IS もう一つの翼   作:緋星

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EP12 人形

Side ???

 

青い海が広がる。海の青は空の青が映った所為だと言ったのは彼だった・・・非科学的だが、とてもロマンチックで私は好きだった。

 

「綺麗・・・」

 

下に広がる蒼海を見て、私は呟く。海は変わらない。故郷のものと変わっていない。とっても綺麗な海。いつか彼が連れて行ってくれた時から、変わっていない。

 

「あなた達もそう思う?」

 

私と同じ様に海上に浮遊する四機のISに話しかける。返事はない。それも当り前、この子達はお人形。私の大切な・・・大切なお人形さん。

 

「ヨハンも・・・そう思ってるのかな」

 

名前を呟いただけで、鼓動が高鳴る。頬が熱くなる。ヨハン、私の大切な人の名前。私に笑いかけてくれた、最初の人。私に大切なお人形というプレゼントをくれた、優しい人。

 

「ヨハン・・・会いたいよ、ヨハン」

 

あの優しい笑顔をもう一度見たい。あの人に頭を撫でて欲しい。だから・・・私はやるんだ。

 

「行こう、彼の為に」

 

呟く私の視界には、接近してくる二機のIS。さあ、始まる。私が操る人形劇が。

 

Side off

 

 

 

「目標、動き出しました!」

 

「こちらも目標まであと一キロを切りました、接触します」

 

五キロ地点から一気に加速して、あちらも動き出しお互いに距離を詰めながら山田先生にそう告げると、ハイパーセンサーで捉えた機影を凝視する。機体は四機とも全て深い灰色をした全身装甲になっており、俺や山田先生のISよりも一回りくらい大きく、首から下を隠す様にしてマントの様なモノが出ている。両腕もすっぽりと隠れてしまい、何を武装しているかわからない様になっている。それと・・・

 

「黒瀬君、見てください。機体が・・・」

 

「ええ、一機多いですね」

 

さらに先、先四機の全身装甲の後ろ、五機目のISを睨む。他の機体と違い、頭まで隠しており、素姓が全くうかがえない。ただでさえ四機でも危険だというのに、追加までされるとは思ってもみなかった。

 

「レーダーには映ってません・・・何らかのジャミングを行っているんでしょうか」

 

「今から連絡しても間に合いませんよ。俺達は俺達のやるべき事をやりましょう・・・行きますよ」

 

視線を送ると、山田先生は頷く。それを確認してから、俺は右手の『Anna』を目標に向けて、オープンチャンネルを開く。

 

「そこの機体、すぐさま停止後、所属国もしくは所属の企業名をこちらに告げてくれ!お前達はIS学園の領海に侵入しようとしている、もし侵入の意志がないなら迂回路の使用を!」

 

「・・・・・」

 

そう告げるが返答は返ってこない。静かだ。不気味なほどに静か過ぎる。あの機体を確認したがハイパーセンサーを通しても、呼吸音一つ聞こえてこない。

 

「聞こえていますか!今すぐ迂回して――」

 

「・・・っ!山田先生、奴の射線から外れろ!」

 

バシュンッ!

 

俺の叫びが飛ぶとほぼ同時、全身装甲の一機から高エネルギー反応が確認され、マントから相手の腕が出たと思うと、腕部装甲がスライド、そこからビームが打ち出された。それを山田先生は反応が遅れながらも、紙一重で回避して、アサルトカノン『ガルム』を構える。

 

「どうやら説得は無駄の様ですね・・・織斑先生が言ったとおりです」

 

「やっこさんはやる気満々みたいですからね」

 

言っていると四機のISはマントを外し、それぞれが腕の装甲をスライドさせる。そして五機目のISから、オープンチャンネルへと返答される。

 

「邪魔・・・しないで」

 

バシュンッ!

 

五機目の言葉に反応してか、一斉に四機の全身装甲ISはビームを撃ち出し、それに対応して俺と山田先生は双方、左右に分かれて回避する。そのまま俺は回避から即座に両手の『Anna』と『Dalia』を構え、一機目へと攻撃を開始する。

 

射撃(ドンッ) 射撃(ドンッ)射撃(ドンッ) 射撃(ドンッ)

 

高速で撃ち出される実弾。しかし眼前の四機はは大きさに見合わない、速度的で的確な動きによって被弾率は半分にも満たない。しかしそこへ――

 

「外しません!」

 

冷静な真耶の声と共にアサルトカノン『ガルム』が火を吹く。

 

ズドンッ

 

回避に移った先を読み、撃ち出された『ガルム』の弾丸はISの間接部分と頭部に着弾。あまりにも正確な射撃に舌を巻いてしまう。千冬さんから話を聞いていたが、これほどの腕とはな。

 

「もらった!」

 

しかしこちらも驚いてばかりはいられない。『Anna』を『収納』し、『Victor』を『展開』。左手の『Dalia』で違う機体に牽制射撃をしながら、さっきの機体に『瞬間加速』で近づき、ブレードを振りかぶる。

 

ガキィッ!

 

「チッ!」

 

だが、さらにもう一機。横から来た機体の腕から出ていたビーム砲からでたビームをブレード状に固定して、阻まれる。あの腕は遠近両方で活用できる兵器か・・・厄介な。

 

「だがっ!」

 

ブレードを『Victor』で押さえながら、その機体の腹部に『Dalia』の銃口を押し付け、引き金を引く。ズドンという重い、鼓膜を震わせる射撃音とバリアの上から装甲を削る音が聞こえ、敵ISは弾き飛ばされる。これならかなりシールドエネルギーを削っただろう。

 

「はあっ!」

 

そこに他の二機からの攻撃を回避しながら、さらに『Dalia』をくらった『ガルム』による追撃を行う。よし、このまま・・・

 

「落とすっ!」

 

叫びながら『Victor』を投げ、それを追う様に『瞬間加速』をして『Anna』のトリガーを引く。さらに左手に『拡張領域』から武装を『展開』する。それは漆黒のフレームによって作られた、巨大な楯にも見える。だが先端には七十二口径の巨大な杭が取り付けられている。大型パイルバンカー『Darius(ダリウス)』、それがこの武器の名前だ。

 

バシュゥッ!

 

「そう嫌がんなよ・・・」

 

『Victor』が命中しながらも極太のビームが俺に向けて発射されるが、それを『Darius』のシールドで防御し続け、投げ飛ばした『Victor』が肩に刺さった目の前のISとの距離を詰めると同時に先端を押し付け―――

 

「痛いだけだっ!」

 

ガコンッ!・・・バキンッ!

 

やけに重苦しい音と共にシリンダーを吐き出すと、特殊合金で作られた杭が全身装甲のISにぶち当たる。連続発射は二発が限界だが、威力だけならあの『楯殺し(シールド・ピアーズ)』こと『灰色の鱗殻(グレイ・スケール)』の比ではない。一発で確実にこの機体のシールドエネルギーはゼロまで持っていける!

 

「これで――っ!?」

 

『Anna』を『収納』し、『Victor』を右手で引っこ抜くと同時にトドメとして『Darius』を打ち込もうとした瞬間、俺は驚きで言葉が詰まった。さっきこのISに庇われたもう一機がこちらに向けて目の前のISを蹴り飛ばしたのだ。『Darius』の先端が全身装甲の胸部にめり込む。意識では『Darius』の引き金から指を外そうとするも、間に合わず・・・

 

バギンッ・・・

 

「なっ!?」

 

『Darius』は装甲板を打ち抜き、ISを貫通した。パイルバンカーによって砕かれた胸部からは、紅い液体が噴水の様に溢れ出し、俺の顔に装着されたバイザー型ハイパーセンサーを紅く染め上げた。

 

「あいつら・・・なんて事を!」

 

さっき仲間を蹴り飛ばしたISを睨みつける。なんて事をしやがるんだ、あいつは。仲間を壁にしやがったのかよ!

 

「黒瀬君っ!?・・・きゃっ!」

 

今の光景に衝撃を受けたのか、一瞬の硬直を許してしまった山田先生に三発のビームが迫り、そのうち二発が命中した。

 

「山田先生っ!」

 

重苦しいISを貫いたまま、衝突の為に故障し機能しなくなった『Darius』をパージすると、『瞬間加速』を使い、ビームの出力に耐え兼ねたのか弾き飛ばされた山田先生の元へと一気に急ぐ。

 

バシュッ!

 

「グッ!」

 

後方からの射撃が『黒天』のウィングと右足を掠める。シールドエネルギーが低下すると同時に、大きな衝撃を受けてバランスを若干崩したが、まだ加速する。そして、

 

「大丈夫ですか!山田先生!」

 

「は、はい・・・なんとか」

 

山田先生の腕を掴むとこちらに引き寄せる様にして体勢を立て直させる。マズいな。今の一撃で『ラファール・リヴァイヴ』のシールドエネルギーがほぼ空だ。それに山田先生の頭部へと激しい衝撃を与えたらしい。腕は良いが、機体は量産機。防御面も俺の『黒天』の様に高くはない。

 

「その程度じゃ・・・駄目」

 

庇う様にして、山田先生をこちらに引き寄せる俺の前に三機のISを引き連れた指揮官らしきマント付きが言う。

 

「もう無駄・・・だから止めて」

 

その声は何処か悲しさに似たものが込められており、ここでの戦いを拒んでいる様だった。だが、だったら何故IS学園へと進行する。やはり、このマント付き共は専用機ISが目当てでここに居るのか。

 

「止めて欲しかったら、この場所から立ち去れ」

 

「それは・・・出来ない」

 

「何故だ!」

 

「壊さなきゃ、ならないから」

 

「壊す・・・だと?」

 

「そうじゃなきゃ・・・喜んでもらえないんだよね?」

 

マントの奥底、その中がどうなっているかは分からない。だが、今のセリフが俺に向かって言っているのは理解できた。だからこそ、困惑する何を・・言っているんだ?何故俺に聞いてくるんだ?

 

「だから、意味がわからないと言って――」

 

『零司、聞こえるか』

 

聞き返そうとした瞬間、学園側からの通信が介入、千冬さんの声が飛び込んできた。それにこちらもチャンネルを開いて、応じる。

 

『なんですか、こっちはまだ戦闘中――』

 

『新手だ、こちら側に二機・・・侵入された』

 

「なっ!?」

 

驚愕で声が零れた。馬鹿な、学園側は教師陣が守ってるんじゃなかったのか?そんなやすやすと侵入なんて・・・

 

『どういうことですかそれは!』

 

『どうもこうもない。レーダー反応無しにいきなり現れた・・・一機はブルシロフスカヤ先生が破壊したが、一機はアリーナに侵入、今は織斑と凰が応戦している』

 

千冬さんの話を聞いて、正面の機体を睨む。レーダー反応なし・・・原因はおそらく今目の前にいる機体達と同じもののせいだろう。まさかこんなに早く侵入するとは・・・

 

「何故こんな事をするんだ・・・こんな事をして誰が喜ぶってんだよ!」

 

「それに応える事は出来ない・・・」

 

こちらの質問に返答するマント付きの声はとても澄んだ少女の声だった。声色からしてまだ十代前半といったところか。声にはやはり何処か必死というか、切実な感情が聞き取れた。戦いを欲してはいないか・・・だが――

 

ドンッ!

 

「・・・っ!?」

 

「ふざけんなよ」

 

全身装甲の一機に向かって『Anna』を撃ち、装甲を削る。通すわけがない。やたら高威力のビームにブレード。そんなものを搭載した機体を四機もあの会場にさらに侵入を許したら、パニックどころの話ではなくなる。

 

「あそこは・・・新しい俺の居場所なんだ」

 

「黒瀬・・君」

 

あそこには一夏が居て、篠ノ野もオルコットも、青嶋も凰も・・・千冬さんもいる。学園の皆が居るんだ。皆が平穏にクラスマッチを見て、賑わって、それを楽しんでいるんだ。そんな状況にこんな化物はいらない。

 

「場違いなんだよ・・・お前らは」

 

あそこは戦場じゃない。学園なんだ。これからを生きる、IS乗り達があの場所にいるんだ。そんな場所にお前らを行かせるわけにはいかない。

 

「だからこの場所から消え失せろ・・・もしそうしないなら――」

 

山田先生から離れ、右手に握る『Anna』を向ける。あと何分持つかわからない。だがあの場所へと危害を加えるのなら・・・俺は全力で・・・

 

「俺はお前達を・・・破壊する!」

 

ギュンッ―――

 

「・・・っ!?」

 

終了した戦闘の再開の合図と言わんばかりに、俺は加速し、残りの三機、内一機へと接近すると『Anna』を『収納』、『Victor』を二つに分けるとその機体の両肩へと振り下ろす。

 

ブシュッ!

 

「あっ!」

 

少女が声を上げるのと同時にISの両腕が引き千切れ、再び紅い液体が壊れた蛇口の様に吐き出す。俺はそれを無視して、左手に持った短いほうの刃を顔面へと突き立て、柄を殴る。

 

バキッ!

 

刃が突き立てられ、砕ける音と共に顔面の装甲が割れ、俺の視界にとあるものが飛び込んできた。それはパーツ。本来なら人間の頭が在るべき場所に敷き詰められているのは何重にも張り巡らされた機械だった。

 

「まさか・・・独立駆動(スタンド・アローン)が可能の自立起動兵器!?」

 

「なるほど、通りで血の匂いがしないわけだ」

 

破壊された顔面を睨みながら、憎々しげに吐き捨てる。七年前に技術的には開発され、事実上使用可能と言われていた兵器。そんなものがこんなところにあるなんていう事が信じられないと言った感じで山田先生は言葉を零した。

 

だが、俺の感情は驚きとは別の物で支配されていた。

 

「・・・クソッタレが」

 

心の中で沸々と湧き上がる黒い感情。それは憎悪。目の前にある兵器が許せない。あってはならない。蘇る光景。時間も来ていないのに現れる砂塵のフラッシュバック。向かって来る、あの時の敵。

 

「こんなもんを・・・まだ作ってやがるのか・・・」

 

時間でもないのに、目の前が真っ赤に染まる。ギリギリと砕けるほど歯を食いしばる。こんなものはこの世にあってはならない。

 

「スクラップ共が・・・全部バラバラにしてやるよ」

 

デュアルウィングを大きく広げると、スラスターを吹かし、次の機体に近付く。そして右手に持った『Victor』が捉え、振り下ろされたブレードは人形のレーザーブレードにぶつかる。

 

ジジジッ!

 

鍔迫り合いのまま、俺は人形を押していく。こちらの感情に応じるかのように、『黒天』の出力が上がっている。お前にもわかるのか、『黒天』。俺の怒りが・・・

 

「駄目っ!」

 

マントの少女が声を上げる。もう一機の人形は俺の側面に回り込むとビーム砲の銃口を光らせる。鍔迫り合いの状態を狙ったか・・・だが

 

「黒瀬君はやらせません!」

 

バシュンッ!

 

ビームが弾かれる音がする。俺と人形の間に入った山田先生が『拡張領域』に閉まってあった機体全体をカバーする様な大型シールド『グレート・ウォール』を『展開』していた。

 

「こちらの機体は私が引き受けます!黒瀬君はそっちを!」

 

「了解!」

 

俺は山田先生の指示に返事をすると、スラスターの出力を上げる。まずはこのまま押し切って分断する。

 

「ウオオオオオッ!」

 

一気に加速し、ある程度分断すると俺は相手を蹴り飛ばす。そして両手の武器を『Anna』と『Dalia』にチェンジ。即座に引き金を引く。それに対して、相手も即座に体勢を立て直し、ビームで応戦。

 

「デカイ割によく動く!」

 

乱射される実弾とビームの嵐。高速で動きまわる俺と人形、どちらも決定打を与えられずに戦闘は進んで行く。さっきよりも格段に動きが良くなっている。まるで相手が戦闘中に成長している様な感覚さえ覚えて来るくらいだ。

 

「どんなAIしてやがるんだ!」

 

――ザンッ!

 

ぼやいていると、人形は射撃を止めて、スラスターを吹かすとこちらに接近。レーザーブレードで『Dalia』を叩き斬る。

 

「クソッ・・・」

 

「きゃあっ!」

 

向こうから悲鳴が聞こえ、こちらに山田先生が飛んできた。俺はすぐさま人形から離れると、山田先生の元へと移動、彼女の背後で止まる。

 

「大丈夫ですか、山田先生・・・」

 

「はい・・・すみません、先生なのに足を引っ張っちゃって」

 

「無茶ないですよ・・・これじゃ」

 

残りは二機と一機。そのうち二機は戦闘初めより格段に強くなっている。二手に分かれてやるなんて無謀な事は出来ない。それに・・・

 

「黒瀬君、時間の方は――」

 

「まだ・・・でもそろそろですね」

 

そう、時間が近い。このままだと戦闘中に時間切れという、シャレにもならない事態が起こってしまう。そうなれば最悪、山田先生に襲いかかってしまうかもしれない。それだけは避けなければ。

 

「仕方ありません・・・一機ずつ各個撃破では間に合わないでしょう。二機同時に破壊します」

 

「二機同時ですか・・・でもどうやって」

 

「俺に策が在ります」

 

そう言うと俺は山田先生にプライベートチャンネルを開き、簡潔に作戦の内容を告げる。すると、山田先生は俺の作戦を非難する様に顔をしかめる。

 

「・・・策と呼べるんでしょうか、それは」

 

「確かにそうでないかもしれません、でもやるしかありませんよ」

 

「賛同しかねますけど・・・そうみたいですね・・・わかりました、その策で行きましょう」

 

俺と山田先生は頷き合うと、二機の人形を見る。親切にも待ってくれていた様で、こちらにターゲットをロックしたまま空中に浮遊している。

 

「さて・・・行きますよ!」

 

「はいっ!」

 

返事をして、山田先生は横に飛び、俺は真っすぐ二機の人形へと向かう。すると二機は腕のビーム砲をこちらへと撃ち出す。

 

「こなくそ!」

 

撃ち出されるビームの雨の中を俺は進む。ウィングに、腕に、足に、胴体に、命中する度に痛みが走る。だが俺は加速を止める事は無い。ただまっすぐに、相手に向かって飛ぶ。そして、射程圏内に捉えた瞬間――

 

「捕まえたぞ!」

 

ほとんどカラの状態のシールドエネルギーを使用して『瞬間加速』を行い、一機の人形へとタックルを喰らわせる。そしてそのまま加速を止める事無く進み、もう一機を捉える。

 

「ギギ・・・」

 

俺を見て機械音が鳴ると、人形は俺の射線から逃げようとする。だが逃がさない。俺達はその為に二人いるんだ。

 

ザシュッ!

 

「逃しません!」

 

人形の横腹に位置する部分から緑色のレーザーブレードが突き出す。刀身を長くすることで命中率を上げた山田先生の近接ブレード『メタス』だ。絶対防御が発動しないってことはやはりこの人形共、自身のエネルギーをほとんど攻撃に回してやがる。だからあんな二発で量産型とはいえ、『リヴァイヴ』のシールドエネルギーをほぼ全て削り取る様な馬鹿出力の兵器をぶっ放せる。だがこれなればシールドによる破壊を免れる事はほぼ無理だ。

 

「オラァ!」

 

山田先生の貫いている人形へと速度の付いた状態でぶつかる。貫通した『メタス』がさらにもう一機の人形の胴体を貫通する。それを見て、俺は人形から離れて、とある武装を『展開』する。

 

「行くぞ、狩りの魔王」

 

紅い粒子が俺の背から右肩へと集まり、形を成す。それは俺の『黒天』と同じ黒をベースにラインレッドを加えた色合いをしている。背中に形成されたショルダーパックと直結した、大型のキャノン砲。その名は『Samiel(ザミエル)』。狩りの魔王にふさわしい、『黒天』現段階最大威力のレーザー砲だ。

 

「離れろ、山田先生!」

 

俺の声に反応して、山田先生がブレードを手放し、離れる。その瞬間に俺は残ったエネルギーをほとんど『Samiel』へと回す。これで終わりだ、スクラップ共。二度と俺の前に姿を現すな。

 

「消え失せろおおおおおおっ!!」

 

叫び声が轟いた瞬間、全てを飲み込む真紅の閃光が人形達の上半身のほとんどを抉る様に消し飛ばし、貫通したそれは海上に着弾すると巨大な水柱と沸騰による蒸気を立ち上げる。

 

こちらの予測通り、上半身を失った二機の人形は完全に機能を停止し、その水柱に呑まれながら海中へと没した。

 

「さすがですね、黒瀬君。完璧です」

 

「無茶させてすいません・・・」

 

「いいんですよ、私は先生なんですから」

 

『Samiel』を『収納』し、山田先生に言うといつもの頼りなさげな笑顔を向けてくれた。だが実際は笑ってもいられない。

 

「・・・ならもうちょっと頑張りましょうか」

 

「そうですね・・・学園の為にも」

 

ガシャッ!

 

『Anna』と『ガルム』が『展開』され、マント付きの少女へと銃口が向けられる。俺も山田先生もほとんどシールドエネルギーは残っていない。だがそれでも、ここでこの少女を通すわけにはいかない。勝てる見込みなどほとんどない。だがそれでも、せめて少しでもシールドエネルギーを削って次に繋ぐくらいの働きをしなくては・・・

 

そう考えていた、その時―――

 

「・・・いやぁ」

 

弱々しく、か細い声が聞こえた。その声を発したのは目の前の少女。よく見るとマントで隠れた顔のところから雫が落ちている。あれはもしかして・・・

 

「・・・泣いてるの?」

 

「ヨハンのお人形・・・ひっく・・・全部壊れ・・・ちゃった」

 

嗚咽混じりに聞こえて来る涙声に山田先生は呆気に取られていた。マントの奥、そこから聞こえて来る泣き声はあまりに不格好で、見ているこっちが痛々しくなるような純粋な声だった。

 

「もうやだ・・・ヤダ帰る!」

 

「な・・・帰るって――」

 

「こんなところ居たくない!皆、皆・・・私から人形を取り上げるんだ!」

 

涙声で半狂乱気味に叫び散らす少女。普通に見ただけならば、隣の山田先生の様に、ただ呆気に取られるだけだろう。だが俺は違っていた。

 

―――ザ・・・ザー・・・・

 

少女の声を聞いて、頭の中でノイズ交じりにとある光景が蘇る。それは明らかにこの場には似つかわしくない光景。いつも俺が見る様な殺伐とした光景ではなく、とても優しい光景。

 

金属の壁と白いベッド・・・そして笑顔で語りかけて来る・・・少女達。

 

「やだ・・・こんな場所に居たくない・・・」

 

「今のは・・・って、おい待ちやがれ!」

 

いきなりの奇妙なフラッシュバックに不信感を抱いた一瞬に少女は泣きながら身を翻すと、マントの中のスラスターを吹かしてこちらから離れて行く。くそ、早い。この速度で動いて追うとすると、すぐにエネルギー切れになっちまう。

 

「追跡は不可能・・・みたいですね」

 

「その様ですね・・・・でも二人とも無事で良かったです」

 

「ええ、私も黒瀬君が無事でよか――」

 

言葉が途切れる。ハッとなり山田先生の方を見ると、『ラファール・リヴァイヴ』を纏ったまま海上へと落ちて行く。

 

「マジかよっ!」

 

すぐさま山田先生を追い、海上ギリギリでキャッチする。どうやら気絶している様で、顔色も真っ青だ。もしかして、さっきの戦闘で頭を・・・

 

ISに乗っている限り、すぐさま命を落とす事は無い。ISに付いている『絶対防御』。これが登場者の命を守っているからだ。しかしそれは攻撃に対して起動し、その一撃で命を落とさなくさせるものであって、攻撃で受けた衝撃で後に出て来る症状などには対応していない。

 

「どうしてこんなタイミングで・・・・グッ!」

 

気絶した山田先生を見ながら、こちらの顔も歪む。視界の赤がゆっくりと広がっているのがわかる。時間切れだ。

 

「とにかく・・・早く戻らないと・・・!」

 

眩暈のする頭に鞭を打って、精神をしっかりとさせる。俺の事はいい。所詮、気絶しても休めば害はない。だが山田先生は違う。もしも変なところでも打っていたら・・・そんな最悪な想像が浮かぶ。

 

「おい、山田先生・・・・しっかりしてくれよ!」

 

すぐさま、IS学園へと進路を取る。俺は誓ったんだ。あそこで新しく生きて行くって・・・それなのに・・・

 

 

        前と同じ様な状況で・・・近くの誰かが死ぬなんて冗談じゃない!

 

 

「死ぬなよ、真耶!」

 

俺は山田先生の名前を叫びながら、彼女の肩を強く握った。ただ今は、生き残ってくれる事だけを願って。

 

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