IS もう一つの翼   作:緋星

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EP30 魔窟の様に口を開く

Side 織斑一夏 篠ノ之箒 セシリア・オルコット 凰鈴音

 

「うおおおおおおお!」

 

東に少しずつ太陽が傾き始めた頃。第三アリーナに少年の叫び声が響く。織斑一夏だ。自身の専用機である『白式』。彼は白の鎧を身に纏い、背に搭載されたデュアルウィングタイプのスラスターを吹かせ、前方に居る目標へと突進する。

 

「ふっ!」

 

それに対して目標・・・量産型IS『打鉄』を装着した篠ノ之箒は正面から縦一閃に振り下ろされる『雪片弐型』を近接ブレードに掠める様にして逸らして受け流し、一夏の攻撃をやり過ごす。そして素早く反転し、一夏へと向かって駆ける。

 

「くっそ!」

 

受け流された一夏はデュアルウィングの左側だけスラスターを切り、ターンによる素早く方向転換をすると箒のブレードを『雪片弐型』で受け止める。実力はほぼ互角といったところか、見事に試合は拮抗していた。

 

それを見詰める三つの人物。

 

「数か月前よりはマシになってきましたわね」

 

「ま、そりゃあね。でも機体スペック差を考えるとまだまだってところかしら」

 

一人はセシリア・オルコット、ISスーツを着込んだ彼女は胸の前に腕を組んだまま、真剣な顔持ちでそう言った。もう一人は凰鈴音、腰に手を当てて小さなため息を吐いていた。二人共、一夏の成長を感じながらも、未だに量産機との戦いに時間をかける一夏に手を拱いている様だった。

 

そして、それと同時に二人の後ろに立つ人物に気を張っていた。

 

「・・・・何か?」

 

二人の視線に気付いたのか、笑顔で首をかしげるのは戦闘を見詰める三人目の黒いサマースーツを着た女性だった。フローメル・サイエンステクノロジーのアリッシア・ロシュフォードと名乗った女性は手にアクリル製のケースを片手に第三アリーナ、ピット内へと足を運んでいた。

 

「いえ・・・」

 

「・・・別に」

 

尋ねるアリッシアに対して、二人はそっけなく返事を返して目線を一夏と箒に戻しながらひそかにプライベートチャンネルを開いた。

 

『何なのでしょうか・・・あの女性は』

 

『一夏が言うには今度自分の所属する企業がIS開発にかかわる事になったから、その参考として来てるって話よ』

 

『参考ですか・・・』

 

セシリアは再び後ろのアリッシアを一瞥する。参考という割には、ただ見ているだけの様にも窺える。どちらにしろ、決して何も企んで居ないという確証はない。

 

『フローメル・サイエンステクノロジー・・・鈴さん、聞いた事はありまして』

 

『実在はするみたいよ。フローメル・サイエンステクノロジー、西アジア地方に拠点を持っている・・・元総合軍事企業みたい』

 

『総合軍事企業?』

 

えらく物騒な言葉が出た為に、セシリアは頭の中で聞き返す。そんな彼女の隣で鈴は後ろのアリッシアに気付かれない程度に小さく肩をすくめる。

 

『あくまで元、よ。改名前はフローメル・テクノロジー。第二次世界大戦終了直後くらいから企業が立ちあがって、それなりに儲かっていたみたいね・・・で、9.11テロの辺りでピークになって、そこから数年間はイラクだけじゃなくて、近くの紛争の方にも結構武器を流していたらしいわ。だけどIS出現と共に買い手が激減したみたい。『アラスカ条約』が締結されてから頑張ろうとしたみたいだけど、当時社長だった人物が急死。彼の一人息子が受け継いで、今は真っ当に化学医療薬品なんかを取り扱っているわ。規模自体はそこそこ大きいんだけど、代表的な開発や活動を起こしていないから、イマイチパッとしない企業体ではあるわね』

 

『そうですか・・・それにしても何処からそんな情報を?』

 

『中国にいろんな企業と取引している知り合いが居て、そいつに聞いた。たった今』

 

『妙な知り合いですわね・・・』

 

鈴からの情報を聞き終えて、セシリアは考える。確かに話だけ聞けば、危険性や警戒するべきところは少ない企業ではある。だが、それと同時にやはり疑問点がいくつか浮かんできた。

 

『・・・・そんな企業が何故IS開発を?』

 

『ただの化学薬品とか売っている企業がいきなりISなんてね・・・ハードル上げ過ぎ、もはや棒高跳びの域ね』

 

『西アジア地方はイスラエルがアメリカに技術提供をしているくらいで、確立したIS開発手段が無いと言われていますけど・・・』

 

『西アジアに孤立したIS技術が欲しくなった? それにしては話が突飛過ぎるわ、畑違いもいいところよ』

 

『ええ、それに少なくとも他の企業の耳に流れてもいいくらいなのですけど』

 

二人の代表候補生は眉を顰める。各IS開発に関している企業間に置いて、『技術の提示』はあれど、明白な規則としての『開発の提示』はない。だが、そういう条約を情報というのは様々な方法で流れて来る物だ。しかも、それがISの情報だとすればその重要性は高く、ライバル企業からすれば確実に目に留めておきたい情報だ。

 

『それにさっきも言ったけど、この企業やたらと動かないのよね』

 

『動かない?』

 

『少なくともここ一、二年間は新商品も無し。ただ今までの商品を量産して売っているだけ。しかも売れ行きも芳しくないみたい。良く潰れないなって逆に感心するくらい。まるで今の状態を保つ為だけに売っているみたいな』

 

『相続も危うい、そんな企業がIS開発ですか』

 

『一発逆転・・・って事かな?』

 

『どうなのでしょうか・・・あら?』

 

『ん?』

 

怪しい、不自然だ。そう考えるうちに少しばかり時間が過ぎたのだろう。セシリアと鈴の耳にドンッという爆発音が聞こえ、視界には黒煙に包まれて墜落した一機のISが見えた。その機体は―――

 

「・・・び、びっくりした・・・」

 

シールドエネルギーがゼロとなった一夏の『白式』だった。撃墜された本人である一夏は目を見開き、表情が若干固まっていた。そんな彼の前に箒が降り立つ。その右手には近接ブレードが握られていたが、左手には拳全体を覆う様な丸い甲羅の様なナックルガードが装着されていた。

 

「修行が足らんな、一夏」

 

「いや、今回は本当に一本取られたよ・・・まさかあんな物を使ってくるなんて」

 

「一体、何がありましたの?」

 

「明らかにブレードの攻撃音じゃない音が聞こえたんだけど・・・」

 

相談をしていた為か、一夏の撃墜される決定的な瞬間を見逃したセシリアと鈴の二人は事の顛末を聞こうと一夏と箒に歩み寄る。すると―――

 

「・・・『トカゲの尻尾(リザード・テイル)』、トリガー起動型のチェーンマインですね」

 

セシリア達の後ろから声がかかる。声の主は二人の背後のいる人物、つまりアレッシアだった。『リザード・テイル』、アメリカの元兵器開発企業だったリーベル社が開発した近接強襲用高火力兵器のチェーンマインの名称である。形としては十個のマインを起爆線で繋げ、ナックルガード内部に設置された拳銃の様なトリガーを引く事によって起爆し、大ダメージを与える武器だ。一回のみの使い切りの上に運用が難しく、高速戦闘ではまず当てられたものではない為に産廃武器とまで言われている。

 

「・・・あんなタイミングで命中させるとは、さすがですね」

 

「あ、ありがとうございます・・・」

 

予想外の人物に褒められた為に箒は少し虚を突かれた顔をして、礼を言った。そんな中でセシリアと鈴は驚いた表情をしながら、口を開く。

 

「しっかし、そんなもん良く当てたわね・・・『リザード・テイル』って、空戦での実用性があまりないって話の武器でしょ?」

 

「ええ、ほとんど起動前の強襲程度にしか使えない代物として使用者はそういないと聞きましたけど・・・」

 

「剣戟の合間、すれ違いの間に無理やりぶつけただけだ」

 

「いや、本当に意表を突かれた。箒の事だから刀一本で来るとばかり思っていたから・・・」

 

「刀だけではなく、様々な武器を使った方が戦略も広がると言われていてな」

 

「言われたって・・・誰に」

 

「青嶋だ」

 

「青嶋さんが?」

 

箒の口から出た名前があまりにも意外だった為か、セシリアが聞き返した。箒と青嶋が会話している絵が思いつかないのだろう。

 

「彼女とは同室だからな。聞けばこのIS学園には操縦者の腕を見込まれて入学した特待生だと言うじゃないか。いい機会だと思って、ISに関して色々と指導を受けているんだ」

 

その事を耳にして、箒と青嶋というのは何とも意外な組み合わせだなと三人は思った。そんな時、苦笑を浮かべたアリッシアがセシリアと鈴に言った。

 

「・・・オルコットさんと凰さんは、先ほどの戦いを見ていなかったのですか?」

 

その言葉に二人はギクッと肩を揺らす。確かに途中までしか見ていなかった。そしてまさかアリッシアの情報の裏を取ろうとしていたなどと、本人の前で話すわけにもいくまい。

 

「え、ええ! 素晴らしい手際でしたわね、箒さん!」

 

「や、やるじゃない! さすが私と同じ幼馴染ね! と、というか一夏、あんたも頑張りなさいよ!」

 

何をしていたのかを悟られまいと焦りながらも話を合わせる様にセシリアと鈴は話を合わせた。そんな二人を見て、キョトンとする一夏と箒。だがそんな事は気にせずに、彼女達は早口に続ける。

 

「さ、さてと・・・ウォーミングアップはここら辺にして、予定通りにタッグ戦の演習と行きましょうか」

 

「よし、じゃあ一夏。私と組もう」

 

「あ、ちょっと鈴さん! どさくさにまぎれて何を勝手に決めているのですか! ここは私が―――」

 

「先程の手合わせで、いくらかお前の欠点が見えてきた。今ならそこを的確に補ってやれるぞ? どうだ、一夏」

 

「さ、三人とも一斉に言うなよ・・・」

 

ギャアギャアといつもの訓練風景に戻っていく四人。そこにあるのはいつもと変わらない光景だった。一つ・・・そう、背後で鋭く目を光らせる一つの異物を除いては・・・

 

Side off

 

 

 

「ちょっと買い過ぎちゃったかな・・・ごめんね、零司。こんなに大荷物持たせちゃって」

 

「確かにちょっと多いな・・・でもこの程度ならまだ苦にならないさ」

 

すまなそうに言うシャルロットに対して、笑顔でそう応じる。ちなみに俺の荷物、右腕には夏服と化粧品、それに先ほどの水着の入った紙袋が四個。そして左腕には夏服その二と臨海学校の為に使うサンオイルやらが入った紙袋が二個ついでに俺の紙袋一個。計、七個の紙袋を腕にぶら下げている。

 

只今の時刻は午後二時。水着売り場を出てから、すでに二時間が過ぎようとしていた。あの後、俺達は空腹を抱えながら、地下のバイキングレストランで昼食を取り、また新たに買い物を再会した。その為、臨海学校の支度だけでなく、様々な夏物商品に手を出す事になり、やたらと荷物が増える結果となった

 

「・・・やはり私が少し持ちましょう、レイジ」

 

「いいって、それにこんな人目の多い所でラウラに荷物を持たせたら、男として立つ瀬が無い」

 

「そういうもの・・・なのですか?」

 

「そういうものなの」

 

他愛もない話を交わしながら、駅ビルの内を歩き回りながら、俺は頭の隅っこの方で千冬さんとの話の内容を思い起こしていた。

 

襲撃者、そしてそれらが属しているであろう謎の組織。千冬さんの言う通り、情報が少な過ぎて、顔を見ても特定することすらままならない。それにあれだけ強力なISを保有しているにも関わらず、集団での襲撃をしてこないところも、不気味さを感じ取らせる。

 

それに学園の厳戒態勢といっても、それも何処まで通用するのか疑問である。教員の皆さんには悪いが元軍属だったとはいえ、現場離れて一年以上も経つ俺に確認されてしまう様な状況では・・・ましてやそっち方面に特化している奴が敵に居たとしたら、十分な警備とはいえない。しかし、そんな状況であろうと学園側は自分達であの場所を護るしかないのだ。

 

「・・・俺も協力した方がいいのだろうか・・・」

 

「零司、さっきからどうしたの? 何か考え事?」

 

「大丈夫ですか? レイジ」

 

おそらく気難しい顔をしていたのだろう。気が付くとシャルロットとラウラが隣から俺の顔を覗き込みながら聞いてきた。

 

・・・シャルロットは頭のいい娘だし、ラウラも軍属の人間・・・おそらく今の話をすれば結構いい意見が返ってくるのかもしれない。しかしここで例の襲撃者の話なんて出したら、せっかくのこの楽しげな雰囲気が台無しになってしまう。

 

「いや、何でもないよ。ただこれ以上何か買う物があったかなって思い出していただけだ・・・ほら、行こうぜ」

 

笑顔を浮かべながら、二人に受け答えると歩を進める。そうだ、今この状況で二回目の襲撃や事の重要性の事を知っているのは俺だけなんだ。変に説明して、不安がらせるのも問題だ。彼女達には知るべき時に知ればいい。だから今は―――

 

 

 

 

 

『いや、そういうわけにもいかないようだ』

 

 

 

 

 

「・・・・なっ!?」

 

いきなり脳内に響く声。驚きのあまり声を上げてしまった。いや、むしろIS操縦者ならばこの現象を驚かずにはいられないだろう。今、俺の頭の中に聞こえてきた声、それはプライベートチャンネルを通じて送られてきているものだった

 

『・・・誰だ!』

 

『そんな事はどうでもいい。私が誰であるかなど、どうでもいいことだ』

 

その声はまるでテレビに出て来る事件の容疑者の様な、妙に甲高く男か女かわからない、変声機に通した後の機械音に似た声だった。

 

『すぐにIS学園へと戻れ、さもなければあの場所から四人の専用機持ちが居なくなる事になるぞ』

 

四人の専用機持ち・・・その言葉に背筋が寒くなるのと同時に怒りで熱が籠る。この人物が誰の事を言っているかは明白にわからないが、俺に警告するところを見るに一夏達の事を指しているのだろう。まさか、こんなタイミングで・・・

 

『お前の目的はなんだ! 一体何故俺に通信を―――!』

 

『こんなところで油を売っている場合ではない・・・三年前の亡霊(・・・・・・)が君の事を呼んでいるぞ』

 

『・・・ッ!?』

 

三年前の亡霊。その言葉を聞いて、息を飲む。頭の中が困惑するのと同時に全身の熱が引いて行くのがわかった。三年前、自分がどのような立場になっていたのか、どんな事をしていたのか。何よりも、どんな戦場に立っていたのか。俺は良く覚えている。そしてその状況が・・・その状況に似た何かがあの学園へと進行してきている。それは紛れもなく―――

 

―――俺が想像した、最もあり得てはいけない出来事。

 

『急げよ、あの学園を戦場にしたくないのなら・・・な』

 

『・・・待て、あんたは誰なんだ! どうして俺のプライベートチャンネルと繋げられる! 俺の三年前の出来事を知っているのか! 答えろ!』

 

『・・・・君のファンの一人だよ』

 

俺の言葉に短く答えると、相手は有無を言わさずチャンネルを閉じた。動悸が大きくなる。いきなりの通信、悪戯にしては芸が細か過ぎる。ましてや、プライベートチャンネルはそのコードを知る人間にしかかけられない。そしてこの通信が事実だとすれば・・・

 

「ど、どうしたの? いきなり大きな声上げるからびっくりしたよ」

 

「・・・レイジ?」

 

「すまん、ちょっと待ってくれ」

 

驚いた顔でこちらを見るシャルロットと眉を顰めるラウラ。そんな二人を一瞥して静止するように言うと、即座に千冬さんのプライベートチャンネルへと通信を繋げる。

 

『なんだ?』

 

『千冬さんか!? 今すぐIS学園に戻ってくれ! 一夏達が危ない!』

 

『どういう事だ、ちゃんと説明を―――』

 

『説明している時間が無い! ともかく、すぐに戻ってくれ! 俺もここから一夏達のところへ急ぐ!』

 

いきなり言われた事に対して明確な答えを求める千冬さんだったが、それを説明する時間も惜しい俺の異常なまでの焦りを感じ取ったのか、少しの間思案した後に了承した。

 

『・・・わかった、すぐにIS学園に戻る。私達はここから飛ぶがお前達はモノレールを使え。騒ぎに乗じてそちらから来る可能性もある。何か発見したらこちらに繋げ』

 

『了解!』

 

短く答えると通信を切り、瞳を閉じると頭の中でスイッチが切り替わる。落ち着け、ともかく今は焦っても仕方ない。千冬さんの命令に従って、最適な行動を最小限の動きでこなすしかない。

 

「シャルロット、ラウラ・・・今からIS学園に戻るぞ」

 

俺の言葉を聞いて、表情から緊急事態が発生したのだろという事を察したのだろうシャルロットとラウラは神妙な面持ちで頷くのを確認すると、俺は嫌に高鳴る動悸を抑えつけながら、二人を連れて俺はモノレールの停車場へと駆け出した。

 

 

 

 

Side 織斑一夏 篠ノ之箒 セシリア・オルコット 凰 鈴音

 

「ああ、もうそろそろ良いですよ、皆さん」

 

二対二のタッグ演習が開始されてから、約一時間半の時間が流れた。日はゆっくりと西へと傾き始めてはいるが、さすがは初夏という事もあってか、ギラギラと陽光を照らし続けている。そんな中、ピット内で飛び回る四人の耳に地上からの・・・アリッシアの声が響いた。

 

「もう良いって・・・どういう事ですか?」

 

訓練の手を止めて、一夏がアリッシアに聞き返す。無論、いきなり動きを中断したのは一夏だけではなく、他の三人も訝しげな表情で彼女を見ていた。そんな四人に対して、アリッシアは再び口を開く。

 

「いえ、そのままの意味です。これ以上のデータ収集は無意味ですので、そろそろ戦闘を終了してもらおうと、ね」

 

「・・・それはどういう意味ですの?」

 

データ収集は無意味。そのセリフが何処か嘲笑的で癪に障ったのか、セシリアは若干の怒気を孕んだ声色で問いかける。するとアリッシアは笑顔を浮かべたままで、肩を竦めた。

 

「文字通りの意味ですよ。これ以上、この程度の訓練で収拾できるデータなどたかが知れています。正直、ここまで低レベルだとは思ってもいませんでしたので・・・」

 

いきなりの喧嘩腰のセリフに一同は一瞬、呆気に取られるがすぐに顔をしかめる。一夏や箒は自分達がそれほどの実力ではない事を自負している。一夏は機体の性能におんぶ抱っこで技術面ではまだまだ素人に毛が生えた程度、箒は技術面では一夏よりも多少上に行っているものの、量産機というハンデを背負うだけで勝率は五部以下となっていしまっている。自分達はまだまだ弱い、その思考が強いのだ。だが、いきなり面と向かって数時間前に会ったばかりの人物からそんな攻撃的なセリフを言われれば、多少なりとも腹が立つ。

 

そしてそれはセシリアと鈴も同じ・・・いや、その感情は一夏や箒以上だった。彼女達は各国の次期代表選手として、選ばれた人材。いずれは国の威厳を背負って、戦う事を期待された者だ。それにはまだまだ自分達は鍛えなければならないところがあるだろう、今すぐに代表になれなどとは無理な話だ。故に次へと進もうとする向上心も強ければ、その立場に対するプライドも高い。簡単な言葉一つでも、怒りは彼女達の中で小さな火種から徐々に大炎へと膨れ上がっていく。

 

「この程度とは・・・言ってくれますわね」

 

「ロクに戦闘データも揃っていない、そんな弱小企業の職員に何がわかるとも思えないけど」

 

セシリアと鈴は内心に宿る怒気を隠す事無く、アリッシアにぶつける。呆れた様にアリッシアはため息交じりに言葉を口にする。

 

「『白式』、『ブルー・ティアーズ』、『甲龍』・・・未だ全世界でも十機にも満たない第三世代が揃いもそろって、この程度のおママゴトで満足しているのに対して、『この程度』と言わずに何と言うのでしょうか?」

 

先ほどの雰囲気とは打って変わって、辛辣な言葉を発するアリッシアは手に持ったアクリルケースを邪魔だと言わんばかりに、ピットの端の方へと投げ捨てる。

 

「まあ、正直私としてはその方が効率的に良いのですけどね」

 

「効率?」

 

「あら、まだ理解していなかったのですか?」

 

聞き返す一夏にクスリと美しい笑みを浮かべる。だが一夏はそんな笑みを見て、背筋が凍るのを感じる。手が震え、冷や汗が全身から湧き出る。アリッシアの笑顔、それ美しいと感じる前に彼は真っ先に直感していた、一つの感情・・・それは―――

 

 

 

 

「・・・本当に愚かしいな、貴様等は」

 

 

 

 

――――恐怖。

 

 

 

「・・・ッ! セシリア、鈴!」

 

震える身体に鞭を打ち、声を捻り出すと一夏はスラスターの出力を上げ、『瞬間加速』を行いセシリアと鈴を突き飛ばした。傍から見た箒に取って、そして何よりも突き飛ばされた本人であるセシリアと鈴に取って、それは理解不能の行動だったのだろう。だが次の瞬間、三人は悟った。どうして一夏が二人を突き飛ばしたのかを・・・

 

「・・ガッ!?」

 

おそらく、一夏へと何かを言おうとしたセシリア達の口から言葉が漏れるのと、それとはほぼ同時だった。彼女達の視界から一夏は弾き飛ばされ、その代わりに紫色の粒子が横切る。そして鳴り響く、警戒音(アラート)。反応は自分達よりも上空、すぐに視線をそちらへと向けた。

 

「な・・・なんだ、あれは・・・」

 

言葉を零したのは箒だったが、おそらくこの場に居る者がそれ(・・)を見て、同じ様に思っていたのだろう。

 

上空にあったのは、『白式』を装備した一夏と・・・一機の大型IS。

 

全身を覆う、鋭利なフルスキン装甲。両肩に装着された四枚の大型のブレード・ウィング、腰にマウントされた二丁の銃器、そして背部ユニットから直結して伸びた尻尾の様なテール・スタビライザ。確かにそれはISだった。だが、彼女達はそれをただのISとは認識し難かった。

 

形は人型を保っているものの、まるで甲虫の甲殻の様な光沢を持つ装甲と自由に振り回されるテール、そして脈動するかのように動くウィング。まるで一匹の生物の様だった。一言で言えば・・・異形。この様なISが存在するのを疑ってしまう様な、そんな柴色の怪物だった。

 

「ほう、反応したか・・・案外、ただの獄潰しでも無さそうだ。さすがは『ブリュンヒルデ』の弟であると褒めておこう」

 

装甲で表情は見えないものの、鋭く透き通った爪の付いた腕部装甲を展開した左手で一夏の首を締め上げながら、感心した様な声色を発する異形のIS。一同はその声を聞き、今更ながら確認する。このISのパイロットが、アリッシア・ロシュフォードである事に。

 

「しかし反応しただけではな、身を護る術を持ち合わせていなければただの無駄死にだ」

 

「う・・・っぐ!」

 

ギリギリと一夏の首が締め上げられていく。彼の耳には生命危機に対する警告音が鳴り響いているが、『雪片弐型』を持った右手は空いている方の手で押さえつけられている。

 

「・・・ッ! 一夏さん!」

 

「一夏ッ!」

 

呆気に取られていたセシリアと鈴は我に返るとそれぞれ、『スターライトmkⅢ』と『龍砲』を展開、コンマ五秒という極めて素早い行動の後に発射した。

 

「・・・ふん」

 

だがその行動をアリッシアは鼻で笑うとテール・スタビライザを挟むようにして搭載されたスラスターを点火、発射されたレーザーと圧縮砲弾を『白式』を楯にする要領でそのまま三機のISへと突っ込み、セシリアと鈴の間に入る。

 

「なっ・・・くっ!?」

 

「えっ・・・うあっ!?」

 

そしてそのまま両肩に搭載された大型ブレード・ウィングを側面に展開し、全身を回転させる事によって斬り付ける。落下の衝撃で砂埃を巻き上げながら地上のピットの壁まで弾き飛ばされる二人。そこにアリッシアの動きが止まったところを見計らって、箒は接近するが・・・

 

「返すぞ、貴様の男だろう」

 

それに合わせるようにして、投げ飛ばされた一夏に箒は正面から衝突。それを受け止めた箒が次に見た者は腰から二丁のハンドライフルを抜き取り、こちらに向けるアリッシアの姿だった。

 

「これは選別だ、くれてやる」

 

その言葉の次に撃ち出された弾丸を箒は回避しようと試みたが、一夏を庇いながらな為にやたらと早い弾丸を回避しきれずに両足に二発ずつ、右腕に一発、両肩の装甲に三発ずつ命中していた。そしてその命中した弾丸によって、箒の顔が苦痛で歪む。

 

「これは・・・!?」

 

命中していた物、それは20cm以上の長さを持つ巨大な《ニードル》だった。その針は『打鉄』の装甲を見事に貫通し、切っ先は箒の腕と足に傷を付け、出血させていた。箒は痛みを感じながらもピットの端まで退避し、体勢を立て直そうとアリッシアに向き直る。だがその瞬間、針がバチッと小さな音を立てると・・・

 

―――ドゴンッ!

 

「ぐっ・・・ああ!」

 

「ほ、箒!?」

 

箒の悲鳴が上がる。装甲を貫通した針が爆発を起こしたのだ。両足と右腕に激痛を受け、両肩の装甲板が爆発によって大破する。不意打ちのダメージによって立ち続ける事もままならなくなった箒を解放された一夏が支える。さらに追い打ちを、そう考えたのだろう。そんな一夏と箒に向けてアリッシアは再びライフルを向ける。

 

「させるかああああ!!」

 

しかしそれが撃ち出されるよりも早く、復帰した鈴がアリッシアに向けて接近。展開した『双天牙月』を振りかぶる。それを見たアリッシアは即座に手に持ったライフルをしまうとブレード・ウィングを手に取り、迎え撃つ。

 

「こんのおおお!」

 

気合いの咆哮を上げながら、振り回される『双天牙月』はアリッシアによって軽々と捌かれて行く。狙えるところは全部狙っている。的確に攻撃を行っているはずだった。しかし、一向に鈴の刃は通らずに、いなされ、弾かれて行く。

 

そして振り下ろしの一撃を真正面から受け止められ、ガィンッという鈍い金属音と共に力押しに上へと弾き飛ばされる。その隙を見て、アリッシアはもう一方の手でさらにブレードを掴むと肩に搭載された『龍砲』を貫き、そのまま袈裟掛けに斬り払った。

 

「がっ!」

 

回避など間に合わせない、力任せに振られる協力無比な一撃に粉砕された『甲龍』のパーツと共に鈴が宙を舞い、落ちて行く。そんな鈴の背後から無数の蒼いレーザーがアリッシア向けて放たれる。

 

「よくも!」

 

「起きるのが遅いぞ、英国人」

 

仲間をやられた怒りを吐き出すセシリアを鼻で笑いながら、アリッシアは展開されたビットからの射撃を難なく回避するとブレードを戻し、ライフルに手を掛ける。

 

「『ブルー・ティアーズ』!」

 

セシリアの呼びかけに応じる様に四機のビットが周囲に飛び交い、アリッシアを捉えようと展開すると同時に彼女もまた、『スターライトmkⅢ』のトリガーに指を掛ける。だが一向にアリッシアを捉えられず、全てが回避されて行く。

 

「まるで当たらんな、それで狙っているのか?」

 

失笑気味の言葉がアリッシアの口から零れる。彼女は両手のライフルを構え、回転をしながら、まるでダンスを踊る様に回避しながら照準を合わせて、ただトリガーを引く。それだけで全てが的確に貫かれて、針の爆発によって数秒足らずで四機のビットが粉砕された。

 

「そんな・・・」

 

あまりにも流動的に行われた、たった数秒の出来事にセシリアは驚愕を隠せずにいた。そしてそれが一瞬の隙となり、ビットを捉えていた照準を流れ作業的にセシリアへと向けると、容赦無しにトリガーを引き絞る。

 

「きゃああああ!」

 

一瞬で自分のビットが破壊された事に衝撃を受けていたのか、反応の遅れたセシリアはまるで雨の様に降り注ぐ針にさらされ、着弾によって巻き上がった砂埃が連鎖的な爆発によって晴れると、そこには破壊された『ブルー・ティアーズ』の破片の中に倒れるセシリアの姿があった。

 

「どうした、残るはお前だけだぞ?」

 

撃破したセシリアや鈴へと一瞥する事もなく、アレッシアは一夏へと向き直った。それに対して、一夏は壁に箒を預けると『雪片』を握りしめてスラスターを点火する。

 

「うおおおお!!」

 

トップスピードでアレッシアに接近し、『零落白夜』を起動する。長期戦は確実に不利になる、ならば捨て身で突貫するしかない。その一夏の考えは間違っていなかった。事実、接近武器しかない『白式』がアレッシアに接近戦を行うしかない以上、ライフルを持った相手に長期戦を行う事自体が不利なのだ。

 

「またそれか、馬鹿の一つ覚えもいいところだ・・・」

 

突貫の一夏。それに対して、避けてライフルで追撃する事も出来たであろうアレッシアは動かずにブレードを手に取った。迎え撃つ気か、ならば一発目から全力で。一夏はこの一発に全てのエネルギーを使い果たすつもりで、加速状態からさらに『瞬間加速』を使ってタイミングをずらす。

 

「くらえええええ!」

 

横一閃の薙ぎ。アレッシアのブレードと『零落白夜』が接触した瞬間、青白い閃光が周囲に弾けた。目もくらむ様な光、この出力ならば・・・一夏はそう考えていた。未知数な相手ではあるが、この一撃が当たったなら・・・そう希望を持っていたのだろう。

 

 

 

「・・・結局、この程度か」

 

 

 

絶望的な、アレッシアの冷たい一言を聞くまでは。

 

「なっ―――!」

 

言葉が耳に届いたのと、『零落白夜』の光が小さくなっていったのはおそらく同時であろう。一夏の表情は固まり、呆気に取られていた。

 

(そんな!? エネルギーは三分の二以上残っていたはずだぞ!? それなのになんで――!)

 

この一撃に間違いなく、一夏は全出力を注いでいた。しかしそんな『白式』の『雪片弐型』をアリッシアはまるで何事もない様にブレード一つで受け止めている。『白式』は単純な出力だけであるならば、ここに居る専用機持ちでもトップクラスである。消費スピードも速いかもしれないが、これだけのエネルギーを使った一撃で相手は傷どころか怯みすらしていない。

 

「遅い」

 

アリッシアの声で現実に引き戻された瞬間、一夏の視界に柴色のテール・スタビライザが移る。まるでサソリの尻尾の様にそれの鋭い切っ先が左右に割れ、間に存在した銃口に柴色の粒子が収縮されて行く。おそらくレーザー兵器、だがセシリアの『スターライトmkⅢ』よりもはるかに口径が大きい。

 

そして今、エネルギー切れによって『白式』が装甲から粒子状態へと戻ろうとしている。血の気が引き、逃げようとするが足が竦んで動けない。ダメだ、このままでは・・・

 

さらばだ(アウフヴィーダーゼン)

 

テール・スタビライザへの収縮が終わり、アリッシアが別れの言葉を口走る。そして柴色の光が解き放たれる、その瞬間―――

 

 

 

「一夏ああああああ!」

 

 

このアリーナに居ない、男の咆哮が上空から響いた。突然の出来事に、反射的に一夏は弾ける様にアリッシアから離れ、アリッシアは声の方向へと視線を向ける。紅い閃光、それはアリーナを囲むバリアの向こう側から振って来た。

 

「チッ!」

 

バリアを叩き割り、こちらに向けて撃ち出された高エネルギーの射撃。それに対して、先ほどチャージしたテール・スタビライザのレーザーを撃ち出した。それはアリーナの上空でぶつかり、粒子をばら撒きながら弾けた。そしてそれに続くようにして、橙色の機体と共に無数の弾丸が降って来た。

 

「ラファール・・・カスタム機か」

 

「くらえっ!」

 

強襲。リヴァイヴ・カスタムを展開したシャルロットは『ガルム』と『レイン・オブ・サタディ』のトリガーを引き、鉛玉の雨を降らせる。それに対して、敵機を確認したアリッシアはスラスターを吹かして背面へと移動、上手くシャルロットの下へと付くとライフルを抜き取り、反撃する。

 

「強襲は悪くなかったがな」

 

呟くアリッシアが撃ち出したニードルがシャルロットを捉える。的確に撃ち出された針をシャルロットは物理シールドで防御するが、爆破までは想定しておらず、バランスを崩した。

 

「うっ・・・!?」

 

「足が止まったな」

 

冷静に言い放つと、弾切れした左のライフルを戻し、右のライフルで狙いを定める。アリッシアの射撃制度を鑑みるに、足を止めた状態ではハリネズミにされてしまうだろう。だがそんな状況にも関わらず、シャルロットは笑っていた。

 

「貴様もな!」

 

激しい声と重苦しい砲撃音、それはアリーナの出撃地点から聞こえた。アリッシアはハッとなり、素早い反応でスラスターをサイドに吹かせると、紙一重でカノン砲を回避する。

 

「シュヴァルツア・レーゲン・・・」

 

出撃地点に居たのは、『シュヴァルツア・レーゲン』を展開したラウラだった。彼女は次弾装填を確認すると追撃の砲撃を行い、それに便乗する様にシャルロットは両手に携えた銃器を乱射する。そしてその混乱にまぎれて、『Victor』を持った『黒天』が飛来する。

 

「ハアッ!」

 

落下の勢いと共に振り下ろされた一撃は回避されるがそのまま横に薙ぐ一撃がアリッシアへと向かう。アリッシアは空いた左手にブレードを掴むと腹を楯にして、その一撃を受け止める。

 

「チィッ!」

 

零司は軽く舌打ちをしながら、『Victor』を分解し、相手のブレードを上げる様にして弾くと両手の剣をアリッシアに向けて振り下ろした。

 

「グッ!」

 

ギィンという相手の装甲と『Victor』がぶつかる音が鳴り、アリッシアが短く声を上げる。手ごたえはあった、だが浅い。そんな零司の考えを悟ってか、ラウラは彼に次の手を撃たせる為にAICを起動。柴色の異形に意識を集中する。

 

「さすがに・・・それをくらうわけにはいかんな」

 

そう言うとアリッシアは『黒天』を蹴って、ラウラの視界から外れながらライフルを連射。ラウラもAICを諦め、回避に移り、それを追うアリッシアを『Anna』と『Dalia』に持ち替えた零司とシャルロットが追撃する。

 

三機の専用機の連携は見事なものだった。しかし、それでも決定打が与えられない。零司とシャルロットの弾幕じみた射撃はほぼ気にならない程度の被弾であり、ラウラのカノン砲に至っては掠りもしない。

 

「・・・ここまでだな」

 

「何?」

 

そんな状況にも関わらず、アリッシアはそう呟くと上空へと飛び上がり、零司達から距離を置いた。

 

「何のつもりだ」

 

「何のつもり? ここから引かせてもらう、それだけだ」

 

そういうアリッシアを零司は訝しげに睨みつける。撤退するというのか、このタイミングで・・・と。

 

実際、アリッシアも余裕の笑みを洩らす様な現状でない事も確かであろうと零司は考える。最初のアリーナのバリアを破った『Samiel』の一撃は命中すれば間違いなく、致命傷であろうし、やっかいなAICを搭載した機体と何を積んでいるのかもわからない多大な『拡張領域』を持ったリヴァイヴ・カスタムもいる。だが、相手はさっきの強襲をほぼ完全にいなしきり、一夏達四人を撃墜寸前まで追い込んでいる。そんな機体を相手にこの状況、決して有利だとは言えない。

 

「随分と好き勝手言ってくれるな」

 

「その方が君達の為でもあるだろう? それとも、その足手まといを四人も抱えながら戦うか?」

 

アリッシアの言葉を聞いて、零司は唇を噛む。そう、アリッシアに取ってもこの状況が楽ではないであろう事はわかる。だがそれ以上にこちらの状況は危険だという事もわかっていた。

 

今の状況で戦いを再開すれば、アリッシアの言葉から察するに、彼女は一夏達を狙う可能性が出て来る。もしそれで勝利まで持って行けたとしても、万が一にでも死者など出してしまっては意味がない。教師陣が来るまで粘ってもいいが、それでどれくらい持つかは未知数だ。

 

「教師達の協力を期待するなら、無駄な事だ。今頃、『人形』の足止めを受けているだろうからな」

 

まるでこちらの考えを見透かす様に言うアリッシアを零司はバイザー越しに睨みつける。彼女の話が本当で、教師達が来ないならば、ここは逃がしてでも一夏達の身の安全を守るべきだ。そう考え、シャルロットとラウラを一瞥すると二人も小さく頷いた。

 

「・・・わかった、その案を呑もう」

 

今、出来るかもわからない相手の拘束と一夏達の生命の危機からの脱出。天秤にかけて、判断を下した、迅速な行動であった。そんな零司に対して、アリッシアの声色が少し柔らかいものとなった。

 

「理解がある男で助かる・・・最後にもう一つだけ」

 

「なんだ・・・」

 

「・・・顔を見せてくれないか?」

 

「・・・何?」

 

あまりに唐突な出来事に少々面を喰らった零司だったが、すぐにアリッシアへと意識を集中させる。

 

「それは要求か?」

 

「いや、懇願だよ。私を退けた男の顔が見たい・・・それでは駄目か」

 

不可解な懇願。一体、アリッシアが何を企んでいるのか、それは今の零司に知る由もなく、彼女に逆らう事が今、どれだけ自分達を不利な状況に陥れるか。そう思い、零司は自身の顔を隠していたバイザーを取る。

 

「・・・これでいいか」

 

「・・・・・・・」

 

零司が顔を見せると、アリッシアは数秒間、動きを止めていた。何を考えているのか、全身装甲の向こう側にある表情を窺う事は出来ず、ただ零司はアリッシアを凝視する。そして少しして彼女は武器をしまうとこちらに背中を向けると、短く言い放つ。

 

「手間を取らせたな、いずれまた会おう・・・『番犬の長』よ」

 

「・・・!? 待て、お前今なんて――!」

 

咄嗟の問いかけにアリッシアは答えることなく、砕けたバリアの穴から蒼穹へと飛び去っていく。早い、おそらく今から追いかけても速度的に追い付けるかもしれないが、その頃にはエネルギー切れになって、撃墜されるだけだろう。

 

「零司、今のは・・・」

 

シャルロットはそう問いかけるが、零司は答えない。浮かべた表情は、何処か辛く、痛々しい表情。それを見たシャルロットは問いかけるのを止めた。触れてはいけない何かがある、その事をラウラは理解しているのか、ただ心配そうに零司を見詰める。

 

「・・・二人は一夏達を頼む、俺は教師陣に加勢する・・・話はその後だ」

 

ただアリッシアの飛び去った方向に背を向けて、零司はISを解除するとシャルロット達の返事を待つ事無しに走っていく。簡単に崩れた平穏、その原因の一端へと向かって零司は駆ける。その心の中で、ゆっくりと・・・ゆっくりと湧き上がるものを、ただただあり得ぬと抑えつける。一体、それがなんなのか・・・それを知る者は零司自身以外、他にはいない。

 

EP30 end

 

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