艦隊これくしょん -とある鎮守府の伝説-   作:小説はどうでしょう

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第4話 とある鎮守府の戦闘開始

「やはり間違いありませんっ! 深海棲艦の目的は市街地だと思われますっ!」

「くっ!」

 神通の索敵機からの情報を分析したところ、その目的は鎮守府ではなく市街地であると判明した。

 最悪、鎮守府近海へ引き込んでの包囲殲滅を思案していた長門にとっては苦い情報だ。なにしろこちらには外洋に打って出る事の出来る艦娘には限りがあるのだ。つい今しがた物資の補給の目処が付いたところだというのに。

「どうするの? 長門」

「……放っておく訳にはいかん」

「でも」

 陸奥の表情に陰りが見えるのも頷ける。

 敵戦力は空母ヲ級二艦や重巡リ級五艦、駆逐イ級は二十艦以上という規模の大きな艦隊だった。しかもこちら側の戦力は哨戒中の二艦隊のみそれも――

「……第三水雷戦隊に下命。(ロク)-(ロク)海域にて接敵、敵艦隊の足止めを優先。後着する第四水雷戦隊を待って敵艦隊の迎撃っ!」

「航空戦力を持たない水雷戦隊にこの規模の敵艦隊の撃退は無理よっ」

「我が方に余剰戦力は無い。水雷戦隊に頑張って貰うしかない」

「でも……」

 通信兵の「……あと一日遅ければ」との呟きは皆の思いではあった。

 そうすれば届いた高速修復材で多くの艦娘が戦線に復帰し、今は入渠中の二航戦や五航戦も出撃できる、大破し入渠待ちの一航戦も同様だ。だが現状は戦線に復帰できない状況に違いは無い。

 正規空母の赤城が「私が」と無理を押して出撃しようとしたのを数人で止めた程だ。

「我々は艦娘だ。深海棲艦からこの世界を守る為に存在している以上、なんとしても市街地への攻撃は防がねばならん。たとえ」

 視線に決意がみなぎる。

「自分達の仲間を死地に送る事になってもだ」

「長門……」

 そうしてまた、それを背負い込むのだろう。

 そんな不器用な姉妹艦を悲しく見てしまう。少しは自分にも背負わせれば良いのにとも思わずには居られない。

 指令を二艦隊に打電している通信兵の横で、別の通信兵が若干の戸惑いを覚えた。

 注意を向ければ

「提督に随伴中の大淀さんより入電!」

「大淀が? 提督がなにか」

 先の提督の所為も有り長門の提督に対する期待値は相当に低いものにはなっている。

 物資の獲得という功績に関しては感嘆を禁じえないが、それだけを持って評価とするつもりもなかった。

 いったい彼はこの事態に対してどのような指揮を示すのだろうか? と僅かな興味をそそるに留まる。

 だがそれは、長門の予想の上を行った。

 

「それが、その」

「いいから言えっ。提督はなんと言っているのだ」

「は、はい提督の指示は――鎮守府ヨリ一航戦全艦載機発艦。(ロク)(ロク)海域ニテ敵艦隊ヲ撃滅セヨ――ですっ!」

「馬鹿なっ!」

 ダンっ! と机を叩いた長門だったが、それは皆も同意であろう。

「それでは艦載機の燃料が持たない! 戦闘後、鎮守府に戻る前に燃料切れで全機墜落するだけだぞ!」

「追って受信! ――戦闘終結後――えっ!」

「なんだっ!」

「は、はい! ――戦闘終結後…………艦載機ニ帰還の要ナシ……(ナナ)(ヨン)海域方面へ飛行セヨ――……との事です。尚、命令は最厳守とする、とあります」

「片道切符で特攻せよ、という事か」

「……長門」

 長門は椅子に座り肘をつき両手を組み合わせる。

 竹早にとって艦載機は艦載機でしかなく、その重要性は艦娘に大きく劣るのだろう。明日くる物資の補充の中にも艦載機が多く含まれているのは知っている。

 だが、艦娘である自分たちにとって、艦載機はただ補充すれば良いだけの消耗品ではない。

「我々と共に戦ってきた……艦載機を駆る妖精(もの)など、提督には重要では無いのだろうな……」

「優先順位、というだけでしょう……長門」

「……あぁ」

 長門も考えていた事ではある。

 だが苦楽を共にしてきた妖精に特攻(それ)を命じる事が出来なかっただけだ。

 提督の命令だから、という免罪符を得てすれば言える自分に(私も同じではないか)と自虐の笑みを浮かべる長門だった。

「一航戦を……赤城と加賀を呼んでくれ」

「……はい」

 

 鎮守府内に二人の呼び出しの放送が流されてゆく

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 第三水雷戦隊は鎮守府からの令を受け海上を疾走していた。

 無論、現在の状況は旗艦・神通から聞かされているが、不安は隠せない。

「私達だけで大丈夫でしょうか!?」

「ちょっと厳しいっぽいっ!」

「相手はもう艦載機発艦()してるでしょうか!?」

 駆逐艦三人が不安を見せるのも無理は無い。

 状況が状況だけに彼女達も実践は多く踏まえてきた。だがここまで絶望的な状況に、それを知らされた上で指示を出された事など無いのだから。

 不意に三人に並んだ神通は

「私達が止めなければ市街地に被害が出るかもしれない。それだけは止めないと、ね」

「平気だって」

 川内型一番艦 軽巡洋艦・川内が笑顔を見せ「みんなは撃沈(おと)させないから」と睦月の肩を叩く。

「みんなのアイドル那珂ちゃんにおまかせだよ! 深海棲艦もメロメロだってば」

 三人の中で妹艦に当たる川内型三番艦 軽巡洋艦・那珂はウインクを見せる。

 神通達三人にも状況はよく理解できている。直接指令を受信した神通などは一度復唱を求めたほどだ。

 だがそれを表面に出さないだけの経験は積んでいる。それを持たない駆逐艦の三人に笑顔を見せる事が出来るだけの精神力は持ち合わせていた。

「もうすぐ第四が来るから、それまでの辛抱だよ、特型駆逐艦っ!」

「はいっ!」

「よ~し! その意」

「姉さんっ」

 吹雪と川内の会話を遮る神通の怒声に視線を戻せば、その前方に水しぶきを見付けた。

「神通っ!」

「えぇ――全艦戦闘準備っ! 全速前進っ!」

「先手必勝だ」

「那珂ちゃん一番乗りぃ!」

「わ、私だってえ!」

「頑張ろうね! 吹雪ちゃん! 夕立ちゃん!」

「やっちゃうっぽい~」

 全速で敵艦隊の横腹目掛け速力(あし)を速め

 

「全艦! 撃て()ーーーっ!」

 

 神通の号令の元、第三水雷戦隊全艦から魚雷が放たれ、海戦の火蓋が切って落とされたのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「……加賀さん」

「……分かってるわ」

 鎮守府の埠頭に立つ二人の艦娘。赤城と加賀の左手には弓が握られ、その右手には数本の矢が握られている。

 その矢の一本一本に数機の艦載機が宿り、そこに居る妖精と共に、弓から放たれ現界する時を待っていた。

 

 その全ての覚悟と共に。

 

 二人の背後には数人の艦娘がその姿を見守っている。

 そんな中

 

「……一航戦……戦闘機隊発艦」

「続けて艦爆隊……発艦」

「「艦攻隊っ……発艦!」」

 

 放たれた全ての艦載機は現界したあと、一度だけ、鎮守府上空を旋回した。

 赤城と加賀に。

 多くの戦友たる艦娘に。

 守り抜いた鎮守府に。

 妖精は敬礼をもって別れを告げ、一度の旋回を終えたのちその航路を沖へと向けた。

 既に始まっている戦場へ向けて……終わることの無い航行を。

 

 誰が声を出した訳でもない。

 だが皆、自然と敬礼をしている。

 艦載機の消えた水平線に向けて、皆黙して整然と。

 それだけの価値が、あの編隊にはあるのだと理解していたのだから。

 

「ありがとう」

「…………」

 

 赤城と加賀もまた、その英雄達に敬礼をするのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「那珂ちゃん四時方向っ! 夕立ちゃん出過ぎないでっ!」

「夜戦だったらこんな奴ら目じゃないのにー」

「もうっ! 那珂が可愛いからって殺到しすぎなのぉぉっ!」

 出会い頭に放った魚雷が敵のリ級やイ級を数隻撃沈するに至ったがヲ級を小破に留まり仕留め切れなかった事が痛恨とも言えた。

 敵艦載機郡に制空権を征圧された状況では対空防御が精一杯だ。僅かに出来た隙を見つけては

「吹雪ちゃんっ!」

「当ってぇーーーっ!」

 疾走する魚雷は到着前に艦載機によって爆破された。

「駄目なの?」

「駄目でもやるっぽいっ!」

「夕立ちゃんっ」

 駆逐艦に肉薄し至近距離で撃ち抜いた夕立は、そのまま魚雷を撃ち込む。

 数本の魚雷はまた防がれてしまう。

 

 が、その爆発の中から抜け出たのは更なる雷跡。

 

 敵機防衛を掻い潜った魚雷は小破していたヲ級に命中し撃沈せしめた。

 

「なに?」

「吹雪ちゃんあれっ!」

 見れば「第四っぽいいっ」新たな艦影が姿を見せていた。

 

「お待たせっ!」

「こっから先は任せろくま~」

「さっそく撃つにゃん!」

 

 第四水雷戦隊は夕張型一番艦 軽巡洋艦・夕張を旗艦とし、球磨型一番艦 軽巡洋艦・球磨、同二番艦・多摩。睦月型三番艦 駆逐艦・弥生、五番艦・皐月、十一番艦・望月の計六艦で構成されていた。

 三水戦と同じく、その編成に航空戦力を有しない艦隊である。

 敵ヲ級を一艦沈めたとはいえ、まだまだ状況が不利なことに変わりは無い。

 そんな睦月の悲壮な表情を僅かに見取れば、「まあ大丈夫だよー睦月」と笑う望月。

「弥生……がんばるから」

「望月ちゃん、弥生ちゃん」

「ちょ! ボクも居るよってっ」

「ふふ。分かってるよ皐月ちゃん」

 睦月は自分の妹艦達を頼もしそうに眺めると一層の力を瞳に込めた。

 

「それじゃあ睦月型駆逐艦っ! みんなで頑張ろうっ! 絶対に、生きて帰ろうねっ!」

「お~、いいねぇ!」

「……いいけど」

「まっかせてよ!」

 

 一斉に砲雷撃を放つ姉妹艦だった。

 そして戦闘海域は更なる激戦の様を呈していく。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 横須賀鎮守府では通信室を借りた大淀が通信機の前に座り、背後に立つ竹早に振り返ると

「提督! 我が方の鎮守府より一航戦現有全艦載機、まもなく発艦します」

「こちらの艦隊に被害は?」

「今のところ損害は認められない様子です。みんな頑張ってます」

「そうか」

 不意に気配が離れれば

「ここを頼む。鎮守府との連絡は密に頼む」

「了解しました。あの、提督は?」

「私かい? 私は」

 ドアを開け部屋を出て行く彼はそのまま振り返らずに「人に頼りに行くのさ」と笑顔でドアを閉めた。

「頼りに?」

 

 廊下に一人出た竹早は即座に走り出す。

 通りかかる者達が慌てて自分を避けるが今は構っている暇は無い。

「あ、大尉!「お~竹早じゃないか「あーーっ竹早さ「ちょ! 危ないじゃな「おま、こら竹」

 様々に掛けられる声を無視し駆け抜けた竹早が辿り着いたのは提督室の前。

「竹早大尉! 入りますっ」

 返事を待たずにドアを開け入室する。

「許可はしとらんぞ」

「失礼します」

「聞いとらんな貴様」

 呆れながら、それでもそれを咎める風は無い。

 椅子に座ったままの室瀬に向かった竹早は彼の前で立ち止まると一度敬礼をするや

「提督にお願いしたい事が御座いまして」

「なんだ。補給の件ならもう動いとるぞ。他に何が欲しい」

「いえ、その補給の件で」

「ん?」

 室瀬が見れば、そこには笑みを浮かべた竹早が立っている。

 経験上、竹早のその笑顔にはあまり良い思い出がない室瀬だったが

 

「艦載機をほんの二・三十機ほど、はい」

「…………あん?」

 

 また今回も振り回されるのか、と諦める室瀬だった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 激しい爆炎が上がると煙が吹き上がった。

「よっしゃっ」

「油断しないで! 次っ」

 イ級を撃沈した川内の傍で声を張る夕張は、なんとかしてヲ級を仕留める機会を伺うがどうしても隙が見出せない。

 駆逐艦達は皆防空対応で手が離せない。

 多少の無理を押してでも突出するべきだろうか――そんな考えの矢先

「睦月っ!」

「望月!? いけないっ!」

 見れば対空戦を抜けた敵機が一機、睦月に向けて突進しているのが見えた。

 とっさに狙い撃とうとするが自分にも、望月にもその余裕が無い。

 

 時、敵機が爆砕する。

 

「っ! 来たっ!」

「一航戦の艦載機っ!」

 彼方から飛来した味方飛行編隊が現場海域に到着したのだった。

 そのまま制空権を獲得する為の激しい空戦が繰り広げられる。ここまでの戦いでヲ級を一艦とはいえ仕留めていた事はここで大きく好材に働くことになる。

 追加の攻撃機を打ち出すヲ級は一艦のみ。しかも既に打ち上げられている攻撃機は二つの水雷戦隊の対空戦により数を減らしていた。

 制空権を奪取するのはさほど難しい事じゃない。

「今よっ!」

「雑魚は任せたよ! 私達はヲ級を撃沈する(おとす)っ!」

「やっぱセンターだよね~那珂ちゃんは~」

 川内型三姉妹が敵機からの攻撃が緩んだ隙にヲ級に向けて突出する。

「吹雪ちゃん! いくっぽい」

「うん! 球磨さんっ! 多摩さんっ!」

「オッケーくま~っ!」

「駆逐艦を駆逐するにゃ~っ!」

 川内達の進路の邪魔になる駆逐艦を四艦で排除に向かう。

 進路上に現存するイ級に一斉に放たれた魚雷が上げる爆炎と水柱を掻い潜り

「貰いましたっ!」

「とったぁ!」

「いっくよー」

 三艦から放たれた数本の魚雷は航跡を伸ばし、そのままヲ級へと吸い込まれ激しい爆発を起こし撃沈した。

「よしっ! 制空権、取ったっ!」

 ヲ級が上げる煙と空を見上げた夕張は周囲を見渡す。

 空戦はほぼ大勢は決した。そしてヲ級を沈めた。あとは、と視線を這わせ

 

「睦月型全艦! 目標的敵重巡リ級っ! 砲雷激戦用ぉ意っ!」

「はい」

「やるよ」

「……いつでも」

「まっかせて!」

 夕張と並んぶ睦月型駆逐艦の四艦は一斉に狙いを定め

 

撃て()ぇぇぇぇーーっ!!」

 

 一斉に放たれた砲弾と魚雷は敵リ級の三艦を撃沈せしめた。

 次なる攻撃を、と皆が意識を切り替えたときには

「見てください!」

 吹雪の指差した方向を見れば深海棲艦の艦隊が撤退していく。

「どうする?」

「……」

 分かっているのに聞いてみた川内に首を振ると神通は皆を眺め

「深追いは禁物です。鎮守府に帰投します」

「そうだね。っ、特型駆逐艦?」

 空を見上げる吹雪を見るが、自分も、皆も同じ方向を見詰めることになる。

 

 そこには海域を大きく旋回する艦載機の編隊がいる。

 中の妖精は皆、自分達に向け敬礼を残し、その進路を変えて飛んでいく。

 

「…………他に…………なにか他に方法が」

「吹雪ちゃん」

 

 吹雪にも他の者にも妖精(かのじょ)達の未来は分かってはいるのだ。

 ここから先の海域に降りる場所はなく、残る燃料など僅かしか有りはしないのだから。

 俯く吹雪の肩に静かに手を置く神通は

「あの妖精()達も……全て承知の上の事なのよ」

「そんな」

「貴女の気持ちも分かるけど……赤城さんや加賀さんはもっと……」

「あ……」

 自分の憧れが、全て承知で送り出した。

 その想いを想像し、吹雪はそれ以上の言葉を飲み込んだ。

 自分はもう、他に語るべきなにものも持たないのだと自覚し、変わりに――

 

「吹雪さん……」

「特型駆逐艦……那珂?」

 見れば那珂だけでなく、夕立も、睦月も、夕張や球磨。

 他の全ての艦娘が吹雪と共に艦載機の消えた水平線へ向かい、まっすぐに敬礼を送る。

 神通と川内もまたそれに習い暫しの別れを惜しんだあと、二つの水雷戦隊は鎮守府への帰路に付いたのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 防波堤に立つ人影に近付くのは赤城。

「……加賀さん」

「……」

 振り向かない加賀に寄り添い、共に水平線を見詰める。

 

「…………戦闘は終結したそうよ。みんな無事。帰投してくるわ」

「……そう」

 静かに肩を寄せる。

「次の艦載機()達も、きっと立派に戦ってくれるわ。あの艦載機()達の分まで」

「えぇ……そうね」

 寄り添う二人はそのまま海を眺めていたのだった。

 

 

 発令所では長門が通信兵の背後に立つ。

 第三・第四の両水雷艦隊の帰投を受信して一応の安堵を味わった後、「提督に打電を」と言葉を繋げた。

「最厳守命令は完遂しました。()()は全艦帰投します、とな」

「え、と、その」

 若干の言葉の棘に言いたい事を悟る。だがそれでは竹早にも容易に悟られてしまうのでは? と戸惑いを見せる通信兵に陸奥は割ってはいる場所に立ち長門に視線を送ると。

「もう、長門」

「…………任務完了。それだけでいい」

「だ、そうよ」

「了解しました」

 陸奥の助け舟に安堵しながら通信文を打ち出す者に微笑みながら長門の肩に手を乗せる。

「今は皆の無事を喜びましょう。明日には物資も届くんですもの、風向きも少しは変わるわ」

「そうだな……すまんな、陸奥」

「いいのよ」

 自分らしくない。

 そう自戒する長門だ。うまく感情を抑える事が出来ると思っていたのに、と心が焦る。

 陸奥が傍に居てくれた事に安堵した。

(私を私に戻してくれる……ありがとう陸奥)

「どういたしまして」

「っ! 私はなにも」口には出していない。筈の事への返礼に驚くが

「長門の事は分かるのよ? 私。知らなかった?」

「……ふふ。あぁ、知っていたよ」

「良かった」

 彼女はそういう者だと、自分は知っていたのかもしれないと笑顔を見せた。

 そんな二人の傍で通信を打っていた兵が「え!」と声を上げる。

「どうした?」

「え、あ、はい。その」

「落ち着け。いったいなにがあった」

「あ、はい」

 先ほどまでの自分が醸し出す空気を反省し穏やかに問いかける長門に通信兵も和らぐと

 

「横須賀鎮守府所属の輸送艦隊旗艦、空母・天城より入電」

「天城?」

「物資補給の件かしら?」

 ? と首をかしげる二人に告げられたのは――

 

「貴鎮守府ヨリ発艦ノ艦載機、予定海域ニテ全テ収容。(フタ)(マル)(サン)(マル)、受渡シノ為貴鎮守府ニ寄航ス――との事ですっ!」

 

――望むべくも無かった、望んだ通信だった。 

「横須賀がなぜ」

「提督と大淀が今居るのは横須賀だったわよね」

「では全ては提督が……」

 

 (ナナ)-(ヨン)海域へ向かわせろと竹早は言った。おそらく天城の言う()()()()というのはその海域なのだろう。

 こちらに帰投させるのではなく、燃料がぎりぎり持つであろう方向へ飛ばし別の空母に着艦させた。

 結果として理解は出来るが、戦闘時に消費される燃料、向かう艦艇の手配や回収のタイミングなど、意図的にそうそう可能な策とも言えないだろう。

 だが現実として、決死の覚悟で飛び立った艦載機は戻ってくる事が出来た。

 今はただ、与えられたこの結末に、胸を焦がすだけだ。そして一人の兵が走った先で

 

「赤城さーん! 加賀さーーっ!」

「なに?」

「なんでしょう?」

 

 赤城と加賀の下に同じ知らせが届けられ、滅多に見れる事の無い加賀の声を上げての喜ぶ様が、鎮守府の埠頭では見られたのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「軽巡洋艦・大淀です」

「入りたまえ」

「失礼します」

 横須賀鎮守府提督室の扉を開けた大淀を待っていたのは提督の室瀬と竹早。それに麻生大佐の三人だ。

 入るや敬礼し大淀が口にするのは

「鎮守府より任務完了の入電。そして正規空母・天城さんより先ほど入電があったようです。その」

「構わんよ。私はなにも聞いていない」

 他の鎮守府内の通信を勝手に聞き取り報告するのは本来であれば規則違反ではある。が、室瀬は黙認の姿勢を見せた。

「はい。(ナナ)-(ヨン)海域にて当方の艦載機の収容に成功したと入電がありました」

「そうか」

「はい!」

 嬉しそうな大淀に同じく笑みを浮かべる竹早だ。「それにしても」と頭を掻く麻生は

「まさか補給用に積んだ艦載機を下ろしてすぐに輸送艦隊を出発させてくれとはな」

「満載じゃあ速力(あし)も遅いですしね。だいいち収容に不便でしょう。機の燃料を考えれば結構な賭けでしたよ」

「私の艦隊を都合良く使うとはいい度胸だ」

「いやぁ、さっき提督に教わりましたので、自分も誰かに頼ってみようと思いまして、はい」

「ふん、貴様」

 どこか不適な笑みを浮かべるが満更ではないらしい。

 三人の表情にはどこか穏やかな雰囲気が見られる。

 しかし大淀にもひとつ、気になることがある。

 

「ですが提督」

「「ん」」

「あ、申し訳ありません。竹早提督」

「ふふ、なんだい大淀君」

 この場所には提督は二人居るのだと失念していた。

「こういう事でしたら天城さんの事、事前に鎮守府に連絡しておいても宜しかったのではないでしょうか? その、おそらく艦載機の発艦に関しては皆も思うところが有ったのではと」

「まぁ、そうなんだけどね」

 カリカリと頭を掻く竹早だったが

「分の悪い賭けには違いなかったからね。戦闘が長引けば、天候が変われば、戦線が移動すれば、まぁ不安要素を挙げればキリが無かったよ。だからもし収容が失敗に終わった時の事を考えるとね、ここは黙っていた方が得策だと踏んだんだ」

「はぁ?」

「ははは。まぁそうなるわな」

 よく分かっていない風な大淀に笑いかけながら、麻生は竹早の頭を押さえつける様に手に力を入れる。

「助ける手筈をして助ける事が出来なかったら、やっぱり皆悶々としちまうだろう? まぁ誰を責める訳にもいかないんだろうが、納得は難しい。少なくとも変なシコリは残る」

「それは」

「だから、失敗した場合の責任は明確にしておいた方がいい。そしてそれは責任者が取るのが望ましい、と」

「っ、提督」

 収容が失敗した時、艦載機と妖精を失わせた者が必要になる。

 それは間に合わなかった空母でも発艦した者でも艦載機(それ)を必要とした者でもない。

 存在以来漠然と敵と捉えてきた深海棲艦では憎むには弱い。だからこそ、そういう者を用意(・・)しておく必要があっただけだ。

 

「……提督」

「あ、あぁ~、そのなんだ」

 少し、バツが悪い。ここには自分の事を知る者が多すぎた。

 麻生の手を振り払い大淀に向き合うと

「ただの保険だよ。上手くいったのならそれでいいじゃないか。それに、あっ!」

 いい事を思いついた

 

「敵を欺くにはまず味方からって言うじゃないか」

「敵を欺いてはおらんだろう」

「味方しか欺いていませんな」

「ちょ! 御二人くらいは自分の味方になってくれてもよくありませんかぁ!?」

「やかましい!」

「お嬢さんの敵は俺の敵だ」

「そんなぁ」

 わはは、と笑いあう三人に置いていかれた大淀だが、麻生大佐が軽くウインクしてみせた。

 つまりは、()()()()の事、ということだ。 

 大淀もまた笑顔を見せる。きっとこれでよいのだと。

 

「仕方ありませんね。竹早提督は艦娘(私達)を欺いたんですから、すこし御二人にいじめられて下さい」

「そ、それはひどいよ大淀君~」

 

 穏やかに響く笑い声が、提督室を満たしていたのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 翌朝、鎮守府には多くのトラックが乗りつけた。

 何事かと飛び出してきた艦娘達の前でトラックから降りたのは大淀。

「お待たせしました皆さんっ!」

「大淀」

「こんなに一度に」

「長門さんっ! これ」

 吹雪の叫びで長門と陸奥がトラックの荷台を覗けば、そこにはびっしりと補給物資が載っている。

「不足していた物資、装備、そして高速修復材、すべて揃っています」

 皆の歓声が聞こえるなか、必要な物を必要な場所に運び込む様に指示が出され、次々と運び込まれる物資が艦娘によって鎮守府に手配されていく。

 喧騒の中、大淀に近付いた長門は

「それで大淀、提督は」

「え? あぁ提督でしたら」

 と言ってる傍から竹早の車が敷地内に到着した。

 それを見やる大淀だったが長門の表情を見てとり何も言わずに物資搬入の手配に戻る。

 

「おはよう、長門君」

「はっ」

 歩き近付いてきた竹早が長門に近付けば長門は敬礼を持って迎え入れる。

 硬い。

 そんな空気を察するが、そんな中でも少しだけ以前とは違うものも感じる。

 少し、笑みが漏れる。

「なにか?」

「いや、すまない」

 笑みを戻し――もう一度、始めから始めようと――

 

 

()()付で当鎮守府の提督に着任した竹早だ。よろしく」

 

 言って、右手を差し出した。

 

「長門型一番艦 戦艦・長門です」

 

 その右手を、長門はしっかりと握り返し

 

「よろしくお願いします……竹早提督」

 

 竹早が見蕩れてしまう程の微笑みを持って、迎えるのだった。

 

 

 この人が……私達の……私の……提督だ――――と。

 

 




この話でなんとか鎮守府と主人公の溝を埋めたいなと思いました。
物資も補給完了しめでたしめでたしです。
ではノシ
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