いやー、我ながらどうしてこうも投稿時間を守れないのかと不思議でしょうがない…まあ、単純に私がペース配分の苦手な人だというだけの事ですがね、ははは…
では前書きにおけるいつもの愚痴はここまでにして、作品に移りましょうかね。それではEP48です、どうぞ
日曜日、天候は晴れ。
食堂はエアコンが程よく効いており、熱くもなく寒くもない。適度な温度で調整されていた。
朝起きた時には、携帯電話に入った情報を見て、げんなりしたが今日は昨日と違ってオルコットに無理やり外へと連れ出されることはない。安全地帯にいると、昨日自分が置かれていた状況ですら他人事のように考えてしまう。外気温度は36℃、湿度は控えめの36%。まさに猛暑日ともいえる温度はシャルロットやイリア先生のいう「驚くような暑さ」という言葉を容易に納得させる。今日の、このカラッとした日差しは日本の人々を何人昏倒させるのだろうか。
「零司、この計算はどうやって解くんだ?」
そんな事を考えながら、コップに注がれた麦茶で喉を潤していると、テーブルに向かい合わせに座って、唸っていた一夏が顔を上げていた。さっきまで視線を落としていた数学の教科書のページは進みを見せていない。
「ここは、yを移行して、xを両辺にかけると…あとは公式にぶち込む」
「ああ、つまりこっちの式を計算して――」
「あー、そこは公式でまとまっているから、変にバラさなくてもいいって、そのまま計算してしまえ。説明はあとでまとめてしっかりやるから、とりあえず設問を解いてみろ」
手元にあったシャープペンシルで矢印を書いて、計算式を説明していく。だがそれに納得しきれていないのか、難しい顔をして、ペンを動かしていく。
「あの…黒瀬さん、これは」
「はいはい、なんでしょうか」
一夏が問題を解いていくところを眺めていると、今度はその隣に座る篠ノ之から質問が飛んできた。
「この計算、公式の文字数に当てはめるのは分かるのですが…数値はどこに?」
「ああ、これは問題文に書いてある。この『止まっている』ってところと『ざらざらした面』ってのは、加速度と摩擦係数を指しているんだ」
「…数値で出してくれれば楽なのですが…」
「それは俺じゃなくて物理学者なり、教科書作った連中に言ってくれ…あ、シャルロット、そこの物理の参考書取ってくれ」
物理の文章題に小さな不満を漏らす篠ノ之に苦笑を浮かべながら、俺の隣に座るシャルロットに声をかける。
「うん、いいよ。何色のだっけ?」
「その青いのだ」
「これかな…あ、駄目だよラウラ。そこは古語の翻訳だから、現代文とは違う翻訳にしなきゃ」
腰掛けるソファーの奥に置いてあった参考書を俺に手渡すと、シャルロットは自分の目の前で古文の訳に苦戦するラウラの回答に注意を入れる。
「む、違うのか…」
「その“あたらし”っていうのは、『新しい』って意味じゃなくて『惜しい、勿体ない』って意味なんだ。『新しい』の古語は“あらたし”だよ」
「??? 違いがよくわからん…」
「…デュノアさん」
シャルロットからの説明に眉を顰めて首をかしげながらも、ペンを走らせていくラウラ。その隣で青島が質問するのか、手を上げてシャルロットを呼んだ。
「どうしたの、青島さん」
「ごめん、電気も波も、何一つ頭に入ってこない」
「…あー」
科学の教科書を片手になんとも深刻な表情で、半泣きの目をしながら呟く青島に、シャルロットはなんとも言えない表情をする。
「だ、大丈夫だよ。最初から全部わかる人なんていないし、ちょっとずつでもやっていけば…」
励ましの言葉としては、少々弱いがシャルロットは青島に苦笑に近い笑みを浮かべながら言う。
「テスト、来週だけどな」
「ああ…もうおしまい…」
「ちょ、ちょっと零司!?」
ほぼ無意識にこぼれた俺の一言が止めとなり、青島が食堂のテーブルに崩れ落ちる。それはもう、止めのアッパーカットをくらったボクサーがリングに沈むが如く。
「あ、青島さん。大丈夫だよ、精一杯頑張ろう?」
「なんでこんなに不明瞭なの~」
「なめげ…なめげ? これは本当に日本の言葉なのか…?」
「ユークリッドの互除法ってなんだっけ?」
「加速度と時間、式の展開を変えて…あれ? どっちが…」
シャルロット、青島、ラウラ、一夏、篠ノ之…教える側も教わる側も、それぞれが悲鳴にも似た声を食堂に響かせる。そんな中で、俺は自分のノートから視線を外すと、何気なく天井を見つめて、呟いた。
「どうしてこんなことに…」
言いながら、俺は昨日の職員室での事を思い出していた。
・
「期末テストだ」
やけに疲れた顔の千冬さんは、ため息交じりにそんなことを言った。
IS学園は、主にISの操縦者の養育。そしてISの成長の促進を主としている。しかし、学園という名が付いていることもあり、一般教養の勉強も行う。それも普通の高校よりも高度となっている…らしい。
らしい、というのも、俺がほかの高校の事をイマイチよく知らないのと、一夏からの情報なのだ。ゆえに仕方なし。
「で、その期末テストをするにあたって、非常にマズイ生徒がうちのクラスに四名ほどいる」
「四名、ですか?」
「ああ、四名だ」
首をかしげるシャルロットに、千冬さんは繰り返して四人という。四人、と言われてもイマイチ、ピンと来ない。
おそらく一人は確定している。一夏だろう。あいつはスタートダッシュの時点でだいぶ遅れているから、仕方がない…いややったことを考えれば、仕方なくはないのか?
「一人はまあ、一夏だとして」
「…まったく情けない奴だ」
俺の言葉に、深いため息で返す千冬さん。身内だから、なおさらそういう気持ちが強いのだろう。まあ、いつもの状況を見ていると千冬さんが優秀過ぎるっていうのもあると少なからず思うところもあったけど…今回の件は完全に一夏が悪いし。電話帳と間違うとは何事か。
「ほか三人って誰です?」
「篠ノ之、ボーデヴィッヒ、それに青島だ」
「…へぇ」
つらつらと上げられた名前がちょっと以外で驚きに声を溢す。篠ノ之なんて真面目に勉強していそうだし、ラウラも軍人として必要以上に勉強をしているだろう。青島も篠ノ之と同じように、普通に真面目に勉強していそうだ。
「三人とも、問題なんですか?」
「ああ、このままでは合格点にはまず届かん」
考慮する点もなし、バッサリ言い切ったな、おい。しかしそこまで悪いとなると、本当にマズイのではなかろうか。
「今日、織斑と篠ノ之、ボーデヴィッヒは呼び出しをかけた…今日は部活があるから、青島は後にしたがな」
あの三人が俺達の昼食のタイミングに顔を出したのは、呼び出されていたからか…難儀なものだな、あいつらも
「青島さんって部活やっていたの?」
「ああ、テニス部みたいだぞ」
シャルロットの問いに答えながら、ふとその瞬間の事を思い出してみると、ユニフォーム姿の青島が浮かんだ。うん、似合っていたな、あの姿は。特にあの短めのスカートはいつも見る青島の大人しいイメージとは離れていながらも、また違った味を出していた。
「結構、様になっていたぞ」
「そうなんだ、今度見に行ってみようかな」
「いいと思うぞ。仲の良い友達が応援しに来てくれるなら、嬉しいだろうし」
「そう思ってくれるなら、嬉しいね」
そうシャルロットは笑う。最近知ったことだが、青島とシャルロットは結構仲が良かったりする。しかも聞いたところによると、まだ男子を装っていたことに仲良くなったとか。社交的でクラスの人気者であるシャルロットだが、しっかりとした『友達』と呼べる間柄で初めて付き合いがあったのが青島だったらしい。その後、タッグマッチ戦でぶつかったこともあって、すっかり仲良くなっていたという。
「水を差すようで悪いが、行くならテスト明けにしておけ。しばらくはテスト期間だから、部活も早めに切り上げることになっているからな…ほれ」
我ながら友人たちの交友関係に疎いものだ。そんな感想を覚えていると、シャルロットにそう告げて千冬さんは机の上に置いてある棚から茶封筒を取り出して、こちらに差し出す。
「これは?」
「各授業の先生方から、その四人に向けて作られた課題プリント、その青島の分だ」
「なぜ、俺に?」
茶封筒を受け取りながら、千冬さんに訊く。ただ渡してこいっていうんだったら、わざわざそんな話をしなくてもいいはずだ。
「それが先ほどの頼みにつながって来る」
「…零司、僕はちょっとわかった気がするよ」
そういうシャルロットは困ったような表情を浮かべていた。そんな顔をすることなのだろうか。ちょっと不安になってきたぞ。
「一体、俺達に何をさせる気ですか?」
そんな問いかけに千冬さんは一呼吸おいて、先ほどと同じように疲れた顔をして口を開く。
「勉強を、教えてやってほしい」
「……は?」
・
IS学園の期末テストは基本的に他の高校と大きく変わるところはない。現代文、古文、数学Ⅰ、数学A、科学、物理、歴史、地理、公民、英語。以上、十科目に置いて、点数を計かる。不合格点数の目安は六十点と若干緩く、普通に授業を理解していれば、取れる点数ではある。そこら辺は、やはりIS教育が優先されているのもあるのだろう。ちなみにIS教育に対してのテストは、また別途で用意されているらしい。
「つまり、目安は六十点以上。問題の六割。十問中六問、二十問中十二問、三十問中十八問。それだけとれば、ギリギリでも合格点までは持っていける」
…持っていける、はずだった。
「それが難しいから、こんなことになっているのは重々承知しているつもりだ…だが…この点数はさすがに予想外過ぎるぞ」
四枚のプリントを手に、眼前に座る四人を見る。それぞれが俯き、影を落としている。
千冬さんからもらった茶封筒にはそれぞれ、苦手教科の演習問題のまとめが入っており、軽い小テストのようなものだった。
どの程度、成績が悪いのか、とりあえずもらったその日に四人を集めて、解かせてみた。そのほとんどか基礎的な問題であり、これでどこら辺を重点的に教えればいいのか、割り出せたらいいな、という考えだった。
篠ノ之箒
苦手教科:科学 物理、数学Ⅰ、数学A
小テスト:科学26点、物理24点、数学Ⅰ24点、数学A20点
ラウラ・ボーデヴィッヒ
苦手教科:現代文、古文、歴史
小テスト:現代文22点、古文20点 歴史26点
青島雫
苦手教科:科学、物理、数学Ⅰ、地理
小テスト:科学18点、物理20点、数学Ⅰ26点、地理26点
織斑一夏
苦手教科:古文、数学Ⅰ、数学A、科学、物理、英語
小テスト:オール27点
「・・・・これは酷い」
結果を見ながら、頭を抱える。ああ、なるほど、千冬さんが頭を痛くするのもわかる気がしてきた。この点数で期末テストに臨むっていうのだから、クラス担任としては気が重い事この上ないだろう。
「ていうか、10点代が出てくるとは思いもしなかったぞ、青島」
「…すみませんでした」
「いや、謝ることじゃないけどよ」
完全に消沈して、消えかかりそうな青島は頭を下げる。しかし、それにしても酷い。一番まともなのが篠ノ之の24点だというのだから、本当に酷い。
「一夏、全問配点2点のテストで全教科27点っていうのは、狙ってやってる?」
「それが狙えるほど、ウケに走れる余裕もないです、はい」
シャルロットの質問に青島同様に掠れたような声で返事をする一夏。ああ、重症だ。ここにいる四人すべてが手の施しようがないほどに重傷だ。
「まあ、ラウラも古文10点とかだしなぁ…こりゃ手がかかりそうだ」
「わ、私はほかの教科で織斑には勝っています!」
「そ、それ1点差くらいじゃねえか!」
「勝ちは勝ちだろう!」
「ほとんど誤差だ、誤差!」
「お前ら、どんぐりの背比べって知ってるか?」
こちらの言葉に耳を貸さずに、ぎゃいぎゃいと罵り合いを始める一夏とラウラ。その隣で完全に気を落として、青い顔をして動かなくなった青島。
「あ、青島さん、今からでも頑張っていこうよ、ね!」
シャルロットはそんな青島に励ましの言葉をかけるが、まるで屍のように反応がない。漫画的に描くならば、今青島の口からは白い魂が流れ出ているだろう。
「篠ノ之」
「…はい」
「もうちょい…いや、もっと…いや、かなり…頑張ろう」
「………はい」
そして俺の精一杯の励ましに対して、嫌に深い返事をする篠ノ之。真面目な性格上、もうちょっと勉強できるもんだと勝手に思っていたが、人は見かけによらないとはこのことか…
「こりゃ、大変だな」
「あははは…」
そんな状況を見て、ため息とともに溢す俺に対してシャルロットは引きつった頬を誤魔化すように、精一杯の笑みを浮かべていた。
・
それが昨日の話、見るからに危険な点数であり、本来抱える必要のない頭を抱え、四人の勉強を見る。テストまで、もうすぐ一週間を切る。そんな状況でギリギリ二桁くらいの点数を六十点まで引き上げなくてはならない。自分の勉強もしなければならないし、考えれば考えるほど、お先真っ暗な話である。
「零司、ここの計算式は…(2.3)の公式を使う、でいいんだよな?」
「そうだな。ただそれを使う前にyとxを右辺と左辺に偏らせろよ? そっちの方が楽に計算できる」
俺自身の試験勉強として物理の参考書を眺めながら、一夏の質問に受け応える。質問の受け答え以外は、カリカリとペンの走る音だけが聞こえる。一見すると、息が詰まりそうな圧迫感を覚えるのではないかと言われるかもしれないが、これでいい。否、こうでなくてはならない。それだけ俺の目の前にいる友人たちは切羽詰まった状況にあるのだから。
「…うーあー…」
しかしそんな状況はうめき声のような悲鳴を上げ、ガツンと額をテーブルへと打ち付けて動きを止めた青島によって打ち砕かれる。参考書から青島へと視線を移すと、憔悴しきった顔をしており、パクパクと酸欠の金魚のように口を開閉している。
「デュノアさん、私もう駄目…限界、ギブアップ、
「そこは諦めないで試合続行しようよ」
某バスケ漫画の顧問教師も呆れるような一言を吐きながら、青島はテーブルへと突っ伏す。まだ一日目だというのに、諦めの早い事だ。
「でも試合終了したら、夏休み終了のお知らせだぞ。部活やっている人間としてそれはまずいんじゃないのか?」
「…そう言われましても…」
「…ま、時間もいい感じだし、少し休憩入れるか」
壁にかけられた時計で時間を確認するとそろそろ午後三時であることに気づき、参考書をパタンと閉じるとまっさきにギブアップした青島以外のみんなも疲労のためか大きく息を吐いて、椅子に寄りかかる。勉強会は午前八時から始め、昼に一時間休憩取ったから、大体六時間くらいはやっていたはずだ。途中休憩を挟んだものの、ほとんど通しでやっていたのだから、疲労が溜まってしまうのも頷ける。ここはひとつ、飲み物でも買って来て一息入れるか。
「皆何が飲みたい? 買ってきてやるよ」
「俺、紅茶」
「私は緑茶を」
「レモンティーでお願いしますー」
「レイジ、麦茶はありますか?」
「お前ら見事にバラバラだな…」
一人で取って来るといっているのだから、ある程度まとめてくれた方が助かるのだが…まあ、自業自得とはいえ、頑張っている皆には文句は言うまい。
「零司、僕も手伝うよ」
「ありがたい、そう言ってくれると信じていた」
一夏達の注文を聞いて、頭を掻いているとシャルロットが腰を上げて、そのまま俺の隣にならんだ。こうやって気を利かせてくれるのは非常にありがたい。
「零司、皆大丈夫かな?」
食堂の券売機の隣にある自販機に到着するなり、小銭を入れて、ボタンを押して、落ちて来たペットボトルを取ろうとした俺にシャルロットは問いかけて来た。今回の勉強会は主に担当として、俺とシャルロットが得意分野を交換交換に教えるということで、今の形となっている。そのためにシャルロットも教えながら、四人の成績に不安を覚えて、自分の見ていない教科の方はどれほどなのかが気になるのだろう。
「んー、優しい答えと厳しい現実と、どっちがいい?」
「…現実で」
「難しいんじゃないか?」
次の飲み物を買いながらシャルロットの注文に応えると、非常に大きなため息を吐かれた。実際問題、基礎問題で組まれた模擬試験で20点台しか出せないのに、あと一週間で合格点の60点まで持っていけというのも、なかなかに骨の折れる作業だ。それに俺達だって勉強をしないわけにもいかないから、その時はどうやっても見る時間は少なくなる。
「助けてやりたいって気持ちはあるけどね」
「本来なら、織斑先生達が教える方がいいんだろうけど」
「それが無理っぽいから俺達がやっているんだろ?」
言いながら、なんだか変なことになっているなともう一度思った。
本来なら成績不審者として集められたあの四人の勉強を見るのは教員方の仕事だった。だが、ここ最近における襲撃事件に対して、教員の手による学園周辺の見回りを強化し、学園内のカメラの数も二倍に増やしたらしく、それらの対応に追われて四苦八苦している。そのために俺達が一夏達の勉強を見ることになったのだ。
「大体、教えるならオルコットみたいな首席学生をチョイスするべきだろうに…」
「セシリアも忙しいからね」
「それはそうなんだけどな」
そう言われて、俺は窓の外を見る。昨日の今日で、この学園に首席で入学している優等生のオルコットは思いっきり自主練習に熱の入ったらしく、今も凰相手にアリーナを飛び回っているらしい。昼頃にすれ違った際に、凰に恨みがましい視線を向けられたが、火をつけた一因はお前にもあるだろうに。
「それに零司は織斑先生から信頼されているっていうのもあると思うけど?」
「厄介ごとが増える信頼なら諸手ででは喜べないな」
「と言いつつも引き受けちゃっているのは、零司らしいよね」
「俺らしい、ねぇ」
それでわかる俺らしさって何だろうとも思ったが…まあ、それはいい。千冬さんやイリア先生の頭痛の種を減らせるのなら、多少の…いや多少というには少しばかり大き目な問題ではあるが…面倒事を預かるくらいはしてもかまわないと思っているのは事実だし。
それよりも、だ。俺達には目を向けなければならないことがある。
「スタートダッシュで遅れた一夏が点数悪いのは分かるが、他の三人があそこまで悪いのはどういうことだ」
「ラウラは完全に言葉の壁だね。僕やセシリアも、最初は古文が苦手だったから、覚え方を教えればどうにかなりそう」
「
「あー、凄く言いそうだね」
自販機から出て来た麦茶を見ながら、頭の中でまさにその台詞を真顔のままで吐くラウラを想像しながら言うと、それに納得できたのかシャルロットは苦笑を浮かべた。
「篠ノ之さんはどうなの?」
「んー、さすがにこの学園に入学するだけのことはあって、頭はいいのか、呑み込みは早いよ」
「へぇ、そうなんだ」
「ただ考え方が硬いな。暗記した計算式は合っているんだが、文章題になるとそれをどこに当てはめるかってので苦労している感じだ」
頭の中が硬い、特に文章題による計算が基本となる物理と化学なんかは非常に弱い。テスト点数を見る限り、根っからの文系なのが伺える…こういっては何だが、文系に強くて理系に弱いっていうのは予想通りだった。
「一夏は記憶力も悪くないし、単純に勉強不足だな。今までやってない分をやってもらう」
「時間がないけど、そればっかりはね」
「ああ…あとは――」
「うん、あとは――」
俺とシャルロットは同時に一夏達の方を向いて、視線を青島へと向ける。ちなみに先ほどと同じように机に突っ伏したままで、周囲に何か言われたのか、魚の死んだような目をしていた。
「さて、どうしたもんかね」
「青島さんも根気よくやっていくしかないんじゃないかな」
「寝る間も惜しんでって話にならないようにしなきゃな、睡眠不足は美容の敵だ…ほい」
「そうだね」
冗談めかした俺の言葉に笑って応えるシャルロットに四本目と五本目のペットボトルを手渡す。その時に――
「……」
「シャルロット?」
――その笑いが少し、ほんの少しだけぎこちなく見えた。実を言うと、わずかな変化だが先ほどから少し奇妙な感覚を覚えていた。
「…どうかしたか?」
「え…な、何が?」
「いや、なんか…」
俺の問いかけにシャルロットは少し戸惑いながら、聞き返してくる。まあ、唐突に調子を聞かれてもこんな反応になるのは当たり前だ。そう考えれば、なんの疑問点もなく、聞くことなんて何もなくなるのだが…
「何か言いたそうに見えたから、さ」
そうなのだ。どうもシャルロットが先ほどからこちらをチラチラと盗み見るようにしていた。まるで何か言い出すタイミングを見計らうかのように。
「…そんなことは、ないよ」
シャルロットは俺からの質問にそう返すと、俺からついと目を逸らした。そんな態度を取られるとちょっと気になるんだよなぁ。それにシャルロットは貯め込んでしまうタイプだし、少しくらい強引に聞いた方がいいのか?
「そう、か」
そう思ったが、やっぱり聞き出すのを止めることにした。本気でため込もうとするのなら、こんな仕草は見せんだろうし、言い出そうという動きが見えたのだから、シャルロットが言えるタイミングまで待った方がいいだろう。
「でも言いたいことがあったら言えよ? お前からの頼みなら、俺は出来る限りの事はするつもりだからさ」
「…零司」
だからとりあえず、俺からの意志だけは表示しておくことにした。この言葉に深い意味はないが、それ故に嘘偽りはない。シャルロットが俺を頼ってくれるならば、俺は全力を持って、手助けをするつもりだ。
「ま、どれほどの事が出来るかはわからんけどな」
「…うん、ありがとう」
俺が苦笑しながら言うとシャルロットは小さく微笑を浮かべる。そんな表情に少し空気が和らいだのを感じ、ペットボトルを両手に持って、一夏達の方へと踏み出す。
「零司は…今夜…」
「ん?」
「…ううん、なんでも」
何か言おうとしたが、シャルロットは言い淀んでしまった。まあ、急ぐことはない。こうやって言おうとしてくれるだけでもいい。
「少し歯がゆいがね…お?」
一夏の方へと戻っていく。すると――
「なるほど、そんな制度が…」
「うん…まあ、それも仕方ない事なんだけど…はぁ」
隣同士の席に座っていた為か、疲れた目のラウラと起き上がらないままの青島という珍しい組み合わせの会話が聞こえて来た。
「何か、テスト勉強に繋がるいいアイディアでも出たか、二人共…はい、飲み物」
「ありがとうございます。残念ながら…ですが少し興味深い話は聞けました」
「興味深い話?」
「た、大した話じゃあないよ…あはは」
皆にペットボトルを手渡しながら、ラウラの言葉に俺とシャルロットは小首を傾げ、顔を上げた青島は苦笑交じりに言う。大したことはない、と言われると逆に気になってしまうのは人としての性だろうか。
「なんでも、青島はこの学園への入学方法が推薦式だったらしいのです」
「推薦…?」
推薦による入学。つまり青島にはIS学園に推薦されるほどの優良な能力を持っているということになる。だが今までの青島の行動でそんな特殊なところは、特に見られてはいない気がする。
しかし、シャルロットは何か思いつくところがあったのか、「もしかして」と続ける。
「ISの操縦技術を買われて、とか?」
「あー、うん。実はそれ。起動試験で目を付けれられてね。一応特待生ってことになってる」
少し恥ずかしそうに笑う青島。思い返してみると、青島のISの操縦技術はいつぞやのタッグマッチにおいて、十分に発揮されていた。代表候補としての実力を持つシャルロットを翻弄していたのは、非常に印象に残っている。
「特待生ってどんなことしてるの?」
「特待生ってことで、皆よりも多くISに乗って、量産機のスペックをどこまで出せるかのデータ収集を主にやってるかな。武器使用のテスターも一応…」
「へぇ…」
青島の説明に素直に感嘆の声が零れた。ほとんどやっていることが各開発企業のテスターだ。好成績を残せるなら、それだけでも食っていけるぞ。
「どうりで乗って一ヶ月と少しであれだけのことができるはずだ。テスターまでやってい
るんだったら、操縦者としては申し分ないな。シャルロットがあれだけ翻弄されていたのも頷ける」
「あ、あれはほとんど博打でしたから、褒められるようなものでもないですよ」
「いや、普通ならばあの方法はすぐにボロが出る。シャルロットの動きをしっかり見ていないとできない。そしてそれを踏まえても、あそこでそんな決断は自分の腕に自信がなければできないはずだ」
「うー…あんまり褒めないで下さいよ…」
ほんのりと朱の帯びた頬を恥ずかしそうに掻きながら、青島は唸る。そんな彼女の横から、ラウラが補足説明を入れてくれる。学園側のお墨付きってことか、そりゃ凄い。
「一夏と篠ノ之は知っていたのか?」
「ああ、林間学校前に青島さんにレクチャー受けた箒に負けたことがある…結構いい勝負だったんだけどな」
「油断大敵だ。誰が近接ブレード一本で戦うなどと言った」
「そりゃそうだけどさ…」
そのことを思い出してか、一夏は小さくため息を吐いた後に紅茶を煽る。今の篠ノ之には『赤椿』があるが、その当時にはまだなかった。量産機である『打鉄』に負けるのは、はやり悔しいところがあったのだろう。
「一夏はこの勉強以外にも、IS操縦のテストの勉強も必要だろうな」
「そうだな…はぁ、やることが山積みだ」
ため息交じりに言うと、グイッと紅茶の入ったペットボトルを煽る。徐々に上達はしているものの、やはり操縦技術は代表候補生には届かないと一夏も理解しているのだろう。専用機を持つ者としては精進が必要、それがわかっているだけでも良い傾向だ。
まあ、それはそうと。
「入試の時は推薦で受かったから、勉強はからっきしだと」
「…正直、入試の問題見た時には受かるとは思ってませんでした」
先ほどまでの表情がガラリと変わり、思いっきり肩を落とす青島。勉学よりもIS操縦技術を取ったのは学園らしい配慮だが、完全に受かる点数ではない娘をこの環境に放り込むのは、なんだかちょっと残酷な気もする。
「学園に来てから勉強はどれくらいしたの?」
「一応毎日、やろうとはしてるんだ」
「…やろうとはしてる?」
「…授業がわからないので、応用はからっきし…なので予習復習もあまり成果が出ずに…しかも消灯時間ギリギリくらいまでISのデータ取っている環境なので…」
涙目で乾いた笑いを浮かべる青島を見て、俺は無言で目元を抑える。そもそも勉強がキツイのに、特待生ってことでデータ取りをしなくちゃいけないから、勉強時間も必然的に削れて…完全にドツボだ…頭痛くなってきた…
「もはやそれは詰んでるんじゃ…」
「ギリギリのところで踏ん張って来ているんだから、そんなこと言わないでよ織斑君」
「18点で踏ん張っていると言われても…」
「踏ん張ってるよ! だって――」
「一桁の点数はない…なんていうんじゃないよね?」
「…て、点数は点数だよ、デュノアさん」
引きつった笑いに空気が重くなる。これは思った以上にマズイ。さっき言ったばかりだが、寝る間も惜しんでやらなきゃならないんじゃないか、これは。
「青島」
「な、なんですか?」
明らかにトーンの下がった俺の声にビクッと震えると若干俺から引きながら青島は返事をする。
「夜になったら俺の部屋に来なさい」
「…へ?」
俺の言葉に青島はどうも間の抜けた声を上げた後―――
「えええええ!?」
――悲鳴のような叫びを上げる。咄嗟の出来事に反応できずに青島の声をモロに受けて、俺は苦い顔を浮かべながら、耳を抑える。
「きゅ、急に叫ばないでくれ…」
「え、だって…えっと…!?」
先ほど褒められていた時などとは比べ物にならないくらいに、顔を真っ赤に染めた青島は混乱したようにオロオロとしている。年頃の少女を男子の部屋に呼ぶのは、あまり褒められた行動じゃない。あまりこういうことはしない方がいいのだが、もはやなりふりかまってはいられないだろう。それだけ、青島の点数は絶望的なのだ。
「今夜、予定とかあるのか?」
「え…えと…ないです、けど…」
「そうか、じゃあ来てくれ…そうだな、今夜八時頃に」
「…は、はい…今夜…夜…黒瀬さんの部屋」
消えかかりそうな声で返事をする青島はそのまま俯き加減に何やらブツブツと呟き始める。青島には悪いが、少々気味が悪い。
「わかっていると思うが、勉強道具を忘れるなよ?」
「は、はい! 了解です!」
「織斑先生が許可してくれますかね…」
「いい顔はしないだろうな…でもあの人が言いだしっぺなんだ、許可させるさ」
険しい顔をする篠ノ之に対して、俺は肩を竦める。さすがにこの点数でテストに間に合わないと言えば、ある程度は許可してくれるだろう。何かしらの条件は付けられるだろうけど、それは甘んじて受けよう。それよりも青島の点数の方が大事だ。
「レイジ、私も今夜行ってもよろしいでしょうか」
そんなことを考えていると青島の隣にいたラウラが、まるで教師に質問をするときのように手を上げた。それも、いやにキラキラした目をしながら。
「遊びで集まるわけじゃないだぞ?」
「それは分かっています。私も今のままではテストが厳しいので、夜もレイジに指導を、と」
…そういうのはそんな期待に満ちた顔をしながら言っても、言葉に説得力が感じられんぞ。
「駄目だ。それに俺が青島をわざわざ部屋に呼ぶのは、青島一人に集中して教えるっていう名目があるんだ。そのために、部屋に呼んでの個人指導なんだよ」
「へ、部屋に呼んでの個人指導…」
俺の言葉を復唱して、さらに頬を赤く染める青島が横目に映る。一体、想像力豊かな青島雫さんはどんな妄想をしているのやら…
「…ズルいです、レイジ。私もレイジの部屋で個人指導してほしいです」
「…なんだかそれだけ聞くと変な意味に聞こえそうだな…」
「変な意味とは何だ、この馬鹿者が」
俺が口に出さなかったことを苦笑気味に言った一夏の頬がこれまた頬を染めた篠ノ之によって引っ張られる。お前ら、一体どんな想像をしているんだ。俺は勉強を教える為に呼ぶんだぞ。他意はないぞ。
「ズルいってな、お前…それだったら同室のシャルロットにしてもらえばいいだう。なあ?」
丁度いいことにラウラとシャルロットは同室だ。勉強をマンツーマン指導で教えるならば、これ以上に効率的なことはないだろう。そう思い、シャルロットに声をかける。
「それは、まあ…そうだけど」
だが帰ってきたのは納得してない視線と言葉。少しむっとした表情はつい先日に向けられたそれと同様のものだ。つまり今のシャルロットは俺に対して、そういう視線で見ているってことだ。
「…お前らなぁ…」
心の底からため息が出る。これじゃまるで、そこら辺の女子をとっかえひっかえにしている不純な男のようじゃないか。
「言っておくが、俺は別に夜の部屋に連れ込んだ青島をどうこうしようなんて考えは微塵もないぞ。お前たちの想像しているような展開はない」
「「「「……」」」」
「…なんだその眼は」
青島を除く四人から向けられる視線には今の俺に必要である信頼という決定的なものが欠けていた。心の底から聞きたいけど、お前たちは俺をなんだと思っているんだ?
「本当に微塵もないの?」
「当たり前だ、青島に勉強をさせる為に呼ぶんだからな」
「お風呂上りのパジャマ姿、若干頬の上気した青島さんに言い寄られても?」
「…………そろそろ休憩タイムは終わりだ、始めるぞ。それと青島、パジャマ姿で来るのは絶対にやめろ、いいな?」
いかん、シャルロットに言われた状況を頭の中にイメージして、不覚にもグッと来てしまった…というか、そんな状況で青島ほどの女子に言い寄られれば、大部分の男という生物は反応してしまうのではなかろうか。もし反応しなかったらその男は同性愛者か大事な何かが不能であるかの二択だ。それはそうとシャルロット、どこでそんなシチュエーションを学んだ!
「逃げた」
「逃げたな」
「確かに、逃げた」
「逃げたね」
「…逃げられました」
「シャルロット、あとで話があるから覚悟しておけ。あとポンコツ脳味噌集団、お前らには通常の二倍の課題プリントを用意してやるからありがたく思えよこんチクショウ」
俺の言葉に反応して「なんだそりゃ!?」や「横暴ですよ!」や「黒瀬さんの鬼!鬼畜!」などの叫びが食堂に響き、それに対して「知らん」の一点張りの俺という、なんとも不毛な口論が展開されることとなり、そして結局、この後の勉強時間は俺VS他全員による口論によって幕を下ろすのだった。
EP48 End
はい、EP48でした。いかがだったでしょうか?
今回は勝手に数人の登場人物をおバカにしてしまいました。「こんなのあり得ないだろうが!」と思う人もいるかと思いますが、私の話でのこの四人―青島はオリジナルなので三人ですが―はこんな感じで勉強が苦手なキャラとして書きました。不快に思った方は申し訳ありません。二次創作だから、といった寛大な心で許してもらえると助かりますm(_ _;)m。
それにしてもシャルロットの話って言っているのに、シャルロットがあまり活躍しない話が続いています…どうしてこうなった…(ーωー;)。まあ主に「学園の皆は事件とかない時はどんな感じなのかな」と考えて書いていますから、メインはシャルロットだとしてもいろいろなキャラにスポットを当ててしまうことになるんですよね…一キャラメインで話を作るのも、意外と難しいです…
そして最近、読者様の感想が届くとビクビクする私。そろそろ「おめー、小説舐めんなよ?」みたいなコメントが来そうで怖い…どうかお許しを!(ガクガク)
今回も読んでいただき、誠にありがとうございます。実はそろそろ忙しい時期も脱することになりそうなので、執筆スピードの上昇が可能になるかもしれません…あくまで『かも』ですが。私の言葉を信じてくれるブッタソウルの持ち主の読者様はご期待を…
これからも頑張っていこうと思いますので、どうか応援よろしくお願いいたしますm(_ _)m。
それでは、また(^ω^)ノシ