IS もう一つの翼   作:緋星

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EP1 花咲く学園

「全員揃ってますねー。それじゃあSHR始めますよー」

 

IS学園一年一組の教室で眼前に並ぶ机に付いた生徒達に向けてそう言うのはニコニコと笑顔を浮かべる副担任の女性教師、山田真耶先生。大きめなのかダボついた服に黒ぶち眼鏡をかけた、年上ながらも可愛らしいという言葉が似合う感じの先生だ。

 

「それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね」

 

「・・・・・・」

 

「よ、よろしく・・・お願いしますね?」

 

山田先生が礼儀正しく挨拶をするが、クラスの人間は誰一人として返事を返さない。そんな空気に先生は腰が引けてしまっている様を見て、ちょっと可哀そうだなと思った俺は控えめに返事を返すことにした。

 

「・・・よろしくお願いします、山田先生」

 

「あ・・・は、はい!よろしくお願いします、黒瀬君!」

 

一瞬、焦った表情になった山田先生は再び笑顔を浮かべ、頭を下げた。そんな先生に苦笑を返すが、たったそれだけの行動で教室を支配する緊張感は抜ける事無く、精神的プレッシャーとして俺に襲い掛かってくる。そんな中で小さくため息を吐いた。吐きたくもなる、クラスメイト達がこちらを直視しているのだから・・・

 

「じゃあ、事項紹介をお願いします。出席番号順で」

 

しかもクラスメイト達とは一人二人ではなく、ほぼ全員である。この学園はIS学園。つまりISの乗り手を育てる学園だ。となれば、無論学園には女子しかおらず、しかもその女子達はうら若き十五歳の乙女達だ。そこに男子という異物を放り込んだら、こうなるだろうとは薄々感じていたが・・・まさかここまでとは・・・初めて日本に入ってきたパンダってのはこういう気分だったんだろうな。

 

しかしまあ、文句も言っていられない。こうやって視線に晒されているのは、俺だけではないのだから。

 

「織斑君、織斑一夏君っ」

 

「は、はいっ!」

 

山田先生に大声で呼ばれたとある生徒が裏返った声で返事をした。名前は織斑一夏という。俺と同じ様に視線にさらされている人物である。晒される理由、それは彼が名前でわかる通りに俺と同じ男である。

 

俺と同じ、ISを扱うことのできる男。世界で二人だけという内の一人だ。そう、この世界でISを動かせる男というのは、今のところ俺と彼しかいないらしい。どうして二人だけなのか、理由は分からないが、実際そうなのだ。その件でどうこう言ってくる奴もいるかもしれないが、事実なのだから仕方ない。

 

「あの、大声出しちゃってごめんなさい。でも自己紹介は出席番号順で、『あ』から始まって今は『お』の織斑君なんだよね。だからね、自己紹介てくれないかな?ダメかな?」

 

先ほど、俺が挨拶を返したのが良かったのかは知らないが、頭を下げる山田先生は思った以上に取り乱すこともなく、普通にSHRを進めていた。

 

「いや、あの、そんなに謝らなくても・・・っていうか自己紹介しますから先生落ち着いてください」

 

「ほ、本当ですね?約束ですよ、絶対ですよ?」

 

そう言って織斑の手を握って詰め寄る。山田先生、熱心なのはいいですけど、織斑が苦笑してますよ。

 

「それじゃあ・・・ええと」

 

そうして事項紹介をする為に織斑は椅子から立ち上がった。そしてまるで喉に物が詰まったような表情を浮かべた。クラス中の視線(俺を除く)が一気に織斑へと収束した。

 

「・・・・・・」

 

ふと織斑がこちらに視線を向けた。まるで救いを求めているようにも見える。そりゃそうだろうなぁ、こんな視線に晒されたら、一般の人間なら精神的にクルものがあるだろう。俺だって、あんなの嫌だし・・・なので俺は―――

 

(がんばれよ)

 

―――と親指を立てておくことにした。すまんな織斑、俺にできる事はこれくらいしかない。

 

「グッ・・・えー・・・えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

一瞬、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたが、諦めたのか短い挨拶をした後に礼儀正しく頭を下げ、上げる。しかし周囲はそれでは納得していない様で、教室内は『もっと喋ってよ』的な空気になってしまった。頑張れ織斑、俺は何もしないけど!

 

「以上です!」

 

だが織斑のトドメの一言によって、その空気は打ち壊された。多分、本当に話のネタがなかったんだろうが・・・・だが、これはヒドイ。もうちょっと話を広げるくらいは出来るだろうに・・・

 

そんな事を考えていると――

 

パァンッ!!

 

「いっ―――!?」

 

このクラスの物と思わしき出席簿が織斑の頭に落ちてきた。いや、落ちてきたっていっても何もないところから現れたなんて心霊現象的なことではなく、普通に出席簿でぶん殴られたわけなのだが。

 

「・・・・」

 

振り返る織斑はギョッとした顔をした。背後にいた人物。黒いスーツにタイトスカート、すらりとした長身に美しいボディライン。まさしく最高潮クラスのスタイルを持ち、それとは不釣り合いな肉食動物のような吊り目をした、そんな女性だった。

 

「げぇっ、関羽!?」

 

パァン。出席簿チョップが追加された。しかし、関羽か・・・・若干うなずけてしまう自分がここにいる・・・

 

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」

 

少しハスキーな声。しかし自分の弟だろうに、そんな乱暴に扱ってやるなよ・・・

 

「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」

 

「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押しつけてすまなかったな」

 

織斑先生。この単語で分かるかもしれないが、彼女は織斑一夏の姉、織斑千冬。俺をこの場所へと引き摺り・・・・もとい、避難させた人物でもある。

 

「い、いえっ。担任ですから、これくらいはしないと・・・・」

 

千冬さんが現れたことで少し落ち着いたのか、山田先生は少しはにかんで熱っぽい声で答えた。

 

「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが私の仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ないものには出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五歳を十六歳までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」

 

う~む、教師とは思えない宣言。やっぱり教師よりも教官の方が向いてると思うぞ、千冬さん。

 

「キャーーーーーーー!千冬様、本物の千冬様よ!」

 

一人の女子の声を口火にクラス全体から黄色い声援が湧いた。きゃいきゃいと黄色い声を上げる女子達に対して、千冬さんは心底うっとうしそうな顔をしていた。

 

「・・・・毎年、よくこれだけの馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か?私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」

 

どうやら本気でうっとうしがっているようだ。昔からこの人、騒がれるのは好きじゃないみたいだったしな・・・

 

「でもこれも人徳なんだから素直に受け取っておけばいいのにね・・・全くもったいない。その美貌くらいもったいない」

 

「聞こえてるぞ、黒瀬」

 

そう言うと千冬さんは俺の事を睨んでいた。おお怖い、さすがはドイツでは冷将と呼ばれた教官殿だ。

 

「あれ、聞こえてたんですか。こっそり言ったつもりだったんですけど」

 

「残念ながら私は地獄耳なんだ・・・誰かさんのおかげでな」

 

睨む視線がきつくなる。誰かさん・・・・・それって俺の事か?そんな馬鹿な、俺は千冬さんの悪口を両手で数える程度しか言ったことないぞ。

 

「そんな濡れ衣ですよ、千冬さん――」

 

「織斑先生と呼べ、この馬鹿者が」

 

パアンッ!

 

鋭い一撃が俺の頭蓋を揺らし、脳にまで振動を響かせる。ああ、なんか痛いけど・・・懐かしいね、これ。昔に戻ったみたいだ。

 

「まったく・・・で、織斑」

 

「え?」

 

「自己紹介もまともにできんのか、お前は」

 

「いや、でも千冬姉、俺は――」

 

「だから織斑先生と呼べ」

 

織斑の頭にも俺と同じ一撃がさらに追加された。本当に実の弟にも容赦ないのね、この人・・・いや実の弟だからか?

 

「お前達二人は私の事を織斑先生と呼ぶ、そこからまず始めろ。この馬鹿二人が」

 

「「・・・はい、織斑先生」」

 

馬鹿二人と命名された俺と織斑は二人揃って頭を下げた。そしてそんな事をしていると、教室から驚きの色を含んだ声が上がった。

 

「え?・・・織斑君って、あの千冬様の弟・・・?」

 

「それに黒瀬君もどうも千冬様と妙に親しそうだし・・・知り合いなのかしら」

 

「世界でISを使える二人だけの男で千冬様の関係者なんだ・・・なんだか運命的!」

 

黄色い声がさらに騒がしくなる。あれま、なんだかすっかり盛り上がって来てしまった。さすがは噂に五月蠅い年頃の女子。こういうのは大好物と見える。

 

まあ千冬さんで騒ぐなら、なんでこっちは騒がないのかっていう人物もいるんだがね。

 

「・・・・・・」

 

チラッと左前の方に座っている女子へと視線を向ける。篠ノ之箒、凛とした顔立ちに釣り上がった目は千冬さんほどではないが気の強い娘なのだという事を物語っている。この少女は、かの篠ノ乃束の妹さんだ。むしろ千冬さんの事を騒ぐよりもこっちで騒ぐと俺は思うんだが・・・やっぱりIS世界大会元日本代表選手としての人気があるからかね。

 

キーンコーンカーンコーン・・・

 

そんな事を思っているとチャイムが教室に鳴り響いた。どうやら本日のSHRは終了らしい。

 

「さあ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で身体に染み込ませろ。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」

 

なんというか本当に教官ってかんじだな。しかも鬼のつく教官。冷血で鬼教官な教師・・・あー、来て早々なんだが、さっそくこの学校から逃げ出したくなってきたぞ・・・

 

 

 

 

「はい、じゃあ一時間目はここまでです」

 

一時間目のIS基礎理論授業が終わり、山田先生は次の授業の用意を取りに一旦、教室から出て行った。そんな山田先生を横目で見ながら俺は――

 

「・・・くぁ」

 

欠伸を噛み殺していた。いや、別に寝不足とかではない。昨日だって十一時には就寝した。これでもかってくらい健康的な就寝時間だった。しかし、人間は退屈になるとどうも欠伸が出てしまう生物なのだ。退屈というのも、別に山田先生の授業が下手なわけではない、むしろとても分かりやすく、授業説明はむしろ上手い。ただ俺はもうすでにISを使っていた訳であり、基礎知識は全て揃っている。欠伸をするなんて失礼ではあると理解しているが知っている事をただ話されても退屈になるのはいささか仕方のない事なのだ。

 

「しっかしまあ・・・凄いな、こりゃ」

 

まあ授業の事はさておき、今は休み時間。欠伸をしようが構わない時間だが、どうも周りからの視線が気になってしまい、少し落ち着かない。

 

その視線はクラスからものも多いが、クラスの外からも感じる。見るとクラスの外に女子生徒達が押し掛けて来ている。どうやら俺と織斑の噂を聞きつけてきた他のクラスや上級生達のようだ。この学園には女子生徒しかいない上に彼女らはおそらく前の学校もIS学習を組み入れた女子校だったのだろう。だとすれば今までの学園生活で男子に免疫を持たなかった彼女らにとって男子というのは新鮮であり、興味の対象としてこれ以上のものはない。

 

「・・・そんなんだったら話しかけてくれた方がまだマシなんだがな」

 

ま、それが出来ないから廊下でひしめき合っているのだろうけど・・・

 

「織斑とでも話そうかと思ったが・・・いないし」

 

唯一同じ男子である織斑は篠ノ之に呼ばれて何処かへ行ってしまった。せっかくの幼馴染同士の再会を邪魔するほど俺も無粋な事はしたくないが、ちょっと声くらい掛けておきたかったな、同じ男子として、今後も色々と関わり合う事になるだろうし。

 

「あ・・・」

 

なんて事をしていると、不意に隣の席から声が上がり、足ものに何かぶつかった感触を感じた。見てみると、そこには消しゴムが一つ。消しゴムから左隣へと視線を移すと、固まった表情でこちらを見るクラスメイトが一人。確か、青嶋雫と言ったか。どうやら次の授業の準備をしていて落としてしまったようだ。俺はそれを拾い上げると、警戒されぬようにできるだけ柔和な笑みを浮かべて、隣の席に座っていた青い短髪の女子へと差し出す。

 

「君のだろ?・・・えっと、青嶋さん」

 

「う、うん・・・あ、ありがとう・・・」

 

照れたように頬を朱色に染めて、何故かカチコチとした感じでゆっくりと頭を下げながら俺から消しゴムを受け取る女子、青嶋。なんというか本当に男子に対しての免疫が無いんだな、ここの生徒は。

 

「・・・そんなに固くなる事はないぞ?」

 

「え・・・い、いやあの・・・わ、私は普通だよ・・・あは、あははは」

 

気を使って、話しかけるも笑いが完全に引き攣っている。まあ、仕方あるまい。むしろこんな早々と順応する事を望む方が無理だろう。

 

「そうか・・・ま、あんまり固くならずに力を抜いていこうぜ」

 

あんまりしつこくしてもアレだろうから、そう告げて俺は再び前を向く。ああ、織斑は幸運だな。同じクラスに幼馴染が居るんだから・・・なんか自己紹介の時は全く助けてくれなかったみたいだけど・・・

 

「友達とか作れるのかねぇ・・・この状況で」

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

今後の学園生活を思い浮かべて、少し肩を落としていると背後から声がした。だがおそらくそれは俺に対してではないだろう。今このクラスの空気はこんな直球に話しかけて来る空気ではない。

 

「そこのあなた、聞こえてますの?」

 

・・・おい、誰だよ。無視してないで反応してやれよ。これじゃちょっと可哀想だろ。人間、ファーストコンタクトというものは友人となる上で結構大切な事であってだな・・・

 

「あの・・・黒瀬君」

 

そんなどうでもいい事を考えていると青嶋が声をかけて来てくれた。なんだ、ちゃんと話しかけてくれるなんて勇気のある娘じゃないか、お兄さん見直しちゃったよ。

 

「なんだい、青嶋さん?」

 

「あの、セシリアさんが呼んでる・・・みたいなんだけど」

 

「・・・え?」

 

首だけで振り返ると、そこには腕組みをしてこちらを睨んでいる女子が一人。肌が若干白く、青い瞳を見るところ白人だろう。ロールの掛った金髪がとても綺麗な少女だった。ただ彼女の全身から溢れ出す『オーラ』の様なものだろうか、それによってなんだか性格がある程度分かってしまった。

 

彼女はいわゆる、『今時の女子』なのだろう。

 

今、世界はISの有無による待遇が非常に開いている。それはつまりISを所有する、もしくは所有する可能性がある女性達、それと世界の男性との差である。そしてその典型、ISにおける女性優遇の所為で男性を見下すようになってしまった女、俺の眼前に現れたこの少女はそういう人物なのだろう。今のご時世では当たり前の形なのだろうけど、俺はちょっと行き過ぎていると思うところがある。しかし時代がそうなれば、人間も変わってしまう。今の時代はそういう時代なのだ。となれば、俺がどうこうして変わるものでもない。今はとりあえず、目の前にいる少女をどうにかしよう。

 

「ああ、悪い。てっきり俺じゃない人に話しかけてるものかと・・・」

 

「まったく、他人に注意されて気付くなんてどういうことですの? 私に話しかけられるだけで光栄だというのに・・・それ相応の態度を取ってほしいものですわね」

 

そう、こんな感じ。無意味に偉そうで、それでいて本当に自分の方が偉いと思っている。いやだね、こういうのは。受け答えする方も不快になってしまうし、無意味に険悪になってしまう可能性だってある。だからなるべく穏便に事を進める必要がある。

 

「そうだね、そういう対応したいね。でも名前も名乗らない相手に礼儀を言われるのはちょっとね」

 

うん、礼儀は大事だよ、礼儀は。どこぞの国じゃ不敬罪って言われて首飛ばされちゃうんだからね。昔の日本とか・・・確かイギリスもだっけ?

 

「・・・私を知らない?このセシリア・オルコットを? イギリス代表候補生にして、入試主席のこの私を!?」

 

名前セシリアって言うのか、主席なんて凄いじゃないか・・・・って――

 

「代表候補生?・・・・君が?」

 

「な、なんですの!!その反応は!!」

 

単純に驚いて訊き返してしまった。こんな近くに代表候補生が居るとは思えなかった。

 

代表候補生、その意味は文字通りで自身の所属する国を代表するIS操縦者、その卵といったところだ。代表候補生として選ばれた人間はISに関する英才教育なんかを受け、次期代表としての階段を用意される。いわゆるエリートってことになる。

 

ちなみにさっきの発言は代表候補生なんて凄いな、と思って言ったのだが・・・・どうやら彼女―――オルコットの神経を逆撫でしてしまったらしい。

 

「あなた・・・私を愚弄しましたわね!!あなた程度の、つい先日までISに関わりもしなかった一平民のクセに!!」

 

「あー・・・まあ」

 

微妙なところだよなぁ・・・いやぁ、今まで関わってないって言ったら完全に嘘になっちゃうんですけど・・・黙ってなきゃならんな。一応、俺は織斑と同じタイミングで見つかったIS操縦者という事になっているからな。下手な言動は避けなければ。

 

「いや、別に愚弄したとかそういう意味じゃ――」

 

「決闘!!決闘ですわ!!」

 

「はいぃ?」

 

変な声が出てしまった。駄目だ、この娘完全に頭に血が上っちゃってるな。全然俺の話が通ってない。

 

「ちょっとISについて教授して差し上げようと思ったら・・・許せませんわ!!」

 

「あー・・・とりあえず落ち着いてくれ。これじゃまともに話もできん」

 

「あなたから喧嘩を売っておいて何を――!!」

 

キーンコーンカーンコーン

 

さらにヒートアップしそうなオルコットの話の間を割る様にして二限目の授業開始のチャイムが鳴り響いた。あー、助かった。今の状況じゃ何を言っても無駄っぽかったからな。

 

「くっ・・・!良いですこと!?私に対する愚弄は決して許しません!!その罪は償ってもらいますわ!!」

 

「あ、おいちょっ――」

 

まあ無駄だと思ってはいたが、俺の制止も虚しく、オルコットは自分の席へと戻って行ってしまった。結局、変に誤解されたままになってしまった。ううむ、なんというか俺も間の良いと言うか、悪いというか・・・

 

「・・・初日からなんか面倒な事になりそうだ・・・・」

 

「授業始めるぞ、席に着け」

 

俺のため息混じりの呟きは千冬さんの凛々しい声によって、かき消されて行った。

 

「それではこの時間は実践で使用する各種武器の特性について説明する」

 

教壇には山田先生ではなく、千冬さんが立っている。三時間目、オルコットからの追及を逃れて俺はどうにか普通に授業を送っている。しかし千冬さん、教壇に立っても様になっているな。教師よりも教官とか言ったけど、こっちも似合っている。つまり教える側が似合っているという事なのだろう。

 

「ああ、その前に再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

授業を進めようとして、ふと思い出したように千冬さんが言う。クラス対抗戦?

 

「先生、代表者ってなんですか?」

 

「代表者とはそのままの意味だ。クラスの代表として対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席・・・まあ、クラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での実力推移を測るものだ。今の時点では大した差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更はないからそのつもりで」

 

ざわざわと教室が色めき立つ。なるほど、クラス対抗戦か。なかなか面白いかもしれない。確かに競争させることで向上心を生ませるのは正論だ。さてはて、誰が推薦されるのか・・・まあ、大体予想が付くけどね。

 

「はい、織斑君を推薦します!!」

 

ですよね~、織斑君一択ですよね~。

 

「私もそれがいいと思います」

 

次々とクラスの女子から手が上がる。おお、どんどん織斑が推薦されて行く。こりゃ織斑安定だな。こちらに飛び火する事はないだろう。

 

「では織斑一夏・・・他にいないか? 自薦他薦は問わないぞ」

 

「お、俺!?」

 

ワンテンポ遅れて驚いた織斑が立ち上がると視線の一斉射撃をくらう。そんな織斑に対して、千冬さんはピシャリと言い放つ。

 

「織斑。席に着け、邪魔だ。さて、他にはいないのか? いないなら無投票当選だぞ」

 

「ちょっ、ちょっと待った!!俺はそんなのやらな――」

 

「俺も織斑がいいと思います」

 

「なぁ!?」

 

俺が手を上げて言うと、織斑は「この裏切り者!」といった感じに俺の事を見てきた。残念だったな、織斑。俺の安定した学園生活の為に生贄になってくれたまえ。

 

「自薦他薦を問わないと言った。他薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟しろ」

 

「いや、でも――」

 

「腹決めろ、織斑。それでも男か」

 

「推薦したお前が言うな!!」

 

非難をしてくる織斑に笑いを返す。それに織斑の方がクラス代表選も盛り上がるだろう。なんてったって千冬さんの弟だ。『モンド・グロッソ』の試合張りに活躍してくれとは言わないが、いい試合が見れるんじゃないかと俺はひそかに期待している。

 

「あの・・・黒瀬君がいいと思います」

 

そうそう、俺なんかよりも絶対に織斑の方がいい試合を・・・・・・・・・・・

 

「・・・・・・・・え?」

 

俺の名字を口走った人物を見る為に首を横に曲げる。青嶋がしっかりと右手を上げていた。な、何をしているんだ、君は!?

 

「じゃあ私も黒瀬君にします!」

 

「私も!」

 

「は? え? ちょ?!」

 

青嶋の一言から一気に感染するかのように次々に俺の名前が挙がって行く。ど、どうしてだ!? 止めろ、みんな俺を推薦するな! 俺には平穏で安定した学園生活が必要なんだ!

 

「では黒瀬零司・・・他には?」

 

「ちょっ、ちょっと待った!!」

 

立ち上がって、何事もなかったように事を進めようとする千冬さんにストップを呼び掛ける。千冬さんは二度目の作業障害にうんざりしているのか、呆れたように俺を見て言った。

 

「立つな、座れ。同じ事を言わせるな。それでもお前は黒瀬か」

 

「いや、その理由は意味わかんないんですけどそれはいいとして!! 俺はやりたくなんか――」

 

「腹決めろよ、黒瀬。日本男児だろ?」

 

焦る俺に向けて織斑は仕返しと言わんばかりにニヤリと笑った。おのれ、してやったみたいな顔しやがってこの野郎。

 

「さて、他にはいないのか?いないならこの二人から決める事になるが――」

 

「待ってください!!」

 

ああ、そして聞き覚えのある声が聞こえる。このタイミングで何を言い出すのですか、オルコットさんよう。頼むから変に場を引っかき回してくれるなよ・・・!

 

「代表候補生の私がいるというのに、何故そこの二人にまかせるのですの!!納得いきませんわ!!そんなこと!!」

 

・・・だったらとっとと自薦すればいいのに・・・と思うのは俺だけだろうか。

 

「物珍しいという理由でこんな極東の猿がクラス代表なんて言い恥さらし!!実力的にいえば私、セシリア・オルコットがクラス代表者となるのは当然の理!!男なんかにクラス代表なんて務まるはずありませんもの!!」

 

ますますヒートアップして言葉を荒げるオルコット。猿とは言ってくれる。お前さんも同じ人間だろうが・・・・高貴なイギリス人にはそうは見えないのかね。

 

「私こそ、このクラスでの実力がトップであるセシリア・オルコットこそがクラス代表者にふさわしいのですわ!!」

 

しかしよく喋る奴だ。ここまで言われたら、気が短い奴じゃなくてもキレそうになるぞ。そう、横で今にも怒りを出してしまいそうな織斑の様にな。

 

「くっ・・・」

 

「織斑、落ち着け」

 

何か言おうとする織斑に声をかけ、制止させると俺は席を立ち上がり、オルコットの方へと向くとため息を吐く。

 

「オルコット、そいつはちょっと言い過ぎだろ」

 

「なにがですの?」

 

「何がって、それくらいわかるだろ。常識が無いわけじゃあるまいし・・・」

 

「ですから、何がですの? 私は別段、間違ったことを言ってないと思いましてよ?」

 

またそんな高慢な態度を・・・・ふー、仕方ない。あんまりイメージ悪くしたくないんだが・・・織斑を止めておいてこれじゃあ格好もつかんしな。一度、うつむき加減に大きくため息を吐いてから、オルコットへと視線を戻す。

 

「・・・いい加減にしろよ、ガキ」

 

「・・・ッ!?」

 

睨みつける俺を見て、オルコットが数歩後ずさりした。ああ、やっぱりな。こんな反応すると思ったよ・・・ま、止めんけど。

 

「常識の分別もできないのか、お前は。確かに今は男女不平等の時代だ。女は有能、男は無能と考える奴もいるかもしれない。だがな、人間として言っていい事と悪い事くらいも理解できないのか? それこそ、まさに人間になれない猿だろうに」

 

「なっ・・・この私を猿ですって!?」

 

「礼儀も解さない、その理由も理解しない・・・礼儀の意識もない奴なんて猿も同然だ、違うか? それとも高貴なイギリスでは礼儀を教わらなかったか?」

 

「い、言わせておけば・・・・!?」

 

ギリギリと歯ぎしりの音が聞こえて来そうなくらいに怒り心頭といった表情をしているオルコットを見て、俺は内心後悔していた。うっわー、完全に火に油注いでるな、俺。

 

「いいですわ!!礼儀正しく行きましょう・・・決闘ですわ!!」

 

「・・・手袋は必要かい?」

 

その返答で対戦を受けると認識したのか、オルコットは不敵な笑いを浮かべた。おおよそ、代表候補生の自分には絶対に勝てないと思っているのだろう。まあ、事実楽して勝てるなんてことは思っていない。

 

「素人と実力者の違いを見せて付けてやりますわ・・・言っておきますけど、苦しいからといってワザと負けたりしないように」

 

「そうだな。ワザと負けたらお前のプライドも許さんだろうし・・・やる時は俺も本気でやってやる」

 

「良い心がけですわね。せいぜい、足掻くが良いですわ」

 

「それでいいな・・・織斑」

 

「・・・ああ」

 

同じ男として侮辱されたのが悔しかったのか、織斑はキツイ顔をしていたが、俺の提案に頷いてくれた。それを見て、千冬さんが声を上げる。

 

「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜日。放課後、第三アリーナで行う。黒瀬とオルコットはそれぞれ用意しておくように・・・それとオルコット」

 

「な、なんですか?」

 

千冬さんが名前を呼ぶとさすがのオルコットは少し身を固くして応えた。そんな彼女と俺を一瞥しながら千冬さんは続ける。

 

「感情が高ぶっていたのは分かるが、仮にも相手は年上だ。敬語くらいは使えるようにしておけ」

 

「え・・・?」

 

オルコット以外のクラスメイトも全員、俺の事を見た。ああ、そう言えば自己紹介とかしてないから分かんないのか。

 

「お前らもだ、一応黒瀬は十七歳・・・確か今年で十八だったな。つまりお前らよりも二つ年上の先輩だ。気に食わない場合もあるだろうが敬語くらいは使っておけ。それでは授業を始める」

 

ぱんっと手を打って千冬さんは話を締めた。俺はクラスメイトの驚愕の視線を受けながらも席に着くと―――

 

(ISを動かすのはかなり久しぶりだが・・・やれない事はないさ)

 

―――と、そんな事を思いながら俺は教科書を開いた。

 

 

 

 

「黒瀬、ちょっと来い」

 

四時間目が終わり、教室から出ようとする千冬さんに名前を呼ばれた。俺は席を立ち上がって教室から出ると千冬さんの後ろに着いて黙って歩き出し、しばらくして校舎裏の中庭にまでやって来た。

 

「どういうつもりだ」

 

中庭に着いた途端に千冬さんは口を開いてそう言った。俺はそんな千冬さんに対して肩をすくめて応えた。

 

「どういうつもりも何も・・・織斑を止める為ですよ」

 

「止める為・・・」

 

「そうです。さすがに素人が代表候補生とぶつかるのは・・・勝敗は見えていますし」

 

「つまり、お前は織斑を助けるつもりでやったと・・・」

 

「そういうことです」

 

これは真意だ。実際、織斑をあのまま止めなかったらそのまま俺みたいに戦う流れになっていただろう。だとしたら織斑の敗北は必須。初戦から敗北をくらうってのはメンタル的にもあまりよろしくない。だから俺が代わりを買って出たのだ。

 

「全く、自分からクラス代表に指名しておいて何をいうか」

 

「挑発された相手と単純に試合で戦う相手では勝ち負けの意味も変わるでしょう」

 

「つまり・・・お前なら勝てると言いたいのか?」

 

「どうでしょうね・・・機体性能も知らない、こっちに回ってくる機体も知らない・・・結局そこは揃ってからで、やってみないとわかりませんね。最悪、ぶっつけ本番もあり得ますから」

 

俺の応えを聞いて、千冬さんはその鋭い瞳を閉じると嘆息交じりに額に手を当てた。

 

「・・・何分だ」

 

「何がです?」

 

「とぼけるな・・・」

 

先ほどよりも鋭く、それでいて何処か心配する様にこちらに視線を向け直し、千冬さんは俺に問う。

 

「お前の制限時間だ」

 

千冬さんの言葉に今度は俺が小さく息を吐くと少し考えてから口を開いた。

 

「・・・・五分・・・いえ、八分ですかね」

 

「そうか・・・」

 

短く応えて、千冬さんは額から手を離す。制限時間、その言葉が何を意味するのか。その真意を理解しているのであえて言うまい。

 

「・・・ISの手配と同時に何か手を考えておく・・・それまでお前は絶対にISには乗るな」

 

真剣そのものの表情で千冬さんはそう告げると身を翻し、中庭から姿を消した。俺はその背中を見えなくなるまで眺めた後、何気なく空を見上げた。

 

「なんか初日から大変な事なって来たな・・・・」

 

本当に大変な事だ。代表候補生との試合・・・まさか初日からこんな事が決まるとは思ってもみなかった。どのような試合になるのか、まだ予測もできない。だが、一つだけ確実な事がある。

ようやく・・・・ようやく俺は・・・・

 

「ようやくこの空に・・・・帰る事が出来るんだ」

 

EP1 End

 

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