艦隊これくしょん -とある鎮守府の伝説-   作:小説はどうでしょう

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第6話 とある鎮守府の駆逐級

 

 ピピピピピピピ…………とまぁ喧しい音を何とか止める事に成功する事五分前。有り難い事に一度止めたにも関わらずまた竹早を起こす為に懸命の努力を惜しまない目覚し時計に根負けして彼は起きる事にした。

「……まぁ、仕方ないか」

 

 そう。言っても仕方が無いのである。

 この鎮守府を預かる提督を拝命した以上、やはりそれに似合うだけの労働や勤務態度というモノは負わねば成らない義務のひとつだ。早起き位で泣き言はいうまい。

 

 竹早須央の朝は早い。

 それでも以前の横須賀に比べれば楽なものだが……横須賀では彼以上に早起きの大佐に毎朝ド突かれて起こされたものだ。寝坊でもないのにあの仕打ちは如何ともしがたい。是非とも自分の後任には訴訟を起こしてもらいたいものだと常々思う。無論、証言台には立たないが陰ながら応援しようとも誓うのだが。

 

 彼がこの鎮守府に来て数日の朝を迎えた。

 初めて提督用の私室に入った時の驚きは忘れない。

 やたら馬鹿でかいベットだのふかふかの絨毯だの酒のびっしり詰まった冷蔵庫だのエトセトラエトセトラ……いったい前任の提督はどんな生活を送ってたんだ? と問いただしたい気分だった。

 国内屈指の鎮守府である前任地、横須賀鎮守府の室瀬提督よりも数倍豪華だった。 

(だいたいこんな部屋を作ってる暇と金があるなら……いや、やめよう)せっかくの朝が愚か者の所為でぶち壊しになるのは虚しい事山の如しだ、と自分を落ち着けたものだ。

 取り敢えずは艦娘達(みんな)には自分の事を知ってもらう事から始めなければならないだろうと気持ちを切り替える。

 どこかの御仁の所為で【提督】の地位がこれほど【不幸の代名詞】化している鎮守府は珍しい。ゼロからどころかマイナスからのスタートとはこれ如何に。落ち込むことマリアナ海溝より深しだ。

「……どうどう巡りだ。くそう」

 きりが無い。

 取り敢えず朝は走ろう。

 今までも鎮守府内を朝から走り回っていた竹早はその生活スタイルを変えるつもりはない。また一日を始めるには適度な運動は心地良い。

 

「さて、と」

 

 今日も良い天気になりそうだと空を見上げ気分もよく走っていると。

「ん?」

 どうやら彼の他にも朝から走っている人物が居る様だ。

 おそらく艦娘の誰かだろうと目を細める。

「はっはっはっ! ぁ……」

「やぁ! おはよう! 君」

「しししし失礼しましたああああああ」

「はたし……かぁ………………え?」

 

 

 逃げられた…………

(WHY?)

 

 艦娘と思われる少女は自分を見るなり顔を真っ赤にして撤退していった。もうヲ級の群れから逃げ出すかの様に一目散にだ。

(確か今のは駆逐艦の吹雪君だっと思うのだが……なぜに逃げる?)

 分からん。

 不可解だ。

 確か彼女は先日の戦闘に出撃していた事を思い出すと頭を掻く。

「怖い思い、でもしたかなぁ」

 無理も無いと自嘲する。

 水雷戦隊でヲ級二艦を用する艦隊に突っ込ませた事になる作戦を、彼女達に命令したのは他ならぬ自分なのだから、恐れられても仕方が無い。

「あとで時間でも作って謝っておくか」

 いつまでも怖がられたままだと今後の作戦行動に響く。問題は早期に解決しておくに限ると気持ちを切り替える。

 

 少し走り、見渡しの良い丘に辿り着いた。

「……良い景色だ」

 そこから見える景色の美しさに暫し目を奪われていたが、見ればモニュメントの様なモノが建っていた。

 錨の形を模したそこに行ってみれば――

 

「うん……ここが良いな……うん」

 

 見渡せる、ここが良い。

 

 それは慰霊碑だった。

 

 沈んでいった多くの艦娘の名が記されていた。刻まれていた。

 きっと多くはこの鎮守府に戻ることも叶わなかったのだろう。

 

「……ありがとう」

 

 黙祷していると背後で小さな物音がする。

 

「ぁ」

「ん?」

 声に振り返ると小さな人影が二つ有った。見ると……確か

「駆逐艦の朝潮君と満潮君、だったかな」 

「あ、はい」

「……そうだけど」

 彼女達が戸惑うのは無理も無い。竹早はいつも自分の居る鎮守府の艦娘は大概は顔と名前が一致する位には覚えているが、実際には殆ど初対面には変わらない。

「こうして話すのは始めましてだね。新しい提督の竹早だ。よろしくな」

「て! 提督でしたか! 失礼しました!」

「おはよう御座います!」

「うん、おはよう」

 慌てて敬礼をするのが可笑しかったが、すぐに解くように言っておく。自分も軍服は着ていないのだし彼女達も私服だ。階級は服の上から付ける程度で丁度良いものだ、とは元帥の受け売りだったが竹早は至言だと思っている。

「君達も景色を見に来たのかい? ここは見晴らしが良いからね」

 朝に気持ちを切り替えるには丁度いい場所だ。

「あの、私達は」

「……朝の挨拶に来ただけです」

「挨拶?」

 

 二人は竹早を通り過ぎて慰霊碑の前で屈み込み手を合わせていた。

 

(……あぁ……確か)と記憶がよみがえる。

 

「……大潮君だったね」

「……はい」

「……」

 

 先日、ここの資料を詳しく見ていた時に知った事のひとつだった。

 鎮守府まで辿り着いて……ある筈の物が無かったが為に沈んだ駆逐艦。

 大潮はこの子達の姉妹艦にあたるという事を思い出した。

 

「…………」

「…………」

 手を合わせて黙祷している二人を見ていると、きっと仲が良かったのだろうと思えた。そこにはなんの根拠もないが……そう思えた。

「……もう」

「ん?」

 合掌を解いたまま碑を見詰めていた満潮が呟いたのがギリギリ聞こえた。

 

「……もう……間に合わないんだよね……」

「……満潮?」

(…………この子は……)

 気が付いたんだと知る。その理不尽に――

 

「……あぁ……もう間に合わないんだよ」 

 

 あの時に無かった、普通ならある筈だったものが現在(いま)あったとしても、もう間に合わない。

 一ヶ月早ければ間に合った理不尽に。

 一ヶ月遅ければ手が届く筈だった理不尽に。

 

 この子は気が付いた。

 

 

「…………どうして……提督は」

「……もう、やめて……満潮……もぅ……」

 立ったまま握った拳を振るわせる満潮と肩を震わせるて抱きしめる朝潮が居て――

 

「……ど、ぅし……提督、は…………間に合わな……たの?」

「…………満潮ぉ…………ぉお潮ぅ……」

 

――何も出来ない竹早が居るだけだった。

 

「……そうだな…………どうして私は……間に合えなかったんだろうな……」

 

 

 

 

 あぁ……なんて難しいんだ……なぁ伊佐名? それでも俺はお前を殺しては駄目なんだろうか……ただお前が人間で、少将で、この子達が兵器だったというだけで……お前を殺してはいけないなんて……

 

 

「どうしてなんだろうなぁ…………」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 間宮の中では「あぁぁぁぁぁ……」とうな垂れている吹雪が居る。

 前に座るのは睦月と夕立だ。

「大丈夫だよ吹雪ちゃん。」

「吹雪ちゃんが目を付けられたって決まってないっぽい」

 何とか慰めてはいるのだが、先ほどから効果は無い様子だ。

 顔を上げずに

「でもさぁ。他の泊地ではほんとにあったって噂になってたっていうしぃ……きっと私のこともみんなの噂になるんだぁ」

「そんな事誰が」

「夕立ちゃん」

「夕立ちゃんっ!」

 思わず呆れて大声を上げる睦月だったが夕立も苦笑を漏らすと

「でも本当っぽい。ただの噂っぽいけど」

「もうっ!」

「やっぱり本当なんだ~~」

「吹雪ちゃんっ」

 堂々巡りだった。

 そんな中

 

『通達です。特型駆逐艦吹雪。提督室に出頭してください。繰り返す。特型――――』

 吹雪を呼び出す放送が鎮守府内に響けば

 

「い、いやあああああ」

「吹雪ちゃんしっかり!」

「おおお落ち着くっぽい。ぽいいいい!」

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図が間宮に展開されたのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 鎮守府の一階に当たる駆逐級と書かれた部屋で佇む竹早は、つい、と机の上の埃をなぞる。

 その指跡がしばらく間使われていなかったことを示していた。

「…………」

 室内を見渡していると「提督、こちらにおいででしたか」と声が掛かる。

「長門君か」

「先ほど吹雪を呼び出しました。時機提督室に来るでしょう」

「……分かったよ」

 もう一度室内を見渡して、竹早は長門と共に提督室へと向かった。

 

 

 提督室に戻った竹早は考え込んで居たが

「提督」

「……っ! すまん、考え事をしていた。何かな長門君」

「いえ。提督はなぜ吹雪をここに呼んだのかと思いまして」

「あぁ」

 そんな事かと笑む。

「この前彼女が練習しているのを見ただろ?」

「? ……っ! あぁ、そういえば」

「その件で少し聞きたい事があってね。あとはまぁ、お詫びかなぁ」

「侘び、ですか?」

 錬度の事であれば理解は出来るが侘びと言われるのは些か理解に苦しむ。

 鎮守府を指揮する者として前任の提督の事を何度か竹早が詫びることはあったが、吹雪個人に、となると検討が付かない。

「それはどうい」遮るようにノックが聞こえれば

『特型駆逐艦一番艦 吹雪。参りましたあああ』

「っ。入れ」

『しししし失礼しましゅ!』

 促された吹雪が入ってくるが――「「?」」

 竹早と長門の頭に?が浮かぶ。

 二人の視線の先ではひどく緊張した面持ちの吹雪が、右手右足を同時に出しながら歩いてくる。

「ぅ~ん」

 思わず頭を掻く。

 やはり自分に対して緊張しているのだろうと思考を巡らせるが、取り敢えずは打ち解けようと席を立つ。

「そんなに緊張する事はないよ吹雪君。別に問責する為に来て貰ったんじゃないんだ」

「わわわわわかってまひゅ」

「いいから落ち着け吹雪」

「ひゃい!」

「「……」」

 思わず長門と目を合わせて苦笑い。

「取り敢えずソファーに。その、楽にしたまえ」

「そそそそそそファー」

 目を白黒させる吹雪。

「そう緊張せずともいいよ。長門君、その、誰かにお茶でも持って来てもらって良いかな」

「既に陸奥に」

「ありがとう、さ、吹雪君」

 言って自分も応接セットに向かう。そんな竹早の横に長門も追随するが、吹雪は更に緊張してしまう。

「しかし長門秘書官もいらっしゃられますし」

「私の事は気にするな」

「気にしないんですかっ!?」

「? あぁ。まぁ良くある事だが」

「よよよよよよよく有るんでしゅきゃ」

「だから落ち着けといっている」

「…………」

 しばらく俯いているとキッ! と意を決した風の吹雪は顔を真っ赤にしながら

「了解致しましたああ!」

「「?」」

 そんなに壮大な決意が必要なのか? と竹早と長門が思わず見合うが、二人の前で動いた吹雪は対面するソファーの下に歩み寄ると意を決し、半ば目を瞑りながら

 

 

「…………あの……」

「吹雪……なんの真似だ」

「初めてですのでっ! お手柔らかにお願い致しますっっ!!」

 

 目を堅く閉じた吹雪は二人の目の前のソファーに仰向けに横たわった。

 胸元で握り締められた両手に痛いほどに力が込められている。

 だが

 

「その、吹雪君?」

「自分が何をしているのか分かっているのか?」

 正直、二人には彼女が何をしているのかさっぱり分からん。だが吹雪はその言葉に更に驚き「じ、自分でですかっ!」と目をクワッと開け首だけで二人を見る。

 思わずたじろぐ竹早と長門だったが、のろのろと起き上がる吹雪は

 

「…………わかりました」

「そ、そうか。分かってくれたかい」

「今日のお前はおかしいぞまったく」

 

 呆れた風の長門の前で立ち上がった吹雪は突然に

 

「駆逐艦吹雪っ! 抜錨しますうううっ!」

「んなっ!」

「ばっ!」

 

 上着を脱ぎ捨てた。

 

「ふふふ吹雪く」

「提督回れ右っ!」

「は、はい!」

 取り敢えず竹早に後ろを向かせると

「お前はいったいなにがしたいんだ吹雪っ!」

「ででででも提督が」

「私は君に服を脱げとは」

「提督は黙ってください」

「イエッサーっ!」

「だだだ黙って脱げば良かったんですね!」

「貴様も黙っ! スカートから手を離せーーっ!」

 

 陸奥が提督室に「失礼します」とお茶を持ってきたとき、提督室には正座させられている吹雪と耳を真っ赤にしたまま窓に向かい直立不動の竹早が居た。長門は吹雪の前で腕を組んで仁王立ちである。

 

 

「それで、なにが有ったの?」

 長門の横に立った陸奥が優しく問えば目に涙を浮かべた吹雪が顔を上げ――

「みんなが……」

「みんなが?」

 

――爆弾を投下した。

 

「提督が私を慰安艦に選んだって……」

「「「…………は?」」」

 

 わっ! を顔を覆う吹雪。気分は人身御供であろう。

「でも私が断るときっと睦月ちゃんや夕立ちゃんが同じ目に遭うと思って! 噂だと犬に噛まれたと思えば良いとか聞きましたし、天井のシミを数えていれば直ぐに終わるって」

「待ちなさい吹雪さん」

「だから私」

「吹雪さん!」

 肩をしっかり掴んで言葉を遮る。

 取り敢えず、話しあおう。

 だがもっともそれが言いたい竹早はと言えば

 

「…………どういう事ですか提督」

「私が聞きたいっ!」

 長門の鬼の形相により窓際まで追い詰められていた。

 こちらはこちらで話しあおう。

 

「どうしてそんな事を思うの」

「だって提督が私達の裸を見たので、きっと目を付けられたって夕立ちゃんが」

「裸を」

「見たのかテイトクっ!」

「断じて見てないっ! 心当たりが微塵も無いぞっ!!」

「私……初めてだったのにっ!」

「あぁ、そういえば見ましたね、提督は」

「陸奥君?」

 何の話かと視線だけを送る。どうやら陸奥だけは味方だと信じていたようだが

 

「ほら、先日提督は入渠ドックに乱入したじゃありませんか。あの時にドックにいたのは確かに吹雪・睦月・夕立の三人でしたね」

「…………あ」

 思い出した。そして――

 

「…………ア? ナンデスカ? テイトク?」

 

――長門も主砲の斉射方法を思い出しそうだ。

 

 

 やがて提督室の扉がノックされ

『利根型一番艦 重巡洋艦 利根じゃ』

「どうぞ入って」

『失礼する……ぞ? …………なんじゃ? これは」

 利根が入室した先ではなぜか正座して長門に説教をされている竹早の姿があったのだった。

 

 

 吹雪を帰した後、竹早は自分の席に座っている。どうやらなんとか誤解は解けた様だ。

 彼の前には数人の重巡洋艦が立っている。

 最初に入室してきた利根の他には、その姉妹艦である二番艦の筑摩。それに妙高型二番艦 重巡洋艦・那智、同三番艦の足柄、四番艦羽黒の合計五人。

「君達に来てもらったのは他でもない。前任の伊佐名提督が閉鎖するまで当鎮守府(うち)で教練を担当してたと聞いているが、それに違いは無いかな」

「はい。それに相違ありません」

「そうか」

 足柄の答えに頷きながら

「そこで君達に聞きたい」

 姿勢を正し全員を視線を合わせると。

 

「現状の駆逐艦の錬度に付いて、君達はどう考える?」

 

 一瞬、五人は視線を混じらせると代表するかの様に利根が一歩前に出た。

「まだまだヒヨコじゃ。実戦には耐えられんと見とります」

「だが駆逐艦なしで戦線を維持出切るものでもないだろう? 空母には空母の、駆逐艦には駆逐艦の、それぞれにあった役割と言うものもあると思うのだが」

「無論、我輩も連中を実戦に出すなと言っている訳でもないのです。駆逐艦の中にも実戦に耐えうる者も確かに()る」

「如月や島風などは既にそのレベルにはあると思います」

 利根の援護をするかの様に那智も一歩前に出た。

「ですが暁や(いなづま)、吹雪など、明らかに航行や砲撃が不得手な者も居るのです」

「だが何度も出撃をしている様子だが」

「私達は艦娘です。提督のご命令であれば出撃する覚悟は皆出来ています。ですが……」

 思わず、俯く。

 

「大潮は…………初陣でした」

 

 行けとだけ言われて行き、航海を終えた娘を思い出し拳を握る。

 

「……つまり君達は現状の駆逐艦(彼女達)の錬度には不安を覚えているという事だな」

「その通りじゃ」

「君達の総意でいいな?」

「無論じゃ」

 利根と共に四人も肯定を示す。と、竹早は笑みを浮かべる。

 

「よろしい!」と立ち上がる。

 

「現時刻をもって錬度不足の艦娘に対する教練を復活させる」

 前任の廃止した制度の復活に驚く。階級としては遥かに下である竹早がそれを行ってもよいのだろうか? との不安もあるが利根達にとっては待ちに待った朗報でもある。

 思わず息を呑んでしまった。

「駆逐艦を主に教練の対象とする者の選抜は君達に一任する」

「しかし提督」

「なんだ?」

 止める利根に向き合う。

「その、宜しいのですかな? 廃止は前任の少将が決めた事なのじゃが」

「少将は前任の提督で現在の提督は私だ。断りを入れる必要はないよ」

「それは、我輩達としてはその、良い話ではあるのじゃが、の」

「ええ」

 姉妹艦の筑摩も頷くが、やはり不安も残る。

「少将の決定を覆すのは後々に」

「それは君達が心配する事ではないよ」

 笑顔で受け流した。

 

「教練を課される者も出撃させねば成らないのが当鎮守府の現状だ。現有戦力は限られているからな」

「それは承知しとります」

「その際にはその者の錬度や艦隊編成、任務の危険度や重要度を考慮して彼女達を組み込んでやってくれ。出撃の可不可や編成に関しては長門君」

「はい」

「君に一任とする。この五人と協議の上で出撃を決めてやってくれ。もう分かっているとは思うが」

「生還を最優先に、ですね」

「その通りだ」

 自分の意図を汲んでくれた秘書艦にほっとする。

 利根達にすれば違和感を覚える話なのだが、長門は五人を見ると

「提督は小競り合いの勝ち負けには頓着なされない方の様だぞ」

「それは、じゃが良いのか?」

「私は提督の秘書艦に過ぎんからな。決めるのは私じゃない」

「しかし」

「百戦して百勝する必要はないよ。大局としての勝利を目指せばそれでいい。私は小競り合いや遭遇戦で艦娘(君達)を失わせる気は無いよ。それくらいだったら負けた方が万倍マシだね」

「提督……」

 一同と視線を合わせ竹早は着席すれば

 

駆逐艦(あの子達)に生きて帰ってこれるだけの力を、与えてやって欲しい……頼むぞ」

「了解致しましたっ!」

 利根と共に皆が敬礼をして竹早に応えるのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 翌日、鎮守府の門近くの駐車場に向かう竹早。傍には長門が寄り添い。

「では留守を頼むよ。大本営からは明日には帰れるだろう」

「お任せください。道中、お気をつけて」

「ありがとう」

 敬礼で見送ってくれる長門に笑みを見せ車に乗り込もうとすると、竹早の耳に声が聞こえてくる。

 

『ほーれ。まだあと十週残っとるぞー! 航行も砲撃も基礎体力合ってのものだからのー』

「「「「は~~~ぃ」」」」

 

 利根の声に幾人かの力ない返事が聞こえてくる。

 復活した駆逐級はさっそく今日から教練を始めている様子だ。

 教室で教本と格闘する者、グランドで汗をかく者、演習場で水しぶきを上げる者。みなそれぞれの訓練に汗を流しているのだろう。

 そのひとつひとつが、確実に彼女達の未来に繋がると信じれば、自然と笑みも漏れるというものだ。

 

「……頑張れ」

 

 そう独りゴチて竹早は車に乗り込み鎮守府を後にするのだった。

 

 

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