IS もう一つの翼   作:緋星

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EP25 漆黒の咆哮

六月の最終週。今まで散々騒がれていた学年末トーナメントの熱気は最高潮に達し、圧倒的熱気が会場を包み込んでいた。学園はまさにそれ一色。今から第一回戦が始まるという事もあってか、教員や今日の試合に出ない生徒達までも雑務や会場の整理、各国から集まった来賓の誘導を行っている。

 

試合のある生徒・・・詰まるところ一学年の生徒達は雑務などからは解放され、更衣室に待機している。無論、それは俺も例外はなく、だだっ広い男子更衣室に男三人――約一名女子だが――でベンチに座りながら対戦相手の公表を待っている。全く、贅沢なものだ。今頃女子達は更衣室がいっぱいでごった返しになっているだろうに。

 

「しかし・・・凄いなこりゃ」

 

更衣室に設置されているモニターを眺めながら、一夏が呟いた。モニターにはアリーナの観客席が映し出されていた。各国政府関係者、研究員、企業エージェント、その他諸々の顔ぶれが一堂に会していた。

 

「三年にはスカウト、二年には一年間の所為かを確認にそれぞれ人が来ているからね。一年の僕達には今のところ関係ないみたいだけど、それでもトーナメント上位入賞者にはさっそくチェックが入ると思うよ」

 

「ふーん、ご苦労なことだ」

 

さほど興味もなかったのか、何気ない返事を返す一夏。そしてそんな隣に座った俺はただ静かにモニターを見詰め、トーナメント表の掲示を待つ。

 

「零司はボーデヴィッヒさんとの対戦だけが気になるみたいだね」

 

「ん・・・・まあ、な」

 

シャルルの言葉に軽い返事をする。彼女の言う通りだ。今回のトーナメントの狙いはただ一人、ラウラのみだ。その理由は無論、あの時の契約だ。もちろんオルコットや凰の事もある。二人は今回のトーナメントの許可は下りず、客席にてその戦況を傍観する事になってしまった。一夏と付き合えるという件もあるが、彼女らは各国家の代表としてこの学園に来ているのだ。オルコットに関してはイグニッション・プランの事もあるし、中国とて専用機持ちがこのザマではという考えに至る。おそらく今回の件だけでも二人の立場を相当悪くしているだろう。だが―――

 

「ラウラとは決着をつけなきゃならないからな」

 

そう、ラウラとの決着。それこそが今の俺にとっては最重要だった。ラウラはあの約束を交わしてから、一度たりとも他の生徒に手を出さなかった。ならばああ言った以上、俺もラウラとの約束を守らなくてはならない。負けたら、ドイツへと帰らなくてはならない。しかし、それはあってはならない事だ。つまり俺は必ず勝たねばならないのだ。

 

「零司」

 

そんな事を考えていた為だろうか、必要以上に力で握っていた手にシャルルの手が重なる。

 

「もっとリラックスした方が良いよ。零司は強いんだから、いつも通りにやって行こう」

 

「ああ・・・わかってる」

 

こちらの気を察してくれたのか、笑いかけて来るシャルルに俺は笑みを返した。あの日の出来事は後に必要な部分だけをシャルルには話した。ラウラが俺をドイツへと連れ戻そうとしている事と、それを掛けて俺がラウラと戦う事。深く聞かれたらどうするかという迷いもあったが、シャルルはそうしなかった。あえて俺の過去を詮索しようとせずにただ話を聞いて、納得してくれた。全く、今回の件ではシャルルに頭が上がらない。

 

「ところで一夏、お前の方はどうなんだ?」

 

シャルルのおかげで少し気が楽になったついでに、少し気がかりだった事を一夏にそう問いかける。

 

「どうって?」

 

「篠ノ之とだよ。ペア組んでから、演習とかちゃんとしたのか?」

 

「おお、バッチリだ。演習でも箒とは息がしっかり合ったし、そこそこのモノだと思うぞ」

 

「そうか、そいつは良かったな」

 

どうやら思った以上に組み合わせは良かったようだ。了承得たとはいえ、一夏的には急なペアの決定で程度戸惑いもあるかと思ったが、そこら辺はさすが幼馴染といったところだろうか。

 

「そう言われると一夏と篠ノ之ペアとも手合わせしたいところだが・・・」

 

「もし俺と箒が零司達と試合するとしたら・・・決勝だな」

 

組み合わせは発表されていないものの、ブロック別の配置のみは発表されていた。俺は今日の前半を占めるAブロックであり、一夏はBブロックとなっている。今回の学年別トーナメントの決勝はAブロックとBブロックの勝ち残って来た二つのペアで決められる為にブロック別になってしまうと決勝までは試合をすることはできないのだ。

 

「ま、どちらにしろ一夏達と戦うまでにはラウラとはぶつかるから、肩の荷も下ろして戦えるだろう」

 

「そうだな・・・負けるなよ、零司」

 

「お前こそな・・・決勝で」

 

一夏と拳を軽く打ち合わせる。また一つ、ラウラに勝たなければならない理由が出来た。俺を目標とまで言ってくれた相手が戦いたいと言っているのだ、この言葉に応えないわけにはいかない。

 

「二人共、そろそろ発表されるみたいだよ」

 

シャルルの言葉を聞いて、俺と一夏がモニターに視線を向ける。すると会場の映像がトーナメント表に移り変わり、組み合わせが発表されていく。

 

「・・・・零司」

 

「・・・なるほどね」

 

映し出される映像。こりゃあいい。喜べよ、ラウラ。どうやら運命の女神はいち早く俺達の戦いの決着を所望らしいぞ。さっきまでとは打って変わって、シャルルの真剣な声に俺は皮肉げな笑みを浮かべるながら、トーナメント表を睨みつけた。

 

学年別トーナメントAブロック一回戦

黒瀬零司&シャルル・デュノアVSラウラ・ボーデヴィッヒ&青嶋雫

 

 

 

 

第二アリーナ、Aピット。会場はまさに最高潮。数分後に開始される学年別トーナメント初戦を待ちに待った観客達の熱気で会場は先ほどの状態に輪をかけた様に騒がしくなっていた。

 

「さてと、そろそろだな」

 

「そうだね」

 

トーナメント表が発表されてから、すぐさまこのピットに移動した俺とシャルルは熱気に包まれたアリーナを見ながら、残り少ない待機時間の終了を待っていた。

 

「じゃあ、打ち合わせ通りに頼むぞ」

 

「・・・・・うん」

 

俺の言葉に小さく頷くがシャルルの表情には何処か不安というか、納得していない色が見えていた。

 

「そんなに心配するなよ、大丈夫だって」

 

「でも、やっぱり心配だよ」

 

「ラウラのIS、『シュヴァルツア・レーゲン』の仕組みは完全に知らずとも、AICに関しての理解については俺のが上だ。だから、お前は青嶋の方に専念してくれ」

 

「それはわかった、理解もした・・・でも――」

 

「・・・シャルル」

 

俺はため息を吐いて、安心させる様に彼女の頭をポンポンと叩いた。

 

シャルルの不安。それはこの場所についてからしたとある提案・・・というより、懇願にあった。それは俺の単なる我儘であり、納得するには少々理論に欠けたものだ。しかし、それでも俺はその願いを聞き入れて欲しいと思った。

 

「確かに納得できないかもしれない。不安になるのもわかる。でもな、これは・・・要するにココの問題だからさ、理屈とかじゃないんだよ」

 

言いながら、自分の胸部を叩く。理論とか理屈ではどうにもできない、感情の問題。それに振り回されるのは戦いの中では邪魔なのかもしれない。だがコレは礼儀でもある。ラウラに対する、正面からぶつかってくるであろう彼女への礼儀のつもりでもあった。

 

「・・・じゃあ、約束して」

 

「ああ、なんだ?」

 

「絶対に、負けないって」

 

俯き加減だったシャルルが顔を上げて、こちらを見る。そこには先ほどまであった不安げな表情は無く、真剣な、至極真剣な顔立ちだった。そんなシャルルに俺は彼女の頭から手を退けるとただ短く返した。

 

「・・・当り前だろ」

 

そう、当り前だ。負けるわけにはいかないのだ。俺はドイツに戻るわけにはいかない。俺の為にも、皆の為にも、そしてラウラの為にも。

 

「その為に『換装装備(パッケージ)』まで用意したんだ。ここで負けたら、奏にも示しが付かない」

 

「・・・それもそうだね」

 

そう付け加えて、小さい笑みを浮かべるとシャルルもようやく表情を崩した。どうやら、ちゃんと納得してくれたらしい。

 

『黒瀬君、デュノア君もそろそろ開始時間です。ISを着用してください』

 

ピット内のスピーカーから担当教員・・・というか山田先生の声が響いた。それを聞いて、俺とシャルルは邪魔にならない様に距離を取るとISを展開する。

 

「来い、『黒天』」

 

呟くと赤と黒の粒子が俺の身体を包み、俺の専用機『黒天』を構成する。しかし、展開された『黒天』にはいつもとは違うパーツがいくつも見られた。

 

肩部や腕部、脚部の様々なところに取り付けられた小型ブースター。左右の腰部に二本ずつ据え付けられ、鞘に納められた反りのない細身の四本のブレード。脚部の丁度脹脛の部分には小型の近接用ダガー。二の腕に装着されていた小型パイルバンカー『Denis』は取り外され、小型の物理シールドに代えられている。そして何より『黒天』の特徴とも言えた大型のデュアルウィングはその姿を失い、中心に単調なバーニアと縦長のバインダーが左右均等になる様に二個ずつ取り付けられているバックパックに取り換えられている。

 

専用近接戦闘型パッケージ、『素戔男尊(スサノオ)』を取り付けた、新たなる『黒天』の姿だった。

 

「じゃあ、行こうか」

 

「うん」

 

頷くシャルルをバイザー越しに確認した後、デッキから飛び立つ。会場に出た瞬間、大きな歓声が響き渡る。まるで会場を揺らす様なそれを感じながら、このアリーナの中心、そこに立つ黒いIS、『シュヴァルツア・レーゲン』の前に降り立つ。

 

「一回戦で戦えるとは、手間が省けて助かりました」

 

「それに関しては正直言って同感だ・・・ここで終わらせれば、今後の試合にも集中できる」

 

「それはあり得ません。あなたに次の試合などないのだから」

 

冷徹に言い放つラウラ。その瞳には一切の迷いがない。侮りなど微塵も存在しない様な、そんな瞳。敵意とも言い難い視線がしっかりと俺の事を捉えていた。

 

俺は腰に携えてあった鞘から近接ブレード『Arthur(アルトゥール)』を両手に抜き放ち、それに応じる様にラウラはカノン砲の最終安全装置を外す。ハイパーセンサーから送られてくる画面に開始五秒前を告げるサインが浮かび上がる。

 

―――5・・・

 

「ここであなたに勝って、私は証明する。この場所の無意味さ、そして何よりあなたの間違いを」

 

―――4・・・

 

「今度は・・・私があなたを救い出してみせる」

 

―――3・・・

 

「ほう、それは楽しみだ。あの頃と比べて、どれだけ腕を上げたか俺に見せてみろ」

 

―――2・・・

 

「ただし、容易には勝たせはしないぞ」

 

―――1・・・

 

「来い、そして証明して見せろ・・・お前の思いを」

 

―――0・・・

 

『試合、開始!!』

 

「「行くぞおおおおぉぉぉぉ!!」」

 

 

Side 黒瀬零司 ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

「行くぞおおおおぉぉぉぉ!!」

 

先手、先に動いたのはラウラだった。開戦を知らせる号砲の如く、肩に装着されたカノン砲が即座に正面に立つ零司を捉え、装填されていた対IS用徹甲弾を撃ち込む。それに反応して零司はアリーナの地面を蹴り、ブーストを吹かして前進。すれ違う様にして徹甲弾を回避すると手に持った『Arthur』を構えて、ラウラの前に降り立つ。

 

「させるか!」

 

右からの袈裟斬りに対応して、ラウラがそちらへと意識を集中させる。すると零司の腕がAIC、アクティブ・イナーシャル・キャンセラーにより、強制的に停止させられる。そしてそのままラウラは次の部位の停止に取りかかろうとするが――

 

「遅いっ!」

 

左手に握られたもう一方の『Arthur』がラウラの左方向から襲いかかる。一歩反応が遅れながらもラウラはカノン砲を収めながら後方へと移る事でそれを辛くも回避。だが零司はラウラの回避先を先読みし彼女目掛けて右手に握られていたブレードを投げ付け、さらに接近を測る。

 

「グッ!」

 

ブレードが『シュヴァルツア・レーゲン』の肩を掠め、削る。ブレード投擲に若干の驚きを感じながらも、すぐさまその感情を放棄。次の行動へと移る。零司はすでにもう一本のブレードを引き抜き、こちらに高速で接近して来ている。余計な事を考えている時間は無い。

 

「これならばっ!」

 

ラウラはワイヤーブレードと手刀のプラズマブレードを展開後、正面にAICを展開。正面から向かってくるならば止めるのは容易だ。そう考えての行動だったのだろう。だが――

 

「・・・っ!?」

 

ヴォッという鈍く破裂する様な音と共に『黒天』がラウラの視界から姿を消した。そしてハイパーセンサーに反応。

 

『左方向、敵IS接近!』

 

「何ッ!?」

 

ハイパーセンサーからの警告音を聞き、振り向くよりも早く展開していたプラズマブレードで左から来た斬撃をガードする。実剣がプラズマに打ち当り、火花が散る。そしてそこから零司の『黒天』の足がラウラの顎を目掛けて上がってくる。

 

「シッ!」

 

地面を蹴ってからのサマーソルト。ラウラはスライド移動をし、それを間一髪で回避すると八本のワイヤーブレードを『黒天』へと向かわせる。

 

「奇妙な兵器だな、全く!」

 

言いながら、零司は両手に握った『Arthur』で後退しながらも八本のワイヤーを、回転を利用しながら流し、弾き、去なす。そしてラウラはその状態の零司に向けて、再びカノン砲を撃ち出すとともにワイヤーを引き戻す。

 

「チッ!」

 

舌打ちをし、回避展開ギリギリに撃ち出された事を悟った零司はこちらに目掛けて飛んでくる徹甲弾を『Arthur』の腹の部分にわずかに当てる事により、軌道を逸らし、わずか数センチの間でどうにか回避する。

 

「確かに腕は上がっているみたいだな・・・ラウラ」

 

手に持った『Arthur』を鞘に納めると背中に装着された左右バインダーの上部が開き、そこから腰に携えたモノと同じブレードの柄が射出され、それを掴むと引き抜く。全く同じブレードを両手に握り、零司はラウラを見据えた。

 

「・・・・・・」

 

ラウラは答えず、ただ零司に集中する。

 

ラウラは思う。手を合わせて、再確認させられた。相手がどんな相手かという事、そして絶対に手を抜いては倒せない相手である事を。

 

最初、ラウラは『黒天』の姿を見て、相手は確実な近接タイプである事を確信した。装備されている武器は全てが近接武装、そしてその考えは間違いではなかった。そう、間違ってはいなかった。

 

(こうも振り回されては、AICが活用できない・・・)

 

本来、近接武装で固めている相手ならばその近接攻撃に対して、AICのカウンターを入れる事によって『シュヴァルツア・レーゲン』は優位に戦闘を進められるであろう。だがそれは、AICに捉えられればという話だ。AICを使用するには多大な『集中』が必要だ。しかし今戦っている零司の戦闘にはその『集中』の隙が少な過ぎる。次の行動に移る速度や咄嗟の判断、そして自身の視界から消える様な強力なサイドにおけるクイックブースト。

 

零司の動きがラウラの『集中』よりも早いのだ。

 

相手が近接タイプならば、AICの格好の的である。ラウラの頭の中にはまるで教科書の内容の様に思い浮かぶ考えだった。だが、今相手にしているのが誰かという事をラウラは考えの中に入れ忘れていたのだ。

 

「俺に対してAICが活用できなくて、驚いているのか?」

 

「・・・ッ!」

 

「そんなに驚く事でもないだろ。冷静に考えてみろよ」

 

見透かされた様な言葉にラウラが唇を噛むと、零司は『Arthur』の切っ先をラウラに向けて言った。

 

「レーゲンタイプの試作機・・・実験用AIC初搭載IS(・・・・・・・・・・・)に乗ったのは俺だぞ? そんな奴がAICの特性を熟知してないとでも思ったのか?」

 

迂闊だった。ラウラは改めて後悔する。侮るな、決して侮るなと思っていても、自分の中で少なからず驕りがあったのだろう。零司を相手にして、どうして自分が優位だと思えるというのだ、と。

 

「甘く見ていた・・・そう言う事か・・・」

 

「ん?」

 

「いえ・・・ここからは全力で向かわせてもらいます」

 

ラウラの瞳に、再度炎が灯る。敗北するわけにはいかない。故、自分の全力を出し切る。勝利の為に・・・何よりも―――

 

勝利を(ヴィクトーリア)!」

 

その叫びは会場の歓声に負けないほどに雄々しく、力強いものだった。

 

Side off

 

 

 

 

Side シャルル・デュノア 青嶋雫

 

アリーナの空を橙色と紺色の(ラファール)が走る。零司とラウラが地上での戦闘を繰り広げている間にも、空戦を行う二人のIS搭乗者。シャルル・デュノアと青嶋雫は地上と負けず劣らずの戦闘を展開していた。

 

「これでっ!」

 

シャルルの駆る『リヴァイヴ・カスタム』はその手に握られたアサルトカノン『ガルム』とショットガン『レイン・オヴ・サタデイ』の引き金を引き、自分よりも低空に存在する青嶋の『リヴァイヴ』に向けて弾丸の雨を降らす。

 

「そう簡単にはいかないよ」

 

その雨の中を最小限のダメージで掻い潜りながら、シャルルに向けてサブマシンガン『ラビット・ラピット』に引き金を引き絞り、弾をばら撒く。シャルルの軌道の先に向けて左手に、脇に抱える様にして持っていた大型バズーカ『エレファント・スレイヤー』を発射。ドゴンッという重厚な音と共に撃ち出された砲弾はシャルルの緊急停止から急降下によって回避される。

 

「さすがに当たらないね!」

 

「でも読みは良いと思うよ!」

 

射撃をしながらの急降下、そして射程を悟ると同時に『ガルム』を『収納』、そしてすぐさま近接用ナイフ『ブレット・スライサー』による接近戦に望む。『高速切替(ラピット・スイッチ)』、大量の『拡張領域』を利用し、事前呼び出しを高速化する事によって戦闘中に適した装備へと換装、変則的な戦いを行う。シャルルの十八番である。

 

シャルルは『ブレット・スライサー』で青嶋の肩部を捉える。しかし――

 

「甘いよ、デュノア君!」

 

「・・・クッ!?」

 

ガツンッと重苦しい衝撃にシャルルは苦い顔をする。青嶋は左手に持っていた『エレファント・スレイヤー』で向かい来るシャルルを横薙ぎに振り回したのだ。弾き飛ばされ、距離を置いたところに構え直した青嶋の『エレファント・スレイヤー』が火を噴く。

 

「今度こそ!」

 

青嶋の叫びと共に撃ち出された弾丸。だがそれはシャルルへと着弾する前に空中で爆散した。『ブレット・スライサー』を持っていたシャルルの手にはアサルトライフル『レッド・バレット』が握られていた。

 

「さすがは代表候補生だね。ちょっとやそこらじゃダメみたい」

 

「正直言うと君がここまでやるとは思わなかったよ、青嶋さん」

 

空中で睨み会う二人。零司とラウラの戦闘が始まってからの間、空戦を繰り広げていた二人だが、双方が決定打を撃てずに射撃戦と近接戦を繰り返し、それなりにシールドエネルギーを疲弊した状況になっていた。シャルルの言葉に青嶋は不敵な笑みを返す。

 

「これでもIS操縦でこの学園を入った様なものだからね・・・唯一、自分の誇れるところだから・・・代表候補生相手でも引けを取るつもりはないよ」

 

「そっか、でも・・・僕も負けるつもりは毛頭ない!」

 

会話を終え、空戦が再開される。実質、青嶋はシャルルと互角以上の戦いを繰り広げていた。シールドエネルギーもほぼ互角。それにシャルルの『高速切替』を使った戦法である『砂漠の逃げ水(ラージュ・デ・デザート)』が通用しないという状況なのだ。

 

「フッ!」

 

回る様に旋回を繰り返し、射撃を繰り返すシャルルは相手に悟られない様に距離を詰めると手持ちのマシンガンを『収納』し、近接ブレードを『展開』。そのまま近接戦に持ち込もうとするが――

 

「そう来ると思った」

 

「なっ!?」

 

先ほどまで射撃戦を行っていたにも関わらず、青嶋の左手には『打鉄』の近接ブレードが握られており、こちらの攻撃は見事に受け止められた。そう、なんと青嶋はシャルルの『高速切替』について来ているのだ。本来、『砂漠の逃げ水』とは『高速切替』を利用する事で近接戦闘と射撃戦闘を切り替え、相手のペースを乱し、こちらは安定した戦いをするという戦闘方法だ。だが、その戦闘で『高速切替』に付いてこられてしまう。つまりはこちらと同じ様なスキルを持ち合わせている相手にはこの戦闘方では対応が可能となってしまう。

 

「まさか・・・青嶋さんも『高速切替』を!」

 

「残念だけど、私はそんな器用な事は出来ないよ!」

 

驚きに声を上げるシャルルに向けて、青嶋は言い放つと行動に移る。驚きに生じた一瞬の隙、その瞬間を青嶋は見逃さなかった。射撃戦にて使用していたョットガン『ホウセンカ』に装填されていたスラッグ弾を『リヴァイヴ・カスタム』の胴体に至近距離で撃ち出す。

 

「グッ!・・・まだだ!」

 

弾き出される様に離れたシャルルは右手に持っていた『ガルム』で青嶋を撃つ。マズルフラッシュが光り、青嶋の『リヴァイヴ』に全自動射撃(フルバースト)の六十一口径弾丸が着弾。シールドエネルギーを消費させる。

 

「うっ・・・さすがにあの距離は無茶だったかな」

 

『ガルム』の弾丸をくらい、自身のシールドエネルギーを確認すると青嶋はそう呟いた。双方、与えられたダメージは少なくは無い。シャルルはこのままの近距離戦闘は危険だと判断、ペースを戻す為にも一時距離を取るべきとスラスターを動かし、後方へと逃げる。

 

「逃がすかっ!」

 

瞬間、ワイヤーロッドがシャルルの腕に絡みつく。まただ、とシャルルは心の中で呟く。ワイヤーロッドの射出機が装備された右腕には先ほどの『打鉄』の近接ブレードは無く、左手はマシンガン『ラビット・ラピット』に代わっている。少しでも目を離せば、青嶋は即座に武器を変えて来る。しかも、青嶋の口ぶりを信じるとすると彼女は『高速切替』を使ってはいない。ならば、どうやってこちらに追いついて来ているのだろうか。

 

(こうも持ち味を殺されるなんてね・・・)

 

内心で毒づき、『ラビット・ラピット』から撃ち出される弾丸を肩のシールドで防御しながらワイヤーを近接ブレードで切り落とす。確かに『高速切替』が効かない相手かもしれない。だが、こちらも負けるわけにはいかない。

 

(僕が青嶋さんを引き付けないと・・・)

 

両手に射撃武器を展開し、シャルルは引き金を絞る。青嶋を引き付ける。それが今回のシャルルの役目。それが決められたのは、トーナメントの組み合わせが決まってすぐの事だった。

 

 

 

 

「ボーデヴィッヒさんと一対一で戦いたい?」

 

いきなり言い出された無茶なお願いにシャルルは驚き、そんな彼女に零司はただ頷いた。

 

「ああ、あいつとの決着はしっかりと納得する形で終わらせたいんだ。おそらく、あいつもそれを望んでいると思う」

 

「でも・・・いくらなんでも危険じゃないかな」

 

少々戸惑いを覚えながらも、シャルルは言った。ラウラの機体『シュヴァルツア・レーゲン』、アレのAICは単体対単体における戦闘では無類の強さを発揮する代物だ。その強力さは今もシャルルの脳裏に刻まれている。

 

「しかも、零司の『黒天』は近接戦闘仕様の『パッケージ』なんでしょ? だとしたら、なおさら・・・」

 

「勝つ見込みもないのに、わざわざ奏から『パッケージ』を送ってもらうと思うか?」

 

零司が言うとシャルルは少し言葉に詰まった。ペア決定から数日間、シャルルは零司との演習を行った事が在る。その演習の回数は一回や二回ではない。故にわかる、黒瀬零司が行う事は結果的に戦闘に有利な方向に傾く。つまり相手が『シュヴァルツア・レーゲン』だから、AIC使用機と知ってこの装備を用意したのだから、これも全て考えの内という事になる。

 

「今回の戦闘、絶対に負けられない戦いだ。それはラウラも同じ思いだと思う。だからこそ、しっかり戦ってやりたいんだ」

 

真剣な眼差しがシャルルを捉える。その瞳はあの夜にシャルルに見せたものと同じ輝きが宿っている。どれだけ零司がこの戦いを大事にしているのか、シャルルはそれを見て理解したのだろう。

 

「わかった・・・じゃあ青嶋さんは僕が引き付ける」

 

「すまない・・・ありがとう、シャルル」

 

頷くシャルルに零司は精一杯の感謝の念を込めて、礼を言った。

 

 

 

 

(ちょっとズルイよね、あんな目で見られたら断れるわけがないのに)

 

青嶋を攻撃する手は止めない。だが零司と約束した時を思い出し、さっきまでの焦りが少々和らいだ。シャルルは思う。あの瞳、まるで人の心を射抜いてしまう様な、そんな視線。そんなものを向けられて、誰が断れるというのか、と。

 

(なんだか・・・ちょっと妬けちゃうな)

 

真剣に懇願してきた零司。つまりラウラはそれだけ彼に思われているという事なのだろう。零司との間に過去に繋がりが在るとは聞いていたが、これだけ思われているならば彼女は幸せ者だろう。それなのに、自身の我儘でさらに零司を振り回している。贅沢もいいところである。

 

(まあ・・・今回はお姫様役を譲るよ、ボーデヴィッヒさん。しっかり騎士様(零司)に救われてもらってね)

 

「そこっ!」

 

青嶋の声が聞こえ、シャルルは現実に引き戻される。左斜め下方、七時の方向から大口径プラズマキャノン『フォルテ』がこちらに向けて光を放つ。回避行動に移るのが少し遅れた為に物理シールドを掠める。すると電磁フィールドが広がり、『リヴァイヴ・カスタム』のシールドエネルギーをキリキリという耳触りな音と共に削って行く。

 

「まったく、本当に強いな・・・青嶋さん」

 

「デュノア君だって、本当に凄いよ。今のは当てたと思ったのをほとんど回避しちゃうんだから」

 

心底楽しそうに青嶋の言葉には高揚の色が窺えた。それはシャルルも少なからず思っていた。ここまでギリギリの戦闘を行えるとは思わなかったし、正直楽しいとも思う。だが――

 

「でも、ちょっと出番が長すぎるかな・・・」

 

チラッと下に目をやる。そこには二機の黒いISが休むことなくぶつかり合って、戦闘が激化している。そう、自分達は所詮脇役。本命の戦いはあちらだ。前座はそろそろお引き取り願うところである。

 

「そろそろ終わらせようか、青嶋さん」

 

「なんだか気が合うね・・・ちょっと口惜しいけど、そろそろ終わらないと・・・ね」

 

シャルルと青嶋はフッと笑い合う。この現状を見て、察したのか。それともシャルルと同じ様な事をラウラから言われていたのか。それともシャルルとの戦いを終わらせるという意味なのか、それはわからない。だが確かに青嶋の言葉には本心があった。

 

「さあ・・・行くよッ!」

 

スラスターが火を噴く。繰り広げられる二つの風の空戦は、着々と終わりへと近づいて行った。

 

 

 

 

Side 織斑千冬 山田真耶

 

「ふあー・・・」

 

そこは教員のみが入る事を許されている観察室で、モニター越しにアリーナにおける戦闘映像を眺めながら真耶は感心したように呟いた。

 

「黒瀬君、相変わらず物凄い戦い方ですね。まるで生徒の戦い方じゃないですよ」

 

「アレを生徒としてカウントする事が少々間違いではあると思うがな・・・まあ、これくらいは出来て当然だろう。むしろ、初手で追い込めなかったところを見るとまだまだだな」

 

自身の弟子に対しても・・・いや、自身の弟子だからであろうか。辛辣な評価を下す千冬に真耶は苦笑いを浮かべる。

 

「でもあのクラスになってくると、もう教師陣とも十分戦えるレベルですよね。さすがは織斑先生の弟子といったところですか」

 

「まあ・・・そうだな」

 

少し納得いかなそうに、ぶすっとした感じで告げる千冬だったが、それが照れ隠しである事が最近真耶にもわかって来た。やはり自分の弟子を褒められるのは、師として悪い気はしないのだろう。真耶は内心でクスッと小さく笑う。

 

「それにしても学年別トーナメントのいきなりの形式変更は、やっぱり先月の事件の所為ですか?」

 

先月の事件、黒い全身装甲(フルスキン)ISの襲撃は、一般に反政府組織によるテロという事になっている。IS学園への襲撃、そしてその襲撃を行ったのが無人機である事実はますます事態を混乱させるモノとして必要以上の情報には緘口令が敷かれており、学園内でも真相を知る者は教師陣だけという状況に落ち着いている。

 

「詳しくは聞いていないが、おそらくそうだろう。より実践的な戦闘経験を積ませる目的で、ツーマンセルになったのだろうな・・・ま、今のあいつらにはそんな教師陣の考えなど無駄なのだろうが」

 

それぞれが一対一で戦闘を続ける零司達を見て、千冬は呆れたようにため息をついた。そんな千冬に再び真耶は疑問を投げかける。

 

「でも一年生はまだ入学して三カ月目ですよ? 戦争が起こるわけでもないのに、今の状況で実戦的な戦闘訓練は必要あるのでしょうか」

 

「その考えはもっともだ。だが、そこで先月の事件だ。特に今年の新入生は第三世代兵器のテストモデルが多い。そこへ謎の敵対勢力が現れたら・・・何を心配すべきだと思う?」

 

「・・・つまりは自衛のため、ですか?」

 

「そうだろうな。操縦者はもちろん、第三世代兵器を積んだISはその企業の顔だ。技術はもちろん、その性能に不信感を抱かせない為にも自社のISを護らなければならない。しかし教師の数が有限である以上、いざとなれば自身の力で護らなければならなくなる。その為に実戦的な戦闘経験が必要となってくるのさ」

 

「ははぁ、なるほどなるほど」

 

疑問の氷解に真耶は何度も頷いた。

 

さらに理由があるとすれば、この場所がIS学園である事が上げられる。ISにおける技術は原則上では開発されると同時にその内容を各国に提示しなければならない。その原則を曲げ、デメリットを消し去ることができるこのIS学園には様々な企業からのISが送り込まれてくる。

 

三年間の稼働経験値と蓄積データというアドバンテージ。そして真の目的である第二形態(セカンド・シフト)単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)。それらを見ても、企業体からすれば自社のISが下手に機能停止に追い込まれたり、最悪奪取されてしまう事だけは絶対に避けたいのだ。

 

「それにしても・・・強いですね、ボーデヴィッヒさんと青嶋さん」

 

「そうか? 私には両方とも切羽詰まっている様に見えるがな」

 

千冬がそう言うと、真耶はえっと声を上げた。

 

「ボーデヴィッヒさんも青嶋さんもかなり良い試合をしていますよ。特に青嶋さんなんて、唯一専用機持ちじゃないのにデュノア君を追い込んでいる様にも見えます」

 

「ああそうだな・・・・追い込んでいる様に見えるだけだ」

 

真耶は千冬の言葉に首を傾げ、千冬は上空でシャルルと撃ち合う青嶋を見る。『高速切替』に合わせる為に一足先に武器を抜く青嶋の姿は千冬にはとてもアンバランスなモノに見えていた。そして確信する。

 

「おそらく青嶋は負ける・・・察しのいいデュノアの事だ、すぐに仕掛けには気付くだろう」

 

「仕掛け、ですか・・・」

 

「ああ・・・それにしても」

 

次に地上に目を向ける。最初は翻弄されていたものの、徐々に零司の動きに慣れてきたのかラウラは攻勢に出ていた。目の前の相手を叩き潰そうと向かうラウラに対して、正面から冷静に迎え撃つ零司。

 

「変わらないな、あのバカ娘は」

 

千冬は心底つまらなそうに吐き捨てる。相も変わらず力に溺れた戦闘方法、全てをねじ伏せようとするその戦歩。力とは攻撃力、そんな考えを持っている様では零司には届きはしないだろう。

 

「あの、そういえば織斑先生」

 

「なんだ?」

 

「黒瀬君の制限時間は・・・どうなっていますか?」

 

真耶の制限時間という言葉を聞いて、千冬はスーツ内からタイマーを取り出す。ここ最近では、毎日忘れぬようにスーツに入れっぱなしだった所為か、小さな糸の様なモノが付着していた。

 

「大体二十三分から二十五分・・・・残り時間はあと六分程度といったところか・・・」

 

「あ、なら大丈夫ですね・・・よかった」

 

真耶がホッと胸を撫で下ろす。零司の病気である精神疾患、ISに対する拒絶反応は千冬との弛まぬ夜間訓練の賜物か、学園に来た時の三倍以上に跳ね上がっていた。

 

「黒瀬君が苦しむ姿はあまり見たくありませんからね」

 

「・・・・そうだな」

 

ワアアアァァァ!

 

会場から震える様な歓声が湧き、それは観察室にまで響いて来た。

 

「あ、デュノア君達の方に動きがあったみたいですね」

 

「なるほど・・・そろそろ潮時だな・・・ん?」

 

二人が上空に目をやろうとしたその時、千冬の肩耳に付けた会場通信用のイヤホンに声が混じる。それは断続的で、酷く聞き取り辛いものだった。だが、その内容を理解した瞬間、千冬の表情が厳しいモノへと変わった。

 

「・・・織斑先生?」

 

「山田先生、少しここを頼めるか?」

 

「えっ・・・ど、どうしたんですか織斑先生!? 一体何が!?」

 

いきなりの事に慌てふためく真耶がたずねると、千冬は短くこう告げた。

 

「緊急事態だ」

 

Side off

 

 

Side シャルル・デュノア 青嶋雫

 

旋回と直行を繰り返し、銃弾が双方の装甲とシールドエネルギーを削って行く。それは先ほどまでと同じ様な展開に見える。だが、明らかに青嶋の顔には焦りの色が浮かび上がって来ていた。

 

「どうしたのかな、青嶋さん。的確に対応しないと、すぐにやられるよ!」

 

「・・・まだまだ!」

 

アサルトライフル『レッド・バレット』とマシンガン『ラビット・ラピット』による射撃により、青嶋は牽制を行う。その牽制へと『ガルム』により反撃しながら、左手に展開した『ブレット・スライサー』を持ち、青嶋へと接近する。

 

「それなら・・・!」

 

だがすでに加速に入る前に青嶋の手には『打鉄』のブレードがあった。このまま近接戦闘に持ち込む、青嶋はそう考えてブレードを握るが―――

 

「引っかかったね」

 

「えっ!?」

 

シャルルは急に加速を止め、すぐさま『ブレッド・スライサー』を『レイン・オヴ・サタデイ』に展開し直し、引き撃ち行う。完全に不意を付かれた青嶋はその銃弾をモロに浴びてしまい、バランスを崩す。

 

「くうぅ・・・」

 

回転し、どうにか前進の軸を自分の中心に戻すとそのままシャルルと同じ空域まで戻って行く。それに対して、後方へと逃げながらの引き撃ちを続ける。

 

「ネタは割れたよ、青嶋さん・・・どうして『高速切替』を使わない君が僕よりも早く武器を『展開』していたのか」

 

「・・・っ!?」

 

青嶋の顔が強張った。そんな表情の青嶋に向けて、射撃の手を緩めずにシャルルは言葉を続ける。

 

「それはとても単純な事だったんだよね・・・青嶋さん」

 

『高速切替』、それは単に『展開』と『収納』のスピードが速いという事だ。これだけでも十分な戦力にはなるだろうし、実質的にシャルルはこの戦術があってこその『リヴァイヴ・カスタム』だと思っている。つまり『高速切替』をどうにかしない限りは、青嶋はシャルルには勝てないと踏んでいた。どうにか考え、その差を埋める為に青嶋の考え出した答えは―――

 

「君は武器を僕と同じタイミングでは抜いていない・・・最初から持っていたんだ、僕が展開するよりも先にね」

 

それは至極単純でなんともアンバランスな賭け(・・)だった。青嶋の取っていた行動とは『高速切替』で切り替える次の武装を予測し、先に自分の手の内に展開を予定しておくという方法だったのだ。手を付けずに武器を抜く状態と先に手に持ってホルスターから抜いている状態。どちらが早いかは単純明快である。

 

「でもその戦法には重大な欠点がある・・・それは説明するまでもないよね?」

 

「・・・本当に察しがいいね」

 

苦々しげに青嶋は言った。欠点、それはこれまた単純な事だ。これは一種の賭けなのだ。青嶋には先見の才が在るだけであり、決して未来を予知する事が出来るわけではない。つまり、予想が外れればそれまで(・・・・・・・・・・・)なのだ。

 

「だからさっきみたいな予想外な出来事に弱い・・・僕みたいに抜きが早いってわけじゃないしね」

 

「そこまでわかっているなら、もう小手先は不要みたいね」

 

言うが早いか、青嶋は再びアサルトライフルとマシンガンを展開し、シャルルに向ける。もはやこの手は通用しないと理解したのか、スラスターを点火。真正面から突っ込んで来た。

 

「でもね、手の内が知られたからって負ける気にはならないの」

 

撃って、撃って、撃って、撃ち続ける。引き撃ちによって装甲を削られる事を恐れていない様に、ただ愚直に正面からシャルルを追い回す。

 

「私って、結構負けず嫌いなんだよね!」

 

その叫びを耳に聞きながら、シャルルは冷静に迎え撃つ。『ガルム』の弾丸が『ラビット・ラピット』へと着弾し、青嶋の手元から落ちる。その時の隙に『レイン・オヴ・サタデイ』を立て続けに連射。後少しで青嶋のシールドエネルギーはゼロになる。そうシャルルが考えた時だった。

 

「・・・っ!?」

 

シャルルは見た。不意に青嶋の口端が上がるのを。それを視界に捉えたシャルルは直感的に感じ取った。マズイ、この場所は何かマズイ。

 

(一旦離脱を――)

 

「遅い!」

 

周囲からピーッというブザー音が鳴り響くと、直感の原因が姿を現す。そしてシャルルは言葉を失った。シャルルの眼に映ったものは、機雷。空中にステルス状態で配置された、無数の対IS用空中機雷。それは青嶋が空戦の途中から空中に設置していたものだった。

 

「これで・・・チェックメイト!」

 

青嶋の声。そして次の瞬間、光と爆撃の連鎖が空中で咲き乱れた。爆破の勢いで出た煙はシャルルの姿を完全に覆い隠し、その中から細かなオレンジ色のパーツが地面へと落下していく。勝った、青嶋はそう確信した。

 

そう、その確信が油断となった。

 

『敵IS、急速加速!』

 

「そんなっ!?」

 

警戒音を聞いて、緊張感を取り戻すと同時に黒煙を切り裂いてその向こうから橙色の閃光がこちらに弾丸の様なスピードで接近してくる。

 

「『瞬間加速』!? 『リヴァイヴ』でやるって言うの!?」

 

『瞬間加速』、それはシャルルのもう一つの隠し玉。そしてその肩には機雷によって破壊された物理シールドが剥がれて、中から無骨なリボルバーと杭があった。六十九口径パイルバンカー『灰色の鱗殻(グレイ・スケール)』、通称―――

 

「『楯殺し(シールド・ピアース)』・・・!?」

 

「はあああああああっ!」

 

完全に油断していた青嶋には、もはやそれを止める事はままならない。回避行動に移ろうとした時には既にシャルルとの距離は零。そしてその瞬間、シャルルと目が合う。彼女は小さく笑う。

 

「これが本当の・・・」

 

ズガンッという鈍い音と共に青嶋のシールドエネルギーは急速に低下、『0』という数字を残して地上へと落下していく。その青嶋に小さな声でこの空戦の決着を告げた。

 

「・・・チェックメイト」

 

 

Side off

 

 

 

 

「青嶋をやったか・・・シャルル」

 

地上戦。地面に突き刺さり、散乱する複数の剣に囲まれて、『シュヴァルツア・レーゲン』のプラズマブレードを『Arthur』で受け流しながら俺は横目で空戦の終結を確認した。彼はシャルルに青嶋を任せるといったが、思った以上に消費してしまっている現状を見て、少しながら驚いていた。

 

「よそ見している場合ですか?」

 

バチィ―――!

 

「ぐっ・・!?」

 

ラウラの言葉を聞いて、俺は眼前に意識を戻す。今はラウラを相手にしている。下手に違う事に集中すればそれはそのまま敗北に繋がりかねない。それに先ほどからラウラの動きが急激に良くなっている。それは油断が完全に消えたって事を物語っていた。

 

「お前に注意されるとはな!」

 

両手に握られた『Arthur』でプラズマブレードと切り結びながら、ワイヤーブレードにも意識を怠らない様に戦う。それは『改良領域』における駆動系の反射速度とセンサーの最適化を行ってこそ続けられるものであり、『黒天』だからこそできる技となっていた。

 

「ハァッ!」

 

左手のブレードを『シュヴァルツア・レーゲン』の肩アーマーに突き刺す。そしてそのまま手を離し、右手で横一閃の薙ぎ払い。それを防御したラウラの隙を縫って、脚部に付属された近接用ナイフ『Kurt(クルト)』を抜き取る。だがそれをラウラのワイヤーブレードが弾く。

 

「今度はこちらからやらせてもらう!」

 

ラウラの声に応じる様にワイヤーブレードが一斉にこちらに向けて襲いかかる。捌き切る為には一本では足りない。そう考えて二本目の『Arthur』を抜こうとするが、その隙を与えまいとラウラの猛攻が続く。

 

「チィ!」

 

舌打ちと共に高出力のサイドブースターを起動させ、クイックブーストを行う。ラウラはそれを負う様にカノン砲を展開、特殊砲弾を装填して回避方向の先へと撃ち出す。

 

「逃がすかっ!」

 

特殊砲弾が開き、大量のベアリング弾が俺に向かって発射される。内心で「しまった」と呟くがもう遅い。回避不可能の面の攻撃にさらされた『黒天』は衝撃で大きくバランスを崩す。もちろん、その隙をラウラが見逃すはずもない。

 

「もらった!」

 

ラウラが手をかざすと、『黒天』の右腕が強力な力で停止させられた。捕まえた、そう睨んだのだろう。次の瞬間、ラウラは『シュヴァルツア・レーゲン』のスラスターを開き、一気に加速する。そうしている間にも左腕、右足、胴体と次々にこちらの全身をAICが捉えて行く。

 

そしてラウラが俺の眼前に辿り着いた頃には完全に動きを停止させられていた。そんなこちらにブレードを展開して手刀の切っ先を向ける。

 

「・・・勝負は着きましたね」

 

「零司!」

 

シャルルが叫び声を上げる。そちらを見ると機能停止した青嶋の『リヴァイヴ』の近くにシールドエネルギーの残量がギリギリ二桁というボロボロの状態の『リヴァイヴ・カスタム』が降り立っていた。

 

「待ってて、すぐに――」

 

「来るな、シャルル!」

 

俺の声を聞いて、ビクッと手を止める。これは俺とラウラの戦いだ。シャルルには悪いが、今は引っ込んでいてもらいたい。

 

「また奴を庇うのですか?」

 

「庇うとか、そういう問題じゃない」

 

「・・・あなたはどうしてそこまでこの場所を大事だと思えるのですか」

 

またその門答か。いい加減、聞き飽きたぞ。

 

「そんなの俺の価値観だろうが。それを理解できないっていうのは単純に俺とお前じゃ価値観が違うだけだ」

 

「じゃあ聞かせてください。あなたの価値観とは一体何だというのですか!?」

 

「聞かせてやるよ・・・・この試合が終わったらな」

 

声を荒げるラウラに俺は瞼を閉じ、そして少ししてから不敵な笑みを浮かべてラウラに告げた。その時――

 

ガキュッ―――!

 

「な・・・に・・・!?」

 

金属が金属を貫く音と共にラウラの表情が変わり、視線が俺から外れる。ラウラの視線の先、それは右肩のアーマーだった。重厚な装甲の様なその場所に一本の剣が突き刺さっている。それは俺の『Arthur』だった。

 

「集中力が切れているぞ」

 

「・・・っ・・・ぐぅ!」

 

視界が外れ、AICから解放された俺はラウラを蹴り飛ばして離脱。そして『シュヴァルツア・レーゲン』から一定の距離を取ると意識を集中させる。堅牢で鋭く、相手を斬り裂き、貫くイメージ。それは剣のイメージだ。

 

「来い、『Arthur』!」

 

俺がそう叫ぶと、地面に散乱していた六本の剣『Arthur』が一斉に勢いよく空中に浮き上がり、俺の周囲へと集まり、展開される。それを見て、ラウラは信じられないといった表情を浮かべる。

 

「馬鹿な・・・BT兵器!?」

 

「察しが良いな」

 

空中に浮き、俺の周囲に展開された『Arthur』にはとある仕掛けが施されていた。それはビットシステム・・・いわゆるBTシステムと呼ばれる、本来イギリスの『ブルー・ティアーズ』に使用されているソレだ。あらゆる方向からの攻撃に特化したこの武器を装備した『素戔男尊』だからこそ、俺は対AIC用としてこの装備を選んだのだ。

 

「さてと、ここからが本番だ・・・・行くぞ、ラウラ」

 

そう告げると、俺は腰から抜いた『Arthur』を持ち直し、二刀流の構えでラウラへと加速する。それと同時に宙に浮いていた『Arthur』がラウラへと向かう。それに対応する為にラウラはワイヤーブレードを空中へ、そして手刀で俺を迎え撃った。

 

「さあ、捌き切って見せろ!」

 

ラウラは苦しげな顔で二つの斬撃を受け止める。だが六本内、ワイヤーブレードの間をかいくぐって来た二本が『シュヴァルツア・レーゲン』のカノン砲を内側から貫く。それを見た俺は右肩に手に持った剣を突き刺し、カノン砲に刺さった二本の柄を指の間に挟むとそのまま一気に下へと振り下ろす。

 

「このままでは・・・!」

 

カノン砲が大破すると近接戦闘の完全な不利を理解し、ラウラはブースターを開く。だが行かせはしない。右手の二本を『Arthur』を上空に投げ、それを操ってラウラへと飛ばす。正面から来たそれを弾くが―――

 

バキッ――――!

 

「クソッ!」

 

『シュヴァルツア・レーゲン』のブースターから鈍い音が鳴る。そこにはもう一本の『Arthur』が刺さり、機能を物理的に殺していた。引けもしなければ捌き切れもしない。ラウラをその状況まで追いこむと、俺は正面へとブーストを掛ける。これで・・・・・・終わらせる。

 

「おおおおおおっ!」

 

腹を決めたのか、ラウラもワイヤーを展開し、全力で迎え撃つ姿勢へと入る。俺は肩のバインダーから先ほどの様に二本の柄を指の間に挟み、迎え来るワイヤーを弾いて接近する。

 

「・・・っ・・・・ああああああっ!」

 

射程に入った瞬間にラウラが手刀を振りかぶる。だがそこに俺とラウラの間を縫うように振って来た剣によって、プラズマブレードの発生させていた二の腕のパーツが貫かれる。そのまま初手を損じたラウラに向かって、『Arthur』を突き刺していく。肩、二の腕、脚部、スカート部。反撃の隙も与えない、雷速剣舞。『シュヴァルツア・レーゲン』のあらゆるパーツに突き立てられた『Arthur』がその装甲を貫き、破壊していく。

 

「がっ・・・あ・・・!」

 

最後に一撃、腹部に撃ち込まれた蹴りによってラウラはアリーナの壁際まで押し出された。『Arthur』が突き刺さったその姿は無残で、機体からは青い紫電が走っている。IS強制解除が近い証拠だ。

 

「どうする・・・まだ続けるか」

 

手に持った最後の一本の『Arthur』をラウラに向ける。勝負はあった。誰もがそう思い、俺達の勝利を確信しただろう。

 

「私は・・・負けない・・・」

 

だが、異変の兆候が見られた。そのラウラの言葉にはあらゆる感情が渦巻いた様な重苦しい感覚が滲んでいた。

 

そして瞬間――――

 

「私は・・・負けるわけには・・・・・いかないんだあああああああ!」

 

アリーナに響き渡る咆哮と共に、ラウラは『黒』に包まれた。

 

 

EP25 END

 

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