IS もう一つの翼   作:緋星

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EP10 黒と白

「よう、一夏」

 

「零司!?」「黒瀬さん!?」

 

アリーナのBピットから出て、驚きのあまり声を上げる一夏と篠ノ之の前に降り立つ。すると千冬さんがこちらに声を掛けてきた。

 

「遅いぞ・・・女性との待ち合わせには遅刻しないんじゃなかったのか?」

 

「『拡張領域』と『改良領域』をちょっとイジるのに思ったよりも時間がかかってちゃいましてね・・・あれ、思ったより頭使いますよ」

 

「時間ならあっただろう」

 

「そう怒らないでくださいよ・・・だったら遅刻の分の埋め合わせでも、後でしましょうか?」

 

「そうだな、考えておこう・・・さて、一夏」

 

千冬さんは俺との会話に区切りを付けると、一夏の方に向き直る。

 

「今からお前には黒瀬と戦ってもらう」

 

「そ、そんないきなり過ぎるぞ!?」

 

「だよなぁ、俺もびっくりだったぞ」

 

そう言って俺は笑うが、一夏にとっては笑い事ではないのだろう。いきなり話もよく聞かされないまま、あのオルコットをボコボコにした相手と戦えというのだから。しかもそのやり方も、異常なまでの攻撃により、だ。

 

「安心しろ、こいつも本調子には程遠いが大分マシにはなってきた。十分やそこらで暴走する様な事はない」

 

「そ、そうは言うけどさ・・・」

 

「とにかく、口で説明しても理解できるのは半分程度だ。後は実戦でものにしろ・・・そうしないと、凰には勝てんぞ」

 

言い残し、こちらに背を向けると千冬さんはピットへと歩いて行く。何か言いたそうな一夏だったが、ああ言った以上、千冬さんに何を言っても無駄だということを理化しているのか、渋々といった風に口を噤んだ。

 

「いきなり過ぎるだろ・・・先に話してくれないとこっちにも心の準備ってもんが」

 

「情けないぞ、一夏」

 

文句を垂れている一夏に隣にいた篠ノ之が口を挟んだ。

 

「相手が目の前にいて、対戦すると言っているんだ。それに対して文句を言ってどうする」

 

「箒・・そうは言うけどな」

 

「彼が強いのは知っている・・・だが、相手がわからない試合だってあるだろう」

 

「いや、それは――」

 

「ともかく、相手が誰であろうと勝って見せろ」

 

厳しい言葉を一夏に投げかけると、篠ノ之は千冬さんの後を追って行った。本当に厳しいね、あの二人は。励ますとかはしないんだから。

 

「手厳しいな、一夏」

 

「・・・俺の周りの女子はどうしてこう・・・」

 

「まあ、そう言うなよ。女運は恵まれてる方だと思うぜ、お前」

 

・・・・ついでに女難の相が出てるとも思うがな。

 

「お前がとある点に気付いてやれば、周りにいる女子の大体は態度変わると思うけどな」

 

「とある点って何だよ」

 

「それはお前が気付くべき、そうするべき・・・・・って、そんな話しをする為に来たんじゃなかったな」

 

こんな話をしていたら、これだけで訓練時間が終わってしまう。制限時間の事もある。俺は頭のスイッチを切り替え、苦笑を消すと一夏を見据える。

 

「さてと・・・覚悟決めろよ、一夏」

 

「・・・今更、無理って宣言しても止めてもられる様な状況でもないしな」

 

ようやく腹を据えたのか、一夏は手に持った『雪片弐型』を構える。それを見て、俺も『拡張領域』から二つの武器、右手に肩の後ろに大型のドラムマガジンを搭載したガトリングガン『Barbara(バルバラ)』、左手には『Dalia』の様に重厚ではなく、何処か機品すら感じる銀色の口径が二つ付いたショットガン『Alice(アリーセ)』を『展開』する。

 

「近距離相手に射撃とは心苦しいが・・・悪い、これも仕事なんでな」

 

「わかった・・・俺も手加減なんてしないぜ」

 

「できるもんならやってみろ」

 

『織斑、黒瀬、準備は良いな』

 

「いいですよ」

 

「・・・・・」

 

オープンチャンネルからの声に返事をする俺とは違い、一夏は頷く。もはや言葉を出せぬほど緊張しているようだ。だがこちらはそんなことで手を抜くほど、甘くするつもりはない。

 

『では・・・戦闘開始ッ!』

 

千冬さんの号令と共にブザーが鳴り、試合開始の合図が鳴った。

 

「うおおおおおおおっ!」

 

そしてそれとほぼ同時に、一夏が加速する。一気に距離を詰める気か・・・ま、近接装備しかない機体ではそれが妥当かもしれんが――

 

「・・甘過ぎるな」

 

『黒天』のスラスターを展開し、向かってくる一夏の上段からの振り下ろしを右へのクイックブーストで回避、上に上がると同時に左手に握った『Alice』の引き金を引く。

 

キュィン―――シュババッ!

 

「なっ・・・レーザー!?」

 

輝きを放つ二門。降り注ぐのは緋色のレーザーの雨。接触する一発一発が『白式』のシールドエネルギーを削って行く。

 

「くそっ!」

 

今までにない兵器を見せられて、驚きながらも一夏はこの場から即座に移動しようと、前方に加速する。ショットガンは弾がバラける。近距離でなければ威力が下がるのは自明の理。離れればある程度はやり過ごせてしまう・・・その上に――

 

「・・・チッ、これ使い辛いな」

 

舌打ちして、『Alice』を見る。この武器は試作段階のレーザーショットガンである。そう、まだ試作段階の物なのだ。奏の提案で、大規模な『拡張領域』を持つこの機体を使った試験用IS兵器の実戦データを取るという事になり、試験用武器を使っているのだが・・・これは思ったよりも使い辛い。

 

「威力は申し分ないんだが・・・エネルギーがな」

 

「くらえっ!」

 

愚痴る俺に対して、前方に進んで、空中での軌道修正をした一夏の『白式』が飛び込んでくる。今度は横からの一閃。構えで見え見えだぞ、一夏。

 

「ハッ!」

 

ガッ!

 

「なぁ!?」

 

再び一夏の驚愕の声が上がる。『雪片弐型』を振ろうとした腕に合わせて、そこに『Alice』の先っぽをぶつけて、腕自体を止めたからだ。俺はそのまま躊躇いなく、引き金を引き、拡散するレーザーを全弾、『白式』の腕へとぶち込む。

 

バァンッ!

 

「うぐっ!?」

 

レーザーがシールドとぶつかって、破裂する様な音を鳴らしたと思うと『白式』は後方へと弾け飛ぶ。そこへと追撃する様に、右手の『Barbara』の銃口を向ける。

 

「休みは無いぞ!」

 

ババババババババッ!

 

鼓膜を打ち破る様な発射の爆音と共にドラムマガジンから薬莢が零れ落ち、大口径の銃口からは毎分三千発の特殊弾丸を吐き出す。その弾丸はさっきの衝撃で体勢を崩した『白式』を捉え、シールドエネルギーもおろか、装甲すらも削り取って行く。

 

バキンッ!

 

「クソッ!」

 

肩部分の装甲が破損し、外れる音がすると、一夏は毒づきながら『瞬間加速』によって弾丸の雨から離脱する。俺はそれを右手で追おうとするが、上手く追いつけない。これは重量問題か・・・今の武装、威力は十分だが他に改良点が多過ぎるな。

 

「今は使えんな・・・」

 

『Barbara』のドラムマガジン部分のロックを解除すると、『Alice』を『収納』し、『Victor』を『展開』。離脱した『白式』へと『瞬間加速』を使い、一気に接近する。

 

―――ギュンッ!

 

「遅いな、『白式』!」

 

一夏の目の前に回る。後からの『瞬間加速』によって、正面に立つのは同速ならまず不可能だろう。ならば何故追い付けるのか・・・それは同速ではないからだ。『改良領域』の強化データとして『瞬間加速』の速度を上げるものがあり、これによって飛躍的に速度を向上させる事に成功している為だ。

 

ギャリィッ!

 

「ほら、お得の接近戦だぞ!」

 

一夏にそう告げながら、『Victor』を振り下ろす。いきなり前に回られ、反応が遅れながらも一夏は『雪片弐型』を構え直して、その斬撃を受ける。即座の反応はまあまあ―――だが

 

「武器は両手だけじゃないぞ!」

 

そう告げると同時に右手の『Barbara』のドラムマガジンの部分を叩きつけ、持ち手を離すと蹴りを打ち込み、距離を開ける。そしてその後、コンマ五秒で『Anna』を『展開』、一夏が体勢を立て直す前にドラムマガジンに向けて特殊鉄甲弾を撃ち出す。

 

バァァァァンッ!

 

「うああああ!?」

 

激しい炸裂音と共に飛散する特殊弾丸。手元で使えないなら、使えないなりに利用する。爆発でダメージを与え、さらにそこへと追撃をくらわす。休む暇など与えない。手加減はしない。

 

「くっ・・・そおおおおおおお!!」

 

点火される『白式』のデュアルウィング。また『瞬間加速』か、このタイミングで読まれないとでも思っているのか。

 

 

射撃(ドンッ) 射撃(ドンッ) 射撃(ドンッ) 射撃(ドンッ) 

 

「ぐあっ!」

 

「児戯だな、まるでよちよち歩きだ」

 

先読みの弾丸が右手、双翼、左足を捉え、撃ち抜く。いくら速度が出ようとも、向かう方向が割れていれば、意味がない。使い場所を誤ったな、一夏。

 

「あの時の動きは嘘だったのか・・・」

 

ドンドンッ――――ギュンッ!

 

平速移動から瞬時に『瞬間加速』へと切り替え、『Anna』を撃ちながら飛ぶ一夏の下に回り込み、上昇する勢いで斬り付け、そのまま上空でターン、一夏へと接近戦を展開する。加速も読まれ、平速移動でも捉えられる。そんな一夏は完全に防戦一方になっていた。

 

「どうした!それでもあの人の弟か!『雪片』が泣いているぞ!」

 

「くっ!」

 

俺の『Victor』と打ち合った瞬間に一夏は俺のセリフを訊いて、悔しそうに表情を歪める。だが事実、未だ一撃も『雪片弐型』は俺の『黒天』に触れてすらいない。こんなものでは話にならない。そんな事を思っていると、沸々とある感情が浮かび上がってくる。

 

「頼む・・・頼むから・・・」

 

この程度なのか・・・本当にこんなものなのか・・・

 

「俺を失望させてくれるな・・・・一夏!」

 

鍔迫り合いの『Victor』で弾き飛ばし距離を取り、左手の武器を『Dalia』へと持ち返ると離れた『白式』へと一斉射撃する。耐えきれるか?いや、むしろ耐えろ。その程度を耐えられないようであれば―――

 

「でなければ・・・・落ちろ!」

 

肩部分に今回『拡張領域』に入れた最後の武器を構える。両肩と背中における固定し、左肩から伸びる三メートルの方針を持った回転式弾装型九十口径大型カノン砲『Eleonore(エレオノーレ)』。命中すればシールドエネルギーを根こそぎ奪い取り、おそらく『白式』のシールドエネルギーはゼロ・・・つまり終わりだ。次の瞬間、俺の耳に届くのは終了のブザーかそれとも・・・・

 

さあ、見せてみろ・・・お前の『雪片』の輝きを・・・俺の心を魅了し、俺の憧れとなった・・・あの輝きを!

 

「輝けぬ白に意味はない・・・・輝いて見せろ、一夏っ!」

 

ドゴンッ!

 

爆音という言葉がまさに相応しい射撃音。空気の振動は大気を揺らして――

 

ドオオオオオオンッ!

 

全てを吹き飛ばす様な音が俺の鼓膜へと届いた。視界には着弾の衝撃から生まれた爆発によって巻き上がる砂埃。

 

『い、一夏ぁっ!』

 

篠ノ乃の声が聞こえる。あの爆発、『Eleonore』の砲撃が一夏へ命中したのを見て、焦って声を上げたのだろう。いや、違うな――

 

――命中したと、思ってか――

 

「あのタイミングで砲弾を切り捨てるか・・・なかなかどうして」

 

そう、切り捨てた。砲弾を切り捨てたのだ・・・つまり『白式』は―――

 

「輝いたか・・・一夏・・・『雪片弐型』」

 

呟くとスラスターの点火する音が聞こえ、砂埃から―――

 

「うおおおおおっ!」

 

――『白式』が飛び出してきた。手に握られるのは『雪片弐型』。だが形状が少し変わっている。刃が開き、エネルギー状のブレードが展開されている。これが『バリア無効化攻撃』・・・・『零落白夜』!

 

「ハァッ!」

 

ザンッ!

 

反応が若干遅れた為か、両手に握っていた『Anna』と『Dalia』が横薙ぎに一刀両断される。そしてそのまま後ろに後退しようとする俺に対して流れる様に打ち出された右からの蹴りによって、バランスを崩してしまう。

 

「グッ!?」

 

「これで――」

 

――ギュンッ!

 

怯んだ俺へと再びの『瞬間加速』、あまり距離が離れているわけでもないこの状況での加速は、後手の『瞬間加速』や武器を取り出す時間よりも早い。そして『白式』の手には『零落白夜』。これは・・・やばい。

 

「―――終わりだあああ!」

 

勝利を確信した様な一夏の叫びを聞いて、フッと不意に笑みが零れた。向かってくる光の剣。それを握るは、俺の恩師の弟。時代は流れ、今再び『雪片』を受け継ぐ者が居る。そしてそんな男と戦える事が、もう二度と見れないと思っていた輝きを今、俺は目にしている事が、心底嬉しかった。

 

――だから同時に少しだけ不満にも思った。どうして、もっと早く輝いてくれなかったのかと。

 

「詰めが甘いな、一夏」

 

ブーーーーーーーッ!

 

「なっ!?」

 

響き渡る、ブザーの音。それはまさしく、試合終了に合図を示すもの。俺はさっきの蹴りを一発しか喰らっていない、そしてこのタイミングでもブザー、それが指し示すものは――

 

『勝者、黒瀬零司』

 

俺の勝ちってことだ。

 

 

 

「この馬鹿者が」

 

「ありゃ無いぜ、一夏」

 

「あんな終わり方をするとは思ってもみなかったぞ」

 

「・・・返す言葉もありません」

 

試合終了後に俺と一夏はAピットに集合させられ、一夏は今、呆れ気味の俺と腕を組んだ篠ノ之、頭を押さえる千冬さんに絶賛説教タイム中である。まあ、あれだけ盛り上げといて、終わりがアレじゃあな。ある意味、エンターテインメント性あり過ぎでしょ。

 

「私は試合が始まる前に『バリア無効化攻撃』はシールドエネルギーを消費すると言わなかったか?」

 

「・・・言いました」

 

「それなのに『瞬間加速』バカスカ撃ってね・・・・あれ、エネルギー消費デカイって知らないわけじゃないよね、篠ノ之」

 

「私は教えたつもりです・・・覚えているかはともかく」

 

「わ、忘れてたわけじゃないぞ」

 

「だったらなおのこと悪いだろ」

 

「鍛え方が軟弱だからあんな事になるのだ」

 

三方向からの非難を受けて、どんどんしぼんで行く一夏。最後が結構良かっただけあって、色々と刺さるんだろうな。だが、いい加減説教ばかりでもあれだろう。

 

「・・・だけど、これである程度感覚は掴めただろ」

 

「お、おう・・・」

 

俺が説教を止めると一夏は顔を上げて返事をし、それを見て頷く。

 

「最後の感覚、あれを忘れないようにしろ。お前の『零落白夜』は一撃必殺だが、諸刃過ぎる。焦り過ぎず、かといって攻めな過ぎても駄目だ。決められる、絶好のタイミングを狙え」

 

「結構難しい事言うな・・」

 

「出来ないのなら、負けるだけだ」

 

横から飛んできた千冬さんの鋭い一言で、再び一夏がヘコむ。だがそんな一夏に、俺は笑いかけた。

 

「大丈夫だって・・・出来るさ」

 

そうだ、一夏なら『零落白夜』を使いこなせる。使いこなせるに決まってるさ、なんたって―――

 

「お前は俺の師匠(千冬さん)の弟だからな」

 

俺が追い求めた輝き。それを握る事を許された男。それが輝きに呑まれるなんて事はあり得ない。あってはならない。一夏は、そんな男で終わらないと俺は確信している。

 

「使いこなせるさ・・・お前ならな」

 

「・・・おう!」

 

一瞬、呆けた様な顔をしたが、一夏はすぐにいつもの顔に戻り、まっすぐな視線で良い返事を返してきた。

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・」

 

Bピットの男子更衣室。俺はそこで一人、ISスーツを脱いだ後に一息ついていた。ここに一夏はいない。Aピットで集まった後、篠ノ乃が「軟弱だから、今から訓練再開だ」とか言ってアリーナに連れて行ってしまったからだ。訓練もほどほどにしておいてやれよ、篠ノ乃。

 

「しっかし、最後のはよかったな」

 

最後に一夏の見せた動き。もしあの時、シールドエネルギーが残っていたとしたら、確実に『零落白夜』の一撃を喰らっていただろう。まるで別人の様な動きだった。あれが一夏の本当の実力だとしたら・・・ISに慣れた後にどうなって行くか見ものである。

 

「『雪片』・・・『零落白夜』か」

 

久しぶりに・・・本当に久しぶりにあの輝きを見た。持ち手は違えど、衰える事のないあの輝き。全てを両断する、絶倒の美しさ。

 

「思えば、あれに見惚れたからってのもあったんだよな」

 

輝く剣と『ブリュンヒルデ』。この二つの輝きが、研究所での俺を支えたものでもあった。苦しくて、何度も逃げ出そうと思った、あの研究所での生活。だが、『雪片』を握って、『暮桜』を乗りこなす千冬さんの姿を見て、俺は思ったんだ。

 

―――ああ、あんな風になりたい

 

―――あんな強い力を持ちたい

 

そう思い、研究所でのIS訓練に没頭した。そしてしばらくして、俺の目の前に千冬さんが現れて、俺を弟子にしてくれて・・・・今思えば、全ては千冬さんが居てくれたから、今の俺があるんだ。

 

「お世話になりっぱなしだっただからな」

 

戦う術を、身を護る術を、誰かを護る術をあの人は教えてくれた。これは俺の自惚れかもしれないが、あの人もそれなりに俺の事を優秀な弟子として見てくれていたのかもしれない。

 

―――お前は私の大切な弟子だ

 

一度だけ、本当に一度だけ千冬さんに言われた言葉。胸を熱くして、涙がこぼれそうで、本当に嬉しかった一言。一生、この人について行こうと思った言葉だった

 

 

 

            ――――でも、俺はその後・・・・・

 

 

 

「・・・止めよう」

 

頭を振って、続きの考えを打ち消す。今を生きようと決めたのに、どうしてこう過去に振り返ろうとするのか・・・成長しないな、俺って。

 

しかし、こう少し思い出すだけだと千冬さんの事が多いな・・・千冬さんと一緒いた時の俺ばっかりだ。千冬さんの言葉で胸を熱くしたり、一生ついて行こうと思ったり・・・って、あれ?

 

これじゃまるで・・・俺が千冬さんを―――

 

「零司、いるか?」

 

「のうわっ!?」

 

突然、更衣室のドアが開いて現れた千冬さんに驚いて変な声を上げてしまった。

 

「なっ、千冬さん!ここは男子更衣室ですよ!?」

 

「そうだが、お前の裸など見慣れてる。別にいいだろう」

 

そう言って、パンツ一丁の俺が居るズカズカと更衣室へと足を踏み入れる。というか、俺の裸は見慣れてるって、それは弟子だった時の話でしょうが・・・今になって得られる羞恥心とかが在るんですよ?

 

「ほれ、差し入れだ」

 

「どうも・・・」

 

渡されたのはスポーツドリンク。キャップを開けると、俺はゴクゴクと中身を呑み込んで行く。ぬるめのドリンクで精神を落ち着かせると、一息ついてから千冬さんと向きあう。

 

「・・・ふぅ、何の用件ですか?」

 

「用件と言うほどの事でもない・・・戦ってみてどうだったか訊きたくてな」

 

「そうですね、素直な感想を言いますと・・・あれは伸びますよ」

 

「・・・なるほど」

 

俺の贔屓目無しの発言を聞いて、千冬さんは小さく頷く。表情はあまり変わっていないが、何処か複雑な感じだった。

 

「・・・一夏はISに関わって欲しくなかった、だから素直に喜べないってところですか?」

 

「別にそうではない。ただ、お前の眼が狂ったのではないかと心配になっただけだよ」

 

「酷いな。俺にも酷いですけど、一夏にも酷いですよ」

 

「そうでもないさ、いつも通りの扱いのつもりだ」

 

つまりいつも俺は信用されてないと・・・ちょっとばっかしショックだ。

 

「こっちはいきなり『一夏と戦ってほしい』とか言われて、予定消して付き合ったのに、この扱いはちょっと酷いですって」

 

「可能な事ならやる・・・そう言ったのはお前だっただろう?」

 

「・・・・・・ソウダッタカナ?」

 

「言葉が事実だと証明してるぞ」

 

不敵に笑みを浮かべる千冬さん。くっ、世話になってるからって言って見ればこれだ。今後、軽くあんな事を言わないようにしよう。

 

「とはいえ、頼み事を聞いてくれたのは感謝している・・・ありがとう」

 

「・・・・っ! い、いえ・・・・」

 

いきなり素直に礼を言われ・・・・柄もなく、嬉しいとか思ってしまった俺が居る・・・・

 

おいおい、落ち着けよ俺。昔みたいに師匠と弟子って関係が先生と生徒に変わっただけだ。それに今のは用件を聞いてくれた礼を言っただけだろう。そんなことで嬉しくなる様なピュアボーイかよ、俺は。

 

「・・・まあ、先生の言う事を聞くのは生徒の務めですから」

 

「では、今後も言う事をちゃんと聞いてくれよ。出席簿で殴るのも疲れないわけじゃないんでな」

 

冷静に返事を返すと、千冬さんもいつもの感じで返答した。やっぱり、ちょっと変だったよな、さっきの千冬さん・・・ちょっと柔かい笑みというか・・・って、またこんな事を・・・

 

「千冬さん」

 

「なんだ?」

 

「礼を言うの止めてください」

 

「何故?」

 

「なんか優しくて気色悪いです」

 

シュバァンッ!

 

「ついさっき、疲れないわけではないと言ったばっかりなのだが?」

 

「・・・・すいません」

 

何処から出したのか出席簿を片手に目元をヒク付かせて言う千冬さんに俺は頭を押さえながら謝った。なんだか、普通よりも痛い気がするんだが・・・・

 

「まあ、いい。それだけを言いに来た・・・今日はもういい、帰ってゆっくり休め」

 

「・・・・やっぱり気色悪――」

 

「そうか、では八時から十二時まで一時間増しの夜間訓練を――」

 

「ああ!やっべ、超疲れた!こりゃやばいな!もうどれくらいヤバいかと言うと虐殺ルートのラストをアクアビットマンでクリアしろとか言われるくらいにヤバい!」

 

いやあ、本当に千冬さんは優しいなぁ。俺の様な奴を気遣ってくれるなんて本当に天使の様な人だ・・・・知ってるか?悪魔って元々天使なんだぜ?

 

「・・・礼くらい素直に受け取っておけ・・・馬鹿者が」

 

「はい?」

 

「・・・なんでもない、早く着替えて自室へ行け」

 

何か呟いたかと思うと、千冬さんは更衣室から出て行った。なんだか最後にちょっと怒っていた気がするんだが・・・

 

「・・・気のせいか」

 

俺にあの人の考えが読めるわけないし、とりあえず今は言われた通りに部屋に帰って休もう。疲労で下手に症状出しちゃっても迷惑かかるし。それにさっきは気色悪いとか行っちゃったが・・・せっかくの千冬さんの善意だ、ありがたく受け取りましょう。

 

「・・・ちゃちゃっと着替えますか」

 

 

 

 

 

Side ???

 

 

 

上空、標高三百キロメートル。場所は新型の大型ステルス輸送機内部の貨物室。そこに一つの人影が合った。

 

「・・・・少し・・・寒い」

 

とても小柄な体系、顔立ちは深くかぶったローブでわからない。だが細い腕や足、呟く様な声の声色から察するに女性・・・いや、少女だろう。体育座りをする少女は自分の肩を温める様にして、擦る。

 

「コーヒーでも淹れましょうか?」

 

機内の奥から女性が顔を出した、その顔はヘルメットに覆い隠され、完全には把握できない。だが、声色には優しさが感じられ、その問いには好意が感じられる者だという事がわかった。

 

「いらない・・・あんな泥水、アメリカ人の飲み物」

 

しかし、その好意に満ちたセリフに少女は唾を吐きかける様な言葉を返した。しかしそんな態度を気に止めるでもなく女性は肩をすくめ、機内へと戻って行く。それと同時くらいに化物室に取り付けられたスピーカーから声が響いた。

 

『まもなく、目標上空・・・・』

 

その言葉を聞き、少女は立ち上がると壁に設置されていた窓から下の景色を見る。そこには本島から外れ、モノレールによって繋がった島。そしてその島には白く、大きな建物・・・・学園があった。

 

「あれが・・・・IS学園」

 

呟く少女は俯き、ギュッと自分の胸元を掴むと息を吐く。今から緊張で胸が高鳴って仕方がない。自分はちゃんと出来るだろうか、皆よりも自分は劣っている自分でもちゃんと出来るだろうか。

 

「大丈夫・・・出来る・・・出来る」

 

自己暗示をかける様に二、三度呟くと小さく頷く。そして顔を上げると、再びIS学園を見た。

 

「ヨハン・・・私の事を褒めてくれるかな・・・」

 

ゆっくりと口元が緩む。過ぎて行く目標、IS学園。それに目を釘付けにしながら、確かに少女は微笑んで・・・・言った。

 

「ちゃんと・・・壊すからね」

 

この日、IS学園を見下ろす影に気付いた者は誰もいない。

 

EP10 End

 

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