いやぁ、遅い投稿で申し訳ありません。忙しいのが続いて、私の精神はいい感じに摩耗しています。そして今回の作品…うーん…激しく微妙。
ぶっちゃけ、これこそ書き直しな作品なのかもしれません。最近はいかんね、筆が進まん。
それでもいいって人は見て行ってください。それではどうぞ
Side 織斑千冬 山田真耶
「状況はどうだ?」
「『福音』、今のところは目立った行動をせずにここから10km先の海上で停止しています」
午後四時三十分、海岸から場所は変わり、『風花の間』。千冬の言葉に返事をする真耶はこの場所に敷き詰められた沈黙に気を張っていた。緊張がぬぐえずに、隣に座る同僚の顔すら見る事が出来ない。だが、おそらく同僚達も現場を指揮する千冬に良い感情を抱いてはいないだろう。
(織斑先生、どうしてあんな事を…)
この沈黙の原因は分かり切っている。先ほどの零司を切り捨てる様な千冬の言葉の所為だ。まるで撃墜された事に対して悲しみや後悔を抱かない様なセリフに情報班として集められた同僚達は不信感と嫌悪感を覚えているのだろう。
「わかった、そのまま監視を続けてくれ。各教員は海域閉鎖を怠るな」
実際、千冬が淡々とこの状況をとどめる様に指令を出している様に真耶の目にも移っていた。真耶は千冬を信じている。千冬は攻撃的な面もあるが、根は優しい人物であるし、それに何よりも撃墜されたのは彼女の弟子である零司だ。それで心に何かしらの感情を抱かない様な冷血な人ではない事を真耶は知っている。だが同時に、千冬と零司の関係や千冬自身と関わりの少ない教員達は彼女に不信感を持つのも仕方ないとも思っていた。
(指揮する立場として、周りに弱いところを見せるべきではないと思ったのかな…)
「山田先生、ボーっとしない」
隣の同僚に声を掛けられ、ハッとなって真耶は目の前のディスプレイに視線を移した。そこには映されるのはリアルタイムで送られてくる、二つの映像。アメリカの人工衛星から 発信される6km圏内の海上マップ、そして人工衛星からズームして映される『福音』の様子だった。
「……」
真耶は眼鏡越しに画面に映しだされた『福音』を睨みつける。自分の生徒を傷付けた相手。怒りはある。できるのならば、今すぐにでも出撃して、『福音』撃墜に向かいたい。だがこの状況がそれを許さないだろうし、自分が行ったところで『福音』に歯が立たない事は理解している。それでも、『福音』を許せない。この手で怒りを撃ち付けたいと思う。そこには正当な理屈は無く、感情のみが支配している。
(あの娘達も…そうなのかな)
真耶の頭の中に浮かんだのは五人の少女。専用機を持った生徒達。あの『福音』と戦う事になってしまった、娘達。今頃、五人は自分以上に零司と関わり合いがある。故にそれぞれに後悔と怒りを覚えているのだろう。彼女達も今すぐ出撃して、『福音』の撃墜へと向かいたいと思っているはずだ。
彼女達も分かっているはずなのだ。千冬の言っている事が正しい事を。だがそれは所詮、理屈を立てているだけだ。感情は、理屈ではない。思考や意識よりももっと根っこの部分にあるもの、それが感情だと真耶は考える。
(でもこんな事を考えたところで……あれ?)
だが自分にあの生徒達にできる事は無い。そう思った真耶は考えるのを止めて、今出来る事をやろうと目の前の画面へと意識を戻す。すると、画面上に微かな反応が見られた。
「…これは」
「どうした、山田先生」
反応を見て声を上げた真耶を訝しげに思った千冬が彼女の後ろからディスプレイを覗き込む。10km圏内の海上マップに記されていた、不審な反応。『福音』から約6kmの地点、小さな浮島がある場所。そこには本来、何もいるはずがない。それなのに、何故か反応がある。
「これは…」
「この反応パターン…まさか――」
その反応を見て、千冬は眉を顰め、真耶は驚きのあまり目を見開いた。何故ならマップに記された反応のパターンは二人が見なれたものであり、そこにはあってはならない反応だったからだ。
「何故、『シュヴァルツア・レーゲン』が!?」
反応の正体はラウラの駆る、『シュヴァルツア・レーゲン』。今、まさに待機を命じている人物が、『福音』から6km圏内にいる。その距離は今、ラウラの機体が装備しているパッケージ『パンツァーカノーニア・ツヴァイ』の射撃可能距離。その状況を見て、千冬は舌打ちをした。
間違いない、ラウラはやるつもりだ。
「教員機に繋げろ! すぐに連れ戻せ!」
『風花の間』に響いた、焦りを帯びたその声はオープンチャンネルで海上閉鎖を行う教員達へと送られるはずだった。だが、オープンチャンネルから帰って来たのは砂嵐のテレビから聞こえて来る様な雑音だけだった。
「くそっ! 何故繋がらない!」
「コア・ネットワークに障害! 何かしらの妨害を受けている様です!」
「妨害!? 一体誰が!」
情報班の教員の言葉に千冬の焦りがさらに大きくなる。教員機へのオープンチャンネルが封じられている。ラウラ機への通信をしようとも考えたが、おそらくそれは無駄になるだろう。
注意して、それだけで戻ってくる様な生半可な覚悟ならばラウラは出撃したりしない。それに彼女は自分の大切な人、零司を撃墜されている。ならば、その怒りが胸の内に無いわけがない。
絶対に引かない。『福音』を撃墜するつもりなのだ、彼女は。
「織斑先生、一体どうしたら…」
「……」
軽いパニックに陥り、問いかける真耶に対して千冬は返事を返さない。その代わりに彼女の口からは歯軋りの音が鳴った。
(何故だ、何故出撃した)
千冬は画面に移る『シュヴァルツア・レーゲン』の反応を見て、頭にある怒りとは裏腹に内心では冷静に状況を考えていた。ラウラは今こそ学生として学園に居るが、元は正式な軍人だ。この状況がどういう状況であるかを理解できない人間ではない。だとするならば、少なくとも『シュヴァルツア・レーゲン』で『福音』を撃墜する事は出来ない事くらい、理解できても何らおかしくは無いはずだ。
(一人で行ったところで撃墜されるのがオチだぞ…なのに何故…)
そこまで考えて、千冬は一つの結論に至る。
違う、逆だ。勝てる算段が付いたのだ。ラウラには分かっていた。決して、一人では『福音』を撃墜することは出来ない。だが撃墜できる可能性ならば、この旅館の中に転がっているではないか。
「…あの馬鹿共」
「織斑先生?」
「衛星映像のスキャン範囲を15kmまで広げろ!」
千冬の指示に従い、真耶は衛星から送られてくる映像の範囲を拡大した。すると少しばかり画面が荒くなったが、そこには確かに『シュヴァルツア・レーゲン』以外の反応がいくつかあり、それはどれもここに居る教員達が見知った反応だった。
「オルコットさんにデュノアさん…それに篠ノ之さんまで」
「監視に人員をやらなかったらコレだ…」
千冬は憎々しげにそう言葉を吐いた。この場に居る情報班と海上閉鎖に回している人員で教員陣はほぼ手一杯。そのため、一般生徒への監視員は送ったが専用機持ち達は独自で判断を下せると考えていた為に手が行き届かせていなかった。つまり、こちらのミスということになる。
「織斑先生、私達が連れ戻しに行けば――」
「こちらが持ってきた量産機は海上閉鎖に出ている八機で全てだ。今、私達の手元にISは無い。追い付くのさえ不可能だ」」
「そんな…じゃあ、見ているだけしかできないんですか?」
「…そうだ」
短く答えて、千冬はモニターを睨みつけ、それに続くように真耶達も視線を移す。そんな中、『シュヴァルツア・レーゲン』の反応が動きを見せた。おそらく仕掛けるのだろう。だが、千冬達は見ていることしかできない。ただ画面に視線をくぎ付けにしながら、彼女達が戻ってくる事を祈るしかできなかった。
Side off
・
Side ラウラ・ボーデヴィッヒ 篠ノ之箒 セシリア・オルコット 凰鈴音 シャルロット・デュノア
静かな波音が耳に届く。安らかな音は心の安息を誘うものではあるのだろう。だが、今のラウラの心は激しく、それでいて冷たい炎が燃え上がっている。そんなもので休まるほど、彼女の炎は生易しいものではない。
「目標を補足した」
彼女の作戦に参加する少女達と繋がったプライベートチャンネルによってラウラは敵機の発見を伝える。『シュヴァルツア・レーゲン』のハイパーセンサー越しに移る機影。それはまるで母親の胎内にいる赤子の様に丸まり、休息を取っている。『福音』、ラウラに取って…この作戦に参加している全員にとって、憎き敵。
『ラウラさん、そろそろ私達のステルスが効果を無くしてきましたわ』
『つまり先生達も僕たちの事を気付くってことだね』
『福音』を見据えるラウラの耳にセシリアとシャルロットの声が聞こえる。ステルスとは以前の作戦で一夏が使用していたステルス仕様のマントであり、充電式であるそれは数分で効果を無くすものだった。
「織斑教官達がこちらに気付くのは時間の問題だ。それに、気付いたら引き摺ってでも私達を連れ戻すだろう」
『その時はどうするの?』
心配そうに問うシャルロットにラウラは少し意地の悪い笑みを浮かべる。
「問題ない。教官が到着する頃には、どちらも引くに引けない状態だろうからな」
そう言うラウラにシャルロットは少し呆れたように息を吐いた。あの場所には量産機しか置いていない。ならば戦いが始まってしまえば、いくらかの織斑千冬といえど止めることはままならない。
『ラウラって、そういうところは零司に似ているよね』
「当り前だ、レイジは私の嫁だからな」
シャルロットの言葉に小さい笑みを返す。そして一瞬、ほんの数秒もしないうちに表情が先ほどの、戦いの顔へと戻る。そしてラウラは自分の背中と両肩に装着された武器を展開していく。
今の『シュヴァルツア・レーゲン』は基本状態のものとは大きく異なる部分がある。
まずは正面。実機の正面に四枚の物理シールドが搭載されている。それぞれが折り合う様になっており、正面からの来るであろう攻撃に対して、まるで城壁の様に立ちふさがっている。
そして背中。『シュウバルツア・レーゲン』には背に特には目立った装備は無い。だが今の機体の背には正四角形の角柱となっている二本の柱の様な物とまるで鳥の翼の骨組みの様な奇怪なパーツが装着されており、下へと向くそれぞれの六本の羽の骨の先には引っかかりのあるアンカーが吊り下げられている。
最後に両肩。本来、『シュヴァルツア・レーゲン』の右肩にはレールカノン砲『ブリッツ』が装着されているが、今の機体には左肩にも装備されており、双方の内側には磁場を発生させるシステムが搭載されている。
ラウラは背中のアンカーを地面に打ち込む。そして引っかかりを確認した後に両肩の『ブリッツ』を正面方向、『福音』のいる方向へと向ける。
「EMLシステム、機動」
ラウラの言葉に応じ、両肩の『ブリッツ』に搭載され
「出力上昇、チャージ完了、初弾装填」
背に付いていた、垂直に立っている黒い柱が動き、ラウラの肩に水平になるように移動する。そして柱の頭頂部が開き、初めてその柱の正体があらわになる。開いた部分にあったのは、銃口だった。それは大型である『ブリッツ』を上回る九八口径爆裂鉄鋼弾の搭載された、一つのキャノン砲『ヴァルカーン』。正面のシールドを置き台にして固定されたそれを構えるラウラの姿はISと呼ぶにはあまりにも無骨で不格好な代物。
相手を一撃によって撃ち倒す、その為だけに作られた特化仕様の砲撃型パッケージ。それがこの『パンツァーカノーニア・ツヴァイ』であった。
「準備完了…では作戦を開始する、二人共準備は良いな?」
『ええ!』 『うん!』
「よし、では……
セシリア、シャルロットの返事を受けて、ラウラは開戦を宣言した。それと同時に『ブリッツ』のEMLから発せられる磁場領域をAICで固定、そこを通す様にして『ヴァルカーン』に搭載された九八口径爆裂鉄鋼弾を『福音』に向けて発射した。
「くっ!」
周囲に漂う大気ごと振動させる発砲音と衝撃に対してアンカーで地面に根を張るとこで耐える『シュヴァルツア・レーゲン』は悲鳴の様な軋みを鳴らせ、ラウラは小さく声を上げた。
AICによって固定された磁場領域を通過した鉄鋼弾はローレンツ力を受けて、大幅に加速。その弾速は秒速3000mを超え、もはや人の目で捉える事は不可能であり、待機状態にあった『福音』が反応できる道理はなかった。
『…ッ!?』
爆発的な発砲音には気付いたものの、飛んでくる物を避ける術を持たない『福音』は直撃とその後に発生した爆発によって、元居た場所から弾き飛ばされ、水きり石の様に海面をバウンドしながらかなりの距離を吹き飛ばされた。
「初弾命中、次弾装填」
本来、量産型程度ならば一撃の下に行動不可能にまで陥らせる砲撃。軍事用の第三世代ということで、一撃で仕留める事は出来なかったものの、相手のシールドエネルギーを大幅に削り、さらに距離をとる事に成功。初手は上々、そう考えるラウラは追撃の為に『ヴァルカーン』の射線に『福音』を収めた。
だがこの様な手痛い一撃を受けて、何もしない『福音』ではない。PMCによって、吹き飛ばされた自身の身体を動かし、新体操選手の様に回転させながら、姿勢を戻すと頭部に装着された両翼を広げ、水面を蹴るとラウラに向かって飛ぶ。
「もう体勢を立て直したのか…!」
その迅速な行動にラウラは少しばかり驚愕を覚えていた。急に行われた狙撃、しかも大きな衝撃とダメージを伴うそれを受けて、冷静に立て直し、こちらへと向かってくる。さすがは機械、人間だとすれば突然の攻撃にパニックを起こし、こうは行くまい。
(目標、距離5000m…4000m…3000m…2000m…やはり一発が限界か!)
ラウラは焦りを表情に出しながら、地面へと突き立てられたアンカーを戻し、EMLを収納する。セシリアの話から、アメリカ側の情報は六割程度しか信用していなかったラウラは明らかに提示された速度より速く動く『福音』へと標準されていた『ヴォルカーン』を背へと戻した。『パンツァーカノーニア・ツヴァイ』の『ヴォルカーン』を展開する事は、文字通り固定砲台と化す。ならば向かってくる敵に対して、コレを展開したままにするのは機動力がものを言うIS戦闘ではただの的になるのと同意義である。
『La!』
ラウラの収納行動が続く間も、『福音』は確実にその距離を詰めて行く。そして約200m範囲まで近付くと、両翼に備わった砲門をラウラに向ける。『福音』は収納終了前に『銀の鐘』を打ち込む事で、その厄介な火力を封じようと考えたのだろう。
だがそんな状況にありながら、ラウラは小さく笑う。その笑みはまさに得物が罠にかかったのを見る狩人の笑み。
「今だ、セシリア!」
ラウラが叫ぶとキュオンッという、レーザー特有の音と共に空から蒼い流星が撃ち下ろされた。正面に立つラウラを撃とうと両翼の砲門を展開していた『福音』は回避行動が一歩遅れてしまい、そのレーザーをモロに受ける事となる。
上空からの強襲、それは『福音』の真上に潜んでいた『ブルーティアーズ』によるものだった。その手には前の戦闘で使われた『スターダスト・レイン』ではなく、本来の『ストライク・ガンナー』の装備である狙撃用大型BTレーザーライフル『スターダスト・シューター』が握られている。
「リベンジさせてもらいますわ、『福音』!」
叫ぶセシリアは『福音』に向けて、引き金を引く。高威力のレーザーが『福音』をめがけて降り注ぐ。『スターダスト・レイン』ほどの射撃速度は無いものの、一発の威力はそれとは比較にならないものとなっている。
『福音』はラウラに向けての一斉射撃を取り止めると、先ほどの戦闘の経験がある所為か、セシリアの『ブルーティアーズ』の有する機動力が厄介と判断。そちらに向けて、スラスターを吹かす。
「半歩遅いね、もらったよ」
だがそんな『福音』は上空に昇る前に再び強い衝撃を受ける。それは背後からの強襲だった。セシリア同様にステルスマントによって隠れていたシャルロットが両手に持ったショットガン『レイン・オブ・サタディ』で『福音』を捉えたのだった。
『……』
片翼にはスラスターを、もう片翼には砲門を展開し、後退すると同時に突然現れたシャルロットに向けて『銀の鐘』を撃ち込む。だがそれはシャルロットの『リヴァイブ・カスタムⅡ』本体に届く事は無く、四枚の強固なシールドによって阻まれた。
物理シールドとエネルギーシールド、その双方を兼ね備えた防御型パッケージ『ガーデン・カーテン』。まさのそのシールドは実弾とエネルギー弾双方の特性を持つ『福音』の『銀の鐘』を受けるのには、最適な楯だった。
「その程度じゃ、まだまだだよ」
『銀の鐘』を全て受け切ると『高速切替』によって、右手のショットガンをアサルトライフルへと変更。後退する『福音』にめがけてトリガーを絞ると『福音』の向かう先へと回り込む様に動くセシリア。そして各装置の収納を終えたラウラが浮島から飛び立ち、両肩の『ブリッツ』で『福音』の回避した先を狙う。
「逃がしは――」
「――しませんわ!」
連射と切り替えの効くシャルロットが追い込み、セシリアが弾速の早いレーザーで追撃。そしてそこを威力の高いラウラが削る。この場所に来ている専用機の中でも遠・中距離射撃が優秀な三機のコンビネーションはいたってシンプルであり、何より効果的だった。
既に零司との戦闘によって受けたダメージは少しずつ回復していたが、『パンツァーカノーニア・ツヴァイ』の『ヴォルカーン』による先制攻撃によって、大規模なダメージを受けている。いくかエネルギーが競技用よりも多量である軍事用だとしても、数時間の間に第三世代と第四世代、二種類の高性能機との連戦となれば、さすがに底が見えて来る。
「攻撃の手を緩めるな!」
そんなラウラの声に二人の「了解」の返事は激しい銃撃音だった。三人とも、元から攻撃を緩めるつもりなどない。緩める一片の隙を見せるつもりもない。相手は自分たちより格上である零司を撃ち倒しているのだ。ならば、全力で戦わなければ勝機は見えない。
事実、先ほどからの射撃も掠りはしているものの、決定的なダメージとなっているものは少ない。
「さすがに簡単には行かんか…だが――」
だが、倒せない敵ではない。ラウラはそう確信している。『福音』はダメージを負っている。自分達の攻撃にさらされて、撤退行動に移る程度の負傷はしている。ならば、このまま押し切る。
『La!』
そう考えた時だった。『福音』は甲高い機械音を鳴らすと右手にパルチザンを展開。『ブリッツ』の砲撃を回避すると同時に片翼の『銀の鐘』でラウラに牽制程度の攻撃を仕掛けた後、宙返りの要領で回り込んで自分の背後に居たシャルロットの頭上へとその刃を振った。
「くうっ!」
頭上から襲いかかる凶刃に反応して、即座に装備を変えるとその手に持った近接ナイフ『ブレット・スライサー』で受け止める。だが『福音』はその勢いのままにシャルロットを飛び越えて背後に回り、縦回転のかかと落としを打ち込む。
「うあっ!?」
怯み、動きが止まる。そこへ『福音』は『銀の鐘』を構える。自分の攻撃をある程度無力化出来る楯が邪魔だと認識したのだろう。
「シャルロット、楯を構えていろ!」
だがラウラの反応も速い。背を蹴られて動きが固まったシャルロットの片腕と片足に『シュヴァルツア・レーゲン』のワイヤーを絡みつけるとそのまま引く。少々、手荒いがシャルロットは側面から引かれる事で身体を回し、『福音』へと楯を構えた。
瞬間、『銀の鐘』が撃ち出される。高破壊力を持った光弾は『ガーデン・カーテン』のシールドを焼き削り、両翼の一斉射撃を受けたシールドが一枚、完全に大破していしまった。
「一瞬で…!?」
「相変わらず反則気味な威力ですわね!」
ラウラがワイヤーを離すと再び射撃を行うシャルロットは暴力的なまでの破壊力に背筋が寒くなるのを感じ、すでにその威力を目の当たりにしていたセシリアは悪態を付いて、射撃の為に一瞬停止した『福音』に向けて、レーザーを撃ち出す。そしてそれと同時にラウラへとプライベートチャンネルを開いた。
『ラウラさん、目標地点まであと1kmを切りました!』
その言葉に、ラウラは小さく頷くと声を張り上げて、シャルロットへと呼びかける。
「シャルロット! 右から回り込め!」
「・・・! 了解!」
オープンチャンネルによって響く、ラウラの声を聞いて、シャルロットはその真意を理解すると同時にシールドを構えながら『福音』の側面へと回り込み、追い立てる様に両手に展開したアサルトカノン『ガルム』を速射する。
「お返しだ!」
マズルフラッシュの光を発しながら、『ガルム』は装填されたマガジンの弾を目標へと吐き出す。それを回避しながら、『福音』は三機から離れる様に進んで行く。そして――
『300…200…100…『福音』、入りました!』
「今だ!」
セシリアの合図にラウラは声を上げる。隣で砲撃を続ける『ブリッツ』の砲撃音にも負けない、確かな叫び。それに応じて、『福音』の丁度足元に当たる海面がせり上がり、潜んで居た者が姿を現す。
「もらったぁ!」
海面から現れたのは『紅椿』を装備した箒と『甲龍』を装備した鈴だった。『紅椿』には数時間前と比べて目立った変化はないが、『甲龍』はいつもの機体とは装備が変更されている。『甲龍』に搭載されている両肩の衝撃砲が二門から四門に増設されていること、そして左腕に装備された、三つの鉤爪。今の『甲龍』は衝撃砲増設パッケージである『崩山』と、特殊装備を施したものとなっていた。
『福音』にとって突然の襲撃。完全に意識は攻撃をする三機の方へと向いていたのか、反応が一瞬遅れた。だが一瞬でいい。この一瞬の為にラウラ達はこの場所まで『福音』を追い込んだのだから。
「でぇい!」
生まれた隙、最初に動いたのは箒だった。左手に握られた『空裂』を横一文字に振るうと、その刃から出た攻性エネルギーの刃で『福音』の上半身を狙う。回避へと行動を移せない。そう判断した『福音』はそのエネルギー波を両腕で防御する。
それを追撃する様に『雨月』から放たれたエネルギー弾と共に『甲龍』の衝撃砲が『福音』を捉え、砲撃を開始した。四つの砲門から放たれるのは不可視の弾丸ではない。それは紅い炎を纏った豪雨。対象を飲み込み、焼き尽くす熱殻拡散式衝撃砲だった。
「逃がすな、一斉射撃!」
ラウラの号令により、セシリアは武装を『スターダスト・シューター』から『スターダスト・レイン』に変更、シャルロットは両手に『レイン・オブ・サタディ』に変えて、『シュヴァルツア・レーゲン』の砲撃と共に『福音』目がけて一斉射撃を行う。
相手をハチの巣にするかのような、怒涛の射撃。一瞬の隙から生まれた好機は『福音』の意識を『撃墜』から『非難』へと持って行くのには十分過ぎる事だった。
『……優先順位を変更、現空域をただちに――ッ!?』
「させるかっての!」
五機の射撃をモロに受けた『福音』はアナウンスの様な声を鳴らして、スラスターを展開し、逃げ出そうとする。だがそれを許さぬと鈴は叫び、二人の射撃攻撃とは違う、明らかな重さを持った衝撃が『福音』を襲った。
その衝撃の正体。それは機体のボディと両翼に突き刺さる三つの鉤爪。それは『甲龍』の左腕から
「射撃の合間に撃ち出させてもらったわ…逃さないわよ!」
そう鈴が言い放った瞬間、鎖を通して電流が『福音』に流れ込み、激しい痙攣を起させた。
「動きが止まれば―――」
「―――こちらのものだ!」
鈴の言葉に続いたのはラウラ。電流を流され、完全に停止した『福音』に向けて、AICを機動。これであの恐ろしいほどの機動能力は死んだ。
「そしてこれで…王手だ!」
王手、そう告げる箒は『展開装甲』の加速によって、即座に『福音』の背後に回り込む。反応だけは返す『福音』ではあるが、全力の状態ならばまだしも、電流で自由の効かないボディでAICから逃れることは不可能だった。
「チェストッ!」
気合いの一声と共に振り下ろされる二本の刀。その刃は『福音』の翼の付け根を捉え、一刀の内に『ボルティック・チェーン』ごと『銀の鐘』を搭載した、悪魔の様な両翼を切り落とした。
『キイィィィッィィ!!』
耳をつんざく、『福音』の悲鳴が上がる。痛みを覚えているのか、その腕を伸ばし、震えさせる。だがその行動が何か功を制すわけもなく、空中での浮遊機構を失った『福音』はまっすぐと落ちて行き、海中へと没した。
「はあ…はあ…」
「…やったか…」
沈んで行く『福音』の反応を見て、ラウラは息を荒くする箒の肩に手を置いた。
「よくやってくれた、篠ノ之箒」
「…ラウラ…私は…私達は…」
「ああ、勝った…我々の勝利だ」
ラウラの言葉に、鈴はガッツポーズし、セシリアは武器を納め、シャルロットは安堵の笑みを零し、『福音』を討ち取った箒は長い息を吐いた。
「お前のおかげだ…礼を言う」
「いや…ラウラの作戦だったからこうなった。礼を言うのは私のほうだ」
ラウラに箒はそう言葉を返す。完全な奇襲に奇襲を織り交ぜた攻撃。初手の高威力射撃と中遠距離戦闘を主体とした三機による追い込み、そして目的地点まで追い込み、海中からの奇襲で隙を作った後、高機動に戻る前にすぐさまケリを付ける電撃作戦。それがラウラの提示した作戦だった。
「セシリアの情報であの機体はやたら人間らしい反応を返すと聞いていたから、あの様な作戦が立てられた…それでもかなり条件は厳しいものだったがな」
「それでも…私達は勝てた」
『雨月』を握る右手を見詰めながら呟く箒の言葉にラウラは頷く。箒は右手に力を入れて、しっかりと『雨月』を握り締めた。今度は、間違えなく使えた。自分に与えられた力を正しく使えたのだ、と。
「ちょっと、リベンジはたせて感慨深いのもわかるけどさ。やることあるでしょ、他にも」
「…あ、ああ」
下方から鈴が呼びかけると、箒はハッとなって頷く。そうだ、自分にはやる事がまだ残っている。今からすぐに零司を見つけなくてはならない。自分の所為で傷付いたもう一人の大切な人を。
「よし、ではレイジの捜索を――」
始めよう、そう続くはずだった言葉はラウラの口から出なかった。ラウラは固まっていた。その姿に奇妙さを覚えた皆は眉を顰めたが、彼女の視線の先へと視界を移して、どうして固まっているのかが分かった。
ラウラの視線に止まっていたのは、『福音』が没した海面。否、海面であった場所。なだらかな海面であった場所は球状に蒸発し、そこには『福音』がいた。全身からは蒼い電流を発し、自身を抱き締めている。
「これは…!」
予想外の出来事にラウラの表情がこわばる。そして各ISに警鐘が鳴り響き、ある単語が皆の前に表示される。視界を担うハイパーセンサーに記された、ある単語。それを見た瞬間に、ラウラは叫ぶ。
「マズイ…『
『キィアアアアアアアッ!』
ラウラの声を遮るばかりの、『福音』の咆哮。それはまさしく、絶望の鐘の音であった。
Side off
EP38 End
うあー、一夏入れる時間がなかったー
ハイ、EP38も終わりです。いかがだったでしょうか?
実はコレ、書き終わった時間がPM11:46っていう、ギリギリな状態なんです。ですので、一夏の話は次に回す事にしました。これ以上、投稿を遅らせる訳にもいかんので…何? そんなの言い訳? 知ってますよーだ…へへーん(;ω;)
今後はこの様な事にはならない様に気を付けたいと思いますので、読者の方々、どうか何卒よろしくお願いいたします。
感想もどしどし応募していますんで・・・どうか・・・どうか・・・よろしく・・・
それでは、また(=ω=)ノシ