インフィニット・ストラトスー歪みの零   作:ライアス・レガルト

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長らくお待たせしましたぁ、

結構今回びみょいかも。

そして今回も長々といきまーす!

楽しんでいってね!


混迷の決闘5~スクランブル・デュエルⅤ~

 

「山田先生! ゲートロックの解除作業はどうなっている!」

 

事態は緊急を要していた。

模擬戦終了直後に突如として襲来した正体不明機。

 

しかもその正体不明機は、まるで挨拶代わりとでも言っているかのような完璧なハッキングでアリーナの入退場口のゲートをロックし、援軍の到着を遅らせるという芸当をも披露して見せた。

 

単機での襲撃である事を鑑みれば、この事件の異常性は上記のような『完璧な手筈』にこそあると言っても過言ではないのだが、

それ以上にこの事件を『異常』足らしめる要因が存在していた。

 

そもそもこの模擬戦、担任の許可があったとはいえども、あくまで生徒同士による非公式の模擬戦な訳であってそこに学園の運営など1ミリだって関わっていない。

ゆえに警備だって普段の祭事に比べたら大して行っていないのだ。

ましてや学園側からすれば普通の授業日である、テロ対策などまったくもってされている訳がない。

 

つまり学園は模擬戦が行われているアリーナには、普段と変わらず普通に警備員が配置されていただけだったのだ。

 

 

そんな無防備な学園に対して何者かが襲撃を行った。

 

 

「駄目です! 現場に居合わせた上級生だけでは解除に時間が!」

 

「他の先生はまだ到着しないか……」

 

 

異常性というのはまさにそこにある。

 

いや、決して警戒を怠っていた学園を『異常』と称しているのではない。

寧ろ経費云々を考慮すれば学園の判断は正しいものであると思う。

なぜならそもそも、そんな普通の日に学校を襲撃する奴なんて普通いないのだから。

 

 

(どう考えてもおかしい。あれだけの手筈、機体性能を持ってして、バックが居ないはずがない。それほどの大物が何故このタイミングで現れたのだ!!)

 

 

そう、たかだが二名の生徒の命を狙うにしては、というより織村一夏の命を狙うにしては、いまいちタイミング微妙過ぎるのだ。

たった一人の首の為にここまで大きな行動を起こす必要なんてないし、その首はそこまで大きな金を動かしてまで達成する程のものでもない。

 

寧ろこんな大がかりなことをするのなら、もっと大勢がアリーナに集まるタイミングで盛大に攻撃するべきである。

 

恐らくその時は厳重な警備がなされている筈ではあるが、それさえも覆せるほどの充分な戦力と戦略性が今回の襲撃にはあった。

正直ここまでしなくとも、一夏一人、もしくはセシリアを含めた二人を仕留めることなど、もっと隠密に安く済ませることができたはずだ。

 

 

なんというか、

 

まるで目の前でスタンしている相手に対し、手に持つサブマシンガンを捨ててわざわざヘルストームで焼き払うかのような、過剰にして無駄が過ぎるオーバーキル。

 

 

ヘルストームなんてリスポンとかB旗を狙って打っとけばいいのに……。

 

 

 

 

織村千冬は差し迫った弟の危機に強く歯噛みしていた。

 

 

「しかも無人機ときた。一体あれはどこのISなんだ……ッ!」

 

「今解析しています!」

 

(恐らくバックがあったとしても、まともな所ではないだろう。検索にヒットするはずはないか。)

 

 

聞いておいて分かったような事を考えていた千冬であったが、

 

 

「か、解析終わりました……これは………??」

 

「どうした?」

 

山田先生の分かりやすい動揺を見てか、千冬は少々彼女に注意を傾ける。

 

 

「該当する組織データはありませんでしたが、同時に……」

 

 

そして彼女の口からはとんでもない事実が語られたのだ。

 

 

「ISコアの反応もありませんでした………」

 

 

どうやら事態は彼女の予想を大きく越え、よりいっそう緊急を要する状況であったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、セシリアは相変わらず一夏をお姫様抱っこの状態で抱きかかえ、アリーナ内を縦横無尽に逃げ回っていた。

背後からは正体不明機が疾風のごとき速度で迫ってくる。

 

「セシリア!」

 

「分かっていますわ!!」

 

一夏の声にこたえるように、セシリアは彼女のISをさながらバレルロールのような挙動で回転させる。

同時に速度を一気に落としたセシリアは、咄嗟の減速に対応しきれず高速で通り過ぎていった正体不明機の背中を流し見すると、すかさず腰についたミサイルを放ってみせる。

 

正体不明機は即座にセシリアたちの方へ機体を急旋回させ再び追う体勢に向き直るが、セシリアの放ったミサイルがそれを正面からとらえる。

 

直後アリーナには轟音がこだました。

 

「やったか!?」

 

「まだです!」

 

 

立ち込めていた煙が突然何かに切り裂かれたのを視認したのと、いつの間にか懐まで迫っている正体不明機を認識できたのは、ほぼ同時だった。

 

 

「?!」

 

 

両手の手の甲あたりから伸びた淡い紫色のレーザーブレードを大きくクロスさせ切り付けてくる敵機に対し、セシリアの反応が大きく遅れてしまった。

 

 

「まず……っ!!」

 

「うらぁ!」

 

 

すかさず一夏が納刀されたままの大剣で敵機の胴体を突く。

もちろんその程度で敵機の突進を止めることはできなかったが、セシリアたちの機体は弾き飛ばされるような形で大きく後方へ吹き飛んだ。

 

敵機のブレードは急速に後進したセシリアたちを捉えることができず、あえなく空をきる。

 

すぐにセシリアは地上に向けて急降下し、地を這うように距離を取る。

 

 

「なんて速さ!」

 

「でも動きは単調だな、単調すぎて、逆に機体性能の差を全面的に押し付けつけられてキツイけど……!!」

 

「キツイのはそれを躱してるワタクシでありましてよ!?」

 

 

そう、敵機は体力差と機動力を駆使して全力でこちらに突っ込んできている。

時間稼ぎなどさせないとばかりに、はたまた少しの小細工をも許さないとばかりに。

 

 

「セシリア! ミサイルが!」

 

 

地上にいるセシリアの頭上から、大量のミサイルが襲い掛かる。

 

 

「くッ! イグニッション!」

 

 

そういうや否や、セシリアのISはイグニッションブーストで後ろ方向に超加速する。

地面に対して垂直な方向から迫っていたミサイルは、その誘導性能が急な方向転換に間に合わず、地面に衝突して爆散した。

 

 

「セシリア! 今のは?!」

 

「イグニッションブーストですわ。便利な機能ですけれど、シールドエネルギーを消費してしまいますので多用はできません……!!」

 

 

先程からうまくいなしているように見えても、二人にとってみればギリギリの対応がたまたま決まっただけに過ぎない。

同じ手が通用するとも思わないし、そもそもそう何回も成功するような簡単な事でもなかった。

あと何回正体不明機の突進にいなせるかと聞かれれば、『次は絶対にやられる』と胸を張って言えてしまうほどに、彼らは追い詰められている。

 

 

「くそ…、死ぬのも時間の問題だってか!」

 

 

まさに迫っている最期の瞬間から、二機のISは全力で逃げ回るしかないのであった。

 

 

 

 

 

一方その頃、藤原零治と篠ノ之箒は先程まで座っていた観客席から離れ、校舎の廊下を走っていた。

 

一緒に走っているというよりは、走っている零治を箒が追っているといった方が正しいだろうか。

零治の少し後ろには少し怒った顔をした姉様がピッタリと付いてきている。

 

因みになぜ怒った顔であるのかというと、彼女は零治に対し、今この瞬間も死と隣り合わせにある一夏達を置いてすぐさまアリーナから逃げ出していった弟に対し、姉として憤りを感じているからだ。

 

 

「一夏達が危険にさらせれているというのに! お前は!!」

 

「あのまま観客席で一夏がやられるのを傍観するのなんか御免だ!!」

 

「先生たちが動いているのだぞ! 私達は素直に…」

 

「応援してろって言うのかよ!」

 

箒のセリフに被せて放たれた零治のセリフからは、普段の様子からは想像もつかないような『熱』が感じられた。

少しでも力になりたいと切望する零治の想い、一々言葉にせずともセリフから十分に伝わってくる。

 

だが、

 

 

「だとしても、どこで何をするというのだ!」

 

 

身の程知らずも甚だしいと、そういうかのように、箒は言葉をたたきつける。

 

 

「お前は何もできない! いいか! 世の中役割というものがあってだなぁ!」

 

「生徒会室!!」

 

 

箒が言い終わらない間に、零治は行き先を叫ぶ。

 

 

「なに?」

 

「僕は何もできない。でも、あそこには生徒会長がいるはずだ!」

 

 

結局は他人任せな行動に違いないのかもしれなくても、なにもしないで見ているよりかはずっといい。

少しでも一夏達の生存率を上げる。

あのロシアの代表候補生なら、学園最強をものにするあの生徒会長なら、それができるはずだ。

 

 

「無駄なんかじゃない筈だよ!!」

 

 

それを聞いたからか、箒はもう何も言えなくなってしまった。

 

 

(それはそうかもしれないが……。くそ、やはりあまりいい気がしない。)

 

 

しかし彼女も納得はしていない様子である。

 

 

「姉さん! 頼みがあるんだけど!」

 

 

そんな箒に対し、零治は間髪入れずといった感じで要望を投げかけようとしている。

 

 

「今度はなんなのだ!」

 

(人の気持ちも知らないでズケズケと……)

 

 

まぁいい、零治にもそれなりの理由があって行動に出ている。無暗やたらに否定しようとするものでもない、と。

取りあえず気持ちを落ち着かせた箒。

 

『気に入らないから頼みを聞かない』というのは、いささか子供地味た反応であると思うし、少なくともこんな緊急事態で言うようなことではない。

 

 

(零治なりにがむしゃらにやろうとしているのだから、手ぐらい差し出してやってもいいだろう。)

 

 

そんなことを思っている時だ。

 

 

「姉さんに、僕の部屋からノートパソコンをもってきてほしいんだ!」

 

「……は?」

 

 

今までの話の流れからまったくと言っていいほど辻褄の合わない要望に、さすがの箒も言葉を失ってしまった。

少しでも一夏達の生存率が云々カンヌンだとか、何もしないよりかはマシだとかなんとか、そんなことを言ってた奴が部屋からパソコンを持ってきてほしいと頼んできたのだ。

 

 

まったくもって意味不明である。

 

 

「まてまて、なぜいきなりそんな!」

 

「それは……、」

 

 

一方の零治も、自分がなぜ姉に対してそんな事を頼んだかなんて分かっていなかった。

口が勝手に動いたというのは言い過ぎにしても、本能がそうすべきと叫んでいたような、そんな気がしただけだ。

 

理由の後付けさえも不可能な程『意味不明』な直感ゆえに、他人を納得させるに充分な説明を施すことなど到底できない。

 

 

「勘だよ! 勘だ! とにかく頼んだ!」

 

 

そう言うしかない。

それ以上の説明なんてできやしない。

 

 

「そんなの!」

 

 

箒がセリフを言い始めると同時に、彼はそそくさと窓から飛び降りて居なくなってしまった。

 

 

「な!?」

 

 

焦って窓の下を覗きこむが、当の零治は受け身をとったのか、怪我をした様子もなく初めから一階にいたかのような調子で外を走っていく。

 

 

「くそ!! 覚えておけ零治!」

 

 

彼女はそう吐き捨てて零治の部屋へ向かうのであった。

 

 

 

そしてしばらくして、

 

 

 

 

バーン、という効果音がよくわかる勢いで、文字通り勢いよく生徒会室の扉は開け放たれた。

 

 

「生徒会長!! 折り入ってお願いが!!」

 

 

生徒会室に入って早々大声を上げた零治だったが、その声は狭い一室の中にさみしく響き渡っただけだった。

生徒会長も副会長も、書記も会計もいない。

 

その部屋には、およそ生徒会メンバーといえる者が誰一人として居なかったのだ。

 

 

しかし、

零治の視線の先には、白衣を身にまとい立ち尽くす一人の男が、こちらに背を向け窓の外を眺めていた。

 

 

「早すぎもせず遅すぎもせず、予測通りの時間だ。昔から律儀なやつだったな、お前は。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やってしまった。

 

過剰な戦力に絶対的な手筈、たかだか二人の命のためになぜそこまでする必要があったのか、そこを深く考えてなかった。

ゆえに策に嵌ってしまったのだ。

いや、実際今のところなんの被害を被られた訳でもないが、これは策に嵌ったとみて間違いないだろう。

 

なぜならこの男の口ぶりを聞くに、彼は零治のことを待っていた筈だからだ。

 

だとすれば、最初から狙いは一夏でもセシリアでもない。あの襲撃は陽動でしかなかったのだ。

それにより零治を動かし、その思考を読み、この生徒会室に罠を張った。

 

 

そして零治はノコノコとやってきてしまったのだ。

生徒会室という極めてピンポイントな罠の中へと。

 

 

「あなたが、黒幕ですか。」

 

 

今更分かり切ったことであるが、少しでも相手のペースを狂わせたい零治は、なにかしら言葉を発するしかない。

 

 

「賢しく育ったな。零治」

 

「なぜ僕の名前を……」

 

「お前が元々『藤原零治』だからだ。」

 

 

だめだ、こいつの言っている意味が分からない。

もしかしなくても、今この男に何を言ってもまともな返答は期待できないだろう。

 

 

「あなたの目的は?」

 

「目的というほど大層なことではないけどなぁ」

 

「目的は?」

 

「分かった分かった。」

 

 

小さくため息交じりに言うと同時に、白衣の男はゆっくりとこっちを向き直った。

 

白衣を限りなく着崩しているのだろうか。

ダボダボな黒のズボンに茶色のワイシャツ、その上に少々黄ばんだ白衣を羽織ったその姿は、棒『とある』テレビアニメのマッドサイエンティストを彷彿とさせる。

 

少々年を取っているようだが、決して中年という程の見た目ではない。

寧ろ軽くパンチを効かせてみた30代前半といった感じで、その見た目からは老けた感じというよりも『若さ』や『勢い』といったものを感じる。

 

 

そんな彼はポケットから指輪のようなものを取り出し、ゆっくりとこちらに歩いてきた。

 

 

「っ!」

 

 

言い知れない恐怖にさいなまれてか、零治は後ずさることもできない。

男はそんな零治との距離を着実に詰め、やがて目の前で停止する。

 

そのまま右手に持つ指輪を手の平に乗せ、こちらに差し出してきた。

 

 

「お待ちかねのお届けものだ。」

 

 

差し出された指輪を仕方がなしに受け取る零治。受け取った指輪は、指輪というより銀色のリングのような見た目をしている。

 

 

「これは…、なんですか? ただの指輪では無いはずです。」

 

「分かってんだろ? 零華にも言われているはずだ。あぁ、こっちでは別人だったか。」

 

 

たしか…、と言葉をつなぐ男は

 

 

「篠ノ之束っていったか? 奴に言われたはずだ。お前のISだよ。これはその待機状態だ。」

 

 

そんなことを言い出したのである。

零治はもう、どこから話にツッコめばいいのかわからない。取りあえずわかるのは、この男は自分をISに乗せようとしているということだけだ。

 

 

「友達を助けたいんだろ? ならお前にはこれが必要なはずだ。それにあの機体、『IBIS』の攻撃パターンを見切れるのはお前だけだ。」

 

「僕をISに乗せたいが為に、こんなことをしたんですか。」

 

「素直に渡したって乗らねぇだろ、適当に理由をつけてよ。」

 

「もうじき先生たちがアリーナに到達する筈です。僕がやる必要なんてない。」

 

 

少しでも相手の思惑に踊らされないように、一見ひねくれたガキのようなセリフを意図的に放つ零治。

 

 

「あぁ、それは無理だ。」

 

 

一方の白衣の男は、そんなガキの戯言をあくまでクールにあしらってみせる。

 

 

「お前は、あの機体がアリーナ上空のエネルギーシールドを体当たりで破壊し潜入していて、そしてその穴から学園の先公共が救援に入れると思っているようだが、実際にはそうじゃない。」

 

 

『さわやか』という形容詞はとてもじゃないが似合わない様な含み笑いをしながら、男は得意げに語り始めた。

 

 

「ISは自らの武装をメモリーに量子変換、もしくは還元して多数の武装を扱うという。なにもそれはISに限った技術じゃない。」

 

「な……、」

 

 

ともすればあれか、あの正体不明機は上空のエネルギーシールドを破ったわけではなく、エネルギーシールドの内側に量子還元されて入ってきたのだとでもいうのだろうか。

だがそしたら搭乗者はどうなる? 量子変換なんてしてしまえば中の人間はひとたまりもない。

そんなの実現できるはずが……、

 

いや、まて……

 

 

「あれは……無人機??」

 

「そう、無人機だからこそ、機体の概要をデータとして転送することができた。」

 

 

そして、

 

 

「すでにこの学園のセキュリティーはあの機体が掌握している。救援隊はシールド内に侵入することも、それを解除することも不可能だ。」

 

 

状況は零治が思っていた以上に深刻な状態だった。

 

 

 

 

 

一からここまでの流れをおさらいしておこう。

 

零治は最初、エネルギーシールドで覆われたアリーナに突如出現した正体不明機は、IS学園のアリーナ上空からシールドを突き破ってアリーナに内に潜入してきたのだと思い込んだ。

 

そして先生達がその『空いた穴』から潜入し救援に向かうまでの間に、織村一夏とセシリア・オルコットの両名を排除する。

 

それが正体不明機の目的であると、そう思い込んでいたのだ。

だからこそ『異常』を感じとったのだろう。そのあまりにも大げさな襲撃に対して……。

 

冷静に考えてみれば、たかだか生徒二人を排除する為だけにそこまで大がかりなことをする理由がやはり不可解なのだ。

それでも首謀者はどうしても一夏とセシリアが嫌いであり、是が非でも二人を排除したかったのかも……という可能性も無しではない。

 

寧ろ首謀者はちょっとマヌケだったのかもしれない…、とか考えて、この大げさな襲撃の理由についてあまり深いことを考えていなかったのだ。

 

 

でも実際には、作戦はすべてにおいて完璧に仕込まれていた。

マヌケだと思っていた首謀者は、『マヌケな襲撃』を演出し、零治の思考を完全に読み切り、適格なポイントで待ち伏せした。

そして零治がそこに辿り着いたときにはもう、とある状況が出来上がっていたのだ。

 

 

そしてそれが、その状況作ることこそが、この一連の事件の目的だったのだ。

 

 

 

藤原零治を、ISに乗せる。

 

 

 

 

「乗りたいだろ?」

 

その為に絶望的な状況を作り出し、全ての人間の意識を正体不明機へと逸らし、藤原零治の欲望と行動を予測し、

接触を図った。

それも、誰の監視もかいくぐってだ。

 

 

「親友を助けたいだろ?」

 

(そんなの……、)

 

 

分かるわけないじゃないか。

 

 

「この機体なら、皆を救うことができる。今も、その先も。」

 

 

どの道もう選択肢なんて残されていないのだと、零治は悟った。

こんなになってしまったら、もう乗るしかないじゃないか。

 

でも、その前に

 

 

「なんで、そこまでして僕をISに乗せようとするんだ。」

 

 

理由を聞いてみたかった。

なぜそこまで自分にこだわるのか、あれだけISに乗る理由を探し求めていた自分に、どうしてそこまで強引になってまでこだわるのかを。

 

しばし零治の眼球にぴったしと視線を合わせていた男は、やがて何かを判断したのか、その口を開いた。

 

 

「こーゆーのは柄じゃないが、お前にとある女を連れ戻してほしいからだ。」

 

 

その言葉の意味はわからなくても、男の目は嘘を言ってはいないと、零治は確信した。

例え彼が一夏達の命をいまなお脅かしている元凶であっても、この男は悪い目的のために自分をISに乗せたいわけじゃない。

確固たる意志と信念のために、自分をISに乗せたいのだと、零治は信用してしまった。

 

 

だったらもういいや。

もう乗ってやってもいいんじゃないだろうか。

 

 

正直ここに至るまでの彼のやり口は、とてもじゃないが納得も何もできたもんじゃない。

それにもしかしたら、今交わした言葉が全て演技で、この気持ちの変動さえ目の前の男の手の平の上なのかもしれない。

 

 

でももうそれでも構わない。

この選択が後にどんな結果を生み出してしまうにしても、甘んじてその結果とそれによって生じる責任を受け入れよう。

それでも構わない。

 

 

だから、

今は取りあえず、受け取っておこうじゃないか。

 

 

「機体名は?」

 

 

零治の決意をその質問から読み取った男は、再び気の抜けた感じに戻って言葉を並べ始める。

 

 

「長ったらしい名前があるが、取りあえずは『Zガンダム』と呼べばその種の機体は応えてくれるぜ。」

 

「Zガンダム……」

 

 

まただ、正体不明機の名前を、咄嗟に『IBIS』だと思った時と似たような感覚を覚える。

どこか聞き覚えのあるニュアンスを感じるというか、懐かしい感じがするのだ。

 

 

「お前、IS作りが趣味なんだって? 篠ノ之にコアの話を振られる前からご丁寧に戦闘ユニットを作っていたようだが、そのコアにはもう俺が作った機体のデータが登録されている。勝手に中身弄んなよ?」

 

「分かった。基礎構成をいじらない程度の改造なんかは……」

 

「んなもん好きにしろ。さて、俺はそろそろとんずらしますわ。」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 

出口に向けて歩き出した男を零治は引き止める。

 

 

「この機体ならエネルギーシールドを破れるっていうのは……」

 

「お前ならきっとどうにかするさ。」

 

それだけ言って男はそそくさと生徒会室から出て行った。

 

「あ! おい!!」

 

 

くそ、まだ名前とか色々聞きたい事あったのに……!

 

 

ん? いや待て、

 

 

(なに普通に敵の主犯格といい感じに会話した挙句、普通にご帰宅を見送ってんだ僕……)

 

 

はっとした感じで急いで後を追おうとしたその時、

 

 

「零治! パソコンを持ってきたぞ! あと貴様はここで何をやっていたのだ! 生徒会長は職員室にいたぞ!」

 

イライラがひしひしと伝わってくるような顔をした箒と、そんな彼女に連れられた生徒会長が部屋に駆け込んできた。

 

そして連れられてきた生徒会長が早々と自己紹介を始める。

 

 

「生徒会長の更識楯無よ、状況は彼女から聞いたわ。とにかく急ぎましょう。」

 

本当に手っ取り早く自己紹介を終えた楯無会長は、さっそく零治達をせかしにかかった。

 

どうやら男を追う暇はなさそうだ。

というかまぁ、普通に考えて一夏達の絶対絶命のピンチを放って男を深追いするという選択肢はあり得ないだろう。

ここはあきらめて一夏達の救援に急ぐのが先決だ。

 

 

楯無のセリフで駆け出した三人。

 

彼らはそのまま廊下を走りだし、一夏達のいるアリーナを目指す。

 

 

「それで、何か策があるのかな? 藤原零治君。」

 

 

生徒会長こと更識楯無は、話にはとても冗談がお好きで活発なお姉さんキャラだと聞いていたのだが、なんだかそのセリフは自分を試しているかのような物言いだった。

任務中は人が変わる……的な感じの、ありがちなタイプのパーソナリティをお持ちなのだろうか。

 

 

「はい、一か八かですけど、状況を打開できるかもしれません。」

 

 

そんな楯無に対して、というよりは零治を試しているかのようなその物言いに対して、零治は応えるように堂々とした返答をしてみせる。

 

「どうやって? おそらくだけどあのアリーナ、先生たちが未だに救援に行けてないところを見るに、エネルギーシールドで完全に覆われたままの密室状態なんじゃないかな? エネルギーシールドを張るシステムの制御とかが奪われたのかしら?」

 

 

さすがは学園最強の座に君臨する生徒会長、状況分析が的確だ。

 

「だとしたらもう、アリーナの入退場口のゲートロックをハッキングでもなんでもして強引に解除するか、力任せにシールドを壊すしかない……。」

 

因みにハッキング作業は現場に居合わせた上級生達が今まさに取り掛かっているところである。

ともすれば今自分たちにできる事とは、楯無の選択肢的には後者、つまりアリーナと外部を隔てているエネルギーシールドを突破することだけだ。

 

 

だが零治も、そんな事実も知らず『状況打開の可能性』を宣言したわけではない。

もちろん彼は理解している。

この状況を打開するにはエネルギーシールドを破らなければならないことくらい、理解しているのだ。

 

 

そして楯無ももちろん、零治が状況を理解していないのだと思っているわけではない。

彼は理解した上で口にしたんだと、ちゃんと分かっている。

 

だからこそ疑問に思う。

 

「君はあれを壊せるとでも言うの?」

 

 

IS学園のシールドは、ISの絶対防御と同等か、はたまたそれ以上の防御力を誇っていると言われている。

一定以下の衝撃を無効化し、許容衝撃量を上回る分をシールドの内側に衝撃波として受け流す。

ISの場合、絶対防御を超える衝撃は、構造上IS操縦者の身体に直接伝わってしまうのに対し、アリーナを取り囲むシールドの場合、その衝撃を引き受けるのがアリーナ内の大気である。

そしてそれゆえ、実質的に兵器による殺傷力はシールドを緩衝材とすることで全て無効化されるのだ。

 

ゆえに理論上、そのシールド内のいかなる物に対してどんな攻撃も通らないということになる。

そしてさらにそれを破壊し内部に潜入しようだなんて、楯無にいわせれば無謀が過ぎるのだ。

 

 

 

でも、零治に言わせれば……

 

「壊すしかないんですよ。」

 

どのみちそれしかできないのだから、壊すことだけを考えるしかないのだ。

 

「策はあります! だから……」

 

三人が一旦校舎の外に出て、更識楯無がすかさずISを展開する。

楯無のISは今か今かとアリーナに急行しようとしているが、そのパイロットは零治の話に耳を傾けた。

 

二人の視線が零治に集まってから数秒、三人の間に沈黙が流れ……

 

 

 

 

やがて零治は提案する。

 

 

 

 

「僕を、空に連れて行ってください!!」

 

 

 

 

 

それは居合わせた箒はおろか、更識盾無でさえも度肝を抜く提案であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその日、絶対絶命の窮地に立たせれた一夏は、とある光景を目の当たりにする。

 

そしてその出来事は、後にIS学園の伝説となった。

 

上空からヒロインが降ってくるというのはよく聞く話だが、まさか……

 

 

 

 

 

空から『野郎』が降ってくるとは、だれも思わなかったであろう。

 

 




正直もう少し書き進めたかったんですけどね……、
字数的に次回に持ち越し!

次回はついに零治のISが!!!


というわけで、今回もこんな文章を最後まで読んでいただいてありがとうございました!
できれば次回も見てってね!
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