(…………)
彼女は意識があるのかないのか、夢うつつのまま考える。
彼女は今がどういう状況なのか、何が起こって今に至ったのか、何も分からない。
状況を確認しようにも眼が開けれない、体が動かない、彼女は分からないなりにも自分の身体に何らかの異常が起きているのだと判断できた。
目を開けられない彼女は耳と触感を頼りに現状把握をしようとする。
「……ッ!!」
まず彼女が感じ得たのは痛みと苦しみ、目を開けられない彼女にとってそれが物理的な怪我によるものか内面的な病によるものか性格な判断ができない、しかし、どちらにせよ負傷者であることには変わりはない。
(風の音、木々の揺れる音、鳥のさえずり……)
次に彼女が感じ取ったのは音、そのうるさすぎない音はここが戦場や危険地帯でないという事実を優しく彼女に教えてくれた、それと音の種類からその場所が森の中だと彼女には判断できる。
(そう、なると……背中に当たる感触は……)
最後に彼女が感じ取ったのは背中に当たる木の硬い感触、木の幹に彼女は身体をを預けているようだ、そしてそれはとても安心した気分になれる。
(……何も考えずに、もう一度寝てしまおう……痛みに耐えるのは、体力を使うから……)
そして彼女は完全に意識を失った―――
「何かが森に……村人が迷い混んだってこと?」
白い髪に白い狐耳と尻尾を生やした紅い目の女の子が不思議そうな顔で口にする、女の子の名前はべりー。
「村人かどうかはまだ分からないわ、とにかく『何か』ね。」
そうべりーに優しく答えるのは同じく白髪赤眼で独特の横に長い耳をした色黒な女性、彼女の名はアンフェル。
時刻は正午、二人はとある筋から何かが森に入り込んだという報告聞き、事実を確かめに件の地点に向かっているところだった。
良い人だったらいいな!と期待の眼をしたべりーを他所に、アンフェルは心の中で一つのひっかかりを感じていた。
それは『何かが森に入り込んだ』という報告の仕方、例えばべりーの言うように村人が森に迷い混んだのなら『村人が迷い混んだ』と報告してくるはず。
この報告の違いが意味するのは、明かに村人じゃない何か、普通じゃない何かの侵入。
その結論に達したとき、アンフェルは言葉に出来ない不安感を覚えた。
「何もなければ……良いのだけれど……」
晴れた空からの木漏れ日、それによって照らされた少し明るい森の中を二人はしばらくの間きょろきょろと見回しながら歩いた。
森の様子はいつもと何の変わりもなく、聞きなれない音や自分達以外の声は聞こえてこない、本当に侵入者が現れたのかべりーは少し疑惑の念が浮かびそうになる。
やがて二人は報告があった地点に辿り着いた、『それ』に先に気づいたのはべりー。
「あ!、ほらほらあそこじゃない?何か明らかに人らしい人いる!」
べりーが場所を指差す、そこには一人の人間が木を背もたれにして座り込んでいた。
まだ二人とその人物との距離は遠く、アンフェルからは一応人間らしき物体があるとしか判断できない。
「そう、みたいね……動く様子もないし、もっと近づいてみましょう」
そしてその人間に近づいていく二人、しかし近寄るにつれてその人物がどこか変だと気づく。
二人が近寄ることで多少なりとも音がしているはずなのに、その人間はピクリとも動く気配がなかった。
寝てる?いや、違う、あれは―――
「ね、ねぇ……あの人の服赤くない?血出てない?」
それに気づいたべりーが苦い表情を浮かべてアンフェルに問いかける、彼女はべりーの問いに口で答えるよりも先に人間に駆け寄った。
そこにいたのは血塗られた服に身を包んだ金色長髪の色白な男性……のような女性、特徴的な耳の長さからアンフェルと同じ種族だと予想できる。
「出血が酷い……このままじゃ……!」
アンフェルはその人物の傷の様子を服の損傷具合から読み取る、呼吸によって胸こそ上下していたが、このまま放置したら命に関わるのは火を見るより明らかだった。
「死体じゃぁあああああああああししししし死んでるううわああああ」
べりーもその人間の様子をはっきりと認識し派手なリアクションをとる、その姿にアンフェルは不謹慎にも笑ってしまうが、あまりふざけている暇はない。
「生きてるから、勝手に死なせないで、急いで運ぶから手伝って……!」
「うん、分かった!」
「うっ―――」
彼女の中で再び思考が巡り始める、先程とは違い、今度は眼を開けることができる。
痛む体に鞭を打ちながら眼を開くと、彼女の視界には木製の天井が見えた、そこがおそらく室内であると認識できる程度には彼女の意識ははっきりしている。
「おはよー、起きたみたいだね!」
彼女の耳に聞きなれない女の子の声が聞こえてきた、彼女が声のする方へ顔を向けるとそこには獣人の女の子がこっちを向いていた。
女の子は彼女と目が合うと笑顔を見せてくれる。
「あたしはべりー、あなたの名前は?」
「……レアヌ」
最低限の言葉で返したレアヌを見てべりーは言葉に迷う、彼女は少し考えた後に思い付いたように問いかけてきた。
「うんレアヌ!どこから来たの?」
「多分グリダニア……」
グリダニア、それはレアヌの住んでいた街の名前、どういう経緯でここにいるのかまでは分からなかったが、ここに来る前の出来事くらいは彼女でも大体思い出せる。
「……?どこそこ?」
「え?」
しかし、その思い出が真実とは限らない―――