なんと!前回投稿から3ヶ月も経ってしまった放置っぷりに、大変長らくお待たせしました。
振り返ればこの三か月の間にいろいろあって…BORUTOとか、BORUTOとか…とにかく映画は大反響だったようで、そのあおりを受けた投稿小説とか同人誌の販売とか、とにかくその辺に奔走していました(笑)
ようやく続きが投稿できました。
音信不通な小生に、温かい応援をくれた方々ありがとうございます。
あと、今回の投稿をもって、オリ主の名前を変更いたしました。一話から全部です。こちらの名前でも気に入っていただけると幸いです。多少文章の修正も入っていますが、ストーリーに大きな変更はありません。
今後とも、どうぞよろしくお願いします。
常闇の空間で、緋色の尻尾がゆらゆらと揺れている。尻尾は一本ではなく、九本だ。現(うつつ)の世で、尾が九本もある生物など存在しない。つまり、ソレは現世の理(ことわり)に則しない存在であることを意味する。
九本の尾を持つ獣――巨大な妖狐の姿を持つクラマは、浅い水面のある空間に寝そべるようにして身を横たえながら、じっと考えていた。
「(やはり、あの蛇顔の男……本来の″未来″に干渉して来たか…)」
″あの時″――白眼使いの小僧と小娘が試合うまでは、なにも″変わらなかった″。
しかし、その後に重傷を負った小娘の治療ができなくなる事態に陥り、あのままカミナとクラマが手を下さなければ、小娘は蘇生かなわず命を落としていたであろう。
……嫌な手を使いやがる。あの蛇野郎、″違えた未来″でカミナがどう動くのか反応を見たかったのだろう。そのために、カミナが大切にする仲間の命を危険に晒し、他人を愛するカミナの心を試した……
「………気に入らん…」
奴の封印は綻びからぶち壊したものの、まだクラマの存在を自覚したばかりのカミナでは、クラマの強大過ぎるチャクラを完全に制御することは難しい。下手をすれば、カミナの乱れた感情に引きずられて、尾獣と畏れられるクラマの強大なチャクラが暴走しかねないのだ。
″こちら″のクラマはカミナの身体を乗っ取る気などさらさらないが、そうなってしまえばクラマ自身にも暴走を止めることはできない。
それに加え……
「………。」
クラマはその大きな体躯を億劫そうに動かして、自らの右の拳を視界の中に持ってくる。先ほどカミナにチャクラを渡すために重ねた拳が、軽い火傷を負ったように薄く爛れて地味に痛みを訴えていた。クラマはその傷を、ぺろりとひと舐めする。
この程度の傷と痛み、クラマにとってどうということはないが……死神の封印による制約は、思いの他厳しいらしい。スズメの涙の、さらに百分の一程度のチャクラしか渡していないというのに、このザマだ。渡すチャクラが多ければ多いほど、その分の負担が今度はカミナにまで生じてしまうだろう。カミナの力にはなってやりたいが、勝手が悪いと言ったらありゃしない。
「(おそらく、いや、間違いなく…彼奴の目的は、この先″失敗する″木ノ葉崩しを、完全なものにすること。6年前、カミナの記憶を盗み見た彼奴は、そのための準備をしているに違いない……)」
″今の″カミナは、どう動くのか………
目覚めたばかりの幼い主の覚悟は、まだ、定まってはない。
今はただ、祈るのみである。世界と愛する者たちの幸せを願う、小さな少女の幸せを―――
◆◆◆
まもなく、予選・第九回戦が始まる。
血で汚れた闘技場が整えられていく様を、カミナはギャラリーの柵にもたれかかりながらぼんやりと眺めていた。
少し前に、ヒナタを搬送する部隊が塔を出ていった。そこには、同じ班員のキバと担当上忍の紅も同行している。
キバはナルトとの戦いで負った傷の痛みを押して病室を抜け出し、闘技場に姿を現した。ヒナタの悲惨な姿には目を剥いて憤りを顕にし、そしてネジに噛みつかんばかりの殺気を立てて睨みつけていた。しかし、ナルトに負けたことと生来の野生的な勘が、彼を理性的に留まらせたようだ。そして、移動だけとはいえ危険に満ちた死の森の道中を、その優れた嗅覚で先導する役を買って出たのである。キバの傷の具合も危惧して初めは躊躇していた紅だったが、シノの後押しもあって彼女もヒナタに同行することになった。第八班にも、確かな絆が築かれていることが伺えた。
「――カミナ、大丈夫かってばよ?」
先ほどまで、砂のカンクロウに声を掛けられていたナルトが戻って来た。ちらりとナルトの後方に視線を向けると、そこには擬態用の化粧で少しわかりにくいが、憮然とした表情のカンクロウがこちらを……ナルトとカミナを見ていた。おそらく、強敵と認識したネジの情報でも得るため口の軽そうなナルトに声をかけたのだろうが、もとよりネジと親しいわけでもなく、ヒナタの件でネジを敵視しているナルトからは特に得るものが無かったのだろう。ご愁傷さまと、カミナは心の中で少しだけ同情する。
「ん…大丈夫だよ、ナルト。なんだかこの中忍試験の間、皆に心配されてばっかりね……私、そんなに信用ないかな?」
「ないってば」
「え?即答?」
あらためて見れば、ナルトの口元はものの見事にへの字に曲がっていた。どうやら、ネジのことだけで腹を立てている訳ではないらしい。
「なぁ、カミナ……なんかオレに隠してること、ねぇ?」
「え……」
ずいっ、と顔を近づけたナルトのいつになく真剣な表情に……ぎくり、と、カミナは心が軋む音を聞いた。だがしかし、そんなことはおくびにも出さない。圧倒的不利な状況であっても、気取られないのが忍の極意である。
「…どうして?」
「……ネジの奴と、知り合いだったのか?」
「…………。」
あれ?そっち?――てっきり、あの普段とは違いすぎる医療忍術とかチャクラのこととかを聞かれると思っていただけに、カミナは肩透かしを食らった気分だった。
「あの我愛羅ってやつのことも……死の森で、初めて聞いたし…」
ナルトは怒っていると言うよりも、なんだか拗ねているようにも見えた。
「…ずっと眠そうなまんまだし、具合悪そうなのに大丈夫としか言わねーし……サスケとサクラちゃんも、なんかオレに隠し事してるみてーだし……ヒナタが助かったのは、マジでよかったと思うけど……カミナの試合はこれからなのに、チャクラ使って無茶するしぃ……」
……内容がだんだん愚痴っぽくなってきた。ぶつくさ言い募るナルトの様子は、唇をアヒルのように突き出していて、俯いた視線の先にある足元ではのの字を書き出しそうな勢いで……完全に拗ねモードだ。
何度も言うが、普段元気印がトレードマークのナルトが、ここまであからさまに落ち込むのは珍しい……と思っているのは、おそらく騒がしくて意外性ナンバーワンな表面上のナルトしか知らない者達だけであろう。ナルトのあの騒がしさは、自分の存在を周囲に認めてもらいたいがためのアピールであり、プライベートなナルトは、実はそこまで騒々しくはないのだ。
あの小さなアパートの部屋の中では落ち込むことだってあるし、悲しみを露わにすることだってある。しかし、それを知るのはおそらく、ナルトのテリトリーに居場所があるカミナだけであった。
「ナルト……」
カミナは、近くにあったナルトの手を握って自らの膝の上に乗せる。そして、自然と近づいた互いのおでこをこつんと突き合わせた。互いに額当てをしたままだったから、似つかわしくない金属音がじんとおでこ越しに伝わった。
「ありがとうナルト、心配してくれて……ネジさんのことは、別に隠していたわけじゃないよ。我愛羅のことも…ただ、ちょっと話す機会がなかっただけ。我愛羅のことは辛い思い出でもあったし、ネジさんのことは…あの時、小鳥のお世話のほうが気になっちゃってたって言うか…」
「あぁ、あの時の小鳥な……へへ、ちっちゃくて可愛かったってばよ」
「うん、ナルトもお世話手伝ってくれたもんね……サスケとサクラのことは、信じて待ってあげて。いつか必ず、ナルトにも話してくれると思うから……ヒナタのことは後悔してないよ。友達だもの、助けたかったの……私は大丈夫。今は眠気も落ち着いたから…ナルトだって頑張ったんだもの。私にも、やれるところまで頑張らせて。ね?」
カミナはひとつひとつ、ナルトの不安に答えを返していった。カミナはいつも、こうしてナルトに触れながら心から伝えたい気持ちを言葉にする。まるで、親が子どもに諭すように……せっかちな性分のナルトには、この話し方は気分が落ち着いて相手の言葉も理解しやすく、そして何よりもカミナをとても近くに感じることができるので好きだった。
もともとは、互いに親の温もりに飢えた子ども同士故の行動だったのかもしれない。ナルトはささくれ立っていた己の胸の内が、じんわりと…温かく潤っていくのを感じた。
「ふふふ……そういえば、ナルトとこうやって話をするの、なんか久しぶり」
「へへ…確かに、そうだってばよ。この五日間、サスケとサクラちゃんも一緒だったし、カミナ寝てたし…。はぁー…早くウチ帰ってカミナのメシが食いてぇ。あ、一楽も行こうな!」
「ラーメンはちょっと重いなぁ…それに気が早いよ。まだ私、予選終わってないし」
「じゃあ、予選が終わったらぜってぇ行こうな!予選通過祝いで!」
「だから気が早いって…」
二人はおでこを突き合わせたまま笑みを浮かべて、他愛のない言葉をぽつぽつと交わす。その親密さは、明らかに″ただ″の幼馴染み同士だけのものとは思えない……見ている者の背筋をむず痒くさせる、甘やかな雰囲気に満ち満ちていた。
しかしながら、今は中忍試験の真っただ中である。人の目を憚らない二人の親密さを披露する様は、現状では少し厄介だったりする。
「(まだ予選の最中だってのに、なにイチャイチャしてるの、こいつら……)」
「(カミナっ!あんたたち、ソレで″まだ″付き合ってなんて嘘でしょっ!?何処がお母さんなのよ、近いっ、近すぎるわ!!うらやましいわね、しゃーんなろーー!!)」
ナルトとカミナが互いに向ける感情の種類に薄々気づいていたカカシは、思わず呆れと喜びの混じる吐息をその覆面の内にそっとこぼし、サクラは二人が互いに想い合っていることに気付くとともに、そのじれったさと甘ったるさに砂吐き気分で内なるサクラが思わず本音を叫ぶ。
そして、同期二人のそんな親密な関係を初めて目の当たりにしたシカマルを除く面々は、驚愕の事実に皆一様にして目を点にするのであった。
「…………。」
「(か、カミナっ!そのアホ面な男はなんなんだ!?近いぞ!!頼むから、我愛羅の前でこいつの神経を逆撫でするような行動はやめろ!!――カンクロウ、お前逃げたな!?)」
「(……すまねぇ、テマリ。オレしばらく、こっちの席に居るじゃん…)」
被害を受けた面子は、砂にも居た。
我愛羅の砂が殺気を帯びてざわめき、テマリとカンクロウが冷や汗をかきながらアイコンタクトを交わしていたことなどは、幸か不幸か誰も気づきはしなかった。
◆◆◆
わずかなインターバルを挟んで、残る予選が再開された。
第九回戦目の組み合わせが、電光掲示板に表示される。
我愛羅 VS ロック・リー
「早々とアナタと闘れるなんて、嬉しい限りです!!」
「………フン」
颯爽と闘技場に降りた二人の闘いが、ハヤテの合図とともに始まった。
先に動いたのはリーだった。初速から攻撃に繋ぐ強烈な蹴りを、我愛羅は指一本動かさず、砂でガードした。
「(やはり、砂で防御(ガード)してきましたね!!)」
「……!」
我愛羅の砂による防御をあらかじめ予測していたかのような、よどみなく続くリーの二撃目、三撃目。相手の精神への動揺の無さに、我愛羅は目元の険しさをわずかに強めた。
初めて我愛羅と相対する者は、大抵が砂を自在に動かすその未知なる戦闘スタイルに、少なからず動揺を示すものだ。印を結び忍術として発動するなら兎も角、それを必要としないどころか攻撃も防御も間断なく続く変幻自在な砂の動きに、次第に相手は戸惑い翻弄され……冷静さを失って、悪夢でも見ているかのような恐怖の中で全身を砂に包まれて絶命する、それが常だった。
そんな我愛羅にとって、リーのように砂の絶対防御をものともせず(ただその攻撃は一撃たりとも我愛羅には届いていないが)、果敢に攻撃を繰り出して挑み続ける存在の登場は、我愛羅にこそ軽く動揺を与えるものだった。
しかし、所詮その程度のこと。我愛羅の砂が、揺らぐことはなかった。
――ダッ、ダッ……ヒュッ!!――
――ザッ…ドカッ!!――
リーの繰り出す拳や蹴りの数々は、ことごとく砂の絶対防御に阻まれてしまう。
「(速いっ!…その上、砂のガードがこれほど硬いものだとはっ…!!)」
リーは死の森の第二の試験において、ナルトの同期たちから、この砂の忍が隠れ里の名のごとく砂を操って戦うことを聞いていた。故に、闘う以前からある程度の予測ができたため、初見から出端をくじかれる程の動揺を抱くことはなかった。
しかし……あのサラサラとした砂粒ごときがこれほどの防御力と速さを兼ね備えているとは、予想を超え、驚き以上に関心を抱くほどのものだった。
「(まったく…ボクの目標は、ずっとライバルのネジを倒すことだったと言うのに…サスケ君にナルト君、それにこの砂の忍にしたって…もっともっと、ボクは強くならなければなりませんね!!)」
強者を前にしてなお、リーの闘志はますます燃え上がる。しかしながら、忍術・幻術のスキルが一切無いリーにとって、この遠距離攻撃を得意とする我愛羅を相手に、自らの戦闘スタイルとの相性がすこぶる悪い事実に変わりはなかった。
――″今″のリーのスピードでは、速い砂の動きに追い付けない。かといって、あの砂の防御を突き抜けるだけの威力もない。……否、方法はある。しかしそれは、師の約束とともに、ある条件下でしか許されぬ禁じ手でもあった――
「リー!外せーー!!」
そんなリーに、師であるガイ自ら、ナイスガイなポーズでリーの背中を力強く後押しした。
リーが勝つことを信じ、その覚悟を認めてくれた師の言葉にリーは歓喜して、両足のアーマーの下に普段から取り付けている″重り″を外して、足元へ落す。落下により凄まじい物音がしたが、それよりも枷を無くして羽のように軽くなった身体が、今にも飛び出さんとうずうずしていた。
「行けーー!!リー!!」
「オッス!!」
師の号令とともに、リーは勢いよく宙へと飛び出した。
――フッ………ザッッ!!――
「!!」
――ガッ!!――
一瞬にして我愛羅の背後に移動したリーの拳が、我愛羅を穿つ――直前に、その間に砂が滑り込んで防御した。
「惜しい!!」
「(速い……)」
サクラが悔しがるのも無理はない。カカシが感心するほどの素早い一撃だった。
――バシュ!…ガッ!…ガッッ!!――
我愛羅の周囲で、次々と防御の砂が弾け飛ぶ。しかし、我愛羅が攻撃に気づいて視線を向ける先にはすでにリーの姿はなく、またすぐに我愛羅の死角で砂の防御が弾け飛ぶ音が響いた。
「す…すげぇ…」
「攻撃が速すぎるっ…!」
「目で追うことができないよ……」
リーの高速の攻撃は、観戦しているシカマルたちにすらほどんと見えていなかった。それほどまでに、重りを外したリーの動きは速かったのだ。
「忍術や幻術が使えない、だからこそ……体術の為に時間を費やし、体術のために努力し、すべてを体術だけに集中してきた。たとえ他の術は出来ぬとも、アイツは誰にも負けない……アイツは、体術のスペシャリストだ!」
――ガッ!!!――
ついにリーの拳が我愛羅を捕らえ、小柄な身体が背負ったひょうたんごと吹っ飛ばされる。
リーも確かな手応えを感じて、再び構えを取り直した。
「す…凄い!速い!!砂のガードが完全に追いついてない!直撃ねェ!!」
「ゲジマユの奴、前よりもっと速いってばよ!アイツ、あんなに強かったのか…!!」
リーの爽快な一撃に、サクラとナルトが興奮した声を上げる。
……が、同じくリーの実力に驚きつつも、我愛羅の様子を注視して見ていたテマリとカンクロウの顔色は青ざめると通り越して、戦慄していた。特に、今まで我愛羅に傷をつけた奴など見たことがないカンクロウは、「ヤバイな…」と呻くような声を無意識に漏らしていた。
その小さな呟きを聞きとっていたのは偶然にも近くに居たシノであり、何がヤバイのかと一瞬疑問を抱くのだが……死の森で、敵対した雨隠れの忍を何の躊躇もなく殺した我愛羅の姿が脳裏を過り、シノは、あの時感じた死の恐怖が再び背筋に冷たいもの落すのを感じた。
初めて床に倒れ込んだ我愛羅が、ゆっくりと…周囲に砂を蠢かせて立ち上がる。
――ピシッ、ピシィ……パラ、サララ…――
「!?」
「な…なんだぁ…顔が、ボロボロに崩れたってばよ!?」
「なんなの、アイツ…!!」
ナルトの驚きに満ちた言葉の通り――リーの拳で殴られた我愛羅の顔は、まるで我愛羅の形をした陶器が割れて剥がれ落ちるかのごとく崩れていき……″砂の鎧″の内に秘められた、我愛羅の狂気じみた表情を露わにさせていた。
「(やっぱり、砂を纏っていやがったか…しかし久しぶりだぜ、我愛羅のあの表情(カオ)を見るのは……この中忍試験で、だんだん不安定になりつつあると感じてはいたが……)」
その原因の発端のひとつは、おそらく……あのカミナという、赤髪の少女との再会にあるのだろうと、カンクロウは憶測する。
幼少時期より、我愛羅を恐怖の対象として距離を置いていたカンクロウは、かつて一時砂隠れで暮らしていたというカミナに出会ったことはなかった。テマリは会ったことがあるらしいが、ほんの二回程度のことで、その当時、カミナは我愛羅の唯一の遊び相手だったらしいと聞いてひどく驚いたものだ。
あの我愛羅に、友がいたなんて…――そして、我愛羅が夜叉丸を殺したあの夜、カミナの姿も砂隠れから消えたらしい。
「(親父は何か知っているのか?……我愛羅を恐れないなんて、一体何者なんだアイツは…――って、なんだ?)」
試合の雲行きが気になるものの、ふとカンクロウがカミナの入る位置に視線を向けたとき……何故か彼女はギャラリーの柵の前でうずくまっていた。それをあの金髪のガキ――うずまきナルトと言ったか――が、ひどく慌てた様子で声を掛けていたのだ。
◆◆◆
カンクロウがカミナの異変に気が付く、わずか数秒前――
「なんなんだぁ、アレってば!?砂を、身体にくっつけてる…?さっきのゲジマユの攻撃も、アレでガードしてたのか?――なぁ、カミナはなにか知って……て、え?カミナ!?」
我愛羅の、ただの忍術とは思えない砂の防御に驚愕するナルトは、アレが何なのか知りたくて隣に居たはずのカミナに声をかけたのだが……眠気は引いたと、先ほどよりは幾らか落ち着いた様子で、久しぶりの笑顔すら見せてくれた大事な幼馴染が……いつの間にか、ギャラリーの柵の根元でうずくまっていたのだ。今度は、ただ眠っているのではない。明らかに苦しげな息を吐き、片手は柵にしがみ付いて、もう片方の手で頭を抱えて小さな背中を丸めている。ナルトは慌てて、カミナの傍に駆け寄った。
「カミナっ!?ど、どうしたんだってばよ!?」
「えっ、カミナ!?どうしたの!!」
「う、く…うぅッ……!!」
ナルトの声に気がついて、サクラも驚きカミナの傍らに駆け寄り膝をつく。咄嗟に背中をさすってみるが、カミナの荒い息は収まらず……カミナは錆び付いた柵を手が白くなるまで強くに握りしめ、頭が痛いのか、さらりとした自らの赤い髪を掻き毟るようにして深く強く握り込んでいた。
いくら声を掛けても顔を上げられないカミナに、ナルトとサクラはオロオロと顔を見合わせた。
「カミナっ…!?どうしたんだ?」
「カ、カカシ先生!分からないんです!カミナが、突然っ―――」
仲間たちのそんな会話が、丸めた背中の上で交わされているのを……カミナは、頭が割れんばかりの激痛に苛まれる中、どこか遠くのことのように感じていた。
闘技場では、今まさに……リーが我愛羅に″表蓮華″を仕掛けるため、下方から強烈な蹴りを炸裂させていた。
◆◆◆
「う、うぅッ……頭、イタイ…割れ、そっ……なんで…ぐっ!」
――パシャンッ……と、両手で頭を抱えてうずくまったカミナの足元で、浅く水を張った水面が小さく波を打つ。そんなカミナの眼前では、巨大な体躯を折り曲げてカミナを見下ろすクラマが、忌々しげに舌打ちをしていた。
「チッ…まずいな。…ワシのチャクラが干渉したことで、″記憶″が戻るのが早まったか……」
現実の世界で、カミナの眠気が一時的にでも引いたために油断していた。そもそも、ここ最近は″記憶″の再生スピードが緩やかになっていたために、事態を甘く見てしまっていたようだ。
過去の彼女が″忘れた記憶″は、まだ少し残っている。そしてその内容は、今のカミナには少し刺激が過ぎるモノだった。出来れば、この予選とやらが終わるまで、残りの″記憶″が戻るのはもう少し待ってほしかったものだが……。
クラマにとって、カミナがこの中忍試験を受かろうが落ちようが、そんなことは至極どうでもよかった。気がかりなのは、あの蛇顔の男の部下がカミナの予選相手になると″確定した″今、闘いの最中にカミナの不調が現れて、その隙が彼女の命取りになってしまわないかということだった。
――おそらく、大蛇丸は″まだ″カミナのことは殺さない……しかし、時が来れば、いずれ……
もうすぐ…カミナの″忘れた記憶″が、″現実″時間を″追い越す″。
それはカミナに、新たな苦痛と試練を与えるだろう。
「カミナ……二度も、壊れてくれるなよ……」
クラマは祈るような言の葉を吐くと、カミナの小さな身体を包み込むように両手の中に収めた。チャクラの譲渡がカミナの新たな負担になる以上、今のクラマには成す術がない。
尾獣の中でも純粋な増悪を持つ存在である九尾が、このような願いを抱くことなどかつてではありえなかっただろう。尾獣にも、人と同じように心がある。そしてその心を変えるのもまた、人の心だった。
そして九尾は、九喇嘛(クラマ)は……かつての″カミナ″によって、その憎しみに染まった心を救われたのである……
◆◆◆
かつてない頭痛に苛まれ、左右から掛けられるナルトとサクラの声に返す余裕もないカミナだったが……痛みに涙さえ浮かぶ眼をなんとか押し開いたとき、そこには……
カミナの眼には、あり得ざる″二つ″の光景が″視えて″いた……
『表蓮華!!』
――ギュゥンッ……ドガァッ!!!――
蹴り上げられた空中から、受け身を取らせない強烈な勢いで闘技場の床に叩き付けられる我愛羅。
しかし、分厚い石板さえも割り砕き、瓦礫に埋もれるように横たわっていたのは、変わり身の砂の人型であった。――そしてその光景は、瞬時にカミナの眼から幻のように消えてゆく。
「表蓮華!!」
――ギュゥンッ……ドガァッ!!!――
「(ッ!!)」
「うわっ!な、なんだぁっ!?」
「あっ!――や、やった!リーさんが勝ったーー!!」
闘技場では、瓦礫の中に我愛羅が倒れていた。
―― リーの蓮華による″本物の″衝撃が会場を揺るがし、そして勝敗を決したかと思う光景にナルトが驚きの、サクラが歓喜の声を上げていたのだ。
「(…″なに″……これ…?)」
頭痛は止まない。しかしカミナは、その苦痛を忘れる程の驚きに全身を支配され、瑠璃色の瞳を大きく見開いていた。
――また、″次の光景″が、カミナの眼に映り込む。それはまるで未来の姿を、先取りしているかのように……
『何でリーさん避けないの…!?』
致命的な一撃は与えず、我愛羅の砂は容赦なくリーを襲う。しかし、技の反動で思うように動けないリーは攻撃を防ぐ他に術がない。このままでは、ただ嬲り殺しになるだけだった。
『――自分を信じない奴なんかに、努力する価値はない!!!』
『!!』
場面は突如、がらりと景色が切り替わった――そこは死の森にある塔内部ではなく、夕暮れ時の木ノ葉の修行場だった。今よりも幼い風貌のリーが涙しながら修行用の丸太に挑んでいる。それを背後で見守っているのはガイだった。まるで過去にタイムスリップしたかのような風景の中で、師弟は熱き志を語り合っていた。
「(……なぜ……?)」
――カミナ(じぶん)に、こんな光景が見えるのか…今までの、過去の″記憶″を思い返していただけだと思っていた″夢″とは、明らかに違う……
『……木ノ葉の蓮華は、二度咲く!!』
「――木ノ葉の蓮華は、二度咲く!!」
「!?」
ガイの力強い台詞とともに、カミナの意識は現実に戻って来た。
――いや、ガイの今の台詞は、現実で起こるもの。そして、それはその通りのタイミングと口調でガイの口から放たれた。これは、つまり……
「えっ?……あ、それ!前に、リーさんも言ってた…」
「ッ!?――まさか、ガイ…お前!」
「お前の想像の通りだ、カカシ」
「?」
いつになく驚いた様子のカカシに、サクラもナルトも注意を引き付けられていた。
――過呼吸気味だったカミナの呼吸がいつの間にか落ち着き、いまだ俯いたままの姿勢ではあるが、乱れた赤い前髪の隙間から闘技場を食い入るように凝視しているカミナの様子には、誰も気づいていなかった。
それでよかったのかもしれない。
カミナはただ、瑠璃色から緋色に変化した瞳に映る″未来の光景″を″視る″ことに、ひとり集中できたのだから――
『――裏蓮華!!!』
″八門遁甲の体内門″を五門まで解放し、己の身体が自壊していくのにも構わず、凄まじい攻撃を繰り出し続けたリー。砂の防御も追いつかない高速連続体術を受けた我愛羅は最後、リーの渾身の一撃を受けて、会場を揺るがす振動とともに闘技場に叩き付けられた。
勝負は、今度こそ決したかに見えた。
しかし、落下の直前に我愛羅の背にあったひょうたんが砂と化し、攻撃の威力をガードしていたのだ。それでも無傷とはいかない我愛羅だったが、彼は砂を操り、八門遁甲の反動で身動き出来ないリーの左手足を捕らえた。
『砂漠柩!!』
『ぐわああああ!!』
ベキ、ゴキ!!――と、明らかに骨の折れた音が響く。更にとどめを刺さんと覆いかぶさる砂を跳ね除けたのは、砂とリーの間に立ちはだかったガイだった。
『…なぜ……助ける…』
『こいつは……愛すべきオレの大切な部下だ』
我愛羅には到底理解できぬ言葉だと、砂の担当上忍であるバキが胸中で呟く。
ハヤテが我愛羅の勝利宣言をするが……そこへ、満身創痍という言葉では足りない、誰の目にも明らかな重傷を負っているはずのリーが立ち上がっていた。しかし、リーにはすでに意識はなく……意識を失おうとも、彼は己の忍道を貫こうとしていたのだ。
試合が終わり、リーの治療に駆けつけた医療班のひとりが、顔色悪くガイに声をかけた。
『――攻撃された左手足のダメージが特にひどい。……こんな事を、言いたくはないんですが……彼は、もう二度と…忍として生きていくことはできない体です』
『!!』
『っ!! そ、そんな…そんなの、ウソだろ…』
衝撃の言葉に、身体を震わせるガイとナルト。
担架で運び込まれていくリーを、我愛羅は冷たい一瞥をくれて見遣っていた。
「(…そんな……我愛羅が、リーさんを……リーさん、は…!!)」
カミナは、真っ暗な空間で頭を抱えていた。
なぜ、どうしてっ――そんな言葉ばかりが、頭を駆け巡る。
我愛羅は、本気でリーを殺そうとしていた――なぜ?
リーは、我愛羅の手によって負った傷の為、もう忍として生きられないという――どうして?
第二の試験で、我愛羅が雨隠れの忍を躊躇なく殺した時の″記憶″を視たときにも、カミナは同じ衝撃を感じていた。
我愛羅は、彼は……昔は、好き好んで他者を気付けるようなことは決してしない男の子だった。それこそ、自身の揺れ動く感情で暴走してしまいがちな砂の所為で誰かを傷付けてしまった時、彼は本当に悲しんでいたのだ。
『……ごっごめん、なさいっ……足、痛い?…あ、あの、コレ……』
我愛羅はその小さな肩を震わせて、誤って砂で怪我をさせてしまったカミナに、自らの手で傷薬を持ってきてくれたのだ。そんな我愛羅を、カミナは怒る気にも、ましてや恐れを抱く気にもならなかった。あの日こそ、当時孤独だった我愛羅とカミナの、初めての繋がりができた瞬間であったのだ。
「――があ、ら……ゃめて…っ」
「えっ?…カミナ?」
「っ――!」
傍らで聞こえたナルトの声に、カミナははっとする。
肩を掴むナルトの温かな手に、今が″現実″なのだと分かった。
カミナの瞳は、すでに瑠璃色に戻っていた。″未来″と″現在″を行き来する視界によって、カミナは、今の自分の居場所が分からなくなる気がした。
「――第三の門、生門を開いた…動くぞ!」
「いや、まだだ!!」
「なに!?」
カカシとガイの声音に、カミナははっと会場へ目を向けた。
抑制を外したリーの身体からはチャクラが迸り、身体の色が赤く変化する。
「(さらに、第四傷門…開!!!!)ハアァアァァア!!!」
更なる門を開放し、リーの額には血管か浮き出て自壊の兆しか鼻血が出始めた。
「リーさん……ダメっ…!!」
「え?」
カミナのか細い声がナルトの耳に届くのとほぼ同時に、リーが動いた。
――ダッ、ゴゴゴッ……ガッ!!!――
「!!」
彼が踏み抜いた床石は瓦礫となって舞い上がり、空気の層をも突き破る猛突進は、爆風となって周囲に広がった。もうもうと舞い上がる粉塵の中で、果たしてリーによって蹴り上げられた我愛羅の姿を捕らえられた者はいただろうか。
――ズゴォオオッ!!!――
「キャ!!」
「イテッ!!」
「カミナっ!!」
「ナル――」
爆風によって観覧席にまで飛んできた瓦礫の破片や衝撃波を、皆腕をかざして耐えしのぐ。カミナは、ナルトが咄嗟に身を挺してカミナを庇ったため、怪我を負うことはなかった。
「うっ――ハッ、我愛羅!!」
「ッ、どこだ!?」
爆風が収まり、腕の中に居たカミナが我愛羅の名を呼んだことで、ナルトもはっとして我愛羅の姿を探す。しかし、下方の闘技場にリーと我愛羅の姿は見えない。
「上だ!!」
「けど、リーって人は見えないよ…どこ!?」
天井近くまで蹴り上げられた我愛羅の元へ砂も昇って行くが、その動きはまるで我愛羅に追いついていけてなかった。
――ドガガガガガッ!!!――
空中で、我愛羅の身体が鞠のように弾かれては縦横無尽に飛んでいく。
度重なる打撃によって、砂の鎧は十分に剥がされた。リーはさらに八門遁甲の第五門・杜門まで開放し、最後の一撃を込めて、我愛羅を捕らえた包帯を力強く引っ張った。
「はあああああ!!!」
――裏蓮華!!!――
ドゴォッ!!!――凄まじい衝撃音とともに、我愛羅は闘技場に叩き付けられた。
しかし、カカシとガイ、そしてカミナには見えていた。我愛羅が落下する直前、背中のひょうたんが崩れて砂になり、攻撃の衝撃をガードしていたことを。
「……ぁ……あ……っ」
「…ゲジマユが、勝ったのか?……カミナ?」
ナルトはカミナが、闘技場を見つめたまま震えていたことに気づく。我愛羅が死んでしまったと思ったのだろうか?――しかしナルトもまた、粉塵が晴れていく中で、砂に守られていた我愛羅が未だ動きを見せる姿に目を瞠るのだった。
『――彼はもう、忍としては生きていけない体です……』
『……カミナ、イタイ?……ごめんなさい……』
忍びとしての道を断たれるリー。
他者を傷つけるとともに、自らの心にも傷を負っていった幼い我愛羅。
『――行かないでっ……ひとりに、しないで!!』
離れるべきでは、なかった。
ずっと一緒に居たかったのは、私も同じ。
私が砂を去ったあの夜から、あなたは変わってしまったの?
『カミナ…我愛羅様と友達になってくれてありがとう。キミはどうか……幸せになってください』
夜叉丸さん……あの夜、あなたに何があったの?
私はあなたにこそ、幸せに笑っていてほしかった―――
「――我愛羅っ……やめてぇええッ!!!」
カミナは自身を守ってくれていたナルトの腕を振り切って、闘技場の中に飛び出した。
期間が空いたから、文章がのリズムがつかめませぬ……