IS もう一つの翼   作:緋星

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EP15 過去からの使者

とある飛行場。錆びれて、飛行機もちらほら見えるだけで賑やかさなど何処にもない。夕陽に照らされた、ずいぶんと殺風景なその場所にそこに二つの人影があった。

 

それぞれは少年と少女であり、その場で口論をしている様だった。いや、口論というよりも少女の方が一方的に口を開いている。

 

「何故! 何故なのですか!」

 

「ここまで追って来て・・・またその話か」

 

呆れたように少年が覇気の無い声で訊き返す。もう何度目か、正直この少女の「何故」という言葉は訊き飽きていた。

 

「何度だって聞きます! それに・・・理由も話さずに行ってしまおうとしているのはあなたではないですか!」

 

声を荒げる少女。その度に美しい銀長髪が風に揺れる。だが少年はその問いに答えない。少女がどのような怒りを抱いているのか、薄々理解はしている。だが答えない。それが少女の憤りを加速させる。

 

「あなたは優秀な戦士だ! それなのにあのような極東の地に戻って何をする気なのですか」

 

「・・・何もしない・・・何も」

 

「ならば! ならば何故戻るのですか! あなたはここにいるべきだ!」

 

「もう・・・ないんだ・・・」

 

「何を言って・・・っ!?」

 

そう呟き、振り返る少年の顔を見て、少女が口を噤む。少女が目にしたもの、それは今まで見た事のない様な悲しい笑顔と、頬を伝う一筋の涙だった。

 

「もう、何もないんだよ・・・」

 

それは二年前、ドイツでの出来事だった。

 

 

 

 

「やっぱりハズキ社製のがいいなぁ」

 

「え?そう?ハズキのってデザインだけって感じしない?」

 

「そのデザインがいいの!」

 

「私は性能的に見てミューレイのがいいなぁ。特にスムーズモデル」

 

「あー、あれねー。モノはいいけど、高いじゃん」

 

五月も終わり、六月に入ったIS学園。その月曜日の朝。明日よりISスーツの申し込みが始まるらしく、クラス中の女子達がワイワイと賑やかに談笑していた。そんな中で・・・・

 

「・・・・・ハァ」

 

俺は重苦しいため息を吐く。気分は最悪、正直授業にも出たくない。原因はわかっている、おそらく今日見た夢のせいだろう。

 

とあるドイツの飛行場である少女との口論した時の夢だった。実際口論した内容はどうでもいいのだが、問題はその時期である。

 

二年前、それは俺のトラウマの原因になった事件の数か月後の出来事だった。俺がもっとも追い詰められ、何もかもに絶望していた時、躁鬱病の様な状態だった時の夢だった。

 

たかだか夢一つ、そう思う人もいるだろう。だが、これは俺にとってトラウマの象徴であり、ここ数日間は見ていなかった夢だ。ようやく解放された、そう思っていた矢先の出来事だ。まるで雛鳥がようやく飛び立とうとした瞬間、羽が折れて地にたたき落とされた様な感覚。言葉にするのも嫌になる様な嫌悪感。

 

「最悪だ・・・」

 

呟かずにはいられない。これを最悪と言わずに何とする。俺は再びため息を吐き出すと、机に突っ伏した。しかしそんな精神状態でも学業に励まねばなるまい。それが学生の本分なのだから。

 

「そうだねー・・・そうだ、黒瀬さんのISスーツって何社製なんですか?なんだか見ないタイプですけど」

 

「・・・・・」

 

さっきまでそこで話していた女子が不意に俺に話題を投げてきた。それに反応して、俺は無意識にその女子を睨みつけてしまった。すると女子は持っていたカタログを胸に抱え込み、一歩後ずさる。

 

「あ、ご、ごめんなさい・・・興味本位でつい・・・」

 

「あ、いや・・・俺の方こそすまない」

 

ハッとなって我に返ると睨みつけてしまった女子に謝罪する。何をやっているんだ、俺は。イライラしているからといってもこれは無いだろ。

 

「大丈夫ですよ、気にしてないですから・・・スーツの事はまた後で聞きます」

 

「本当にすまない・・・」

 

笑顔で「大丈夫ですって」と言うと女子は友達の中へと返って行った。そして入れ違いになるように、一夏が声を掛けてきた。

 

「どうしたんだよ、零司。らしくないぜ?」

 

「・・・わかっているさ、そんなこと」

 

ぶっきらぼうに返事を返す。先ほどの女子に対してこんな感じなのだから、同じ部屋の一夏には先ほど以上に迷惑になっているのだろう。こんなんじゃ駄目だ。理解している、頭ではわかっている。だがそれでも感情は言う事を聞いてはくれない。

 

「どんな夢を見たのかは知らないけどよ、他人に当たるのは違うだろ」

 

「わかっている・・・だから自分が馬鹿らしく思える」

 

「だったらよ――」

 

「わかっているって言っているだろ」

 

突き放す様な言い方だとわかっている。だが、今は本当に干渉してほしくない。今だけは一人にしてほしい。

 

「そうかよ・・・じゃあな」

 

「一夏」

 

「なんだ」

 

「迷惑掛ける。授業までには直す」

 

「・・・ああ」

 

俺の気分を察してくれたのか、一夏はあまり深く詮索せずに自分の席へと戻って行く。それを見た後、深呼吸をする。すまない、一夏。すぐに気分を持ち直すから、待ってくれ。

 

しかし、最悪な夢だが同時に不思議にも思っていた。あまりに唐突、それが夢で在るとすると当然の事かもしれないが、俺にはそれが偶然には思えない。まるで何かを・・・これから起こる出来事を予見する様な、まさに正夢という感じなのではないかと。

 

「まさかな・・・」

 

馬鹿らしい考えを振り払う。どうしてそんな事になる。あの娘は今頃ドイツの軍事施設にいるだろう。それが何故俺の目の前に現れる。あり得ない、そう絶対にあり得ない。

 

「諸君、おはよう」

 

「「「おはようございます、織斑先生」」」

 

そんなことを考えている間に我らが担任鬼教師こと千冬さんが入って来ると、返事をして次の瞬間には騒がしかったクラスの女子達の喧騒が静まり返る。まるで礼儀正しい軍隊行列。

 

「今日から本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締める様に。各人のISスーツが届くまでは学校指定の物を使うので忘れない様にな。忘れたものには学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それもないものは、まあ下着でもかまわんだろう」

 

いや、構えよ。クラス全員が内心、突っ込みを入れていただろう。水着と下着では羞恥心に天と地の差が在る。大体、女子が下着姿になるならまだしも、俺や一夏が下着姿になったらどうするんだ。誰が喜ぶんだよ、そんな展開。少なくとも、俺達を見ている皆様は喜ばないはずだ。

 

「では山田先生、ホームルームを」

 

「は、はいっ!」

 

連絡事項と言う名の問題発言をぶちかました千冬さんはすでに教室にいた山田先生にバトンタッチ。眼鏡を拭いていたのか、慌てて掛け直す姿が子犬の様に思えて少し癒される。

 

「え、えっとですね。今日はホームルームを始める前に何と転校生を紹介します」

 

「「えええええええっ!?」」

 

いきなりの転校生発言にクラス中が一気にざわつく。転校生か、確かにここIS学園は様々な国から優秀なIS操縦者の候補達が送り込まれてくるだろう。だが、先々月には凰が来たばっかりだ。いくらなんでもスパンが短すぎないか?

 

「黒瀬」

 

「なんですか?」

 

「帰りたい、などと言うなよ」

 

そして千冬さんからの謎の警告。帰りたくなるような事・・・いかん、なんだか激しく嫌な予感がするんだが・・・

 

そんな俺の予感は余所に、教室のドアがスライドし、ざわめくクラスメイト達の視線は一斉にそちらへと向く。その影に隠れていた人物の姿が顕になる。

 

その姿に俺は息を飲む。その腰近くまで無造作に伸ばした美しい銀長髪も左目に付けた黒眼帯も、そして赤色の右目もその小柄な体格からにじみ出る『軍人』としての気配。全てが激しく見覚えが在る。

 

そう、それは俺の夢に出てきた・・・あの少女の物とまったく酷似している。

 

「・・・挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

「教官は止めろ、ここでは私は一般教員だ」

 

「了解しました」

 

そしてこの声。ああなんて言う事だ、本当に正夢になるなんて・・・今、激しくここから逃げ出したい。千冬さんの言葉はそう言う事か・・・

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「・・・・・」

 

今まさに夢の少女・・・ラウラ・ボーデヴィッヒは冷たい声で言い放った。次の言葉を期待する様に待つクラスメイトの中で俺は軽く混乱していた。

 

(何故だ。何故軍属のラウラがここに来ているんだ・・・)

 

ドイツ軍IS配備特殊部隊『黒兎部隊』こと『シュヴァルツェ・ハーゼ』の隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐。本来ならば今頃ドイツ本国で軍事資料と睨めっこしているはずの人間がこのIS学園に来たという事は、それなりの理由が在る筈だ。

 

「あ、あの、以上・・・ですか?」

 

「以上だ」

 

山田先生が出来る限りの笑顔を浮かべてラウラに訊くが、取り付く島もない。そしてそんな山田先生に目もくれず、ラウラはツカツカと一夏の方へと歩いて行く。

 

「貴様が―――」

 

「は?」

 

ラウラの瞳がスッと細まる。マズイ、そう思った時には俺は席を立っていた。

 

ヒュッ―――パシッ

 

「止めろ、ボーデヴィッヒ」

 

席を立った俺は振り上げたラウラの左腕を掴み、一夏の頬に触れる寸前で止めた。ラウラはそんな俺の顔を見ずに口を開く。

 

「止めないでください」

 

「それは無理だな。俺は友人が殴られるのを黙って見ていられるほど冷酷な人間じゃない」

 

「あなたも・・・」

 

苦々しく呟き、ラウラは俺の手を振りほどく。そうした後、一夏を憎しみの籠った、燃える様な紅い瞳で睨みつけて口を開く。

 

「私は認めない。貴様も、この学園も・・・認めるものか」

 

唖然としている一夏にそう言い捨てるとスタスタと空いている席に座ると腕を組んで、瞳を閉じる。異質なモノを見るような視線がラウラに集まり、クラスはあっという間に新しい転校生に圧倒的距離感を感じ取ってしまっている様だった。

 

「あー・・・ゴホンゴホン! ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同で模擬選を行う。解散!」

 

だが千冬さんの鶴の一声により氷付いていたクラスが動き始める。俺は一夏の腕を掴み、席から立ち上がらせる。

 

「一夏、行くぞ」

 

「零司、今のは何だったんだ」

 

「いいから立て、それとも呆けたままで女子の着替えでも覗く気か?」

 

「そ、そうじゃないけどさ・・・って、おい零司」

 

俺の言葉に応じるのを待たずに一夏の腕を引っ張り、クラスから出て行こうとする。その途中で千冬さんにすれ違う。

 

「逆らえないものですね・・・」

 

「ああ、お互いにな」

 

すれ違いざまに短く言葉を交わすと俺はクラスを後にした。もはや夢による苛立ちは無い。その代わりにとんでもない転校生の登場に対する驚きとこれから起こるであろう問題に対する緊迫感だけが、俺の心に残っていた。

 

 

 

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

 

「はいっ!」

 

第二グラウンドに集まった一組と二組の生徒達から気合いの入った返事が千冬さんに返される。実質的にISを使った授業は今日が初めてだから、皆も緊張しているのだろう。おそらく、こんな中で他の事を考えているのは俺くらいか・・・

 

視線を動かし、俺との距離を数人挟んで立つ銀髪の少女、ラウラを見る。固く、冷たい雰囲気を保ったままでジッと千冬さんを見ている。

 

(軍事目的というわけでは無い様に見えるが・・・)

 

だが気になる。一体何の目的があってこのIS学園に来たのか。あいつの性格上、学園なんてぬるま湯には進んで来たがらないだろうし・・・

 

「まずは実戦で試してもらう・・・凰!――それにオルコット!」

 

「「はい!」」

 

凰とオルコットの返事を聞きながら、俺は注意をラウラへと向けていた。いかんな、これでは授業に身が入らない。

 

「面倒くさいわね、正直」

 

「こういう事は見世物の様な感じがして気が進みませんわ・・・」

 

「お前ら少しはやる気を出せ・・・あいつに良いところを見せたくないのか?」

 

そんな状態で聞こえてきた言葉に俺は小さくため息を吐く。千冬さん自分の弟を餌に使いますか・・・それにそれくらいでさすがにオルコットも凰も食いつくわけ――

 

「やはりここはイギリス代表候補生、私セシリア・オルコットの出番ですわね!」

 

「実力の違いを見せつける良い機会よね!専用機持ちの!」

 

・・・ものの見事に釣られたよ。落ち着いて考えてみろよ、二人共。あの一夏がお前らの活躍見ても「おお、凄いな」って感じで終わるに決まっているだろ。まあ、やる気が在るのは良い事かもしれんけどさ。

 

「それで、相手はどちらに?私は鈴さんが相手でも構いませんが」

 

「ハンッ、返り討ちにしてやるわ」

 

「慌てるな馬鹿共。対戦相手は―――」

 

キィィィィン―――

 

千冬さんのセリフを阻むようにして、天空から音がする。この音は風斬り音・・・てことは誰かこっちに飛んで来ているのか。

 

そう思い、空を見上げて俺は眉を顰める。飛んできたのは『ラファール・リヴァイヴ』そしてその乗り主は――

 

「あああああーっ!ど、どいてください~っ!」

 

「ちょっ、山田先生っ!?」

 

こちらに向かって飛んでくる・・・否、落ちて来る山田先生。どうやら機体のバランスを崩しているらしい。あれじゃ止まれん。

 

「クソッ、『黒天』!」

 

『展開』してすぐに衝撃と衝突音が同時に俺に襲いかかる。だが、瞬時に展開された『黒天』によってそれは阻まれ、俺の肉体に被害を出すことはなかった。しかし、危なかった・・・もしもコレが俺じゃなくて一般生徒だったら、怪我じゃ済まなかったかもしれん。

 

「ふぅ・・・間に会ったか。大丈夫ですか、山田先生」

 

「あ、あぅ・・・ごめんなさい、黒瀬君」

 

落下を受け止めた事によって下敷きになっている俺に少し泣きそうな顔で謝ってくる山田先生。

 

「こ、こんな初歩的なミスをするなんて・・・先生として恥ずかしいです」

 

「ミスは誰でもありますよ。たまにこんなフォローするのも、生徒の仕事ですから」

 

そう言って小さく笑いかけると、自分の不甲斐なさと恥ずかしさに負けたのか涙目で顔を紅くして俯いてしまう。まったく可愛らしい先生だ。年上には思えないね。こんな可愛さがチョッピリでも千冬さんに合ったらと思うよ。

 

「そうか、それは悪かったな」

 

「へ?」

 

首を動かし、上を向くとそこには腕組みをしてこちらを見下ろす千冬さんの姿。しかもその眼はなんだかちょっと・・・いや、物凄く怖い。

 

「ならば今度から可愛らしくお願いしてやろう・・・そうすれば色々と許される様だからな」

 

なんでだろう、凄い怒っている。これは弁解をしないと今後の夜間訓練に多いな損害を来す。

 

「いや、やっぱり千冬さんには可愛らしさなんていらないですよね!やっぱり厳しく怖く容赦無くの三拍子揃ってないと!いやーさすがですね!この鬼女、悪鬼、羅刹!」

 

バキッ!

 

「すまんな、手が滑った」

 

飛んできた蹴りが俺のわき腹に直撃した。しかしおかしいな、蹴りは手が滑ると出るものなんだな。初めて知った。

 

「いいからさっさと立て・・・山田先生も」

 

「は、はいっ!」「は、はい・・・」

 

千冬さんに言われた通りに二人揃って立ち上がる。すると千冬さんの『プライベートチャンネル』が開き、こちらの耳に声が届いた。

 

『今はラウラの事は考えるな、お前はここの生徒だろう』

 

千冬さんの言葉を聞いて、俺は小さく頷くとラウラの事に関して考えを止める。そう、今は授業中だ。どうあれ俺はここの学園の生徒、授業は受けねばならない。ラウラの事を考えるなら後でも出来る。授業に集中しよう。それが教師である千冬さんにとっての礼儀でもある。

 

「・・・フッ」

 

そんな俺の考えを理解して、満足したのか千冬さんは小さく笑い、すぐに表情を改めると授業を進める。

 

「・・・では凰、オルコット、お前らは山田先生と戦ってもらう」

 

「いや、さすがにそれは・・・」

 

「安心しろ。お前達ならすぐ負ける」

 

負ける、その言葉が癪に障ったのかオルコットと凰は表情を一変させる。しかもオルコットにいたっては入試の時点で一度は勝っている相手。そんな相手に負けるはずがないという自信の所為もあるのだろう。

 

「では、始めっ!」

 

「手加減はしませんわ!」

 

「あたしの本気、見せてやるわ!」

 

「い、行きます!」

 

千冬さんの号令を受けて、三人が同時に飛翔する。その瞬間に俺は山田先生を見た。上ずった感じの声は確かに山田先生そのものだったが、その表情はあの『人形』との戦いのときに見せた元日本代表候補生山田真耶の表情だった。

 

考えるに、こりゃ勝てないだろう。大体、オルコットにしろ凰にしろ、連携訓練もしていない。それに双方我が強い性格・・・おそらくお話にもならない。

 

「さてとどれくらい持つか・・・黒瀬、皆に山田先生のISの説明を」

 

「わかりました・・・」

 

先ほどの蹴りでわき腹が痛くて押さえている俺に説明を要求するのかと言いたくなったが、口答えしても俺の立場が悪くなるだけなので言わない。というか、生徒に対してこういうのを説明するのは教師の仕事だろうに・・・

 

「えー、山田先生の使用しているISはデュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』。第二世代開発の最後期機体だが時期的に第三世代開発が目安とされていた時期の所為もあり、初期第三世代型ともいい勝負ができる程度のスペック、安定した性能と高い汎用性、豊富な『後付武装(イコライザ)』が特徴的な機体となっている。各国の配置ISの中でも世界三位のシェア持ち。魅力は操縦者を選ばない簡易性、それに多様性役割切り替え・・・マルチロール・チェンジだ。装備によって格闘・射撃・防御と全タイプに切り替えられるところ。まさに量産機としてはこれ以上に無いほど魅力的だ。理解できたかい?」

 

「「「はーい!」」」

 

俺が聞くと二クラス分の元気な返事が返って来た。ノリが良いなあ、最近の女子は。

 

「御苦労・・・そろそろ終わるぞ」

 

皆が空を見上げる。すると展開はほとんど俺が思っていた通りとなっていた。山田先生がアメリカのクラウス社製五十一口径アサルトライフル『レッドバレット』で射撃、それを凰は回避するがそれは誘導。ビット操作に集中していたオルコットには凰などほとんど眼中にない。つまり向かってくる凰を回避する事はまず不可能。

 

ぶつかり、完全にバランスを崩した二人に向けて、こちらもクラウス社製ロケットランチャー『アウトブラスト』から炸裂弾頭弾が射出され、命中と共に爆発。煙の中から絡み合う様にして二つの影が落下した。

 

「くっ、うう・・・。まさかこの私が・・・」

 

「あ、アンタねぇ・・・何面白い様に回避先読まれてんのよ」

 

「り、鈴さんこそ!無駄にばかすかと衝撃砲を撃つからいけないですわ!」

 

「こっちのセリフよ!なんですぐにビット出すのよ!しかもエネルギー切れるの早いし!」

 

「ぐぐぐぐっ・・・!」

 

「ぎぎぎぎっ・・・!」

 

落下して早々に口論を始める二人・・・それにしても仲悪いな、こいつら。それに、どっちもそこそこ主張は的を射ているんだから、そこを気にして戦えばまだ勝機はあっただろうに。

 

「・・・なるほど、お前ら二人じゃ勝てないわけだ」

 

「なんですって!」「なんでよ!」

 

「今回の戦いは明らかにお前らスタンドプレイの思考がいけなかった。連携を完全に理解の範疇に入れてない。相手が合わせるだろう、だから自分から動いても大丈夫・・・いや、お前らの場合は関係ない、自分だけでやるって感じか」

 

俺の言葉が図星だったのか、口を噤んで俺を睨む二人。だが俺はそれでも続ける、それがこいつらの為だ。

 

「オルコットはビットを使った範囲攻撃、だがその弱点は知られているんだからそこに凰がフォローに入るべきだった。衝撃砲を使うにしろ、もっと的確に使うべきだったんだ」

 

「それは・・・」

 

「・・・そうかもしんないけど」

 

「それに何より、お前らは相手を舐め過ぎだ。専用機の性能に自信を持ち過ぎている。プライドを持つなとは言わないけどな、山田先生はこのIS学園の教師だ。腕前なくして、教師になれるはずもない。所詮は量産機、そう考えた傲慢な心が一番の問題だ」

 

「「・・・・・」」

 

俺の言葉を聞いて、黙りこくる二人。少し言い過ぎただろうか。だがな二人共、逆に言えば・・・

 

「落ち込むなよ、二人共。逆を言えば、それに今気付けたんだ」

 

そう逆に言えばここで気付けただけ、良しと考えるべきだ。これが大きな大会とかならば、それこそどうしようもないのだから。

 

「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥ってね・・・落ち込まずに次に生かす事を考えろよ、十五歳女子」

 

なんだか偉そうに言ってしまったと思いながらそう言うと、オルコットと凰はガバッと顔を上げる。

 

「わ、わかっていますわ!そんなこと!」

 

「そうよ!あんたなんかに言われなくたって、こんな負け方二度としないんだから!」

 

「そりゃあ安心だ」

 

噛みついてくるほどの元気は戻ったようだ。俺の言ったこと、そこら辺はやっぱり専用機持ち、代表候補生だ。ちゃんと理解はしているのだろう。やはりこういうところは優秀なんだとつくづく思う。

 

「さてと、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解できただろう。以後は敬意を持って接する様に」

 

ぱんぱんと手を叩き、皆の意識を切り替える。というか、その口ぶりからすると千冬さん、オルコットと凰を見せしめに使っただろ。

 

「黒瀬先生のご教授も終わった、そろそろ始めるぞ」

 

「別にそんなつもりはありませんよ・・・まったく」

 

「専用機持ちは織斑、黒瀬、オルコット、ボーデヴィッヒ、凰だな。では八人グループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること、いいな? では別れろ」

 

若干の皮肉を織り交ぜながらの指令が言い終わるや否や、俺と一夏の元へと二クラス分の女子がなだれ込んでくる。

 

「織斑君、一緒にがんばろう!」

 

「黒瀬さん!ご指導してください!」

 

「ね、ね、私もいいよね?同じグループに入れて!」

 

おーおー、予想以上の繁盛っぷりである。一夏なんかはどうしていいかわからずにただ立ち尽くしている。もしこのIS学園で俺と一夏が何か売り出したら偉く儲けが出るんじゃなかろうか。やってみるかって? 俺は嫌だぞ。やればたちまち鬼が俺の頭を叩きに来る。

 

「この馬鹿者どもが・・・出席番号順に一人ずつ各グループに入れ! 順番はさっき言った通り。次にもたつくようなら今日はISを背負ってグランド百周させるからな!」

 

明らかに現実では不可能な事を口走るが、どうも教育の行き届いた生徒達には本当にやるとわかっているのか、それぞれが散々に動いていた女子達が即座に移動して、それぞれの専用機持ちグループは二分とかからずに出来上がった。

 

「・・・やったぁ。織斑君と同じ班っ。名字のおかげねっ・・・」

 

「・・・黒瀬さんか。嬉しいけどちょっと緊張するな・・・」

 

「・・・うー、セシリアかぁ・・・。さっきボロ負けしてたし。はぁ・・・」

 

「・・・凰さん、よろしくね。あとで織斑君のお話聞かせてよっ・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

それぞれの専用機持ちに対するひそひそ話が聞こえて来る。ちなみに唯一まったくお喋りがないのがラウラの班である。

 

朝のHRでの一夏に対するビンタ未遂、学園を認めない宣言、そして何よりもその全身から発する張り詰めた他人を拒絶するオーラに十代乙女達はちょっと俯き加減に黙っている。

 

なんだかとても可哀想になってくる。できればこちらの班に加えてやりたいが、それは千冬さんが許してくれないだろう。すまない、名も知らぬ女子達よ。

 

「ええと、いいですかーみなさん。これから訓練機を一班一体取りに来てください。数は『打鉄』が三機、『リヴァイヴ』が二機です。好きな方を班で決めてくださいね。あ、早い者勝ちですよー」

 

なんだか山田先生がいつもよりも輝いて見える。模擬戦で自信を取り戻したのだろう。テキパキと仕事をこなしていく姿はまるで山田先生じゃないみたいだ。

 

「黒瀬さん、山田先生ばかり見てないで、こっちにも集中してくださいよ」

 

「あ、ああ、悪い・・・って、最初は青嶋か」

 

山田先生から視線を外し、正面に戻すと見慣れた青い短髪の少女、青嶋が立っていた。何かと縁が在るな、この娘には。

 

「機体は・・・『リヴァイヴ』か」

 

「はい、山田先生の戦いを見たら皆が『リヴァイヴ』がいいって」

 

「あ、青嶋さんが黒瀬さんと話してる!」

 

「ずるい! 私も私も!」

 

単純に青嶋と話しただけだというのに他の女子からにょきにょきと手が伸びて来る。まったく、この行動力を他に生かせと言うに。

 

「はいはい、そんな慌てなくても相手はするから落ち着け」

 

「「「は~い!」」」

 

元気に返事をする女子達、それを見て苦笑をする俺。そしてそんな俺を睨むようにして見詰める紅い瞳を心の奥底で警戒しながらも、何事もない様に初めてのIS実習訓練は過ぎて行った。

 

EP15 End

 

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