか。これが走馬灯? 清麿は一瞬そう思ったが、目の前に広がっているのは見た事も無い数式だった。
(なんだ――、コレ)
魔界の文字がそこにはあった。
それだけじゃない、人間界の文字も。それらが組み合わさり未知の数式が清麿の前に並んでいる。
これは何なのか、清麿は答えを求めた。すると未知なる答えが返ってきた。
それは今までとは全く違う言葉である。それは――
『答えを、出せ』
「!!」
魔界と人間界の数式が混じった目の前のソレ。答えは、清麿の求める物。
彼の手にはいつの間にか光があった。それはペンの役割を持つもの、清麿は情報を求め、答えを知り、数式の法則を導き出す。
彼は天才、見たことの無い数式も法則と説く方法が分かれば活路は見出せる。清麿はその未知の数式を次々に解き明かし、そして――
「視えた! コレが、オレの求めた答えッ!」
清麿は『解』を書き示す。すると、時間の流れが元に戻った。
「「!」」
瞬間、清麿と恵の魔本に光が迸る。
アイコンタクトを取り、すぐに中身を確認する二人、するとそこには新たなる呪文の名がしっかりと刻まれていた。
その詳細、清麿は一瞬で答えを見つけると、恵に向かって叫んだ。
「恵さん、オレと一緒に呪文を!」
「ッ! う、うん!」
魔本を開く二人。しかしもう遅いとヘラーは叫ぶ。
第一、今の清麿に何ができる? 先程のバオウで完全に力は使い果たしたはず。
残っているとしても、テオザケル一発が限界、恵の方はまだ余裕がある様だが、彼女達にフィールド全体を埋め尽くす瘴気は防げない。
既にヘラーの肉体は限界を向かえ、崩壊は進んでいる。しかし確実に清麿たちは殺せると確信を持っていた。
『消えろォオオ!!』
ヘラーの口から暗黒のエネルギーが放出された。一方で声を合わせる清麿と恵。
「「サイフォード・バオウ・ザケルガ!!」」
ティオの手から光が放たれ、それがガッシュに直撃する。
そしてガッシュが放つのはバオウ・ザケルガなのだが――
「バオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
『ッ!?』
放たれたのは『白き』バオウザケルガであった。
金、白、朱色のバオウザケルガ。白い天使の様な翼を持っており、荘厳な雰囲気をかもし出している。
眩い光を放ち、バオウはヘラーが生み出したエネルギーを咆哮一つで一瞬で浄化してみせる。
以前生み出された黒いバオウザケルガ、それと同じく、今度はティオとの力を融合させたバオウが誕生したのだ。
守り力と雷撃の力、二つが合わさり、ヘラーのエネルギーを防ぎながら自身は突き進んでいく。
『バ、バオウ!? コレはバオウなのか!』
そう、そしてコレがバオウの真の力。
破壊のエネルギーを持つが故に特定の色に染まらず、ありとあらゆるエネルギーに適応できる。
そして、この呪文は清麿のアンサートーカーによって生み出された物であった。彼の能力は極限状態と、清麿の精神状態によって進化を果たしたのだ。
名づけるのならば、"アンサートーカー・ブレイクオープン"。
アンサートーカーは弱点の一つとして『答えが出ない』と言う物がある。
その力は未来予知では無い、あくまでも答えの提示なのだから。しかし清麿のアンサートーカーはその一歩先を行く事を許された。
それは答えが出ない問題に対する、答えの明確な提示と出現である。
どんな問題にも答えはある。解けない問題は無い。天才、高嶺清麿の性質にリンクしたとでも言えば良いのか。
答えが出ない問題にぶつかったとき、清麿の意思に応じて答えを導く数式が出現、それを解く事ができれば答えの無い問題に答えが生まれる。
ヘラーを倒す方法は無かった。文字通り存在しなかったのだ。
しかしブレイクオープンの力によって、その答えが導き出されたのだ。その結果が清麿と恵に生まれた新呪文であった。
正確にはコレは清麿の、つまりガッシュの呪文だ。バオウザケルガを強化する役割を、恵とティオにも担ってもらう力。
ティオの守りの力をバオウに融合させるだけでなく、発動に必要な心の力を恵と共有できる。
つまり清麿の残存する心の力で呪文が放てずとも、恵に残りの力を借りる事ができるのだ。
『な、何故だ! 何故超えてくる! 何故神の力が! こんな、こんな馬鹿な!!』
ヘラーは次々に向かってくるバオウに攻撃を仕掛けるが、バオウザケルガはティオの守りの力を得ている。
攻撃や瘴気を次々に無効化しながら突き進んでいく。さらにガッシュのラシルドの効果も持っているのか、防御した攻撃は全てヘラーに返っていった。
「ヘラー! コレが人間の可能性だ!」
『おぉお! オォォオオォオ!!』
清麿と恵、ガッシュとティオは並び、力の放出を続ける。
それに呼応し、白きバオウは巨大な咆哮を上げて一気に加速していった。
(見てるか、マジル!)
お前のおかげだ。
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!」
『ァ、アァアアアアアアアアアアアアア!!』
白き龍がヘラーに牙を突き立て、直後粉々に噛み砕く。
『神が! 絶対の神が――ッ! グアアアアアアアアアアアアアア!!』
白き稲妻が走り、巨大な蜘蛛は完全に消滅していく。
この時、この今、それは魔界の王が魔界の神を倒した決定的な瞬間であった。
今回もちょっと確認が甘いんで誤字とか多かったらごめんなさい。
ネットで見たんですが、ジオウレンズザケルガとメガレックウザって何となく似てますね。あの呪文好きなんですよ。
たぶん次回か次々回くらいで一旦終わる予定です。