自分と同じコーディネートのハンターを目の当たりにして、私は面食らっていた。死に物狂いで素材を集めて作成した、愛着の深い装備である。その苦労から被ることはあるまいと高をくくっていたが、まさかほぼ一緒という輩に出会う日が来ようとは、夢いささか思いもしなかたったことである。
驚愕する私を尻目に、同じ防具に身を包んだハンターが口を開いた。掲示板に貼り付けられたギルドクエストの依頼書を指差し、そして私を凝視しながら。
「このクエストは君が?」
「あ、ええ。ディアブロス亜種は苦手で」
「手を貸そう。ぜひとも同行させて欲しい。ヒューガルデン・ホワイトだ。仲間からはヒューゴと呼ばれている」
「ありがとう。助かるわ、ヒューゴ。私はケストリッツァー・シュヴァルツ。リズと呼んで」
男勝りな口調と、背に担いだ銃槍が印象的な女――ヒューゴと、私は握手を交わした。そして同時に、ヒューゴの頭のてっぺんから足の先までを、まじまじと見つめた。
「そのべリオロスの。商人にふっかけられなかった?」
「仕事でタンジアに足を運ぶことがあってね。そのついでに狩猟してきたんだ」
「いいなあ。タンジア行ってみたい」
「ビールが美味しかったよ」
「有名だよね。ああ、羨ましい」
まず胴体を守る鎧は、異大陸のモンスター――氷牙竜の特別に厚い毛皮と内臓器を必要とする。ここバルバレの地では、あこぎな商人に法外な対価を支払って入手しなくてはならない。私が手配した際には、取引に先立って白猿狐や絞蛇竜などのモンスター討伐を課せられたのだ。足元を見やがってと、内心で毒づいたことをよく記憶している。
「リベリオンのウエストアーマーって可愛いよね。他の防具と、よく合うし」
「そうだね。バストメイル使ってる人は、よく見かけるけど」
「皆と同じって、なんか嫌じゃない?」
「ああ。異論ない」
次に腰の装備だ。こちらは未知の樹海から出土する発掘品である。ピッケル一つで誰でも掘り出すことが可能ではあるが、しかし面倒なことに近隣に炎王龍やら天廻龍やら、つまり古龍種が生息する特別警戒区域でもある。一握りのハンターに与えられる特別許可証を所持していないと、入域はおろか、近づくことさえ許されないというアンタッチャブルゾーンだ。偽造した許可証を片手に、高ランクハンターの一行に紛れ込み、猛り狂うモンスター尻目にピッケルを振るったことは良い思いでとして、私の記憶に刻まれている。
「このソックスさ。黒以外の色が欲しいんだよね」
「例えば何色?」
「色っていうか柄かな」
「ストライプとか?」
「そうそう」
足を通すソックスとブーツは、存外に簡単に手に入れたのだった。ギャンブルで巻き上げたコインを加工屋に持ち込んだら、こしらえてくれた代物である。だが、なかなかどうしてデザインが可愛く、今では愛用している。あの加工屋、いかめしい外見とは裏腹に少女趣味なのでは、いや、かたわらにいた少女の仕業か、まさかロリコンの類――いやはや、行くたびに邪推せずにはいられない加工屋である。
「この腕の、この尖ったトコ、ジャマじゃない?」
「それな。ガンランスをしまう時、引っかかって困るんだ」
「分かる。デザイン的にも要らないし」
そして極めつけが腕の防具だ。あの祖龍、伝説のあの祖龍の角だの殻だのをふんだんに用いた防具、目にしたらまず贋作を疑うべきレアモノである。しかし自らの腕につけた本物と見比べても、微塵も遜色はない――ように見られる。
生なかには信じられず、気付けば私はヒューゴを問い質していた。
「て言うか、大変だったでしょ。手に入れるの」
「そうだね。あのミラルーツだから。君も苦労しただろう」
「え、う、うん」
祖龍と交戦したことなどなかった。あるのは祖龍を討伐したハンターと一夜を共にし、意気投合した結果から、素材を譲り受けた経緯があるだけだ。そう。あくまでも腕の立つ一流ハンターから、善意で素材を頂いたのである。
返事代わりに微笑む私に、出発を促すようにヒューゴが手を差し出した。
「さあ、行こう」
「二人で? せめてあと一人いた方が」
「太刀とガンランスのパーティだよ。同行を願い出る奇特なハンターが、果たしてどれだけいるかな」
嗚呼と声が漏れた。ヒューゴの持つ銃槍は、往々にしてモンスターもろとも同行するハンターをも吹き飛ばす。似たような理由から、私が得意とする太刀もまた評判が悪い。どちらも迷惑者として、煙たがられることの多い武器である。ゆえに同行を拒否するハンターは、ことのほかに多い。悲しいかな、太刀を担ぐ私があたりを見渡せば、目に付いた端からハンターがそっぽを向き、あるいは顔を伏せる。そんな状況が、全てを物語っている。ヒューゴの指摘通り、銃槍と太刀のパーティに好んで加わるハンターなんぞ現われやしない、と。
「時間が惜しい。さあ」
手を差し出したまま、即時出発をとヒューゴが私に詰め寄った。目と声に力をみなぎらせて。
おかしなヤツだ――とは終ぞ口に出さず、私は狩場へと連れ出されたのだった。