IS もう一つの翼   作:緋星

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EP28 それは穏やかな時間の中で

強風によって吹き上げられた砂漠の砂が砂塵となって全身を叩きつける。通らぬ視界に目を細め、顔を覆う布の間から意識を張り巡らせる。

 

戦場、そうここは戦場だ。砂を纏った強風がまるで地獄の女王(ヘル)がこちらへ来いと呼びかける声の様に聞こえる。

 

そうなれば、我々は差し詰め地獄の犬(ガルム)と言ったところか・・・まったく、なんとも相応しい話じゃないか。

 

今日は一体どれだけの人々を喰らい、どれだけの人間をその地獄へと叩き落とすのだろうか。

 

どれだけ切り裂き、どれだけ撃ち殺しても、栄光など得られるわけでもないだろうに。どうして我々は戦うのだろう。

 

「隊長、ここにいたのですか」

 

砂を踏み締める音と共に女性の声が聞こえた。良く聞き知った・・・いや、もはやその声が俺の脳裏から離れる事は無い、少し低めの美しい声色に安心感すら覚える。

 

「探しましたよ、基地内にはいらっしゃらないので」

 

「悪い、少し外の景色を見ようとね・・・だがこれではな」

 

後ろから歩み寄って来た女性は俺の隣に立つ彼女は俺と同じ様にドイツ軍服の上から砂塵除けの布を身に纏っている。そしてその布の間から見えるのは、蒼い瞳。共に数多の戦場を映し、戦友達を見送り、俺と同じ景色を最も多く見てきたであろう瞳を持つ女。

 

だからこそ、俺は問うた。

 

「お前は何故戦う?」

 

「・・・今更ですね、随分と」

 

「答えてくれ、お前は何のために戦う?」

 

言葉を切って、彼女は砂塵の景色から視線を外し、俺をその蒼い瞳で見据える。

 

「生き残るためです。どんな事があっても、皆と共に・・・そしてあなたと共に生き残る為に」

 

俺は無言で視線を返す。

 

どうして我々が戦うのか。否、それに悩む必要などない。その理由は一つだ。

 

生きたい、生き残りたい。死にたくない、死ぬわけにはいかない。生への執着、死への対抗。それが我々の戦う理由、相手の命を刈り取ってでも叶えたい夢だ。

 

我々は猟犬、恨みたければ恨め。立ちふさがるならばそうすればいい。だが覚悟せよ。我々は全てを切り裂き、食い千切り、貴様らを地獄に送りながらでも己が未来へと疾走する。それこそが、我々なのだから。

 

「・・・風がやんだな」

 

「はい」

 

砂塵はまるで俺の迷いだったのかと錯覚させる様に、風は止み、遮られていた視界が晴れる。俺は顔に巻いていた布を取り、彼女を見た。

 

薄く白い肌、黄金の長髪を結って出来上がる三つ網からは出会ってから変わる事のない美しさを感じる。こんな女性を右腕に戦地を飛び回る事を何度罪悪に駆られた事だろう。いや、彼女だけではない。俺の仲間達、戦友達がこんな戦場に居ること自体がおかしな連中だ。少し運命が違えば、それだけで平凡な生活を手に入れる事ができたであろう。

 

だが今さら彼女達にその事を話し、この場所から去れと言ったところで頑となって聞かないだろう。

 

だから俺は彼女達を護り続けよう。この戦場で俺は誰も死なせるつもりはない。もう誰の死も見たくはないから。

 

「おーい、ハイジー! 隊長と二人っきりなんてズルイぞー!」

 

基地の方から元気な声が聞こえ、俺達は振り返る。手を振る部隊の仲間の姿を見て、苦笑を浮かべる俺の横で頭を押さえている。ああ、そうだ。共に生き残ろう。皆で生きて、本国に帰ろう。

 

「行こう、もうすぐ紛争は終わる・・・俺達の手で終わらせる」

 

「・・・了解(ヤボール)、レイジ」

 

 

 

 

 

 

            生き残れば、その先に希望があると信じていた

              

             ――「だが、先には何もなかった」――

 

                望む未来へ行けると夢想した

 

           ――「未来を愚弄する産物でしかなかった」――

 

             肩を並べて進む彼女達の姿はもはや見えない

 

         ――「それはまるで掬った砂が手の内から零れる様に」――

 

            俺に残っているのは血と硝煙で彩られた残留思念

 

         ――「それはまるで禁断の蛇の様にその心に絡みつく」――

 

          そこに栄光は無く、ただひたすら後悔と絶望が渦巻いている

 

         ――「渦巻き、取り巻き、君の心を大きく蝕んでいる」――

 

            一体何を間違ったのか、何をすればよかったのか

 

           ――「何も間違っていない、何をする必要もない」――

 

             誰に許しを請えばいい 何に懺悔をすればいい

 

           ――「何者も君を裁けず、何物も君を赦せはしない」――

 

               俺は何に、救いを求めればいいんだ

 

          ――「もとより、救いを求める必要などないのだよ」――

 

              摩耗して、擦り切れた精神は何処へ向かうのか

 

 

               俺には分からないし、理解も出来ない

 

                  だから・・・今は眠ろう

 

 

            目覚めなければ、それはそれでいいのかもしれない

 

 

                今はただ、静かなる安息を・・・

 

 

 

 

 

            ――「そうだな・・・眠りたまえ、今はまだ」――

 

 

 

 

Side シャルロット・デュノア

 

そこは夕日差し込む教室。僕と零司は今月に控えた臨海学校のプリントが詰まれた机を挟んで座っていた。

 

「ごめんね、手伝ってもらっちゃって」

 

「気にするなよ、そんな事」

 

織斑先生から言い渡されたプリントの整理は少し量が多かったけど、苦労追われながらも、僕はとても幸せだった。だって目の前には零司がいるんだから。

 

「・・・ふふ」

 

「な、何かな、急に」

 

「いや、今日も可愛いなって思っただけだよ」

 

色っぽい声で言うとスッと零司の手が伸び、僕の髪に指を通して、優しく滑らかな手つきで頬を撫でる。そして彼は席から立ち上がるとすぐ隣に歩み寄る。

 

「大丈夫だよ、シャルロット・・・俺に任せろ」

 

「・・・うん」

 

頬に伸びた手がゆっくりと顎に移動し、クイッと引き上げる。そんな零司に逆らう事無く、僕は瞳を閉じる。そして包み込む様な黄昏の光の中で僕と零司は――――

 

 

 

「――――あ、れ?」

 

唐突に引き戻された現実をボーッとした頭で周囲を確認する。そこはIS学園学生一年寮、時刻は早朝六時半。無論の事ながら、夕日の赤は無く、清々しいくらいの陽光が窓から差し込んでいた。

 

「・・・・・あ」

 

霞がかった意識が瞬き二回ほどの時間がかかって、やっと現状が呑み込めてきた。

 

「夢・・・夢かぁ・・・」

 

重く、沈んだ大きなため息が漏れた。ついさっきまで見ていた夢の情景は未だに頭から離れる事は無く、口惜しさが大きく心に残っていた。

 

(あと一分・・・ううん、十秒でもいいから見ていれば・・・)

 

そう思い、おそらくあの展開から予想される未来を頭の中で夢想する。零司と唇を重ねて、そして机の上のプリントが崩れて、机の上に押し倒された僕は――――

 

「・・・・・・」

 

一気に体温が上昇していくのがわかった。学校、しかも自分の教室でそんな行為を妄想してしまうなんて・・・

 

(ぼ、僕は何を考えているんだろう・・・)

 

胸に手を当てて、深呼吸。気持ちを落ち着かせると横目で隣のベッドを見る。

 

先月の学年別トーナメント以降、シャルル・デュノアからシャルロット・デュノア、つまり元の性別に戻った為に今は零司とは別の部屋になっており、隣のベッドには零司はいない。一緒の部屋でいられないのは残念でならないけど、今は良かったと思っている。こんな状態で零司の寝顔なんて見たら、僕は何をしてしまうかわからない。

 

(でも、こんな気分になっているのは零司のせいでもあるんだから・・・夢の中くらい現実でも積極的になってくれても・・・)

 

そこまで考えて、夢の無い様に再び顔が赤くなっていくのに気が付き、その考えを霧散させる為にぶんぶんと頭を振る。本当に何を考えているんだ、僕は。ああ、こんなんじゃ朝食の時、零司にどんな顔して会えば・・・

 

「・・・・あれ?」

 

そこで気付く。隣のベッドがやけに静かで、ふくらみがない事に。不思議に思った僕は隣のベッドのかけ布団をゆっくりと上げていく。すると―――

 

「いない・・・」

 

そこにはルームメイトの姿は無く、もぬけの殻となっていた。新しいルームメイトの彼女はこの時間にはまだ寝ているだろうし、それに何よりも規則正しく決まった時間に目覚める人だ。だとすると、こんな時間に居ないというのはおかしい。

 

「一体何処に行ったのかな・・・」

 

もう一度、あの幸せな夢に浸りたいところだが消えたルームメイトをそのままにしておけるわけもない。それになんだか彼女は放っておけないのだ。こういう状況に慣れていないせいなのかもしれないが、彼女を見ていると年の近い世話のかかる妹が出来た様な気持ちになってしまう。

 

「仕方ないなぁ・・・」

 

先ほどの夢への名残惜しさを噛み潰しながら、消えたルームメイトを探す為に僕は自室を後にするのだった。

 

 

Side off

 

 

七月、空気はすっかり夏の香りを孕み、気温は日に日に増して行っている。そんな中、IS学園の生徒達は学園別トーナメントが終わった後に行われた定期テストに頭を悩まされ、その結果に一喜一憂、そしてテストの終了に安堵するという学生特有の心境でようやくまったりとした学園生活を過ごしている。

 

特に三年生に至っては学年別トーナメントと学力診断の為に行われた定期試験という、学園前期における大きな山を越えた様なものであり、他の学年とはまた一つ違った安心を抱いている。そんな三年生を見て二年生の内にはゲンナリする者やら今から励む者やらが出ている。

 

その点、一年生は余裕の表情である。あと二年という時間、単純に二年生の二倍の時間がある。あと二年しかないと教師陣には言われても、今一実感として持てないのだろう。それにこの時期はあと二十日とちょっともすれば夏休みという事もあり、なんとも緩慢な生活を送っている。

 

無論、それは俺も例外ではない。

 

輝く太陽の強い日差しが窓から差し込み、顔面に降り注ぐ。瞼越しにもかかわらず、失明するのではないかと思うくらいの明るさを遮る様に腕を顔の上に置く。テストを終え、特に忙しい事もない為に俺は朝という時間を心地よいまどろみの中で過ごしていた。

 

(あと・・・あと五分・・・いや十分・・・いや三十分)

 

睡魔に身を任せ、ズルズルと引き摺る様に睡眠時間を増やそうとする。今日は日曜日という事で休日、そしてこの日の光の入りようは朝食までの時間に余裕がある事を告げていた。それにしてもこの時間は本当に底なし沼の様だ。いけないとわかっているのに、この心地よさには逆らえずにズブズブと沈んでいく。

 

(二度寝はいかん・・・わかってはいるんだが・・・ぐぬぅ)

 

葛藤する頭の中の様に身体をよじって、寝返りを打つ。

 

ふに。

 

(・・・む?)

 

なんだこの柔かい感触は? 俺が寝る前にこんなものがあっただろうか? しかしなんとも良い手触り。

 

(一体なんだ・・・これは)

 

触れていた部分から手を這わせていく。下に行くにつれて、触れていた面が少々盛り上がり、途中で何か突起物に触れる。そこを撫でる様にしてさらに下へ。

 

「・・・んっ」

 

(それにしてもこれ、温かいな・・・少なくとも物ではない事はわかったが・・・)

 

そんな事を考えつつ、下って行くと再び平面に戻り、小さなくぼみが指を捉える。そこから抜け出して、さらに下へと行こうとした時、俺の脳内によって構成されていた未知の物体の造形、その全貌が明らかになった。

 

(・・・えっ?・・・いや、いやいやいや待て)

 

その全貌に脳内に大きく警報音が鳴り響く。いや、いくらなんでも・・・そりゃないだろ。だってこの部屋には鍵をかけていたし、それにあんな行動をつい最近したからといって、この指先からの感触がする格好で男のベッドに入り込むなんて事は―――

 

「んぁ・・・」

 

もぞもぞとベッドに眠る物体は動き出し、俺の腕をギュッと抱きしめてきた。そして感じるメトロノームが刻む様なテンポの良い心音。これはもう間違いない。逃げられない現実を目の当たりにする事を恐れながらも、俺は空いている左手でゆっくり布団をめくって行く。

 

「・・・・・やはりか」

 

布団の中で俺の右腕に抱きついていたのは、ドイツ代表候補生であるラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

朝だというのに早々にため息を吐くと共に頭を掻く。実際、ラウラが俺のベッドに居るというのはさほど問題ではない・・・いや前言撤回、ゆゆしき問題ではあるがそれ以上の問題が目の前にあるのだ。

 

その問題、それは何故彼女が衣服を纏っていないかというところにある。そう、彼女は何故か全裸なのだ。身につけている物と言えば、左目の眼帯と黒いレッグバンドのみである。え? 意味がわからない? 俺だってわからないよ。むしろ混乱で叫び出さない自分を褒めて欲しいくらいだ。

 

「ん・・・なんだ・・・朝か・・・?」

 

そんな事を考えていると見えている右目を片手で擦りながら、ラウラが目を覚ました。さてと丁度いい、何処から話して貰おうか。

 

「おはようございます・・・レイジ」

 

「ああ、おはようラウラ・・・ところでお前はなんでこんなところで寝ているんだ?」

 

何よりも聞きたい俺の疑問をド直球でラウラにぶつける。だがその言葉に当の本人は困った顔でこちらを見ていた。

 

「え・・・日本では夫婦とは包み隠さぬものだと聞きましたが?」

 

「あー、うん。間違ってない、間違ってないんだよ。でもな、それはしっかりと夫婦になったものどうしならって事で・・・いや、夫婦でも隠す事はあるか・・・そうじゃなくてだな」

 

ああ、いかん。なんだかんだで軽くパニックに陥っている。せっかく冷静にふるまっているのに・・・

 

「よかった、間違ってはいないのですね・・・」

 

そう言って、ラウラは少し安心した顔で俺の腕を離すと身体を起こした。そうすることで必然的にラウラのボディーを隠す物体は無くなり、その未発達ながらも美しい裸体がさらけ出される。あんまり昔と変わらんな、色々と小さいまま・・・・ではなく!

 

「・・・ラウラ、ともかくこれをはおりなさい。風邪ひくぞ」

 

言いながら、掛け布団を肩から掛けてやる。まったく、女の子がそんな恰好で男の前に出るなんてはしたないですよ。

 

「ありがとうございます・・・ですがこれでは夫婦らしくありません。私は私を包み隠すことなく―――」

 

「あー、うん。わかったから・・・それで服は何処だ」

 

「ここにはありません」

 

「じゃあ何処?」

 

「自室に」

 

「・・・・・・・」

 

どうやってラウラがこの部屋にやって来たのかを想像した俺は黙ってこめかみを押さえる。あ、頭痛くなってきた・・・・一体誰だよ、こんな知識をラウラに吹き込んだのは。

 

・・・・あ、一人浮かんだぞ。というか、アイツ以外にはありえない。

 

「日本の夫婦ではこういう起こし方が一般的と聞きました。将来結ばれる者同士の定番だと」

 

「クラリッサの奴・・・好き放題やりやがって・・・」

 

苦々しげに吐きだすと脳内に知人の姿が浮かんだ。クラリッサ・ハルフォーフ、ドイツ軍に居た時の知り合いであり、出会った時は俺の同期だったが、今は大尉となり、ラウラの所属する『黒ウサギ部隊』の副隊長をやっているらしい。あいつの間違った日本知識には昔から振り回されたものだが・・・こんなところにまで弊害が出るとは・・・

 

「効果はてきめんのようですね」

 

「何が?」

 

「目は覚めたようで」

 

「当り前だ・・・まったく」

 

これで目が覚めないならば、そいつは男として何か大事なモノが欠損しているに違いない。それが精神的になのか肉体的なのかは言及しないでおく。

 

「しかし、朝食までにはまだ時間がありますね」

 

時計を見るラウラの銀色の長髪が窓からの陽光を反射して輝く。まさに美麗という言葉が似合う美しさで素直に見惚れてしまった。昔から綺麗な髪していたからな、ラウラは。

 

「ど、どうかされましたか? あまり見つめられると・・・その、恥ずかしいのですが」

 

「・・・いや、すまん」

 

頬を赤らめて、視線を逸らすその姿。裸でここまで来たのに今更、とも思ったがそれは転校してきたばかりのラウラとはあまりにも違い過ぎる為にどうも調子が狂った。

 

しかし、アレだな。このベッドに潜り込むというのも大分アウトだが、このまま放置しておくと終いには風呂とかにまで乱入してくるんではなかろうか。それに今回はまだ早朝という事で隠しきれるかもしれんがこんな事が毎日起こるようではいつかバレるのは確定的に明らかだ。

 

「なあラウラ」

「なんでしょうか?」

 

「俺は奥ゆかしい女が好きなんだ、だからこういう積極的なアプローチはだな・・・」

 

「なるほど・・・それはなんとなくわかります」

 

咄嗟に機転を利かせて思いついた言葉を聞いて、ラウラは小さく頷く。このままどうにか言いくるめて、ラウラには今後このような行動をしない様にしなければならない・・・のだが・・・

 

「ですが、それはレイジの好みです」

 

「はい?」

 

「私は私、ラウラ・ボーデヴィッヒを変える事はできません」

 

・・・ああ、なるほど。そう来たか。

 

「それに・・・私の望んだ私になれ。そう最初に言ったのはレイジではないですか・・・」

 

「いや、そうなんだけどな・・・うーむ」

 

唸り声を上げながら、腕組みをして説得のセリフを考える。それにしても本当によく覚えていたな、そんな事。だがしかしだ、ここまでされると少し困るというか・・・

 

それにしても先ほどは恥じらいなどほぼなかったのに、上目遣いで言ってくる様は異様なまでに可愛らしく見えてしまう。これが巷で有名なギャップ萌えというやつなのだろうか・・・恐ろしいものよ。

 

だがそう捉えてしまったが最後だ。堂々と胸に当てていた手も、今はまるで俺の視線から隠す様に見えるから不思議である。

 

「わ、私の身体に興味があるのですか?」

 

「あ、いや・・・そうじゃなくてだな」

 

「み、見せろと仰るのなら・・・レイジもなかなか大胆なのですね」

 

「だから、違うっての」

 

「先程も・・・わ、私の身体を弄っていましたし・・・さすがにへそから下に行こうとした時は少し焦りました」

 

「うっ・・・ち、違うぞ、あれは正体不明の物体を調べていただけだ」

 

まあ、それでも弄っていた事実には変わらないんだけどね。今更ながら、あんな事をしてしまった事に後悔。というかラウラ、起きていたなら止めなさいよ。俺を変態に仕立て上げたいのか、お前は。

 

「ともかく! お前はもう少し自分の身体を大事にしなさい・・・そんな簡単に男に素肌を晒すもんじゃない」

 

布団を下ろそうとしたラウラの手を取り、ちゃんと前を隠してやりながら続ける。

 

「もしも俺達が夫婦になるとしても、まだ相互理解が足りな過ぎる。そんな相手にこんな風に迫っちゃいけません」

 

「しかし、私達はすでに接吻を交わした仲ではありませんか」

 

「・・・嫌な事を思い出させるな、お前は」

 

思い出されるのは学年別トーナメントが終わった翌日。襲撃に続く襲撃で混沌と化していた教室で行われたラウラとのキス。その後に起こった喧騒。ああ、つい先日の出来事の様に脳裏に焼き付いているよ・・・ははっ。

 

「そ、そうですか・・・嫌な事・・・でしたか」

 

って、しまった。ラウラがすっかり落ち込んでしまった。そりゃそうだよな、自分からしたキスの事を「嫌な事」なんて言われて喜ぶ女子が何処に居るというのだ。

 

「あ、いやラウラ、そうじゃない。別にお前とのキスが嫌だったわけではないんだ」

 

「ほ、本当ですか? 嫌じゃなかったんですね?」

 

「ああ、全然・・・むしろお前にされるのは・・・まあ、嬉しい感じすらあるよ。驚いたけど」

 

「私はあれが・・・初めてでしたので。そう言ってもらえると私も・・・嬉しい、です」

 

落ち込んでいた空気は吹き飛んで、モジモジとしながら頬を朱に染めてラウラは言った。あれが初めてか、なんだか衝撃的なファーストキスだな。それに俺なんかがラウラの初めてを貰ってもよかったのだろうか・・・なんか軽い罪悪感・・・。

 

「・・・・・」  「・・・・・」

 

いかん、キスの話なんてするから変な沈黙が下りてしまった。こういう空気はどうも苦手だ。年頃の女子と二人きりという事で三割増しくらいその意識が強い。どうにか切り出して、この空気を打開しなければ―――

 

「零司、起きてる?」

 

―――ノックと共に最悪の打開策が到来してしまった。声と俺の名前の呼び方からドアの向こうに立っているのはシャルル・・・否、シャルロットである事がわかる。

 

(一体何故こんな時間にお前が俺の部屋を訪ねて来るんだ、シャルロット!)

 

「零司? いないの?」

 

(ラ、ラウラ! 早く何処かに隠れろ! 今この状況を見られたら大変な事に・・・)

 

(・・・何故隠れる必要があるのですか、夫婦らしく堂々としていればいいのではないのですか)

 

(堂々とってなぁ・・・って、なんでこっちに抱きついてくるんだ! 止めなさいっての!)

 

「あれ、鍵がかかってない・・・いくらなんでも不用心だなぁ」

 

俺の身体にくっ付きながら少し拗ねたような顔をするラウラ。ああもう、なんだかなんだか堂々とし過ぎて逆に清々しいよ、お前は! 焦っている俺が馬鹿らしくなってくるじゃないか!

 

そしてそうこうしている間にガチャリとドアノブの回された音が鳴り、俺の抵抗も虚しく扉はゆっくりと開かれる。

 

「零司、実はラウラがいなくなっちゃって、零司は知らな・・・い」

 

ピキッと笑顔で入って来たシャルロットの表情と全身が固まった。ちなみに今の俺とラウラの体勢を説明すると、

 

1、夏故に薄い掛け布団一枚、それを身に纏い、肩を露出させる裸のラウラ

 

2、これまた夏故に就寝時の姿が上下は下着姿の俺

 

3、俺達の体制は傍から見れば抱き合っている様にしか見えない・・・ていうか抱き合っている

 

4、突然のシャルロット訪問により焦った俺が動いたせいでしわくちゃのベッド

 

さあ、この状況を理解した益荒男達よ。言い訳出来るものならば、その案を教えてくれ。ちなみに俺は解答放棄の選択をしました。

 

「シャルロットさん、まずは落ち着いて話を聞くことから始めようではありませんことよ?・・・」

 

「なんだシャルロットか。いくら友人とはいえ、夫婦の寝室に土足で踏み込むとはいささか無作法だぞ」

 

「ねえ、なんでそんな冷静に対処できるの、お前は!?」

 

「レイジこそ、何故口調が変になるほどに焦るのか理解しかねます。私達は夫婦です、密着していて当然です」

 

「・・・・は、はははは」

 

言い合う俺とラウラを見て、シャルロットが糸の切れた人形の様にケタケタと笑いだす。いかん、俺の本能が告げている。あのシャルロットはマズイ。

 

「・・・しゃ、シャルロット、だから落ち着いて俺の話を―――」

 

―――ガキュンッ!

 

俺の言葉を遮る様に発砲音が鳴り、頬を数ミリ程度の間を置いて弾丸が発射されて俺の背にある壁に弾痕を残す。シャルロットの手に展開された腕部装甲握られたアサルトカノン『ガルム』がこちらを捉えている。さすが『高速切替(ラピット・スイッチ)』、いつの間に抜いたんだ。

 

「あれ? 外れちゃった。やっぱり演習用ゴム弾は弾が軽すぎるのかな」

 

「あ、当てるつもりだったんですか?」

 

「・・・・・・」

 

「いや、答えてくれ。イエスかノー、もしくはハイかイイエでもいい」

 

「・・・ハエス」

 

『ガルム』の銃口の下から照射される赤いレーザーポインタが俺の眉間を捉えていた。なるほど、シャルロットは俺を殺すらしい。容赦なく、シャルロットの引き金に掛けられた指に力が込められたが、

 

「そこまでだ、シャルロット」

 

声と共に俺の横から黒鋼の手甲が伸びた。右手の腕部装甲を展開したラウラがAICを発動したのか、ギッと鈍い音が鳴るだけで『ガルム』から銃弾が発射される事はなかった。

 

「人の嫁を勝手に殺されてはたまらないのでな」

 

睨み合うフランスとドイツの代表候補生。おいおい、仲良くしろよルームメイト同士。そして俺を巻き込まないでくれよ頼むから。

 

「邪魔しないでよ、ラウラ」

 

「嫉妬とは見苦しいぞ」

 

「なっ! そ、そんなんじゃ・・・第一、先にラウラがこんな事をしなければ――」

 

「それに夫婦ならば裸で寝ていても問題あるまい」

 

「問題あるよ! 大体、夫婦夫婦って言っているのがおかしいんだよ!零司だって困っているんだから!」

 

「・・・そうなのですか?」

 

ラウラの視線がこちらに向き、それに少し遅れてシャルロットも俺の事を見る。あれ、いつの間にこんな重大な選択を迫られているんだ、俺は。

 

「困っているよね、零司!!」

 

「レイジ、答えてください」

 

ズズイッとこちらに迫ってくる二人に俺は何も言えずにいた。まあ、シャルロットの言う様に夫婦と言ってこんな事をされる事に関しては困っているのは困っている。だが単にそれだけではラウラが傷付いてしまうだろう。ど、どうしたらいい。どうしたらいいんだ、俺。

 

「零司!」   

 

「レイジ!」

 

畜生、なんで二人の美少女に顔がくっつきそうなくらいに迫られるなんていう、男なら踊り出すくらいに喜ぶ展開になっているはずなのに俺は喜びどころか焦りと不安しか感じられないんだ!

 

「誰か助けてくれ~!!」

 

「助けに来てやったぞ」

 

救助を求める声に応じて突如、扉の方向から聞こえたハスキーな声。それを聞いて振り向く二人の間からそちらを見るとそこには黒いサマースーツに身を包んだ担任教師、おそらく今俺に迫っている二人にとって、この場に一番に合わせて欲しくなかった人物が立っていた。

 

「千冬さん!」     「織斑先生・・・・」  「織斑教官・・・・・」

 

「銃声を聞いて来てみれば・・・朝っぱらから何をやっているんだ、お前らは」

 

俺の希望に満ち溢れた顔と引き攣った二人の顔で迎えられながら部屋に入って来た千冬さんはため息を吐くと共に目元を押さえていた。この後、俺とラウラとシャルロットの三人は約三十分以上にわたる説教をくらい、早朝のドタバタ騒ぎは終了した。

 

 

 

 

時間が過ぎて、学生寮の食堂に場所は移動していた。千冬さんの介入によって強制終了させられた朝の騒ぎ、その後に行われた説教から解放された俺は少し遅めの朝食を取っていた。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・ズズッ」

 

左右にシャルロットとラウラを置いて、俺は朝消費したエネルギーを補給する様に珍しく頼んだ和定食の焼き鮭の身を摘んでは口に運ぶという作業をしていた。騒ぎは終了したが、シャルロットの機嫌は座りの悪いままの様で、さっきから黙って目の前に置かれたサラダを黙々と食している。

 

そんな中でトラブルの元凶となっていたラウラは何事もなかった顔をしてコーンスープを啜っている。なんで君はそんなに冷静なのか・・・

 

「・・・どうかしましたか、レイジ」

 

「いんや、なんでもないよ・・・」

 

きゅうりの浅漬けを口に放り込み、再びラウラの横顔を盗み見る。朝の件はともかくとして・・・変われば変わるものだ。あそこまで固くなに周りを拒んでいたラウラがここまで態度を柔らかくするとは思わなんだ。最初はすぐにドイツ本国に帰るのではじゃないか、なんて考えていたが今となっては杞憂だったんだな。

 

まあ、だからって裸で人のベッドに潜り込むのは今後控えて欲しい事には変わりないが・・・

 

「先程からどうしたんですか・・・ああ、そういえばレイジは毎朝パン食でしたね」

 

俺の視線に再び気付いたラウラは何か一人で納得したかと思うと、持っていたパンを千切ると自分の口に咥えるとこちらに向けて付き出した・・・・何をしている。

 

はあ(さあ)ほうお(どうぞ)

 

「・・・・・・」

 

まるで餌を与える親鳥の様な状態のラウラを俺は無言で見ていた。えっと、これは俺に口移しで食べさせてやるという意思表示なんだろうか。ラウラよ、いくら朝食を取るにしては時間が遅くて人気が少ないとはいえ、そんな事をして恥ずかしくないのか、お前は。ちなみに俺はかなり恥ずかしいぞ。

 

「・・・じゃあ頂きま――」

 

―――ギュィ!

 

「―――いででででっ!?」

 

とにかくこの現状を早く食べて終わらせようとした瞬間、左から太ももを思いっきりつねられた。

 

「な、何すんだよシャルロット」

 

「零司こそ、何しようとしていたのかな」

 

「い、いやだってだな・・・」

 

「言い訳は聞きたくないよ」

 

ジト目で睨まれ、俺は頭を掻いて押し黙る。はあ、結局こうなるのか。ただ朝食を取るだけだって言うのにどうしてこうままならんのだ。胃が痛くなってきた。

 

「もう・・・夢ではああでも、現実じゃなぁ・・・」

 

「何をぶつぶつと言っているんだ、シャルロット」

 

「なんでもないよ・・・それよりもラウラ、そんな事しちゃダメだよ。テーブルマナー違反」

 

()ほれもほうだは(それもそうだな)

 

シャルロットが叱るとラウラは驚くほど素直に言う事に従い、口にくわえていたパンを咀嚼して呑み込んだ。テーブルマナーを損ねると叱るシャルロットとそれに従うラウラの姿はまるで仲の良い姉妹の様に見えなくもない。

 

(シャルロットは結構色々と気に掛けるタイプだからな。世間知らずのラウラには色々と世話を焼いているんだな)

 

困った妹と世話焼きの姉の姉妹。そんな感想を抱かせる原因となったのは、やはりシャルロットにあるのだろう。シャルロット・デュノアとして学園に入って来たあの日から、シャルロットはすっかり女の子として活動していた。今まで男子を装っていた為にあった喧騒は消えて、普通の女子としてクラスにも馴染んでいる。服装だって、今ではすっかり女子ものだ。

 

(シャルロットの女子制服姿、最初は違和感を覚えたくらいだったからな)

 

「・・・どうしたのさ、ニヤニヤしちゃって」

 

先ほどの不機嫌さが抜けていないのか、ムッとした表情を浮かべたままで俺に尋ねるシャルロット。そんな彼女を見て、俺はため息を吐いた。

 

「いや、やっぱりシャルロットも女の子なんだし、そっち(女子の格好)の方が似合うなって思っただけだよ」

 

「えっ、あ・・・・そ、そうかな」

 

「ああ、女子の服装の方が可愛いしな。俺はそっちの方が好きだ」

 

そう告げると一瞬で表情が変わり、頬をほんのりと染めて嬉しいのと恥ずかしいとの間みたいな顔をしていた。うーん、男物も似合っていたがやはり女子はちゃんと女子らしい可愛い服を着ていた方が良いな。

 

「レイジ、あなたは私の嫁です。私の事も褒めるべきではないかと」

 

「いきなり褒めろと言われても、どう褒めればいいかわからんだろうに・・・まったく」

 

仕方なく、ラウラの頭を軽く撫でる。どう褒めていいのか分からずに行動で示してやると、やはり言葉で言って欲しいのか眉を顰めた。

 

「ラウラ、あんまり無茶ばかり言っちゃダメだよ・・・可愛いか・・・えへへ」

 

さっきとは打って変わって上機嫌なシャルロットはラウラをたしなめる。すると今度はラウラがちょっと不服そうな顔をしている。片方の機嫌がよくなると片方が機嫌悪くなる。結構仲が良い二人なのに、どうしてこういうところは違うのだろうか。俺にはよく分かりません。

 

「先に終わりましたので、片付けて来ます。レイジのも一緒に片付けますか?」

 

「あ、ああ・・・じゃあ俺のも頼む」

 

そう言うとラウラはお盆を持って、席を立った。まあ、ちょっと不貞腐れた感じのラウラってのも懐かしくて好きなんだけどね。こうやって嫌な事ではない昔の事を思い出せるって言うのも嬉しい事だし。

 

「そういえばラウラ、零司の事を名前で呼ぶようになったんだ」

 

そんな事を思いながらラウラの後ろ姿を眺めているとふとシャルロットにそんな事を言われた。

 

「ああ、学園内で『少佐』なんて呼ばれ方したら皆に何かって思われるからな。今後は呼び方変えろって言ったら、じゃあ『レイジ』でいいかってな」

 

それはあの学年別トーナメントが終わって数日後、クラスで『少佐』と呼ばれた為に裏庭に呼びだしてから決めた。俺の事を名前で呼ぶ事が今まで無かった為に顔を赤らめて、恥ずかしがりながら言う姿がやけに可愛らしいもので驚いたのを覚えている。

 

「そうだね。もうすぐ臨海学校なんだし、その呼び方は困るだろうしね」

 

「臨海学校?・・・ああ、あの校外実習か」

 

苦笑を浮かべながら言うシャルロットの言葉を訊いて、俺は頷いた。ああ、そう言えばもうする臨海学校だったっけか。そういえば一昨日のSHRの時に三日間に及ぶ校外特別実習があるとか言っていたな。

 

「確か海辺の旅館に泊まるらしいな」

 

「海かぁ・・・楽しみだなぁ」

 

シャルロットが目を輝かせている。クラスの女子達もそうだったが、どうして『海』という単語は女子の心を躍らせるのだろう。俺にはさっぱり分からない。

 

「水着も新調しなくちゃ」

 

「水着ねぇ・・・あ」

 

シャルロットの言葉を訊いて、俺はハッとなって声を上げた。マズイな・・・水着なんて持ってないぞ、俺。

 

「どうしたの?」

 

「いや、俺そう言えば水着を持ってないなって」

 

「そうなんだ・・・自宅から送ってもらえないの?」

 

「実は自宅にもないんだよ」

 

俺の自宅とは詰まるところ奏の家の事を指すのだが、そこにも俺は一着たりとも水着を持ってはいない。その理由は至極簡単な事だ。

 

身体の弱い奏にそれに付きっきりだった俺。

 

身体を動かす事をあまり良しとされない身体を持つ奏と共に居た為、必然的に自宅から遊泳目的に海に行く必要性がないのだ。

 

「あー、どうするかな・・・さすがに下着で行くわけにもいかんだろうし」

 

「・・・・ね、ねえ零司、提案があるんだけど」

 

そう言うシャルロットはチラチラとこちらを何度か見た後、こちらに腰を動かして向き直り、緊張でもしているのか身体を強張らせながら口を開いた。

 

「ん? なんだ?」

 

「も、もし・・・もしよかったらなんだけど・・・今日これから一緒に水着を買いに行かない?」

 

それは思ってもない提案だった。どうせ水着は買いに行かなければならないだろうし、だったら友人であるシャルロットと一緒に行った方が良いに決まっている。自分だけで選ぶよりも良いものが見つかるかもしれない。

 

「そりゃありがたい。予定もなかったし、シャルロットが一緒に行ってくれるなら万々歳だ」

 

「ほ、本当!? よかった・・・」

 

緊張から解放されたのか、シャルロットはホッと胸を撫で下ろす。そんな彼女に俺は小さく吹き出してしまった。

 

「そんなに緊張する事か?」

 

「べ、別にいいじゃない・・・女の子の方から誘うっていうのは緊張するものなの!」

 

「そんなもんかね」

 

「何の話ですか、随分と楽しそうですが」

 

膨れ面のシャルロットを相手していたら、ラウラが返って来た。そうだ、どうせならラウラも誘うとしよう。どうせこいつの事だ、自分の水着もロクに選んでないでスクール水着で臨海学校に行くつもりなんだろう。それはそれで見ていみたい気もするが、せっかくの花の十代、水着でもしっかりした物を選んだほうが良いだろう。

 

「それなんだが、ラウラも一緒に―――」

 

シュバッ!

 

「――――ガクッ」

 

「レ、レイジ? どうしたのですか?」

 

机の上に突然倒れ込んだ俺をラウラがキョトンとした顔で見ている。だが俺は何も反応しない・・・いや反応する事ができないでいた。

 

(な、なんだ!? 腹部に痛みが走ったと思ったら・・・)

 

どういうわけか身体が動かない。まるで全身の筋肉が麻痺しているようだ。理解不能の出来事に焦りながらも、どうにか動く眼を使ってシャルロットに救難信号を送ろうとした。

 

その時、俺は見てしまった。シャルロットの左腕、立っているラウラから見えない丁度俺の影になっている場所。そこで粒子分解されていく橙色の腕部装甲と何やらバチバチと小さく電流を覗かせていたスタンガンらしき物を持った笑顔のシャルロットを・・・

 

(シャ、シャルロット!? お前何を―――!?)

 

「あ、あれぇ? 大丈夫、零司!」

 

(何が大丈夫だ! 誰の所為でこんな―――!)

 

「急に気絶するなんて、これは保健室に連れて行かなきゃね!」

 

「シャルロット、私も手伝おう」

 

「あまり大勢で押し掛けるのも悪いよ! ここは僕に任せて!」

 

(ラウラ、ラウラ! 助けてくれ! なんで気絶させられたのかがわからないから今後される事も予想できないんだ! 怖いから助けてくれ~!)

 

必死に眼でサインを送る。すると俺の視線に気付いたのか、ラウラと目線があった。

 

「シャルロット、レイジが何か伝えようと―――」

 

「さあ、行くよ零司! すぐに保健室に連れて行ってあげるからね!」

 

ラウラは俺の意志に気付き、声をかけようとした。だがそれよりも早く、シャルロットは俺の肩辺りを脇にがっしりと抱えると全速力で走り出した。

 

(シャルロット、お前は何を企んでいるんだ! 一体何をするつもりなんだ! あと下乳が顔面に当たっているんだが恥じらいはないのか! それでも花の十代か!)

 

心の中で叫びながらシャルロットの胸によって隠された暗い視界に軽い恐怖を覚えながらも、引き摺られながら食堂を後にするのだった。

 

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