IS もう一つの翼   作:緋星

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こんにちわ、こんばんわ、おはようございます、緋星でございます。

今回で『夏休み前』のお話は終わりです。少々、強引な〆方かもしれませんが、ご了承ください。

それでは、「EP51 変わる者、変わる日々」です。どうぞ


EP51 変わる者、変わる日々

保健室での出来事があってから、二日が経った。

週末に控えた学期末テストへの時間は刻々と過ぎ、教室の雰囲気も変わっていた。今は授業中であるが、次の時間共々、数日後のテストの為に設けられた自習時間となっており、ざっと眺めてみれば、それぞれの生徒がどういう状況にあるのかを察する。

ある生徒は教科書片手に今までの授業の復習をやり、ある生徒はもう全ての事項をまとめ上げているのか、友人達と談笑をし、ある生徒はもはや間に合わん、後は運を天に任せるのみと悟って、机の上に教科書を広げながらも、学園の窓を遠い目で眺める。この全てが一夏曰く、「テスト前の学生達の日常的な光景」らしい。生憎、学校に通っていた時間が周りからすればかなり短い俺には最初は今一ピンと来ないものだったが、今俺の目の前で必死にノートにペンを走らせる友人達の姿を見ていると、それが現実であるという事が納得できた。

 

「つまりだ、左辺なり右辺なりにまとめて、この方程式を当てはめればいいんだ」

 

「なるほど…理屈的にはいったいどういう――」

 

「まあ今は気にするな。後でみんなの前で纏めて説明するから…ラウラ、そっちはどうだ?」

 

「はい、一応現代文の例題は一通り終わりました」

 

「さすが、織斑先生の叱咤が聞いたか、それとも教える先生が上手いのか」

 

「僕はそんなに、ラウラはちょっと頭が固いところがあって、柔軟な考え方を教えただけだから」

 

一年教室前列の一部に集まった、一組の代表候補生たちは纏まって俺とシャルロットの指導もあり、千冬さんからの課題を着実にこなしていた。

 

 

 

結局、俺はまだ皆への勉強指導を続けていた。あの時、保健室で一眠りした後、俺は真っ先に職員室へと向かった。朝、それも学校が始まるまでまだ時間があったことから、職員室にいる先生は片手で数えられるほどで、そしてその中には俺が目的としていた先生の姿もあった。

 

「織斑先生」

 

バリケードの向こう側に座り、目元を押さえる教師に声をかける。するとハッと顔を上げて、こちらを確認すると、少し表情を歪めて、目線を逸らす。

 

「…もう、大丈夫なのか?」

 

「ええ、一眠りしたらすっきりしました。原因は疲労でしたし」

 

低いトーンの声に俺は小さく肩を竦めた。シャルロットも言っていたが、見るからにテンションが低い。夜間の見回りであまり寝ていないというのもそうなのだろうが、おそらく俺が倒れた件が相当きているのだろう。

 

「すまなかった」

 

そんな千冬さんが、こっちを向いて、謝ってきた。しっかり頭まで下げて。

 

「何がですか?」

 

「お前の症状を軽んじていた。前々から疲労での発症の件は知っていたのに、無理をさせた」

 

頭を下げながら、続ける。確かに、歓迎会の帰りに助けられた際に疲労での発症の件は千冬さんに話した。だからこそ、知っていたからこそ、俺が倒れた事に対して、千冬さんは自責の念に駆られているのだろう。

 

「本当に…」

 

「ああ、それに関しては謝らないでいいですよ」

 

そんな千冬さんの謝罪を、俺は遮った。正直、こんな風に頭を下げられるのは不本意だし、何よりこんなことで千冬さんが頭を下げる理由はないのだから。

 

「いや、しかしな…」

 

「今回の件は完全に自己管理の問題ですし、無理して請け負った俺に問題があります」

 

実際、俺の言っている事は事実だ。あれだけの激戦の数日後で、自身の体調管理すらできていなかった。それに疲労が溜まっているのがしっかり理解していれば、千冬さんの頼みを断ることだってできたわけだし。

 

「それに、割と良いこともありましたし」

 

「…そうか」

 

早朝の事を思い出して小さく頬を緩ませながら、肩を竦める。そんな俺を見て、千冬さんは何か言いたそうな表情をしていたが、何も言わずに、短くそう返しただけだった。

 

 

 

 

まあ、千冬さんと言葉を交わしたのはその程度であり、そこで「勉強を見るのを止めろ」とは言われていないので、こうして皆に対して勉強を教えているわけだ。ま、あの時に止めろと言われても、止めたかどうかはわからないところではあるが…

 

(あんな点数でほっとけるわけがない…)

 

土日にやらせた模擬テストの点数を考えるに、止めてしまったらおそらく半分とは言わぬものの、数人は夏休みまでこの教室に拘束されることになるだろう。高校一年生から、夏休みを潰してしまうなんて、そんな可哀想な状況に目を瞑れるほど俺は非情ではない。

 

(ま、負担は減ったしな…)

 

ついっと目線を教室の最後尾の方へと向ける。そこには――

 

「次は数学ですわ…いいですか、一夏さん? 数学なんてものはパズルと一緒です。枠組みとはめ込むピースがどんな形なのかが解れば、あとは盤上に合わせて作るだけ」

 

「…お、おう…まあ、なんとなく理解はできる」

 

「ですから、まず枠に当たる方程式の形を覚えることから―――」

 

――説明に対して、軽く眉をひそめる一夏。そしてそれと対照的に意気揚々と隣の席に座る一夏に密着して話を進めるオルコットの姿があった。少しでも負担は減らした方がいい。そう言い出したシャルロットが連れてきたのが、オルコットだった。実際、オルコットはこの学年では成績一位から三位の当たりをフラフラするくらい優秀だ。教え方が少々一夏と合わないような気がしないでもないが、そこは一夏の理解力が試されるところなので、俺の管轄外である。

 

「ま、大丈夫だとは思うがね…よし、シャルロットの方はどうだ?」

 

「うん、大体はできているかな」

 

視線を机に戻し、皆から提出させた課題プリントの採点を終わらせて、同じように採点するシャルロットに状況を聞くと、どうやら課題の点数は良好のようだ。

 

「こっちもなかなかいい感じだ、理解が早くて助かるよ、篠ノ之」

 

「いえ、黒瀬さんの教え方のおかげです」

 

篠ノ之はそう言うが実際問題の見込みが早いので組んであった工程を数個飛ばしでも理解してもらえた。おかげでこちらも自分のテスト勉強に予定以上に精を出すことができて助かった。

 

「これだけ頑張ったのなら、期末テストも何とかなりそうだと俺は判断する…変なミスしない限りは」

 

「僕もこれなら平均点はほぼ確実に超えられると思うよ。それこそ、書くスペースを間違えたりしなければね」

 

「…それでは、レイジ――」

 

催促するようにこちらを見るラウラ。そんな姿を少し苦笑しつつも、シャルロットに目配せして、目の前の二人が聞きたかったであろう二文字を口にする。

 

「「合格」」

 

その言葉を聞いて、ここ数日の勉強詰めの毎日から解放されたことに安堵したのか、篠ノ之とラウラはホッと息をついて、椅子に深く腰を落とした。まあ、ここで油断してもらっても困るのだが…そこらへんは言わずともわかるだろう。

 

「これで二人はおしまい…あとは一夏と――」

 

そこまで言うと、皆の視線が自然と俺の席の隣、窓際から二列目の最前席へと移る。そこに人影はない。

 

座っているはずの青島は自習が始まると同時くらいに、教室から出ていってしまっていた。一応、自習時間という事もあり、教室を出て、参考書などの貸し出しをしている図書室に行くことは許されている。しかし共に勉強をしていた皆からすれば、こちらの勉強会に参加せずに、いきなり離れてしまったと映っているのだろう。

 

「なぜ青島はこちらの勉強会に参加しないのでしょうか…一人でやるよりも、レイジやシャルロットに教えてもらう方が効率的であるのに」

 

「青島さんにも理由があるんだよ、きっと」

 

ラウラの言葉にシャルロットはそう答えた。理由など、わかりきっている。青島は俺と顔を合わせたくないのだろう。あんな露骨に『出ていけ』なんて言われたら、俺だって顔を合わせるのに躊躇する。

 

「だけど、このままってわけにもいかないよな…」

 

自分に言い聞かせ、俺は椅子から腰を上げる。こんなところで座っていても仕方ない。昼休みまで待ってから、とも思ったが、この調子では昼休みに入った瞬間に逃げられてしまうだろう。だったら、まだ場所が解るうちに合わなくては。

 

「レイジ、どこへ?」

 

「勉強会に来なくなった、成績不審者に会いに行ってくるよ。いろいろ謝ることもあるし」

 

「謝る? いったい何を――」

 

「ラウラ」

 

理由を聞こうとするラウラをシャルロットが諌める。こういう時に厳密な理由を知らずとも、なんとなく察してくれる優しいこの娘がとても心強く感じ、嬉しくなる。

 

「助かる…それじゃ、行ってくるよ」

 

「いってらっしゃい、いい報告を期待してるよ?」

 

「俺も、報告できるように頑張るさ」

 

背中にかかる声にヒラヒラと手を振りながら答え、教室を出る。いい報告、ね。さてはて、我ながらこればっかりはどうなるかわからないが…やることは決まっている。

 

「向き合って、進むだけだ」

 

 

 

 

Side 青島雫

 

図書室。密集する本棚に囲まれた空間は当たり前だけど非常に静かで、まさに何かを集中して行うことに適している場所だと思っていた。人付き合いが苦手なわけではなかったけれど、勉強するときや読書をするときは決まって、図書室を利用していた。

 

「…ダメ、だな」

 

目の前に広がる参考書のページは次へと進むことはなくて、書かれた問題や公式が頭に入ってくることはなかった。いつものこと、そう自分に言い聞かせて、手が進まない理由を付けられてしまったら、どんなに楽になるのだろうか。

 

でも、そんなこと…できるはずはない。

 

「…はぁ」

 

この場所に行きついてから、正確には今日という日に目を覚ましてから何度目か、もうわからないくらいのため息が無意識に口から吐き出される。こういうのを鬱陶しがる人もいるが、幸運なことに私が選んだその席は出入り口から最も遠く、日当たりが最も悪く、蛍光灯の明かりが最も通りづらい位置。探して、覗きこまなくてはそこに人がいるなんてことがわからないような席で、当たり前のように周りには私以外の人間はいなかった。

 

そう、当たり前。だって、人がいなく静かで、沈んだ場所であるからこそ、私はこの席を選んだのだから。

 

(…今の私にはぴったりな場所だよね)

 

内心の言葉に小さく自虐的な笑みが浮かんだ。ここ最近、こんな風にしか笑えない。どうして、私がこんなことになっているかの理由はわかっている。

 

(…黒瀬さん)

 

名前を思い浮かべただけで、沈んでいた気持ちがさらに深く、奈落の底へと転がり落ちていく。この一時間あまり、私の思考はすべて彼のことでいっぱいであった。

 

それも黒瀬さんと話して嬉しいとか、いろいろと教えてもらって助かったとか、そんな嬉しいことでは断じてない。私の頭の中で渦巻いているのは、あの夜のことだ。

 

陰る表情、暗い瞳、重々しい声色、そしてこちらを見た時の、悲痛とも思える表情と拒絶の言葉。

 

静かな状況で苦手な勉強に集中する。誤魔化しくらいにはなるかと思って、ここまで逃げてきたけれど、むしろ逆効果だった。静かで、何の音もないといろいろと考えてしまっていた。

 

(逃げてきた、だよね…本当に)

 

あの夜から黒瀬さんと面と向かって挨拶すらできない。彼がこちらに挨拶してくれているのに、あの表情を思い出すと、声が出なくなってしまう。顔を合わせる勇気など欠片も浮かんでこない。

 

あんな表情の黒瀬さんを…いや、あんな表情をする人を見るのは初めてだった。でもそれがどういうものなのかは、一目でわかった。

 

私の質問は、間違いなく黒瀬さんの聞いてはならない部分だった。それを無意識に、土足のまま踏み入ってしまった。やってはならないことを…してしまった。

 

「謝らなきゃ…いけないのに」

 

あんなことを聞いてしまったことを、謝る。それで解決できれば、どれだけ幸せだろうか。そんなことができれば、私はこんなところで一人でいることもないのかもしれない。

 

でも、できない。

 

『IS適正』が高いのだけが取り柄。それ以外は平凡以下である私にそんな度胸なんて備わってなかったのだ。

 

だからこうやって私は逃げている。あの日から、もしかしたらこれからもそうなのかもしれない。

 

「…やだな」

 

ペンを握る手に力が入り、視界が少し歪む。そんな自分が惨めで情けなくて、酷い臆病者だと思った。大切な友人の致命傷をえぐり、その後はただ逃げるだけ。なんて酷い…本当に…

 

「謝り…たい…な」

 

「謝ることないさ」

 

でも…私は――

 

 

 

「…えっ」

 

 

 

不意に聞こえた声に、一瞬気が付かなかった。だから思考していた頭を戻すのも、声の主を確認するためにうつむいた顔を上げるのも、とても緩慢だった。

 

「やっ」

 

そう言って、手を上げるのは私が傷付けてしまったはずの人。大切な友人。そんな彼は私のすぐ隣の席に座っていた。

 

「こんな席にいるなんて、入ってから探したぞ」

 

「……」

 

「にしても、人がいないな。ほとんど無人だ。図書室っていつも人がいないイメージだけど、今日は特にそうだな」

 

「……」

 

「ま、大部分の生徒はもうここの参考書借りて行って、ここで勉強するメリットも少ないんだろうけど…って、青島?」

 

「えっ!? いや、あの…その、えっと…」

 

いきなり現れた黒瀬さんに驚き、呆気にとらわれていたけれど、顔を覗き込まれて、至近距離で彼の息遣いを感じてしまい、今度は違う驚きに襲われて即座に目尻に溜まった涙を拭きながら反応を返した。

 

「あ、あの…なんでここに…」

 

「この時間に居て注意されない場所なんて、ここしかないだろ」

 

「そ、そうじゃなくて…」

 

驚きに続く驚きで混乱する頭を少しずつ整理し、今黒瀬さんに質問することを考える。

 

「み、皆は…篠ノ之さん達は」

 

「あいつらは大丈夫。及第点ってところだけど、あれなら合格できるだろ」

 

「じゃ、じゃあ黒瀬さんの勉強を…」

 

「それよりも大事なことがあるんでな」

 

「え、えっとじゃあ…じゃあ…」

 

質問はすんなりと答えとなって返って来て、それに納得できない私がワタワタと慌てふためいていると、黒瀬さんははっきりと、その口から私に向かって言い放った。

 

「青島、君に会いに来た」

 

「……」

 

その言葉を聞いて、思考と同じくして私の身体はぴたりと動きを止めた。黒瀬さんの言った言葉が、一瞬理解できなかった。なんで私に会いに来るのか、そういった返すべき質問すらも頭の中に上がってこなかった。

 

「…正面切って、こんな場所で言うのはなんだか恥ずかしいな」

 

自分から言っておいて、苦笑をして頭を掻く。そんな仕草が、いつも通りの黒瀬さんであり、余計に私を混乱させた。

 

「えっとな、青島」

 

「…はい」

 

私も相槌をうてるくらいには意識がはっきりとしてくるころには、黒瀬さんのそんな調子が鳴りを潜め、苦笑が消えており、少し真剣な表情になっていた。

 

「あの夜の後、いろいろと考えたんだ」

 

「…はい」

 

「正直言うとな、俺もその質問をされると…少し、後悔というか…自分の中にある思い出したくないものに触れてしまうんだ」

 

ズキッと胸の奥底が痛んだ。私の予想が正しかった。やはり私は黒瀬さんの踏み入れてはいけない場所へと、入り込んでしまっていたんだ。

 

「黒瀬さん、私…」

 

「でも、あんなふうに君を拒絶する必要なんてなかったんだよな…ごめん」

 

私は言い訳じみた謝罪を口走ろうとした時、それを遮るように黒瀬さんは続けた。

 

「乗り越えるべきこと、それなのに俺は君を頭ごなしに否定して、そして拒絶してしまった」

 

「……そんな」

 

…違う、傷付けたのは私だ。私が黒瀬さんの傷口に、踏み込んでしまった。そう言えばいいのに、声が出ない。何故なのか、それはよく理解できていた。

 

「俺は君に対して、理不尽な真似をしてしまった」

 

喉の奥底から、上がってくるのは声ではなく、息が詰まるような感覚。視界は先ほどの歪みなどよりも大きくぼやけ、彼を直視できなくなってしまい、再び顔を伏せる。

 

「君を傷付けてしまった」

 

…違う…傷付けたのは私だ。

 

「君と遠ざけてしまった」

 

…違う…遠ざけたのは私だ。

 

「だけど、俺はまた君と話したい…だから――」

 

俯き、歪んだ視界にもはっきりわかるように私に向かって、黒瀬さんは優しい声色と共に手を差し伸べてきた。

 

 

「もう一度、俺と友達になってくれないか?」

 

 

 

「う…あ…」

 

もう…限界だった。喉奥に溜まった嗚咽、目元に溜まった涙、そして心の奥にある感情も。まるで自分の制御が利かない。まるで親に叱られ、真実を話す時の子供の用に…ただ、流れ出る。

 

「ち…がう…だっ…て」

 

嗚咽にまみれた、辛うじて形になっている言葉を紡ぐ。本当はしっかりと伝えたい、でも私にできる限界がこれだった。

 

「わた…しが…く…黒瀬…さんを…」

 

軽い気持ちで言ったのは…そしてそれで傷付けたのは私だ。

 

「傷付け…て…勝手に…遠ざけて…」

 

それなのに、その事実を隠すように、目を逸らすように、逃げていた卑怯者。謝罪する度胸もない臆病者。

 

「本当…は…っわた…し…謝りたく…て」

 

そんな私が、こんな身勝手が許されることが、辛い。そんな私を許してくれる、そんな優しさが嬉しくて…痛い。

 

「ごめん…なさい…ごめんな…さい…」

 

もうここから先は言葉にならない。ただ吐き出される嗚咽交じりの泣き声。まるで子供のように、泣くしかできない。まだ、彼の言葉に答えてないのに。

 

「…そっか」

 

本来ならば責められるべきである私を庇う様に、黒瀬さんは優しく抱き寄せ、泣いている私をまるで赤子を諭すように頭を撫でる。

 

「俺は…大丈夫だから」

 

頭上から降りかかる言葉が、私を許そうとしている。でもそれを受け入れる心構えができなくて、ボロボロと零れ落ちる涙は黒瀬さんの胸へと落ちていく。

 

「俺は青島を許すよ…だから、青島も俺を許してくれるか」

 

黒瀬さんの言葉に、私は返事を返せずに頷く。まるで後悔を溶かし、洗い流すように、その涙は止まることはなく、私はただ抱きしめる彼の胸の中で泣き続けた。

 

Side end

 

 

 

 

「それでは、前期最後のHRを始める」

 

教室に千冬さんの声が響く。図書館での出来事から数日後、終業式の日。俺の隣に座る青島にはあの時のような沈んだ表情はなくなっていた。自身の心からの言葉をぶつけた青島は、その次の日から無事に勉強会に参加するようになった。そんな彼女に皆、特に同室である篠ノ之は勉強会への再参加を喜んだ。そしてどうやら、俺たちと一緒にいなかった為か、青島の勉強はほとんど進んでいなかったようで、謝る青島に俺達は苦笑を零しながら、勉強を教えながら過ごしていった。そうやっていると時間はあっという間に過ぎて行き―――

 

「それではまず、先日張り出された期末試験の成績に関してだが…」

 

そして今はもう期末テストも終わり、夏休み前、最後のHRとなっている。これで騒がしかった勉強会もお開きとなり、骨休めの長期休暇がやってくる。夏休みの予定を軽く、皆に聞いてみたところ、半分くらいは帰郷し、その後はこちらの学園で過ごすというずいぶんと大雑把な予定にまとまっているようだった。でもまあ、俺も人のことを言えないくらい大雑把ではあるんだが…

 

「基本的にお前たちの成績は基準値に達していた。担任としては仕事が増えないので喜ばしいことではあるが、この成績で満足はするなよ」

 

そんな、もうすぐ始まる夏休みを前にして、千冬さんがテスト終わり辺りから緩みだしているクラスに喝を入れるのが定番になっている気がした。事実として、テストが終わってから三日間くらいは俺の指導していた成績不審者は緊張の糸が切れたようになっていた。

 

「祖国に帰る者は、学園の規則に従い、余計な情報を流すなよ。話はここまでだ。後期になったら、またこの学園で知識と技術を叩き込んでやるから覚悟しておけ…以上、解散」

 

「起立、礼…着席」

 

そして十数分ほどのHRの終了の言葉が発され、日直の指示に従い、千冬さんはそれを見届けると教室から出ていった。すると――

 

「はーっ、ようやく夏休みかぁ。なんだか、本当に「ようやく」って感じね」

 

「本当にね。一年目から厳しかったから、なんだか長く感じちゃった」

 

「演習なんて特にきついからね…正直、何度疲労で身体壊すかと思ったか…」

 

「でもこれで心置きなく羽を伸ばせる!」

 

―――という、なんとも恐怖政治による支配から脱出した奴隷のようにクラスからは声がっていた。普通に考えてみれば、今までに千冬さんみたいな教師に担当されたことのない身からすれば、それこそ圧政を敷かれているようなものなんだろう。彼女たちの反応はいささか間違いでもないが、出ていってすぐにそれを言うのはどうだろうか…

 

「どうかしたんですか、黒瀬さん。そんな顔して」

 

そんなことを考えていて、おそらく表情に出たのだろう。隣からの声に少し肩を竦めながら応じる。

 

「いや、織斑先生ももうちょっと緩くやればいいのなって思っただけだ…てか、顔に出てた?」

 

「はい、なんだか渋面っていう言葉がよく合う顔をしていましたよ」

 

「なんだそりゃ」

 

俺はその言葉に苦笑で答えると隣の席に座る声の主、青島はクスクスと笑いをこぼしていた。あの一件以来、大きく離れた青島との関係も良好に持ち直し…いや、前よりも距離が縮まったというべきだろう。前のように、どこか自分を控えながら話すことはあまりなく、はっきりと、溌剌とこちらに接するようになってきた。

 

「そういえば黒瀬さん、これから予定ありますか?」

 

「ん? 予定ねぇ…」

 

「もしよければ、これから学食に行きませんか?」

 

こんな風に積極的にどこかへ行くときに誘ってくるようにもなった。これは俺としても非常に喜ばしいことだ。やはり、あのような出来事があった後なので、多少は話し辛い空気になってくるかとも思ったが、どうやら杞憂に終わったようだ。

 

そして時刻は11時半、まさに昼食に差し掛かる時間帯である。何ともいいタイミングではあるのだが、そんな青島のお誘いに素直に答えるには少しばかり間が悪いというのが、正直なところだった。

 

「いや、実はな――」

 

「零司」

 

その理由を青島に告げようとすると、背後からシャルロットに名前を呼ばれ、振り返る。そしてさらにその後ろにある光景に苦笑の彫が深くなるのを感じた。

 

「セシリア、やる気満々みたいだから、早く行かないと怒られるよ?」

 

「俺が行く必要が皆無な気もしないでもないがな…」

 

シャルロットの背後、丁度教室の後部にあたる出入り口の前に立っているのは状況が飲み来ぬままに連れてこられている一夏とそれに付き添う様に立つ篠ノ之、そしてやや呆れ気味のラウラ、その隣には話に上がったオルコットが腕を組んで、こちらを苛立たしげに見ている。そんな姿にため息が出る。

 

「大体、昼飯どうするつもりなんだ、あいつら」

 

「まあ、一回だけみたいだから、一時間かからないんじゃないかな?」

 

「どうだか…ってなわけなんだ青島、悪いけど昼食は行けそうにないんだ、悪い」

 

青島の方に向き直るとそう言って、手を合わせる。そんな俺に対して、彼女は意外と先ほどの笑みを崩さずにいた。

 

「あの、私も付いて行ってもいいですか?」

 

「え? まあ、いいとは思うけ――」

 

「ラウラ! 今日こそ決着つけるわよ!」

 

青島への言葉を遮るように、勢いよく開く扉の音と教室内に凰の声が響く。ズンズンと教室内へと入ってくる凰も、先ほどのオルコットのようにどこかピリピリとした感じでありながら、口元には不敵な笑みを浮かべている。強いて例えるならば、獲物を狙う時の表情といったところか。なんだか酷い戦いになりそうな気がする…

 

「行っても、特に楽しいことはないぞ?」

 

「そんな…代表候補生同士の試合は勉強になりますよ」

 

「勉強になるような試合をしてくれるといいんだが…」

 

「それに、私は黒瀬さんが一緒なら何でも楽しめる気がしますから」

 

「あー、そうか…うん」

 

一層、明るい笑顔で言う青島に少し嬉しくなってしまい、照れ隠しに目線を逸らしてしまう。俺と一緒なら、ね。そう言ってくれるのは嬉しい限りだ。一緒にいるだけで楽しいなんて、友人としては最高の褒め言葉だろう。いかんな、自然と頬が緩んでしまう。

 

そう考えていると、不意にグイッと頬を引っ張られる。

 

「…何をする」

 

「仲良く話しているのはいいけどさ、皆待ってるよ」

 

シャルロットは半目に軽く睨むと、オルコット達の方へと歩いていき、俺はため息を吐くと席から腰を上げる。まあ、実際このまま待たせていたらオルコットから恨み言の一つや二つもらいそうではあるな。

 

「じゃあ行こうか」

 

「はい」

 

元気良く返事をする青島を連れて、オルコット達の元へと歩き出しながら――

 

(圧勝…ってわけにもいかないだろうな、今回は)

 

――と考えていた。

 

 

 

 

「今日こそ!」

 

「リベンジさせてもらうわ!」

 

オルコットと凰の強きな声が夏の青空に響く。俺達が教室を出て、やってきたのは校舎から近めにある第一アリーナだった。リベンジ、という言葉でどうしてここに集まったのかは察しが付くだろうが、本当に俺が来る必要性を感じない。

 

ちなみにその件について質問を投げかけはしたが――

 

「勝ったっていう保証人よ。もしドローみたいな戦闘でも、どっちが勝っていたかを明確に判断できるでしょ、あんたなら」

 

と、凰に返された。それなら教員を連れて来て正式にやればいいのに、何で俺に任せるかね。信頼されているのは嬉しいが、俺が公平にやるなんてどうして思った。

 

「ていうか、ニ対一じゃさすがにラウラの分が悪いだろ。せめてハンデくらいつけたらどうだ?」

 

観客席からアリーナに立つ二人にそう言いながら、対峙するラウラの方を見る。ちなみにラウラはこの試合について、前々から話されていたようなので、それ相応の準備をしているようではあるが、いくらなんでも不利じゃないか?

 

「問題ありません、レイジ。私はこの二人相手でも対等以上に戦えるつもりです」

 

だが俺の心配を他所に当の本人はやる気満々である。まあ、前に戦ったときは完全勝利してるし、余裕に考えるのはわかるが…

 

「そうは言うがね、こいつらだってお前にやられた時よりかは成長してるぞ。それでも大丈夫なのか?」

 

「ええ、それに私は前回勝ったからと言って、気を抜くつもりはありません」

 

油断はないってか…ま、そこまで言うなら止めるのは野暮ってもんだろう。「そうか」と短く話を終わらせると、俺は先ほどまで座っていた席まで戻ろうとした。その時――

 

「そうだ、レイジ」

 

「ん? なんだ?」

 

「もし勝てたら、褒美をください」

 

「は?」

 

いきなりのことで、俺は思いっきり眉をひそめる。

 

「厳しいことをする際には飴を用意するものだと聞きました」

 

「ああ、アメとムチってことか?」

 

「それです」といって、ラウラは頷く。うーむ、どうやら意味をはき違えているような気もしないでもないが…この状況に勝つというのならば、何かご褒美を上げるのはこちらとしてもやぶさかではないことも確かだ。

 

「ああ、まあ…いいけど、何が欲しいんだ?」

 

「…キスを」

 

「…」

 

またしても突拍子もなく出された言葉に、今度は声も出ずに目元を押さえた。

 

「なんでまたそんな…」

 

「この試合のことを話したら、褒美にキスの一つをもらっても罰は当たらないと言われたので」

 

「誰に」

 

「クラリッサです」

 

あのアホたれ! ただでさえ突拍子もないラウラのエンジンに油刺し過ぎなんだよ! 大体、そんなにしょっちゅう連絡取り合っているのかよ、お前ら!

 

「嫌、ですか?」

 

「い、いやそう意味ではなくお前はいったい何を言って――」

 

「ちょっと、何そんなわけのわからない約束しようとしてんのよ、あんたは!」

 

「黒瀬さん、そんな破廉恥なことは許しませんわよ!」

 

そんなことを言われても、理解に苦しむ。そうねだるように小首を傾げるラウラに伝えようとするが、横から飛んできた二人分の怒号に呆気なくかき消されてしまった。まだキスでいいなんて言ってないし、それになんでお前さん達に非難されなくてはならんのだ。

 

「…あー、キスは…な? 前にも酷いことになったから」

 

「なるほど…」

 

教室で俺にキスした時のことを思い出したのか、どうやら提案を引っ込めてくれたようだ。よかった、ここでいつもみたいに強情になられてしまったら、より話が面倒くさい方向へと拗れるところだった。とりあえず、これで――

 

「それではハグで」

 

「…もういいや、それで」

 

――これ以上、話をごった返しにしても、それこそ拗れる。人生は妥協するべき時もある。それにハグぐらいだったら、まあ大丈夫だろう。

 

「な!? なんでハグするって方向で話決まってんの!?」

 

「それに、もういいってなんですの!? そんな簡単に承諾していい話では――!」

 

「あーもう、お前らは俺を責めに来たのかラウラと試合するために来たのかどっちなんだよ」

 

「あんたのせいでしょ!」 「あなたのせいですわ!」

 

「いいから早く始めろ、これ以上昼飯の時間を伸ばされるのも厄介だ。それにお前らも、もっと集中するべきことあるだろ」

 

そう言って、俺は右手をスッと上へと上げる。それを見て、おそらく察したのだろう。こちらに向かわせていたそれぞれの視線は、対する相手へと向き直り、各々は自身のISを展開する。

 

「そんじゃ…始めっ!」

 

そんな三人の凛々しい姿を見て、小さく笑うと俺は空へと向けていた腕をおろし、戦闘開始の合図を口走った。それと同時に飛び立つ三人の機影は数秒とかからずに、空中で激突を開始した。

 

「さて、どうなるかね」

 

それぞれの初撃の交差を見届けながら、俺は自分が先ほどまで座っていた観客席まで戻っていく。そこには何とも言えない目つきでこちらを見る四人の友人達が座っている。

 

「…なんだよ」

 

「いや、別に…」

 

「何と言いますか…」

 

「本当にラウラには甘いよね、零司はさ」

 

「それには同感」

 

「生憎だがな皆、一番甘いと思っているのは俺自身だよ…まったく」

 

一夏、篠ノ之、シャルロット、青島、各々から俺の言葉に明確な答えは返ってこなかったが、責め立てられているのはわかった。しかし、それに対して反撃できる言葉もなく、俺はため息を吐いて、シャルロットと青島の間にある席へと腰を下ろす。

 

「ま、今回のハグは欧米での挨拶程度ってことで勘弁してくれ」

 

「それってご褒美なのかな?」

 

「…シャルロット、勘弁してくれ」

 

そう言うと、多少悪ふざけも入っていたのか、小さく舌を出して、ごめんと謝ってきた。そんな表情が可愛いと思ったが、なんだかそれを言ったら負けな気がしたので、黙っておこう。

 

「でも本当に変わったよね、ラウラも」

 

ふと、視線を空へと移したシャルロットは呟いた。

 

「確かに、あんな妙なことを言い出す娘でもなかったんだがな…」

 

「それもそうだけど…何より明るくなったよね。最初見た時から、綺麗な娘だなって思ったけど、やっぱり今の方がずっといいよ、うん」

 

まるで自分のことのように嬉しそうに頷くシャルロット。おそらくラウラと初めてあのクラスで出会った時のことを思い出しているのだろう。

 

確かに変わった。あのクラスに入って、俺と戦って、ラウラは昔とは比べ物にならないほどに変わっていった。少なくとも、俺の記憶の中にあったラウラ・ボーデヴィッヒという少女は変わる前の時に近い。つまり、俺と接するだけで変わったというわけではないという事だ。

 

「あんなふうに零司にアプローチするなんて思ってなかった…ここのところは、ちょっと妬けちゃうけどね」

 

そんな聞くこちらも少し恥ずかしいセリフに俺は無言で頬を掻く。実際、あんまりシャルロットには構うこともできないでいるしな…本気で例の埋め合わせの件を考えなくてはならない。

 

(それにしても、もう四ヶ月か…)

 

そしてラウラの変化について考えていると、俺自身この学園に来て、もう半年になるという事に気付く。最初は『千冬さんに呼ばれた』という理由だけでこの場所に来ていた。その後のことは、まあどんなことになるかは多少の予想があったが、それとは明らかに外れた結果となっている。

 

軽く目を閉じて、思い返す。まず頭の中に浮かんできたのは、事の発端であった千冬さんだ。織斑千冬、俺の師匠であり、思い出の存在だった人。もう出会うことすらないだろうと勝手に決め込んでいた俺の想像を、軽々とぶち壊してくれた張本人。そしてこの場所に引き入れてくれた、恩人。正直、この場所での出来事はこの人なしでは始まらなかっただろう。その点でも、俺は千冬さんに感謝している。

 

次に浮かんできたのは…やはりこの環境で一番浮いているであろう、一夏だ。織斑一夏、千冬さんの弟であり、この学園で俺と同じような立場にいる男子。師の弟であるというだけの、出会う前の考えはまるっきり変わっている。今では良い友人であり、バカみたいな話もできる、この学園では数少ない存在だ。

 

先に上がったのが一夏だからだろうか、篠ノ之の姿が頭をよぎった。篠ノ之箒、俺の知り合いであり、恩人の一人である篠ノ之束さんの妹にして、一夏の幼馴染。こちらも基本的に束さんからの又聞きでしかなかったために、実際に会って話して、印象が変わった。多少愚直なところもあるが、それだけ真っ直ぐに物事を見詰められる。とても可愛らしい、恋する乙女。

 

そして出会いと友人になるまでが印象的な、オルコット。セシリア・オルコット、イギリスから来た少女であり、第一印象は高圧的、女性主義、日本人批判の三点セットをそろえており、正直良いものではなかった。だが今となっては休みの日に共にアリーナに向かい、腕を競わせる仲だ。ここまで百八十度変わって仲良くなったのは、もしかしなくともオルコットだけだろう。

 

青島はまさしく偶然で仲良くなったものだ。青島雫、俺の隣の席の女子であり、俺がクラスで最初に会話をした相手。優秀なIS操縦者で、大人しい少女。そして今となっては、俺にとって大切な友人である人物。予期せぬ事態もあったが、それのおかげもあってか、より一層仲が縮まった気がする。心の底からいい娘だと思える、そんな友人。

 

俺の大切な妹を友と呼んでくれた凰も今思えば、一緒のクラスならば話す機会ももっと増えたのか、と考えてしまう。凰鈴音、一夏のもう一人の幼馴染という、距離の近いような遠いような場所に位置している少女。少々苛烈で、攻撃的な性格ではあるが仲間のことを深く心配することができる優しい性格であることを俺は知っている。俺にとって、凰が友人となってくれたことは、間違いなくこの学園で生活する上で大きな意味があった。

 

最初にこの場所に来た時は、本気で警戒したものだったが、今となってはラウラの存在は俺にとって、初々しい妹みたいなものに変わっている。ラウラ・ボーデヴィッヒ、軍属であり、俺の過去を少なからず知っている人物。そして、おそらくこの学園に来て、一番変わったと言える少女だろう。その変化を嬉しく思うし、これからもそんなところを残していってほしいと願える。

 

そして、今俺の隣に座る少女。シャルロット・デュノア、デュノア社の令嬢であり、本来ならば、俺とは敵対関係にあるはずの少女。暗い過去を背負いながら、それでも笑顔を浮かべる、俺が『居場所』となった、支えるべき相手。彼女は俺に救われたと言っているが、救われているのはこちらの方だ。

 

「ま、変わるのも当たり前か…」

 

ここまで考えて、一番変わったのは自分であることに気が付き、笑みがこぼれる。今まで、こんな場所にいることもなかった。でも、俺はここで生きている。温かく、幸せな場所。

 

あの場所から帰った時、こんなことになるなんて、予想することすらなかったのに…

 

心の傷は塞がっていない。それでも、ゆっくりとだが、確実にその傷が癒え始めているのがわかる。思い出は忘れることはなく、蝕む。それでも、俺は―――

 

 

「―――俺は生きていくよ…刹那」

 

 

ぽろりと零れた嘗ての愛すべき友の名前は夏の風に溶けていく。この場所に来る前は呟くことすらできなかった、その名前に懐かしさと仄かな悲しみを感じ、それを周りに悟られまいと誤魔化すように、視線を空へと向ける。

 

「セシリア、そのまま追い込め!」

 

「地上に落ちる、そのまま打ち取れ、鈴!」

 

一夏と篠ノ之の言葉通り、その視界には二機に追い立てるように地上に落ちる黒い機体が写る。さすがに二機相手は無謀だったのか、おそらく勝負あったのだろう。

 

「さて、と」

 

「零司、行くの?」

 

席から腰を上げると、その理由がわかっているのか、シャルロットもこちらに合わせて立ち上がる。

 

「ああ…やっと勝てたんだ、祝いの言葉の一つもかけてやろうってね…お前たちも行くか?」

 

そう訊くと、一夏達は当たり前だと言わんばかりに続けて立ち上がる。

 

「よし! 俺達も行こうぜ、箒」

 

「ああ、しっかりと祝ってやらないとな」

 

「あ、じゃあ私も」

 

「よし、じゃあ皆で戦勝報告を聞きに行いこうか」

 

四人を連れて観客席を下りていく。おそらくオルコットも凰も相当嬉しがっているだろう。祝いに昼飯を奢ってやるのもいいな。ラウラは…ま、ハグぐらいは負けてもしてやるか。

 

俺の頬を夏の清々しい風が撫でる。晴れやかな心を抱え、まるでその風に後押しされるように、俺は足早に三人の元へと向かうのだった

 

 

EP51 End

 




はい、EP51終了です。お楽しみいただけたでしょうか?

今回で『夏休み前』は終了という事で…えー、シャルロットの話を書こうとした結局とっ散らかった内容になりました、ごめんなさい。でも、青島の話はちょっと書きたかったのはあったので、それについては反省してません。もしも納得いかない場合は、すみませんそういう話ってことで許してください。

次回からは『夏休み編』になります。「まだ夏かよ!」ってツッコミが入りそうですが、夏です、残念ながら。次の話は各登場人物の夏休み事情を書こうと思っています。どんな話になるかは、構想できているので、早めにあげられるように頑張りたいと思います。

読んでくれた読者の方々に感謝を。そしてどうかこれからも応援よろしくお願いいたします。

それでは、また(^ω^)ノシ
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