IS もう一つの翼   作:緋星

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はい、おはようございます、こんにちは、こんばんわ、緋星です。

なんだかんだでEP50ですよ。いやはや、まったく早くないですね! すっトロイのでEP50でまだ夏休み前やってるよ、この小説! しかもまだこの話じゃ終わらないし! こんなペースでどうすんの!

いえ、本当にすいません。こんなドンガメで…な、夏休みは短いですから…どうか許してくださいお願いします…m(_ _;)m

ま、まあとりあえずEP50スタートです…どうぞ


EP50 悩み、進む

―――俺はどうして、こうやってこの場所に立っているのだろう。

 

頬を撫でる風の肌寒さと自分の身を包む上着の感触。踏みしめるアスファルト合材の敷き詰められた道路とその上を覆う白雪が潰れる音。手袋をはめた掌の暖かさとその手に握られたコーヒーカップから立ち上る湯気。それを含む前から、気温と差のある白い息を吐き出し、ゆっくりとテンポよくなる心音を感じる。

 

生きている、俺は生きてこの場所にいる。

 

しかし、何のために生きている?

 

生きる理由ならある、まだ成し遂げていない目的がある。だがそれももうじき叶う。この数年を賭して、願ってきたもの。それがついに叶う。

 

だが、そのあとは…?

 

願いは叶った。もう望むものはない。だけど俺はやはりこの場所に立っている。何故、どうして俺をそうさせるのかが分からない。

 

「ずいぶんと哲学的な物言いだな」

 

そんな考えに、彼女はそう答えた。

 

白雪に浮き出るような黒い長髪、それと同じ色をした黒い瞳。長いマフラーを巻き付け、俺と同じように厚着をした彼女はコーヒーを片手に空を仰ぐ。粉雪がゆらゆらと舞い降りる、鉛色の空を。

 

「…目的がなくては駄目なのか?」

 

…おそらく、駄目なのだろう。

 

今までも俺は一つの望みのために進んできた。障害はあった。時にそれは大きく、一人では乗り越えられないものもあった。だがそれがその奥に目的があったから進んでくることができた。それがなくなったら…

 

「自分は空っぽになる…と?」

 

小さく頷くことで答える。それに目的が無いなら、無いでいいと結論付けられるのならここまで悩んではいない、と付け足して。

 

「違いないな…君はいつもそうやって、道を見据えないと進めない男だった…まったく情けない」

 

呆れたようにため息を吐く彼女に五月蠅いといってカップを煽る。実際、そうであるから悩んでいることを理解しているために、言い返す言葉さえ見つからない。

 

「筋道通りに人生が運ぶなら、誰も苦労もしない。もしその道筋通りに全てを進むことができたら、そいつは預言者か何かだよ」

 

彼女はそこまで言って、コーヒーを飲み…

 

「それに、筋道通りの人生を進んでいるのなら、我々は出会うことすらままならなかっただろう。そう考えれば、筋道が逸れた人生というのも、悪くはない」

 

…と、付け加えた。

 

そうだなと返事をし、振り向いて、そこにある赤レンガのマンションを見上げる。

 

今、この建物にいる俺の仲間は全員、自分の人生がこんなことになるなんて予想していなかっただろう。

 

「人は誰かと出会うことで、その人生に意味を成していく。一人で完結する人生に、どれほどの価値があるだろうか」

 

確かに、俺もこの場所で、みんなと出会って変わった。前だったら、こんなことを考えることも…考えている余裕もなかっただろう。現状で手一杯で、後先考えていられない。息継ぎすることすらもままならない。それなのに今となっては、自分の未来に目を向けて、先を考えることすらできるのだから。

 

「…なあ、零司」

 

ふと、彼女が俺の名前を呼んだ。

 

「もし自分で人生に意味を見出すことができないなら、他人に頼るのもいいと思う。誰かに意味を与えてもらうといい」

 

…自分の人生なのに?

 

「ああ、さっきも言っただろう? 人は誰かと出会うことで意味を成す…意味を成してもらえればいい」

 

それでいいのだろうか…

 

「…少なくとも、私はそうだったぞ」

 

隣で感慨深げにつぶやく彼女を見る。そこには安らかに微笑む顔があり、こちらの視線に気づいたのか、少し恥ずかしげな笑みに代わる。

 

「まあ、私の人生観点だ。無理して真似ることもないさ」

 

そう言うと、コーヒーカップを一気に傾け、白い息を吐いた。

 

「戻ろう、さすがにこの時期の夜は身に応える…」

 

そう言って、彼女は俺に手を差し伸べた。その手を、俺は何の戸惑いもなく取る。握られた柔らかな手から伝わる体温は暖かく、先ほどの言葉と共に、悩みを溶解させるには十分な温度だった。

 

冬のドイツ、雪降る夜の語らい。俺の人生を揺るがせた一人の少女との…そんな夢だった…

 

 

 

目を開けると、もはや見慣れた天井。目を覚ましたばかりのぼんやりとした頭でも、どうしてここにいるかはわからないが、ここがどこであるかは、はっきりとわかった。

 

「保健室…」

 

もう第二の我が家…とまではいかないものの、どの場所に何が置いてあるのかが分かる程度には慣れ親しんだ部屋に寝転がる自分に違和感を覚える。おかしい、俺は確かに自室にいたはずだ。

 

(なんかここに連れ込まれるようなこと…したっけか)

 

目だけ動かして、壁に掛けられた時計を見ると『AM 4:30』と記されていた。なんて時間だ。食堂の人だって起きているかわからないような時間だぞ。こんな時間に保健室にいるってことは…

 

「やっぱり、部屋にいたのを連れてこられたんだよな…」

 

「…あれ?」

 

今、俺がどのような状況か、今一理解はできないものの、部屋にいた時の記憶がはっきりと残っていることと、こんな時間にこんなところにいる現状に結論をつけると、仕切りとなっているカーテンの向こう側から声がした。

 

「おー…起きたかな、黒瀬君」

 

「…井沢先生?」

 

ゆっくりと開けられ、井沢美晴という保健室の先生がこちらをのぞき込んできた。いつもは後ろで纏められた茶髪はほどかれてボサボサ、丸メガネの向こう側にある黒い瞳は半開きでいかにも寝起きといった感じだ。

 

「なんで井沢先生が?」

 

「なんでって、ここは保健室、そんで私は養護教員…他に理由はいる?」

 

「何を言っているんだ、こいつは」みたいな顔をして、こちらを見てくる井沢先生。いや、それはそうなんですけど…

 

「早朝ですよ?」

 

「そうだな」

 

「先生、定時に保健室いた時ってありませんよね?」

 

「そんなことは…嘘じゃないぞ?」

 

別に嘘だ、と言ってはいないが、俺の顔を見て察したのか、井沢先生はこちらに釘を刺してきた。その言葉が何よりの証明な気もするが…まあ、そんなことはどうでもいい。

 

「どうして、俺はここに?」

 

「君も厄介な身体しているね、ほんと…ふぁ~」

 

そう言って、手で隠しもせずに大欠伸をかます。厄介な身体、そう言われて、すぐさま思いつくのは一つだけだ。俺は顔面を手で覆うと、ため息交じりに言った。

 

「…どうもすみません」

 

「ん…まあ、君の意思でどうこうするのは難しいだろうからね…」

 

井沢先生は机の上に置いてあった猫の手が書いてあるマグカップを手に取ると口につけて一気に中身を煽る。

 

「今回は見た感じ疲労が溜まったってところだね。最近、休みでも忙しかったみたいじゃない?」

 

「まぁ、そうですね…」

 

思い返してみると、今月は福音事件から自室で意識を失うまで、結構…いやかなり多忙だったような気がする。というか、一回死にかけているわけだし。

 

「しっかり休まないと身が持たないよ、特に君みたいな人はね」

 

「俺という人間に注意されたような気がしますね、それ」

 

「そうだろうね、心も身体も、どっちにも注意しているんだから…ま、言って治るようなら、私は苦労せずに済むのだけどね」

 

井沢先生は肩を竦めるとフラフラとおぼつかない足取りで部屋の入り口まで歩いていく。

 

「あー眠っ…コーヒー入れてくるから、大人しくしていなよ?」

 

そう言うとこちらの返事も待たずに保健室から出て行ってしまった。あの危なっかしい動きを見るに、おそらく本気で眠いのだろう。もしかしたら、俺のために徹夜してくれたのかもしれない。

 

「…あとで何かお礼しないとな…」

 

自分の情けなさと井沢先生への申し訳なさにため息が出る。相変わらずこの身体は言うことを聞いてくれないものだ。まったく苛立たしい。

 

「原因はわかっているんだけどさ…」

 

頭の中に浮かぶ、自室での青島とのやり取り。そしてそのあとで自分が思い描いていた、過去の残滓とそれに蝕まれていく身体。あれがきっかけとなって、今回の発作が起こったのは明白だった。

 

「完全に自爆じゃねえか…バカが」

 

自分に悪態をつき、再びため息が出た。青島に謝らないとな…あんなわけのわからない感じで追い出してしまったわけだし。

 

「にしてもなんて謝れば…」

 

そう呟きながら、ふと疑問が浮かび上がった。部屋で発作を起こした、その原因もほぼ確定した。でも一つ腑に落ちないことがあった。誰が俺の発作を見つけたのか、である。

 

本来なら一番に発見する可能性があるのは隣の部屋である千冬さんだろう。だが、あの人は野外の見回りの担当だから部屋にいない。青島の異変を見て、ルームメイトである篠ノ之が俺の部屋へとやってきた可能性もあるがまず無いだろう。だとすると――

 

「あの部屋にあの時間に入ってきて、俺を見つけることができるのは……あ」

 

――いるな、うん。青島が出て行った後に、俺の部屋に入ってくる可能性がある人物がたった一人いた。

 

そんな風に考えていると、保健室のドアが控えめにノックされた。一瞬、返事をするべきかどうかを悩んだが、答えが出る前にドアが開かれた。

 

「失礼します・・・あ、零司」

 

保健室への訪問者はシャルロットだった。彼女は俺の顔を見なり、ホッとしたのか表情を緩めた。

 

「気が付いたんだね、よかった」

 

「ああ」

 

手に持っていた荷物を井沢先生の机の上に置くと、パイプ椅子を持ってきて、俺の枕元で腰かけた。寝たままでも悪いし、体調はほぼ完全回復しているので、俺は上半身だけを起き上がらせる。

 

「気分が悪いとか、頭が痛いとかない?」

 

「大丈夫だ。流石にもう回復している」

 

体調を聞いてくるシャルロットに返事をしながら、言葉を返す。実際、もうあの時の頭を抉るような痛みと不快感は消え去っている。

 

「でももうちょっと横になっていた方がいいんじゃないかな。井沢先生も疲労が原因って言っていたんでしょ?…井沢先生は?」

 

そう言いながらシャルロットは辺りをキョロキョロと見回す。しかし、そこまで聞いているのか…まあ、疲労が原因であるのは頷けるけど引き金は確実に違う場所にあったのだろうが…それを話すことはないだろうし、それよりも俺はシャルロットに言わなければならないことがある。

 

「シャルロット」

 

「ん?」

 

「ありがとう、昨晩俺のこと見つけてくれたんだろ?」

 

「あ…うん、そうだよ」

 

一瞬、シャルロットは驚いたようだが、俺の言葉を聞いて、表情を戻すと小さく頷いた。そう、見つける可能性があるとしたら、俺と青島の勉強状況の確認と監視として、部屋にやってくる予定があったシャルロットだろうという、結論に俺は達したのだった。

 

「びっくりしたよ、部屋に行ってみたら、零司が胸を押さえて苦しそうにしているんだから」

 

「本当に助かったよ」

 

「お礼を言われるようなことじゃ…僕はただ偶然見つけただけで」

 

「でも助けてくれたのは事実だろ、だから…ありがとう」

 

「…うん」

 

心から礼を言うと、照れ臭いのかシャルロットは少し頬を染めて頷く。もしシャルロットが見つけてくれなかったら、俺は最悪の場合、呼吸困難起こして、死なないにしても、脳に激しいダメージを負っていた可能性もあったのだから。

 

「でもよかった、大事にならなくて…織斑先生もかなり心配していたよ」

 

「千冬さん、来ていたのか?」

 

シャルロットの言葉に少し驚いた。夜勤で疲れているだろうに、千冬さんはここまで来ていたというのだ。

 

「うん、僕が言うのもなんだけど…零司を見て、かなり沈んでいたよ」

 

「…なるほど」

 

一瞬、そんな千冬さんの姿を想像して、目元を押さえた。おそらく千冬さんは俺に無理をさせ過ぎたと考えていたのだろう。ましてや本来自分のやるべき仕事をやらせて、倒れられてしまったから、その気持ちがさらに大きくのしかかっているのは明白だった。

 

「後で大丈夫だって言っておいた方がいいのかね?」

 

「そうかもね、一緒に来ていたイリア先生がフォローしていたくらいだから」

 

「そいつは重傷だ」

 

あのイリア先生にフォローされ続ける千冬さんというのはマングースに励まされるハブくらいに奇妙な光景である。

 

「後で顔見せておかないとな…心配させっぱなしは悪いし」

 

「そうだね…零司」

 

再びベッドに身体を沈めると、ため息。そんな俺に頷くシャルロットは少し言葉を置いて、問いかけてきた。

 

「…何かあったの?」

 

「…どうして?」

 

シャルロットの問いかけに俺は少し言葉を詰まらせた後に、聞き返す。おそらくあの時、俺の部屋で何かあったのかと聞いているのだろう。

 

「えっと…実はさ、零司がここに運ばれた後に、青島さんのところに行ったんだ」

 

その言葉に俺は少し身体が強張るのを覚えた。

 

俺はあの時、あの問いかけをされた時の青島の表情をあまり覚えていない。どうして問いかけに答えてしまったのかという、自分でも理解できない状況に軽い困惑を覚えており、青島の事が頭からスッポリ抜け落ちてしまっていた。だが、そんな頭の片隅で、青島が俺に向けた最後の表情には、後悔と怯えの入り混じったような色が見えた。

 

「青島は…なんて?」

 

「…『私のせいで、黒瀬さんに辛いことを思い出させてしまったのかもしれない』って」

 

シャルロットの言葉は鋭く俺の胸中へと突き刺さった。ああ、そうだろうな。あんな感じでほとんど『出ていけ』という事を言われれば…それに問いかけの後の反応を見れば、そりゃある程度は察するよな…

 

「青島さん、凄く落ち込んでいたみたいなんだけど…」

 

なるほど、それで先の質問に繋がるわけだ。シャルロットにとって、青島は大切な友達だもんな。心配になるのは自明の理、か。

 

「あのね、零司…もし、青島さんが何か問題を起こしてしまっていたのなら…」

 

「ああ、違う違う。むしろ問題は俺にある」

 

俺はベッドから起き上がると真剣な表情でいうシャルロットの言葉を遮った。だが、言った後に気付いた。これはむしろ問題はあったという事を吐いてしまったということで…

 

「やっぱり、何かあったんだ」

 

無論、こうなってしまう。まあ、シャルロットだってただの好奇心でこんなことを聞く娘でもない。単純に双方にとって何が問題であり、それの負担を少しでも和らげる為に聞いてきているのだろう。

 

「まあ、ちょっとな…でも大したことじゃない。お互いに時間が経てば解決する問題だ」

 

だが、そんな善意でも、あの時に何があったのかを深く話すことはできない。あんな油断は、本来一回でもあってはならないはずだ。

 

「だから、大丈夫だ」

 

「大丈夫、か…じゃあさ、零司」

 

大丈夫、おそらくそれは自分自身にも言い聞かせていたのだろう。昨晩はあんなことになったけど、もうあんなミスはしない。自分の…最大の弱点は懐にしまい込んでおく。誰かに見せることない。

 

そう考えた、その瞬間――

 

「なんで零司は辛そうな顔をしているの?」

 

シャルロットに言われ、うつむき加減だった顔を少し上げる。そうして、気付く。自分が浮かべている、内心を明らかに隠しきれていない表情に。

 

なんて顔をしているんだ、俺は。心配させまいと、感づかれまいと、そう思っているのに、どうしてこんなに…

 

「大丈夫、俺は…大丈夫だから」

 

こんな顔をして、大丈夫もないだろう。だが、それでも俺は大丈夫と押し切るしかない。もし、俺が本当の事を吐露してしまうのなら、もう何もかもが崩れてしまう。この生活も、皆との関係も、おそらく全てが…

 

「シャルロットは…何も気にしないでいい」

 

突き放すように、俺は言い放った。息を飲むシャルロットの微かな声が聞こえた。呆れているのか、怒っているのか、それ以外か。だが確認することができない。今の俺には彼女の顔を見ることすらできない。

 

「だからもうお前は部屋に戻って――」

 

「零司…」

 

そこまで言って、今度は俺が息を飲んだ。言葉を遮るようにして、俺の身体が優しい温かさに包まれる。一瞬、何が起きたのかわからなかった。あまりに急な出来事。俺が冷たく扱ったはずの相手に、抱き締められているというこの状況。

 

「シャル…ロット…?」

 

「ねえ零司。僕は、そんなに頼りないかな?」

 

困惑で名前を呼ぶのが精一杯な俺に、横から抱き締めるシャルロットはポツリと呟くように話した。

 

「確かに僕は零司に守られているよ。居場所を与えてもらったし、何度も庇ってもらった。でも、僕だってただ守られているだけは嫌だよ」

 

俺のことを抱き締める腕の力が強くなる。それでも、俺が拒否すれば振りほどけてしまいそうなほど、優しい抱擁。

 

「目の前で苦しんでいる、それなのに手助けもできない。そんな状況は、とても苦しくて…辛いよ」

 

「なんで…なんでそんな…」

 

優しさに戸惑う俺の口からようやく出た言葉を聞いて、微笑んでいるのだろうか、シャルロットから小さく笑う声が聞こえ――

 

「当然だよ。僕にとって零司は…とても大切な人なんだから」

 

――そう、言った。

 

とても大切な人…その言葉に心の中の氷が少し溶けるのを感じた。それはおそらく、数年前に凍り付いて、心そのものを覆ってしまったもの。他者を、心の奥へと招かない為に作り出してしまった、防壁。その一部が、シャルロットというぬくもりによって溶け出している。

 

「青島に…話したんだ」

 

だから、だろう。口からポツリポツリと、耳元で囁くシャルロットの声よりもずっと小さい声で、言葉が溢れ出てきた。

 

「おそらくそれは、俺が青島に聞かせるべきではないと考えていたことで…」

 

「うん」

 

「昔、俺が間違えた事…いや、間違えているかさえわからない事…」

 

「うん」

 

話の脈絡もなく、ちゃんと伝わるかすらわからない。そんな俺に対して、シャルロットは短く、それでいて真摯に相槌を打つ。

 

「なんでこんなことを話してしまったのか、話すべきではないとわかっていたのに…誰もこんなことを聞いても、何も…」

 

ちゃんと言葉にすらならない。こんなボロボロで弱い部分を他者に見せることになるとは、思ってもみなかった。

 

「だから…青島を拒絶してしまった。何も知らない、理解してすらいない…そんな彼女を頭ごなしに」

 

「だから、どうしたらいいのか悩んでいる。でもどうしたらいいのか、まだわからない…かな?」

 

シャルロットに無言で頷く。ああ、まるで子供だ。母親か姉か何かにあやされる弟のようだ。自分から話して、否定して、拒絶して、どうしたらいいのかわからない。そんな何とも曖昧で、筋が通らない言い分。それをシャルロットは聞いて、優しく諭す。

 

やはり、俺は…弱いな。

 

「…すまん、弱音ばかり聞かせた」

 

そこまで考えて、困惑した頭にようやく理性が少しずつ戻ってきたのか、俺は気恥ずかしくなってそう言いながら、自分の顔を掌で覆い、表情を隠す。

 

「ううん、そんなことないよ。僕は…そういうことを言ってくれて、嬉しかったよ」

 

そう言うと、シャルロットはゆっくりと俺から身体を離した。そのぬくもりに少し名残惜しさを感じる自分がいることに気付き、顔面に集まる熱を吐き出すように小さく息を吐く。まずいな、シャルロットの顔をまともに見れない。

 

「その…なんだ…いろいろ聞いてくれて、ありがとう」

 

そんな俺はシャルロットに礼を言った。するとクスリと小さい笑い声が耳に届いた。

 

「人の事言えないけれど、零司もいろいろ溜め込んでいそうだから。こうやって話して少しでも楽になってくれたら…ね」

 

優しい声色に癒されながらも、はやり恥ずかしい。こうやって話してほしいと言われても、毎回こんな感じだったら、なかなか打ち明けるのは難しい。そしてよくよく考えてみると、シャルロットに毎度これをやれと言っている自分がいる事に気が付き、なかなか話してくれないのも、わかる気がした。

 

「…もう少し、寝るよ」

 

「うん、そうだね。ゆっくり休んで、零司」

 

ベッドに倒れこみながら、そう告げるとシャルロットは自分の部屋に戻るのか、パイプ椅子から腰を上げると、元に戻し、ドアの方へと歩いていく。

 

「ねえ、零司」

 

声をかけられ、そちらを向くとドアに手をかけたままで、シャルロットはこちらを見て、優しくフッと微笑んだ。

 

「何もかも切り捨てて、目を塞いで、背を向けてしまう人よりも…向き合って、じっくり悩んで、しっかりと前に進んでいく人の方が僕は好きだよ」

 

それだけ言うと、シャルロットは保健室を出て行った。そんな彼女に言われた言葉に俺は少しの間、目を丸くしていたが、その後糸の切れた人形のようにベッドに身を沈める。

 

「まったく、言ってくれるじゃないか」

 

そう呟いて、自然と頬が緩んだ。まさかこんな風にシャルロットに励まされるとは思ってもみなかった。正直、侮っていたといってもいい。か弱い、傷を負った心を持つ少女だと…守るべき娘だと考えていた。だが、それは俺の思い違いもいいところだ。

 

あの娘は、強い。確かに弱いところもあるし、俺が支えなければならないところもあるだろう。だが、俺が身に着けられていない強さを、シャルロットは持っている。

 

「じっくり悩んで、しっかり前に…か」

 

先ほどのシャルロットのセリフを繰り返す。それはおそらく、簡単にできることではないのかもしれない。答えが出るまで、前になど進めはしないだろう。でも、それでも…

 

『もし自分で人生に意味を見出すことができないなら、他人に頼るのもいいと思う。誰かに意味を与えてもらうといい』

 

「今は悩んでも…いつかは…」

 

起きたらいろいろとやらなければならない。だから今はゆっくりと休もう。嘗て、あの冬の夜に聞かされた言葉を思い浮かべながら、俺はゆっくりと瞼を閉じるのだった。

 

EP50 End

 




はい、Ep50、終わりです。いかがだったでしょうか?

ようやくシャルロットの出番です。いや、長かった。シャルロットをしっかり出すだけでどれだけ時間かかってるんだよってツッコミが入るくらい長かった…

ちなみに今回、作者本人は二人の真剣な話を書いているつもりです。ただ話のペースがポンポンと進んでいるので、もうちょっと話に深みを持たせたらなと考えています、つまり、書き直すかもしれないという事です。変わったときは告知しますので…その時はまたよろしくお願いします。

さて、次で夏休み前の話もラスト…の予定です。しっかりと纏められたらいいなと考えています。

今回も長い間、更新できずに申し訳ありませんでした。でもそんな状態であるのに、お気に入り登録が増えるなんて、嬉しい限りでございます。本当にありがとうございます。どうか、このような小説と作者でありますが、応援よろしくお願いいたします。

それでは、また(^ω^)ノシ

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