艦隊これくしょん -とある鎮守府の伝説-   作:小説はどうでしょう

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第1話 とある鎮守府の提督任命

「長門型一番艦 戦艦・長門です。よろしくお願いします」

「あ…………あぁ」

 よろしく、と差し出した右手に応えるかの様に動かした右手をそのまま敬礼の位置にまで持っていき、冷たい瞳で長門は竹早を見詰めていた。

 宙に浮いた右手をバツが悪そうに上げ頭を掻いた竹早は、そのまま自分も敬礼する。

 

「よろしく頼むよ、長門君」

「……」

 

 無言で敬礼を終えると「提督室へご案内します」と背を向けた長門にあわてて荷物を手に追いかける。

 どんどん進んでいく長門に黙って着いていくが、ふ、と違和感を感じた。

「なぁ長門君」

「……なにか、提督」

「あぁ、ちょっと聞きたいんだが」

「ですから、なにか」

 立ち止まり振り向く長門の視線に気圧される。

「いやなに、その、やけに人が少ないな、と」

「……それが?」

「いや、他の艦娘は居ないのかい? この鎮守府に入ってから結構歩いたと思うんだが……私は君以外の艦娘にまだ会っ」

「損傷を受けた者は入渠ドックにおります」

 竹早の言葉を遮るように長門が口火を切ると

「現在二隊八艦の艦娘が当鎮守府管轄海域の哨戒任務に当たっております。なお一隊五艦が鎮守府に向け帰投中、他一隊六艦が自室にて休息をとっております。明け(マル)(ロク)(ヒト)()より哨戒任務に出撃致します。現在哨戒任務に当たっているのは金剛型二番艦 戦か」

「わ! 分かった! 長門君分かったからもういい」

「……そうですか」

「ふぅ」

 このままだと任務中から帰投中、挙句にすべての艦娘の現状をこの場で延々と聞かされそうな勢いだった。

 ある程度の覚悟はしてきた竹早ではあったが、いささか肝を冷やす。

「それから提督」

「ん?」

 完全に振り返り竹早と向き合う形になった長門はそのまま言葉を繋ぐ。

「私に敬称は不要に願います」

「? と言うと?」

 いまひとつ理解していない竹早に若干の苛立ちを見せる。

「私は艦娘であり貴方は提督であります」

「それはそうだが」

「私は提督麾下(きか)の一兵器です。その私に敬称など付けられては他者に示しが付きません。どうか以後私への呼称は長門として頂きたく存じます」

 長門は自分と提督に確固たる線を引く。

「しかし私は君達をただの兵器だとは」

「これは私に限らず、当鎮守府における全ての艦娘に対しても同様に、との具申であります。無論」

 視線が――冷えた。

 

「敬称を受け入れろ、との提督の()()()でしたなら、私は無論の事、当鎮守府の全ての艦娘にそれを徹底させますが、そうなさいますか?」

「…………」

 

 少しだけ、竹早の視線が力を帯びた。

 もっとも、この問いに対する回答など、竹早はひとつしか持ち合わせてはいない。

 こう呼ばせろ! などと云う命令を出す気など有る訳もないのだから。

 それにしても……と心底でため息を漏らしながら「悪かった。私が軽率だったよ……長門」と折れる竹早だった。

 自分に背を向け歩き続ける長門の後ろ姿を見詰めながら、竹早は思うのだ。

 

(覚悟はしていたんだが、どうやら俺は予想してたよりもずっと歓迎されてないらしい)――と。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 竹早が長門の反応をある程度は予想していた理由は、彼が鎮守府提督の任を申し渡された時まで遡る事になる。

 

竹早(たけはや)須央(すおう)大尉であります!」

『入りたまえ』

「はっ! 失礼致します!」

 

 竹早が扉の前で敬礼し、入室してからまた再度敬礼を見せた先にいたのは帝国海軍司令長官の海原巌元帥であった。

 その姿を見て少しだけ笑みをもらした元帥は

「お前のそんな姿を見ているのは中々飽きるものではないがな。ここにはわし等しか居らん。気張るものではないわ」

「はっ! …………って言われても困りますね」

 竹早もまた、老元帥と同じ様に笑みをもらすのだった。

 

 竹早と海原は竹早が軍に所属する以前からの知り合いだ。特に依怙贔屓(えこひいき)されているわけでもしているわけでも無いのだが、他人の目というものは存外に有りもしないものを見るものだ。

 軍部内で竹早が元帥の【お気に入り】【紐付き】などと言われるのも致し方の無い事だと割り切っていた。

 

 椅子から立った元帥は竹早に歩み寄り握手を交わすと、彼を促し応接のソファーに座り互いに向き合う。

「どうだ、調子の方は」

「まぁぼちぼちといった所です」

「そうか。横須賀の室瀬君は随分と助かっていると言っていたぞ」

「恐縮です」

 室瀬は鎮守府副官である自分の上官で横須賀鎮守府の提督だ。なかなか面と向かっては褒める事の無い人物からの好評を聞くのは、どこか聞いてはいけないものの様な気がして気後れしてしまうものではある。

「実は今日お前に来てもらった他でもない。お前に少しばかり頼みたい事があってな」

 無論、竹早とて雑談の為に呼ばれたとは思っていない。

「自分に出来る事であれば何でもお引き受けしますが」

「それを聞いて安心した。なに、お前なら出来るさ。というよりお前でなければ出来ない事だとわしは思うがね」

「自分に、ですか?」

「あぁ、そうだ」

 一度、視線を外して切り替える。

 

「お前にはここに行って貰いたい」

 二人の間のテーブルに書類の束が置かれた。

「拝見します」と言って書類に目を通した竹早が思わず元帥に視線を送ると、その先には既に決定事項だと言わんばかりの厳とした表情がある。

 

「お前にその鎮守府を、任せたい」

「…………自分に鎮守府提督になれ、と?」

「そうだ」

 言い捨て、目を閉じる。

 元帥からの指令であれば頼みでもなんでもないのだが、先ほど彼は竹早に気張るなと言っていた。だったら、と竹早も提督と大尉ではなく海原と竹早の間柄での会話に終始することに。

「しかし自分は大尉ですよ? いくらなんでも提督は。自分よりももっと階級の上の者や適任の者も居る様に思いますが」

「私はお前が適任だと思ったからこその判断だ。まぁ確かに階級の問題はあるからな。お前には今まで以上の風当たりはあるかとも思うが」

「それは別に構いません」

「はは。そう言うだろうと思ってな、決断に至ったという訳だ」

「ですが」

「資料の先を」

 先を進む様に元帥は立ち上がると、窓辺に立ち外を眺める。

 後ろでは自分が渡した資料のページを捲っていく音が聞こえるが、予想されるであろう会話の訪れを待つ事にした。

 しばしすると「元帥これは」と会話の始まりを告げる言葉が聞こえてくる。

 

「どうかな」

「はい。その」

「言ってくれ」

「……では」

 彼が立ち上がったのが分かり振り返ると、竹早と目が合う。

「手元の資料を見た限りの私見ではありますが、この鎮守府の出撃回数及び戦闘回数に対する損耗率は少し高過ぎる様に思われます。その」

「遠慮は無用だ」

「はい。この鎮守府の提督の作戦立案、並びに艦隊運営の手腕には疑問を感じざるを得ません」

「ま、そうだろうな」

 少し疲れた様に自分の机の椅子にかけると、机の中から別の書類を出して竹早に見せる。

 渡されたのは前提督の資料であり、目を通しているうちに竹早の表情にも落胆が見え隠れし始めた。

「どうやら少しばかり問題の有る人物のようでな。別に悪徳軍人という訳でもないのだが一として秀でたものもない。まぁ世渡りは上手い様だが」

「……少将は現在?」

「海軍省にまわったよ。大将の一本釣りだそうだ」

 苦味を感じた表情を見せる元帥。

 生粋の軍人である彼には許容しがたい人物なのだろうと苦笑を漏らす。しかし、ともう一度書類に目を通す竹早だが

「ですが元帥」

「なんだね?」

「確かに損耗率は比較的多いでしょう。ですがこの出撃回数は他の鎮守府に比べても特段に多いわけでもありません。寧ろ年間出撃回数の平均を下回る程度です。損耗が出たとしても鎮守府機能に影響を及ぼす程のという数値でないでしょう。この資料だけをもってして少将の能力を問題視するのはいささか早計ではないかと」

「年間ベースでではそうだろうがな」

「元帥?」

 感情的な部分での否定ではなかったのだろうか? と竹早が疑問を浮かべると、元帥は組んだ手に力を込めた。

 

「竹早」

「はい」

「お前が手にしている資料は通年の情報じゃない。近々三ヶ月間の情報に過ぎないのだよ」

「…………は?」

 一瞬、理解が遅れた。

 慌てて資料に目を通しなおす。

 その数値だけを見て単純に比較対象として年間ベースの情報量を対象として考えていた。そうするのが自然な数値だった。

 だが実際にはこの数値がここ三ヶ月の物だと元帥は言う。

 

 その出撃回数も

 その被害報告も

 

「これが……三ヶ月……」

 

 本当だとすればこの鎮守府は他の鎮守府が一年掛けて戦うであろう戦闘をその四倍の早さで消化した事になる。しかも損耗率の高い、言い換えれば下手な戦で、である。

 そしてこの時点において元帥が自分を謀る必要がない事は、他の誰よりも竹早は理解していた。それゆえに愕然とするしか無い。

 

「前任の伊佐名少将は軍省への異動が決まるや後任も待たずに鎮守府を出て行った。それが今から一ヶ月前だ。こちらには一切の連絡もなく、な。海軍省(あちらさん)にも厳重に抗議はしたが」

「政治、ですか」

政治(おか)海軍省(れんちゅう)得意技(にわ)だよ。軍令部は黙って戦っていろということらしい」

「しかしそれでは」

 竹早は頭を抱えたくなった。

 三ヶ月間この資料にある様な戦闘を繰り返し損害を出し続け、挙句に一ヶ月ほど軍令部と距離を取っていた事になる。

 正直、今現在この鎮守府が存在しているのかどうかも危ぶまれると云う物だ。これを立て直すのは非常に困難と言えるだろう。可能性としては

「この鎮守府の艦娘に期待するしかありませんね」

「あぁ」

 二人の視線の先。資料には鎮守府に赴任している艦娘の資料もある。

 なんとか彼女達が独力で戦線を維持してくれている事に期待するしかない。否、現時点においてその方面からの深海棲艦の侵攻が見られない以上、彼女達の奮闘は想像に難くない。

 だからこそ、困難だ。

 

「これだけの状況下に置かれた艦娘達(彼女達)だ。こちらから新たに提督を送り込んだところですんなり事が運ぶと思うのは、いささか虫の良い話だろう」

「反乱、は流石に無いでしょうがね。まぁ諸手を上げて歓迎してくれるとは思えませんね。もっともこれではしてくれとも言えませんが」

 寧ろ自分なら反乱しているだろうと思わないでもない。それが()()()()艦娘という存在をいっそ悲しく思ってしまう。

「どうだろう竹早」

 改めて、海原は立ち上がり竹早を真っ直ぐ見詰める。

 

「この艦娘()達を君に任せたい……受けて貰えないだろうか」 

「…………」

 しばし、目を閉じた。

 

 彼女達は自分に課せられた責務を果たしている。

 そして本来課せられる筈の無い状況の中で尚、その役割を全うしているのだろう。

 正当な報酬も無いままに、不当極まりない現実を。

 それでも彼女達は戦うのだろう。

 

 それが艦娘なのだから。

 

 その彼女達に出来る事があるのなら――こんな自分にまだ――使()()()()()()のならば――――

 

 再び交わった視線を持って、二人は再び姿勢を正した。

 

「竹早須央大尉」

「はっ!」

「現時刻を持ち、貴官を当該鎮守府の提督に任命する」

 

 竹早は敬礼し、声を張ったのだった。

 

 

 

「竹早須央大尉! 精勤に勤めますっ!」

 

 

 




さて、今話は提督に任官するまでの経緯を書いてみました。
本当は次話分まで一気にまとめて……と思っていたのですが他の方の作品を数作みさせて頂いた際、どうも第0話の文字数が多すぎた様に感じました(私の少ないリサーチの結果でしかありませんが)
前作の7000文字ちょいよりも3000文字ほど少ない4500文字程度で区切ってみました(きっちりと構える必要は無いとは思いますが、あまり極端なのは読み難いかなぁと)
気軽に読みやすい分量など、もし基準(なんとなく程度のサイトの空気)でも有りましたら教えて頂けると幸いです。
それでは、またお付き合いいただけましたらよろしくですノシ
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