IS もう一つの翼   作:緋星

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こんにちわ、こんばんわ、おはようございます、緋星です。

ようやく46話投稿です。二月半ばから非常に忙しい毎日で執筆活動を怠ってしまい、申し訳ありませんでした。月一更新とか言って、しょっぱなからこんな感じですが、どうかご容赦を…m(_ _;)m

今回もオリジナルの話となります。このオリジナルストーリーは基本的に戦闘らしい戦闘はなく、日常的な物語が主体となりますので、長ったらしく展開が遅いかもしれませんが、もし興味を持たれたのならば、細心の注意をしたのちにお読みください。

それでは、どうぞ


EP46 昼下がりの炎上

もう時刻は昼下がりに入った。食堂にやってきた俺の視界には、休みの日ということもあってか、もうほとんど生徒の姿はない。いつもは騒がしい食堂がこうもガラガラであると、少し奇妙な気もするが、先ほどまで質問攻めにされていた俺とオルコットにとってはこれくらい静かな方がむしろ良いくらいだ。

 

「腹減った~…」

 

「…そうですね」

 

お盆を窓際の丸テーブルに置き、俺の右隣に腰掛けるオルコットからは明らかに練習試合以外の疲労が見えた。正直、俺も疲れた。快適な温度環境と一定の静かさを保っているというだけで、食堂はここまで癒される場所とは知らなかった。

 

「あはは…ごめんね、二人共」

 

「そんな怖い顔しなくてもいいじゃない、結局のところ何かあったわけでもないんだし」

 

「あっただの無かっただの問題じゃなくて、お前が変な話を持ち出すから、ここに来るのが遅れたんだろ」

 

「それについては悪かったと思っているけど、話を濁したセシリアにも問題あると思うわ」

 

そんな俺とオルコットが不服気な視線を向けるとシャロットは苦笑を浮かべ、ことの発起人である凰は全く悪びれもせずに肩を竦めた。まったく、ああ言えばこう言うとはまさにこのことだ。

 

「…まあ、いいや。ともあれ腹減った、飯にしよう…いただきます」

 

「「「いただきます」」」

 

他にもいろいろと言及したいところもあったが、この空腹を無視することはかなわない。とりあえず話は昼食の後にするとして、四人で手を合わせる。しかし、凰はまだ日本に住んでいたからわかるとしても、フランスのシャルロットとイギリスのオルコットがたった数か月でこうやって日本の礼儀をしっかりやるってのも、考えてみれば凄い順応力だよな。オルコットなんて最初は日本を馬鹿にすらしていたのに。

 

「・・・? どうかなさいました?」

 

そんなことを考えていると視線に気づいたオルコットが口に含んだパスタを飲み込み、小首をかしげる。そんな彼女に――

 

「いや、もうすぐ夏休みだけど、オルコットとかはイギリスに戻るのかなって考えていただけだ」

 

――と、最もらしい理由を返す。ここで変に言葉を濁らしたり、「なんでもない」とか言ったりしていると再び凰が食いついてくるだろう。

 

「なぜ急にそんなことを・・・」

 

「代表候補生だから、やっぱり本国への現状報告なりなんなりをする為に戻るんだろうかって気になった。そういう点では凰もどうするんだろうかってな」

 

まあ、素直に皆が夏休みどんな予定なんだか、気になっていたことでもあったりもするんだが。これまた最もらしい理由を付け加えておく。

 

実はそこまで理由や意味もない質問・・・であるのだが、質問を投げかけられたオルコットだけではなく、質問が飛び火しただけの凰も少し微妙な表情を浮かべた。

 

「そうですわね、確かに一度本国へと戻らなくてはならないのですけれど・・・」

 

「・・・現段階で戻ってもねぇ」

 

「・・・どういうこった?」

 

イマイチ要領を得ない二人の返答に俺が眉をひそめると、オルコットと凰は顔を見合わせ、深くため息をつく。

 

「何か本国に戻るのが憂鬱みたいな反応だね、二人共」

 

「いや、まあ嫌ってわけでもないけど・・・」

 

「憂鬱という表現は・・・まあ、あながち間違いでもないと言いますか」

 

シャルロットの言葉に二人は苦笑混じりに返答すると再びため息を吐く。いやはや、一体どうしたのだろうか。

 

少し考えてみよう。

 

俺の質問一つで、二人が軽いグロッキーに陥っていることは見て取れる。その原因だが、反応を見るに「代表候補生として祖国に戻る」という単語がどうも胸中に突き刺さっているらしい。そのようなことで、二人がこんな何ともいえない表情を浮かべる原因・・・

 

・・・まさか、な

 

「・・・まさかとは思うが、ここ最近の戦績が渋りまくっているから・・・とか?」

 

頭に浮かんだ一つの答えを口から発してみると、それぞれに食事を再開しようとしたオルコットと凰がピタリと固まった・・・ビンゴですか?

 

「えっとー・・・まあ・・・ねぇ?」

 

「鈴さん、こちらに振られても困りますわ・・・」

 

・・・この二人の反応を見るに、どうやらこちらの出した答えは当たりだったようだ。

 

「なるほど・・・確かにこう考えてみると、結構負け越し多いからな」

 

「「うぐっ・・・」」

 

今までのオルコットと凰の戦績を俺の知る限りで思い出してみても、授業などの演習は抜くとして、オルコットは俺との初戦とその後の試合、そして最近の一夏との戦績は聞く限り芳しいものではないことは先ほど耳にした。凰は最近の一夏との試合はそこそこ善戦しているらしいが、学年別トーナメントで事実上一夏に敗北している。

 

「まあ、臨海学校の件は加わらないとしても・・・」

 

「ちょっと、戦績としては痛手な一戦があるよね」

 

「だよなぁ」

 

俺の言葉を綴るシャルロットに対して、小さく頷く。シャルロットが指す、「戦績としては痛手な一戦」。それはこの席にいる四人が察しているもので違いないだろう。

 

それは、ラウラとの一戦だ。

 

この学園に来たばかりの、周囲に敵意ばかりを振りまいていたころのラウラと二人は一戦を交えた。結果は知っての通りに惨敗。AICというインチキ兵装があったという点を踏まえても、あれだけの惨敗に加え、次に備えているタッグマッチに参加不能となり、機体の実害的にも経験的にも大きな損害を与えてしまった。

 

そして何よりも、自分たちの技術の粋を集めて作り出した第三世代が他国の同期の機体にまるで相手にならないという事実を知らしめてしまった。

 

無論、この情報も二人の本国へ届いているだろう。最悪の場合、代表候補生を下ろされる可能性すら見えてくる。まあ、そんな状況じゃあ帰るには足取りが重いっていうのも仕方ないだろう。

 

「少なくとも、あの戦績がある限りは満足に祖国の土も踏めないってことか」

 

「でも、どう頑張っても戦績自体が消えることはないし・・・」

 

コソコソと隣同士で言葉を交わすがグロッキーな二人の耳には幸い届いてはいないようだ。しっかし、困ったものだ。いくら機体のテストが目的とはいえ、あれだけ大敗していたら、「実力と機体テストは関係ない」とは言えないだろうし、何よりもそんなことをこの気の強い二人が言うとは思わない。

 

しかし、シャルロットの言う通りに彼女らの戦績はしっかりISのコアに残っている。それを上書きするなんてことはできないだろうし、もしやれたとしてもIS自体の成長に大きな狂いを生じさせるだろうからやりはしない。

 

となると・・・

 

「手段は一つくらいだよな・・・」

 

「…そうだよね」

 

俺の思いついた、二人の現状を打開させるための解決策。それは非常にシンプルな答えであり、反応を見る限り、どうやらシャルロットの思い浮かべるものと一寸違わず合致しているようだ。

 

だが俺が思い描く解決策をするならば、俺やシャルロットが口を出さないでも勝手にやるだろう。というか、厳しいようだがそれすらもやらないなら、代表候補生として、そしてもしも後に代表候補となった場合に結果も残せるはずもなし。

 

彼女らの為に、言うことでもない。そんなことを考えていた矢先――

 

「レイジ、こんな時間に昼食ですか?」

 

ふと訊き慣れた声が耳に届き、テーブルの上にある昼食のざるうどんから視線を正面、丁度凰の後方へと向ける。するとそこには、今まさに問題の中核となっている人物の姿があった。

 

「そんなところだ。そういうお前も昼か? ラウラ」

 

「はい、少々課題に手間取ってしまいまして」

 

そういうラウラの手にも、先ほどの俺達同様に食堂のお盆、そしてその上にはザラークラフト―キャベツの漬物―とヴルスト―ドイツのソーセージ―を中心としたメニューが広がっていた。そしてその後ろに――

 

「お前らもか、篠ノ之、一夏」

 

「はい」

 

「まあ、そんなところだよ」

 

これまた昼食乗せたお盆を持った顔見知り、篠ノ之と一夏がいた。こんな時間に昼食をとる学生なんて俺達ぐらいだと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。

 

「まあ、座れよ。少し詰めれば皆で座れる」

 

ともあれ、友人が来たのに立たせたままというわけにはいかない。俺とシャルロットは席を立ち、一夏、篠ノ之、ラウラの順番に奥へと座らせていった。

「ところで…こんな時間まで何かしていたのですか?」

 

椅子に腰を下ろし、一度手を合わせたのちに隣に座ったラウラは少し不思議そうにこちらがなぜここにいるのかを訊いてくる。

 

「オルコットとの練習試合でな、アリーナにいた」

 

「訓練ですか。休日でも怠らないのは、やはりレイジらしいですね」

 

「訓練…まあ、そんなところか」

 

ちょっとずれている気もするが、間違ってはいないので、こちらに尊敬のまなざしを向けるラウラの言葉に、薬味のワサビとネギをうどんの汁へと入れながら苦笑交じりに頷く。

 

「しかし、もう怪我はいいのですか? まだ数週間しか経っていませんが」

 

「そっちはもう大丈夫だよ。大体、大丈夫じゃなかったら、“強引な”オルコットでもさすがに遠慮するだろ」

 

「それに僕も止めるよ、そんな状況だったら」

 

先日の事件での怪我を気遣う篠ノ之に俺は肩を竦め、シャルロットも篠ノ之を安心させるように優しい声色で語り掛ける。そんな中で

 

「何か、悪意があるように聞こえましたけど…」

 

俺に対して、非難の視線を向けるオルコット。どうやら俺の言葉に強調する部分があったことを理解したようだ。しかし、それくらいは言わせてほしい。

 

「休日の朝、七時ごろにいきなり俺の部屋のドアをこじ開けて、そして安眠を貪る俺の布団を引っぺがして、ベッドから引きずり出したのはどこのどいつだったかな?」

 

「さ、先に話は通しておいたはずです! それなのに起床していなかったのはあなたでしょう!」

 

「それにしたって、ドアの前で待ってればいいのに…おかげであのドア、修理費は俺が出すことになったんだぞ?」

 

「レディとの約束を不意にするような殿方には当然の報いかと」

 

「知っているか、オルコット? レディって淑女の事を指すんだぞ?」

 

「…どういう意味ですの?」

 

「いや、理解しているならそれでいいんだけどさ」

 

休日を半日潰された俺の細やかな反撃となる言葉に頬を引きつらせるオルコットを無視して、うどんをすする。てか、そんな強引さを俺の方に向けずに、一夏に向ければいいのに。

 

「そういえば、セシリアとは今までも何度か試合をしていると聞きいたけど」

 

「そうだな、今回で確か…十二戦目だったっけ?」

 

「…その通りですわ」

 

「結果はセシリアの態度からお察しくださいって感じね」

 

「一言余計ですわよ、鈴さん」

 

今度は一夏からの質問に俺は先ほど凰が行った、戦績発表を思い出しながら、今まで試合回数を口に出し、それを聞いて、がっくりと肩を落としたオルコットを凰はからかうように言った。そんなオルコットがさすがに少し可哀想になり――

 

「でも実際、俺も数回負けているわけだし、そんながっかりすることないんじゃないか?」

 

と、苦笑交じりの言葉である程度フォローを入れておく。まさに焼け石に水、といった感じの言葉だった。それは現場にいたシャルロットだけでなく、話の端だけを聞いた一夏と篠ノ之にも感じられたのか、俺と似たような表情を浮かべる。

 

「レイジに勝った?」

 

そんな中で、ラウラだけが真剣な表情で反応を返した。

 

「それは本当か、セシリア」

 

「え…? ま、まあ…一応」

 

周囲がほとんど談笑じみた反応を示している中でのラウラの質問。あまりに予想外の行動だったためか、話題の中心であるオルコット自身がすぐに反応を返すことができず、戸惑いながら頷いた。

 

「そうか…」

 

「それが…どうかしたか?」

 

妙に真剣な表情で、ラウラは何か悩むように唇に手を当てた。そんな彼女の様子に困惑しながらも、尋ねると真顔で答えた。

 

「いえ、少し信じがたかったもので」

 

「俺がオルコットに負けたことがか?」

 

「はい、なぜレイジが私の負けた相手に敗北するのかが、理解できずにいます」

 

そう答えるラウラは本気で悩み、その答えが出ないことに眉をひそめていた。そんなに悩むことかね。そりゃ、この面子の中でもIS操縦の腕としては上にいるという自負もあるが、それでも俺には負ける理由はある。

 

しかし、それを公然と口にすることは極力避けた方がいい。ましてや今、俺達がいるのは食堂。人は少ないとはいえ、俺達以外に学生が存在しないというわけではない。

 

「まあ、あれだ。その日のコンディションもある。俺だって人間なんだから、調子の悪い日くらいあるさ」

 

なので、俺は当り障りのない理由を挙げることにした。一夏やオルコット、篠ノ之やシャルロットの、『IS搭乗におけるタイムリミット』という理由を知る四人は少し苦い表情を浮かべる。ラウラに嘘を吐くのは心苦しいが、まさか持病の事を言うわけにもいくまい。

 

「しっかし、あれだけ動かせるのに、体調不良で勝ってもね」

 

「それは…まあ、そうですわね」

 

「そう言ってくれるな…俺だって毎日健康万全の状態が好ましいけど、生憎この学園に来てから気が休まることの方が少なくてね」

 

そう言いながら、オルコットを軽く睨むと小さくなって黙りこくる。気が休まることがない、まったくその通りだ。平日なら、いまだに俺や一夏を求めてやってくる女子生徒の相手や、主に黛薫子がもってくるヘンテコ取材につき合わされたりするし、休日となればオルコットの襲撃など、様々なイベント盛り沢山。正直、もう少し遠慮してもらいたい。

 

「と、いうわけだ。俺も疲労が抜け切れてないの。今更ながら、男子ってだけで食いついて来る生徒はまだまだいるからな」

 

「…納得するには少々情報不足です」

 

「いや、結構きついところもあるんだぞ。ここの生活は」

 

「その程度でレイジの敗北理由に結びつけるのは難しいです。そんなもの、跳ね除けてしまえるでしょう」

 

だがそんな俺の説明ではラウラは納得してくれていないようだった。しかもグッと握り拳なんて作って、俺を話の中で持ち上げてくる。この妙な頑固さは嫌いではない。だが、どうもラウラは俺を完璧超人か何かと勘違いしているようだ。なんだ、新手の宗教ですか?

 

「そう言わないであげてよ、ラウラ。ここでの男子生活の疲労はとんでもないものだよ?」

 

そんな俺を超人化させようとするラウラを静かに諭すように言ったのは、シャルロットだった。

 

「毎日のように皆に追い掛け回されて、休み時間もなかなか休めない。それにただでさえ慣れない環境に放り出されているんだから、疲労もして、体調崩すこともあるよ」

 

「む…だが――」

 

「ラウラだって、四六時中いろんな人…カメラを持って、妙に血走った眼をした人とかこっちを質問攻めにして、それに若干脚色を入れて書き記す人とか、食事する際に隣の席に金額をつけて、半強制的に知らない人と食事取らされたり、そんな人達に追い掛け回されて、休まる暇もなければ、疲れたり、判断に狂いが出たりするでしょ?」

 

「むぅ…」

 

一度は男子としてこの学園で生活していたシャルロットの言う「いろんな人」の表現は当たり前ではあるが非常に的を射たものであり、事実今でも時折俺や一夏に襲い掛かる新聞部の存在に酷似していた。なんであいつらは校内新聞にあんなに必死なのかが、時々疑問に思えてくる。

 

「実際、どれくらい疲れるんだ?」

 

「どれくらい…うーん、どんな表現が適切かな、零司」

 

このタイミングで俺に振るか…そうだな、ラウラが納得できるくらいに疲れる状況下…

 

「そうだな…無表情で激昂した千冬さんに追いかけられるくらいには疲れる」

 

「…ッ!?」

 

「「それは…嫌だな…」」

 

表情が固まり、手に持ったフォークがお盆の上に落ちる。どうやら俺の表現はラウラを恐怖で固める程度には効果があったようだ。だが、そんなラウラよりも気がかりなのは理解させる目標だったラウラと同時に、一夏と凰が深いため息を吐きながらつぶやいたことだ。何、お前ら追いかけられたことあるの? それはさぞ恐怖に満ちた光景だっただろう。

 

「ま、それくらいの恐怖と疲労で俺の学園生活は成り立っているというわけだ」

 

「な、なるほど…それは…体調不良も致し方ないかと…」

 

おそらく、俺の言った光景を脳内で浮かべているのだろう、ラウラは青い顔をして、顔を伏せた。千冬さんからどんな訓練を受けたのかは詳しく知らないが、その日々はラウラに軽いトラウマを植え付けるには十分なものだったのだろう。

 

「というわけで、俺が負けるのも致し方なし…ま、二回しか負けてないけどな」

 

「…次こそ、地面に叩き落として見せますわ」

 

「おー、そりゃ楽しみだ」

 

手に持ったフォークを握りしめて、こちらを睨むオルコットに軽く挑発気味に笑みを浮かべる。そんな俺の横で――

 

「まさか、そのような疲労にさらされているとは…なんてことだ…私が近くにいながら…」

 

なんだか、俺の言葉で違う方向に落ち込み始めているラウラがうわごとのように何か呟いていた。ちょいとショックのデカい話だっただろうか? 話を盛り過ぎるのも考え物だな。

 

「ちょ、ちょっと言い過ぎたか?」

 

「うーん、そうかもしれないね…」

 

「……レイジ!」

 

やり過ぎたかもしれないと、俺とシャルロットが軽い反省をしているとラウラはバッと顔を上げて、俺の名前を呼んだ。こちら向いた彼女の目には何か新たな決意のようなものが感じられる。ああ、何だろう。なんか嫌な感じが…また厄介ごとかな…

 

「…なんでしょう?」

 

「今日から、私は…あなたを護衛します!」

 

「…は?」

 

いきなりラウラの口から出た言葉は、この異質な学園で日常生活を送る俺でもあまり聞かされないものだった。

 

「護衛って…何から?」

 

「そのレイジに襲い掛かる、背筋も凍るような恐怖からです!」

 

…確信した、話を盛り過ぎた。なんかラウラを変な方向に向かわせてしまったようだ。

 

「今日、この時、この場所で! 私は今後の学園生活において、レイジに危害が及ばぬように、徹底して周囲の恐怖に立ち向かいます!」

 

「いや、あのなラウラ…」

 

「だ、大丈夫です! 織斑教官のような恐怖の塊のような存在が来たとしても、私が全身全霊を込めて、この身を盾にしてでも、守って見せます!」

 

錯乱しているかのように…あ、いや錯乱しているのだろう。ラウラは俺が何か言おうとしたのかも気づいていないようで、俺の右手をしっかりと握りしめた。というか、お前は千冬さんの事を恐怖の塊と言っていたけど、いいのかそれで。

 

「食事中や授業中はもちろん、睡眠、入浴の時でも傍にいて守ります!」

 

「い、いや、それは遠慮してもらいたいのだが…」

 

「大丈夫です! あなたは私のよ…嫁です! 私があなたを守るという行為に矛盾などありません!」

 

私の嫁…か、相変わらずそれは健在なんだな。というか、風呂はまだだが、睡眠の時は一回もう潜り込まれているんだよな。そしてその時にあった出来事…まだ脳内にしっかりと刻まれている。

 

「レイジ、いいですね!」

 

「そ、それは…ははは…」

 

がっちりと俺の右手を握りしめ、必死の表情で同意を求めてくるラウラに俺は愛想笑いを返すしかできなかった。

 

「…何笑っているのさ」

 

しかし、その笑いが妙なところに飛び火したようだ。

 

「…シャルロット?」

 

首を百八十度回し、左側へと向けた。するとそこには、コップに入ったアイスティーから出たストローを咥えて、こちらをジトッとした目で見るシャルロット。ありゃ…今度はどうした?

 

「しっかり断らないと駄目だよ、レイジ。ラウラはそういうこと、やる娘だよ」

 

「いや、断るといってもな」

 

「それとも、そういうことしてもらいたいのかな?」

 

「…んん?」

 

目に見えて不機嫌なシャルロットの言葉に首をかしげる。そういうことっていうと、さっきのラウラが言っていた風呂と睡眠の時も護衛するってやつか?

 

「それとも、一回一緒に寝ちゃったから、それでも思い出していたのかな?」

 

「ちょっ!? お、お前何をいきなり!」

 

シャルロットの口から出たセリフに、驚きの声が出た。い、いきなりそれをぶっ放しますかねシャルロットさん!?

 

「…ねえ、零司。ちょっと今、聞き覚えのないことをシャルロットが言ったような気がするんだけど?」

 

シャルロットの投下された爆弾、それに真っ先に食いついてきたのは凰だった。それも、先ほどの、アリーナで俺とオルコットをからかっていた時のような楽しげな雰囲気はない。もっと暗く、よどんだ雰囲気だ。

 

「く、黒瀬さん…まさか、そんな…」

 

そして先ほどから静かに話を聞いていた篠ノ之からは、信じられないといった顔をしており――

 

「こ、ここは学び舎ですのよ!? 黒瀬さん、あなたはそれなのにいったい何を…!」

 

オルコットは怒りと恥ずかしさからか、顔を真っ赤にして今にも噛み付いて来てそうな表情を浮かべている。

 

そんな三者三様の反応。特に前者明らかに好意的なものはなく、そんな事態を引き起こしたことに対する俺への憤りにも似た感情が見て取れた。

 

ちなみに一夏は…

 

「……」

 

もう救えぬと考えたのか、無言でこちらに目を合わせようとせずに、眉間にしわを寄せながら、話から逃げるように昼食のアジを箸で突いている。おい、同じ男子として少しはこちらの味方になるようには考えないのか、お前は。

 

「いや、待て…皆、少しは冷静になろうじゃないか」

 

皆を、強いてはこの状況でおそらく最も焦っているであろう自分自身を落ち着かせる為に俺はそう口にした。

 

「私は冷静よ、うん、とっても冷静…だからどうしてそうなったのかを私にしっかり吐き出してくれると助かるんだけど…ていうか、吐け」

 

「黒瀬さん、どうしてそのようなことをしたのですか!?」

 

「いくら自室だとしても、それを密会場とするなんて、なんてうらやま…いえ、けしからんですわ!」

 

…うん、わかった。それくらいでみんなが冷静になってくれるなら、今俺は毛穴から暑さでは掻かない汗をじっとりと滲ませてなどいない。

 

「シャ、シャルロット…お前ぇ…」

 

「…ふん」

 

この爆弾を投下した本人を非難するように睨むが、シャルロットはプイッと明後日の方向へとそっぽを向いた。くっ、一体なんでこんな事をするんだシャルロット! 俺の愛想笑いが癪に障ったのか! それにしたって、これはとんでもない仕打ちだぞ!

 

「ん?…でもそういえば、シャルロットも零司と同じ部屋だったよな、入学当初は」

 

「え…!」

 

そんな時だった。すっかりこの話から逃げていた一夏がふと口にした一言、完全に予想外のことろからの言葉に今度はシャルロットの動きが固まった。

 

「そういえば…」

 

「それもそうね…」

 

「あ、いや…あれは仕方なかったというか…」

 

まさかの飛び火にシャルロットは、周囲の目線が集まり始めると同時に顔を徐々に朱色へと染め、慌てた様子に変わった。いやまあ、シャルロットに飛び火したところで俺への糾弾は収まらないだろうが…

 

「シャルロット、諦めて大火傷しよう。もとより、お前の撒いた種だ」

 

「そ、それはそうだけど…で、でもあの時は別々のベッドだったじゃないか!」

 

「「「あの時はってどいうこと!?」」」

 

焦りに焦ったシャルロットの口から出た言葉に俺は手で目を覆った…お前、俺にどれだけ火傷させたいんだ? いや、もう火傷じゃすまないけどさ。

 

「零司、説明しなさい。ことと次第によっては潰すか砕くかを選ばせてあげるから」

 

「黒瀬さん、こんなことは間違っています! そんな乱れた生活はただちに正すべきです!」

 

「そんなふしだらな人だとは思っていませんでしたわ! 根性叩き直して差し上げましてよ!」

 

三人とも言っていることは違えど、基本的には同じだ。ほら、もうだめだ。こいつら俺が何を言っても聞く耳持たんだろ。言い訳も言い逃れも言いくるめもできない。見事に積んでいるこの状況。

 

「…後先考えずに火種を吐き出すからこんなことになるんだぞ」

 

「うう…ごめんなさい」

 

これからの糾弾を避けられないこの状況に俺はため息一つした後に諦め気味に緑茶をすする。策士策に倒れる…というよりも、シャルロットの場合は人を呪わば穴二つ、だな。

 

「あー、皆…とりあえず言いたいことはあると思うがとりあえず飯を食ってからにしよう。俺に体力の補給を――」

 

もう逃げられないことは理解した。だからこそ、これからの質問攻めに対して体力くらいつけておかないと、そう思って、食って掛からんとする皆に言った。

 

ピンポンパンポーン

 

そんな時、食堂の天井内部に取り付けられた学校放送用のスピーカーから気の抜けた音が鳴り響いた。学内放送…比較的に学生が校舎にいない日曜日だっていうのに珍しいな。

 

『学内放送、失礼します。黒瀬零司君、シャルロット・デュノアさん、至急職員室に来てください』

 

…このタイミングで校内放送によって呼び出されるとは、今日一日運がないとばかり思っていたが、そうでもないようだ。

 

「…だそうなんで、俺達は一足先に失礼させてもらうよ。ほら、シャルロットも」

 

「え…あ、うん」

 

「あ、ちょっと! あんた達、逃げるの!」

 

俺はうどんの最後の一口を汁中に入れ、入れ物に口をつけて汁ごと口へと流し込むとすぐさまお盆を持って、席から立ち上がるとシャルロットにも声をかける。そんな、いち早くこの場所から逃げようとする俺達…というよりも俺を逃がさんとばかりに、凰は勢いよく立ち上がる。

 

仕方ない、こんな時は先ほどの言葉通り、行動してもらおう。

 

「ラウラ、出番ぞ!」

 

了解(ヤ・ボール)!」

 

先ほどの話の所為もあってか、俺の声に即座に反応したラウラはこちらに手を伸ばす凰の腕を横から掴む。さすがに動きは早く、咄嗟の動きに凰は反応できずに拘束される。

 

「ラ、ラウラ! あんた、邪魔すんじゃないわよ!」

 

「ラウラさん! そこをお退きになってください!」

 

「ラウラ、話は聞いていただろう! 私は黒瀬さんに話が…!」

 

「三人の相手は頼んだぞ、ラウラ」

 

「任せてください、レイジ!」

 

反応の遅れた二人も凰を拘束するラウラを退けようとするが、そこは現役軍人としてしっかり仕事をしてくれている。さっそく俺を守ってくれるとは、あとでラウラには何か奢ってやろう。

 

「それじゃ、皆お先に」

 

「そ、それじゃあ先に失礼するよ」

 

「シャルロット、お前の話は本当なのか!? せめてそれだけでも教えてくれ!」

 

「黒瀬さん、今すぐ真実を話した方が身のためですわよ!」

 

「零司、あんた待ちなさいよ!」

 

後ろから三人の美少女が俺の名前を呼んでいる。状況が状況なら嬉しい気もしたが、自分から猛火に飛び込むほどドMではない俺はお盆を食堂の人に渡すとシャルロットの手を引いて、小走りに食堂を後にするのだった。

 

EP46 End




はい、46話、終了です。いかがだったでしょうか?

シャルロットがいいポジションにいるといったな…



「あ れ は う そ だ」



ま、嘘にするつもりは毛頭ないんですがね。なんだかすっかりシャルロットが嫉妬の悪魔と化している件について…作者としても少々方向性を見失っている節が…いかんいかん、彼女はどちらかというと正統派ヒロインなのに…どうしてこうなった…(ーωー;)

前書きでも書いたように、オリジナルは日常的な、シリアス少な目、ギャグ(?)多めでお送りしますので、いつもと若干話の雰囲気が変わるかもしれませんが、どうかご理解のほどをよろしくお願いいたしますm(_ _)m。

さて、次回は職員室に呼び出された零司とシャルロットというところから始まります。もしよろしかったら、お目通しを…

読者様の感想や意見を見るのも、私の楽しみの一つなので感想等がありましたら、どしどしどうぞ。

それでは、また(^ω^)ノシ
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